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関連審決 審判1984-10967
関連ワード 考案 /  考案者 /  図面 /  物品 /  補正 /  先願 /  削除 /  実施例 /  先願 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 63年 (行ケ) 86号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1991/01/21
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 特許庁が、昭和六三年三月一〇日、同庁昭和五九年審判第一〇九六七号事件についてした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決二 被告 主文と同旨の判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五三年一月一七日、名称を「野菜類、生花類等の結束用粘着テープ」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願をしたところ、昭和五九年三月二七日、拒絶査定を受けたので、同年六月一六日、これに対する審判の請求をした。
特許庁は、同請求を昭和五九年審判第一〇九六七号事件として審理し、昭和六二年三月四日、本願考案は出願公告されたが、【A】から実用新案登録異議の申立てがあり、特許庁は、更に審理の上、昭和六三年三月一〇日、「本件審判の請求は、
成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年三月二八日、原告に送達された。
二 本願考案の要旨 耐水性基材の面に生野菜や生花等の被結束物に対しては二六〇〜五〇〇g/一八mm巾の接着力を有し、接着剤層同志は九〇〇〜二五〇〇g/一八mm巾の接着力を有する成分組成の感圧接着剤層を設けた野菜類、生花類等の結束用粘着テープ。
三 本件審決の理由の要点1 本願考案の要旨は前記一記載のとおりと認める。
2 これに対して当審における実用新案登録異議申立人【A】の提示した審判甲第一号証(本訴甲第四号証)の本出願の日前の出願であって、本出願後に出願公開された、特願昭五二―一四四三四七号の願書に添付された明細書(特開昭五四―七六六三二号公報、以下「引用例」という。)には、他の物品面には強い圧力を加えて押圧しても弱くしか接着しないが、塗膜面相互はわずかの圧力によって容易に強く接着する自着性接着剤組成物およびこれを使用した自着性接着テープに関する技術が記載されている。
3(一) そこで先の要旨を有する本願考案と引用例に記載された技術とを以下に対比検討する。
本願考案の粘着テープは、接着剤同志では九〇〇〜二五〇〇g/一八mm巾の接着力、被結束物に対しては二六〇〜五〇〇g/一八mm巾の接着力を有する成分組成の感圧接着剤を用いているのに対して、引用例の第二表には塗布面相互の自着力が一三三〇g/二〇mm巾(一八mm巾に換算すると、一二九七g/一八mm巾)および接着力が三一〇g/二〇mm巾(同じく二七九g/一八mm巾)の感圧接着剤を塗布した自着性接着テープが示されており、接着剤同志の接着力および異物に対する接着力においてその数値範囲で一致している。
(二) また、本願考案における、ポリプロピレン、ポリエチレンなどのプラスチックフイルムからなる耐水基材に上記接着剤を塗布した粘着テープは、生野菜や生花等の被結束物の結束に用いるものであるが、上記引用例中にはプラスチックフィルムを基材として用い、この上に上記自着性接着剤を塗布した接着テープを植物の技の固定に用いられる旨の記載もあるから、その基材の構成材料及び用途の上においても格別の差異があるとも認められない。
4 よって本願考案は、引用例に記載された発明と同一の考案であり、本件出願の考案者が上記引用例の発明をしたものと同一であるとも、また本件出願の時にその出願人が上記引用例の出願人と同一であるとも認められないので、実用新案法3条の2の規定によって実用新案登録を受けることができない。
四 本件審決を取り消すべき事由 本件審決は、本願考案が引用例に記載された発明と同一でないにもかかわらず、
同一であると誤って判断したものであるから、違法として取消しを免れない。
1 引用例に記載された発明について(一) 本件審決は、引用例の第二表には自着性接着テープが示されており、接着剤同志の接着力および異物に対する接着力において本願考案とその数値範囲で一致しているとする。
(二) ところで、実用新案法第3条の2において先願として取扱われるものは、
