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関連審決 抗告審判1958-4043
抗告審判1958-3043
関連ワード 補正 /  共同出願 /  拒絶理由 /  頒布 / 
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事件 昭和 44年 (行ウ) 81号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1970/10/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
全容
原告は、「特許庁が昭和三三年抗告審判第三〇四三号事件について昭和三四年一二月二二日にした審決は、無効であることを確認する。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、
その請求の原因として、
『一 原告は、昭和二九年一二月一〇日、特許庁長官に対し、発明の名称を「牛乳瓶口頭部の包覆方法」とする特許願を提出した(昭和二九年特許願第二六九二九号)ところ、審査官Aは、昭和三〇年六月六日、原告に対し、出願の発明は出願前国内に頒布せられた刊行物に容易に実施することを得べき程度において記載せられたものであり、新規な発明ということができないとの理由の拒絶理由通知をした。
原告は、同年七月八日付で同審査官に意見書を提出したが拒絶査定を受けた(同年八月四日)ので、同年九月一〇日、右特許出願を旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第5条に基づいて実用新案登録出願に変更した(昭和三〇年実用新案登録願第四二〇一七号)ところ、昭和三三年六月二四日、拒絶理由通知を受けた。そこで、原告は、意見書を提出したが、同年一〇月三一日に拒絶査定がされたので、同年一二月九日、これを不服として抗告審判を請求した(昭和三三年抗告審判第三〇四三号)。右抗告審判につき、特許庁長官は審判官としてB、A、Cを指定したが、前二者はその後他の審判官と交替し、最終的には昭和三四年一〇月二二日、審判長審判官D、審判官E、審判官Cの三名で、「本件抗告審判の請求は成り立たない」との審決をした。
二 右審決は、つぎの理由により無効である。すなわち、
(1) Aは、原告出願の前記昭和二九年特許願第二六九二九号に審査官として干与したが、旧実用新案法第26条、旧特許法(大正一〇年法律第九六号)第91条第6号によれば、審査官として査定に干与したときは、その審査官は審判の干与より除斥せらるべきものであるにかかわらず、右Aは昭和三三年抗告審判第三〇四三号事件に審判官として干与したものである。
(2) 被告は、右昭和三三年抗告審判第三〇四三号事件において、原告に対しその事件番号および審判官全員の氏名を通知しなかつたものであり、その審決は通知のないままされたものであるところ、右は旧実用新案法施行規則第7条、旧特許法施行規則第55条に違反するものであるから、右審決は無効である。
よつて、右抗告審判の審決が無効であるとの確認を求める。』と述べた。
被告指定代理人は、本案前の申立として、「本件訴を却下する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、
その理由として、
「本件訴は、旧実用新案法第25条に基づく抗告審判請求に対してされた審決の無効確認を求めるものであるが、右審決は、原告のこれに対する取消請求事件の上告(事件番号昭和三五年(オ)第六八四号)が昭和三六年八月三一日に棄却されて確定しているものであるから、本件実用新案登録出願については実用新案法施行法(昭和三四年法律第一二四号)第21条の適用の場合ではなく、同法第30条の適用により実用新案法(昭和三四年法律第一二三号)第47条が適用されるもの、換言すれば本件訴のような審決無効確認の訴もまた実用新案法第47条にいわゆる「審決に対する訴」の中に包含されるものというべきである。けだし、審決取消訴訟も、その無効確認を求める訴訟も、審決の違法を主張してその効力を否定することを訴求する点においてなんら変りがないから、そのいずれもが審決に対する不服の訴であり、不服事由として無効原因を主張する訴を「審決に対する訴」より除外して異別に取扱うものとする合理的理由は存しないからである。
