運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 考案 /  考案者 /  自然法則 /  技術的思想の創作 /  補正 /  先願 /  拒絶理由 /  訴えの利益 /  先願 /  特定 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 昭和 55年 (行ウ) 139号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1982/03/31
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 原告らの昭和五三年実用新案登録願第一三六八八〇号の実用新案登録出願に係る昭和五四年五月四日付提出の出願審査の請求に対し、被告が昭和五四年八月一〇日付でした不受理処分を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁(本案前の申立)主文同旨(本案に対する答弁)1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
当事者の主張
一 請求の原因1(一) 原告らは、原告らを特許出願人として昭和四九年四月一五日に出願した昭和四九年特許願第四一〇〇一号の特許出願(以下、「本件特許出願」という。)について、昭和五〇年一一月一八日出願審査の請求をしたが、昭和五三年七月二七日付で拒絶査定を受け、右拒絶査定謄本は同年九月一四日原告らに送達された。
(二) 原告らは、実用新案法第8条第1項の規定により、昭和五三年一〇月六日、本件特許出願を実用新案登録出願(昭和五三年実用新案登録願第一三六八八〇号。以下、「本件出願」という。)に変更した。
(三) 原告らは、昭和五四年五月四日、本件出願について出願審査の請求(以下、「本件審査請求」という。)をしたところ、被告は、昭和五四年八月一〇日付で本件審査請求を期間経過後の差出として不受理処分(以下、「本件不受理処分」という。)に付し、その通知は昭和五四年八月二二日原告らに送達された。
(四) 原告らは、被告に対し、昭和五四年九月一三日、本件不受理処分につき行政不服審査法による異議申立をしたところ、被告は昭和五五年一〇月一七日付で右申立を棄却する旨の決定をし、その決定書謄本は同月二〇日原告らに送達された。
2 本件不受理処分は、以下に述べるとおり、違法であつて、取り消されるべきものである。
(一) 本件特許出願についてなされた出願審査の請求は、次の(1)ないし(3)に述べる理由により、本件出願についてもその効果を有するものであるから、本件出願は、実用新案法第10条の3第2項の規定で準用される特許法第48条の3第4項の規定の「期間内に出願審査の請求がなかつたとき」には該当せず、
したがつて取り下げたものとはみなされず、有効に存続するものである。
(1) 特許出願とは、自然法則を利用した技術的思想の創作(考案)のうち高度のものすなわち発明について、出願審査の請求を停止条件として、国に対し独占排他権の付与を請求する出願人の、願書という要式的な書面による意思表示である。
特許出願についてされる出願審査の請求は、特許出願の対象である特定の高度の考案について審査を求める旨の意思表示であり、特許出願の意思表示とは別個独立の、特許出願の意思表示に係る停止条件を成就させるための意思表示である。
実用新案法第8条の規定による出願の変更は、出願人がその創作したものについて高度の考案として独占排他権の付与を求めた意思表示を変更して、これに高度の考案としてではなく、単なる考案として独占排他権の付与を国に対し請求する出願人の意思表示であるから、もとの特許出願も出願変更後の実用新案登録出願も、同じ考案について独占排他権の付与を求める意思表示であるという点においては同一である。
したがつて、出願審査請求がされて停止条件が成就し、出願に係る考案について国に対し独占排他権の付与を求める確定的な意思表示になつた特許出願が出願変更されて実用新案登録出願となつても、その意思表示はすでに停止条件が成就した状態のままのものであると解するのが出願審査請求という意思表示の性格に照らし、
自然である。
特許出願を実用新案登録出願に変更するのは、本件のように特許出願につき出願審査の請求をし審査を受けて拒絶査定がなされた後であることが多い。このような場合に出願変更するのは、特許権として独占排他権を取得するのは無理であるから、その代わりに実用新案権として独占排他権を確保しようという意図においてなされるのであり、変更後の実用新案登録出願につき出願人に出願審査の請求の意思が消失しているというようなことはない。また、変更後の実用新案登録出願には変更前の特許出願の出願番号が記載されているから、変更前の特許出願について出願審査の請求があつたことは書面により客観的に明らかである。したがつて、出願審査の意思表示が取り下げられることなく存続している以上(特許法第48条の3第3項)、もとの特許出願についての出願審査の請求の効果が変更後の実用新案登録出願に及ばないというような解釈は認め難い。