先出願の願書に最初に添付した明細書に記載された発明でなければならない。
これを本件についてみると、本件審決が先願発明であるとして引用したものは、
引用例の第二表中における自着力が一三三〇g/二〇mm巾および接着力が三一〇g/二〇mm巾の自着性接着テープである。しかし、これは単に「比較例1」として記載されているものであって、引用例に記載された発明(以下「引用発明」という。)ではない。
(三) さらに、右引用発明は、他の物品面に強い圧力を加えて押圧しても接着しないが、塗膜面相互はわずかの圧力により容易に強く接着する自着性接着剤組成物およびこれを使用した自着性接着テープ、シートなどを得ることを目的とするものであるが(甲第四号証1頁左下欄一一行から一六行)、該発明において、その目的を達成しているものは実施例1ないし9に記載されているものである。これに対し、比較例1ないし3、特に比較例1の接着テープは、「自着力自体は本発明の自着剤と同程度の自着力を示すものであるが、接着力も高いものであり、自着剤として好ましくないものである。」(同号証3頁左下欄一七行から末行)との記載があるように、引用発明の、他の物品面に強い圧力を加えて押圧しても接着しないが、
塗膜面相互はわずかの圧力により容易に強く接着する自着性接着剤組成物を使用した自着性接着テープでないことは明らかである。
したがって、かかる発明の目的、作用効果の点からしても、比較例1が本願考案に対して実用新案法3条の2における先願の発明に当たるものではない。
2 技術分野の同一性について(一) 審決は、本願考案における粘着テープは、生野菜や生花等の結束に用いるものであるが、引用例には粘着テープを植物の枝の固定に用いられる旨の記載もあるから、その用途の上においても格別の差異があるとも認められないとし、本願考案は引用発明と同一であるとした。
しかしながら、本願考案の生野菜や生花等の結束に用いる粘着テープと、引用例における植物の枝の固定に用いられる粘着テープとは、もとより用途が異なっているのみならず、その技術分野を異にするものであるから、この点において既に本願考案は引用発明と同一であるとはいえない。
すなわち、本願考案における粘着テープは、ほうれん草などの葉菜類、根菜類、
果菜類などの生野菜や生花等を結束するものであって、粘着テープは、生野菜では消費者が直接食べる葉や茎に巻き付けて貼り付け、結束するものであるから、消費者の購買意欲を損わないようにきれいに、きちんと貼り付け、使用に際しては容易にこれを引き剥がすことができて、葉や茎を引きちぎったり、傷つけたり、折ったりするようなものではならないし、さらに生花にあっては鑑賞に供されるものであるから、この粘着テープを貼り、剥がすことによって花、葉などを傷付けることがあってはならず、非常にデリケートなものであって、かかることが本質的に要求されているものである。
これに対し、引用例には「自着性接着テープ、シート……テープ状ならば例えば植物の枝を棚に沿って添わせる場合の枝と棚との固定に使用され、」と記載されているように、植物の枝をこの接着テープを使用して棚に固定することにより枝が棚に沿ってキチンと伸びて行けるようにするものであって、植物の栽培過程において使用されるものでしかなく、本願考案におけるが如き食用に供される生野菜の可食部や生花そのものに貼り付けるものでもなければ、貼り付けたものがそのまま流通過程に置かれるものでもないし、貼り付けたものをきれいに剥がし取るというデリケートなものではない。
(二) また、本願明細書には、当初本願考案の粘着テープが、「根菜類、葉菜類、果菜類などの野菜類、生花類等の結束用のほか、園芸における栽培作物(植物)支柱等への結束用に好適なものである。」(甲第二号証第4欄二八行から三一行)と記載されていたが、出願公告後に実用新案法13条で準用する特許法64条の規定により右記載中から「結束用のほか、園芸における栽培作物(植物)支柱等への」を削除したので(甲第三号証)、本願考案は「園芸における栽培作物(植物)の支柱等への結束」を目的とする粘着テープではなく、先願発明における「テープ状ならば例えば植物の枝を棚に沿って添わせる場合の枝と棚との固定に使用され」(甲第四号証2頁右上欄末行から左下欄一行)ることと何ら重複するところはない。
なお、本願考案の実用新案登録請求の範囲には「生野菜や生花等の被結束物」の記載があるが、右における「等」の語は、その一般的な用例に従って、「生野菜」と「生花」の二つを含むことを表わすものであり、上記した明細書の詳細な説明の欄から削除したものまで含んでいるものではない。
(三) このように、本願考案の生野菜、生花等の結束用粘着テープは、引用例に記載されている接着テープとは、粘着テープとして技術の分野を本質的に異にするものであるから、この点において既に本願考案は引用発明と技術分野を異にし、同一ではない。
