• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  均等 /  損害額 /  考案 /  考案者 /  図面 /  構造 /  組合せ /  自然法則 /  補正 /  設定登録 /  新規性(3条1項) /  通常実施権 /  実施例 /  公知技術 /  置換 /  明細書 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 昭和 48年 (ワ) 3156号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1976/01/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の各請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告「被告は別紙目録および図面記載のシヤープペンシルを製造販売してはならない、
被告はその占有にかかる前項記載のシヤープペンシルおよびその半製品を廃棄しなければならない、被告は原告に対し金一億二四九五万円およびこれに対する昭和四八年七月二六日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告の負担とする」との判決ならびに仮執行の宣言。
二 被告 主文と同旨の判決。
当事者の主張
一 請求の原因1 原告は、次の登録実用新案(以下「本件登録実用新案」といい、その考案を「本件考案」という)の実用新案権者である。
登録番号 第一〇〇四四四二号考案の名称 シヤープペンシル出願日 昭和四二年三月一四日出願公告 昭和四六年六月一八日出願公告番号 昭四六―一七四五三号設定登録日 昭和四八年六月一五日実用新案登録請求の範囲「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挟持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挟持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設けたシヤープペンシルに於て、上記本体1の前部に芯保持具7を有するスライダー5を出没自在に嵌挿し、押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出すようになしたるシヤープペンシル」2 本件考案は、
(A) 本体1内に芯挟持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し(B) 芯挟持具4のテーパー面4aに対向するように固定杆6の環部6aを設け(C) 本体1の前部に芯保持具7を有するスライダー5を出没自在に嵌挿することを構成要件とするシヤープペンシルであり、これらの相関関係は、
押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出すものである3 本件考案の作用効果 本件考案は、その明細書考案の詳細な説明中に明記されているように、削ることなく自動的に必要なだけ順次芯が繰り出され、
しかも自由な角度にて傾斜せしめて筆記できうるシヤープペンシルを課題とするものであり、この課題の解決を芯挟持具4とスライダー5とによつてなしているものである。すなわち、
押杆3を押すことにより芯挟持具4は芯の挟持固定を解除して弾機Sが圧縮しうる限度まで前進し、芯の先端がスライダー5の先端に存する状態のままで、スライダー5に衝突してこれを押し出すので、スライダー5内に存する芯保持具7に軽く挟持されている芯はそのままの状態でスライダー5とともに押し出され、押杆3を押すことを止めると芯挟持具4は弾機Sの伸長により元の位置に戻つて固定杆6の環部6aに嵌挿されるから、固定杆6の環部6aで締めつけられた状態となつて芯を挟持固定する。この状態で筆記を開始すると芯の先端はスライダー5の先端ぎりぎりの位置に存してこれより飛び出していないため、どのような角度による筆記に対してもスライダー5によつて保護されて折れることはなく、そして芯は芯挟持具4によつて挟持固定されているが、スライダー5は本体1に出没自在に嵌挿されていて紙面に触れると後退する状態となつているから、芯の摩耗につれてスライダー5は後退し、常に芯の先端がスライダー5の先端ぎりぎりに位置する状態で筆記が継続され、この状態はスライダー5が最後部に後退するまで続くのである。
右のように、本件考案は、芯挟持具4を有する押杆3、芯挟持具4のテーパー面4aと固定杆6の環部6a、芯保持具7を有するスライダー5の必須構成要件各部の相関関係により、押杆3を一回押すことにより芯挟持具4が芯の挟持固定を解除するとともに、スライダー5とともに一定長の芯を繰り出し、筆記中の芯の消耗分は筆圧でスライダー5を自動的に後退させることにより継続して筆記を可能にするという顕著な作用効果を有する。
4 本件考案における「押杆の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出す」ことについて、
(1) 本件登録実用新案の実用新案登録請求の範囲中に「押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出す」旨の記載があることは前述のとおりであり、またその明細書考案の詳細な説明中にも「芯挟持具4の先端4bが後述のスライダー5の内部に設けた芯保持具7にあたる、この芯保持具7により芯Cを軽く挟持したままスライダー5を芯Cと共に一ストロークLだけ前進せしめるものである」(本件登録実用新案公報-以下単に公報とのみという-一頁右欄一三行から一七行)との説明があり、その実施例図をみても芯挟持具4が前進してその先端4bが衝突する部分はスライダー5の内部に設けられた芯保持具7であるように図示されている。
(2) しかしながら、本件考案技術的範囲は、芯挟持具4の先端4bがスライダー5内に設けた芯保持具7にあたり、この芯保持具7が芯を軽く挟持したままスライダー5を芯とともに前進させることだけに限定されるものではない。すなわち、
イ 前記実施例図は本件考案の一実施例を示しただけのものであり、明細書考案の詳細な説明中の記載も右一実施例を示した図面の説明にすぎない。右の場合における芯保持具7は係止片(揺動片)であつて通常の状態(押杆3を押していない状態)では芯に接触しておらず、芯挟持具4の先端4bで押されることによつてはじめて芯を軽く挟持する機構となつているところから、芯挟持具4の先端4bが必ず芯保持具7に衝突する必要があるものである。しかし、本件考案における芯保持具は右のような係止片(揺動片)に限られるものでないことは、明細書考案の詳細な説明中の「芯保持具7は図のような係止片によるか、ゴム片などの摩擦多い物質を用いる(この場合はゴム片が芯に接する)など種々の保持機構を採用する」(公報一頁右欄二一行から二四行)と説明されているところから明らかである。そして、右のようにゴム片などの摩擦多い物質を芯保持具に用いた場合には、芯保持具が常に芯を軽く挟持しているため、さらに芯挟持具が芯保持具に衝突して芯保持具をして芯を挟持させる必要性は全く存しない。
