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事件 昭和 46年 (ヨ) 2号
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裁判所 青森地方裁判所 弘前支部
判決言渡日 1972/05/22
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事仮処分
主文 一、債権者は保証として金二〇〇万円を二〇日以内に供託せよ。
二、債権者が右金員を供託したときは(一) 債務者は別紙目録(一)および図面(一)表示の果実袋を製造、販売または頒布してはならない。
(二) 債務者の別紙目録(一)および図面(一)表示の果実袋の製品、半製品(同表示の完成品の構造を具備しているが、いまだ製品として完成するに至らないもの)および同果実袋の製造に供している自動製袋機に対する占有を解いて、青森地方裁判所弘前支部執行官にその保管を命ずる。
三、訴訟費用は債務者の負担とする。
事実及び理由
全容
第一、当事者の求めた裁判(債権者)債務者は別紙目録(一)および図面(一)表示の果実袋を製造、販売または頒布してはならない。
債務者の別紙目録(一)よび図面(一)表示の果実袋の製品、半製品および右果実袋の製造に使用する自動製袋機に対する占有を解いて、青森地方裁判所弘前支部執行官にその保管を命ずる。
(債務者)本件仮処分申請を却下する。
第二、当事者の主張一、債権者の申請の理由1 債権者の登録実用新案権 債権者は防疫二重袋について、昭和三七年四月二三日実用新案登録の出願(出願番号、実願昭三七―二〇九九七号)をなし、昭和三九年四月二三日、出願公告(公告番号、実公昭三九―一〇五四二号)を経て、同年九月二五日、登録第七四八二八〇号をもつて実用新案登録をうけ、現にこれが登録実用新案権者である。
2 登録請求の範囲(一) 本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書に登録請求の範囲として記載されたところは別紙目録(二)および図面(二)のとおりである。
(二) もつとも、本件実用新案公報における図面によると、別紙図面(二)の第三図が別紙図面(三)の如くに表示されているけれども、右実用新案公報の第一図等に照らせば、これが薄紙の底部の折曲部2の位置の表示は誤記であることが明白である。そしてかような誤記は訂正審判の対象となるものであるが、誤記についての訂正審決は単に実用新案公報中の誤記を公権的に確認する効力を有するにとどまり、新たな効果を発生させるものではないから、訂正審決のなされる以前においても、これが誤記を訂正して解釈することは妨げられないものというべく、結局本件実用新案公報の図面のうち第三図(別紙図面(三))は別紙図面(二)の第三図のとおり訂正することは許されるものである。
3 本件実用新案の要部および作用効果(一) 本件実用新案の要部は防疫二重果実袋の構造であつて、
(1) 原紙の抄造工程中有機水銀剤などの防菌剤を浸透させその表面に蝋引を施した防菌紙を内側にして、これを底部の折曲部および側方の一部だけ防菌紙より大きい薄紙に重ねて二つ折りにすること、
(2) 右の如く防菌紙と薄紙を二つ折りにするとともに、薄紙の側方の折曲部と防菌紙の端部とを反対側に折曲げ、薄紙の折曲部を反対側の薄紙と糊着し、さらに薄紙の底部の折曲部を反対側に折曲げて薄紙と糊着することという二つの要件よりなつているものというところにある。
(二) 而して、本件実用新案は右の二つの要部からなる防疫二重果実袋であることにより、つぎのような作用効果をあげることをその目的とするものである。即ち、従来の防疫二重果実袋は薄紙を内側に、防菌紙を外側にして袋体を形成していたため、長期間風雨に晒されることにより、自然と防菌紙の紙質を損じるとともに、薬効を減退し、更に蝋引紙は糊着ができなかつたため巳むをえずミシンで縫着して袋体を形成していたのであるが、本件実用新案は(1)防菌紙なるものが、その原紙の抄造工程中に防菌剤を浸透させ、かつその表面に蝋引を施してあるものであるから、直接果実の肌にこれが接触しても薬害を生ずるおそれがない結果、防菌紙を内側にし、普通紙を外側にすることができ、従つて日光の直射を避けるとともに、防菌紙を風雨より保護して薬効の減退を防止することができること、(2)薄紙を外側にして形成されるため、その一部がそれぞれ反対側の薄紙に接するところから、これを糊着することができ、その結果、製袋機による製造が極めて能率的であつて、かつ大量生産ができること、というところにある。
