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事件 昭和 43年 (ワ) 4811号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1970/11/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 被告は、別紙(イ)号図面及びその説明書記載の合成樹脂製計器函カバー並びに別紙(ハ)号図面及びその説明書記載の計器取付金具を製造し、使用し、販売し又は拡布してはならない。
被告は、その製造にかかる前項記載の物件を廃棄しなければならない。
第一項記載の物件の製造に供した設備の除却を求める部分について、原告の訴を却下する。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決中原告勝訴の部分は、原告において金二〇〇万円の担保を供することを条件として仮りに執行することができる。
事実及び理由
当事者双方の申立
原告訴訟代理人は、主文第一、二、四項と同旨及び「被告は第一項記載の物件の製造に供した設備を除却しなければならない。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求原因
一 原告及び被告は、いずれも、計器函等の製造販売を業とする会社である。
二 原告は、次の登録実用新案の実用新案権者である。
(一) 登録番号 第七五三一四七号 考案の名称 計器函の合成樹脂製カバー 出願日 昭和三六年八月二六日 公告日 昭和三九年七月三日(実公昭三九-一八七五九) 登録日 同年一二月三日 登録請求の範囲 合成樹脂製のカバー1に設けた窓孔2の周縁に受け縁3を形成し、その窓孔2の周縁部の背側にカバー1と一体に合成樹脂をもつて抑止板6の取付け片4、4を突設し、その先端に大径の頭部4′を形成し、取付け片が嵌まる程度の幅の切込み5を有する長い抑止板6を受け縁3に嵌めた透明板7の端縁に裏面から当てて、切込み5に取付け片4を嵌めて透明板7を抑止するようにした計器函の合成樹脂カバー(二) 登録番号 第八四二一四九号 考案の名称 計器函に於ける計器取付金具 出願日 昭和三八年一二月三〇日 公告日 昭和四二年九月四日(実公昭四二-一五四二二) 登録日 昭和四三年二月二〇日 登録請求の範囲 断面コの字形の樋状金具本体1の中間片1aに止螺子7の挿通孔3を長手方向に沿つて開孔すると共に、この中間片1aの両端を延長して下側にL状に屈曲し、計器函5の正面に設けた案内条溝4に係合する係止脚2、2を形成した計器函における計器取付金具三(一) 登録第七五三一四七号実用新案(以下A実用新案という)の構成要件は、前記登録請求の範囲の項に記載されたとおりであり、その奏する作用効果は、
「取付け片とカバーとを合成樹脂で一体に形成するため製作が簡単であり、取付け片の先端は抑止板を嵌めた後加熱押圧することにより一挙に大径の頭部を形成し得て、抑止板を簡単に固定することができ、抑止板に取付け片が嵌まる程度の幅の切込みを設けたので、抑止板が脱落する虞れが少なく、しかも抑止板の着脱操作が簡単で、透明板の交換も容易である。」という点にある。
(二) 登録第八四二一四九号実用新案(以下C実用新案という)の構成要件は、
前記登録請求の範囲の項に記載されたとおりであり、その奏する作用効果は、「断面樋状の金具本体の一部を利用して係止脚を形成したことにより、従来の計器取付金具(金具本体の全長にわたつて積算電力計を塔載しうる形式のもの)にみられた欠点(係止脚を本体に止鋲でかしめ止めしていたため、本体が変形する虞れがあつた)を除去し、金具本体の変形の虞れがなく、案内条溝に係合させた場合取付金具の摺動作用が至極円滑であり、計器の取付操作を非常に容易に行ないうる。」という点にある。
四 被告は、現に別紙(イ)号図面及びその説明書に記載の合成樹脂製計器函カバー(以下(イ)号物件という)並びに別紙(ハ)号図面及びその説明書に記載の計器取付金具(以下(ハ)号物件という)を製造し、使用し、販売し及び拡布しているが、(イ)号物件は、その構成においてA実用新案の前記構成要件をすべて充足し、且つ、その作用効果もA実用新案のそれと同一であり、(ハ)号物件は、その構成においてC実用新案の前記構成要件をすべて充足し、且つ、その作用効果もC実用新案のそれと同一である。
