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関連ワード 技術的範囲 /  出願経過 /  考案 /  図面 /  構造 /  新規性(3条1項) /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 43年 (ネ) 1169号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1970/04/28
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴は、棄却する。
控訴費用は、控訴人の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
控訴人訴訟代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は、控訴人に対し、金八百六十四万円及びこれに対する昭和四十二年三月八日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決並びに金員の支払を命ずる部分につき仮執行の宣言を求め、被控訴人訴訟代理人は、主文第一項同旨の判決を求めた。
当事者の主張
当事者双方の事実上の陳述は、控訴人訴訟代理人及び被控訴人訴訟代理人において、それぞれ次のとおり補充陳述したほか、原判決事実摘示と同一であるから、ここにこれを引用する。
(一)、控訴人訴訟代理人の陳述 本件考案における技術的範囲は、その説明書の登録請求の範囲に記載された各部分が統一されて結合され、本件考案の噴霧器として特有の個性を発揮しているものであることはいうまでもない。したがつて、その登録請求の範囲において蓋1というも、止体2とシリンダー3とをもつて蓋1を挟圧し、手掛部イに二本の指を掛け、ロツド4の頭部9を拇指で押圧するに適する蓋たることを要し、止体2、シリンダー3というも、両者が着脱自在に確固と螺着されて蓋1を挟圧するに足り、しかも、ロツド4がシリンダー3内に僅かの押圧力、同復元力をもつて円滑に昇降を反覆し、全体が小型・コンパクトに形成されなければならないものであり、他の各部もこれに準ずるものであり、このように、構成要素の各部を全体との関連性において存在するものであるとの観点からすれば、本件考案と(イ)号図面及びその説明書に示す噴霧器とは、噴霧器として、実用新案法上における構成、作用効果上の個性が全く同一である。故に、後者における蓋に手掛部を設けた構成という如きは、噴霧器としての個性にあらずして、これを形成する資材の個性、換言すれば、
蓋の個性であり、壜の個性たるにすぎない。したがつて、後者における蓋に手掛部を設けたところは、蓋をもつて蓋たるの目的を兼ねるとともに、壜口の延長部たらしめたものに他ならない(すなわち、この蓋は一般的意味における蓋ではなく、壜の一部である。)から、仮に「手掛部イを壜に設けること」が本件考案の附随的要件でないとしても、噴霧器全体としてみるときは、右(イ)号のものは、まさに本件考案と同一又は類似のものである。
(二)、被控訴人訴訟代理人の陳述 すでに第一審における被控訴人の主張として原判決にも摘示されているとおり、
本件考案構造においては「蓋1を手掛部イを設けた壜11に定着して成る」という明確な限定があり、(このような限定的な構造新規性ありとして登録されたものであることは、その出願経過に徴しても明らかである。)さらに、その説明書には、本件考案の作用効果として、「蓋1を壜11の内側に定着した故に、壜口の外側を手掛部イとすることができるから……」と明記されており、蓋は壜の内側に定着し、もつて壜の外側に手掛部を設けることを可能ならしめているのであり、被控訴人製品のように、本件登録実用新案の登録出願前から公知公用であつた蓋に手掛部を設けた構造の噴霧器は、上記の限定的構造を欠き、したがつて、本件考案とは構造作用効果において一致する余地はない。
証拠関係(省略)
理 由 本件考案の構成要件及び被控訴人の製品の構造がいずれも控訴人主張のとおりであることは、本件当事者間に争いがなく、この両者を比較考量すると、被控訴人の製品(以下「(イ)号製品」という)は、本件考案の構成要件の一である「壜に手掛部を設けること」という構造を欠き、したがつて、本件考案技術的範囲に属するとはいいえないものであることが明らかであり、他にこの認定を左右するに足る証拠資料はない。
控訴人は、本件考案における右の構成は、附随的要件にすぎないから、(イ)号製品がこの要件を欠くとしても、なお、本件考案技術的範囲に属する旨主張するが、前掲当事者間に争いのない本件考案の構成及び成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案の公報)の記載に徴すれば、前記「壜に手掛部を設けること」という構成は、本件考案における必須の構成要件であると認めるを相当とし、壜に手掛部を設けたことを構成要件の一とする噴霧器が本件考案の登録出願前公知公用であつたか否かは、いささかも右認定に消長を及ぼしうべきものではない。けだし、本件考案における各構成部分は、控訴人も当審において主張するとおり、統一的に結合され、全体との相関的関係において一個の噴霧器に関する考案を構成するものであり、各部分の一又は全部が公知公用であつたかという事実から、直ちにこれをもつて必須の要件でないもの、換言すれば附随的要件にすぎないものと断ずることは、はなはだしく当を得ないからである。したがつて、前記構成が本件考案の附随的要件であることを前提とする控訴人の主張は、理由がないものといわざるをえない。
また、控訴人は(イ)号製品における手掛部は、その蓋を兼ねた壜体(延長)に設けられたものに他ならない旨主張するが、(イ)号製品において蓋1と表示され壜6の開口部外側に螺着されている部分(原判決添付(イ)号図面及び説明書参照)を壜体の延長として、本件考案にいう壜11(同じく実用新案公報参照)と同視することは、これまた、はなはだしく一般通念に反するものというべく、控訴人の右主張は、もとより採用すべくもない。
叙上のとおりであるから、(イ)号製品が本件考案技術的範囲に属することを前提とする控訴人の本訴請求は、進んで爾余の点について判断するまでもなく、失当というほかはない。したがつて、右と同趣旨に帰する原判決は正当であり、本件控訴は理由がない。
よつて、控訴費用の負担につき民事訴訟法第八十9条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 服部高顕
裁判官 三宅正雄
裁判官 石沢健