4 債務者の製品とその製造、販売 債務者は果実袋の製造、販売等を業としているものであるが、業として、別紙目録(一)および図面(一)表示の果実袋(検疎甲第二号証―以下本件果実袋という。)を自動製袋機を使用して製造し、これを主として青森県下において販売している。
5 債務者の製品―イ号物件―の特徴(一) 債務者の製品は防疫二重果実袋であつて、その構造上の特徴は(1) 原紙の抄造工程中に防菌剤を浸透させ、その表面に蝋引を施した防菌紙を内側にして、これを底部の折曲部および側方の折曲部だけ防菌紙より大きい新聞紙などの薄紙に重ね、防菌紙の側方の折曲部のみを内側に折曲げて防菌紙に重ね、ついで薄紙を防菌紙とともに中部より内側に二つ折りすること、
(2) 右の如く二つ折にすると同時に、薄紙の側方の折曲部を反対側に折曲げて反対側の薄紙と糊着し、さらに薄紙の底部の折曲部を反対側(内側)に折り曲げて薄紙と糊着することというところにある。
(二) 而して、本件果実袋は右の如き特徴を有することにより、前記3の(二)に記載したところと同一の作用効果をあげることを目的とするものである。
6 本件実用新案と債務者の製品との対比(構造上の対比)(一) 債務者の本件果実袋は、本件実用新案にかかる防疫二重果実袋の構造が「防菌紙と薄紙を二つ折りにするとともに、薄紙の側方の折曲部を防菌紙の端部とともに反対側に折曲げる。」というものであるのに対し、「まず防菌紙の側方の折曲部のみを内側に折曲げ、ついで薄紙を防菌紙とともに中部より二つ折りにする」という点を異にするほか、その余の点ではなんら異にするところはなく、本件実用新案の要部を構成する前記3の(一)および(二)の各要件はこれをすべて備えていること明白である。
(二) そして、右の相違点は、結局、完成した防疫二重果実袋の側方における薄紙と防菌紙との重なり方の相違をもたらすものであることになるけれども、これは完成した防疫二重果実袋の効果になんらの差異をきたすものではないから右の相違をもつて構造上の差異と目すべきものではない。(なお本件実用新案にあつては、
薄紙の側方の折曲部を反対側に折曲げて薄紙と糊着するというものであるから、薄紙の両端のみが糊着されているにすぎないものである。)また、本件果実袋は、防菌紙より大きい薄紙の側方部の位置が本件実用新案のそれと異るとろがあるが、これも右と同様、構造上の差異をもたらすものではないこと明らかである。
(三) ところで、本件実用新案公報の図面の第三図における薄紙の底部の折曲部の位置は明らかに誤記であるから、これを訂正して解釈することが許されるべきことは前記のとおりであるが、仮に、これが許されないとしても、右薄紙の底部の折曲部はただこれを反対側に折曲げて薄紙と糊着することにより、単に外袋の底部を閉じる作用を有するにすぎないものであつて、他に特段の作用効果を目的とするものではないから、結局右薄紙の底部の折曲部が左右いずれに位置するかは本件実用新案の要部とはなつていないものというべきであり、このことは本件実用新案における「考案の詳細な説明」の項に右底部の折曲部の位置を左右いずれにするか、およびそれによる特別の作用効果についての記載がなんらないことが端的に物語つている。
(四) 更に、本件実用新案は、もとより防疫二重果実袋の構造に関するものであつて、その製造方法ないしは製造工程に関するものではないのであるから、完成した本件果実袋について端的にその構造と本件実用新案とを対比すべきであり、従つて、本件果実袋の製造方法ないしは製造工程のいかんは問題とすべき筋合のものではない。また本件実用新案にあつては、その防菌紙の色につきなんらの限定をも加えていないところであるから、債務者が本件果実袋に使用している防菌紙の色のいかんは全く構造上の差異をもたらすものでないことはもちろんであるとともに、本件果実袋に用いられている防菌紙(FOM)につき特許権が存するものとしても、
これをもつて構造上の差異ということはできず、しかも右の特許権は存続期間の経過によつて既に消滅しているものである。
(作用効果の対比)(一) 本件果実袋が前記のとおりの構造を有することによる作用効果は前記5の(二)のとおり本件実用新案の目的とする前記3の(二)の作用効果と同一である。
