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事件 昭和 42年 (ワ) 7408号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1969/11/21
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第一、原告訴訟代理人は、「(一)被告は別紙イ号図面及びその説明書に記載の慶祝用砂糖を製造し、販売し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡もしくは貸渡しのために展示してはならない。(二)被告はその肩書地に存在する前項掲記の製品を廃棄せよ。(二)訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに右判決(一)、(二)項について仮執行の宣言を求め、請求の原因として次のとおり述べた。
一、原告は、訴外Aの有する左記実用新案権の範囲全部についての専用実施権者である。
登録番号 第七七一七二〇号考案の名称 砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖出願日 昭和三六年五月二〇日公告日 昭和三九年一二月一日(実公昭三九ー三五八六六号)登録日 昭和四〇年六月一七日二、右実用新案の願書に添付した明細書には、登録請求の範囲として次のとおり記載されている。
「二枚のポリエチレン紙2と3にて砂糖粒子1を被包し、型押しと同時にポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着させてなる砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖」三、本件実用新案の要旨は、砂糖粒子1を二枚のポリエチレン紙2、3で被包し、
この砂糖粒子1とポリエチレン紙2は貝類、魚類等に型どつて、ポリエチレン紙2、3の外周縁2′と3′とを密着した、砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖である。
前記明細書の登録請求範囲に記載された「型押しと同時にポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着させ」との文言は、要するに砂糖1とポリエチレン紙2とを貝類、魚類等に型どつたという技術手段と共に、上下のポリエチレン紙の外周縁2′と3′とを密着させたという技術手段を用いていることを表現したにすぎず、型押しと密着とを同時に行なうこと、真空密着包装技術を用いて密着すること等は本件実用新案にかかる考案の構成要件ではない。このことは、次に述べる理由によつて明らかである。
(一) 「同時」という言葉は、時間的意味のほかに「……であると共に」という意味にも用いられるから、登録請求範囲の記載の文理解釈上からも、型押しと密着とは必ずしも同一時期に行なう必要はないことが窺われる。
(二) 実用新案法によつて保護される考案は、物品の形状構造又は組合せに係るものに限られ、方法に係るものは含まれていない。実用新案法は、考案技術的範囲の認定もこの考え方を指導理念として行うべきことを要請している。従つて、
登録請求範囲の記載中「型押しと同時に……密着させる」というが如き製造方法に関する部分は、実用新案にかかる考案技術的範囲を定める資料となりうる適格性を欠くものであるから、右記載部分はこれを除外して考案の要旨を認定すべきである。
(三) 本件実用新案の明細書には、「考案の詳細な説明」の項に「即ち略言すれば……真空密着包装を応用することにより本考案が完成したのである。」との記載があるが、右記載は、本考案の主体である砂糖粒子1を二枚のポリエチレン紙2と3とで被包し、この砂糖粒子1とポリエチレン紙2とは貝類、魚類等に型どられ、
その二枚のポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着している技術状態に到達する過程を述べたものにすぎず、真空密着包装を応用すること自体が考案の構成に必要な事項であることを意味するものではない。
