関連審決 |
審判1958-210 |
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関連ワード | 考案 / 考案者 / 構造 / きわめて容易 / 頒布 / 特定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
昭和
38年
(行ナ)
19号
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1970/05/13 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
昭和三三年審判第二一〇号事件について、特許庁が昭和三七年一二月七日にした審決を取り消す。 訴訟費用は、被告らの連帯負担とする。 |
事実及び理由 | |
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双方の求めた裁判
(原告)主文第一項と同旨ならびに訴訟費用は被告らの負担とする旨の判決(被告ら)「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決 |
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原告の請求原因
一 被告らは、登録第四七五、五五六号実用新案「手鏡」の実用新案権の共有者であるが、この実用新案は、昭和三〇年四月一五日に登録出願、昭和三三年四月一五日に登録されたもので、その「登録請求の範囲」は、合成樹脂材よりなる鏡保持枠杆1の内面中央に設けた承溝2内に鏡体3の周縁部3′を嵌支させて、鏡保持枠杆1の両端部1′・1′を装飾片4を有する止金具5で緊定し、両端部1′・1′に螺孔部7を設け、また同じく合成樹脂材よりなり、その先端両側に鏡主体6を支承する半月状開脚部8・8を設け、中央部には握脚9を狭窄形成してなる曲杆状握柄体10の一部にバカ孔螺孔部11・11を設け、このバカ螺孔部11・11と前記螺孔部7との間に緊締螺杆12を螺挿して、鏡主体6を曲杆状握柄体10に起倒自在に締着して成る手鏡の構造というのである。 二 原告は、昭和三三年五月一二日特許庁に対し、右実用新案登録の無効の審判を請求したところ(同年審判第二一〇号事件)、特許庁は、昭和三七年一二月一七日請求人の申立ては成り立たない旨の審決をし、その謄本は昭和三八年一月一〇日原告に送達された。 三 原告の無効審判請求の理由の要旨は、次のとおりである。 (一) 本件実用新案の「登録請求の範囲」の前半部分、すなわち「合成樹脂材より鏡保持枠杆1………装飾片4を有する止金具5で緊定し」の構造を具備する手鏡は、おそくとも昭和二八年以降大阪地方の各百貨店で盛んに販売されてきた公知公用のものであり、被告Aも当時そのような構造の手鏡を製造販売していた(以下、 この手鏡を第一引例という。)。 (二) また、本件実用新案の「登録請求の範囲」から、「装飾片4を有する止金具5で緊定し」の部分を除いたその余の構造を具備する手鏡は、京都市<以下略>にある小間物業「ようじ屋」が昭和二九年秋以前に入手した外国製刊行物(カタログまたは雑誌)に、容易に実施しうる状態に写真として掲載されていた。 そして、その刊行物中の、その写真の掲載されたベージ片は、ようじ屋から訴外Bの手を経て、昭和二九年秋本件実用新案の考案者の一人とされている被告Aに交付された(以下、この写真の手鏡を第二引例という。)。 (三) 本件実用新案は、その登録出願前に公知の第一、第二引例の手鏡の構造を単に総合したにすぎないから、旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第1条に定める登録要件を欠き、これを無効とすべきものである。 四 これに対し、本件審決の理由の要旨は、次のとおりである。 (一) 第二引例の写真の掲載された紙片が、請求人(原告)主張のような、国内に頒布された刊行物であることを認める証拠の裏づけがない。 (二) 右の紙片が、ようじ屋、C、B、D(被告)と順次授受されたことは認められるが、このような授受があつたからといつて、第二引例が不特定多数人に知られたもの、すなわち国内において公然知られたものということはできない。 (三) 右紙片の写真には、手鏡の蝶番部の内部構造が示されていなかったことが認められるから、この部分の具体的構造として「鏡保持枠杆1の両端部1′・1′に螺孔部7を設け、また曲杆状握柄体10の一部にバカ孔11・11を設け、これらの孔を通じて緊締螺杯12を螺挿した構造」を考案構成上の一要素とする本件実用新案は、第二引例と同一または類似のものとはいえず、そこに顕著な差異がある。 (四) したがって、第二引例が本件登録出願前すでに公知であり、あるいは本件登録出願前国内に頒布された刊行物に容易に実施しうる程度に記載されていたことを前提とし、これと第一引例とを総合引用して本件実用新案の登録要件を争う請求人の主張は失当である。 五 しかしながら、審決は次のとおり判断を誤つた違法のものであるから、その取消しを求める。