• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  均等 /  考案 /  図面 /  構造 /  先行技術 /  実施例 /  置換 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 昭和 42年 (ワ) 6444号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1969/04/02
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 被告生駒織物株式会杜は、別紙(二)(目録および同添付図面第一ないし第三図)記載のフアスナーを、製造し、または譲渡してはならない。
被告日本ピツター株式会社は、別紙(二)(右同)記載のフアスナーを、譲渡し、または譲渡のために展示もしくは広告してはならない。
被告らは、別紙(二)(右同)記載のフアスナーを廃棄せよ。
訴訟費用は被告らの負担とする。
事実及び理由
全容
第一、双方の申立 原告訴訟代理人は、主文同旨の判決ならびに主文第三項について仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
第二、請求原因一、原告は分離自在のフアスナーについての特許第二六二、〇二三号の権利者である。右特許(以下本件特許という)は、昭和三三年六月一六日出願(特許昭三三-一六九二二号)、昭和三二年一〇月二日優先権主張(スイス国)、昭和三五年一月二八日公告(昭和三五-五二二)を経て昭和三五年五月三一日登録された。その特許請求の範囲の記載はつぎのとおりである。
「互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えた二個の支持体にて形成された二個の可撓性部分を連結するフアスナーに於て該支持体の一方はその表面上に多数の鉤を備え、他の支持体はその表面上に多数のループを備えた事を特徴とするフアスナー」。
二、本件特許発明の要旨は、つぎの各要件から構成される。
(1) 互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えた二個の支持体で形成されたフアスナーであること(2) 支持体の一方には、その表面に多数の鉤を備えること(3) 他の支持体は、その表面に多数のループを備えること三、本件特許の優先権主張日前の技術水準 本件特許の優先権主張日前において、面と面を結合するフアスナーとして、例えばスイス特許第二九五、六三八号、米国特許第二、499条、八九八号米国特許第二、七一七、四三七号など各種のものが公知であつたが、これらのフアスナーはいずれも理論上のものにとどまり、実用化し得なかつた。
まず、米国特許第二、七一七、四三七号は、両面に同じ鉤を持つものであるため、その使用に際し、一方の面を他方の面に対し向きを変えさせて、鉤同志が互に引つ掛かるようにしなければならなかつたし、又多数の鉤を同時に係合させることが困難であつたので、係合力を強くすることができなかつた。
次に、米国特許第二、四九九、八九八号などは、膨頭突起同志を係合させる理論上のフアスナーであるが、あたかもスナツプをはめるように互に係合し合う場所を確めた上で強く押圧しなければ係合しないような構造のものであり、係合力を強めるとはめ込みにくく、また逆にはめ込みやすくすれば係合力を弱めることにもなつた。
面と面とのフアスナーは、係合点がブラインドであり、各鉤止部材を目で見て、
又は指で触つて確かめながら係合させることはできないから、どうしても重ねて軽く押圧するという簡単な操作で、出来るだけ多数の鉤止点を作るものであることが先ず要求される。同時に両面は任意の位置において容易に係合し、どこでも均一な係合力が得られるものであることが要求され、多少のズレで係合力が左右されるようなものであつてはならないし、出来るだけ可撓性を持つものであることなどが要求される。
このような技術水準のもとに、本件特許発明が技術的課題としたところは、如何にして実用性を有する面と面とを互に引懸けられるようになつている多数の鉤止部材を備えた二個の支持体からなるフアスナーをつくるかにあつた。