もとの特許発明についての出願審査の請求の効果が出願変更後の実用新案登録出願には及ばないと解するのは、発明者及び考案者のためにその発明ないしは考案を保護するという特許法、実用新案法の目的に反する。
(2) 特許法又は実用新案法に規定する出願人自身の出願審査の請求という意思表示には、実体法的な効果と手続法上の効果の二つが存在する。
実体法的な効果は、前述のとおり、自己の出願した考案又は発明について独占排他権を賦与して欲しい旨の停止条件付意思表示(出願)の停止条件を成就させる効果である。すなわち、それによつてそれまで未確定であつた出願人の独占排他権取得請求の意思表示は確定する。
手続法上の効果は、出願人が手数料を納付することを条件として、考案の内容が示された具体的な出願書類について、審査官の審査を開始させる効果であり、これは同時に当該出願について手続上審査の順位を確保するという効果を伴なうものである。
ところで、出願審査の請求が法定期間内になされないときは、出願についての停止条件の不成就が確定するので、独占排他権取得請求の意思表示の無効が確定し、
出願は公開された事実が残ることを除けば存在意義を喪失する。したがつて、このような出願が、形式上においてのみ手続上先願として残存していることは審査手続上の障害となるのみであるので、このような形骸となつた出願を消滅させるために設けられたのが、特許法第48条の3第4項(実用新案法第10条の3第2項により準用)に定める「取り下げたものとみなす」旨の規定である。すなわち、右の取下擬制の規定は、法の目的及び条項自体の意図するところからするも、当該出願について実体法上の独占排他権取得請求の意思表示の無効が確定するということがその適用の当然の前提条件となつているものであるから、出願審査の請求の実体法的な効果を生じさせる条件が充足され、独占排他権取得請求の意思表示の存在という実体法的な事実が法手続上も形式上も確定的なものとして客観的に認められる限りにおいては、仮に手続法上の効果を生じさせる要件が法所定の期限までに充足されていない場合においても、それによつて取下擬制の規定が当然に適用されるということはなく、出願は有効に存続しているものと解すべきである。
(3) 変更出願が変更前のもとの出願とは別個独立の出願であり、審査その他の出願手続を最初からやり直すこと、及び新たに手数料を納付する必要があることは被告主張のとおりであるが、このことは変更出願ともとの出願における出願の対象となる考案の内容の同一性を否定するものではない。また、もとの出願でなされた補正は変更出願にもそのまま引き継がれていくのと同様に、もとの出願について行つた出願審査の請求もその実体法的な意思表示は当然変更後の出願の内容として存続するものである。
(二) 本件出願においては、本件特許出願についての出願審査請求の実体法上の効果は及んでいるが、手続法上の効果、すなわち審査官の審査を開始させ、審査の順位を確保させるために、本件出願について別個に出願審査の請求をすることが必要であり、本件審査請求は右手続法上の効果を発生させる意味で必要なものである。
なお、仮に出願人が変更後の出願について出願審査の請求を法定期間内にせず、
法定期限経過後も長期間にわたり自発的に手続を行わない場合には被告は、特許法第18条又は実用新案法第55条第2項の規定が準用する特許法の右規定によりいわゆる出願無効処分という方法でこれを処理することが可能であり、法の目的からするも被告はそのように処理すべきである。
(三) 本件と同様の事例で、実用新案登録出願に変更した後一年近く経過してから出願審査の請求をしたにもかかわらず、右請求が受理され、審査を受けた先例がある。
被告はこのような措置は審査官の過誤によるものである旨主張するが、一方においてこのように特許出願、実用新案登録出願が正当に審査され、発明者、考案者が保護されているにもかかわらず、他方において被告のいうような形式的法解釈により多数の出願人が保護されるべき発明、考案の保護を奪われているということは、不公平かつ不合理である。
3 よつて、原告らは本件不受理処分の取消しを求める。
二 請求の原因に対する認否及び被告の本案前の申立の理由1 請求の原因1の事実は認める。
2 本件訴えは、本件審査請求の前提をなす本件出願が取り下げたものとみなされているから、訴えの利益がない。
すなわち、本件出願は、本件特許出願(昭和四九年四月一五日出願)をもとの出願として、昭和五三年一〇月六日実用新案法第8条第1項の規定による変更出願として出願されたが、右変更出願の時点で本件特許出願の出願日より四年を経過していたにもかかわらず、それから三〇日以内に出願審査の請求がなかつたものであるから、実用新案法第10条の3第1項及び同条第二項において準用する特許法第48条の3第2項、第四項の規定により、取り下げたものとみなされた。
したがつて、本件訴えは訴えの利益を欠く不適法な訴えであるから、却下されるべきである。
3 原告らは、本件特許出願についての出願審査の請求の効果が本件出願についても及ぶから本件出願は取り下げたものとはみなされない旨主張するが、合理的根拠はない。