五 従つて、(イ)号物件はA実用新案の権利範囲に属し、(ハ)号物件はC実用新案の権利範囲に属することは明らかであるから、被告による(イ)号物件及び(ハ)号物件の製造、使用、販売及び拡布は、それぞれ、原告の有するA実用新案権及びC実用新案権に対する侵害を構成する。よつて原告は被告に対し、その侵害行為の禁止を求めると共に、侵害行為を組成した(イ)号物件及び(ハ)号物件の廃棄並びにその製造に供した設備の除却を求めるため本訴に及んだ。
請求原因に対する答弁並びに抗弁
一 請求原因一ないし四の事実は認めるが、五の主張は争う。
二(一) 被告は、昭和三三年春頃以降被告代表者【A】の考案にかかる別紙(い)号図面及びその説明書に記載の金属製計器函カバー(以下(い)号物件という)を製造販売し、ひきつづき現在に至つているが、昭和三三年頃から原告ほか同業者数社もこれと同一構造の金属製計器函カバーの製造販売を行なつていたので、
A実用新案が登録出願された昭和三六年八月二六日より前に(い)号物件は公知公用のものとなつていた。
(二) (い)号物件の構成をA実用新案と対比すると次のとおりである。
1 計器函カバーの窓孔の周縁に受縁を形成し、その受縁にガラス板等の透明板をあて、透明板の裏面端縁を抑止板で抑止してカバーに固定するようにした点は両者全く同一である。
2 ただ、(い)号物件においては、@カバーの材質が鉄板であり、Aカバーの本体とは別に形成した抑止板受金をカバー本体に溶着し、B切込を設けない抑止板を透明板の裏面と受金との間に嵌入して透明板を抑止する構造であるのに対し、A実用新案においては、@カバーの材質が合成樹脂であり、Aカバー本体に突起を形成し、この突起の先端を熱加工等の方法で抑止板のための大径の頭部に形成し、B右突起が嵌入する程度の切込みを設けた抑止板を透明板の裏面に当てて切込みに突起を嵌入して透明板を抑止する構造であるから、カバー本体の材質及び抑止板の係止構造に関する限り、両者の間に一応差異がある。
(三) しかしながら1 計器函を合成樹脂で製作する技術はA実用新案の出願前に公然知られていたから、計器函カバーの材質を(い)号物件のものからA実用新案のものに変更することは当業者の容易に選択しうる手段である。そして、計器函カバーの材質として合成樹脂を選んだ場合、どのような構造のものとするかについては、当業者であれば合成樹脂関係の技術を探索してこれを利用しようとするのは当然である。A実用新案の出願前から、熱加塑性板に二個の突子を形成し、右突子を連結せんとする板に通し、しかるのちアイロン掛けにより突子に頭部を形成して係止する「スポツト止め」なる技術が公然知られていた。A実用新案は、抑止板をカバー本体に係止する手段として偶々右「スポツト止め」なる公知技術を利用したにすぎず、また、A実用新案における抑止板に突起が入り込む部分の切込みを設けるというが如き手段も、当業者なら容易に考え付くところであるし、右切込の形状を如何ようにするかも単なる設計上の問題にすぎない。故に、A実用新案における抑止板の係止構造には、何等新規性がないものである。
2 A実用新案は、抑止板取付け片をカバー本体と一体に形成できるから製作が簡単であるとの利点はあるが、(い)号物件はカバー本体に突起を形成しないから却つて製作が容易であり、受金も形状が単純で、カバー本体に対する溶着作業もA実用新案における突起先端の形成作業と同程度の手数ですむ。従つて、製作の簡易性に関してはA実用新案と(い)号物件との間に優劣はない。また、(い)号物件にみる如く抑止板を嵌入できる程度の溝を設けた受金をカバー本体に溶着した構造においても、抑止板の嵌入着脱、透明板の交換等は至つて自在であり、透明板の固定方法及びその確実性についてみても、抑止板によつて巾広く透明板を抑止して安定させる効果を発揮しうる点はA実用新案と異なるところがない。
