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関連ワード 技術的範囲 /  均等 /  考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  物品 /  拒絶理由 /  先行技術 /  実施例 /  公知技術 /  設計変更 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 42年 (ネ) 450号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1969/08/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
訴訟費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
控訴代理人は、「一原判決を取り消す。二被控訴人は、原判決別紙図面および説明書記載の組立式透明ケースを製造または販売してはならない。三被控訴人は、控訴人に対し、金一七五万円およびこれに対する昭和四一年九月一日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員の支払いをせよ。四訴訟費用は、第一、二審とも、被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠の関係は、つぎに記載したものを加えるほか、原判決の事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一 控訴代理人の主張(一) 本件実用新案における考案の要部等について。
(1) 被控訴人は、本件実用新案に関し、蓋および側壁については出願前から同種のものが存在し公知となっているので、考案の要部は、底板の突周縁を物品を入れるに足る十分な高さを有するように形成して底板を容器状にし、これに直接蓋を冠着して小物入れとしても使用できるようにしたところにあると主張する。しかし、側壁については、従来の折りたたみ式のものは、いずれも断面が矩形であって二つ折りしかできなかったのに対し、本件実用新案にあっては、断面を正方形にし、これを伸縮の余裕のある柔軟皮膜でつなぐことにより四つ折りとして側壁一辺の幅に折りたたむことができるようにしたもので、本件実用新案における「前後に自由に反転する」というのは、まさにこの意味にほかならない。そして、この点が本件実用新案の考案の中心である。被控訴人の右主張は、この点を故意に看過し、
実用新案登録請求の範囲には何らの記載のない物入れの点をとりあげてこれを要部としているものであって、その誤りであることは明らかである。
(2) また、本件実用新案は、その登録に至る過程において、当初、側壁の構成については昭和三七年実用新案出願公告第六、九六四号公報を引用し、底板の構成については昭和三七年実用新案出願公告第二〇、七六四号公報を引用しての拒絶理由通知を受けたけれども、右のうち、底板の構成については、本件実用新案と右引用後者のものとは正方形と矩形のちがいがあるだけで他はまったく同一であるが、
側壁の構成が異なるところから、本件実用新案は、結局、登録となったものである。この点からみても、その考案の要部は側壁にあることは明らかであり、もし、
被控訴人のいうように先行技術を実用新案登録請求の範囲の記載から除去するとすれば、底板の構造についての部分がまず排除されるべきであり、本件考案は側壁についての考案ということになるのである。
(3) さらに、本件のように蓋と、側壁と、底板との組合せよりなる実用新案において、その各部分を取り出し、その部分は公知であるが故に権利としての意味がないと論ずることは、実用新案の解釈として正しい態度ではない。なぜならば、その構成部分のいずれもが公知である場合には、権利としての意味を有する部分がないことになり、無効審判を経ずして権利は無効とされてしまうからである。したがって、実用新案と侵害品を対比する場合の便法として部分、部分を対比することは許されるとしても、実用新案権の内容、範囲の判断にあたっては、あくまでも、実用新案登録請求の範囲の記載を基礎としなければならないのである。
(二) 被控訴人の製品における底板の突条について、