すなわち、 (一) 前記第二引例の写真の掲載された紙片が、外国のカタログまたは雑誌の一部を切り取つたものであること、ならびに、そのカタログまたは雑誌は、ようじ屋の主人が入手して京都で所持していたものであることが証拠上明らかであるから、 それが国内に頒布された刊行物であることはいうまでもない。 (二) そうでないとしても、その写真が、ある人の手からようじ屋に、ようじ屋からCに、CからBに、Bから被告Aにと順次に交付され、各交付は、被交付者に黙秘の義務を課することもなく公然に行なわれたのであるから、これによつてその写真に示された第二引例の手鏡は公知となつたと解すべきである。 (三) 本件実用新案の説明書には、その作用効果として、緊締螺杆12による蝶番部が「関節」の作用をすることにより、鏡主体6を握柄体10から任意の角度に起立させることができ、したがつて、手鏡を本来の合せ鏡用に用いるほか、鏡体を起立させて卓上鏡として使用することができる………等の記載があるにとどまり、 その蝶番部の具体的構造をとくに「登録請求の範囲」に記載のような特定の構造としたことによる格別の作用効果については、何も記載がない。これによれば、本件実用新案において、蝶番部の構造は緊締螺杆による関節の作用を奏するものであれば足り、右のような特定構造を採用したことに格別の意義があるわけではないと解すべきであるから、第二引例の蝶番部に右のような特定構造が示されていないことを根拠として、本件実用新案と第二引例との間に顕著な差異があるという審決の判断は誤っている。 一搬に、細工物の蝶着構造として古くから種々のものが慣用されているが、本件実用新案で採用しているような、螺孔とバカ孔とに螺杆を貫通し、その螺杆(ボールト)をネジ止め(ナット止め)するような方法は、従来ありふれた蝶番機構の一種にすぎないから、この点からいつても、右の蝶番構造に格別の考案があるかのような審決の判断は誤りである。 |
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被告Aの答弁
一 原告の請求原因一ないし四の事実、ならびに同三の(一)の第一引例が、原告主張のような事実関係により本件実用新案の登録出願前に公知であったことは認めるが、同五の審決を違法であるとする原告の主張は争う。 二 第二引例の紙片は、単なる週刊誌ようのものの切り抜きで、それが外国のものか国内のものかはわからない。その紙片は、化粧部屋にいる女性を中心に、種々の化粧用具が雑然と置かれ、その中に手鏡か卓上鏡かと思われる鏡が置かれている図をうつした写真である。 この写真と第一引例とを総合しても、本件実用新案が容易に推考できるようなものではない。 |
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被告Eの答弁
(その陳述したものとみなされた答弁書により)原告の請求原因五の審決を違法であるとする原告の主張を争う。 |
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証拠関係(省略)
理 由1 原告の請求原因一ないし四の事実(被告らの本件実用新案権、特許庁における手続の経過、原告の審判請求の理由の要旨および本件審決の要旨)は、被告Aはこれを認め、被告Eは明らかに争わないから、これを自白したものとみなされる。 2 原告主張の第一引例の手鏡が、おそくとも昭和二八年以降、被告Aらの手により製造され、大阪地方の各百貨店で盛んに販売されて、本件実用新案の登録出願の当時すでに公知のものとなっていたことは、本件弁論の全趣旨によってこれを認めることができる。 3 つぎに、原告主張の第二引例の手鏡について検討すると、甲第三号証の二、 四、第四号証の一ないし三(本件の甲号各証の成立は、いずれも被告Aの認めるところであり、また被告Eはこれを自白したものとみなされる。)、検甲第二号証、 および証人F、G、C(後記不措信部分を除く。)の各証言によれば、 昭和二九年一一月ごろ、京都市<以下略>にある化粧品、小間物類の小売業「ようじ屋」の主人の妻Fは、同店にある外国雑誌のなかに、柄のところから首が起き上がり、卓上に置いた場合に鏡の部分を立てて使うことのできる新型の手鏡の写真が載つているのを見つけ、これを取引先の鏡屋稲部商店の店員Cに示してそのような手鏡の製造を依頼し、同雑誌のその写真の部分(はがきよりやや小さい大きさのもの)を切り取つてCに渡したこと。 この外国雑誌は、ようじ屋の主人Hが、営業上の新しいアイデアを得るため、折にふれて近所の書店または国内の旅行先で買い求めた外国雑誌類のひとつであること。 その手鏡の写真の切抜きは、Cから稲部商店の主人Bに渡され、Bはこれを取引先である被告Aに渡して製造を依頼し、被告Aはこれを鏡製造業のGに渡してその製造の下請けをさせ、Gはこの写真を見て手鏡をつくり、昭和三〇年春頃試作品を被告Aに渡し、同年四月一七日(本件登録出願の二日後)に同人から稲部商店に納品され、同店からようじ屋に納入されたこと。 