(四) これを要するに、(い)号物件とA実用新案との間にみられる材質及び構造上の差異は、均等置換若しくは単なる設計ないし加工方法の変換にすぎないものであり、両者はその構成の主要部を共通にし、作用効果においても同一とみるを妨げない。従つて、A実用新案は、従来公知公用であつた(い)号物件の技術と同一視すべき考案にすぎない。
三(一) 被告は、昭和三二年一一月頃以降被告代表者【A】の考案にかかる別紙(は)号図面及びその説明書に記載の計器取付金具(以下(は)号物件という)を製造販売し、ひきつづき現在に至つているが、昭和三二年頃から原告ほか同業者数社もこれと同一構造の計器取付金具の製造販売を行なつていたので、C実用新案が登録出願された昭和三八年一二月三〇日より前に(は)号物件は公知公用のものとなつていた。
(二) (は)号物件の構成をC実用新案と対比すると次のとおりである。
1 樋状金具の本体の中間片に止螺子の挿通孔を長手方向に沿つて開孔した構造は両者同一である。
2 金具断面の形状が(は)号物件では<11639-006>形であるのに対し、C実用新案においてはL形である点、係止脚が前者では<11639-007>状をなし、金具の両端にそれぞれ一本あるのに対し、後者では<11639-008>状をなし、金具の両端にそれぞれ二本づつ設けた点に差異がある。
(三) しかしながら、
1 断面の形状が<11639-006>形であつても、<11639-009>形であつても、取付金具の長手方向に対する彎曲変形を防止する目的を達しうることにかわりはないので、断面の形状の差異によつて全体としての作用、効果を異別にするものではない。
2 係止脚は、これに対応する案内条溝に係合させて取付金具を計器函に係止し、
取付金具に塔載された積算電力計の安定を保持することを目的として設けるものであり、係止脚の数が一本であるか二本であるかによつて、またその形状が<11639-007>状であるか<11639-008>状であるかによつて取付金具の取付操作の難易、係止脚の係止作用の確実性等に別段差異を生ずるものではない。
3 なお、原告は、(は)号物件においては取付金具の摺動が円滑であるとの作用効果及び取付金具本体の全長にわたつて積算電力計を塔載しうるとの作用効果を生じない旨主張するが、積算電力計の取付は一般に数年に一度位のもので、取付金具を摺動させるのは電力計の取付の際だけであるから、その摺動性の良否等は重視すべき作用効果でない。また、取付金具の全長にわたつて計器を塔載するためには、
金具の両端で螺子取付長孔を開放しなければならず、実用に適しないばかりでなく、計器函はこれに収容する積算電力計の大きさによつて規格、寸法が一定しており、実際上取付金具の全長にわたつて計器の塔載を必要とする場合はない。
(四) 従つて、(は)号物件はC実用新案と全体としての作用効果に殆ど差異がなく、両者の間にみられる構造上の差異は当業者にとつて推考容易のものであるから、C実用新案は従来公知公用であつた(は)号物件の技術と同一視すべき考案にすぎない。
四(一) 以上のとおり、A実用新案及びC実用新案は何等の新規性進歩性もないので、その実用新案登録は本来無効である。そうでないとしても、かかる瑕疵ある登録によつて成立した実用新案権に基づいて第三者に対し禁止権を行使することはそもそも許されない。
(二) 右主張が容れられないとしても、被告はA実用新案の出願時においてこれと技術思想を同じくする(い)号物件の製造販売を実施し、C実用新案の出願時においてこれと技術思想を同じくする(は)号物件の製造販売を実施していたことは既述のとおりであるから、A実用新案及びC実用新案について製造販売事業の範囲内において先使用による通常実施権を有する。被告が現に行なつている(イ)号物件、(ハ)号物件の各製造販売は、それぞれ、A実用新案、C実用新案の出願後に開始したものであるけれども、右各通常実施権に基づく適法な実施行為であるから、原告からその差止を受けるいわれはない。
抗弁に対する原告の答弁
一 被告の主張はすべてこれを争う。A実用新案及びC実用新案はその先行技術と同一又はこれから容易に推考しうる技術ではない。仮りに被告においてA実用新案、C実用新案の出願時に(い)号物件、(は)号物件の製造販売事業を実施していた事実があるとしても、次に述べるとおり(い)号物件及び(は)号物件はそれぞれA実用新案及びC実用新案と同じ技術を用いたものとはいえないので、被告は先使用による通常実施権を有しない。
