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事件 平成 16年 (ネ) 5471号 特許権侵害差止等請求控訴事件
控訴人 三菱電機株式会社
訴訟代理人弁護士 大野聖二
同 市橋智峰
補佐人弁理士 加藤 恒
同 高橋省吾
被控訴人 ミツミ電機株式会社
訴訟代理人弁護士 中川康生
同 福田 彊
同 世戸孝司
訴訟代理人弁理士 伊東忠彦
同 佐々木定雄
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2005/03/28
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 控訴人 (1) 原判決を(2)に反する限度で取り消す。
(2) 被控訴人は,控訴人に対し,金3億9200万円及びこれに対する平成15年8月22日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
(3) 訴訟費用は第一,二審とも被控訴人の負担とする。
(4) 仮執行の宣言 2 被控訴人 主文同旨
事案の概要
本件は,フロッピーディスクドライブ(以下「FDD」という。)のスライドカム保持装置の考案に係る実用新案権(以下「本件実用新案権」といい,これに係る考案を「本件考案」という。)を有していた控訴人が,被控訴人の製造する製品(原判決別紙物件目録のイ号物件及びロ号物件・以下「被告製品」という。)が本件考案技術的範囲に属すると主張して,被控訴人に対し,本件実用新案権に基づき損害賠償を求めた事案である。
原審において,控訴人は,本件実用新案権に基づく請求のほかに,FDD用記録媒体出し入れ口機構の発明に係る特許権に基づいて,被告製品の製造,販売等の差止等及び損害賠償を求めていたが,原判決は,いずれの請求も棄却した。そこで,控訴人が,原判決のうち,本件実用新案権に基づく損害賠償請求を棄却した部分について控訴したものである。
1 当事者双方の主張は,次のとおり当審における主張を付加するほか,原判決の「事実及び理由」の「第2 事案の概要」及び「第3 争点に関する当事者の主張」記載のとおりであるから,これを引用する(ただし,当審において審理の対象となっていない部分(第2の1(2)ないし(4),(9),2(2)並びに第3の2及び3)を除く。)。
2 当審における控訴人の主張 (1) 原判決は,FDDにおけるスライドカムの動作の理解を誤ったものである。
ア フロッピーディスク(以下「FD」という。)をそのドライブ装置(FDD)に挿入する際,スライドカムを左右方向に動かす力が加わった場合に,それを規制してスライドカムが左右にずれるのを防止する手段(以下「左右規制手段」という。)が必要となる。また,FDを書き込み及び読み出し可能な位置に配置させるために,スライドカムはFDDの前方方向に移動し,その過程で,FDを下方に移動させる力の反作用を受けて,スライドカムを上方へ動かそうとする力が働くから,これを規制する手段(以下「上方向規制手段」という。)が必要となる。
FDの排出においても,やはり左右規制手段が必要となる。また,挿入時とは逆に,スライドカムの後退に伴いFDを上昇させる力が加わり,その反作用として,スライドカムにはこれを下降させる力が働く。そこで,下方への移動を規制する手段(以下「下方向規制手段」という。)が必要となる。
したがって,FDDにおいて,スライドカムがその機能を発揮するには,スライドカムが前後に運動するに際して,上記の各規制手段により,スライドカムが,ある予定された範囲の左右・上下空間を前後に運動するように導く必要があり,これらの規制手段が「ガイド」に相当する。
イ 本件考案は,先願発明(乙第1号証)が上方向規制手段を係止爪部,下方向規制手段を段差部としていたものを,下方向規制手段をフレームとしたものであり,本件考案のガイド用立上り係止爪は,上方向規制手段としての機能を有するものである。すなわち,本件考案におけるガイド用立上り係止爪は,これにより,スライドカムが,ある予定された範囲の上方,左右の空間を前後に運動するようにガイドするものであり,「ガイド用立上り係止爪」のガイド機能には,左右に関するガイド機能だけではなく,上方に関するガイド機能も当然含まれるのである。
ウ 被告製品の場合,スライドカムのガイド機能を果たしているのは,スライドカムが上方へ抜け出るのを防止する(フェールセーフ)機能を有する支持部材1f(立上り係止爪9),支持部材1g(立上り係止爪9)であり,これらは,上記「上方向規制手段」に該当するものであるから,本件考案の「ガイド用立上り係止爪」に該当することは明らかである。
(2) 原判決は,被告製品の「4個のガイド用スライド長孔1aと,その長孔1aにそれぞれ挿嵌されスライド底面に一体形成される4個のガイド用突起2a」のみがスライドカムのガイド機能を果たしている,と認定しているが,これは,(1)で述べたスライドカムの通常の運動方向について誤った理解をし,上下方向に動かす力が働き,予定された範囲で上下方向に動くことを看過したことに基づくものである。