被控訴人の製品における底板の突条の内側の高さは約一・四ミリメートルであるが、内側底部はたわんでおり、中央部におけるたわみの深さは、角一五号については常時二・三ミリメートル、角二四号にあっては常時二・八ミリメートルあり、中央部に力を加えた場合には、角一五号については八・八ミリメートル、角二四号にあっては一一・二ミリメートルまでたわみうる。したがって、底板は小物入れとしての十分の深さを有し、その突条は、小物入れとして使用するに十分の高さを有するものである。
(三) 損害賠償請求について。
かりに、控訴人および訴外Aが原判決請求の原因六記載のような(なお、訴外株式会社喜世商店は、昭和四一年三月一日商号を「株式会社フロンティア喜世」と変更した。)製造販売をしていなかったとしても、控訴人および訴外Aは、実用新案権者として、本件実用新案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の金銭を、自己の損害として請求することができる。
しかして、その額は被控訴人の売上高の一〇%であるので、控訴人は、一七・五カ月分の損害賠償として金一七五万円を請求する権利を有する。
二 被控訴代理人の主張(一) 本件実用新案における中空突周縁の構造等について。
本件実用新案の一構成要素である底板に形成された中空突周縁については、本件実用新案登録請求の範囲の記載においてその高さを限定する文言はないが、その考案の目的からして、必然的にその高さには上下の限界があることは明らかである。
すなわち、その突周縁がその外側によって側壁を支える目的を有するものである以上、それを支えるに足るだけの高さを必要とすることは当然である。その高さは容器自体の大きさによって差異はあるが、本件考案が人形、かつら、造花、菓子等の容器に関するものであることから考え、少なくとも一・五センチメートル以上を必要とすることは明らかである。そうだとすれば、その突周縁の内側は少なくとも深さ一・五センチメートルの凹所となるのであって、側壁を取り去って小物入れとして使用することができるのである。実用新案の構造の類否を判断するにあたっては、その構造を結果した目的、作用効果を考慮すべきものであるが、本件実用新案においては、その明細書考案の詳細な説明に、「本考案は人形、かつら、造花あるいは菓子類などの容器として使用し、または側壁5を取除き蓋7を直接底板1に冠せて小物入れとしても使用できるものである。このように本考案では側壁5を使用すると否とで二様に使用できるばかりでなく……」と説明していることによって明らかなように、側壁を取り去って蓋を底板に直接冠せて小物入れとして使用できる効果が重要な要素をなしているのであって、このような作用効果は、底板の中空突周縁がその外側において側壁を支持する高さを有すると同時に、その内側が容器としての深さを有することによって生ずるのである。すなわち、本件実用新案登録請求の範囲でいうところの「中空の突周縁」とはそういう形状のものをいうのであるが、被控訴人の製品にはそのような中空突周縁は存在しない。被控訴人の製品の底板にあるのは、補強用の突条に過ぎず、それは本件考案の蓋に施されている補強突条と同じものである。本件実用新案登録請求の範囲において、蓋の四周に形成された隆起部については「補強突状」という用語を使用しているのに対し、底板の隆起部については「中空の突周縁」という異なる用語を使用していることによっても明らかなとおり、両者はその目的が相違することによってその形状も異なるのである。すなわち、被控訴人の製品は「揚げ底」の四周によって側壁を支持しているのであって、揚げ底の四周に設けられた突条は、蓋のそれと同様に、揚げ底を補強する目的しか存しない。これに反し、本件考案における中空の突周縁は補強の目的は全然なく、前記のように側壁を支持することと内側を物入れに使用することの二様の目的を有するのであって、その形状も必然的に異なるのである。
(二) 被控訴人の製品における底板の突条等について。
被控訴人が製造販売している人形ケースの種別としては、ケース底部の一辺の長さが、それぞれ一五センチメートル、一八センチメートル、二一センチメートル、
二四センチメートル、三〇センチメートルのものがあるが、底部の補強用突条の高さは、いずれのものでも、一様に一ミリメートル程度となっている。この点からみても、右突条が、補強の目的だけのためのものであることは明らかである。また、