四、本件特許の技術思想 本件特許発明は、互に引懸けられるようになつている多数の鉤止部材を備えた二個の支持体からなるフアスナーにおいて、一方の支持体の鉤止部材として多数のループを採用したのであつて、この点に、本件特許発明の全く新しい画期的な思想が存在するのである。そして他方の支持体の鉤止部材としては、このループを引懸けるための鉤を備えるのである。
鉤は、ループに係合することが必要であり、更にループと係合した後に分離に対して、抵抗を示しつゝ分離させようとする力が一定以上になるとループから逃出するように弾性変形を生じ、ループから逃出し、その後再び元の状態に戻ることを必要とするからこのような機能を有するものであれば、その形状のいかんは問わない。
五、本件特許発明の作用効果(1) 本件特許発明においては、一方の支持体上に多数のループを密生させる結果、このような状態にあるループの中へ、他方の支持体の鉤が入つて来ると、どの任意の個所にも鉤に対応するループが存在することとなり、鉤とループとは係合する機会が非常に多くなる。しかもループを異なる方向に配列し、その頂点の高低を異にし、また支持体に対し異なる角度で傾斜させるなどして形成すると係合の効果は増大する。更にループに可撓性があるから鉤が挿入する時はこれに押されてループは変形し、位置をかえ、係合の可能性は更に増加するのである。
その結果従来の鉤止部材同志を結合させる場合のように一つ一つかみ合うな形状位置、及び方向をとる必要は、全く無くなつたのである。
(2) 本件特許発明の鉤の機能は、明細書(公報一頁右欄八行ないし一四行)に記載されているとおり、「実際上、層の一つの各鉤部は他の層のループ内に係合し、此等の二層の分離は、鉤部がテリー又はアンカツト織物の層のループから逃出し得る様に鉤部全部の一時的な匡正を生ずるに充分な力が加えられた時にのみ生ずる」点に集約される。
即ち、フアスナーの接合、分離の原理はつぎのとおりである。
多数のループを設けた支持体と多数の鉤を設けた支持体とを押圧して接合すると一方の支持体の鉤は、他方の支持体のループに係合し、この両支持体を分離しようとする力に対し抵抗を示し、これを接合する。
鉤とループの係合は、一定の力に対して抵抗を示すが、両支持体に加えられる力が、この抵抗力に打ち勝つて、鉤部全体の一時的匡正、すなわち鉤に弾性変形を与え、その結果、鉤がループから逃出出来る状態に至ると、鉤とループとがはずれ、
両支持体の分離が生ずる。
分離後の鉤は弾性により再び元の状態に戻り、繰り返し使用出来るので分離自在のフアスナーとなり得る。
六、被告生駒織物株式会社は、別紙(二)(目録および同添付図面第一ないし第三図)に記載のフアスナー(以下、(イ)号という)を、業として製造し、これを被告日本ピツター株式会社に販売している。
被告日本ピツター株式会社は、(イ)号を、業として販売し、かつ販売のために展示、広告している。
七、(イ)号は、つぎの構成からなつている。
(1) 互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えた二個の布製支持体からなるフアスナーである。
(2) 支持体の一方には、その表面に、合成樹脂材のモノフイラメントをその両端が表面に突出するように織込みその突出部の先端にキノコの傘形の膨頭部を形成したキノコ型の小片を多数備えている。
(3) 他の支持体はその表面に、合成樹脂材料のマルチフイラメントからなるジグザグ状に配列して形成し多数のループを分織し支持体表面に群生するようになした細い繊維からなるループを備えている。
八、(イ)号は、つぎのとおり本件特許権を侵害するものである。
(一)、(イ)号は、本件特許発明の構成要件をすべて備えている。
(1) 本件特許発明では、支持体の材質について何の制限もなされていない。したがつて、(イ)号の(1)の構成は、本件特許発明の前記(1)の要件を充足する。
(2) (イ)号のキノコ型小片は、他方の支持体上に備えられた鉤止部材であるループに引懸かり、両支持体を分離しようとする力に対する抵抗を示して、両支持体を結合し、両支持体を分離しようとする力が強くなると、これに負けて、ループの係合部から支持体上の支持点に至る部分において、弾性変形を生じ、ループとの係合から離脱して、両支持体を分離せしめるという機能を有し、この機能は、本件特許発明における鉤の機能と全く同一である。