二 ((い)号物件とA実用新案との対比)(一) (い)号物件の構造は、計器カバーの窓孔の周縁部の背面にカバーとは別体に形成した受金を溶着し、抑止板を受金に嵌入して透明板を抑止するようにしたものであるから、A実用新案における「カバーに設けた窓孔の周縁部の背側にカバーと一体に抑止板の取付け片を突設し、その先端に大径の頭部を形成する」との要件及び「取付け片が嵌まる程度の切込みを有する長い抑止板の切込みに取付け片を嵌めて透明板を抑止するようにする」との要件を欠いていることは明白である。
(二) (い)号物件とA実用新案とは、単にカバーの材質を異にするというだけでなく、前記のように構造上顕著な差異があり、その差異に基づき作用効果上にも次のような差異が生じている。
1 (い)号物件は、受金を別途形成し、カバーに溶接しなくてはならないため、
製作に手数がかかるのみならず、受金に両端を嵌入した抑止板をもつて透明板を抑止固定する構造であるから、透明板の安定、固定が不十分であり、抑止板の受金に対する嵌入にも手間を要し、到底A実用新案と同一の作用効果を発揮することができない。
2 更に、(い)号物件においては、抑止板に切込みを設けていない結果、A実用新案における如く「抑止板の脱落の虞れが少ない」との作用効果はみられない。A実用新案においては、抑止板の切込みの一方を取付け片に枢着して離脱不能とするとか、切込みをL字状に入れて取付け片に屈曲部を引掛けるという実施形態を選ぶことができる旨明細書に説明されていて、抑止板の脱落防止効果を一層確実ならしめるも可能であるが、もとより(い)号物件においてはかかる効果は全く期待できない。
(三) 以上のとおり、(い)号物件はA実用新案と対比して構成の上からも作用効果の上からも全く別異のものであるので、(い)号物件がA実用新案の技術思想を実施した製品でないことは明瞭である。
三 ((は)号物件とC実用新案との対比)(一) (は)号物件における係止脚は、計器函の両側壁に設けた案内条溝に係合させるべく設けたもので、その構造は中間片全体を延長して下側にL状に屈曲したものであり、従つて、係止脚は中間片長手方向の左右末端に各一本づつ存在するのに対し、C実用新案における係止脚は、計器函の正面に設けた2条の案内条溝に係合させるべく設けたもので、その構造は中間片の両端を延長して下側に<11639-008>状に屈曲させるものであるから、係止脚は中間片長手方向の左右末端より内方に各二本づつ存在する。(は)号物件とC実用新案とは、その前提となる計器函の案内条溝の位置が全く相違しており、右相違あるため必然的に前述の如き構造上の差異が生じたものである。
(二) それ故、(は)号物件は、これを正面に2条の案内条溝を設けた計器函に使用しても、C実用新案と同一の作用効果を生じない。
1 C実用新案は、中間片を係止脚の位置より金具長手方向左右外側に突出させた構造であるから、金具本体の全長にわたつて積算電力計を塔載することができるとの作用効果を生ずるが、(は)号物件は中間片の左右外側に係止脚があるため、金具本体の全長にわたつて積算電力計を塔載することができない。なお、積算電力計の取付螺子の位置は計器両側より内方に設けられているから、取付金具の螺取付長孔を両端において開放しなくても全長にわたつて積算電力計を塔載することはもとより可能であり、取り付けられた計器を安定に保持するためにも、取付金具の長さは長いほど好ましいのであつて、金具本体の全長にわたつて計器を塔載しうるか否かは、実用上も軽視することのできない作用効果である。
2 (は)号物件の係止脚の形状は、末端に突起を有する<11639-007>状であるから、合成樹脂製の計器函に使用すると、右突起のため案内条溝の内側を傷つけ、条溝の耐用性を減殺するのみならず、摺動を円滑に行なうことができず、
C実用新案における「取付金具の摺動が至極円滑であり、計器の取付操作を非常に容易に行ないうる」との作用効果を全く奏しえないものである。なお、取付金具は、その上下の摺動により取付螺子の位置を調節して大小種々の規格寸法の計器を計器函に取り付けることを使命とするものであるから、その摺動の円滑性の良否は、取付金具の作用効果として重視すべきであることは勿論である。
