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事件 昭和 45年 (行ウ) 106号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1971/01/29
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 被告が原告の昭和四一年五月二八日付実用新案登録願(昭和四一年実用新案登録願五〇〇三三号)について昭和四三年九月三〇日にした不受理処分を取り消す。
訴訟費用は、被告の負担とする。
事実及び理由
全容
原告訴訟代理人は、主文と同旨の判決を求め、その請求の原因として、
「一 原告は、昭和四一年五月二八日付で被告に対し、考案の名称をトイレツト・ペーパー、考案者を原告とする実用新案登録の願書を提出した。
二 被告は、原告の右出願を右同日付で出願番号昭和四一年実用新案登録願第五〇〇三二号として受理しながら、昭和四三年九月三〇日付で右出願につき、図面の添付がないという理由で不受理処分(以下「本件処分」という。)をした。
三 そこで、原告は、昭和四三年一〇月二五日付で、被告に対し、本件処分について異議申立てをしたが、被告は、昭和四五年五月一六日付で異議申立棄却の決定をした。
四 しかしながら、本件処分は、つぎの理由によつて違法である。
(一) 現行実用新案法上、特許庁長官には、実用新案登録出願について不受理処分をする権限がない。
実用新案法第55条第2項で準用する特許法第17条第2項によると、同項第二号によつて、「手続がこの法律又はこの法律に基く命令で定める方式に違反しているとき」、特許庁長官は、相当の期間を定めて手続の補正をすべきことを命ずることができ、この期間内に補正がされないときは、実用新案法第55条第2項で準用する特許法第18条により、出願を無効とすることができるのである。換言すれば、現行法上不受理処分という行政処分は、これをしえないのであつて、出願はいつたん受理され、その後に無効処分という行政処分がされるべきである。
昭和三二年通商産業省令第二号で改正された旧実用新案法施行規則(大正一〇年農商務省令第三四号)第3条ノ二、および同規則第7条で準用される昭和三二年通商産業省令第二号で改正された特許法施行規則(大正一〇年農商務省令第三三号)第10条ノ二には、特許庁長官が不受理処分をすることができる場合の規定があり、これを根拠として不受理処分をすることができたのである。しかるに、現行実用新案法ならびに特許法の制定とともに制定された実用新案法施行規則(附則第二項)ならびに特許法施行規則(附則第二項)によつて、旧実用新案法施行規則ならびに旧特許法施行規則は廃止され、したがつて、右両現行施行規則施行の日である昭和三五年四月一日からは、不受理処分はその法的根拠を失つたのである。出願の不受理処分は、いわゆる形式的要件の不備を理由として出願を拒否する行為であり、それは、実用新案法に基づいてする実用新案登録出願の出願権を侵害するものであるから、法律の根拠を必要とするものである。それにもかかわらず、現行法上は右のように不受理処分をする法的根拠となる規定がない。
よつて、被告のした本件処分は、違法である。
(二) 仮りに、不受理処分という行政処分が現行実用新案法上許されるものであると解されるとしても、本件の場合には不受理処分をすべきではなく、相当の期間を定めて補正を命じ、補正の機会を与えるべきであつたのに、これをしなかつたから、本件処分は違法である。
実用新案法は、いわゆる先願主義を採用している。したがつて、出願後ただちに不受理処分がされたならば、原告は、速かに補正をして出願することによつて、不受理処分による不利益を免れることができるが、本件のように出願から二年四か月も経過して不受理処分をされたのでは、技術が日進月歩する現今、原告は再出願によつてその不利益から逃れることができないのであり、そのような場合にこそ、被告は、相当の期間を定めて補正の機会を与えるべきである。
五 よつて、本件処分の取消を求める。」と述べた。
被告指定代理人は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求め、
答弁として、
「一 原告主張の請求原因一ないし三の事実を認め、同四の主張を争う。
二 原告は、現行実用新案法上、特許庁長官は、実用新案登録出願について不受理処分をする権限がないと主張するが、私人の申請行為が法律に定めた方式に違反する場合には、当該申請の相手方である行政庁がこれを不受理処分に付しうることは、一般に認められているところである。実用新案法第55条第2項により実用新案登録に関する手続に準用される特許法第17条第2項第2号は、方式違反の手続について補正がされうる場合に関し規定しているが、同号の規定はすべての方式違反について補正を許す趣旨のものと解すべきではなく、補正を許すことがいちじるしく不合理なものは補正の対象とならないものというべきである。