本件特許発明において、鉤は、右のように、ループと引懸かることとによつて両支持体を結合し、弾性変形によりループとの係合から離脱することによつて両支持体を分離するという機能を有するものとされているほかは、その形状、材質、製造方法等について、何の制限もされていない。本件特許公報に記載された、先の曲折した形状の鉤およびその製造方法は、本件特許発明の一実施例として開示されたものにすぎない。したがつて、(イ)号に設けられた右キノコ型小片は、本件特許発明の鉤にあたるものというべきであり、(イ)号の(2)の構成は、本件特許発明の前記の要件を充足する。
(3) 本件特許発明におけるループは、糸条が、支持体の表面に対して膨らむように、その両脚部を支持部に植え込まれて形成され、全体として彎曲形状をなし、
支持体をも含めて切れ目がない形状のものであれば足り、ループの形状およびその支持体に対する角度ならびに配列等について、右の限度を超える何の制限もなされていないし、ループの材質、製造方法についても、何の制限もなされていない。したがつて、(イ)号に設けられた右ループは、本件特許発明のループにあたるものというべきであり、(イ)号の(3)の構成は、本件特許発明の前記の(3)の要件を充足する。
(二)、かりに、(イ)号が本件特許の技術的範囲に属しないとしても、本件特許発明の利用である。
(イ)号は、その構成から明らかなとおり、互に引懸けられるようになつている鉤止部材を備えた二個の支持体から形成されたフアスナーにおいて、一方の支持体に備えるべき鉤止部材としてループを採用し、他方の支持体に備えられた鉤止部材であるキノコ型小片を該ループに引懸けるようにして、ループとキノコ型小片の係合する機会を増大し、かつその係合を強力にすることによつて、二個の支持体の接合力を高めるという構成を採用している。これは本件特許発明の技術思想に基づくものであつて、右技術思想をそのまま利用するものである。
(三)、以上のとおり、被告らが、(イ)号を、業として、製造しまたは販売等する行為は、原告の本件特許権を侵害するものであるから、原告は被告らに対し、各侵害行為の差止と、右侵害行為を組成した(イ)号の廃棄を求める。
第三、被告らの答弁ならびに主張一、原告主張の請求原因たる事実中、原告が本件特許の権利者であり、その特許請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、本件特許の優先権主張日前において原告主張の公知例が存在したこと、被告らが(イ)号につき原告主張の行為をしていることはいずれも認めるが、本件特許の構成要件、本件特許の技術思想、その作用効果中鉋とループが分離する際の鉤の変形、(イ)号の構成が互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えたフアスナーであること、(イ)号の作用効果、
(イ)号が本件特許権を侵害するものであるとの各事実についての原告の主張はいずれも争う。
二、本件特許発明の要旨は原告主張の(2)および(3)を要件とするものであり、(1)は本件特許出願時における先行技術を示すものにすぎず、本件特許発明の構成要件をなすものではない。
三、本件特許発明はその優先権主張日前公知であつた米国特許第二、七一七、四三七号、すなわち、互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えた二個の支持体で形成されたファスナーが、両面に同じく先端を曲折させた鉤を備えたものであつたのを、その基本理念を承継し、一方の支持体の鉤をループに改め、鉤とループを対向的に支持体に備えた構成にしたものである。
四、本件特許のフアスナーにおいては、鈎とループが分離する際の鉤の変形はその先端の曲折部でなされるのである。
五、(イ)号は原告主張の(2)、(3)のとおり支持体にそれぞれキノコ型小片とループを備えているが、それは互に引懸ける様になつているのではない。キノコ型小片の膨頭部がループに没入して結合するのである。
すなわち、(イ)号は米国特許第三一九二五八九号の技術思想の流れをくむものである。右特許発明のフアスナーは各支持体にキノコ形係止部を対向部に備え、これを重ねて軽く押圧すると、キノコ型係止部同志が嵌り合うものである。(イ)号の基本思想は、キノコ型突起が網目状のものに嵌り込む又は没入することから出発したものである。