(三) 以上のとおり、(は)号物件はC実用新案と構成及び作用効果において根本的な相違があり、C実用新案の技術思想を実施した製品でないことは明瞭である。
証拠関係(省略)
理 由一 原告が請求原因として主張する一ないし四の事実は当事者間に争いがない。したがつて、(イ)号物件がA実用新案の、(ハ)号物件がC実用新案の各技術的範囲に属することは当事者間に争いがないところである。
二 被告は、A実用新案及びC実用新案は、ともに、その出願前に公知公用であつた技術から容易に推考しうる考案にすぎないから、その実用新案登録は本来無効であり、そうでないとしても、かかる暇疵ある登録によつて成立した実用新案権に基づいて第三者に対し禁止権を行使することは許されない旨主張する。
しかし、実用新案登録の効力は特許庁における無効審判手続によつてのみ争いうるのが実用新案制度の建前であり、たとえ瑕疵ある登録によつて成立した実用新案権であつても、その登録を無効とする審決が確定するまでは一応有効な権利として成立しているものとみるほかはないので、実用新案権の侵害を原因とする民事訴訟において、当該実用新案の登録が無効であることを防禦方法として主張することは許されないと解すべきである。
もつとも、登録実用新案の登録請求の範囲に記載された事項を悉く一体として備えた先行技術が存在する場合には、右公知技術を用いる第三者に対し当該実用新案権に基づく禁止権を行使することは、権利の濫用にわたるものとして許容すべきでないと解する余地があるであろう。しかし、本件においては、被告はA実用新案及びC実用新案の考案を構成する個々の技術手段が個別的に公知であつた旨主張するにすぎず、もとよりA実用新案及びC実用新案とそつくりそのままの先行技術が存在していた事実を窺わせる資料は存しない(成立に争いのない乙第一〇号証によつても、これに記載されている計器取付金具の構造がC実用新案と同一であるとは認められない。)ので、本件は禁止権の行使が許されない場合に当らないことが明白である。
よつて、被告の前記主張は、いずれも理由がない。
三 進んで、A実用新案権についての先使用の抗弁について判断する。
(一) 第三者の作成に係り真正に成立したと認めうる乙第四号証の一ないし三、
被告の製品であることにつき当事者間に争いのない検乙第一号証、証人【B】の証言並びに被告代表者尋問の結果を総合すると、被告会社の前身である有限会社大西製作所は、昭和三三年四月頃からその代表者【A】の考案にかかる別紙(い)号図面及びその説明書に記載の鉄板製計器函カバー((い)号物件)を備えた計器函の製造販売をはじめ、製品は主として関西電力株式会社に納入し、A実用新案が出願された昭和三六年八月二六日当時も右計器函の製造販売事業を実施していたが、
【A】は昭和三八年七月頃前記有限会社大西製作所と営業目的を同じくする被告会社を設立してその代表者となり、その後は被告会社が有限会社大西製作所の事業を引継いで現在に至つていることが認められる。
(二) そこで、(い)号物件がA実用新案の技術思想を実施した製品と認め得られるか否かについて検討する。
A実用新案の構成要件が、その登録請求の範囲に記載されたとおり「合製樹脂製のカバー1に設けた窓孔2の周縁3を形成し、その窓孔2の周縁部の背側にカバー1と一体に合成樹脂をもつて抑止板6の取付け片4、4を突設し、その先端に大径の頭部4′を形成し、取付け片が嵌まる程度の幅の切込み5を有する長い抑止板6を受け縁3に嵌めた透明板7の端縁に裏面から当てて、切込み5に取付け片を嵌めて透明板7を抑止するようにした」計器函の合成樹脂カバーであることは前記の如く当事者間に争いのないところであり、他方、(い)号物件の構成が「金属製のカバー1に設けた窓孔2の周縁に受け縁3を形成し、その窓孔2の周縁部背側の左右下隅に受金5を溶着し、長い抑止板を受け縁3に嵌めたガラス板7の端縁に裏面から当てて、抑止板の両端を受金5に嵌めてガラス板7を抑止するようにした」ものであることは、前掲検乙第一号証及び別紙(い)号図面の表現によつてこれを認めることができる。
