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事件 昭和 48年 (ワ) 3796号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1976/01/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告 「被告は別紙一、二記載のメカニカルジヨイント離脱防止装置を製造販売してはならない。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言。
二 被告主文同旨の判決。
請求の原因
甲 主位的請求一 原告は次の登録実用新案(以下、「本件登録実用新案」といい、その考案を「本件考案という。)の実用新案権者である。
登録番号 第九一四七八三号考案の名称 メカニカル接手鋳鉄管に於ける抜け止め装置出願日 昭和四一年一月二四日出願公告 昭和四五年四月二七日出願公告番号 昭四五ー九〇三一設定登録日 昭和四五年一〇月三〇日実用新案登録請求の範囲 「管1、2の連結重合部間にゴム環3を嵌合し、このゴム環3を管2上に嵌合せる押え金具4に依って強圧すると共にこの押え金具4の円周等配位置に突鈑5を複数個突設し、この各突鈑5に抜け止め用螺子杵6をそれぞれ螺挿してなるメカニカル接手に於て、この各抜け止め用螺子杵6の先端全面にそれぞれ切刃状面イを一体に形成し、この抜け止め用螺子杵6を管2面に強圧捻回することによって抜け止め用螺子杵6先端の切刃状面イによつて管2面に螺子杵の直径と同一内径の凹孔7を穿設し、抜け止め用螺子杵6の先端全面を凹孔7の孔底に喰い込ませる様になしたメカニカル接手鋳鉄管に於ける抜け止め装置。」二 本件考案は次の構成要件からなるメカニカル接手鋳鉄管に於ける抜け止め装置である。
(一) 管1、2の連結重合部間にゴム環3を嵌合し、このゴム管3を管2上に嵌合せる押え金具4に依って強圧すると共にこの押え金具4の円周等配位置に突鈑5を複数個突設し、この各突鈑5に抜け止め用螺子杵6をそれぞれ螺挿してなるメカニカル接手であること、
(二) この各抜け止め用螺子杵6の先端全面にそれぞれ切刃状面イを一体に形成し、
(三) この抜け止め用螺子杵6を管2面に強圧捻回することによつて抜け止め用螺子杵6先端の切刃状面イによつて管2面に螺子杵6の直径と同一内径の凹孔7を穿設し、
(四) 抜け止め用螺子杵6の先端全面を凹孔7の孔底に喰い込ませる様にする。
三 本件考案における抜け止め用螺子杵先端の切刃状面について(一) 抜け止め用螺子杵6先端の切刃状面イによつて管2面に穿設される凹孔7の径については本件実用新案公報の実用新案登録請求の範囲の箇所以外には一切触れられていないところ、本件考案における切刃状面イの形状が人力で管面に容易に、且つ確実に喰い込ませることができること、管に亀裂、水漏れを生じさせる恐れのないものであること等その実施上の各要請を満たす必要があることより単円状のもの、又は同心円状の複数凹凸条のものに限定されること及び前記公報第2ないし第4図より明らかなように同図面記載の切刃状面イによって穿設しうるのは断面V型の凹凸同心輪状溝であつて螺子杵6の直径と同一内径の凹孔はとうてい穿設しえないことを考慮すると、本件考案における要件(三)記載の「螺子杵6の直径と同一内径の凹孔7」とは「螺子杵6の先端の切刃の直径と同一内径の凹孔7」の意味に解すべきである。
四 本件考案の作用効果は次のとおりである。
(一) 本件考案は、抜け止め用螺子杵6によつて管2に直接必要な凹孔7を穿設し、この凹孔7に抜け止め用螺子杵6を嵌合するだけであるから、管に予め掛止片又は凹部を設ける必要がなく、また、凹部を穿設するための工具をも必要とせず、