ロ 本件登録実用新案の願書添附第一図において、芯保持具7が少しく前方に位置すれば芯挟持具4が前進した場合に衝突するのは芯保持具7ではなく、スライダー5の内壁であることが読み取れ、またいずれにしても芯挟持具4が押し出すものはスライダー5であるから、芯挟持具4の直接に衝突する対象物が芯保持具7であるか、スライダー5であるかは当業者にとつては設計上の微差にすぎない。
ハ 本件考案は、従来のノツク式シヤープペンシルと先金スライド式鉛筆の構造組合せにかかるもので、
(イ) ノツク式における先金は固定されており、芯挟持具はこれを締めつけている環に嵌挿されている構造で、押杆を押すと芯挟持具は環に締めつけられて芯を挟持固定した状態で前進し、したがつて芯は一定長前進して先金より突出するが、芯挟持具は一定長前進したところでこれを締めつけている環が本体内の段部に当つて停止し、芯挟持具は環よりはずれて芯の挟持固定を解除する。その際、芯はぶらぶらの状態であるので先金の内部に挟保持具を設けて芯を一定の位置に停止せしめる。押杆を押すことを止めると芯挟持具は弾機によつて後退し、環によつて締めつけられて芯を挟持固定する、
(ロ) 先金スライド式においては、芯は固定されていて先金は本体に出没自在に嵌挿されているから、筆記につれて先金が後退する、構造において、従来のノツク式が芯を挟持固定して押し出していたのを、本件考案では芯の挟持固定を解除してスライダーを押し出し、これとともに芯を押し出す構造にした点に新規性があるものである。したがつて、本件考案の最も重要な部分は、前記各構成要件の相関関係において芯挟持具4が押杆3の摺動によつて芯を固定したり解除したりする作動と、出没自在に嵌挿されているスライダー5内の芯保持具7によつて芯が軽くくわえられている点にある。このことは、本件登録実用新案に対する登録異議の決定(甲第三号証)において「これに対して異議申立人が証拠として提出した甲第一号証乃至第六号証には本出願の考案の構成要件の一部である『本体1の前部に芯保持具7を有するスライダー5を出没自在に嵌挿し、押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出す』点が記載されていない」とされているところからも明らかである。
そして、本件登録実用新案の出願時には、すでにシヤープペンシルにおける芯保持具として「芯ホルダー」あるいは「戻り止め」なる名称のもとにゴム片等の弾性ある物質が用いられており(これらは常に芯を接している)、また芯保持具を有するスライダーも知られていたのである(甲第五号証の六)。
したがつて、前記の「芯保持具7は図のような係止片によるか、ゴム片などの摩擦多い物質を用いる(この場合はゴム片は芯に接する)など種々の保持機構を採用する」との明細書考案の詳細な説明中の記載およびこれに引き続く「本考案による時は、芯の繰り出しを押杆3の摺動によりスライダー5を前進せしめ、スライダー5の芯保持具7を介して繰り出すので……」との同記載(公報一頁右欄二四行から二六行)をみれば、当業者であれば本件考案の要旨は押杆3の摺動によりスライダー5を前進せしめることによつて、芯保持具7を介して芯を繰り出すもので、スライダー5を前進せしめるために芯挟持具4が芯保持具7に衝突する場合のみでなく、スライダー5に直接衝突してこれを押し出す場合をも含むものであると理解するのである。また、本件考案考案者もそのように意識していたからこそ、右のように明細書中における考案の詳細な説明をなし、「芯保持具7を介してスライダー5を前進せしめ」とは記載しなかつたのである。
以上によれば、本件考案においては芯挟持具4が前進して衝突するスライダー5の部位は問題ではないこと明らかであるが、さらにこれを詳述すると、芯挟持具4をスライダー5に衝突させる目的は、スライダー5を本体1内より突出させるためだけのものであつて、シヤープペンシルの先端を下方に向けている場合には押杆3を押すことによつて芯挟持具4が芯の固定を解除しさえすれば、スライダー5はその自重(芯の重さも加わる)によつて自然に本体1内より下方へ突出するものであるから(それに従つて芯保持具7にくわえられている芯がスライダー5とともに下方へ引き出される)、芯挟持具4がスライダー5に衝突する前にすでにスライダー5は自重によつて下方へ突出しているのであつて、この場合には芯挟持具4がスライダー5に衝突する必要すら存せず、ただシヤープペンシルを水平にして押杆3を押す場合にはスライダー5の自重が働らかないため、外力によつてスライダー5を押し出す必要があり、そして、その目的を果たすためには芯挟持具4がスライダー5に衝突しさえすればよく、スライダー5のどの部位に衝突させなければならないという必要性は全く存しない。
そうであるから、本件登録実用新案の登録請求の範囲には、芯挟持具4がスライダー5や芯保持具7に衝突してこれを押し出す作動は全く記載しておらず、この点に関しては単に「押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出す」とのみ記載しているにすぎない。
現に、本件考案に係るシヤープペンシルに新らたに芯を挿入する場合は、
(イ) シヤープペンシルの先端を下方に向けて芯を挿入し、押杆3を押して芯の固定を解除した状態にすれば、スライダー5は自重によつて下方へ突出し、芯も自重によつて下方へ繰り出されるが、芯保持具7に接したところで停止する、
(ロ) 次いで、押杆3を押すことを止めて芯挟持具4により芯を固定させた状態でスライダー5の先端を何物かに押し当ててこれを本体1内に押し込むと、芯は固定されており芯とスライダー5の芯保持具7を介しての結合は弱い弾性的なものであるため、スライダー5のみが本体1内に押し込まれるが、その先端が芯の先端と同じ位置まで後退したところでスライダー5の先端に押し当てられた押圧力は固定されている芯に阻止されてスライダー5もその位置で後退を停止する、
(ハ) この状態でもある程度の筆記は可能であるが、さらにもう一度押杆3を押すことによつてスライダー5を一杯繰り出した位置まで突出させ、
筆記の準備を完了させているのである。
以上のことは当業者であれば本件考案明細書から容是に読み取れるとこである。したがつて「押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出す」とは、押杆3の摺動によつてスライダー5が繰り出される際、芯保持具7によつて弾性的にスライダー5に結合している芯は、スライダー5とともに繰り出される、すなわち「芯の繰り出し」は「芯保持具7を介してスライダー5とともに」行われるとの意味であつて、「押杆3が芯保持具7を押すことによつてスライダー5とともに芯を押し出す」との趣旨ではない。
以上のとおりであるから、本件考案は、
(イ) 芯挟持具4がスライダー5の内部に設けられた芯保持具7(係止片)に衝突してこれをして芯を挟持せしめ、しかる後にこれを押すことによつてスライダー5を前進せしめ、スライダー5の前進により芯保持具7を介して芯を繰り出す機構、