被告製品において,ガイド用突起2a及び突出部2b-1は,スライドカムをより精確に前後に運動させるための付加的構成に過ぎない。控訴人が,上記ガイド用突起2a及び折曲げ片2b(突出部2b-1)を切り落としたスライドカムを持つ被告製品の動作を実験したところ,FDの挿入・排出,データの読み出しのいずれにも全く問題がなかったことが判明した(検甲第4号証)。このことから,上記各部材が,FDDの正常動作にとって不可欠のものではない,付加的な構成であることは明らかである。
(3) 原判決は,被告製品の支持部材1fと1gはスライドカムに常に接触するとは認められないから,本件考案のガイド用立上係止爪に該当しない,としている。
しかし,被告製品の前記突出部2b-1とフレームが接触する場合には,スライドカムと立上り係止爪の間隔は0.07〜0.2mmとなるから,スライドカムの振動や,撓みなどの弾性変形があること,また,スライドカムと立上り係止爪の間隔0.3mmやスライドカムの板厚に公差があることを考慮すれば,スライドカムと立上り係止爪が接触しないと考えるのには無理がある。
3 当審における被控訴人の主張 (1) 控訴人のいう,スライドカムがある予定された範囲の上下・左右空間を前後に運動する,ということの意味がそもそも不明であるが,それが,上下左右にぶれながら動くという意味であれば,否認する。スライドカムがそのような動きをすることはなく,上下左右方向の運動を規制されながら,前後に動くのである。もし控訴人の主張するような動きをするのであれば,被告製品はその点で本件考案と異なる。
(2) 原判決が認定するとおり,単なる抜け止め防止機能(フェールセーフ)だけでは,「ガイド」しているとはいえない。
被告製品の4個のガイド用スライド長孔1aと,その長孔1aにそれぞれ挿嵌されスライド底面に一体形成される4個のガイド用突起2a及び「突出部2b-1」は,ガイドについての付加的な構成ではない。
(3) スライドカムの板厚の限界許容寸法は0.50-0.03mmである。すなわち,最大許容寸法は0.5mm,最小許容寸法は0.47mmとなる。また,スライドカムと支持部材1f及び1gの,耐衝撃用ストッパ1f-3,1g-2がスライドカムと摺動しないことは,検甲第1号証,検乙第1及び第2号証からも明らかである。
当裁判所の判断
当裁判所も,控訴人の本件実用新案権に基づく損害賠償請求は理由がなく棄却されるべきであると判断する。その理由は,次のとおり付加訂正するほか,原判決の「事実及び理由」の「第4 当裁判所の判断」の1及び4のとおりであるからこれを引用する。
1(1) 原判決42頁9行目の「(3欄13行ないし21行)」を「(補1頁左欄12行ないし18行)」と改める。
(2) 原判決47頁21行目の「前後方向の規制」を「左右方向の規制」と改める。
(3) 原判決50頁19行目の「前後方向の運動を規制し」を「左右方向への動きを規制し」と改める。
(4) 原判決50頁23行目の「これを被告製品についてみると」から51頁1行目の「ガイド用突起2aである。」までを次のとおり改める。
「これを被告製品についてみると,上記(1)に示したとおり,被告製品において,スライドカムを左右方向に規制する機能を有するものは,フレーム本体1の左右前後に前後方向に伸びる4個のガイド用スライド長孔1aと,その長孔1aにそれぞれ挿嵌されスライド底面に一体形成される4個のガイド用突起2aであり,スライドカムが上方向に浮き上がるのを規制する機能を有するものは,スライドカム2の下面,各切欠き開口2c,2d及び2eの側縁に形成され,フレーム本体1の係止用長孔1bに係合され,横方向に突出する突出部2b-1を持つ折曲げ片2bであって,これらによりスライドカムをフレーム本体に摺動しつつ前後方向にガイドするものである。」 (5) 原判決51頁8行目の「運動を規制する機能」を「運動をガイドする機能」と改める。
2 控訴人は,被告製品の支持部材1f及び1gが,スライドカムが上方へ抜け出るのを防止する(フェールセーフ)機能を有することをとらえて,本件考案の「ガイド用立上り係止爪」に該当すると主張する。
FDDにおけるFDの挿入・排出において,その機構上,スライドカムを上下方向,左右方向に動かそうとする力が働くことは,控訴人主張のとおりである。
しかし,スライドカムは,本来,前後方向にのみ動くべきものであるから,スライドカムに上記のような動きがあるとしても,スライドカムは,そのような左右,上下への動きに抗して,本来予定されている前後方向に動くように導かれることになるのであり,この動きを円滑なものとするために,前記引用に係る原判決認定の本件実用新案明細書の記載などによれば,本件考案は,下方向への動きを規制する手段として,フレーム本体がスライドカムを摺動可能に保持する構成とともに,左右方向及び上方向への動きを規制する手段として,ガイド用立上り係止爪がスライドカムを摺動可能に保持する構成を採用しているものと認められる。つまり,単に抜け止めを防止できる程度の保持であれば,スライドカムがある程度大きく上方向及び左右方向に動いてしまうことが避けられず,そのようなものでは,円滑にスライドカムを摺動させることにならないのである。