3 自着力の同一性(一) 本件審決は、本願考案の粘着テープは、接着剤同志では九〇〇〜二五〇〇g/一八mm巾の接着力、被結束物に対しては二六〇〜五〇〇g/一八mm巾の接着力を有する成分組成の感圧接着剤を用いているのに対して、引用例の第二表には塗布面相互の自着力が一三三〇g/二〇mm巾(一八mm巾に換算すると、一一九七g/一八mm巾)および接着力が三一〇g/二〇mm巾(同じく二七九g/一八mm巾)の感圧接着剤を塗布した自着性接着テープが示されており、接着剤同志の接着力および異物に対する接着力においてその数値範囲で一致しているとした。
(二) しかしながら、本願考案と引用例に記載されている接着剤同志の自着力は、その測定方法が異なっているために、その数値範囲において一致していないにもかかわらず、その違いを無視若しくは看過してこれを単純に比較し、両者を同じであると誤認している。すなわち、
(1) 本願考案における接着剤同志の接着力(自着力)は、その甲第二号証の明細書に、
@ 「接着剤同志の接着力(自着力)(粘着テープの感圧接着剤層同志を貼り合せ、一〇分間経過後の自着力)」(第3欄七行から九行)との自着力の測定法についての直接的な記載のほか、
A 「同じ結束テープで、適度な結束圧で容易に機械結束ができ、結束した場合、
野菜と接する全面において軽度に接着すると共に両端部で強固に自己接着し、」(第2欄一九行から二二行)B 「又該粘着テープは野菜等との接触面においてその感圧性接着剤層が弱粘着し、
その両端部3a、3aにおいてその感圧性接着剤層同志が強く自己接着して結束するから、」(第4欄一四行から一八行)C 図面中の第3図の記載があり、右A〜Cの記載は、いずれも本願考案の粘着テープの使用状態を説明するものではあるが、単にそれのみに留るものではなく、同時に自着力の測定法をも示しているものである。
本願考案の粘着テープは、右A〜Cに記載のごとく、感圧性接着剤層が野菜、生花に接するように巻回し、その両端部3a、3aにおいてその感圧性接着剤層同志を、第3図に示すように貼り合わせるものであるから、右感圧性接着剤層同志を貼り合わせた自己接着部は、そのテープの両側から引張られて剥がされるような作用を受けており、そうした引剥し作用に抗して自己接着状態すなわち結束状態を維持しようとしているものであり、こうした状態における感圧性接着剤層同志が貼り合わされているときの自着力の強さは、まさに、粘着テープの感圧性接着剤同志をT字型をなすように貼り合わせ、これを剥離することによって自着力を測る、T型剥離試験(TCF法)(甲第五号証)によって測定されるものである。
このように、本願考案における自着力は、上記の如く本願明細書及び図面の記載からみて、TCF法によって測定されたものであることは明らかであり、かつ右方法で測定しなければ実質的に意味のないものとなる。
その上、このTCF法は、本願出願時において既に当業者間に広く知られ、用いられていた測定法であって、このことは、乙第一号証からも判るところである。
一般に、出願の明細書及び図面を作成するに当たって、その明細書及び図面の全体からみて、おのずと当業者に判るような事項については、その詳細な記載が省略されるのが常である。
本願においても、前記@〜Cの明細書及び図面の記載が存在し、これに基づいて本願考案を合目的、客観的に解釈する限り、当然にその自着力は、従来から知られていたTCF法によって測定されたことは明瞭である。
また、このTCF法は、測定方法として精度的にも秀れているものであり、このことは乙第一号証に「特別な場合以外は、TCF法で求めるのがもっとも正確な値が得られる。」(六九頁六行から八行)と記載されていることからも判る。
(2) これに対し、引用例のものは、甲第四号証3頁右上欄二行から五行に記載のとおり、「自着力:テープの塗布面相互を貼り合わせて一kgのゴムローラーで圧着し、二〇℃×六五%RH中にて、一八〇度引き剥し(引張速度三〇〇mm/分)を行って、その値を求めた。」ものであるから、接着テープの感圧性接着剤の塗布面相互を同様にして貼り合わせ、これを一八〇度に折返すように剥離することによって自着力を測る、一八〇度角度剥離試験(PCF法)(甲第六号証)によって測定したものである。
(3) このように、自着力について、本願考案と引用発明とでは、両者別個の測定法により測定した数値が記載されているのである。
(三) 上記したとおり、自着力については、本願考案ではTCF法、引用発明ではPCF法で測定した数値が記載されている。
右TCF法とPCF法とでは、PCF法の方が数値が高く出ることは、一般的によく知られているところである。
(四) そこで、引用発明における自着力及び接着力の数値が、本願考案における測定方法によって測定すれば、どのような数値になるかについて試験を行った。