(ロ) 芯挟持具4がスライダー5を押し出して前進せしめ、スライダー5の前面によつて芯保持具7(常に芯を軽く挟持しているゴム片等)を介して芯を繰り出す機構の両者をその技術的範囲とするものであり、仮に右(ロ)の機構が本件考案技術的範囲に含まれないとしても、右(イ)の機構から(ロ)の機構は当業者が容易に推考しうるものであること前述のとおりであるから、右(ロ)の機構は(イ)の機構と均等なものである。
5 被告製品 被告は、別紙イ号図面説明書およびイ号図面記載のシヤープペンシル(以下「イ号物件」という)を業として製造販売しているが、その構造は次のとおりである(番号は別紙イ号図面に付したもの。)(A) 中空軸筒1と中空先頭片4を中介接続筒2によつて接続させてシヤープペンシル本体を構成し(B) 中介接続筒2の下部の案内部5に遊動環6を遊嵌し(C) 押杆8と一体となつている芯挟持具7を圧縮バネ13を介して遊動環の内面に摺動自在に嵌装させ(D) その下方(前方)の中空先頭片4に切欠部23にゴム環24を嵌込んだ芯管21を出没自在に嵌挿したシヤープペンシルである。
6 イ号物件と本件考案と対比すると次のとおりである。
(1) まずイ号物件の前記構造を本件考案の用語を用いて説明すると(番号は別紙イ号図面に付したもの)、
(A) シヤープペンシル本体1、4の内部に固定環保持具2を固着させ(B) 固定環保持具2の下部内側に固定環6を遊嵌し(C) 押杆8と一体となつている芯挟持具7を弾機13を介して固定環6の内面に摺動自在に嵌装させ(D) その下方の本体前部に芯保持具24を有するスライダー21を出没自在に嵌挿したシヤープペンシルとなり、本件考案との差異は右(B)の構成要件、すなわち本件考案は固定杆6の環部6aが固定杆6に固定されているのに対し、イ号物件は遊動環6が中介接続筒2に固定されていない点だけであり、イ号物件の遊動環6は芯挟持具7を締めつけるためのものであつて、本件考案の環部6aに当り、イ号物件の中介接続筒2は遊動環6を所定の位置に置くためのもので、本件考案の固定杆6と異なるものではなく、両者の差異は単に芯挟持具を締めつけるための環部の構成における設計上の微差にすぎない。
(2) そこで右の差異についてみると、イ号物件の構造は押杆8を押した際芯挟持具7は遊動環6に嵌合したままの状態で一定長前進するが、それを過ぎると遊動環6の先端は段部15に衝突してそれ以上前進せず、芯挟持具7のみがさらに前進するため芯挟持具7は遊動環6より離脱し、したがつて芯挟持具7は外方に開いて芯の固定を解除した状態で芯管21に衝突してこれを押し出し、これにつれてゴム環(芯保持具)24によつて芯管21と弾性的に結合されている芯20も芯管21とともに押し出されるものである。右の作動による芯20と芯管21の前進の関係は、
(イ) 芯挟持具7が遊動環6に嵌合したまま前進している間は芯20が押し出され、したがつてゴム環(芯保持具)24によつて芯20と弾性的に結合されている芯管21も芯20の前進とともに前進して押し出されるが、
(ロ) 遊動環6の先端が段部15に衝突して停止することによつて芯挟持具7が遊動環6より離脱した後は、芯挟持具7は芯20の固定を解除して前進し、芯管21に衝突してこれを押し出し、したがつてゴム管(芯保持具)24によって芯管21に弾性的に結合せしめられている芯20も芯管21の前進とともに前進して押し出されるものである。
右のとおりであるから、仮に右段部15が遊動環6の先端に接して設けられておれば、押杆8を押すと同時に遊動環6は段部15に衝突して前進できず、したがつて芯挟持具7は押杆8を押すと同時に嵌合している遊動環6より離脱して外方に開き芯20の固定を解除した状態で芯管21に衝突前進してこれを押し出すから、ゴム環(芯保持具)24によつて芯管21と弾性的に結合されている芯20も芯管21とともに押し出されることとなり、この場合は遊動環6が中介接続筒2に固定されていようと固定されていまいとその間になんら作用効果の差もなく、それは単なる設計上の微差にすぎない。
そして、イ号物件では遊動環6と段部15との間に一定の距離があるから、この間は遊動環6は芯挟持具7に嵌合したまま前進して芯20を押し出すことにより、
ゴム環(芯保持具)24を介して芯管を押し出すという作用効果を生ぜしめ、その限りにおいてはスライダー(芯管)を押し出すことによつて芯保持具(ゴム管)を介して芯を押し出すという本件考案の作動と同じとはいえない。しかしながら、イ号物件の遊動環6が段部15に衝突した後の作動は、芯挟持具7が遊動環6の嵌合より離脱して芯20の固定を解除して前進し、芯管21に衝突してこれを押し出すから、ゴム環(芯保持具)24によつて弾性的に結合されている芯20は芯管21とともに押し出されるもので、本件考案の作動と同様である。これを要するに、イ号物件の作動の前半は芯20を押し出すことによりゴム環(芯保持具)24を介して芯管21を押し出すが、その後半は本件考案と同じく芯管21を押し出すことによりゴム環(芯保持具)24を介して芯20を押し出しており、この後半の作動は本件考案構造均等なものである。
(3) 被告は、イ号事件は芯挟持具7で芯20を挟持してこれを押し出すものであつて、芯挟持具7が芯20の挟持固定を解除した後に芯挟持具7が芯管21に衝突してこれを押し出し、これとともにゴム環(芯保持具)24により芯管21と弾性的に結合している芯20を押し出すものではないと主張し、芯挟持具7が芯管21に衝突しない理由として、芯挟持具7が芯20の挟持固定を解除した位置よりさらに前進できないようにイ号物件にはブツシユ18が設けられていると述べている。
しかしながら、右の被告の主張は次の理由から真実に反するものである。すなわち、
(イ) 別紙イ号図面第二図によれば、遊動環6の先端より段部15までは約六ミリ、芯挟持具7の先端よりブツシユ18までは約一四ミリであり、芯挟持具7の先端と芯管21との間は約一ミリであるから、芯挟持具7は約六ミリないし七ミリ前進した位置で遊動環6より離脱して芯20の固定を解除し、その状態のままさらに七ミリ前後前進するから芯挟持具7の先端と芯管21の間隔の約一ミリを前進したところで芯挟持具7が芯管21に衝突してこれを押し出している。
(ロ) 被告のイ号物件の宣伝やカタログのすべてに、イ号物件は一回のノツクで二ミリ半の芯が芯管とともに突出する旨記載されているにかかわらず、被告が本訴において「押杆8の一回の押動によつて芯20および芯管21が先頭片4から繰り出される長さは前述のaのように小さいから、芯20および芯管21をそれ以上繰り出すには押杆8の押動と釈放を数回繰り返すことにより、芯20および芯管21を所望の長さまで繰出すことができる」と主張することは前記宣伝やカタログ記載のところと相反するものである。
(4) 以上のとおりであるから、イ号物件は本件登録実用新案の技術的範囲に属するものであり、これに属しないとしても本件登録実用新案と均等なものである。
よつて、被告がイ号物件を製造販売する行為は本件登録実用新案権を侵害するものである。
7 損害 被告は、本件登録実用新案の出願公告がなされた昭和四六年六月一八日以降昭和四八年六月一八日までの二年間にイ号物件を製造販売し、合計一億二、四九五万円の利益を挙げているが、被告の右イ号物件の製造販売行為は本件登録実用新案権を侵害するものであり、同侵害行為は被告の故意又は過失によるものである。よつて、被告のえた右利益は、実用新案法29条1項により、被告の本件登録実用新案権侵害によつて、原告が蒙つた損害額と推定されるので、被告は原告に対し右一億二、四九五万円の損害を賠償すべき義務がある。