六、(イ)号は、つぎのとおり、本件特許発明の構成要件を欠いでいる。
(1) 本件特許発明における鉤は、先端部の曲折した形状のものに限られるものと解すべきである。すなわち、「鉤」ということばは、本来、先の曲折した形状のものを意味することばであるし、また、本件特許公報には、先の曲折した形状の鉤の製造方法が極めて詳細に説明されているほか、その図面にも、先の曲折した形状の鉤のみが図示されているうえ、同公報のいかなる部分をみても、鉤の形状が右以外のものであつてもよい旨の記載は全くみうけられないのである。しかも、現在、
面と面を結合するフアスナーに関し、本件特許発明のほかに、特許公報昭三八-二二、八三〇、同昭三九-九、三七四、同昭四二-一三、五一一実用新案公報昭四一-七、三七九等の発明、考案が公にされており、特に、本件特許の後に、ループに対応する結合部材としてクリンプ状の折曲糸を採用した実用新案(昭和四一-七、
三七九)、本件特許におけると同様の鉤とループとを用い、ただその配列を異にするにすぎないフアスナーの発明(昭三八-二二、八三〇)が、それぞれ登録されている事実に照らすと、本件特許発明の鉤の形状は、極めて制限的に解すべきものであることが明らかである。なお、米国においても、特許第三、一三八、八四一号として、ループに対応する結合部材としてキノコ型係止部を用いたフアスナーの発明が登録されている事実は注目されるべきである。
(イ)号のキノコ型小片は本件特許出願後に発明されたポリプロピレン(融点が非常に低い)を利用することによりはじめてその膨頭部の作成が可能になつたものである。
したがつて、(イ)号のキノコ小片は本件特許の鉤と形状において異る。
のみならず、両者は機能上においても異る。(イ)号のシート(支持体)の一部に一定の力を加えると絡み合つたループから順次キノコ型膨頭部が抜き取られて分離するのである。ループはこの際離れ易いものから離れあるいは外れる。キノコ型小片の茎部は支持体の分離の際変形するとしても、その頭部と茎部とのなす角度は全く変らない。したがつて、先端の曲折部の変形によつてループから離脱する本件特許の鈎とは全くその機能を異にする。
その他、両者には、つぎのような機能上の差異がある。
(イ)、(イ)号のキノコ型小片に対しては、二、三のループが膨頭部に係合したり、膨頭部のある一方の部分にだけ係止しているのではなく、あらゆる方向にあらゆる部分に彎曲橋状のループが係合している。ところが、本件特許の鉤は、ただ一方向のループを係合し得るに過ぎない。
(ロ)、(イ)号においては、ただ一回のスリツプによつて、キノコ小型小片とループの分離がなされるのに対し、本件特許発明のフアスナーにおいては、鉤の先端が曲折しているため、曲折部の変形とこれに伴うループのスリツプとを、数回繰り返さないと、鉤とループの分離がなされない。
(ハ)、右離脱の際、(イ)号においては、キノコ型小片が球状の頭部を有するため、ループの運動が三次元のものとなるのに対し、本件特許発明のフアスナーにおいては、ループの運動は二次元であある。
(ニ)、両フアスナーの分離に際して必要な力のダイヤグラムは全く正反対である。すなわち、本件特許発明のフアスナーにおいては、最初はほんのわずかの力で始まるが、鉤が開くに従つて、必要な力が増大し、ループがはずれる瞬間に最も大きな力を要することとなる。これに対し、(イ)号においては、最初にループが係脱境界面を超えてスリツプを開始するときに最も大きな力を要し、ループがキノコ型小片の頭部周辺を移動するに従つて、必要な力が減少し、遂に零となつて、自然にはずれてしまうのである。
(2) 本件特許におけるループは脚を閉じた環状のループであつて、一束状に立設され、かつ各ループが異る面を形成することを要するものと解すべきである。
(イ)号におけるループは、彎曲橋状をなしており環状ではない。
本件特許におけるループが「異なる面」に位置するのは各ループをブラツシングして分織した状況を言つているのであるが、これは、ループ基部で絞搾され閉じているから出来るのである。
(イ)号のループはメリヤス編みに立脚し、ジグザグに編まれている。キノコ形係止部を有効に係合するにはループの両脚を拡げる必要がありこの特異な必要性を充するため被告らは雌シートの布地にメリヤス編を採用したのであつて、これは画期的なことである。