(1) 右試験の内容、結果は次に示すとおりである(甲第八号証)。
ア 供試結束用粘着テープ(ア) 粘着剤組成天然ゴム 七〇部スチレン―イソプレン―スチレンブロック共重合ゴム 三〇部石油系粘着付与樹脂 八五部n―ヘキサン 九七〇部(イ) テープ基材及び粘着剤厚さ厚さ四〇μのポリプロピレン延伸フイルムに、右粘着剤を塗布、乾燥して、粘着剤厚さを二〇±一μとし、テープ巾を一八mmにして供試用テープとした。
イ 測定方法自着力 本願考案法=TCF法引用発明法=引用例記載法(PCF法)接着力 本願考案法=JIS、Z―一五二二法引用発明法=引用例記載法ウ 測定結果 自着力 接着力引用発明法 一二四〇 二九〇本願考案法 八六〇 三四〇 (g/一八mm巾)(2) 右試験の結果から次のことが判る。
引用発明において、前記自着力 一二四〇g/一八mm巾接着力 二九〇g/一八mm巾と、本願考案における自着力 九〇〇〜二五〇〇g/一八mm巾接着力 二六〇〜五〇〇g/一八mm巾の数値範囲に形式的に含まれるものであっても、これを本願考案における測定方法によって測定すれば、
自着力 八六〇g/一八mm巾接着力 三四〇g/一八mm巾となり、前記本願考案の数値範囲に含まれない。
次に、本願考案の数値範囲が一致しているとされた引用発明の数値は、二〇mm巾のものを一八mm巾に換算すると自着力 一一九七g/一八mm巾接着力 二七九g/一八mm巾であるが、この自着力一一九七g/一八mm巾は、右試験における測定値一二四〇g/一八mm巾よりも小さいから、これを本願考案法によって測定すれば、前記測定値八六〇g/一八mm巾よりも更に低い数値となり、本願考案の九〇〇〜二五〇〇g/一八mm巾の数値範囲と一致しないことは明らかである。
なお、この接着力二七九g/一八mm巾は、右試験における測定値二九〇g/一八mm巾と近似しているが、わずかに低い値なので、これを本願考案法によって測定すれば、前記測定値三四〇g/一八mm巾よりわずかに低く、二九〇g/一八mm巾よりも大きい数値となり、接着力については本願考案の二六〇〜五〇〇g/一八mm巾と一致することとなる。
ちなみに、引用発明における前記自着力 一一九七g/一八mm巾接着力 二七九g/一八mm巾を、右試験のデータに基づいて、本願考案における数値に換算してみると次のとおりとなる。
自着力 一一九七×(八六〇÷一二四〇)=八三〇(g/一八mm巾)接着力 二七九×(三四〇÷二九〇)=三二七(g/一八mm巾) 結局、引用発明に示された自着力 一一九七g/一八mm巾接着力 二七九g/一八mm巾も、本願考案法によって測定すれば、その自着力において測定方法の違いから本願考案の数値範囲に含まれないものとなる。
(五) 前記したところからも明らかなとおり、本願考案における自着力九〇〇〜二五〇〇g/一八mm巾、
接着力二六〇〜五〇〇g/一八mm巾が、その数値範囲において一致するとされた、引用発明の自着力一一九七g/一八mm巾、接着力二七九g/一八mm巾の粘着テープも、右自着力の数値の測定方法が本願考案と引用発明とでは異なっているために、右引用発明における測定法によれば自着力一一九七g/一八mm巾、接着力二七九g/一八mm巾のものも、これを本願考案における測定法によって測定すれば、自着力は八六〇g/一八mm巾以下で、約八三〇g/一八mm巾程度となって、本願考案における九〇〇〜二五〇〇g/一八mm巾の範囲に入らない。
したがって、引用発明の接着力二七九g/一八mm巾が、測定法の違いにもかかわらず本願考案の二六〇〜五〇〇g/一八mm巾の範囲に入ることになるとしても、前記の如く自着力においてその範囲に入らないから、全体として、本願考案の自着力及び接着力の数値範囲は、引用発明とその数値で一致しない。
請求の原因に対する認否及び主張
一 請求の原因一ないし三の事実は認める。
二 本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。
1 引用例に記載された発明について 引用例の特許請求の範囲に記載された発明は、従来の自着剤がその塗膜面相互を貼り合わせて測定した自着力が一五〇g/二〇mm以下になるという問題点を解決するこことを課題としており(甲第四号証1頁左下欄一一行から右下欄一七行参照)、その実施例の一つは、「実施例1、天然ゴムラテックス(固形分六二%)一〇〇部、石油系樹脂水分散液五〇部、微粉末炭酸カルシュウム水分散液一〇〇部を混合して自着剤(固形分四〇%)を得た。該自着剤の特性を評価するために、該自着剤を和紙上に乾燥後の厚みが三〇μとなるように塗布し、一五〇℃で三分間乾燥して、幅二〇mmの自着性接着テープを得た。」(同2頁左下欄八行から一六行)である。