現場での工事が簡単、且つ能率的に行われる。
(二) 抜け止め用螺子杵6は管2に強固に結着するから、管2の逸脱を確実に防止することができ、振動又は衝撃があつても管1、2の連結部が容易にがたつかない。
五 被告は水道管継手の製造を業とする株式会社であるが、昭和四七年一〇月ごろから、別紙一((イ)号図面)および説明書記載の管の押輪(以下「イ号物件」という)を業として、製造販売している。
六 イ号物件は次のとおりの構造及び作用効果を有する(番号は別紙一図面に付したもの)。
(一) 管1a、2aの連結重合部間の管1aの段部8aにゴム環3aを嵌合し、
このゴム管3aを管2a上に嵌合せる押え金具4aによつて強圧するとともにこの押え金具4aの円周等配位置に突鈑5aを六個突設し、この各突鈑5aに抜け止め用螺子杵6aをそれぞれ螺押してなるメカニカル接手であること、
(二) この各抜け止め用螺子杵6aの先端全面にそれぞれ皿形円錐傾斜面状切刃状面イaを一体に形成するとともにその先端外側周に防蝕ゴムリングrを嵌合し、
(三) この抜け止め用螺子杵6aを管2a面に強圧捻回することによつて抜け止め用螺子杵6a先端の切刃状面イaによつて管2a面にその先端直径と同一内径凹孔7aを穿設し、
(四) 抜け止め用螺子杵6aの先端全面を凹孔7aの孔底に喰い込ませるとともに前記の防蝕ゴムリングrによつて抜け止め用螺子杵6aと管2aとの喰い込み接触部を外部と遮断して防蝕させるようにした管の押輪である。
イ号物件は右の如き構造を有するため抜け止め用螺子杵6aによつて管2aに直接必要な凹孔7aを穿設するとともに管2aの逸脱を確実に防止することができ、
振動又は衝撃に耐え、更に現場での工事が簡単、且つ能率的に行われる。
また、防蝕ゴムリングrによつて抜け止め用螺子杵6aと管2aとの喰い込み接触部を外部から遮断するものであるから防蝕の効果がある。
七 イ号物件と本件考案との対比 イ号物件の抜け止め用螺子杵を管面に強圧捻回しても、その螺子杵先端の切刃状面イaが管2a面に螺子杵6aの直径と同一内径の凹孔を穿設することができないことは認めるが、右切刃状面により螺子杵の先端切刃の直径と同一内径の凹孔を穿設しうるので、右切刃状面は本件考案にいう切刃状面に該当する。
また、イ号物件においては抜け止め用螺子杵6aの先端外側周に防蝕ゴムリングrを嵌合しているため抜け止め用螺子杵6aと管2aとの喰い込み接触部の防蝕作用効果があるけれども、これは実施上の微差に伴う付随的な効果にすぎず、これがため両者間に作用効果上格別の差異を生ぜしめるものではない。
そうすると、イ号物件と本件考案とは基本的構成は勿論、その作用効果を全く共通にしているものというべきである。
したがって、イ号物件は本件登録実用新案権の技術的範囲に属し、被告の実施行為は原告の本件登録実用新案権を侵害する。
乙 予備的請求一 仮に右主張が認められないとしても、原告は次の登録意匠(以下、本件意匠という。)の意匠権者である。
登録番号 第三〇三四三〇号意匠に係る物品 管の押環出願日 昭和四二年九月二〇日登録日 昭和四四年七月二九日登録意匠 別紙三意匠公報写表示の形状二 本件意匠の具体的構成は次のとおりである。
本件意匠は別紙三意匠公報写表示の管の押環の意匠で、中央に接合すべき管が嵌入される円形孔を表わした扁平円環板を本体とし、その本体の扁平面上円周等配位置六個所に外面円孤面状の膨出面を表わした突鈑を突起状に表わし、その突鈑に頭部に四角状ナツト頭を表わし、先端末に皿形円錐傾斜面を表わした抜け止め用螺子杵を螺挿し、また本体の扁平面に前記突鈑とそごした円周等配位置六個所に締付けボルト押込み用円孔を表わした締付け突縁を突起状に表わしたものである。