七、従つて、(イ)号を製造または販売等する被告らの行為は、何ら原告の本件特許権を侵害するものではないから、原告の本訴請求は失当である。
第四、証拠関係(省略) 理 由第一、原告が本件特許権の権利者であり、その特許請求の範囲の記載が、
「互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えた二個の支持体にて形成された二個の可撓性部分を連結するフアスナーに於て、該支持体の一方はその表面上に多数の鉤を備え、他の支持体はその表面上に多数のループを備えた事を特徴とするフアスナ」であること、被告生駒織物株式会社が別紙(二)に表示の(イ)号を製造し、これを被告日本ピツター株式会社に販売していること、被告日本ピツター株式会社が(イ)号を販売し、かつ販売のため展示広告の行為をしていることは、いずれも当事間に争がない。
第二、右特許請求の範囲の記載に基づき、成立に争いない甲第二号証(本件特許公報)の詳細なる説明ならびに図面をしんしやくして考えると、本件特許発明は、
「(1)支持体の一方はその表面上に多数の鉤を備えること、(2)他の支持体はその表面上に多数のループを備えること」の二要件からなる「互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えた二個の支持体にて形成された二個の可撓性部分を連結するフアスナー」であると認められる。
原告は右「互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えた二個の支持体で形成されたフアスナー」であることも、本件特許発明の構成に欠くことのできない要件である旨主張し、右の事項が特許請求の範囲の冒頭に記載されているけれども、
右は、むしろ本件特許発明が属すべき技術部門を表示したものと解するのが相当である。
第三、本件特許発明の技術思想 成立に争いない甲第八号証(昭和二九年五月一一日特許庁資料館受入のスイス特許第二九五六三八号)によると、本件特許優先権主張日前に、互に引懸けられる様になつている鉤止部材を備えた二個の支持体にて形成された二個の可撓性部分を連結するフアスナーの鉤止部材として、鉤と鉤を二個の支持体にそれぞれ対向的に備えたもの、あるいはまつすぐに立つた各糸の端に引つ掛り装置を構成す球又はその他の膨み部分を形造つたものを二個の支持体にそれぞれ対向的に少しずらして備えつけたものが公知であつたことが認められる。
この事実ならびに本件特許公報(甲二号証)の一頁右欄四行目ないし二二行目の「上記の如く鉤されたベルベツト型の織物の層及び上記にテリー又はアンカツトベルベツトとして述べたループ型の織物の層を使用する時に、織物の二層の鉤止装置又は連結装置からの分離に対する抵抗が改良されることが分つた。実際上、層の一つの各鉤部は他の層のループ内に係合し、比等の二層の分離は、鉤部がテリー又はアンカツト織物の属のループから挑出し得る様に鉤部全部の一時的な匡正を生ずるに充分な力が加えられた時にのみ生ずる。又実験によれば、例えばcm2当一二〇個の鉤を備えた鉤付層は同じ鉤付層に対して鉤止点のない比較的大なる表面を示す事が示された。従つて鉤の約三〇%のみがこの型式の二層と係合することとなる。
これに反し、同じ鉤をもつ同じ層で、前記の如く形成したループをもつ層を使用する時には、cm2当約一〇〇〇個のループをもつ層は上記の鉤を鉤止せしめる可能性を非常に増大する」との記載に照らし、本件特許請求の範囲の記載に基づき考察すると、本件特許発明は、鉤止部材をもつ二つの織物支持体によつて形成されたフアスナーにおいて、鉤止部材として、一方支持体の表面には多数のループを備え、
他方支持体の表面には右ループを引つかけるものを多数備えるときは、釣上部材間の係合のチヤンスが多くなりかつフアスナーの分離に対する抵抗が改良されるとの着想に基くものであると推認することができる。
そして、この種のフアスナーにおける鉤止部材として一方支持体にループを使用した先行技術については、これを認むべき証拠は本件にない。
そうすると、本件特許発明は、一方支持体の鉤止部材にループを採用したところに発明の中核が存するというべく、一方支持体に多数のループを、他方支持体にこれを引つかけるものを備えて係合離脱を可能ならしめるという技術思想のもとに、
これを特許請求の範囲の記載のとおりの構成に具体化したものと解せられるのである。