控訴人は、被控訴人の製品が小物入れにも使用できるとして、底部中央部のたわみを主張しているが、それがビニール製品である以上、底板の中央部にたわみが全然ないとはいいきれないが、それは、あってもせいぜい一ミリメートル程度に過ぎない。
また、中央部に圧力を加えれば、たわみがある程度深くなることは考えられるが、小物入れに使用する場合にそのような力が下方に向かって加えられることはありえないのである。すなわち、小物を無理に沢山入れようとすれば、その力は逆に上に向かって蓋を押し上げる作用となって働くのであって、力によるたわみを持ち出すのは本件の場合無意味である。被控訴人の製品の底板の補強突条の高さは一ミリメートル程度に過ぎず、中央部の自然のたわみを加えてもその深さは二ミリメートル程度に過ぎないのであって、その底板は容器としての形状を具えていない。
(三) 控訴人の均等の主張に対して。
控訴人は、被控訴人の製品の底板の補強突条が本件考案における中空突周縁の設計変更に過ぎないものであるかのような主張をしているが、これは、考案における技術思想を無視した立論である。本件考案は、一枚の薄い合成樹脂製の板にプレス加工して突周縁を形成する方法によっているため、その突周縁は技術上必然的に中空となるのであって、突周縁を形成する目的は、その突周縁の高さが外周において側壁を支持すると同時に、その内周には側壁を利用しなくても底部との間に物を容れるに足るだけの空間が形成されるというところにあるのである。被控訴人の製品は、揚げ底の思想であり、揚げ底の四周によって側壁を支持する技術思想によるものであって、右製品には、側壁を取り去って揚げ底の上部を物入れに使用するという思想は全然ないのである。ただ、この揚げ底を補強するため、一ミリメートル程度の高さを有する補強突条を設けているが、それはあくまで補強の目的に過ぎず、
本件考案にいう中空突周縁とはまったく異なるものである。要するに被控訴人の製品は、その底板形成の技術思想において本件考案とは異なる揚げ底の思想に立つものであり、その形状の相違は単なる設計変更でないことは明らかである。
三 証拠関係(省略) 理 由一 控訴人の夫訴外Aが本件実用新案権を有していたところ、控訴人が昭和四〇年一一月八日同訴外人からこれを譲り受け、同年一二月二〇日その登録を経たこと、
および、本件実用新案の実用新案登録請求の範囲の記載が控訴人主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。
二 右争いのない実用新案登録請求の範囲の記載および成立に争いのない甲第二号証によれば、本件実用新案は、
(イ) 任意の合成樹脂を用いた比較的硬質の板を型打ちして四周に中空の突周縁を形成した底板(ロ) 同質の板に柔軟皮膜を高周波接着して接続した前後に自由に反転する四枚の側壁(ハ) 同じく透明板を型打ちして四周に補強突条を形成した蓋の三者を備え、(イ)の底板に(ロ)の側壁を嵌合し、これに(ハ)の蓋を冠せることを必須の要件とする組立式透明容器にかかるものであることが明らかである。
三 ところで、被控訴人は、右(イ)の底板における中空突周縁が、それによつて囲まれた凹部に物品をいれることができる程度の高さを有することが、本件実用新案の必須の要件である旨主張するので、以下この点について判断する。
(一) 前記実用新案登録請求の範囲の記載中には、右中空突周縁について、底板の構造を「任意の合成樹脂を用いた比較的硬質の板を型打して四周に『中空の突周縁』を形成した底板」としているなかに、右のように「中空の突周縁」であることが示されているだけで、それ以外に高さその他の限定は記載されていない。しかし、前記二で認定した本件実用新案にかかる組立式透明容器の構造自体からすでに、右中空突周縁の外側はその(ロ)の側壁を支えるに足りるだけの高さを有していることを必要とすることが明らかであるように、実用新案登録請求の範囲に単に「中空の突周縁」とあるのみであるからといつて、ただちにその高さ等について何らの限定もない趣旨であるとすることはできないのであつて、本件実用新案の目的とするところを達成し、その作用効果を得るために右中空突周縁が当然有すべき構造上の限定は右請求の範囲の記載における「中空の突周縁」というの内容をなすものというべく、したがつて、本件実用新案の必須の要件であるといわなければならないのである。