8 よつて、被告に対し本件登録実用新案権に基づく差止請求権により、イ号物件の製造販売の差止めとその廃棄を求めるとともに、前記損害金一億二、四九五万円およびこれに対する本件訴状が被告に送達された日の翌日である昭和四八年七月二六日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する答弁1 請求の原因1の事実につき、本件登録実用新案登録請求の範囲は否認し、その余の事実は認める。但し、昭和四八年一一月一四日特許庁発行の「実用新案法第13条で準用する特許法第64条による公報の訂正」と題する公報に原告主張のように本件登録実用新案登録請求の範囲補正する旨の記載があることは認める。
2 同2の事実につき、本件考案の構成要件として原告の主張する(A)、
(B)、(C)が本件考案の構成要件の一部であることは認めるが、その余の主張は争う。
3 同3の事実は争う。芯挟持具4が前進して衝突するのはスライダー5ではなく芯保持具7である。
4 同4の事実につき、(1)の事実は認めるが、その余の主張は争う。
5 同5の事実につき、被告がイ号物件を製造販売していることは認めるが、その余の主張は争う。
6 同6の主張は争う。
7 同7の事実につき、被告がイ号物件を製造販売していることは認めるが、その余の事実は否認する。
三 被告の主張1 原告は、本件登録実用新案につき出願公告決定謄本送達後である昭和四七年三月一一日手続補正書を提出して明細書考案の詳細な説明を、従来「本考案による時は、……芯の繰り出しは」(公報一頁右欄二四行から二八行)とあるを「本考案による時は芯の繰り出しを押杆3の摺動によりスライダー5を前進せしめスライダー5の芯保持具7を介して繰り出すので、一定寸法の芯を一度に繰り出し、しかもスライダー5から芯の出すぎることがなく、筆記中に於ける芯の消耗分はスライダー5を筆圧によりAの位置よりBの位置まで自動的にスライドさせることにより、
ひとりでに筆記を続けられる状態に芯を突出せしめ、このようにして芯の繰り出しは」と補正し、その実用新案登録請求の範囲をも原告主張の本件登録実用新案の登録請求の範囲のように補正した。そして、右補正は昭和四八年一一月一四日特許庁発行の訂正公報(乙第一号証)に掲載された。
しかしながら、右手続補正書提出以前の明細書および図面には右補正にかかる事項の記載はなく、またこれを示唆するような記載も全く存しなかつた。したがつて、右補正は実質上実用新案登録請求の範囲を拡張したか、又は変更したものであつて、要旨の変更になるから、実用新案法13条、特許法64条、実用新案法39条2項により右補正は無効であり、実用新案法9条、特許法42条により本件登録実用新案の登録請求の範囲は右補正前の「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挟持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挟持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、更らに上記本体1の前部に芯を保持する保持機構7を有するスライダー5を出没自在に嵌挿して成るシヤープペンシル」であるというべきである。
2 本件登録実用新案の登録出願前において、本件考案にかかる技術は公知公用であつた。
(1) シヤープペンシルの芯の挟持方法としては、芯と芯挟持具と、この芯挟持具をその半径方向に拡開するよう付勢することおよび内壁をテーパーのついた筒状とする圧縮部材を備え、芯挟持具を圧縮部材の内壁を通過させて芯を挟持するものがあるが、この場合圧縮部材を固定したものと一定区間運動するものとがあり、前者はシヤープペンシルを鉛直に立て芯挟持具に対する圧縮部材の圧縮を除去し、芯に対する挟持を解いて芯をその自重によつて落下させ、紙上に当てシヤープペンシルの先端からの突出度合いを調整して筆記に供するものであり、後者は圧縮部材で芯を挟持した芯挟持具を掴持したまま運動させ、その運動距離が芯の繰出距離であり、これを繰り返してその所期の芯の繰出しを醸成して筆記に供するものである。
前者を固定環式といい、後者を遊動環式という。したがつて、固定環式のものはシヤープペンシルを鉛直に立てて芯の自重によって芯を繰り出すことに限られ、水平にして芯を繰り出すことできなかつたのであるが、それを水平にした場合でも芯を繰り出しうるようにしたのが遊動環式のものである。
(2) ところで、本件考案にかかるシヤープペンシルが固定環式のものであることは、本件登録実用新案の願書に添附された明細書の実用新案登録請求の範囲の「所要直径と長さを有する本体1内に芯挟持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、その芯挟持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設けたシヤープペンシルに於て」との記載から明らかであり、右固定環式のシヤープペンシルが本件登録実用新案の登録前公知公用であつたことは次のとおりである。
(イ) 昭和一四年実用新案出願公告第四一〇六号公報(乙第三号証) 本件の内部に芯挟持具(掴持片2)を有する押杆(摺動管5)を弾機(螺旋発条4)を介して摺動自在に嵌挿し、この芯挟持具のテーパー面(拡大部1)に対向するよう固定体(端板7)の環部(透孔8)を設けた技術(ロ) 昭和三四年実用新案出願公告第一九四二六号公報(乙第六号証) 本体1の内部に芯挟持具(挟圧具4)を有する押杆(推進筒9)を弾機(発条10)を介して摺動自在に嵌装し、この芯挟持具のテーパー面(傾斜面3)に対向するよう固定体(連結金5)の環部(芯圧部6)を設けた技術(ハ) 昭和一五年実用新案出願公告第一三七四五号公報(乙第四号証)(ニ) 昭和一八年実用新案出願公告第一一四七号公報(乙第五号証)(ホ) 昭和三七年実用新案出願公告第二五五二八号公報(乙第七号証)(3) 本件登録実用新案の願書に添附された明細書の実用新案登録請求の範囲の「上記本体1の前部に芯保持具7を有するスライダー5を出没自在に嵌挿し、押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出すようにしたるシヤープペンシル」の技術も本件登録実用新案の登録出願前において公知公用であつた。すなわち、
米国特許第三二〇五八六二号公報(乙第八号証)記載の技術がそれであり、同公報は昭和四一年二月二二日特許庁資料館受入となつている。
右米国特許は、軸先頭部30に芯保持用の摩擦接触部42、48、50、51を有するシールド(スライダー)41を出没自在に嵌挿し、プランジヤー(押杆)16の摺動により芯との摩擦接触保持部分42、48、50、51を介してシールド(スライダー)とともに芯36を繰り出すシヤープペンシルに関するものである。