第四、(イ)号と本件特許発明との対比 (イ)号は、一方の布製支持体の表面に備えられた鉤止部材は合成樹脂材料のモノフイラメントをその両端が表面に突出するように織込み、その突出部の先端にキノコの傘形の膨頭部を形成してなるキノコ型小片であり、他方支持体表面に備えられる鉤止部材は合成は合成樹脂材料のマルチフイラメントからなるジグザグ状に配列して形成した多数のループを分織し支持体表面に群生するようになした細い繊維からなるループである。
(1)、被告は、(イ)号はキノコ型小片がループの中に嵌り込み、絡み合うことによつて両支持体を結合するものであつて、互に引懸けあうことによつて結合するものではないと主張するので考察する。
いずれも成立に争いのない甲第六号証、甲第一一号証および乙第三号証に、被告の製品の顕微鏡写真であることに争いのない検甲第二ないし第四号証の各一ないし五、検甲第五号証の一ないし六、および被告生駒織物株式会社代表者本人尋問の結果(後記措信しない部分を除く。)を総合すると、つぎの事実が認められる。
本件特許発明のフアスナーにおいて、両支持体を重ねあわせて押圧すると、鉤はループの中に没入し、両支持体を分離しようとする力が働くと、鉤とループとが引懸かりあい、分離に対する抵抗を示す。右分離力がさらに強くなると、鉤は、ループとの係止点(鉤とループとが引懸かりあつている点)と支持点(鉤が支持点に支持されている点)との間の部分において変形させられ、右変形によつて、ループの鉤に対してなす角度が係脱限界に達すると、ループは鉤の曲折部をスリツプして、
鉤との引懸かりあいを解き、両支持体は、分離される。鉤とループの係合が解かれると、変形していた鉤は、その弾性により、原形状に復する。
(イ)号において、両支持体を重ねあわせて押圧すると、キノコ型小片はループの中に没入する。両支持体を分離しようとする力が働くと、キノコ型小片とループとは、係脱限界を超え、もしくは超えない角度で相互に接触する。そして、係脱限界を超えたループは、キノコ型小片の頭部をスリツプして、キノコ型小片からはずれ、分離に対する抵抗を示さない。係脱限界に達していないループは、キノコ型小片に引懸かり、分離に対する抵抗を示すが、分離力がさらに強くなり、キノコ型小片が変形されて、ループとの角度が係脱限界に達すると、ループはキノコ型小片の頭部をスリツプして、これとの引懸かりあいを解き、両支持体は分離される。キノコ型小片とループの係合が解かれると、変形していたキノコ型小片は、その弾性により、原形状に復する。右キノコ型小片の変形は、ループとの係止点と支持点との間の部分で行われ、主として、茎部の変形が現われるが、茎部と頭部底面のなす角度も、多少は変えられるものである。
右認定事実によると、本件特許発明の鉤も、(イ)号のキノコ型小片も、ループに引懸かることによつて両支持体を結合させ、ループ係止点と支持点との間の部分の弾性変形により、ループとの引懸りあいを解くことによつて両支持体を分離させるとの機能の点において、同一のものといわなければならない。
被告らは、なお、右両者の機能上に差異ありとして種々主張するが、そのいずれの点も、前記認定を覆えすべき両者間の本質的な差異とは認めることができないから、被告らの右主張は採用することができない。
いずれも成立に争いのない乙第二号証、乙第七、八号証および被告生駒織物株式会社代表者本人尋問の結果中、右各認定に反する部分は、前記各証拠に照らして採用できず、他に右各認定を左右する証拠はない。
そうすると、(イ)号は互に引懸けられるようになつている鉤止部材を備えた二個の支持体で形成された二個の可撓性部分を連結するフアスナーであると認めるべきである。
(2)、被告らは、本件特許発明のループは、脚を閉じた環状のループであることを要し、かつ、その支持体上における配列のしかたにも制限があると主張する。
しかし、前記甲第二号証によると、本件特許公報において、鉤に対応して設けられるべき鉤止部材は、「ループ」ということばをもつて特定されているにすぎず、
それ以外に、その形状を制限するような記載はなされていないことが認められるところ、原本の存在および成立に争いのない甲第一三、一四号証の各二によれば、
「ループ」ということばは、完全な円形のもののみならず、半円形に形成されたものをも含むことばとして、用いられていることが認められる。