そして、その比較例の一つである比較例1は、実施例1において微粉末炭酸カルシュウムを添加しないものについてであり、テープの塗布面相互を貼り合わせて一Kgのゴムローラで圧着し、二〇℃×六五%RH中にて、一八〇度引き剥がし(引張速度三〇〇mm/分)を行って求めた「自着力」は、一三三〇(単位 g/二〇mm)、BA仕上げしたステンレス板にテープを貼り付けて一kgのゴムローラで圧着し、二〇℃×六五%RH中にて、一八〇度引き剥がし(引張速度三〇〇mm/分)を行って求めた「接着力」は、三一〇(単位 g/二〇mm)(同3頁右上欄一行から左下欄四行参照)、「比較例1の自着性接着テープは、自着力自体は本発明の自着剤と同程度の自着力を示すものであるが、接着力も高いものであり、自着剤として好ましくないものである。」(同3頁左下欄一七行から二〇行)である。
比較例1のものは、自着力については一三三〇g/二〇mmという値が示すように従来技術の問題点を解決しており、接着力については三一〇g/二〇mmという値と「その接着力も高い」と説明されているように、他の物品面への弱い力で押圧しても接着してしまうほどには強くないが強い圧力を加えて押圧すると接着してしまう程度の、自着性接着テープであると理解される。
このように引用例の比較例1に記載されたものは、特許請求の範囲に記載された発明とも従来技術とも対比することのできるそれ自体独立した技術思想である。すなわち、右にいう「自着力」とは、接着テープの塗膜相互間の接着の強さのことであり、「接着力」とは、接着テープとステンレス板との間と接着の強さのことであることは明らかであるから、引用例には「他の物品面には強い圧力を加えて押圧しても接着しないが、塗膜面相互はわずかの圧力によって容易に強く接着する自着性接着剤組成物およびこれを使用した自着性接着テープ」に関し、「他の物品面には強い圧力を加えて押圧しても弱くしか接着しないが、塗膜面相互はわずかの圧力によって容易に強く接着する自着性接着剤組成物およびこれを使用した自着性接着テープ」である自着力一三三〇g/二〇mm、接着力三一〇g/二〇mmの自着性接着テープの発明が記載されているといえるのである。
2 技術分野の同一性について 本願考案の粘着テープは、結束対象物については実用新案登録請求の範囲の「……等の」の記載から明らかなように、単に例示がなされているのみで、具体的な限定はされていない。その「等」は、出願公告後の補正によって「考案の詳細な説明」の中の「園芸における栽培作物(植物)支柱等への結束用」(甲第二号証第4欄三〇行から三一行参照)を削除したときにも削除されず例示のまま残されたものである。そして、「野菜類」も考案の詳細な説明の欄の記載によると根菜類、葉菜類、果菜類などを含むものであり、要するに、本願考案の「野菜類、生花類等の結束用」は、精々、植物を結束するための広い用途を意味するものと解されるのである。
一方、引用例に記載のものは、他の物品面への接着力は小さいが、塗膜面相互は強く接着する感圧接着剤層を担持体の表面に設けた自着性接着テープであり、具体的な用途として、「テープ状ならば植物の枝を棚に沿って添わせる場合の枝との固定」、「発泡体シートを担持体とする物品ならば機械部品の損傷防止のための保護材料」、が挙げられており(甲第四号証2頁右上欄末行から左下欄四行参照)、この植物の枝と棚の結束に使用されるものは、結束用粘着テープにほかならない。
したがって、本願考案と引用発明は、その技術分野を同じにするものである。
3 自着力の同一性について(一) 本願考案は、実用新案登録請求の範囲に記載のとおり、自着力の測定法は特定されていないし、考案の詳細な説明の欄にも自着力の測定法を特定する記載はない。
甲第二号証第3欄七行から第九行の「接着剤層同志の接着力(自着力)(粘着テープの感圧接着剤層同志を貼り合せ、一〇分間経過後の自着力)」は自着力試験についてのものではあるが、粘着テープの接着剤層同志を貼り合せた後、測定開始までの経過時間について記載するのみであり、測定法を特定するに到らない。また、
甲第二号証第2欄一九行から二二行の「同じ結束テープで、適度な結束圧で容易に機械結束ができ、結束した場合、野菜と接する全面において軽度に接着すると共に両端部で強固に自己接着し」、同第4欄一四行から一八行の「又該粘着テープは野菜等との接触面においてその感圧性接着剤層が弱粘着し、その両端部3a、3aにおいてその感圧性接着剤層同志が強く自己接着して結束するから」及び同第3図(第3図は使用状態を示す概略説明図である。)はいずれも本願考案接着テープを野菜等の結束に使用した場合の使用状態を説明するものであって、自着力の測定法を特定するものではない。