原告らの右主張は、特許出願と実用新案登録出願とは、当該考案が「高度のもの」であるとして出願したか否かが異なるにすぎないから、出願形式を変更しても出願審査請求の対象たる考案には同一性があることを前提としている。しかしながら、実用新案法第8条第1項の規定に基づく出願の変更は、もとの特許出願とは別個独立の新たな実用新案登録出願であつて、もとの特許出願がその同一性を保有しつつ出願形式のみを変更するものではなく、ただその出願日がもとの特許出願の日まで遡及するという効果のみがあるにすぎない。
もとの特許出願についてなした手続の効力がそのまま変更後の実用新案登録出願に承継されるものでないことは当然である。このことは、出願の変更には新たに実用新案登録出願の手数料の納付が必要なこと(実用新案法第54条第1項)、新たな願書を作成して提出しなければならないこと(実用新案法施行規則第1条第2項)、更に、出願の変更があつたときはもとの特許出願は取り下げたものとみなされ、新たな変更出願については、もとの特許出願についての経過とは全く関係なく拒絶理由通知や公告決定等が行われ、補正についても例えばもとの特許出願における公告決定の存在によつて何ら制限を受けないこと等からしても明らかである。
また、本件のように拒絶査定後の特許出願を実用新案登録出願に変更するについては、明文どおり法定期間内に出願審査の請求をすれば足りるのであり、原告ら主張のような難解な解釈をする必要性はない。出願審査の請求の様式は、きわめて簡単なものであつて、原告らがこれを法定期間内に提出しえないという事情は見受けられない。
4 原告らは、被告が本件出願と同様の他の事案について実質審査をした先例があることをとらえて、不公平かつ不合理である旨主張する。しかしながら、被告が本件以外の他の事案について不受理処分とせず、受理し審査に付したことは過誤によるものである。したがつて本件審査請求について原告ら主張の先例と同様の取扱いをすることはできない。
証拠(省略)
理 由一 本案前の申立について1 請求の原因1の本件出願の経過に関する事実は当事者間に争いがない。
2 右事実によれば、本件出願は実用新案法第8条第3項の規定により本件特許出願の出願時である昭和四九年四月一五日にしたものとみなされること、右出願時より四年を経過した後の昭和五三年一〇月六日に出願の変更がされたこと、及び出願の変更の日から三〇日以内に出願審査の請求がなかつたことが明らかであるから、
実用新案法第10条の3第1項及び同条第二項により準用される特許法第48条の3第2項、第四項の各規定により、本件出願は取り下げたものとみなされる。
したがつて、本件出願について提出された本件審査請求に対する本件不受理処分の取消を求める原告らの本件訴えは、そのもととなる本件出願がすでに取り下げられて存しない以上、訴えの利益を欠くものといわざるをえない。
3 原告らは、請求原因2(一)において、本件特許出願についての出願審査の請求は本件出願についてもその効果を有するから、本件出願は前記特許法第48条の3第4項の「期間内に出願審査の請求がなかつたとき」には該当せず、取り下げたものとみなされるべきではない旨主張する。
しかしながら、現行法上、特許出願から実用新案登録出願に出願の変更がなされた場合、変更後の実用新案登録出願は、もとの特許出願とは別個独立の出願とされていることは実用新案法第8条第1項、第四項の規定から明らかであり、もとの特許出願がその同一性を保有しつつ出願の形式のみが変更されたものと考える余地はないこと、変更後の実用新案登録出願についての出願審査の請求については、同法第10条の3第2項において準用する特許法第48条の3第2項が、出願審査の請求の期間についての特則を定めているにもかかわらず、もとの特許出願についてすでに出願審査の請求がされていたときについての特則は何ら置かれていないことにかんがみれば、もとの特許出願について出願審査の請求がされた後に出願の変更がされて実用新案登録出願となつた出願つにいても、実用新案法第10条の2第10条の3の規定が適用され、特許法第48条の3第2項ないし第四項の規定が準用されることが予定されているものと解される。このように解しても、出願変更後の実用新案登録出願について所定の期間内に出願審査の請求をすることは出願人にとつて容易になしうる行為であることが明らかであるから、出願人に対し何ら不合理な負担、無用の困難を課するものとはいえないし、発明、考案を保護するという特許法、実用新案法の目的に反する結果が生ずるものということもできない。
かえつて、原告ら主張の解釈に立てば、もとの特許出願について出願審査の請求があり、出願変更後の実用新案登録出願について同請求がされない場合には、審査順位未確定の出願がそのまま存在して審査の進行上の障害となることが予想されるのであつて、このような事態が生ずるおそれのある解釈をあえてとらなければならない理由はない。
原告らが請求の原因2(三)において主張する事実は、法規の解釈に影響を及ぼす事実でないから、これを参酌する要をみない。
原告らの主張は、いずれも採用できない。
二 以上のとおり、原告らの本件訴えは、訴えの利益がなく不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第93条第1項本文の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 牧野利秋
裁判官 清水篤
裁判官 設楽隆一