そしてループが円形に形成されているか、半円形に形成されているかによつて、
本件特許発明のフアスナーの作用効果に何らかの消長を生ずると認め得るような事情も存在しない。
そうすると、本件特許発明のループは、完全な円形のものであることを要せず、
半円形のものでも足りるというべきである。
また、前記甲第二号証によれば、本件特許公報中には、支持体上におけるループの配置状能について特に制限を設けるような記載はなされておらず、かえつて、ループの形状、配置を異にする実施例があり得ることを前提として、特許請求範囲の付記の記載がなされていることを認めることができる。
従つて、本件特許発明のループは、その配置について、被告ら主張のような制限を受けるものとは認められない。
前記乙第二号証、乙第七、八号証および被告生駒織物株式会社代表者本人尋問の結果中、右認定に反する部分は採用できない。
そうすると、(イ)号に備えられた彎曲橋状のループは、本件特許発明のループに該当するといわなければならない。
(3)、本件特許発明における鉤と(イ)号のキノコ型小片 原告は、本件特許発明の鉤は、ループと引懸りあうことによつて二個の支持体を結合し弾性変形によりループとの係合から離脱することによつて両支持体を分離するという機能を有するものであれは足り、その形状、材質、製造方法等についてなんの制限もなされていないから、鉤は(イ)号のキノコ型小片を含むと主張するに対し、被告らは、鉤は本件特許公報に記載された先端部が曲折した形状のものに制限されると抗争するので判断する。
本件特許の特許請求の範囲の記載によつても、「鉤」はループを引つ懸ける機能を有するものとして鉤止部材に採用されたものであることは、容易に推認てきるところであるが、本件特許公報(甲第二号証)の図面に、鉤として先端が彎曲した形状のものが示されてあるほか、発明の詳細な説明中にも鉤の形状あるいは部材につき特別の説明がないから、特許請求の範囲に記載の「鉤」の意味ないしその形態については、普通当業者が理解する範囲内において定めるべきである。
成立に争いない甲第四号証の二(【A】著字源)に、鉤は、かぎ、物を引きかけるに用うるものとある。 また成立に争いない甲第五号証の二(【B】外二名著漢和大辞典)には、鉤のところに、句の音を表わし、まがるの意、金属を曲げてひつかかるようにしたものなどと解説されている。鉤がひつかかるようにしたものであることについては異論はないであろうが、反対に、およそひつかかる部分を具えたものをすべて鉤ということができないことは勿論である。キノコ型小片にひつかかる部分が具つているからと言つて、これを一般には鉤とは称しないであろう。
しかしながら、成立に争いない甲第八号証によると、本件特許の優先権主張の日より前である昭和二九年五月十一日特許庁資料館受入のスイス特許第二九五六三八号は本件特許の出願人ベルクロ、ソシエテ、アノニムの出願にかかる、結合装置(Dispositif d’accrochage)についての特許であるが、
これには結合装置の部材として先端の屈曲した鉤と鉤を対向的に各支持体に備え互に引懸けて結合する装置をその第二図に示ほか、第四図に膨み部分を有する突起(キノコ型小片に類似)を対向的に各支持体に備え、互に嵌合させて結合する装置を図示したうえ、面と面を結合する装置の実施例として後者のような方法も可能であることを開示していることが認められる。そうすると、面と面と結合するフアスナーの結合の方法として、互に引懸けるようになつている鉤止部材を用いるものと二つの鉤止部材を嵌合せしめるものとがあり、両者は結合の原理としては異るとしても、フアスナーにおける支持体の結合装置としては、むしろ同種の技術分野に属し判然区別せられているものではないことが推認される。
そして、(イ)号においてキノコ型小片がループを引懸ける機能を有するものとして採用せられていると認むべきことは既に認定したところがら明らかである。
以上の事実によると、本件特許の優先権主張日当時、当業者が本件特許公報により、本件特許発明を識るときは、本件特許発明はその鉤をキノコ型小片のものに置換しても同効であることを格別の研究をしなくても容易に推考しるところであると推認することができるから、(イ)号におけるキノコ型小片は本件特許発明における鉤と均等手段を用いるものであると認めるのが相当である。