これを右公報に則してみると、このシヤープペンシルは軸体先頭部29、30を回わすことによつてハウジング18を回わすと、ハウジング18の内部に設けられた螺旋溝34にプランジヤー(押杆)16の突起部33が係合しているので、プランジヤー16は直線的に摺動下降し、プランジヤー16の下端は芯を36軸体先頭部から繰り出す型式のものである。軸体先頭部30の先端には芯36を通す孔38があつて、この孔33に芯保護用のシールド(スライダー)41のフランジ42が摺動自在に嵌合しており、シールド41はその鞘部45が軸体先頭部30の先端の孔37を緩く貫通しており、シールド41はそのフランジ42が軸体先頭部30の内向突縁40に受け止められ、そのシールド41の内孔46内を芯36が通つている。シールド41は金属又はエラストマーあるいにプラスチツクのような弾性を有する材料からなり、フランジ部分42から鞘部45にかけて四つの縦割溝47が設けられて芯を軽く掴む方向の弾性が与えられており、この弾性部分の内孔の径よりも僅かに小さくなつていて芯36に軽く圧接して芯と摩擦力で係合して芯を保持するようになつている。このシヤープペンシルは、筆記をはじめると筆圧によつてシールド41は軸体先頭部30の孔38内で押し上げられて芯36の先端36aをシールド41の先端から露出させるから筆記を行うことができる。この筆記中は芯36の上昇はプランジヤー16によつて阻止されている。筆記が続けられて芯36が摩耗するに従つてシールド41だけが芯を保護しながら軸体先頭部30内で押し上げられるから筆記を断続することができる。かくして、シールド41が軸体先頭部30の孔37に没入してそれ以上筆記ができなくなれば、前述のようにハウジング18を回わしてプランジヤー16を下降摺動させると、芯36はシールド41が芯36と摩耗接触した状態で芯36がシールド41とともに軸体先頭部30の先端から繰り出される。
(4) 以上のように(イ) 所要直径と長さを有する本体内に芯挟持具を有する押杆を弾機を介して摺動自在に嵌装し、その芯挟持具のテーパー面に対向するよう固定杆の環部を設けたシヤープペンシル(ロ) 本件前部に芯保持具を有するスライダーを出没自在に嵌挿し、押杆の摺動により芯保持具を介してスライダーとともに芯を繰り出すようにしたるシヤープペンシルの技術は本件登録実用新案の登録出願前公知公用であつたものであるから、当業者においては本件考案を容易に推考することができたものである。したがつて、本件考案には新規性がなく本件登録実用新案は無効原因を有するものである(被告は右の理由により昭和四九年五月三一日本件登録実用新案の登録無効審判の請求をしている)。このように登録実用新案に無効原因が存するときは、その要旨は願書に添付した図面どおりに局限して解釈すべきであるから、本件考案の要旨は次のとおりのものである。
(イ) 所要の直径と長さを有する本体1内に芯挟持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挟持具のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、さらに上記本体1の前部にスライダー5を出没自在に嵌挿したシヤープペンシルにおいて(ロ) スライダー5の内部に係合部5aを設け、この係合部5aに逆止片7を回動自在に軸着し、押杆3の摺動により前記逆止片7とスライダー5との協動により芯を繰り出すようになしたシヤープペンシル3 イ号物件は次のような構造のシヤープペンシルである。すなわち、
(A) 中空軸筒のシヤープペンシル本体1に固着した中介接続筒2内に緩く貫通して芯ガイド9と予備芯貯蔵管10を介してノツクキヤツプ11と連結した押杆8の下部に放射方向に三つ割に外向に拡開傾向の弾性を有する芯挟持具7を形成するとともに中介接続筒2の上面と芯ガイド9の下面との間に圧縮バネ13を介在せしめ(B) 中介接続筒2の下部に遊動環案内部5を形成し、その遊動環案内部5に内面を上方へ径を縮小したテーパー面6とした遊動環6を上下に摺動自在に嵌合し、
その遊動環6内部に芯挟持具7が位置するように配置し(C) 芯20を縦に案内する芯管21の上部に補強管19を一体的に結合してプツシユ18に上下自在に貫通し、芯管21の下部は中空先頭片下部孔22に上下自在に貫通する(D) 軸筒の中空先頭片4の内部孔14には遊動環6の下方にそれの外径よりも小さい内径の段部15を有しており、この段部15の下方にさらに縮小した内径で下端が段部17で終つている内孔16を設け(E) 芯管21の上下中間位置の一側に設けられた切欠部23にゴム環24をはめて、そのゴム環24の内面の一部を芯20に軽く圧接させてある4 イ号物件の作用効果は次のとおりである。すなわち、
ノツクキヤツプ11が圧縮バネ13の作用で押し上げられている状態では芯挟持具7は遊動環6の内部に進入してそのテーパー面6′により挟搾されて芯20を掴んでおり、この状態からノツクキヤツプ11を押し、したがつて押杆8を押動させるとその下端の芯挟持具7は遊動環6に嵌合して芯20を掴んだままの状態で遊動環6を伴つて前進するので、芯20は中空先頭片4の先端から押し出される。このとき芯20はゴム環24によつて芯20と弾性的に結合されている芯管21およびそれと一体の芯補強管19をも伴つて押し出される。このようにして遊動環6が前進してその先端が中空先頭片4の段部15に衝突すると、遊動環6の前進はこれにより阻止されるので芯挟持具7がそれ以上少しでも前進すると芯挟持具7は遊動環6との嵌合が解かれて自己の弾性により直ちに拡開して芯20を解放する。すなわち、押杆8の一回の押動により芯20は遊動環6の先端が段部15に衝突するまでの移動長さ(aとする)に相当する長さだけ中空先頭片4の先端から押し出される。押杆8をそれ以上押しても芯挟持具7の下端がプツシユ18に衝突してその前進が阻止されるから芯20は押し出されない。しかも拡開された芯挟持具7の先端には凹部が設けてあり、その内径は補強管19の外径より大きく、しかも凹部には深さがあるので、芯挟持具7がプツシユ18に衝突するまで前進しても芯管、補強管19には衝突しないから、芯管21も押し出されない。
押杆8の押動力を解放すると、押杆8は圧縮バネ13の作用で反対方向に押動されるので、芯挟持具7および遊動環6は元の位置に戻されて芯挟持具7は再び芯20を掴む。
押杆8の一回の押動によつて芯20および芯管21が中空先頭片4から繰り出される長さは前記aのように小さいから、芯20および芯管21をそれ以上大きく繰り出すには押杆8の押動と解放を数回繰り返すことにより芯20および芯管21を所望の長さまで繰り出すことができる。
前述のように押杆8を押動するとき芯挟持具7で芯20を掴んだ状態のままで押し出すから、芯が中途で折れていたり、途切れているような途切れ芯の場合でも、
押杆8の押動と解放とを繰り返すことにより芯20を繰出することができる。
要するに、イ号物件の芯の繰出しは芯挟持具7が芯20を挟持して前進させるものである。
5 以上の考察のもとに本件考案とイ号物件とを対比すると次のとおりである。
(1) 本件考案については「芯挟持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け」てあるのに対し、イ号物件は(イ)遊動環案内部5を形成し、その遊動環案内部5に内面がテーパ面6′となつている遊動環6を摺動自在に嵌合し、(ロ)前記遊動環6内に押杆8の下部に形成した芯挟持具7を嵌押し、