(四) 本件実用新案の奏する作用効果として、右明細書には「この慶祝用砂糖はポリエチレン紙をもつて全体が被包されるのであるが、型通りの凹凸を現はししかも内包される砂糖は粒子として存在するので指にて試みに押圧しても容易に慶祝用砂糖としのて形が崩れることなく、外観上は恰かも所要の型に固型化した砂糖が使用せられているように見えるに拘らず、被包するポリエチレン紙を除けば砂糖は直に崩れて使用に適する状態となり、そのまま純粋な砂糖を少量宛でも使用できる利便がもたらされる。」と記載されている。慶祝用砂糖がポリエチレン紙で全体が被包されているが、型通りの凹凸を現わしており、しかも内包される砂糖は粒子としての形骸を残しているのは、砂糖粒子1が二枚のポリエチレン紙2と3とで被包され、そうしてその砂糖粒子1とポリエチレン紙2とは貝類、魚類等に型どられ、その二枚のポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とが密着されていればこそである。右のような技術的因果関係は、本件実用新案の登録出願当時の技術水準のもとでは、たやすく想到しえなかつたものである。
以上によつて明らかなとおり、本件実用新案の構成要件は(1) 砂糖粒子1を二枚のポリエチレン紙2と3とで被包すること(2) 砂糖粒子1とポリエチレン紙2とで貝類、魚類等の型を現わすこと(3) 二枚のポリエチレン紙2と3との外周縁2′と3′とを密着させることの三点に尽きるのであり、右三個の要件の一体的結合によつて前記作用効果を奏しているのである。
四、被告は、現に別紙イ号図面及びその説明書に記載の形状、構造を具えた慶祝用砂糖(以下イ号製品という)を製造し、販売している。
五、イ号製品を本件実用新案と対比すると、イ号製品はその形状及び構造において、本件実用新案の前記(1)ないし(3)の構成要件を全部一体として具えており、ただ、下方のポリエチレン紙3に多数の小孔4を穿設している点が本件実用新案と異なつているにすぎない。そして、イ号製品の構成によつて生ずる作用効果は本件実用新案のそれと全く同一であつて、両者の間には何等の差異も認められない。
右のように、イ号製品は前記小孔4を穿設した点で本件実用新案と差異があるにしても、その構成の主要な点において全部一致しており、且つ本件実用新案と同一の作用効果を奏している以上、右構成上の差異は微差に過ぎないものであつて、イ号製品は本件実用新案権の技術的範囲に属するものといわざるをえず、被告の実施行為は原告の有する専用実施権を侵害するものである。イ号製品がいかなる工程によつて製造されようとも、右製造方法の如何が侵害の成否と無関係であることは実用新案の性質上明瞭である。
六、よつて原告は被告に対し、本件実用新案権の専用実施権に基づき、イ号製品の製造販売その他の実施行為の差止、ならびに侵害品の廃棄を求めるため本訴に及んだ。
第二、被告訴訟代理人は主文と同旨の判決を求め、答弁として次のとおり述べた。
一、原告が請求原因として主張する事実中、原告が本件実用新案権の範囲全部についての専用実施権者であること、右実用新案の願書に添付した明細書の登録請求の範囲の記載が原告主張のとおりであること、並びに被告が現に別規イ号図面及びその説明書に記載(但し、包装材料がポリエチレン紙である点を除く)の形状、構造を有する慶祝用砂糖(イ号製品)を製造し、販売していることは認めるが、その余の原告の主張は否認する。イ号製品は次に述べるとおり本件実用新案権の技術的範囲に属していない。
二、本件実用新案権の技術的範囲について(一) 実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことのできない事項のみを記載すべきものとされている。従つて、登録請求の範囲に現に記載されている事項は、考案の構成に欠くことのできない事項であると認めるべきである。原告は、本件実用新案の登録請求範囲の記載中「型押しと同時に……密着させ」とある部分は製造方法の記載であるから、右記載中傍点部分は考案要旨の認定に斟酌すべきではない旨主張するが、考案が実用新案登録を受けることができるかどうかの問題と、一旦実用新案登録がなされた考案技術的範囲を如何に認定すべきかの問題とは、判然これを区別して考案しなければならない。実用新案の対象として直接呈示されている考案が一応物品の形状構造又は組合せに係るものであつて、方法に係るものそれ自体ではないかのように見えるときでも、該考案の同一性を明らかにし、これに新規性をもたらす前提が、結果たる物品の形状構造又は組合せを実現するに至るその製造方法ないし成型方法に存するという場合には、出願審査の段階において多くの場合拒絶査定をなすべきものであるが、