ところで、実用新案とは、物品の形状構造または組合せに係る考案のことをいうものであるから(実用新案法第1条)、実用新案にあつては、考案の内容を表現するために、図面がきわめて重要な意味をもつてくる。
したがつて、実用新案登録出願においては図面の添付が必要不可缺である。このことは、特許法第36条第2項が、特許出願に関し、「明細書及び必要な図面を添付しなければならない」と規定しているのに対し、実用新案法第5条第2項は、実用新案登録出願に関し、「明細書及び図面を添付しなければならない」と規定していることからも明白である。
そして、実用新案法は先願主義をとつているのであるから、考案の内容は出願時において図面によつて特定されていることが必要であり、出願後に図面の追完を許すこととすれば、出願後に考案の内容を変更する可能性が生じ、不合理な結果を招来することとなる。
したがつて、実用新案登録出願における図面の欠缺を、補正が許容されるところの方式違反ということはできない。
現行法のもとにおいては、実用新案登録出願の不受理処分に関しなんらの規定も設けられていないことは原告主張のとおりであるが、しかし、このことは、不受理処分がまつたく認められないことを示すものではない。
三 原告は、出願後二年四か月後に不受理処分がされたことによつて不利益を被ることを免れえないと主張するが、仮りに原告がそのことによつて損害を被るとしても、それは別途損害賠償の請求によつて解決すべき問題であつて、右事由をもつて不受理処分の取消事由とすることはできない。」と述べた。
立証(省略) 理 由 原告が昭和四一年五月二八日付で、被告に対し、考案の名称をトイレツト・ペーパー、考案者を原告とする実用新案登録の願書を提出したところ、被告が昭和四三年九月三〇日付で右出願につき、図面の添付がないという理由で本件不受理処分をしたことは、当事者間に争いがない。
原告は、不受理処分なるものは現行実用新案法上これをしうる法的根拠がないと主張するのに対し、被告は、私人の申請行為が法律に定めた方式に違反する場合には、当該申請の相手方である行政庁がこれを不受理処分に付しうることは一般に認められているところであると争うので、この点について考える。
不受理処分とは、一般に、行政庁に対して申請をする権利、いわゆる申請権を認められた私人がする行政庁への申請行為に形式的な瑕疵があるため、当該行政庁が申請の実体について審理その他の行為をすることなく、形式的な瑕疵があることを理由にその申請を拒否する却下処分であると解すべきものである。このように、不受理処分は、私人に権利として認められた申請という行為を拒否し、却下する処分であるから、その処分をするについては、法の根拠を必要とするものであることはいうまでもない。法の根拠を要するということは、しかしながら、かくかくの場合には却下処分としての不受理処分をすることができるといつたような法の具体的な明文の規定がなければならないということではない。申請が一応申請としての体裁を具えていながらも、申請が申請として成立するために法によつて要求される本質的要件を備えておらず、しかも、その瑕疵が補正によつて治癒されえないような場合には、不受理処分をしうることについての法律の明文の規定を要せず、申請を却下するという意味で、これを不受理処分に付しうるということは、けだし、法の当然に予定しているところとみるべきだからである。いかなる態様の瑕疵がある場合に、申請が申請としての本質的要件を欠き、またその追完が許されないものとすべきかについては、当該申請がいかなる法令によつて認められたものであるか、また当該申請によつて達せられるべき目的、その申請行為の性質等によつて異なり、一概に決めることはできず、各法令を検討解釈して決定すべき問題であるといわなければならない。
実用新案法第55条第2項で準用する特許法第17条第2項第2号、同第18条によると、「手続がこの法律又はこの法律に基く命令で定める方式に違反しているとき」、特許庁長官は、相当の期間を定めて手続の補正をすべきことを命ずることができ、この期間内に補正がされないときは、特許庁長官は手続を無効にすることができるのであるが、この規定は、これを実用新案登録出願についていえば、出願に方式違反がある場合に、特許庁長官に対し、かならず先ず補正命令を出すべきことを要求しているものと解すべきものではない。出願が出願としての本質的要件を欠いており、しかも、補正によつてこれを追完することが法の全体の建前からいつて許されないような場合には、特許庁長官は、補正を命じないで、出願却下の意味で出願の不受理処分をしうるものというべきである。昭和三二年通商産業省令第二号で改正された旧実用新案法施行規則(大正一〇年農商務省令第三四号)第3条ノ二、および同規則第7条で、準用される昭和三二年通商産業省令第二号で改正された特許法施行規則(大正一〇年農商務省令第三三号)第10条ノ二には、特許庁長官が手続に係る書類等を受理しない場合についての規定があつたが、現行実用新案法ならびに現行特許法の施行とともに右両規則は廃止され、現行実用新案法および同施行規則、ならびに現行特許法および同施行規則の中には、いずれも右両旧施行規則の規定に該当するような条文が存在しないことは原告主張のとおりであるが、