しかるところ、同法第47条第2項により、準用される特許法(昭和三四年法律第一二一号)第178条第三、第四項によつて、審決に対する訴は、審決の謄本の送達があつた日から三〇日を経過したときは提起できないとされ、しかも、この出訴期間は不変期間とされている。しかるに、本件訴で原告が無効確認を求めている審決は、昭和三四年一二月二二日にされ、
その謄本は昭和三五年一月一二日に原告に送達されたのであるから、本件訴はすでに右出訴期間経過後に提起された不適法なものである。」 と述べ、
本案について、主文と同旨の判決を求め、
答弁として、
「請求原因一の事実は、全部これを認める。ただし、抗告審判請求に対する審決の日は昭和三四年一〇月二二日ではなく、昭和三四年一二月二二日である。
同二は、否認する。
原告の昭和二九年特許願第二六九二九号に対する拒絶査定を行つた審査官は、訴外Fであつて、Aではない。また、昭和三三年抗告審判第三〇四三号は、昭和三〇年九月一〇日付で原告が昭和二九年特許願第二六九二九号を旧実用新案法第5条により出願変更した昭和三〇年実用新案登録願第四二〇一七号について昭和三三年一〇月三一日にした拒絶査定に関してされた抗告審判請求であつて、出願変更前の昭和二九年特許願第二六九二九号に関するものではない。そして、右の昭和三〇年実用新案登録願第四二〇一七号に対して拒絶理由通知と拒絶査定を行つた審査官は、
Aではなく、Fである。
したがつて、Aには昭和三三年抗告審判第四〇四三号の審決について実用新案法第41条で準用される特許法第139条第6号の規定する原査定関与を理由とする審判官としての除斥事由はない。」 と述べた。
原告は、被告の本案前の申立に対し、
「被告は、昭和三三年抗告審判第三〇四三号事件の審決が昭和三六年八月三一日右審決取消請求事件の上告棄却により確定したというが、右審決はなお確定していない。その理由はつぎのとおりである。すなわち、原告は右審決に対し特許庁長官を被告として東京高等裁判所に昭和三五年二月一〇日取消請求の訴を提起したところ、右訴状は、特許庁長官に送達されることなく、訴提起通知書とともに、同月一五日に特許庁審判部を名宛人として送達されたものである。したがつて、右送達は、特許庁長官に対する送達としては効力のないものであり、そのゆえに、原告と特許庁長官との間の取消訴訟の係属はなかつたのである。しかるに、東京高等裁判所は、訴訟係属あることを前提として判決をなし、さらに、最高裁判所は、同様上告審として判決したものであつて、右判決はともに無効のものであり、存在しないに等しい。したがつて、被告が右両判決の有効な存在を前提として右審決が確定していると主張するのは理由がない。」 と述べた。
(立証省略) 理 由 職権をもつて調査するに、原告は、特許庁昭和三三年抗告審判第三〇四三号実用新案登録願拒絶査定に対する抗告審判請求事件につき、特許庁が昭和三四年一二月二二日にした審決取消請求の訴を東京高等裁判所に提起したところ、同裁判所は、
昭和三五年四月七日、右訴は共同出願人たる原告と訴外者一名の共同で提起することを要するいわゆる必要的共同訴訟であるにかかわらず、原告単独で出訴したものであつて、その欠缺は補正することができないものであるとして、原告の訴を却下したものであること、および右判決に対する原告からの上告に対して、最高裁判所は、原審と同一の理由により上告を棄却したものであることを認めることができる。すなわち、原告の右審決取消請求の訴は、本案について判断されることなく、
不適法として却下されたものであるから、右判決には右審決の適法違法についてなんらの既判力も生じていないのである。そうすると、原告は、無効確認訴訟の他の要件が存在するかぎり、右取消請求訴訟の判決の既判力に触れることなしに、右審決に対する無効確認の訴を提起しうるものというべきである。原告は、前記審決取消請求訴訟は被告たる特許庁長官への適法なる訴状の送達がなかつたから訴訟係属を生ぜず、したがつて、訴訟係属あるものとしてした前記東京高等裁判所および最高裁判所の判決はいずれも無効であり、審決取消請求訴訟は確定していないというが、本件では原告のそのような主張に対して判断を示す要はない。要は、原告の本件無効確認請求の訴が訴訟要件を具備した適法なものであるか否かを判断すれば足りる。しかして、前記取消請求の判決が確定しているものとすれば、本件訴が適法のものであることは右に述べたとおりであり、仮に右取消請求の判決が原告主張のとおり確定していないとしても、そのことによつて本件訴が不適法となることはないのである。けだし、抗告審判の審決取消訴訟は東京高等裁判所の管轄に専属する(旧実用新案法第26条、旧特許法第128条ノ二)のに対し、本件無効確認請求訴訟は、後に述べるように、同裁判所の専属管轄には属せず、かつ、取消訴訟と無効確認訴訟とはかならずしも同一の裁判所に提起しなければならないものではないから(行政事件訴訟法第16条第2項参照)、当裁判所に提起した原告の前記審決の無効確認を求める訴は適法と認められるからである。
