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事件 |
昭和
44年
(ヨ)
2664号
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1969/08/27 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事仮処分 |
主文 |
本件仮処分申請を却下する。 訴訟費用は債権者の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
一、本件申請の趣旨ならびに理由は別紙記載のとおりである。 二、当裁判所の判断 債権者が登録実用新案第八一六九八四号の権利者であることは甲第二号証(実用新案公報)、同第三号証(登録証)により、債務者が別紙目録説明書ならびに図面に示す梱包材(以下イ号物件という)の製造販売等の行為をしていることは債務者の審訊の結果、ならびにこれにより債務者の製品であることを認めうべき検甲第三、四号証によつて、いずれも疎明される。 しかし、右甲第二号証の本件実用新案公報によると、その登録請求の範囲には、 債権者主張のとおり 「ジユート麻、その他の布地、合成樹脂フイルム等よりなり、輪状物を収納し得る径を有する筒体1の端口部2より内方に向けて輪状物Aの内外径の差を分割した幅を有する裁ち落し部3を数個設け、該裁ち落し部3の夫々両端を縦方向に縫合して筒体1に小径分4と大径部5及び上下の傾斜部6、7を形成すると共に、前記口部2には鋼線8を封入し、他端口部9には伸縮性テープ10を縫着してなる輪状物の梱包材。」と記載してある。 右公報全体の記載ならびに甲第一号証(実用新案願書副本)によると、本件実用新案の出願人は、本件実用新案の考案につき、前記実用新案登録請求の範囲に記載の事項全部が考案の構成に欠くことができない事項であるとして明細書にこれを記載のうえ出願し、実用新案原簿に登録されたものであることが認められる。 債権者は、右登録請求の範囲の記載のうち、「ジユート麻その他の布地、合成樹脂、フイルム等の材質からなる輪状物を収納可能な径を有する筒体であつて、その一端口部に鋼線を封入し、他端口部に伸縮性テープを縫着する」点が本件実用新案の考案の主要部であり、その余はいわば従たる事項であるから、イ号が右主要部の事項を備えている以上、本件実用新案権を侵害するものであるという。 実用新案においても、相手方実施の物件が登録実用新案の構成要件の一部を欠くにかかわらず、侵害が成立すると判断される場合が絶無ではない。しかし、このような判断は出願当時における技術水準ないし公知事項などしんしやくするのはもちろん、慎重な審理をした上でなされるべきである。 工業所有権による差止めの仮処分は、明白に侵害の事実が認められ、かつ仮処分の必要性が疎明される場合にのみこれを認めるのが妥当であり、侵害の成立につき問題があり慎重な審理を経なければ判断できないような事案については被保全権利の疎明がないか十分でないと認めるのが相当であつて、このような場合に担保の提供をもつて疎明に代えるのは適当ではない。 本件においては、要するに、イ号物件が本件実用新案の構成要件を欠き、権利侵害の事実が明らかであるとは認めることができないから、被保全権利の疎明なきものと認める。 よつて、本件仮処分申請を却下すべく、訴訟費用の負担につき民訴89条を適用し主文のとおり決定する。 |
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追加 | |