(ハ)中空先頭片4の内部孔14には遊動環6の下端を受け止める段部15を有しているので、両者は全く異なつている。
本件考案は芯挟持具4で芯を開放した後にその先端で芯保持具7を押すのであるが、イ号物件は芯挟持具7で芯を挟持したまま遊動環6が段部15に衝突するまで芯を押し出した後、芯挟持具7から芯が開放されると自重落下し、ゴム環24が別の段部17で停止されるまで芯と芯管21が繰り出される。したがつて、イ号物件は長書きに適する一定長の芯の繰出しの理念において本件考案とは全く異なるものである。すなわち、本件考案は芯を強制的に押し出すものではないから、折れ芯の排除は単に押杆3を押すことだけでは不可能であるが、イ号物件は芯を強制的に押し出すものであるから、単に押杆8を押す操作だけで折れ芯の排除が可能であり、
さらに新しい芯の装入については、本件考案は複雑な手数を必要とするが、イ号物件は芯貯蔵管10の予備芯を単に押杆8を押動する簡単な操作で容易に補充装入し、残芯を排出することができる。
(2) 本件考案においてはスライダー5は自由移動しないように摩擦を与えて本体1前部に嵌合しているが、イ号物件においては芯管21は自由移動可能に中空先頭片4内に挿入されており、芯管21の下方への自重落下はゴム環24が孔16の下方の部17で受け止められて阻止されるようになつている。
(3) 以上のように、本件考案とイ号物件とはその構造上も全く異なるものであるうえに作用効果にも著しい差異がみられる。したがつて、イ号物件は本件考案の構成要件を欠くものであつてその技術的範囲に属しない。
6 仮に右の主張が認められないとしても、被告は次のとおりイ号物件の先使用による本件登録実用新案権の通常実施権を有する。
(1) 本件登録実用新案の登録出願日は次のとおり昭和四五年三月一九日である。すなわち、原告は次のとおり手続補正書を提出している。
(イ) 昭和四二年三月一四日登録出願した願書に添附した明細書に記載された実用新案登録請求の範囲は「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挾持具4を有する押杆3を弾機Sを介し、後退するよう附勢して摺動自在に嵌装し、この芯挾持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6を設け、更らに上記本体1の前部に芯を止めるストツパー機構7を有するアタツチメント5を出没自在に嵌挿して成る鉛筆」となつている。
(ロ) 同年三月二〇日提出した手続補正書に記載された実用新案登録請求の範囲は「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挾持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挾持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、更らに上記本体1の前部にスライダー5を出没自在に嵌挿し、
この内部に芯Cを一時的に挾持して上記スライダーを押杆3により前進せしめるようなしたる揺動片7、7、7を設けてなる鉛筆」となつている。
(ハ) 昭和四四年九月一八日提出した手続補正書に記載された実用新案登録請求の範囲は「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挾持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挾持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、更らに上記本体1の前部にスライダー5を出没自在に嵌装し、この内部に芯Cを軽く挾持して上記スライダーを押杆3により前進せしめるとき芯を引き出すようなしたる芯保持具7、7、7を設けてなる鉛筆」となつている。
(ニ) 昭和四五年三月一九日提出した手続補正書に記載された実用新案登録請求の範囲は「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挾持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挾持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、更らに上記本体1の前部に芯を保持する保持機構7を有するスライダー5を出没自在に嵌挿して成るシヤープペンシル」となつている。
ところで、右(イ)の当初の出願に係る考案は実施不能で未完成なものであり、
右(ロ)の補正もその要旨変更となるものであるが、右(ニ)の補正は次の理由により要旨となるものであるから、実用新案法9条1項の準用する特許法40条41条により本件登録実用新案の登録出願は右(ニ)の手続補正書の提出された昭和四五年三月一九日になされたものとみなされる。すなわち、右(ニ)の手続補正書において、実用新案登録請求の範囲を「……芯を保持する保持機構7を有するスライダー5を……」と補正するとともに、その考案の詳細な説明中に「……又芯保持具7は図のような係上片によるか、ゴム片などの摩擦多い物質を用いる(この場合はゴム片が芯に接する)など種々の保持機構を採用する……」と加入して右実用新案登録請求の範囲補正を裏づけようとしている。ところが右(ニ)の手続補正書が提出される以前には実用新案登録請求の範囲にも考案の詳細な説明中にも右のような記載がなく、この記載内容である技術は当業者も容易に推考しえないところであるから、右(ニ)の手続補正書は実用新案登録請求の範囲を拡張するものであつて明細書および図面の要旨を変更するものである。
(2) 右のように本件登録実用新案の登録出願日は昭和四五年三月一九日であるところ、被告は本件考案の内容を知らないで日本国内において、その以前の昭和四四年七月ころイ号物件の製造を準備し、同年一二月ころからイ号物件を製造販売して現在に至つているので、本件登録実用新案権について通常実施権を有するものである。
7 以上の主張が理由がなければ、予備的につぎの主張をする。
本件考案は、従来固定環式のシヤープペンシルにおいてはシヤープペンシルを水平にしたまま芯を繰り出すことが不可能であつたが、固定環式のシヤープペンシルでありながらスライダー5を用いることによりシヤープペンシルを水平にしたままで芯を繰り出しうるようにしたところに新規性があるものである。このことは本件登録実用新案の願書に添附された明細書考案の詳細な説明および図面によつて明らかであるが、これによるもシヤープペンシルを鉛直に立てた場合にスライダー5がその自重により落下するのを阻止する装置は全く記載されていない。そうだとすると、スライダー5は本体1の端部1b内に嵌合し、かつその間には間隙は全くなく、スライダー5はその摩擦によつて自重では落下しないよう構成されているものであり、これは右図面においてスライダー5と本体1の端部1bとの間に摩擦が全くなく、一本の実線で示されていることと、補正前における図面ではそうではなかつたことから明らかである。したがつて、右の摩擦は芯とスライダー5の重力より大きく、しかも押杆3の摺動によりスライダー5を強制的に押し出す力よりも小さいものでなければならないことは経験則上知られるところである。