(二) そこで、本件実用新案の有する作用効果についてみるに、前記甲第二号証によれば、本件実用新案の明細書考案の詳細な説明の項には、その作用効果として、まず、「……本考案は人形、かつら、造花あるいは菓子類などの容器として使用し、または側壁5を取除き蓋7を直接底板1に冠せて小物入れとしても使用できるものである。」との記載があり、続いて、「このように本考案では側壁5を使用すると否とで二様に使用できるばかりでなく」とあつて、その後に、側壁を取り換えることにより高さを自由に変えられること、側壁が前後に自由に折りたためるので収納保管に便利であること、側壁の接着線が一種の装飾となり蓋や底板の滑止めとなつて脱落を防止できること、という作用効果が記載されていることが認められる。以上の記載の内容とその順序によれば、側壁を取り除き蓋を直接底板に冠せることによつて小物入れとして使用できるということは、本件実用新案そのものの作用効果の一つとして挙げなければならないところというべきである(本件実用新案は、蓋、側壁、底板の三者を前記のように結合して構成された組立式容器にかかるものであるが、かような構成のものにおいて、この三者の結合による容器としての用途のほかに、右にみたように、この用途と選択的、並列的に――すなわち、特定実施例による附随的な効果としてではなく――、三者のうちの蓋、底板の二者のみの結合による別の用途もその作用効果として摘記されている場合に、この後者の用途をも本件実用新案の不可欠の作用効果となすべきことはいうまでもないところである。)。
(三) 右のとおり、側壁を取り除き蓋を直接底板に冠せることによつて小物入れとして使用できるということは、本件実用新案にとつて欠くことのできない作用効果というべきところ、本件実用新案における前記二認定の構造からすれば、右の作用効果をあげるためには、その(イ)における「中空の突周縁」は必然的に、それの内側によつて囲まれた凹部に小物を入れることができる程度の高さを有していなければならないことは明らかであるから、前記(一)で説示したように、「中空の突周縁」が右の高さを有することは、本件実用新案の必須の要件であるといわなければならない(附言するに、これによつてみれば、本件実用新案は、以上のように、底板に――小物入れとして――蓋を結合しうるように構成した底板、側壁、蓋の結合による組立式容器であるというべく(これが「実用新案登録請求の範囲」の記載に基づいて定められる本件実用新案の技術的範囲である。)、右のような意味で底板と蓋との結合をとりあげることが、ただちにこの結合と底板、側壁、蓋の三者の結合にかかる本件実用新案の考案との矛盾を来すとなすべきでないことはいうまでもない。)。
(四)そしてまた、(い)いずれもその成立に争いのない乙第六、七号証および当審証人Bの証言によれば、本件実用新案の出願前である昭和三二、三年ごろから、
合成樹脂で作られた組立式のデコレーシヨンケーキの箱で本件実用新案のものと同様の構成により前後に自由に反転する側壁を備えたものが訴外三進加工株式会社によつて製作され、広く販売されて公知となつていたことが認められ、つぎに、
(ろ)被控訴人の昭和三四年頃の製品であることに争いのない検乙第四号証および当審証人Cの証言によれば、本件実用新案における前記(ハ)の蓋と同様の構造を有する蓋が、本件実用新案の出願前に、被控訴人によつて組立式透明容器に使用され、販売されて公知となつていたことが認められるのであつて、右(い)、(ろ)の認定によつてみられるように、本件実用新案における前記(ロ)の側壁および(ハ)の蓋の構成は、いずれもその出願前公知のものであつたことからすれば、本件実用新案におけるいわゆる要部は、被控訴人主張のごとく(原判決答弁二の項参照)、底板の構造にこれを求めざるをえないのであつて、すなわち右(三)の判断は、既存公知技術との関係からも支持されるところというべきである。
控訴人は、本件実用新案の出願前にあつた折りたたみ式容器においては、いずれも側壁の断面が矩形であつて二つ折りしかできなかつたのに対し、本件実用新案においては、その断面を正方形にし、「前後に自由に反転」して四つ折りにすることができるようにしたもので、これが本件実用新案の考案の中心をなすものであるとか、また、本件実用新案の登録に至る過程において、底板の構成については昭和三七年実用新案出願公告第二〇、七六四号公報記載のものと特段の差異はないが、側壁の構成が当初拒絶理由に引用された昭和三七年実用新案出願公告第六、九六四号公報記載のものと異なるところから登録されたものであつて、この点からも考案の