(二) ところで、本件果実袋は外袋だけを除去して使用するといつたものではないうえ、本件実用新案にかかる防疫二重果実袋においても、外袋を除去することは可能な事柄であるから、これをもつて本件果実袋の構造による特別の作用効果ということはできず、また、本件果実袋に果実の着色を良好にするとともに日焼を防止するといつた効果があるというのは、防菌紙が着色紙であることによるものであつて、本件果実袋の構造による効果でないことはもとよりである。(なお、本件実用新案にかかる防疫二重果実袋を使用した結果、一時、果実に害を生じたことがあつたが、これは薄紙を糊着するにあたり使用した糊の化学的成分に原因が存するものであつて、本件実用新案の構造上の欠陥に起因したものではない。)以上のとおり、本件果実袋は、本件実用新案とその構造および作用効果をすべて同一にするものであるから、本件実用新案の技術的範囲に属するものであることが明らかである。また仮に前記6の(構造上の対比)(一)における構造上の差異によつて本件果実袋の構造が全体として本件実用新案とその構造を異にすることになるとしても、本件果実袋は実用新案法第17条にいわゆる本件実用新案を利用したことになるものである。従つて、債権者は実用新案法第27条にもとづき、債務者に対して、本件果実袋の製造、販売行為の停止と果実袋の廃棄および右製造の用に供している自動製袋機の除却、ならびに損害賠償等を請求する権利を有するものである。
7 保全の必要性 債権者は本件実用新案の登録権利者であること前記のとおりであるとともに、柴田屋加工紙株式会社に対し、本件実用新案の実施を許諾し、同会社はこれが防疫二重果実袋を製造し、主として青森県下などにおいて販売しているところ、債務者は債権者の停止請求にもかかわらず、本件果実袋を大量に製造し、青森県下においてこれが販売を継続しているものであつて、本案判決確定に至るまで、債務者が右行為を継続するにおいては、債権者は本件実用新案の登録権利者として、少くともこれが実施料等に相当する損害をうけるのみならず、さらには柴田屋加工紙株式会社の本件実用新案にかかる防疫二重果実袋の売上が減少し、これがため同会社の大株主である債権者は損害を受けることは明らかであり、しかも債権者の蒙るこれらの損害額の立証は極めて困難であるため本案判決の確定をまつてその救済を受けるとすると著るしい損害を被むることが明らかであるから保全の必要性がある。
二、債務者の申請の理由に対する答弁申請の理由のうち(一) 1の「債権者の登録実用新案権」の項は認める。
(二) 2の「登録請求の範囲」の項(一)のうち図面(二)の第三図の記載は否認し、その余は認める。同(二)の実用新案公報における図面中の第三図が別紙図面(三)の如く表示されていることは認めるが、その余の主張は争う。右第三図が仮に誤記であつたとしても、実用新案公報中の誤記は訂正審判の対象となり(実用新案法第39条)、訂正を認める旨の審決があつてはじめて訂正の効果が遡及するものであるから(同法第41条、特許法第128条)、未だこれを誤記として訂正する旨の審決のない本件においては、実用新案公報中の図面を独断で誤記として債権者主張の如く訂正して解釈することは許されない。このことは実用新案登録出願にあつては、物品の形状構造または組合せにかかる考案に限定して保護の対象とされるものであるところから、図面は重要な役割を占めるものであるため、特許出願の場合とは異なり、必ず図面を添附しなければならないとされていることに照らすと、誤記が当該実用新案の要部にかかるものであるかどうかを問わないというべきである。
(三) 3の「本件実用新案の要部および作用効果」の項はいずれも認めるが、債権者が本件実用新案の構造から生ずる作用効果として主張しているもののうち、防菌紙が直接果実の肌に接触しても薬害を生ずるおそれがないという点は、後述のとおり富士商事株式会社が特許権を有する防菌紙自体の効果であつて、本件実用新案の構造による効果ではなく、また、防菌紙を内側に、普通紙を外側にして日光の直射を避けるとともに防菌紙を雨風より保護して薬効の減退を防止するという点は、
後記のとおり富士商事株式会社が有する別紙目録(イ)および図面(イ)の実用新案の構造からも生ずるものであるから、これも本件実用新案の構造からのみ生ずる特別の作用効果ということはできず、さらに、薄紙を外側にして形成されているため、その一部がそれぞれ反対側の薄紙に接するものであるから糊着ができ、従つて製袋機による製造が極めて能率的で、かつ大量生産できるという点も後述のとおり既に公知の別紙目録(ハ)および図面(ハ)の考案においても同一の効果を生ずるものであるから、これまた格別本件実用新案の構造のみがもたらす新しい作用効果ということはできない。
(四) 4の「債務者の製品とその製造、販売」の項、および(5)の「債務者の製品―イ号物件―の特徴」の項のうち(一)の点は認める。同(二)の点も、そのような作用効果のあることは認めるが、後述のとおりそれのみにとどまるものではない。
(五) 6の「本件実用新案と債務者の製品との対比」の項は争う。