この両者を対比すると、(い)号物件は、透明板を窓孔の周縁に設けた受け縁に嵌め、透明板の端縁を裏面から抑止板によつて抑止するとの着想においてはA実用新案と軌を一にしているけれども、A実用新案における「カバー1と一体に合成樹脂をもつて抑止板6の取付け片4、4を突設し、その先端に大径の頭部4′を形成する」との要件及び「抑止板6に取付け片が嵌まる程度の幅の切込み5を設け、切込み5に取付け片4を嵌めて透明板7を抑止する」との要件を欠き、A実用新案と抑止板の係止の構造が異なることが一見して明瞭である。
(三) 被告は、(い)号物件とA実用新案との間にみられる右の抑止板係止構造の差異は、均等置換又は単なる設計上の微差にすぎない旨主張する。しかしながら、A実用新案における抑止板係止構造と(い)号物件における抑止板係止構造とは、以下に説明するとおり、抑止板の支持並びに透明板の抑止固定という目的を達成する機能を異にし、その結果全体としての作用効果の上にも差異を生ぜしめているものと認めざるをえない。
すなわち、A実用新案においては、抑止板を透明板の裏面に当てて切込部を本体から突設した取付け片に嵌入すると、切込部が取付片先端の大径の頭部直下にくい込み、抑止板はカバー本体に係止され、切込みのない側の長縁部が透明板の端縁裏面に接し、切込みのある側の長縁部がカバー本体の裏面に接する。抑止板の切込みのない側の長縁部が透明板を抑止する際透明板との間に生ずる圧力は、取付け片の頭部を結んだ線を軸として抑止板を回転させるように働らき、抑止板の切込みのある側の長縁部をカバー本体裏面に圧着する。その結果、抑止板は透明板から受ける外圧に抗して抑止板の全長にわたり平均した力で透明板を抑止し、これを受け縁に固定すると共に、抑止板の面積の半分以上がカバー本体裏面に圧着されて大きな摩擦が生ずるため、抑止板のスリツプによる取付片からの脱落が防止される。A実用新案における抑止板係止構造は右のような機能を有しているものと認められるから、これによつてA実用新案が、透明板の着脱が容易でありながら本体に取り付けられた透明板は抑止板によつて確実に抑止固定され、外部から多少の振動が加えられても透明板が本体から脱落して破損するような虞れがないとの作用効果を奏することは見易いところである。
ところが、(い)号物件においては、抑止板の両端を窓孔周縁部背側の左右下隅に溶着した受金に上方から嵌入すると、抑止板は左右両端部のみが挾持され、その中間部がいわば架僑された状態でガラス板の端縁裏面を圧する。抑止板とガラス板との間に生ずる圧力は抑止板を長手方向に反らせるよう働らき、抑止板左右両端の受金によつて担持される。その結果抑止板はガラス板に対する抑止固定の目的を達するが、ガラス板に対する抑止圧は全長にわたり必ずしも均一ではない。また、
(い)号物件における抑止板の受金は窓孔の下側のみに設けられ、抑止板両端を挾持するほか下側からも支持しているから、計器函が上下正しく置かれている場合には抑止板が受金から外れる虞れはないが、上下正しく置かれていない場合や、窓孔の上側にも抑止板係止機構を設けた場合には、抑止板の両端部と受金との間並びに抑止板の中間部とガラス板との間にそれぞれ生ずる摩擦力が抑止板の落下防止に寄与するものである。しかるに、ガラス板は摩擦係数が小さく、抑止板と受金との接触面積は抑止板全体の面積の一小部分にすぎないから、外部から振動が加わると抑止板がその自重により落下する虞れがないではない。(い)号物件における抑止板係止構造は右のようにA実用新案のそれと機能を異にしており、そのため、(い)号物件はガラス板との抑止固定の確実度においてA実用新案に比し若干遜色があるものと推測せざるを得ない。現に、証人【C】、同【D】の各証言によると、原告も嘗て(い)号物件と同じ構造の計器函カバーを製造していたが、製品の輸送中に抑止板が受金から抜け落ちてガラス板が落下破損するという実例があつたことが認められる。
そうすると、(い)号物件における「窓孔の周縁部背側の左右下隅に受金を溶着し、抑止板の両端を受金に嵌めてガラス板を抑止するようにした」構造と、A実用新案における「窓孔の周縁部の背側にカバーと一体に合成樹脂をもつて抑止板の取付け片を突設し、その先端に大径の頭部を形成し、抑止板に取付け片が嵌まる程度の幅の切込みを設け、切込みに取付け片を嵌めて透明板を抑止するようにした」構造とは、構造上差異があるというだけではなく、抑止板の支持並びに透明板の抑止固定に関し、その技術思想を全く異にするものであり、両者の構造上の差異をもつて被告主張のように均等手段の置換又は単なる設計変更にすぎないものと解することはできない。