三 被告は昭和四七年一〇月ごろから、別紙二((イ)別図面)記載の管の押輪(以下、イ′号物件という。)を業として、製造販売している。
四 イ′号物件の意匠の具体的構成は次のとおりである(番号は別紙二図面に付したもの)。
イ′号物件の意匠は別紙二図面記載の管の押輪の意匠で、中央に接合すべき管が嵌入される円形孔1aを表わした扁平六角環板を本体2aとし、その各核角部を円孤面に表わし、その本体2aの扁平面3a―上円周等配位置六箇所に外面四角稜面の膨出面4a―を表わした突鈑5aを突起状に表わし、その突鈑5aに頭部に六角状ナツト頭6aを表わし、先端末に皿形円金傾斜面7a―を表わした抜け止め用螺子杵8aを螺挿し、また本体2aの扁平面3a-に前記突鈑5aとそごした円周等配位置六箇所に締付けボルト挿込み用円孔9aを表わした締付け突縁10aを突起状に表わし、また、前記抜け止め用螺子杵8aの先端末外側に防蝕ゴムリング11aを嵌装したものである。
五 イ′号物件の意匠を本件意匠対比すると、イ′号物件の意匠の基本的構成は本件意匠の要部と一致しており、また、両意匠においては(イ)扁平板の形状について前者は各稜角部を円孤面に表わした六角環板状であるのに反し、後者は円環板状であること、(ロ)膨出面の外面形状については前者は四角稜面であるのに反し、
後者は円孤状面であること、(ハ)抜け止め用螺子杵の頭部ナツトの形状について前者は六角状であるのに反し、後者は四角状であること、(ニ)前者の抜け止め用螺子杵の先端末外側には防蝕ゴムリングが嵌装されているのに反し、後者にはこれを欠如していること等の差異があるけれども、これらはいずれも部分的箇所ないし付属的部分に関するもので、意匠として特に留意される部分でないから、右相異点は両意匠が異なる特段の印象を惹起するものでなく、また右相異点も相互に類似しているので、全体観察による総合判断によれば両意匠は顕著に類似するものというべきである。
したがつて、被告の本件実施行為は、原告の意匠権を侵害するものである。
六 よつて、原告は被告に対して主位的に本件実用新案権に基づき、予備的に本件意匠権に基づいて、被告の侵害行為の差止を求める。
被告の請求原因に対する答弁及び主張
甲 主位的請求について一 請求原因一、二、四、五の事実はすべて認める。
二 同三の事実中、本件実用新案公報の実用新案登録請求の範囲の箇所以外には原告主張の凹孔7の径については一切触れられていないことは認め、その余の事実は否認する。
三 同六の事実は認める。
四 同七の事実のうち、イ号物件の切刃状面が本件考案にいう切刃状面に該当するとの原告の主張は争う。
五 本件実用新案登録は無効原因を有するものである。
本件考案の要件(一)は昭三五ー二一〇七三実用新案「メカニカル接手鋳鉄管に於ける抜け止め装置」の登録請求の範囲に記載されており、また、本件考案のその他の要件はすべて昭三八ー三六二三実用新案「緩み止めねじ」の技術思想と同一のものであるから、本件考案はあらゆる点で公知公用の技術のみを内容とするものであり、そこには何らの新規性を認めることはできない。したがつて、本件実用新案登録には、きわめて明白な無効原因があるものというべきである。
乙 予備的請求について一 予備的請求原因一ないし四の事実は認める。
二 同五の事実中、イ′号物件の意匠が本件意匠に類似するとの原告の主張は争う。
イ′号物件の意匠と本件意匠との間には、原告主張の相異点があるほか、つぎのような差異がある。