(六) 7の「保全の必要性」の項は争う。即ち、債権者はもとよりのこと柴田屋加工紙株式会社においても、現在本件実用新案にかかる防疫二重果実袋の製造、販売はしていないのであるから仮処分の必要性は全くない。なお債務者の本件果実二重袋を構成している新聞紙はそれ自体として果実袋を製造しうるものであり、また防菌紙(FOM)もそれ自体、富士商事株式会社において特許権を有するものであるともに、右防菌紙を用いて富士商事株式会社の実用新案にかかる果実二重袋等をも製造しうるのであつて、債務者は現に新聞紙製一重袋、および右実用新案にかかる果実二重袋を製造、販売しているものであるから「半製品」なるものは特定しえず、これが執行官保管を求めることは不当である。さらに、自動製袋機は後述のとおり公知考案である二重封筒の製袋機に設計上の変更を加えて製作したものであるから、これが自動製袋機自体の執行官保管を求めることもまた不当というべきである。
三、債務者の主張1 本件果実袋を製造、販売するに至つた経緯 りんご袋の製造、販売を業としていた債務者の代表者【A】は昭和三八年頃、数年来大流行していたりんごの斑点落葉病の防除に腐心していたところ、富士商事株式会社が別紙目録(イ)および図面(イ)表示の果実二重袋を開発して昭和三七年一二月一〇日、実用新案の登録出願をしていることを知り、(出願番号昭和三七年七四三四〇号、なおこれは昭和四〇年五月一九日、登録第七六九〇三六号として実用新案登録をうけている。)右果実二重袋が斑点落葉病に絶大な効果を有するばかりでなく、りんごの着色効果にもすぐれ、使用簡易、安価でもあつたところから、
債務者会社を設立するとともに、富士商事株式会社との間で、前記果実二重袋の内袋に使用するFOMと称する紙を同会社より購入し、債務者において、右FOMを必要なる大きさに裁断して二つ折りにしたうえ、新聞紙製の袋内に中入れして右果実二重袋を製造、販売するという内容の業務提携を行つた。(なお右FOMとは「原紙を抄造する工程中に防菌剤を浸透させた紙の表面に蝋引をした防菌紙」であつて、富士商事株式会社が、昭和三〇年三月九日登録番号二一二〇八八号をもつて特許登録を受けているものである。)その後、品種によつてはさらに斑点落葉病の防除を十分にする必要があつたこと、中入れ作業をより簡易にするために、右FOMの両端を糊着して筒状(いわゆる筒張り)にし、これを新聞紙製の袋内に挿入した別紙目録(ロ)および図面(ロ)表示の筒張果実二重袋を製造、販売するようになつたが、債務者はさらにこれを機械化することを考え、昭和三六、七年頃には公然知られていた考案であつた富士製袋機株式会社の製造、販売する別紙目録(ハ)および図面(ハ)表示の二重封筒等の二重袋の製袋機に改良を加えてもらつたうえ、これを購入し、現在同製袋機を使用して本件果実袋を製造、販売しているものである。
2 構造上の相違性 本件実用新案にかかる防疫果実二重袋の構造と本件果実袋の構造とは明らかに相違するものである。即ち、(一)本件実用新案にあつては薄紙は必ず防菌紙より底部の折曲部だけでなく、側方の折曲部も大きくなければならないのに対し、本件果実袋においては、薄紙は防菌紙より底部の折曲部のみ大きければよく、側方の折曲部が防菌紙より大きいことは必ずしも必要ではないものであること、(二)防菌紙より大きい新聞紙等の側方部の位置が異ること、(三)製造過程が異ること、即ち、本件実用新案にかかる防疫二重果実袋は@防菌紙と薄紙を二つ折りにし、A薄紙の側方の折曲部を防菌紙の端部とともに反対側に折り曲げて薄紙と糊着し、B底部の折曲部を反対側に折り曲げて薄紙と糊着する、という三過程よりなるのに反し、本件果実袋は@防菌紙の側方の折曲部を内側に折曲げて防菌紙に重ね、A新聞紙を防菌紙とともに中部より内側に二つ折りにし、B新聞紙の側方の折曲部を反対側に折曲げて新聞紙と糊着し、C底部の折曲部を内側に折曲げること、という四過程よりなる。(四)本件実用新案においては、「防菌紙を薄紙に重ねて二つ折りにすると同時に、側方の折曲部を防菌紙の端部とともに折曲げて薄紙と糊着する。」というのであるから、薄紙の一端と、薄紙の他端および防菌の双方とが糊着されるため、これが糊着部分は四重になるのに対し、本件果実袋は「新聞紙の側方の折曲部を折曲げて新聞紙の他端と糊着する。」というものであるから、新聞紙の両端のみが糊着されるものであり、またそのため、糊着部分は二重になるにすぎないものである。しかも本件果実袋は前記のとおり、富士商事株式会社の登録実用新案にかかる果実二重袋を利用した筒張り果実二重袋を製造するにあたり、公然知られている富士製袋機株式会社の二重封筒の製造方法に設計上の微差というにすぎない改良を施して利用したものというべきである。