ところで、実用新案登録請求の範囲には考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載すべきものとされている(実用新案法5条4項)にかかわらず、本件登録実用新案の願書に添附した明細書の実用新案登録請求の範囲には右のことが全く記載されておらず、その限りにおいては本件登録実用新案の登録は無効原因を有するものというべきである。したがつて、右明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は、その「上記本体……スライダー5を出没自在に」の次に「スライダー5が自由移動しないように摩擦を与えて」と記載すべきところこれを遺脱したものであるから、本件登録実用新案の登録請求の範囲は右の遺脱部分を補充して理解しなければならない。よつて、右の「スライダー5が自由移動しないように摩擦を与えて嵌挿し」は本件考案の必須構成要件となるものである。
ところが、イ号案件は、芯管21が中空先頭片4内に自由移動可能に嵌挿されている。すなわち、段部15の下方に更に縮少した内径で、下端が段部17で終つている内孔16を設けて、その内孔16の上端部にブツシユ18を嵌着しており、更に上部に補強管19を一体に結合した芯管21の上部ブツシユ18に芯管21の下部を先頭片4の先端の孔22に上下自在に貫通させ、芯管21の上下中間位置の一側に設けた切欠部23に嵌めたゴム環24の一部を芯20に軽く圧接されているのである。要するに、芯管21は自由移動可能に中空先頭片4内に挿入されており、
芯管21の下方への自重落下はゴム環24が孔16の下方の段部17で受止められて阻止されるようになつている。
したがつて、イ号物件は本件考案の前記「スライダー5を自由移動しないように摩擦を与えて本体1前部に嵌合する」との要件を欠く。
四 原告の、被告の主張に対する反論1 要旨変更の主張について 原告が本件登録実用新案の出願公告決定謄本送達後である昭和四七年三月一一日手続補正書を提出して明細書考案の詳細な説明と実用新案登録請求の範囲を被告主張のように補正し、これが被告主張の訂正公報に掲載されたことは被告主張のとおりであるが、右補正はその以前の明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されていた前述の(A)、(B)、(C)の各構成要件の機能的構成の説明を付加しただけであつて、このことは右補正の前後の各明細書を比較検討すれば明らかである。
したがつて、右補正は実用新案登録請求の範囲をなんら拡張するものでも変更するものでもないので、要旨の変更には当たらない。
2 公知公用の主張について 仮に被告の主張するような技術が公知公用であつたとしても、これら技術を有機的に結合させた構造が公知であるといえないこと明らかであり、本件考案は前述のとおり「芯挟持具4を有する押杆3、芯挟持具4のテーパー面4aと固定杆6の環部6a、芯保持具7を有するスライダー5の必須の構成要件各部の相関関係により、芯挟持具4が芯の挟持固定を解除し、スライダー5とともに一定長の芯を繰り出し、筆記中の芯の消耗分は筆圧によりスライダー5を自動的に後退せしめることによつて筆記の続行を可能ならしめた」ものであるが、被告主張の公知技術はいずれも本件考案における「本体1の前部に芯保持具7を有するスライダー5を出没自在に嵌挿し、押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出す」ことには全く触れておらず、その示唆も存しない。したがつて、本件考案は被告の主張するようにスライダー5には芯挟持具4の先端が前進時に衝突する位置にあるように芯保持具7を装着するものに限定されるものではない。
3 先使用の主張について 原告が被告主張のように手続補正書を提出したことは被告主張のとおりであるが、右は要旨の変更には当たらないものである。すなわち、昭和四二年三月二〇日提出した被告主張の(ロ)の手続補正書は出願時の明細書の明らかな誤記を訂正したにすぎず、昭和四五年三月一九日提出した被告主張の(ニ)の手続補正書は右(ロ)の手続補正書に記載した要旨と同様であつて、なんら要旨を変更したものではない。これをさらに具体的にみると、右(ニ)の手続補正書提出以前において、
本件考案における芯保持具は「芯ホルダー」とか「戻り止め」とかの名称のもとで、「常に芯に接触しているゴム片等」が知られていたものであるから、本件考案の要旨が(イ)押杆の摺動によつてスライダーを前進せしめ、これにより芯保持具を介して芯をスライダーとともに前進せしめ、(ロ)筆記中は芯の摩耗につれて筆圧によりスライダーを後退せしめることにより芯を繰り出す機構に存することが明らかである以上、芯保持具が「係止片」たる「常に芯を軽く挟持しているゴム片等」であるかは、両者間に格別顕著な作用効果上の差異はなく、相互に置換可能な均等な機構であつて、これにより要旨変更となるものではない。
4 本件考案の構成要件に、「スライダー5は自由移動しないように摩擦を与えて本体1前部に嵌合する」との事項を附加すべしとの被告の予備的主張は登録請求の記載を無視するものである。
証拠関係(省略)
理 由一 原告が考案の名称「シヤープペンシル」、出願日「昭和四二年三月一四日」、
出願公告「昭和四六年六月一八日」、出願公告番号「昭和四六-一七四五三号」、
設定登録日「昭和四八年六月一五日」、登録番号「第一〇〇四四四二号」の本件登録実用新案の実用新案権者であること、願書に最初に添附した明細書に記載した実用新案登録請求の範囲の記載がつぎのとおりであつたこと、
「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挟持具4を有する押杆3を弾機Sを介し、後退するよう附勢して摺動自在に嵌装し、この芯挟持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6を設け、更らに上記本体1の前部に芯を止めるストツパー機構7を有するアタツチメント5を出没自在に嵌挿して成る鉛筆」右登録請求の範囲は昭和四二年三月一八日付(同月二〇日受付)補正書によりつぎのとおり補正されたこと、
「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挟持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挟持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、更らに上記本体1の前部にスライダー5を出没自在に嵌挿し、この内部に芯Cを一時的に挟持して上記スライダーを押杆3により前進せしめるようなしたる揺動片7、7、7を設けてなる鉛筆」右登録請求の範囲は、昭和四四年九月一七日付(翌一八日受)補正書により、つぎのとおり補正せられたこと、