(一) 本件意匠の突鈑は本体の正面側及び背面側に円抓面状の肉厚部として設けられているため、その形状は正面、背面、平面、左右両側面の各側から見ることができるが、イ′号物件の意匠の突鈑は本体の背面側にのみ六角稜面状の肉厚部として形成されているため、その形状は背面、平面、左右両側面の各側からは見えるけれども、意匠の同一、類似の有無を判断するに際して最も重視されるべき正面側からは見えない。また、本件意匠では正面側に突縁の肉厚部が見られるが、イ′号物件の意匠ではそれは見られない。その結果、両意匠の正面側を対比すると、本件意匠では突縁と突鈑との各肉厚部が交互に凹凸模様を形成しているか、イ′号物件の意匠では突縁と突鈑とは平面状であり、凹凸模様は見られない。
(二) 本件意匠は放射状に著しく突設された六個の円孤面上突縁を有する円形状環板の感を与えるのに対して、イ′号物件の意匠は放射状にわずかに突設された六個の六角稜状突縁を有する六角状環板の感を与えるため、両者の意匠を全体的に観察すると、両意匠が類似するとはとうてい認められないものである。
ところで、両意匠は中央に接合すべき管が嵌入される円形孔を表わした扁平板を本体とし、その本体の扁平面上円周等配位置六個所に膨出面を表わした突鈑を適宜な肉厚として突起状に表わし、また本体の扁平面上に右突鈑とそごした円周等配位置六個所に締付けボルト挿込み用孔を表わした締付け突縁を突起状に表わしている点において一致しているけれども、これらの点は本件意匠に係る物品の形状としては公知のものであるから、両者の類似の有無を判断するに当つては、むしろ突鈑、
突縁の形状、とりわけ本体の外周形状を中心として論ぜられるべきであるところ、
これらの点に関しては両者間に右(一)、(二)記載の如き相異があることによつて、看者の立場からは、全体的な印象、美感に相当の差異が生じるため、別個の意匠であるとの認識を与えるものである。
なお、被告会社代表取締役【A】はイ′号物件の意匠と同一の意匠につき昭和四七年三月三〇日に意匠登録出願をし、同四九年一二月二三日に登録査定を受けたものである。
証拠(省略)
理 由
主位的請求について
一 原告が昭和四一年一月二四日出願にかかる本件登録実用新案の権利者であること、その登録請求の範囲の記載が、「管1、2の連結重合部間にゴム環3を嵌合し、このゴム環3を管2に嵌合せる押え金具4に依つて強圧すると共にこの押え金具4の円周等配位置に突鈑5を複数個突設し、この各突鈑5に抜け止め用螺子杵6をそれぞれ螺挿してなるメカニカル接手に於て、この各抜け止め用螺子杵6の先端全面にそれぞれ切刃状面イを一体に形成し、この抜け止め用螺子杵6を管2面に強圧捻回することによつて抜け止め用螺子杵6先端の切刃状面イによつて管2面に螺子杵の直径と同一内径の凹孔7を穿設し、抜け止め用螺子杵6の先端全面を凹孔7の孔底に喰い込ませる様になしたメカニカル接手鋳鉄管に於ける抜け止め装置」であること、被告が別紙一((イ)号図面)ならびに説明書に示すイ号物件を昭和四七年一〇月ごろから業として製造販売していることはいずれも当事者間に争いがない。
二 原告は、被告の右行為は本件登録実用新案権を侵害するものであると主張し、
被告はこれを争うので考察する。
(一) 先ず、原告は、本件考案における抜け止め用螺子杵先端の切刃状面はこの螺子杵を管面に強圧捻回することにより、その先端切刃状面で、管面に螺子杵の先端の切刃の直径と同一内径の凹孔を穿設し得るものであれば足り、螺子杵の直径と同一内径の凹孔を穿設し得るものであることを要しないと主張し、その理由として、右切刃状面によつて管面に穿設される凹孔の径については、本件実用新案の登録請求の範囲に前記の記載がある以外に、本件実用新案公報には一切触れられていないこと、本件考案における切刃状面の形状が人力で管面に容易に、且つ確実に喰い込ませることができること、管に亀裂、水漏れを生じさせるおそれのないものであることなど、その実施上の各要請を満たす必要があることより単円状のもの、又は同心円状の複数凹凸状のものに限定されること、そしてその形状は断面V型の凹凸同心輸状溝のものであることなどを挙げる。