3 作用効果の相異性 本件実用新案にかかる防疫二重果実袋と本件果実袋とが右の如き構造上の差異を有する結果その作用効果にも次のとおりの相違が生ずる。即ち(1)本件実用新案にかかる防疫二重果実袋においては、外側の薄紙と内側の防菌紙とが糊着されて重なつているので、外袋よりしみ透つた雨水が、右糊着部分(別紙図面(二)の3部分)にたまり、水切れが悪くなるため、水分が乾燥しにくくなるところから、被袋中の果実に右部分に沿つてシミができるなどの湿害が生じ、果実の商品価値をなくすおそれが極めて高いという欠陥があるうえ、その使用取扱方法の点についても、
果実の着色、日焼防止に必要な外袋の除去が困難であるのに対し、本件果実袋においては、外側の薄紙と内側の防菌紙とが糊着されていない結果、右の如き湿害の生ずるところがないうえ、外袋の除去も容易であること、(2)さらに本件果実袋の場合は、防菌紙(FOM)が青色であるため、果実の着色を良好にするとともに、
日焼防止の効果をも有している。
以上のとおり、本件実用新案にかかる防疫二重果実袋と本件果実袋とでは、その目的を達成するために具体化された技術的構成が全く異るのみならず、その技術的構成を実施する結果生ずる作用効果においても本件果実袋の方が優れているなど全く相違しているのであつて、これはもはや設計上の微差というべきものではない。
第三、証拠関係(省略) 理 由一、債権者の申請の理由1の債権者の登録実用新案権および同2の登録請求の範囲のうち(一)の点(但し図面(二)中の第三図の部分を除く。)ならびに本件実用新案に関する実用新案公報における登録請求の範囲として記載されているところの図面中第三図が別紙図面(三)の如く表示されていることはいずれも当事者間に争いがない。そこでまず、右の登録請求の範囲につき、実用新案公報中の図面第三図を別紙図面(二)の第三図の如く訂正してこれを解釈できるかどうかについて検討するに右両図面の相異点は、結局薄紙の底部の折曲部2の位置のみであることが明らかであるところ、前記当事者間に争いのない登録請求の範囲の記載文言および別紙図面(二)の第一図中底部の折曲部2と側方の折曲部3についての表示とに徴すると、本件実用新案公報中の図面第三図(別紙図面(三))の薄紙の底部の折曲部3の位置は本来別紙図面(二)の第三図のように表示されるべき誤記であること、
しかも、これが薄紙の底部の折曲部2はこれを反対側に折曲げて薄紙と糊着することにより結局のところ、単に薄紙で形成される外袋の底部を閉じるという機能を有するにとどまり、それ以上に特段の機能を発揮するものではないことが認められ、
従つて本件実用新案公報中第三図の右誤記部分を別紙図面(二)の第三図の如く訂正しても、これが訂正はなんら登録請求の範囲を拡張または変更することにはならないものと認められる。ところで、明細書又は図面における誤記は、登録請求の範囲を実質上拡張または変更するものでない限り、いわゆる訂正許可の審決によつて訂正されるものであり(実用新案法第39条)、しかも訂正する旨の審決が確定すると、その効果は登録出願のときにまで遡及するものとされているのであるが(同法第41条、特許法第128条)、右法条の趣旨とするところは、要するに、不完全に作成された明細書または図面をそのまま放置しておくと、登録にかかる考案を正確に開示すべきこれらの書面の本来の目的、使命が十分に達しえざるとともに、
実用新案の登録権利者にとつても、これが誤記を理由として第三者からいわゆる無効審判の請求をされたり、あるいは実用新案権を侵害されたりする恐れがあるなどの不都合があるため、これを防止し、取除こうとするところにあるものと解せられる。
而して、かような法意に照らすと、右訂正審決の制度は元来、行政庁が明細書または図面の誤記たることを公権的に確認することをその本質とするものと解せられるから、もとより誤記を訂正する旨の審決がない以上、明細書または図面それ自体が訂正せられる訳のものではないけれども、そうだからといつて、右誤記を訂正して解釈することが許されないものとするいわれはないと解するのが相当である。してみれば、本件実用新案の登録請求の範囲につき、その実用新案公報中の第三図(別紙図面(三))が前記のとおりの誤記である以上別紙図面(二)の第三図の如く訂正して解釈することは許されるものというべきであるから、結局、本件実用新案登録出願の願書に添附した明細書に登録請求の範囲として記載されたところは、
別紙目録(二)および図面(二)のとおりであると解することができるものということができる。
二、同3の本件実用新案の要部および作用効果、同4の債務者の製品とその製造、
販売、同5の債務者の製品―イ号物件―の特徴のうち(一)の点および本件果実袋が本件実用新案と同一の作用効果をも有していることはいずれも当事者間に争いがない。もつとも債務者は本件実用新案の作用効果とされる(1)防菌紙が直接果実の肌に接触しても薬害を生ずるおそれがないという点は、富士商事株式会社が特許権を有する防菌紙自体の効果であつて、本件実用新案の構造による効果ではない、