この試作品は、鏡保持枠杆の両端部に王冠の装飾片を付した止金具がつけてある点を除けば、前記写真に示されたものと、外見上も、また前記のように鏡の部分が柄の首のところから起き上がり、卓上鏡として用いた場合に鏡の部分を立てて使うことができるという機能の面でも、すこしも違わないものであり、それはまた検甲第二号証の手鏡と同じ品であったこと。写真では首の関節部分の構造は見えないけれども、その部分の両側に突起があることから、鏡保持枠杆とその外側の握柄体とを貫通してボールトを通しその両端部で締着してあることが容易に観取されたこと。そして、実際に試作品をつくつたGは、右の関節部分をはじめ、手鏡の各部の構造その他の点で、前記写真だけをみて右手鏡を作成するについて格別の工夫を必要とするような困難を感じなかったこと。 以上の各事実を認めることができ、この認定に反する被告A本人の供述および証人Cの証言部分は、措信しない。 4 この認定事実によれば、右手鏡(すなわち第二引例)の写真の掲載されていた外国雑誌は、昭和二九年一一月以前の時期に、京都市内または国内のどこかの書店その他この種刊行物を取り扱う店舗において公然と一般に販売されていたと推認するのが相当であるから、本件実用新案の登録出願前に国内に頒布された刊行物にあたるというべきであり、その写真にもとづいて当業者が検甲第二号証と同じ手鏡(ただし王冠の止金具を除いたもの)を製作することは、何ら格別の考案を用いるまでもなく、容易であったといわなければならない。 5 そこで、検甲第二号証の手鏡と本件実用新案の手鏡とを対比してみると、首の関節部分の蝶番構造において、前者は、鏡保持枠杆の両端部および曲杆状握柄体の一部にそれぞれバカ孔を設け、これらのバカ孔に緊締螺杆(ボールト)を挿通し、 緊締螺杆の両端部を座板を介してナットで締着しているのに対し、後者は、鏡保持枠杆1の両端部1′・1′に螺孔部7を、また曲杆状握柄体10の一部にバカ孔11・11(前記「登録請求の範囲」には、「バカ孔螺孔部11・11」または「バカ螺孔部11・11」と表現されているが、バカ孔と螺孔とは本来異なる構造を指し、本件考案の場合は、それらの孔および螺孔部7に「緊締螺杆12を螺挿して鏡主体6を曲杆状握柄体10に起倒自在に締着」することからみて、その11・11はバカ孔を意味するものと解される。)を設け、このバカ孔11・11と前記螺孔部7との間に緊締螺杵12を螺挿して………締着している点で両者は構造上の差異があるが、その他の点では、両者はまったく一致することが認められる。 ところで、甲第一号証の一によれば、本件実用新案の説明書中には、この蝶番部分に関する作用効果として、「緊締螺杆12による定着部が一の関節部として作用し鏡主体6を任意の角度に自由に起伏させることができる」ことおよびそれに伴う使用方法の多様性についての記載があるにとどまり、その蝶番部の構造として、とくに右のような特定の構造を採用したことによる作用効果については、何も記載するところがない。 してみれば、本件実用新案の右蝶番部分の構成としては、前記のように、一の関節の作用により鏡主体を任意の角度に自由に起伏させ得るような構造であれば足るのであつて、前期の特定の蝶番構造は考案構成の要部とはされていないと解するのが相当であり、したがつて、さきに指摘した検甲第二号証の手鏡と本件実用新案の手鏡に存する相違点は、設計上任意に取捨選択しうる範囲の微差ということができる。 そうすると、検甲第二号証の手鏡は、本件実用新案の考案の要部をすべて具備し、それと一致するものであつて、したがつて、検甲第二号証の手鏡(王冠の止金具を除いたもの)が、前記のとおり本件実用新案の登録出願当時国内に頒布された刊行物に容易に実施し得る程度に記載されていた以上、本件実用新案のもの(王冠の止金具を除いたもの)も、右刊行物に容易に実施し得る程度に記載されていたことになるといわなければならない。 6 そして、鏡保持枠杆の両端部を装飾片を有する止金具で緊定する等の構造を有する手鏡が、前記第一引例の手鏡として、本件実用新案の登録出願前に公知であつたことは、さきに認定したとおりであるから、結局、本件実用新案は公知の第一、 第二引例の手鏡からきわめて容易に推考し得たものということができる。(なお、 本件実用新案の鏡保持枠杆および曲杆状握柄体が合成樹脂材よりなることも、第一引例によりすでに公知である。)7 したがつて、本件実用新案は、実用新案法施行法第21条第2項、旧実用新案法第1条(第3条第1号第二号)、第十6条第1項第1号によりその登録を無効とすべきものであるのに、原告の無効審判の請求を排斥した審決はその判断を誤つた違法のものであるから、その取消しを求める原告の請求を認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条、第93条を適用して主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 吉原勇雄 |
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裁判官 | 杉山克彦 |
裁判官 | 武居二郎 |