被告は、審決に対する訴は実用新案法第47条第2項、特許法第178条第三、
第四項によつて、審決の謄本の送達があつた日から三〇日を経過したときは提起できないのに、原告が本訴で無効確認を求めている審決は昭和三四年一二月二二日にされ、その謄本は昭和三五年一月一二日に原告に送達されたのであるから、本件訴はすでに出訴期間経過後に提起された不適法なものである、というが、特許法第178条第3項により出訴期間の制限を受けるのは、同法第181条によつても明らかなとおり、審決または決定の取消訴訟についてのみであつて、審決または決定の無効確認訴訟についてまで右法条が出訴期間を制限したものであるとは解しえられない。無効確認訴訟は、一般原則に従い、そして行政事件訴訟法第36条の制限を受けないかぎり、期間の制限なくこれを提起しうべきものである。そして、審決取消の訴は、特別の規定(実用新案法第47条、特許法第178条第1項等)により東京高等裁判所の専属管轄に属するのであるが、審決無効確認の訴については右法条の規定の適用なく、通常の規定(行政事件訴訟法第38条第12条)に従つて、当裁判所の管轄に属するものと解すべきである。このことは、原告が無効確認を求めている審決が昭和三六年八月三一日(原告の審決取消請求の上告棄却言渡の日)に確定したか否かを問わず言いうることである。なんとなれば、仮に右審決が未だ確定せず、その審決に対する訴に旧実用新案法(第26条)ならびに旧特許法(第128条ノ二ないし第128条ノ五)の規定の適用があるものと解しても、右審決に対する無効確認訴訟については、前記旧実用新案法ならびに旧特許法の規定の適用はなく、右訴は東京高等裁判所の管轄に専属せず、かつ、出訴期間の制限にも服さないものと解すべきこと右両旧規定の解釈上明らかであるといいうるからである。よつて、被告の本案前の申立は理由がない。
そこで、本案について判断する。
原告主張の請求原因一の事実は、原告の抗告審判請求に対する審決の日を除いて、被告の全部これを認めるところであり、右審決の日が被告主張のとおりであることは成立について争いのない甲第七号証、同第九号証によりこれを認めることができる。ところで、右争いのない事実によれば、原告は、昭和二九年一二月一〇日、特許庁長官に対し、発明の名称を「牛乳瓶口頭部の包覆方法」とする特許出願をしたが、昭和三〇年九月一〇日、旧実用新案法第5条に基づいてこれを実用新案登録出願に変更したというのである。しかるに、特許出願の審査と実用新案登録出願の審査との手続は互に別個独立のものであつて、仮に原告主張の審査官Aが原告の特許出願につき拒絶査定をしたところで、同人には実用新案登録出願の拒絶査定に対する抗告審判の干与から除斥さるべき理由はないものといわねばならない。ところで、原告は、審査官Aは原告の特許出願に対して拒絶理由を通知したというのみで、同審査官が特許出願の拒絶査定をしたということは主張立証しないのみならず、右特許出願を実用新案登録出願に変更した後の拒絶査定に干与したとの事実も主張立証しないところであるから、審査官Aは右実用新案登録出願の拒絶査定に対する抗告審判への干与から除斥さるべきいわれはないものといわざるを得ず、したがつて、この点において原告の請求は理由がないものというべきである。
また、原告は、昭和三三年抗告審判第三〇四三号事件において、被告は原告に対しその事件番号および審判官全員の氏名を通知しなかつたものであるから、右事件の審決は旧実用新案法施行規則第7条、旧特許法施行規則第55条に違反するものであつて無効であるというが、右事実については原告のこれを立証しないところであり、仮に右立証がされたものとしても、右の事実は審決を当然無効ならしめるほどの重大な瑕疵であるということはできない。原告の主張は、理由がない。
よつて、原告の請求は、その理由なしとしてこれを棄却することとし、訴訟費用について民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 高林克巳
裁判官 元木伸