(二) そこで、本件登録実用新案出願時における技術水準についてみる。
成立に争いない乙第二号証(実用新案公報)によると、登録請求の範囲を(番号省略)、「図面に示す様に水道管の連結重合部間にゴム環を嵌合し水道管上の押え金具によりゴム環を強圧する様になしたメカニカル接手に於て押え金具の鎧鈑の周囲に等間隔に設けた螺子孔間に突鈑を軸長方向に数個突出せしめて設け此の突鈑にそれぞれ抜け止め用螺子杵を螺挿し水道管を連結すると共に水道管の逸脱を防止する様になしたメカニカル接手鋳鉄管に於ける抜け止め装置の構造」とし、図面第3図に縦断側面先端が<11923-012>型に尖つた抜け止め用螺子杵を図示した実用新案の出願がその公報により昭和三五年八月三〇日、昭三五ー二一〇七三号をもつて公告されており、 また、成立に争いのない乙第五号証(実用新案公報)によると、登録請求の範囲を(番号省略)、「ねじ本体の脚端部にこれを面取りして斜面部を形成し、この斜面部に本体の螺糸の螺捻方向と逆方向に捻れ傾くラチエツト状歯型を刻設すると共は、本体の脚端端面を前記歯型より突出しない形状に形成した緩み止めねじ」とする実用新案の出願が、昭和三八年三月八日、昭三八ー三六二三号をもつて公告になつている事実が認められる。
(三) これらの事実、ならびに、本件実用新案公報図面第3図の本件実用新案における抜け止め用螺子杵の先端部の拡大図に示す<11923-001>型の形状をしんしやくすると、本件考案の新規な部分は、抜け止め用螺子杵を管面に弾圧捻回したときに、
その先端全面を凹孔の孔底に没入するだけではなく、本件実用新案登録請求の範囲に明記してあるとおり、「抜け止め用螺子杵先端の切刃状面によつて、螺子杵の直径と同一内径の凹孔を穿設し、抜け止め用螺子杵の先端全面を凹孔の孔底に喰い込ませる」ことができるような抜け止め用螺子杵を用いる点にあると認めるべきである。
実用新案権に基づく侵害訴訟においては、実用新案登録請求の範囲に記載した事項は、出願人がその記載が実施可能であることを前提として記載し登録になつたものと解すべきであるから、権利者において登録後右記載の文字通りの実施が困難であることを理由に、その文言の趣旨を緩和して改変し、結局技術的範囲を拡張して主張することは禁反言の原則の精神から許されないと解すべきである。
原告の切刃状面についての主張は、結局実用新案登録請求の範囲の記載どおりの実施が困難であることを理由に、その記載を緩和した意味に主張しもつて技術的範囲を自己に有利に拡張せんとするものであつて理由なく、これを採用することはできない。
(四) ところで、イ号物件の抜け止め用螺子杵の先端は、別紙一((イ)号図面)第4図に示す如く<11923-002>型で、その螺子杵を管に強圧捻回しても、これにより螺子杵の直径と同一内径の凹孔を穿設することができないものであることは原告の自認するところである。
(五) そうすると、イ号物件は、本件考案の必須の要件たる「抜け止め用螺子杵先端の切刃状面によつて管面に螺子杵の直径と同一内径の凹孔を穿設する」という事項を欠いているので、本件登録実用新案の技術的範囲外のものというべく、被告のイ号物件の製造販売行為が本件登録実用新案権を侵害するものとは認められない。
予備的請求について
一 原告が昭和四二年九月二〇日出願に係る本件意匠の権利者であること、被告が昭和四七年一〇月ごろからイ号物件を業として製造販売していることについては当事者間に争いなく、右物件の意匠に、原告主張の構成がみられることは被告も争わないところである。
二 原告は被告の右行為は本件意匠権を侵害するものであると主張し被告は争うので考察する。