右両旧施行規則の廃止によつて不受理処分がすべてその法的根拠を失つたものということはできないのである。
そこで、次に、図面の添付を欠いた原告の本件実用新案登録出願が出願としての本質的要件を缺いており、かつ、補正によつてその追完をすることが許されないものであるかどうかについて考察する。
実用新案とは、物品の形状構造または組合せに係る考案のことをいうものであるから(実用新案法第1条)、実用新案にあつては、考案の内容を実現するために図面がきわめて重要な意味をもつていることは被告主張のとおりである。しかして、特許法第36条第2項が、特許出願に関して、願書には、「明細書及び必要な図面を添付しなければならない」と規定しているのに対し、実用新案法第5条第2項は、実用新案登録出願に関し、願書には、「明細書及び図面を添付しなければならない」として、かならず図面を添付すべきことを要求していることもまた被告のいうとおりである。しかしながら、これらのことから、実用新案登録の出願にあつては、いかなる場合にも図面を添付することが不可欠であり、図面の添付のない出願は、出願としての本質的要件を缺き、後に図面の添付を追完することによつてその瑕疵を治癒することができないものであるとするのは妥当ではない。実用新案法は、先願主義を採つているのであるから、考案の内容は出願時において特定していることが必要であり、願書に添付した明細書または図面について出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正がこれらの要旨を変更するものであるときは、
審査官の決定で、その補正は却下さるべきものであるから(実用新案法第13条
特許法第53条)、図面の添付が考案の内容を特定するのに必要な実用新案登録出願にあつては、その図面の添付を缺く出願は、出願としての本質的要件を缺くものであり、かつ補正を許されないものとして出願の不受理処分を受けることのあるは、けだしやむをえないところというべきであるが、実用新案登録出願の中には、
考案の内容を特定するについて、添付図面がほとんど重要な意味を有しないものもありうると考えられるのであるから、そのような場合にたまたま願書に図面が添付されていなかつたからといつて、その願書をもつて、願書としての本質的要件を缺くものとして、これに対して補正を命ずることなく、ただちに不受理処分をすることは正当ではないといえるのである。実用新案法第5条第2項が前記のように、願書には図面を添付しなければならないと規定していることと、図面の添付がない願書でも願書としての本質的要件を缺くものでないものがありうるということとは矛盾するものではない。
これを本件についてみるに、成立について争いのない甲第一号証の一、二(本件実用新案登録出願の願書および明細書)によれば、本件出願にかかる実用新案登録請求の範囲は、「ロール状のトイレツト・ペーパーに嗅気止めの薬品を混入して任意のコマーシヤル文字を印刷したトイレツト・ペーパーの構造」であり、右出願は、他の要件が具わつているかぎり実用新案登録を受けうるものであり、かつ、右出願については、その「考案の詳細な説明」の項の記載に徴しても、図面を添付することとがほとんど重要な意味を持たないもの、換言すれば後で図面を添付することによつて出願を補正しても、それによつて原出願の要旨が変更されるということが考えられないものであり、したがつて、図面の添付を欠いた出願がなされたとしても、そのことによつてただちに出願の本質的要件を欠いた出願としてその補正も許されないものであるということはできないものであり、しかも、願書中「添付書類目録」の項には、明細書のほかに図面も掲記されており、出願人において図面提出の意図がないことが明らかな場合でないことが認められる。そうとすれば、本件の場合、被告としてはすべからず、実用新案法第55条第2項、特許法第17条第2項により、原告に対して、相当の期間を指示して添付図面の追完を命ずべきであつた。しかるにことここに出でず、図面の添付がないという理由でただちに出願の却下処分である本件不受理処分をしたことは、結局、法の根拠なくして原告の権利に属する実用新案登録請求権を奪つたこととなり、違法であるといわなければならない。
よつて、本件処分の取消を求める原告の本訴請求は、他の点について判断するまでもなく、その理由があるから、これを正当として認容することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条を適用し、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 高林克巳
裁判官 元木伸