(四) 以上によつて明らかなとおり、(い)号物件はA実用新案と同一又は均等考案を実施した製品であるとは認められないので、A実用新案につき先使用による通常実施権を有するとの被告の抗弁はこれを採用し得ない。
四 次に、C実用新案権についての先使用の抗弁について判断する。
(一) 証人【B】の証言、被告代表者尋問の結果及びこれによつて真正に成立したと認める乙第八号証の一ないし三、被告の製品であることにつき当事者間に争いのない検乙第二号証を総合すると、前記有限会社大西製作所は昭和三三年項からその代表者【A】の考案にかかる別紙(は)号図面及びその説明書に記載の計器取付け金具((は)号物件)の製造販売をはじめ、その後設立された被告会社が右事業を継承し、C実用新案が出願された昭和三八年一二月三〇日当時被告会社において(は)号物件の製造販売事業を実施していたことが認められる。
(二) そこで、(は)号物件がC実用新案の技術思想を実施した製品と認め得られるか否かについて検討する。
C実用新案の構成要件が、その登録請求の範囲に記載されたとおり「断面コの字形の樋状金具本体1の中間片/aに止螺子7の挿通孔3を長手方向に沿つて開孔すると共に、この中間片/aの両端を延長して下側にL状に屈曲し、計器函5の正面に設けた案内条溝4に係合する係止脚2、2を形成した」計器函における計器取付金具であることは前記の如く当事者間に争いがなく、なお、成立に争いのない甲第六号証(実用新案公報)の図面の表現を参酌すると、登録請求範囲にいう「中間片/aの両端」とは、中間片/aの左右両末端部を意味するのではなく、中間片/aの両側端縁部を意味するものと解される。他方、前掲乙第八号証の三、検乙第二号証及び被告代表者本人尋問の結果によれば、(は)号物件はもともと両側壁に係止脚の案内条溝を設けた計器函に使用すべく設計製作された計器取付金具であつて、
その構造は、別紙(は)号図面に表現されているとおり、「断面<11639-006>字形の樋状金具本体の中間片1に止螺子の挿通孔を長手方向に沿つて開孔すると共に、中間片1の左右両末端部をそのまま延長して、下側を<11639-007>状に屈曲し、係止脚2、2を形成した」ものであることが認められる。この両者を対比すると、C実用新案にかかる計器取付金具は、中間片の両側端縁部を下方に屈曲して係止脚とした構造であるから、その結果係止脚が片側に二本づつあり、中間片の中辺部が二本の係止脚の中間から金具長手方向左右外側に突出するのに対し、(は)号物件においてはかかる構造を備えていないことが明らかである。
(三) 被告は、(は)号物件とC実用新案との間における右の程度の構造上の差異は、全体としての作用効果上格段の差異を生ぜしめず、且つ、当業者にとり一方から他方を推考することが容易であるから、(は)号物件とC実用新案とは結局均等の関係にある旨主張する。
ところで、A実用新案にかかる計器取付金具は、正面に2条の係止脚案内条溝を設けた計器函に使用するものであることは、その登録請求範囲の記載自体に徴して明白であつて、中間片に積算電力計その他の計器の下部二箇所を螺子止めし、係止脚を計器函の案内条溝に係合させて計器を計器函に取り付ける形式の計器取付け金具においては、中間片ができるだけ長く、中間片に設ける螺子取付長孔の左右両末端の間隔が広いものほど、幅の広い計器の取付が可能であり、従つて計器函に取り付けうる計器の範囲を拡大しうる点で有利であることは明白である。係止脚案内条溝が計器函の両側壁にある計器函に使用する計器取付金具にあつては、(は)号物件におけるように係止脚を中間片の左右両末端部に設けても、これによつて計器函の幅に近い程度の大きい計器を取り付けるのに殆ど支障を来さない。しかるに、計器函の大きさが同一である限り、正面に2条の係止脚案内条溝を設けた計器函は、