(2)防菌紙を内側に、普通紙を外側にして日光の直射を避けるとともに防菌紙を風雨より保護して薬効の減退を防止するという点は同じく富士商事株式会社が有する別紙目録(イ)および図面(イ)の実用新案の構造からも生ずるものであるから、これも本件実用新案の構造のみから生ずる特別の効果ではない、(3)薄紙を外側にして形成されるためその一部がそれぞれ反対側の薄紙に接するものであるから糊着ができ、従つて、製袋機による製造が極めて能率的であつて、大量生産ができるという点も既に公知である(別紙目録(ハ)および図面(ハ)においても、同一の効果を生ずるものである)、旨主張する。しかし、成立に争いのない疎甲第一、二号証(実用新案公報)の「考案の詳細な説明」の記載によれば、右(1)の防菌紙が直接果実の肌に接触しても薬害を生ずるおそれがないとの点は、なんら本件実用新案の作用効果とされているものではなく、ただ単に本件実用新案がその目的としている「防菌紙に対する日光の直射を避けるとともに防菌紙を風雨より保護して薬効の減退を防止する。」ということおよび「製袋機による製作が可能で極めて能率的であつて大量生産ができる。」という二つの作用効果を達成するため、その要部として「防菌紙を内側に、普通薄紙を外側にして形成する。」という構造をとるにあたつて、これが構造を可能にする由縁を説明したものにすぎないものであると認められるから、この点に関する債務者の主張は失当といわざるをえず、また成立に争いのない疎乙第二号証の一、二によると、富士商事株式会社は昭和三〇年三月九日、登録番号特許第二一二〇八八号をもつて、特許発明の範囲を「有機水銀剤の一〇〇〇倍前後の稀釈溶液に適量の硫酸化アルコール或はそのナトリウム塩の如き滲透剤を加え45C前後にし乍らこれを袋紙原紙に滲透せしめ次いで過剰溶液を排除し且つ乾燥して後、パラフインをこの袋紙原紙の両面に塗布或は滲潰させて加工することを特徴とする防疫用果実袋の製造方法。」とする防疫用果実袋の製造方法につき特許権を有することが認められるが、これはいわゆる「物の発明」ではなく、いわゆる「方法の発明」であることが明らかであり、他方、本件実用新案は「物品の構造に係る考案」であるので、その構造の内容をなす防菌紙自体が右特許権に抵触するかどうかの問題は起りえないところであり、また、右防菌紙を現実に製造するにあたり、債権者においていかなる製造方法が用いられているかは、本件全証拠によるも明らかではないから、これが製造方法が右特許権の技術的範囲に属するかどうかも判然としないうえ、そもそもこれが製造方法が右特許権の技術的範囲に属するかどうかは、右特許権と本件実用新案権の内容となつている防菌紙を製造するにあたつての製造方法との牴触の有無の問題であつて、本件果実袋が本件実用新案権の技術的範囲に属するか否かの判断には直接かかわりのない事柄であるというべきである。さらに実用新案は一定の作用効果を有するものでなければならないが、それは、その実用新案が利用されるべき産業分野における一定の技術的課題を解決する技術的効果を意味するものと解せられるところ、本件実用新案の作用効果は前記のとおり、防疫二重果実袋という産業分野において、「防菌紙に対する日光の直射を避けるとともに防菌紙を風雨より保護して薬効の減退を防止すること」と同時に「製袋機による製作が可能で極めて能率的であつて大量生産ができること」という二つの作用効果を統一的に達成することを目的とするものであるから、
他の防疫二重果実袋において右作用効果のうち前者を達成することができ、また他の産業分野において、その後者を達成することのできるものがあるとしても、これらのことは本件実用新案の右作用効果になんらの消長をきたすものではないというべく、従つて債務者の前記(2)、(3)の各主張もまた失当といわなければならない。
三、本件実用新案と本件果実袋との対比 以上一、二の事実と検疎甲第二号証にもとづき本件実用新案と本件果実袋とを対比すると次の事実が認められる。
(構造上の相違点)(一) 本件実用新案にあつては、別紙目録(二)および図面(二)のとおり、
「防菌紙を薄紙に重ねて二つ折りにすると同時に、側方の折曲部3部分を防菌紙1の端部とともに反対側に折曲げて薄紙4と糊着」されるため、同図面第二図および第三図に表示されているように側方の糊着部分における薄紙と防菌紙との重なり方が袋体の外側より内側方に向つて、薄紙の側方の折曲部3部分、防菌紙1の端部、
薄紙4、防菌紙1という形態で順次重畳しているに対し、本件果実袋にあつては、