(4)、なお、被告らは、(イ)号の鉤止部としてポリプロピレン製のキノコ型小片を用いるようにした点およびのフアスナー用の布地にメリヤス編みを用いてジグザグに配設された彎曲橋状のループを作成し得た点において、(イ)号は、本件特許発明とに全く異なる発明を構成すると主張する。
しかし、仮りに右の点に発明性があるとしても、それは本件特許発明によつて開示された鉤またはループについて新たな製造方法を開発したというに止まり、面と面とを結合するフアスナーに関し、本件特許発明のものと異なる技術思想を開発したものと評価し得ないものであることは明らかである。
(5)、また、被告らは、(イ)号が、本件特許発明のフアスナーにくらべて、よりすぐれた作用効果を有すると主張するけれども、右主張は、次に述べるとおり、
いずれも前記認定を左右するものではない。
(イ)、被告らは、(イ)号のキノコ型小片は、あらゆる方向のループに係合し得るから、両支持体の結合力を大ならしめることができると主張する。
しかし、一方向のループと係合し得るにすぎないか、あらゆる方向のループと係合し得るかの相異は、本件特許発明の鉤と(イ)号のキノコ型小片との本質的な差異と認められないことは、前に認定したとおりであるから、右の差異に基づく係合力の相異をもつて、本件特許発明とは異なる(イ)号に特徴的な作用効果と認めることはできない。
(ロ)、被告らは、(イ)号は、キノコ型小片とループとの絡みあいによつて結合するようにされているから、本件特許発明のものより薄いフアスナーを得ることができると主張する。
しかし、(イ)号のキノコ型小片とループも、本件特許発明のフアスナーにおけると同様、互に引懸かりあうことによつて両支持体を結合するものであることは、
前記認定のとおりであるから、右主張は、その前提を欠くものというべきである。
(ハ)、被告らは、(イ)号には、ループが、ジグザグ状に、起毛的に密生しているから、本件特許発明のフアスナーよりも係合力が強いと主張する。
しかし、本件特許発明のループは、その配列について何の制限をも受けるものでないことは、前記のとおりであり、「密生」といつても、「多数のループを備える。」という本件特許発明の構成要件と異なるものとはいえないから、右の差異に基く係合力の相異をもつて、(イ)号が本件特許発明とは別個の技術であると認めることはできない。
第五、以上認定したところによれば、(イ)号は、本件特許権の権利範囲に属するものであり、(イ)号を、製造、販売等する被告らの行為は、原告の本件特許権を侵害するものというべきであるから、右侵害行為の差止および右侵害行為を組成した(イ)号の廃棄を求める原告の請求は理由がある。
よつて、原告の請求を認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条93条1項本文を適用し、仮執行宣言は相当でないと認めるのでこれを付さないこととして、主文のとおり判決する。
別紙(一)<11539-006><11539-007><11539-008><11539-009><11539-010><11539-011><11539-012><11539-013><11539-014><11539-001><11539-002><11539-003>別紙(二)目録分離自在のファスナー 第一図は被告等の製品を示する斜視図であり、第二図は第一図のX―X断面における両支持体AおよびBの対向面の両鉤止部材を示し、第三図は第一図のY―Y断面における両支持体AおよびBの対向図の両鉤止部材を示するものである。
被告等の製品は、二枚の布製支持体AおよびBからなり、一方の支持体Aの表面に多数の鉤止部材1を備え、他方の支持体Bの表面に多数の鉤止部材2を備え、該鉤止部材1と2とを係合するようにした布製フアスナーである。
この布製フアスナーにおける一方の布製支持体Aの表面に備えられた鉤止部材1は合成樹脂材料のモノフイラメントをその両端が表面に突出すように織込みその突出部の先端にキノコの傘形の膨頭部形成してなるキノコ型の小片であり、
他方の支持体Bの表面に備えられる鉤止部材2は合成樹脂材料のマルチフイラメントからなるジグザグ状に配列して形成した多数のループを分繊し支持体表面に群生するようになした細い繊維からなるループである。
<11539-004><11539-005>
  • この表をプリントする