(別紙)申請の趣旨債務者は、別紙目録記載の物件を製造販売または頒布してはならない。 別紙目録記載の物件の既製品ならびに半製品に対する債務者の占有を解いて、大阪地方裁判所執行官に保管を命じる執行官は右物件の使用、販売、頒布をできぬようにするため適当な方法をとらなければならない。 との仮処分命令を求めます。 申請の理由第一、(一)債権者は、ワイヤー、ワイヤーロープ等の梱包材につき実用新案登録第八一六九八四号の実用新案権を有する、右実用新案権の範囲は後記第二項記載のとおりであり、これを考案した経緯は次のとおりである。 (二)従来帯鉄、ワイヤー、ワイヤーロープ等を輪状に巻いた輪状物の梱包には細巾のジユート麻布(ヘツシヤンクロス)を、いわゆるゲートル巻きに一方から螺状に重ね巻きして端部を針金等で止着し、更に輪状の数個所を適当な帯鉄等で止めていたもので、この場合には巻き崩れを来たし易く、内部の輪状物を露出して損傷を与え易く、これを防ぐには部厚のジユート麻布を使用する必要があつた、又輪状物の外周より一枚状の細長い布を被せ全体を覆つて両側端を輪状物の内側に入れて内周で互に縫合する方法(風呂敷式)もあるが、之等何れの場合においても梱包に際しては非常に多くの手数を要するもので、例えばゲートル巻きの場合、輪状物の外径が六〇〇mm程度のものでは、経験者でも一個の梱包につき約六〇秒を要した。 (三)本考案は極めて簡単な操作で完全に包装しうる梱包材を製作できる方法で、ジユート麻、その他の布地、合成樹脂、フイルム等を材料とし、輪状物を収納し得る径を有する筒体(別紙図面第一図)の一端口部(2)より内方に向けて輪状物Aの内外径の差を分割した巾を有する裁ち落し部(第三図)を数個設け、その裁ち落し部の両端を縦方向に縫合して筒体(第一図)に小径部(4)と大径部(5)および上下の傾斜部(6)(7)を形成すると共に、前記口部(2)には輪状物の外径より小さく内径より大きい鋼線(8)を封入し、他端口部(9)にはゴムテープ等の伸縮性テープ(10)を縫着してなるものである。 尚前記小径部(4)の径は輪状物(A)の内径(C)と略々同じで、その長さは輪状物(A)の厚さ(t)と略々同じく、輪状物(A)の内側を覆うものである。 又鋼線(8)の封入側口部(2)の傾斜部(6)の長さは輪状物(A)の上下面巾(b)即ち内外径(c)(a)の差の二分の一より稍々短い程度に形成されるものである。 (四)本考案は右の如き構造を有し、これが使用法は縫着部分を表側にした状態で伸縮性テープ(10)の縫着側口部(9)から輪状物(A)の中央部へ通し、他方へ抜くと一方の口部(2)は内部に封入した鋼線(8)により拡張して輪状物(A)の上面部分に当接し、抜けることなく直下の傾斜部(6)が輪状物(A)の上面を覆つて止まり、之に引続く小径部は輪状物(A)の内部にあつてその内周面を覆い、大径部(5)との間の傾斜部(7)で輪状物(A)の下面を覆いながら伸縮性テープ(10)の縫着側口部(9)を輪状物(A)の外周へ引き上げ、大径部(5)にて輪状物(A)の外周および上面を被せて後、口部(9)を鋼線側の口部(2)より稍々内側まで被せると、内部の伸縮性テープ(10)によつて口部(9)は止定され(第五図及び第六図のように)梱包される。 右のようにして輪状物の梱包がなされるから、筒体の表側が表面に出て全体が被覆され、端部を針金等で止定するような必要はなく、特に輪状物の厚みが大なる時のみ上記の如く梱包した後に三個所程度を帯鉄でしばればよく、第一図の様に小径部の長いものはワイヤーロープ等を多量巻いてなる第五図の如き厚みの大きい輪状物の場合に適し、又第二図のように小径部が殆んど一線状の場合には第六図の様に厚みの小さい帯鉄の梱包に適するものであつて、何れも内部の輪状物を移動したりすることなく、内容物を完全に梱包保護することができる。しかも上記梱包操作が簡単であるから無経験者で例えば六〇〇mm外径のもので一二秒で完全に梱包しえるもので、梱包に要する人件費を大巾に削減し且つ本考案梱包材は安価に製産でき極めて経済的である等優れた実用的効果を有する。 