一旦実用新案として登録された以上は、無効審判の手続によらない限りその権利を有効視して、その技術的範囲明細書の登録請求の範囲の記載に基づいて確定すべきである。しかも特許庁における実用新案登録出願に関する審査の実情によれば、
本来その特徴が方法にあつて、一見実用新案の対象となりうるはずのない性質のものでも、それが物品の形状構造又は組合せの形式をとつてくると、必ずしも拒絶されず容易に登録が認められているのであり、昭和二年実用新案出願公告第一〇四一九号「砂糖祝餅」、実用新案出願公告昭和三七年第一七〇五四号「浴槽」、昭和三七年第一七三〇九号「洋服用彎曲芯」等は、その好個の例証である。
(二) ところで、本件実用新案の登録出願時において、硫酸紙、強靭紙又はビニールもしくはポリエチレン等の合成樹脂製シートを包装材料として砂糖あるいは菓子を被包し、花鳥、魚類等の形状に型押しして包装する技術は公知であり、右公知技術によつて包装された砂糖も、その外形は所望の形状を保持しながら、使用に際しては単に包装を破るだけで簡単に砂糖粒子を得ることができたのである。本件実用新案は、少なくとも「砂糖粒子を固形化せず粒子状態で、しかも表面は特定の型どおりの凹凸を保持し、外観上は恰も固形化した砂糖が用いられているように見えるにも拘らず、被包を除けば砂糖を粒子のまま取り出し使用できる」という作用効果を得ることを目的とし、これを実現する手段として「二枚のポリエチレン紙をもつて砂糖粒子を被包し、特定形に成型して包装する」との方法を採る限りにおいては、従来の技術水準を一歩も出るものではない。本件実用新案の出願人も、明細書考案の詳細な説明の項に「本考案は二枚のポリエチレン紙2と3にて砂糖粒子1を被包し、型押しと同時にポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着させてなる砂糖粒子を使用し貝類、魚類の型を現わした慶祝用砂糖に関するものである。即ち略言すれば砂糖粒子を固形化させる程の加圧をせずに所要の外形のものを得るために型4と5を用いた真空密着包装を応用することにより本考案が完成したのである。」と記載し、真空密着包装を応用することにより、「型押しと同時にポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着させ」ることができる点に考案新規性が存することを強調しているのである。本件実用新案が登録された所以は、
「型押しと同時に真空密着包装を応用して上下のポリエチレン紙の外周縁を密着させる」との成型過程における方法に、公知技術に比し著るしい改良が認められ、これと公知部分との結合に新規性ありと認められたからにほかならない。従つて、右成型過程における方法は、本件実用新案の著るしい特徴であると共に、その製品である慶祝用砂糖の形状、構造を限定するものというべきである。
(三) 以上に検討した結果に基づいて本件実用新案の技術的範囲を確定すると、
本件実用新案の考案要旨は、「二枚のポリエチレン紙2と3で砂糖粒子1を被包し、型押しと同時に真空密着包装を応用してポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着させてなる、砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖」と認定すべきである。
三、イ号製品の特徴についてイ号製品は(1) 水約三ないし五%を加えて攪拌し粘りを持たせた砂糖を、予め鯛、鶴等の木型にて型押成型し、
(2) これを多数の小孔を穿設した多孔塩化ビニールシートの上面に載置し、
(3) 融着可能な程度に加熱軟化した無孔塩化ビニールシートで型押成型後の砂糖の上部を覆うと同時に、前記多孔シートの小孔から上下シート間の空気を取引排除して減圧し、砂糖表面の型押しされた形状を保ちながら上下シートの残余部分を一体的に融着させるとの型押成型工程を経て製造されるものであり、右工程こそイ号製品の形状、構造を限定し、特徴づけるものである。