(一) 本件意匠の構成が大体において、原告主張の如きものであることは当事者間に争いがないが、成立に争いない甲第四号証(本件登録意匠公報)によると、本件登録意匠、すなわちその願書に現わされた意匠は、右当事者間に争いのない前記構成要素のほか、ボルト挿込み用円孔は本体円形孔と同方向に向けて穿設し、抜け止め用螺子杵は右円形孔と直交する方向に向けて螺挿させ、突鈑は扁平面の正面側及び背面側に膨出し、突縁は細幅の扁平面から大きくU字形に突出し、その正面側表面周縁には両端を本体円形孔の周壁面に当接させた右U字形の隆起壁を表わし、
扁平面全体の側面には右隆起壁側面と突鈑とが交互に突出した凹凸形状を表わすとともに扁平面全体の正面にも凹凸形状が表わされていることが認められる。
そして、本件登録意匠の出願日たる昭和四二年九月二〇日よりはるかに以前に公告になつた前顕乙第二号証の実用新案公報の図面第1図に図示されたメカニカル接手鋳鉄管の形状と本件登録意匠公報に示された正面図と比較すると、本件意匠における前記認定の突鈑に関する点が特徴的である。
(二) つぎに、別紙目録二記載のイ′号物件の図面の記載とイ′号物件であることにつき争いのない検甲第二号証に徴すると、イ′号物件の意匠は当事者間に争いのない前記構成要素のほか、ボルト挿込み用円孔9aは本体円形孔1aと同方向に向けて穿設し、抜け止め用螺子杵8aは右円形孔1aと直交する方向に向けて螺挿させ、突鈑は背面側にのみ膨出し、突縁は太幅の扁平面からわずかになだらかな円孤状に突出し、扁平面全体の側面には右形状のみの凸形状を表わし、その正面は平滑であることが認められる。
(三) そこで、本件意匠とイ′号物件の意匠を対比して両者の類否を検討する。
両者は、意匠に係る物品が同一であるほか、いずれも、中央に接合すべき管が嵌入される円形孔を表わした扁平環板を本体とし、その本体の扁平面上円周等配位置六箇所に膨出面を表わした突鈑を突起状に表わし、その突鈑に先端末に皿形円錐傾斜面を表わした抜け止め用螺子杵を本体円形孔と直交する方向に向けて螺挿し、また、本体の扁平面に前記突鈑とそごした円周等配位置六箇所に本体円形孔と同方向に向けて穿設した締付けボルト挿込み用円孔を表わした締付け突縁を突起状に表わした点において一致しているが、その反面、両者の間には次のような相違点がみられる。
(1) 本体扁平面の外周形状。本件意匠は円形であるが、イ′号物件の意匠は六角形である。
(2) 突鈑の外面形状。本件意匠は円孤面状であるのに対し、イ′号物件の意匠では四角稜面状である。
(3) 突鈑の膨出側面。本件意匠では正面側及び背面側に膨出しているのが、イ′号物件の意匠は背面側にのみ膨出している。
(4) 突縁の突出形状。本件意匠では比較的細幅の扁平面から大きくU字形に突出しているのに対し、イ′号物件の意匠では比較的太幅の扁平面からわずかになだらかな円孤状に突出している。
(5) 突縁の隆起壁の有無。本件意匠では突縁の正面側表面周縁には両端を本体円形孔の周壁面に当接させたU字形の隆起壁があるが、イ′号物件の意匠にはこれがみられない。
(6) 扁平面全体の側面及び正面形状。本件意匠では扁平面全体の側面に右隆起壁側面と円形の突鈑とが交互に突出した凹凸形状がみられるとともにその正面にも凹凸形状がみられるが、イ′号物件の意匠では扁平面全体の側面にはなだらかな円孤状のみの凸形状がみられるだけでその正面は凹凸形状がなく平滑である。
(7) ナツト頭の形状等。本件意匠では抜け止め用螺子杵の頭部が四角状ナツト頭で表わされ、その先端末外側には防蝕ゴムリングが見られないのに対して、イ号物件の意匠では抜け止め用螺子杵の頭部が六角状ナツト頭で表わされ、その先端末外側には防蝕ゴムリングが見られる。