(二) このように、本願明細書には本願考案テープの自着力の測定法について明確にした記載はない。明細書において、自着力が、引用例にあるような(甲第四号証3頁右欄上段参照)特定の測定法によるとの註記が存在せず、他にも特定するに足りる記載がない場合、その分野で古くから採用されている普通の測定法に基づいて測定されたものと解すべきである。
凝集破壊力の測定法としては、
(イ) T型はく離凝集破壊強度試験(甲第五号証、いわゆるTCF法)(ロ) 一八〇度角定速はく離凝集破壊強度試験(甲第六号証、いわゆるPCF法)(ハ) 定速せん断凝集破壊強度試験(乙第一号証六九頁参照、いわゆるSCF法)があるが、(ロ)のPCF法は古くから知られている測定法であり、本願考案出願当時の「包装用ポリプロピレン粘着テープ」及び「ビニル粘着テープ」についての日本工業規格(JISZ一五三九―一九七六、JISZ一五二五―一九七六)によればその常態粘着力は、試験板に対する一八〇度引きはがし法によるものとされており(乙第二、三号証)、凝集破壊力の測定法としてPCF法は、本願考案出願時において、他の(イ)、(ハ)の二法と比べると、より普通の測定法であったといえるのである。
したがって、測定法について格別の定義がない本願考案の自着力はPCF法を採用した値であるとみるのが自然である。
証拠(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三の事実(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決の理由の要点)については、当事者間に争いがない。
二 そこで取消事由について検討する。
1 引用例に記載された発明について(一) 原告は、本件審決が先願発明であるとして引用したものは、引用例に「比較例1」として記載されているものであって、引用例に記載された発明(引用発明)ではなく、しかも、比較例1の接着テープは、引用発明とその目的、作用効果を異にしているから、比較例1が本願考案に対して先願の発明に該るものではない旨主張する。
(二) 成立に争いのない甲第四号証によれば、引用例には、次の記載があることが認められる。
(1) 引用発明は、他の物品に強い圧力を加えて押圧しても容易に接着しないが、塗膜面相互は僅かの圧力により容易に強く接着する自着性接着剤組成物およびこれを使用した自着性接着テープ、シートその他これに類似する自着性接着物品
またはこれらを用いた自着面を持つ物品に関するものである(甲第四号証1頁左下欄一一行から一六行)。
(2) 従来、この種の自着性接着剤組成物(以下「自着剤」という。)としては、接着性を低減させる粘着性減殺剤を配合しているものが知られているが、低減作用が大きすぎて塗膜面相互を貼り合わせて自着力を測定しても一五〇g/二〇mm(一八〇度引き剥し、引張速度三〇〇mm/分)以下しか得られず、そのためにその用途も限定されるものであった(同左下欄一七行から右下欄八行)。
(3) 引用発明はかかる限定を受けることなく、自着性接着テープもしくはシート、或いはこれに類似する自着性接着物品用として広範囲に使用できる新規な自着剤に関するものであって、その要旨とするところは、天然ゴムラテックス或いは天然ゴムラテックスと合成ゴムラテックスとの混合物一〇〇重量部(ゴム成分)に対し、粘着性付与樹脂〇〜一七〇重量部および無機物質一〇〜三〇〇重量部添加することである(同右下欄九行から一七行)。
(4) 実施例の一つとして、実施例1は、天然ゴムラテックス(固形分六二%)一〇〇部、石油系樹脂水分散液五〇部、微粉末炭酸カルシュウム水分散液一〇〇部を混合して自着剤(固形分四〇%)を得た。該自着剤の特性を評価するため、該自着剤を和紙上に乾燥後の厚みが三〇μとなるように塗布し、一五〇℃で三分間乾燥して、幅二〇mmの自着性テープを得た(同2頁左下欄八行から一六行)ものである。
(5) 比較例の一つとして、比較例1は、実施例1において微粉末炭酸カルシュウムを添加しないものである(同3頁左下欄三行から四行)。
テープの塗布面相互を貼り合わせて一kgのゴムローラで圧着し、二〇℃×六五%RH中にて一八〇度引き剥し(引張速度三〇〇mm/分)を行って求めた「自着力」は、一三三〇(単位はg/二〇mm)であり、BA仕上げしたステンレス板にテープを貼り付けて一kgのゴムローラで圧着し、二〇℃×六五%RH中にて一八〇引き剥し(引張速度三〇〇mm/分)を行って求めた「接着力」は、三一〇(単位はg/二〇mm)である(同3頁右上欄二行から左下欄二行及び第2表比較例1欄)。
比較例1の自着性接着テープは、自着力自体は引用発明の自着剤と同程度の自着力を示すものであるが、接着力も高いものであり、自着剤としては好ましくないものである(同3頁左下欄一七行から末行)。