右のように、型押成型する際に砂糖に水を加えて粘りを持たせているため、出来上つた製品は木型どおりの凹凸を正確に保持しており、非常に美麗である。その反面、砂糖に水を添加したことと減圧吸引包装を行なう際全体が加熱されることにより、表面の砂糖粒子が軟化して融合状態となり、続いて脱水現象を惹起し、成型砂糖はやや固形化することを免れない。また、多孔下敷シートには多数の小孔が穿設されている関係上、上下シート内に空気及び湿気が流出入し、長期間保存するときは砂糖粒子が湿気を帯びて小塊状になるという欠点がある。
四、イ号製品と本件実用新案との比較(一) 両者は、上下二枚の合成樹脂シート間に砂糖を被包して貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖である点においては共通しているが、この点は前述のとおり本件実用新案の登録出願前から公知に属するところである。
(二) イ号製品は本件実用新案の考案構成上最も重要な「型押しと同時に、真空密着包装を応用して、ポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着させる」との要件を全く欠いている。本件実用新案においては、砂糖粒子を固形化させる程加圧せず所要の外形を得るために、型4と5とを用いた真空密着包装を応用して、
型押しと包装とを同時に行なうものであるのに対し、イ号製品は包装するに先立つて予め木型を用いて砂糖を成型しておくのであり、この点において両者の間には本質的な差異がある。
(三) 加えて、本件実用新案におけるポリエチレン紙2、3はいずれも気密性を有するものであるが、イ号製品における下敷シート4は、多数の小孔が穿設されているため気密性を有しない。本件実用新案は真空密着包装を用いる限り、その技術的要件としてポリエチレン紙2、3は気密性を備えていなければならず、有孔シートを用いる余地は存しない。この点においてもイ号製品は本件実用新案の構成要件を欠いている。
(四) 本件実用新案は、真空密着包装による包装方法を採用し、且つ包装材料たるポリエチレン紙は完全に気密性を有するところから、内包される砂糖は粒子として存在し、外観上は恰も所要の型に固形化した砂糖が使用されているように見えるに拘らず、被包するポリエチレン紙を除けば砂糖は直ちに崩れて使用に適する状態となり、そのまま純粋な砂糖を少量宛でも使用できる使用効果を有しているのに対し、イ号製品は前述のように製造の際すでに砂糖の表面が固形化し、また製品の保存中に砂糖が吸湿して小塊化するという欠点があり、本件実用新案のごとき作用効果は、イ号製品には到底これを期待することができない。
五、以上を要するに、イ号製品は本件実用新案権の権利範囲外の製品であり、被告の実施行為は何等本件実用新案権、従つてまた原告の有する専用実施権を侵害するものではないから、本訴請求は失当である。
第三、証拠(省略) 理 由一 原告が訴外Aの有する登録第七七一七二〇号実用新案権(考案の名称、砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖、出願日昭和三六年五月二〇日、公告日昭和三九年一二月一日、公告番号実公昭三九ー三五八六六号、登録日昭和四〇年六月一七日。以下単に本件実用新案という)の範囲全部についての専用実施権者であること、右実用新案の願書に添付した明細書には実用新案登録請求の範囲として「二枚のポリエチレン紙2と3にて砂糖粒子1を被包し、型押しと同時にポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着させてなる砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖」と記載されていること、被告が現に砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖を製造し、販売していること、
被告の右製品(イ号製品)は、その包装材料がポリエチレン紙である点を除き別紙イ号図面及びその説明書に記載の形状、構造を具えていること、以上の事実はいずれも当事者間に争いがなく、被告の製品であることにつき当事者間に争いのない検甲第一号証、検乙第一号証の各慶祝用砂糖を検すれば、イ号製品に用いる包装材料は塩化ビニールシートであることが明らかである。
二 原告は、イ号製品は本件実用新案の技術的範囲に属し、その実施行為は原告の専用実施権を侵害する旨主張し、被告はこれを争うので、まず本件実用新案の考案要旨について検討する。