ところで、右認定の両者の意匠にみられる一致点は、成立に争いのない乙第一二号証(鑑定人【B】の鑑定書)より明らかなとおり本件意匠の意匠に係る物品(管の押環)が一般に具有する基本形状ともいうべきものであるから、これが看者の注意を惹くべき新規性、外観的特異性に寄与すべき要素であるとはとうてい解しえないのに反して、右認定の相異点、とりわけ本体扁平面の外周形状、突鈑の外面形状、突縁の突出形状にみられる相異点を管の押環の基本形状に位置づけして、全体的に対比観察してみると、本件意匠が「放射状に著しく突設した六個の円孤面状突縁を有する円形状環板」の感を与えるのに対し、イ′号物件の意匠は「放射状にわずかに突設した六個のなだらかな円孤面状突縁を有する六角状環板」の感を与える結果、両者の意匠は看者にそれぞれ別異のものとの印象を与えると認められる。
それゆえ、イ′号物件の意匠は本件意匠に類似しないものといわざるをえない。
成立に争いのない甲第一七号証(鑑定人【C】の鑑定書)に記載されている、叙上の判断と相反する見解は当裁判所の採用しないところである。
(四) 以上の理由によりイ′号物件の意匠は、本件意匠の権利範囲外のものであつて、被告がその意匠にかかる物品の製造販売行為が本件登録意匠権を侵害するものとは認められない。
以上により、イ号及びイ′号各物件が原告の本件実用新案権及び意匠権を侵
害することを理由とする原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからこれを失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
追加
<11923-003><11923-004><11923-005><11923-006>(イ)号図面の説明書一この(イ)号図面は被告会社の管の押輪を示している。
二この(イ)号図面において、第1図はこの押輪の押え金具の正面図、第2図はその背面図、第3図は第1図T-T線断面図、第4図は第3図A部拡大断面図、第5図は使用状態の説明図を示す。
三この(イ)号図面の管の押輪の構造は、管1a・2aの連結重合部間の管1aの段部8aにゴム環3aを嵌合し、このゴム環3aを管2a上に嵌合せる押え金具4a―によつて強圧すると共に、この押え金具4a―の円周等配位置に突鈑5aを六個突設し、
この各突鈑5aは先端全面に皿形円錐傾斜面状切刃状面イaを設けた抜け止め用螺子杵6aをそれぞれ螺挿し、この各抜け止め用螺子杵6aの先端外側周に防蝕ゴムリングrを嵌合したものである。
而して、この構造における抜け止め用螺子杵6aを強圧捻回することによつて、
抜け止め用螺子杵6a先端の切刃状面イaによつて、管2a面にその先端直径と同一内徐の凹孔7aを穿設し、抜け止め用螺子杵6aの先端全面を凹孔7aの孔底に喰い込ませるようにし、又その際に前記の防蝕ゴムリングrによつて、抜け止め用螺子杵6aと管2aとの喰い込み接触部を外部と遮断して防蝕させるようにしたものである。
押え金具4a―は鍔板4’aの一側に載筒4a”を形成し、この載筒4a”の先端面9aをゴム輪3aに当接する。
管1aの膨径部1’aの鍔縁10aと押え金具4a―のの鍔板4’aとの間には、締付けボルト14aを螺挿する。
この締付けボルト14aを締付け、押え金具4aによつてゴム環3aを各管1a・2aの重合部間章強圧した後、管2aの各突鈑5aの螺子孔12aに前記抜け止め用螺子杵6aを螺挿する。そこで、切刃状喰い込み円周条面イaを管2aの凹孔7aの孔席に喰い込ませたまま放置するようにするものである。
(以上)別紙二((イ’)号図面)<11923-007><11923-008><11923-009><11923-010><11923-011>
裁判官 大江健次郎
裁判官 渡辺昭
裁判官 北山元章