(三) 以上の事実によれば、引用例の比較例1に記載されたものは、自着力が一三三〇g/二〇mmであるから、自着力に関する従来技術の問題点を解決しており、接着力が三一〇g/二〇mmである点は、引用発明の目的からすると接着力が高いので好ましくはないが、他の物品に対しては弱く接着する自着性接着テープであると認められる。
したがって、引用例の比較例1に記載されたものは、引用発明とも従来技術とも異なる一つの技術思想であり、「他の物品に強い圧力を加えて押圧しても弱くしか接着しないが、塗膜面相互は僅かの圧力により容易に強く接着する自着性接着剤組成物およびこれを使用した自着性接着テープ」である自着力一三三〇g/二〇mm、接着力三一〇g/二〇mmの自着性接着テープの発明が記載されていると認められる。
(四) ところで、実用新案法3条の2第1項には、「実用新案登録出願に係る考案が当該実用新案登録出願の日前の他の実用新案登録出願又は特許出願であって当該実用新案登録出願後に出願公告又は出願公開がされたものの願書に最初に添附した明細書又は図面に記載された考案又は発明」と規定されていることからも明らかなとおり、先願として後願を排斥できる考案又は発明は、先願の「願書に最初に添附した明細書又は図面に記載された」ものであれば足り、必ずしもその特許請求の範囲に記載された考案又は発明だけを指すものではない。
したがって、引用例の比較例1に記載されたものも、前記のとおり、一つの発明であるから、実用新案法3条の2により後願を排斥できる発明に当たると解される。
2 技術分野の同一性について(一) 原告は、本願考案の生野菜や生花等の結束に用いる粘着テープと引用例における植物の枝の固定に用いられる粘着テープとは用途が異なるのみならず、その技術分野を異にする旨主張する。
(二) 成立に争いのない甲第二、三号証によれば、本願明細書には、次の記載があることが認められる。
(1) 本願考案は各種の野菜類、生花類その他の結束用粘着テープに関する(甲第二号証第1欄八行から九行)。
(2) 耐水性基材の面に生野菜や生花等の被結束物に対しては二六〇g/一八mm巾の接着力を有し接着剤同志は九〇〇〜二五〇〇g/一八mm巾接着力を有する成分組成の感圧接着剤層を設けた野菜類、生花類等の結束用テープ(同第1欄「実用新案登録請求の範囲」)(3) 本願考案は耐水性基材の片面に生野菜類、生花類等の被結束物に対しては弱い接着力を有するが、接着剤同志は強い接着力を有する成分組成の感圧接着剤成分を設けたもので、結束される野菜等の種類、一束の大小に関係なく、同じ結束テープで、適度な結束圧で容易に機械結束でき、結束した場合、野菜と接する全面において軽度に接着すると共に両端部で強固に自己接着し、運搬その他取扱い中接着テープがずれ動いたり、野菜等が抜け出したりせず、常時適度な締付けによる確実な結束が保持できる。
又この結束テープで結束された野菜等を結束から解除しても結束テープは野菜から容易に剥離し該野菜を損傷することもないものである(同第2欄一五行から第3欄二行)。
(4) 結束野菜類等が生育膨張しても両端の自己接着部が剥離し、結束が破られることもない(同第4欄二二行から二三行)。
(5) その製造には特殊な材料や面倒な手数も要せず、量産も容易にできるので、根菜類、葉菜類、果菜類などの野菜類、生花類等の結束用に好適なものである(同第4欄二七行から三一行)。
なお、補正前の明細書には、「野菜類、生花類等の結束用のほか、園芸における栽培作物(植物)支柱等への結束用に好適なものである。」と記載されていた(同第4欄二九行から三一行、甲第三号証2頁九行から一一行)。
(三) 一方、引用発明が、他の物品に強い圧力を加えて押圧しても容易に接着しないが、塗膜面相互は僅かの圧力により容易に強く接着する自着性接着テープであることは前記のとおりであり、前掲甲第四号証によれば、引用例には、「自着性接着テープ……は、その優れた自着力を活かして、テープ状ならば例えば植物の枝を棚に沿って添わせる場合の枝と棚との固定に使用され」ると記載されていることが認められる。
(四) 以上の事実によれば、本願考案は各種の野菜類、生花類その他の結束用粘着テープに関するものであり、一方、引用発明は、他の物品に強い圧力を加えて押圧しても容易に接着しないが、塗膜面相互はわずかの圧力により容易に強く接着する自着性接着テープであって、引用例には、その用途として、植物の枝を棚に沿って添わせる場合の枝と棚との固定における使用が記載されているが、右記載は例示であって、これに限定されることはなく、もとより「野菜類、生花類等の結束」を排除するものではないから、本願考案と引用発明はその技術分野を同じにするといえる。