(一) 右登録請求範囲の記載と成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)中の図面及び「考案の詳細な説明」の項の記載とを照合すると、登録請求範囲の記載中「型押しと同時に……密着し」とある部分は、明らかに本件考案にかかる製品の形状、構造を実現する方法に属する事項を記載したものであるといわざるをえない。原告は、右方法に関する記載部分は考案要旨の認定にあたりこれを除外すべく、斟酌すべきではない旨主張する。
実用新案法の保護する考案物品の形状構造又は組合せにかかるもの、換言すれば製品自体のうちに空間的に表現せられた技術思想であるから、登録請求の範囲の項には、考案物品の形状構造等に関する事項のうち、必須の構成要件のみを記載すべきことはもちろんである。しかるに、出願人は往々にして登録請求の範囲に、物品の外形、機械的構成を端的に表現しないで、むしろそれを実現するための実施方法ともいうべきものを織り込んで記載することがあるが、登録請求の範囲に一部このような方法に属する記載がみられる場合でも、登録請求の範囲の記載が全体としてみれば物品の形状構造又は組合せにかかる考案であり、考案の目的、作用効果、出願時における公知例等に照らして右方法に関する記載部分の実質的意味を考究すれば、登録請求の範囲の記載が、右方法に関する記載部分を除外してもなお新規な考案を構成していると認められるときは、右方法の記載部分は、畢竟考案の構成には必要ではない実施方法に言及したに過ぎないから、考案構成の必須要件からはこれを除外するのが相当であると解しうる余地があるが、もしその方法に関する記載部分を除けば考案として完成しないか、又は考案として新規性を欠くと認められるときは、右方法に関する記載は、その方法を用いた結果得られる物品特定の外形あるいは機械的構成を技術手段として表示したものと解し、これを考案構成の要件の一に算えるべきである。
(二) 本件考案が、全体としてみれば、慶祝用砂糖の形状及び構造に関するものであることは、本件実用新案公報全体の記載に徴し一点疑を容れないところである。
そこで、進んで、前掲登録請求範囲の記載中「型押しと同時に……密着し」とある部分のもつ実質的意義を探究するため、先ず本件実用新案出題当時の技術水準について考察する。
成立に争いのない乙第一ないし第三号証によれば、(イ)「硫酸紙その他適当の包装資料にて砂糖を被包し楕円形その他適当の祝言用餅形に圧搾し包装資料の接合部にレツテル紙その他封紙を貼付して成る砂糖祝餅」、(ロ)「上部は花鳥、魚類、草木等の動植物形に形成すると共に該部にこれに適合する印刷を施した和紙等の強靭紙或いはビニール又はポリエチレン等の合成樹脂製シートにて被覆せられ、
且つ下部は台盤状に形成した覆片内に圧入充填した砂糖を有し、且つ覆片内の下部に台板を設けると共に覆片の端部を捻回又は貼着等の手段によつて適当に封鎖して成る成型砂糖」、(ハ)「有孔シートを下敷とし、無孔シートを上敷として菓子を包装し、有孔シートの小孔を閉塞するに足りる無孔シートを該下敷シートに糊着又は装着してなるポリエチレンシートによる密封包装菓子」等が、本件実用新案の登録出願前から既に一般に知られていたこと、成立に争いのない乙第五号証によれば、昭和三五年七月一日に特許庁資料館に受け入れられた紀元社出版株式会社発行のB著「包装食品」なる刊行物中には、コンテナー・パッケージングという食品包装の分野における包装技術が紹介されており、右技術は、上下二枚のプラスチック・フイルムを用い、一方のフイルムはモールデイングにより任意の型に真空成型し、そこにジヤム、煮豆等の食品を内容物として充填した後、他方のフイルムをヒート・シールするものである旨説明されていることがそれぞれ認められる。
以上の事実によれば、慶祝用贈答用に包装された砂糖で、包装材料としてポリエチレン等の合成樹脂製シートを用い、表面に貝類、魚類等の型を現わしたものは本件実用新案の登録出願時に公知であり、且つ、砂糖を被包するポリエチレン紙を上下二枚としたうえ、上下シートの外周縁を融着その他の方法により密着することも、当時の技術水準からみて極めて容易に選択しうる手段であつたことが明瞭である。
(三) 前掲甲第二号証(本件実用新案公報)の「考案の詳細な説明」の項には、