別紙目録(一)および図面(一)のとおり、「防菌紙の側方の折曲部3部分のみを内側に折曲げて防菌紙1に重ね、ついで新聞紙4を防菌紙1とともに中部より内側に二つ折りすると同時に、新聞紙の側方の折曲部6部分を反対側に折曲げて新聞紙4と糊着」されるため、側方の糊着部分における新聞紙と防菌紙との重なり方が、
袋体の外側より内側方に向つて、新聞紙の側方の折曲部6部分、新聞紙4、防菌紙の側方の折曲部3部分、防菌紙1という形態で順次重畳していること、
(二) 本件実用新案にあつては、必ず薄紙は防菌紙より底部の折曲部だけでなく側方の折曲部も大きくなければならないものであるものに対し、本件果実袋にあつては、薄紙は防菌紙より底部の折曲部のみ大きければよく、側方の折曲部が防菌紙より大きいことは必ずしも必要がないこと、
以上の相違点が認められる。しかし前掲疎甲第一、二号証(実用新案公報)の「実用新案登録請求の範囲」として記載されているところを「考案の詳細な説明」の記載を参酌して解釈すれば、本件実用新案にあつて、側方部分において糊着されるのは別紙目録(二)および図面(二)に表示されている薄紙の側方の折曲部3部分と薄紙4の他端とであつて、右薄紙の側方の折曲部3部分とともに反対側に折曲げられる防菌紙1の端部はなんら糊着されるものでないことが明らかである。また、本件実用新案が防疫二重果実袋の構造にかかる考案であることは当事者間に争いのないこと前記のとおりであつて、右登録請求の範囲の記載はすべて本件実用新案の構造を説明しているものであり、その製造方法を表示しているものではないから、
(もとより、実用新案においては特許と異なり、方法の考案はその保護の対象たる適格性がない。)本件実用新案にかかる防疫二重果実袋と本件果実袋との間の製造過程ないし製造工程の違いをもつて、両考案構造上の相違点であるとすることができないことはもとよりである。
(作用効果の比較) 本件果実袋が本件実用新案の目的としている作用効果をも有していることは当事者間に争いのないこと前記のとおりであるので以下債務者が作用効果の相違性として主張するところについて検討するに、
(一) 証人【B】の証言と債務者代表者本人尋問(第一回)の結果によると、昭和四二年秋頃、本件実用新案にかかる防疫二重果実袋を使用した結果その糊着部分につき、被袋したりんごが黒色状を呈するといつた被害の発生したことが認められ、右債務者代表者本人は、右被害が本件実用新案における側方の糊着部分の構造上の欠陥に起因する湿害であると供述しているが、本件実用新案にあつては、前記説示のとおり、側方の糊着部分において、糊着がなされるのは、別紙目録(二)および図面(二)に表示されている薄紙の側方の折曲部3部分と薄紙4の他端とのみであつて、右薄紙の側方の折曲部3部分とともに折曲げられる防菌紙の端部はなんら糊着されるものでないのであつて、この果実に、証人【B】の右被害は単に糊着部分に使用した糊の化学成分に起因するものである旨の証言に対比すれば債務者代表者本人の右供述部分はにわかに措信し難く、他に右被害が本件実用新案の構造上の欠陥に起因するものであるとすべき疎明はない。また、債務者は本件実用新案にあつては、薄紙の側方の折曲部3部分とともに折曲げられる防菌紙の端部もまた糊着されるので糊着部分の構造からすれば、本件果実袋が薄紙で製した外袋のみの除去を容易にする点において優れていると主張するけれども、本件実用新案においても防菌紙の端部は糊着されていないのであるから、前提を異にした主張であり、従つて債務者が作用効果の相違性として主張する(1)の点は採用することができない。
(二) 債務者は(2)FOMが青色であるため果実の着色と日焼防止の効果を有していると主張する。しかし証人【B】の証言と債務者代表者本人尋問(第二回)の結果によると、りんごの着色および日焼防止の効果は、内袋を形成する防菌紙の色調により達成されることであることが認められるので本件果実袋の構造による効果であるとすることはできない。従つて債務者が作用効果の相違性として主張する(2)の点もまた採用の限りでない。
そうすると、本件果実袋の構造による効果は本件実用新案のそれと同一であつて、
それ以上に特段の作用効果を有するものということはできない。
四、(技術的範囲に属するかどうか、について)(一) 以上説示してきたところを総合すると結局、本件果実袋は、本件実用新案と、その目的とする作用効果の点については異るところがなく、ただその構造において、前記三のような二つの相違点があるものということができるところ右の相違点はいずれも薄紙で形成される外袋の側方糊着部分における閉じ方の相違というだけであつて、本件実用新案の技術的思想からみて、その技術的要素と機能を同一にし、これを取換えてみても特段の作用効果の相違をもたらすものではないから、講学上にいう置換可能性があると評価しうるし、また果実袋に関する平均的水準の技術家にとつては容易に推考しうるものと考えられるので、右相違点はいわゆる「単なる設計上の微差」とみるのを相当とする。