したがって,単にスライドカムの上方への抜け出し防止機能(フェールセーフ機能)があれば,本件考案の「ガイド用立上り係止爪」に該当するということはできない。
3 控訴人は,被告製品のガイド用突起2a及び突出部2b-1は,スライドカムをより精確に前後に運動させるための付加的構成に過ぎないと主張する。
しかし,被告製品の各構成要件の機能に関する前記引用に係る原判決認定のとおり,構造上,被告製品の4個のガイド用スライド長孔1aと,その長孔1aにそれぞれ挿嵌されスライド底面に一体形成される4個のガイド用突起2aは,スライドカムが左右方向に動かないように機能するものであり,また,スライドカム2の下面,各切欠き開口2c,2d及び2eの側縁に形成された折曲げ片2bは,フレーム本体1に形成されている係止用長孔1bに係合され,その横方向に突出する突出部2b-1が,フレーム本体の下面と摺動することにより,スライドカム2が上方へ浮き上がらないように機能するものである。そして,検甲第1号証,検乙第1号証,第2号証によれば,これらの部材及びこれと摺動し得るフレーム部分には,実際に摺動してできたと認められる光沢等があることがみてとれる。したがって,これらが,スライドカムの左右方向規制手段,上方向規制手段に当たることは明らかであり,被告製品の構成上,これらをもって付加的構成であるとはいえない。
なお,控訴人が当審で提出した検甲第4号証に開示された実験の結果によれば,被告製品のガイド用突起2a及び折曲げ片2bを切り取ったスライドカムも正常に動作し,FDの挿入,ディスク読み取り位置への固定及び排出に問題がなかったことが認められることから,支持部材1f及び1gが左右方向及び上方向規制手段になり得るものであると考える余地がある。
しかし,上記のガイド用突起2aや,折曲げ片2bがない場合に,支持部材1f及び1gが左右規制及び上方向規制手段として機能し得るということは,ガイド用突起2aや,折曲げ片2bが存在する場合にもそうであるということを意味するものではないことはいうまでもない。被告製品のガイド用突起2a及び折曲げ片2bがスライドカムと摺動して左右方向及び上方向規制手段として機能するものであることは上記のとおりであるのに対し,検甲第1号証,検乙第1号証,第2号証によれば,被告製品の支持部材1f及び1gは,スライドカムに摺動して,スライドカムが左右方向及び上方向に動かないようにするためのものではないと認められるのであって,上記の実験結果は,被告製品において,ガイド用突起2a及び折曲げ片2bを付加的構成とする根拠となり得ないことはもとより,支持部材1f及び1gがスライドカムと摺動して左右方向及び上方向への動きを規制する機能を果たしていることを裏付けるものでもない。
4 控訴人は,被告製品の支持部材1fと1gがスライドカムに接触しないと考えるのには無理があると主張する。
前記引用に係る原判決認定のとおり,支持部材とスライドカム2が接触してできたとみられる痕のようなものがある(なお,検乙第1号証(イ号物件)にも極めて薄いものの同様の痕がみられる。)。しかし,他の支持部材に関して,スライドカムとの摺動に伴って生じたと認められるような痕が存在しないことや,被告製品においては,前記のとおり左右方向規制手段及び上方向規制手段としての機能のためだけの部材が存在すること,支持部材1f及び1gは,FDを支持することがその役割であることからすると,上記痕は,製品ないしその使用態様によっては,1f-3がスライドカムと接触することもあり得るということを示すにとどまるものであって,支持部材1fと1gがスライドカムと摺動して前後方向への運動をガイドしていることを示す根拠となるものとはいえない。また,本件において,控訴人が主張するように被告製品に公差があり,また,スライドカムの弾性変形があり得ることを考慮しても,被告製品の支持部材1f及び1gが,スライドカムに摺動して前後方向への運動をガイドしていることを認めるに足りる証拠は存在しない。
5 結論 以上のとおりであり,原判決は相当であって,控訴人の本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,訴訟費用の負担について民事訴訟法67条1項,61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 高瀬順久
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