考案の目的として「従来贈答用の砂糖を魚類その他の外形に模した形状にするためには砂糖そのものを固形化するのが普通であつて、後日その砂糖を使用する際にはそれを打砕いて小片にしなければならなかつた。(中略)そこで本考案は所要の外形を保ちながらしかも使用に当たつて破砕等の必要のない砂糖粒子を主体とするものをもつてし、従来の固形化したものの欠点を除去しようとしたものである。」、
考案の奏する作用効果として「この慶祝用砂糖はポリエチレン紙をもつて全体が被包されているのであるが、型通りの凹凸を現はししかも内包される砂糖は粒子として存在するので指にて試みに押圧しても容易に慶祝用砂糖としての形が崩れることなく、外観上は恰かも所要の型に固形化した砂糖が使用せられているように見えるに拘らず、被包するポリエチレン紙を除けば砂糖は直に崩れて使用に適する状態となり、そのまま純粋な砂糖を少量宛でも使用できる利便がもたらされる。」との各記載がある。ところが、本件実用新案の登録出願当時コンテナー・パツケージングなる食品包装技術が公知であつたことは前述のとおりであり、上下二枚のプラスチツクフイルムの一方を予め貝類、魚類の型に成型し、そこに粒子状の砂糖を容れたうえ、他方のプラスチツクフイルムで蓋をし、上下フイルムの外周縁を密着すれば本件考案の目的たる「所要の外形を保ちながらしかも使用に当つて破砕等の必要のない砂糖粒子を主体とする慶祝用砂糖」を得ることができ、しかも右製品は本件考案同一の作用効果を奏することは右公知技術から何等の考案力を要しないで想到しうるところであつたといわねばならないから、本件実用新案の登録請求範囲に記載されたポリエチレン紙とは、右に挙げた例のように容器状に成型されたものではなく、一見型どおりの凹凸を現わしているが、それ自体としては立体的には無定形のものであると解しなければならない。
そして、従来知られていた慶祝用砂糖においては、無定形フイルム状の包装材料によつて包装された粒子状砂糖に型押しにより貝類、魚類等の型を現わす場合、製品に型崩れしない程度に所要の形状を保たせるためには型押しによる加圧を或程度強くする必要があつたが、加圧を強くすれば砂糖粒子が固形化することを免れなかつた。そこで、本件実用新案の考案は、それ自体としては保形作用のない包装材料を用いながら、製品に所要の形状を保持させ、しかも内部の砂糖を粒子状に保たせるという矛盾した二個の要求を製品の構造面においていかに解決するかを技術的課題としたものであるというべく、前記登録請求範囲の記載中「型押しと同時に……密着し」との部分を除外すると、その余の記載部分だけでは、未だ右課題の具体的解決手段を示したものとは認められず、従つて本件実用新案が前掲作用効果を奏する所以も理解することが因難である。
(四) そうすると、前記登録請求範囲の記載中「型押しと同時に……密着し」とある部分を除外しては、本件考案は新規な考案として完成しているものとは到底認めることができない。したがつて、右記載部分は本件考案の構成に欠くことができない技術的手段の一つの表示として、右技術的手段を実現する方法を記載したものと認めるべきである。
そこで右「型押しと同時に……密着し」との表現が具体的にどのような形状構造を意味するかについて検討する。登録請求範囲の記載全文と本件実用新案公報の「考案の詳細な説明」の項中「本考案は2枚のポリエチレン紙2と3にて砂糖粒子1を被包し、型押しと同時にポリエチレン紙2と3の外周縁2′と3′とを密着させてなる砂糖粒子を使用し貝類、魚類の型を現わした慶祝用砂糖に関するものである。即ち略言すれば砂糖粒子を固形化させる程の加圧をせずに所要の外形のものを得るために型4と5を用いた真空密着包装を応用することにより本考案が完成したのである。」との記載、右公報添付図面第3図の表示を綜合すると、本件実用新案の考案者Aは、通気性のない二枚のポリエチレン紙で上下から被包した砂糖粒子に所要の型押しをすると同時に真空密着包装技術により上下二枚のポリエチレン紙の外周縁を密着させるときは、包装された内部は当然真空状態に保持され、大気圧により上下のポリエチレン紙が砂糖粒子に押しつけられると共に砂糖粒子相互も密集する結果、型押しによつていつたん付与された貝類、魚類等の型を現わす砂糖の凹凸は内部の真空状態が保持されている限り型崩れすることなく保持され、外観上は恰も所要の型に固形化した砂糖がはいつているように見えるに拘らず、被包するポリエチレン紙を除けば砂糖は直ちに崩れて少量宛でも使用できることに着想し、右着想に基づき本件考案を完成したもので、前項において説明した本件考案の課題を、砂糖粒子を覆う、それ自体保形力のない無定形の上下二枚のポリエチレン紙の間の空気を排除し、その外周縁を密着して内部を真空状態に保つとの技術手段を採用したことによつて、はじめて具体的に解決したものであると認めるべきである。