(二) してみれば、結局、本件果実袋は本件実用新案とその要部および作用効果の双方ともに同一であるといいうるから、本件実用新案の技術的範囲に属するものと評価することができ、従つて、債権者は実用新案法第27条にもとづき、債務者に対し、本件果実袋の製造、販売の停止とその廃棄および本件果実袋の製造に供した自動製袋機の除却等を請求する権利を有するものと認められる。
なお、債務者が縷々主張している本件果実袋を製造、販売するに至つた経緯は、
なんら右判断を左右すべき事柄ではないから、右主張は失当というほかない。
五、(保全の必要性) 債権者が本件実用新案の登録権利者であること、債務者が業として本件果実袋を製造し、主として青森県下において販売していることは当事者間に争いのないところであり、さらに成立に争いのない疎甲第四号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎甲第三号証および証人【B】の証言によると、債権者は、
自己が株式総数の四割を所有して代表取締役の地位にある柴田屋加工紙株式会社に本件実用新案の実施許諾をなし、同会社は本件実用新案にかかる防疫二重果実袋を製造し、青森県下においても多数販売してきたことが疎明され、また証人原田充の証言と債務者代表者本人尋問の結果および弁論の全趣旨によれば、本件果実袋を製造している自動製袋機は、債務者が専ぱら、本件果実袋を製造するために富士製袋機工業株式会社に注文したうえ、購入したものであつて、本件果実袋の製造にのみ供していることが疎明されるので、本件果実袋の製品および半製品(本件果実袋の構造を具備しているが、いまだ製品として完成するに至らないもの)ならびに本件果実袋の製造に供している自動製袋機につきいずれも保全の必要性を肯認することができる。
六、(むすび) よつて、債権者の本件申請は理由があるので、債権者が二〇日以内に金二〇〇万円の保証を立てることを条件としてこれを認容するのを相当とし、訴訟費用につき民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
追加
別紙目録(一)別紙図面(一)に示すごとく、原紙抄造工程中有機水銀剤等の防菌剤を浸透させ、表面に蝋引を施した防菌紙1(FOM)を内側にして底部の折曲部2および側方の一部5だけ防菌紙1より大きい新聞紙4に重ねて、防菌紙の側方の折曲部3部分のみを内側に折曲げて防菌紙1に重ね、ついで新聞紙4を防菌紙1とともに中部より内側に二つ折りすると同時に、新聞紙の側方の折曲部6部分を反対側に折曲げて新聞紙4と糊着し、さらに底部の折曲部2を内側に折り曲げて新聞紙4と糊着する。
図面(一)<11721-001>目録(二)別紙図面(二)に示すごとく、原紙抄造工程中有機水銀剤等の防菌剤を浸透させ、表面に蝋引を施した防菌紙1を内側にして、底部の折曲部2および側方の折曲部3だけを防菌紙1より大きい薄紙4に重ねて二つ折りにすると同時に、側方の折曲部3部分を防菌紙1の端部と共に反対側に折曲げて薄紙4と糊着し、さらに折曲部2の反対側に折曲げて薄紙4と糊着した防疫二重果実袋の構造
図面(二)<11721-002>図面(三)<11721-003>目録(イ)果実二重袋、但し図面(イ)に示す如く、適当なる色の防菌性蝋紙または普通蝋紙をやや長方形をなした紙1となして、その中部2より二折し、この二折した中部2の外面が新聞紙等にて製した紙袋3内の口部4および底部5に位置せず、一側内縁6に接するように挿入してなる果実二重袋。
図面(イ)<11721-004>目録(ロ)図面(ロ)に示すごとく防菌剤を浸透させ、表面に蝋引を施した青色の防菌紙1(FOM)を中部2より二折するようになし、さらに下端に折曲片2′を設けこれを他端に糊着し、この二折した中部2および折曲片2′が新聞紙で製した紙袋3の口部4および底部5に位置せず、紙袋3の内縁6または7にそれぞれ接するように挿入してなる果実二重袋。
図面(ロ)<11721-005>目録(ハ)別紙図面(ハ)に示すごとく、紙4を内側にして、一回り大きい紙1に重ねて、
紙1の側方の折曲部2を紙4の折曲部5とともに内側に二つ折りすると同時に、紙1の他側方の折曲部3を、紙4の折曲部6とともに、反対側に折曲げて紙1と糊着し、さらに紙1の底部の折曲部7を紙4の折曲部8とともに内側に折曲げて紙1と糊着した二重封筒。
図面(ハ)<11721-006>
裁判官 三浦克己
裁判官 磯部有宏
裁判官 太田雅利
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