第二、本実用新案権の範囲「ジユート麻、その他の布地、合成樹脂フイルム等によりなり、輪状物を収納しうる径を有する筒体(1)の一端口部(2)より内方に向けて輪状物(A)の内外径の差を分割した巾を有する裁ち落し部(3)を数個設け、該裁ち落し部(3)の夫々両端を縦方向に縫合して筒体(1)に小径部(4)と大径部(5)及び上下の傾斜部(6)(7)を形成すると共に、前記口部(2)には鋼線(8)を封入し、他端口部(9)には伸縮性テープ(10)を縫着してなる輪状物の梱包材)第三、債権者は多年工夫研究の結果右考案に達し、昭和三九年一一月二七日実用新案願、昭和四一年五月一四日特許庁実用新案公報に公告、昭和四一年一二月一五日登録第八一六九八四号をもつて登録せられた。次来債権者はこれが製造販売に専心し、昭和四三年末頃には月商約一九〇万円に達し、実用新案の考案試作ならびに権利獲得後の宣伝等に費した資金の償却の目途も立ち漸く営業として発展の見込を得たので同年一〇月二一日資本金一〇〇万円の栄パツキング株式会社を設立し、同会社をして実用新案権を実施せしめてきたところ昭和四四年初め頃より債務者は債権者が右実用新案権を有することを知りながら(以前に債権者より債権者製造にかかる商品を買いうけたことさえある)、右新案権の範囲に属する商品を自ら製造又は下請に製造させてこれを販売しはじめたので、債権者は債務者に対し或は直接或は第三者を介してこれが製造販売の中止方を求めたが、債務者はこれに応ぜず、ために前記会社の月商は約一三〇万円に低下している。そして最近にいたり、債務者は、「債権者の実用新案は『輪状物を収納し得る径を有する筒体の一端口部より内方に向けて輪状物の内外径の差を分割した幅を有する裁ち落し部を数個設け、該裁ち落し部の夫々両端を縦方向に縫合して筒体に小径部と大径部及び上下の傾斜部を形成する」ことが考案構成の必須要件であるに拘わらず債務者の製品は右の截ち落し部はなく、従つて筒体は小径部、大径部及び上下傾斜部のない単一径のものであるから、たとえ口部の口輪、締紐等一部類似する点があつても債権者の実用新案の技術範囲に属するものでなく、権利侵害にならぬ」と主張するに至つた。 しかしながら、債務者が債権者の実用新案の必須要件と主張する前記諸点は債権者の実用新案権の範囲に含まれるけれども、そのことから逆に、右の諸点を避けさえすれば債権者の実用新案権に牴触せぬ、といえないことはいうまでもない。債権者の考案の重点はむしろ、債務者が製造していると自認する「輪状物を収納し得る筒体の……口部には鋼線を封入し、他端口部には伸縮性テープを縫着してなる梱包材」という点にある。このことは本考案が従来のゲートル巻き又は風呂敷式による梱包の不便から脱するために工夫せられた前記経緯からみて明らかである(これに対し債務者が必須要件と主張する截ち落し等は輪状物の内部を覆う部分がその外部を覆う部分より寸法が小なるため、輪状物の内部を通す筒体の部分を細くするため截ち落すのであつて、考案の主要必須の構成部分を為すものではない)、現に債権者の実用新案登録以後債務者の製品と同じ考案について実用新案の出願を企てた第三者も一、 二に止まらないのであるが、何れもその許されないことを知つてあきらめた事実がある。 仍て債権者は自己の実用新案権を現に侵害しつつある債務者に対し、その侵害の停止を求めるため実用新案法第二十7条民訴第760条に依り本申請に及びました。 (別紙)イ号物件目録ジユート麻、その他の布地、合成樹脂フイルム等を使用し、輪状物を収納し得る径を有する筒体の一端口部に鋼線を封入し、他端口部に伸縮性テープを縫着してなる輪状物の梱包材。 <11558-001><11558-002><11558-003><11558-004> |
裁判官 | 大江健次郎 |
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