(五) 以上によれば、前記登録請求の範囲に記載の「型押しと同時にポリエチレン紙2と3の外周縁2′3′とを密着させ」とは、「ポリエチレン紙2と3は、その外周縁部2′と3′とを密着し、且つ内部を真空状態の構造とする」との意に解するのが相当であり、結局、本件実用新案の技術的範囲は、
(1) 砂糖粒子1を二枚のポリエチレン紙2と3とで被包すること(2) 砂糖粒子1とポリエチレン紙2とで貝類、魚類等の型を現わすこと(3) ポリエチレン紙2と3は、その外周縁2′と3′とを密着し、且つ内部を真空状態とすることの三個の要件の一体的結合によつて構成された「砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖」の形状及び構造であると認めるべきである。
原告代表者は、本件実用新案においては真空密着包装を施す際にポリエチレン紙は加熱されるため型どおり変形し、爾後製品の保形作用を営むから、包装内部を真空とすることは加工の際一時的に必要であるだけで、製品の形状を保持するために必要な手段ではない旨供述しているけれども、本件実用新案公報の「考案の詳細な説明」の項の記載及び添付図面第三図によると、本件実用新案の製品は包装の際に上下のポリエチレン紙に木型をかぶせたまま内部の空気を排除するものであることが認められ、この状態のもとにおいて上下のポリエチレン紙の外周縁部を密着するため加熱するとしても、右加熱により木型内のポリエチレン紙に木型通りの変形が生ずるものとはにわかに断定できないので、右供述は採用できない。
三 そこで、イ号製品の特徴と本件実用新案の前記構成要件とを対比すると、イ号製品は、包装材料の材質が塩化ビニールであるが、その形状及び構造面においては、砂糖粒子が二枚の包装シート2と3で被包されており、全体として貝類、魚類等の型に型どられている点において本件実用新案の前記(1)及び(2)の構成要件を備えている。また、イ号製品の包装シート2と3は、
その外周縁部2′と3′とが密着されている点において前記(3)の構成要件の一部にあたるものを備えている。しかしながら、イ号製品の下部包装シート3には多数の小孔4が穿設されているため、上部シート2と下部シート3との間は真空状態となつていない。
イ号製品において包装内部が真空状態となつていないに拘らず型どおりの形状が保たれている所以は、前掲検甲第一号証、検乙第一号証並びに検証の結果によると、
包装材料たる塩化ビニールシートが型押成型工程において加熱により型どおりに変形され、いわば容器状となつているためであると推認される。
そうすると、イ号製品は、包装の内部を真空状態とするとの本件考案の構成に欠くことができない事項の一を欠き、その権利範囲に属しないものといわねばならない。
右判断と異なる成立に争いのない甲第六号証(鑑定書)の鑑定意見は、たやすく採用しえない。
四 以上の次第で、イ号製品が本件実用新案権の技術的範囲に属することを前掲とする原告の本訴請求は失当であるから、これを棄却すべきである。よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
追加
(別紙)イ号図面の説明書第一図は本物品の斜面図、第二図は底面図、第三図は断面図である。
図中1は砂糖粒子で、この砂糖粒子1は二枚のポリエチレン紙2と3で被包され、この砂糖粒子1とポリエチレン紙2とが貝類、魚類等に型どられている。ポリエチレン紙2、3の外周縁2′と3′とは密着され、下方のポリエチレン紙3には多数の小孔4が穿設されている。本物品は以上の形状構造を有する「砂糖粒子を使用し貝類、魚類等の型を現わした慶祝用砂糖」である。
<11571-001><11571-002>
裁判官 大江健次郎
裁判官 近藤浩武
裁判官 丸山忠三
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