3 自着力の同一性について(一) 原告は、本願考案と引用例に記載されている接着剤同志の自着力の数値範囲は、本願発明がT型剥離試験(TCF法)で測定したものであるのに対し、引用例では一八〇度角剥離試験(PCF法)で測定したものであって、その測定方法が異なっているために、その数値範囲において一致していない旨主張する。
(二) 前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、自着力の測定方法に関しては、実用新案登録請求の範囲にも考案の詳細な説明の欄にも、これを特定する直接の記載はないことが認められる。
そこで、本願明細書の記載からその測定方法が特定されるかについて検討するに、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、「接着剤同志の接着力(自着力)(粘着テープの感圧接着剤層同志を貼り合せ、一〇分間経過後の自着力)」(甲第二号証第3欄七行から九行)と記載されていることが認められるが、右記載は、粘着テープの接着剤同志を貼り合わせた後、測定開始までの経過時間についての記載であって、その測定方法を特定するものではないし、また、前掲甲第二号証によれば、本願明細書には、「同じ結束テープで、適度な結束圧で容易に機械結束でき、
結束した場合、野菜と接する全面において軽度に接着すると共に両端部で強固に自己接着し」(同第2欄一九行から二二行)、「粘着テープは野菜等との接触面において感圧性接着剤層が弱粘着し、その両端部3a、3aにおいてその感圧性接着剤層同志が強く自己接着して結束する」(同第4欄一四行から一八行)と記載されていることが認められるが、右記載及び本願明細書の第3図は、いずれも本願考案の粘着テープを野菜等に使用した場合の使用状態を説明しているものであって、自着力の測定方法を特定するものではないし、前記各記載を併せ考えても、本願考案の測定方法がT型剥離法(T型はく離凝集破壊強度試験、TCF法)によったものであるとは認められない。
(三) 成立に争いのない甲第七号証、乙第一ないし第三号証によれば、粘着テープの物性値測定法としては、定速せん断凝集破壊強度試験(SCF法)、T型凝集破壊強度試験(TCF法)及び一八〇度角はく離凝集破壊強度試験(PCF法)があり、特別な場合以外はTCF法で求めるのがもっとも正確な値が得られるが、本願考案の出願当時のセロハン粘着テープ、包装用ポリプロピレン粘着テープ及びビニル粘着テープについての日本工業規格(JIS)では、常態粘着力(本件でいう接着力)の測定法は、いずれもPCF法によるものとされていることが認められ、
右事実によれば、本願考案の出願時においては、PCF法がより普通の測定方法であったと認められる。
したがって、測定方法について特定のない本願考案においては、自着力についてもPCF法によって数値範囲が限定されたものと解するのが相当である。
(四) なお、原告は、引用例の比較例1に記載されているものを、TCF法によって測定すれば、本願考案の数値範囲に含まれない旨主張し、これに添う証拠として甲第八号証を提出するか、接着の強さの測定では、試験方法が異なれば測定された接着の強さの値は異なり、異種の試験方法による測定値を比較することは意味がないし、換算することもできないとされている(日本接着協会編「接着ハンドブック」日刊工業新聞社発行一七七頁)上、甲第八号証の報告書に供された粘着剤組成は、その記載から天然ゴム七〇部、スチレン―イソプレン―スチレンブロック共重合ゴム三〇部、石油系粘着付与樹脂八五部、n―ヘキサン九七〇部であるところ、
引用例の比較例1に記載されたものは、前記のとおり、天然ゴムラテックス一〇〇部、石油系樹脂水分散液五〇部であるから、甲第八号証の報告書に供された粘着剤組成は、引用例の比較例1に記載されているものと異なる粘着剤であると認められ、これによって求められた数値を比較することは意味をなさず、また、仮に、原告の右主張が、甲第八号証の報告書に供された粘着組成剤についてTCF法で測定した数値とPCF法で測定した数値の比が、引用例の比較例1に記載されたものについてTCF法とPCF法でそれぞれ測定した数値の比に一致することを前提とした主張であるとしても、異なる粘着剤である甲第八号証の報告書に記載されたものの数値の比が、引用例の比較例1に記載されたものの数値の比に当然一致することを認めるに足りる確たる証拠はないから、甲第八号証によっては原告の右主張を認めることはできず、他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。
4 以上の事実によれば、本件審決が、本願考案は、引用例に記載された発明と同一の考案であると認定判断したことに誤りはない。
三 よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 元木伸
裁判官 西田美昭
裁判官 島田清次郎