要部は側壁にあることは明らかであると主張して、前記(三)の判断に反し、本件実用新案にとつて、底板の構造のごときは問題外であるとする要旨をいうもののごとくであるが、かかる主張は、前記(い)の認定にてらし、すでにその前提において失当というのほかはない(なお、昭和三七年実用新案出願公告第二〇、七六四号公報との関係につき一言するに、成立に争いのない甲第六号証によれば、右公報に記載されたものは、組立式でなく側壁を有しない容器であることが認められるから、これによつてただちに側壁を有する組立式容器にかかる本件実用新案の底板がとくに新規なものでないとする根拠とするには足りず、もとより前記判断の妨げとなるものではない。)。
なお、控訴人は、実用新案を構成する各部分を取り出して、その部分は公知であるが故に権利としての意味がないと論ずることは許されないとして主張するところがあるが、実用新案の構成要件の内容を確定するうえにおいて、各要件が公知であるか否かを考慮することが許されないとする理由はない。
四 つぎに、被控訴人が原判決別紙図面および説明書記載の透明ケースを製造販売していることは、当事者間に争いがないところ、右図面および説明書によれば、被控訴人の右製品は、本件実用新案における前記(ロ)と同一の側壁および(ハ)と同一の蓋を有し、右側壁を底板に嵌合し、これに右蓋を冠せてなる組立式透明容器であるということができる(このことは被控訴人も認めるところである。)。そして、右の底板についてみれば、これは比較的硬質の合成樹脂板を型打ちして形成されたものである点で、本件実用新案における前記(イ)の底板と同じであるが、ただ、後者において型打ちによつて中空の突周縁が形成されていると同一の箇所に前者では同じく型打ちによつて形成された突条2がある点で両者は異なつている。
そこで、前者における右の突条2を有する底板が後者における中空の突周縁を有する底板と同一ないしは均等といいうるかどうかの点について判断する。成立に争いのない乙第一〇号証、いずれも被控訴人の製品であることに争いのない検乙第二号証および検甲第一、二号証に本件口頭弁論の全趣旨を合わせ考えれば、前記図面および説明書に記載された被控訴人の製品は、底板の一辺の長さが一五センチメートルないし三〇センチメートルであるのに対し、その底板における前記突条2の高さは、底板の周辺部からみて一ないし二ミリメートルに過ぎず、底板の中央部でいくらか下にたわんでいる所からみても三ミリメートル程度を出ないことが認められるのであつて、この底板に、右図面および説明書によつても明らかなとおり四周に補強突条6を形成したことにより天板部が底板と同様に下がつている蓋7を直接冠せた場合には、蓋と底板との間にはほとんど間隙がなく、とうていこれを通常の観念にいう小物入れとして使用することができないことは明らかであり、原審における控訴本人の供述および当審における証人Aの証言中右に反する部分は採用できず、他に右に反する証拠はない。そうすると、右突条2は、それによつて囲まれた凹部に小物をいれる程度の高さをその内側において有していないものであつて、本件実用新案の必須の要件である前記(イ)の底板における中空の突周縁の前記の高さを有しないものであるため、右中空の突周縁にあたらないものといわざるをえないから、被控訴人の前記製品における底板は、本件実用新案における前記底板と同一ではないものといわなければならず、また、右のとおり本件実用新案にとつて欠くべからざる小物入れとして使用できるという作用効果を有しない被控訴人の右製品における底板は、本件実用新案における前記底板と均等のものということもできない。
したがつて、被控訴人の右製品は、本件実用新案の必須要件を欠き、その技術的範囲に属しないものといわなければならず、いずれもその成立に争いのない甲第一、三号証の記載ならびに原審における控訴本人の供述および当審証人Aの証言中右と見解を異にする部分は、以上に説示したところにてらして採用できない。
五 以上のとおりであるから、被控訴人の右製品が本件実用新案の技術的範囲に属することを前提とする控訴人の請求は、その他の点について判断するまでもなく、
失当としてこれを棄却すべきところ、これと同旨に出た原判決は正当であつて、本件控訴は理由がないから、これを棄却し、控訴費用は民事訴訟法第95条本文、第89条により、控訴人の負担として、主文のとおり判決する。
裁判官 古原勇雄
裁判官 武居二郎
裁判官 楠賢二