両側壁に係止脚案内条溝を設けた計器函よりも案内条溝の間隔が狭くなるため、これに使用する計器取付金具の構造が(は)号物件の如く中間片の左右両末端部に係止脚を設けたものであるときは、中間片の長さが案内条溝の間隔に制約される結果、取り付けうる計器の大きさも制約を受ける。
そこで、正面に2条の係止脚案内条溝を設けた計器函に使用する計器取付け金具にあつては、取り付けうる計器の寸法の範囲を拡大するため中間片の長さが係止脚案内条溝の間隔に制約されないような技術を用いることが要望される。
前掲甲第六号証(実用新案公報)の詳細な説明欄の記載、原告の製品であることにつき当事者間に争いのない検甲第九号証の一、二と証人【E】の証言を総合すると、C実用新案の出願前には、正面に2条の係止脚案内条溝を設けた計器函に使用する計器取付金具として、金具本体とは別個に形成した係止脚を断面コの字形の金具本体の中間片の左右両末端より内方の下面に鋲をもつてかしめ止めした構造のものが市販されていたことが認められ、右市販品の構造は前叙技術的要求を一応満足させたものということができるが、止鋲をかしめる際に金具本体が変形して上下の摺動作用が不円滑となり、従つて計器の取付操作を円滑に行なうことができない欠点があり、また、取付金具の製作に当り工賃、材料費が嵩む欠点があつた。C実用新案は、金具本体の一部を利用して中間片左右末端部よりも内方に係止脚を形成したことにより、従来の市販品にみられた前記欠陥を克服したものと認められるので、中間片の長さが2条の係止脚案内条溝の間隔に制約されないようにするため、
係止脚を中間片の左右両末端部より内方に設けるとの着想は、C実用新案独自の着想ではないにせよ、その技術思想の一特徴であることを失なわないものというべきである。
しかるに、(は)号物件は前述のとおり、もともと両側壁に係止脚案内条溝を設けた計器函に使用すべく設計製作されたもので、
中間片の長さが案内条溝の間隔に制約されないようにするとの技術的要求は当初から存在していないのであり、従つて右技術問題の解決について何等の考慮も払われていないのはむしろ当然である。このように、(は)号物件はその技術課題の出発点においてC実用新案とそもそも異なつているのであるから、その相違に由来しておのずから前述の構造上の差異が生じたものというべく、両者はその技術思想を異にすることは多言を要しないところであつて、被告主張のように(は)号物件がC実用新案と均等の関係にあるとは到底解せられない。右判断に牴触する乙第一二号証(鑑定書)中の鑑定意見は採用し難い。
(四) 右に説明したとおり、(は)号物件はC実用新案と同一又は均等考案を実施した製品であるとは認められないので、C実用新案につき先使用による通常実施権を有するとの被告の抗弁は失当として排斥を免れない。
五 以上の次第であるから、被告による(イ)号物件及び(ハ)号物件の製造、販売、使用及び拡布の行為は、それぞれA実用新案及びC実用新案についての原告の実用新案権を侵害するものといわねばならない。よつて、原告の本訴請求のうち、
被告に対し右各行為の差止並びに被告の製造に係る(イ)号物件及び(ハ)号物件の廃棄を求める部分は、正当として認容すべきである。
六 なお、原告は(イ)号物件及び(ハ)号物件の製造に供した設備の除却を併せ求めているけれども、実用新案法第27条第2項の規定に基づいて侵害の相手方に対し侵害の行為に供した設備の除却を求めるに当つては、除却請求の対象となる設備を具体的に特定して請求の趣旨中に掲げることを要する。本件の如く、単に(イ)号物件及び(ハ)号物件の製造に供した設備と表示しただけでは、いかなる設備がこれに該当するのかを客観的に識別することができないので、かかる請求は不特定の譏りを免れない。従つて、右請求に関する部分については、原告の訴を不適法として却下すべきである。
七 よつて、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第92条但書、仮執行の宣言につき同法第196条第1項を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 大江健次郎
裁判官 近藤浩武
裁判官 庵前重和
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