「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挟持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挟持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、更らに上記本体1の前部にスライダー5を出没自在に嵌挿し、この内部に芯Cを一時的に挾持して上記スライダーを押杆3により前進せしめるようなしたる揺動片7、7、7を設けてなる鉛筆」右登録請求の範囲は、昭和四四年九月一七日付(翌一八日受付)補正書により、つぎのとおり補正せられたこと、
「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挾持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挾持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、更らに上記本体1の前部にスライダー5を出没自在に嵌挿し、この内部に芯Cを軽く挾持して上記スライダーを押杆3により前進せしめるとき芯を引き出すようなしたる芯保持具7、7、7を設けてなる鉛筆」右登録請求の範囲は、更に昭和四五年三月一七日付(同月一九日受付)補正書によりつぎのとおり補正せられたこと、
「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挾持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挾持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設け、更らに上記本体1の前部に芯を挾持する保持機構7を有するスライダー5を出没自在に嵌装して成るシヤープペンシル」右出願について出願公告(昭和四六年六月一八日)があつた後である昭和四七年三月一一日付(同月一三日受付)補正書により、登録請求の範囲が更につぎのとおり補正せられたこと、
「所要の直径と長さを有する本体1内に芯挾持具4を有する押杆3を弾機Sを介して摺動自在に嵌装し、この芯挾持具4のテーパー面4aに対向するよう固定杆6の環部6aを設けたシヤープペンシルに於て、上記本体1の前部に芯挾持具7を有するスライダー5を出没自在に嵌挿し、押杆3の摺動により芯挾持具7を介してスライダー5とともに芯を繰り出すようなしたるシヤープペンシル」、
そして、被告がイ号物件を業として製造販売していること、
以上の事実はいずれも当事者間に争いがない。
二 被告は、本件実用新案の願書に添付した明細書の記載につきなされた前記昭和四七年三月一一日付補正考案の要旨を変更したものであり実用新案法第13条で準用する特許法64条の規定に違反しているものと設定登録があつが後に認められるものであるから、実用新案法第9条1項で準用する特許第法42条により、右補正がされなかつた実用新案出願について設定登録がされたものとみなされるべきであると主張し、原告はこれを争うので検討する。
補正は、要するに、登録請求の範囲に、
「押杆3の摺動により芯保持具7を介してスライダーとともに芯を繰り出す」との事項を付加したものであり、成立に争いない甲第二号証の一(本件実用新案公報)、乙第二号証の四(昭和四五年三月一七日手続補正書)、同号証の六(昭和四七年三月一一日付手続補正書)同第一号証(実用新案法第13条で準用する特許法第64条による公報の訂正)によると、本願明細書第四頁三行ないし八行(公報第二欄二四行ないし二八行)に、
「本考案による時は芯の繰り出しを押杆の摺動によりスライダーと共に一定寸法を繰り出し、筆記中に於ける芯の消耗分はスライダー5を筆圧によりスライドさせてAの位置よりBの位置まで自動的に繰り出し、このようにして芯の繰り出しは」スライダーと押杆との双方の組合せにより行うものであると記載されていたのを、
右括弧内を、
「本考案による時は芯の繰り出しを押杆3の摺動によりスライダー5を前進せしめスライダー5の芯保持具7を介して繰り出すので、一定寸法の芯を一度に繰り出し、しかもスライダー5から芯の出すぎることがなく、筆記中に於ける芯の消耗分はスライダー5を筆圧によりAの位置よりBの位置まで自動的にスライドさせることにより、ひとりでに筆記を続けられる状態に芯を突出せしめ、このようにして芯の繰り出しは」と訂正したにとどまり、昭和四五年三月一七日付手続補正書に添付の図面についてはなんら訂正するところがなかつた事実が明らかである。
ところで、前顕乙第二号証の四(三頁九行目以下、甲第二号証の一の公報第二欄上から一二行目以下)には、「更らに押杆3をY方向に押すと、芯挟持具4の先端4aが後述のスライダー5の内部に設けた芯保持具7にあたり、この芯保持具7により芯Cを軽く挟持したままスライダー5を芯Cと共に一ストロークLだけ前進せしめるものである」との説明が、右補正前の明細書考案の詳細な説明の項に記載されており、同添付図面も、押杆3の摺動によりその先端に設けられた芯挟持具が前進しスライダー5の内部に設けられた芯保持具7に衝突しながらこれを押すと芯保持具が揺動して芯を挟持し、芯保持具を介してスライダーと芯が一緒に繰り出されるよう図示されていることが認められる。
右事実によると、前記出願公告決定後の補正は、要するに、補正前の明細書の記載が芯とスライダーがどのような機構により繰り出されるか明瞭でなかつたので、
この点を釈明のためなされたものであり、右釈明した事項は補正前の前記記載ならびに図面の表示から推測し得る範囲内のものと解するのが相当であり、右補正はなんら実用新案法第13条、特許法64条に違反してなされたものということができないから、これと反対の見解に立つ被告の主張は採用することができない。
三 本件登録実用新案の昭和四七年三月一三日付補正に係る実用新案登録請求の範囲の記載は、つぎの事項を必須要件とするものと解せられる。
(A) 所要の直径と長さを有する本体内に芯挟持具を有する押杆を弾機を介して摺動自在に嵌装する。
(B) 右芯挟持具のテーパー面に対向するよう固定杆の環部を設ける。
(C) 本体の前部に芯保持具を有するスライダーを出没自在に嵌挿する。
(D) 押杆の摺動により芯保持具を介してスライダーとともに芯を繰り出す。
四 原告は、本件考案の新規な点は、
(1) 押杆の摺動によつてスライダーを前進せしめ、これにより芯保持具を介して芯をスライダーと共に前進せしめ、
(2) 筆記中は芯の摩耗につれて筆圧によりスライダーを後退せしめることにより芯を繰り出す機構に存し、前記本件登録実用新案の必須要件の(D)について、これは、押杆の摺動により、
(イ)芯挟持具がスライダーの内部に設けられた芯保持具に衝突してこれをして芯を挟持せしめ、しかる後これを押すことによつてスライダーを前進せしめ、スライダーの前進により芯保持具を介して芯を繰り出す機構たると、(ロ)芯挟持具がスライダーを押し出して前進せしめ、スライダーの前進によつて芯保持具(常に芯を軽く挟持しているゴム片等)を介して芯を繰り出す機構たるとを問わず、右両者を含むと主張し、明細書添付の図面は本考案の一実施例にすぎず、また詳細な説明の項(公報一頁二欄一三行目以下)の、「芯挟持具4の先端4bが後述のスライダー5の内部に設けた芯保持具7にあたり、この芯保持具により芯を軽く挟持したままスライダー5を芯Cと共に一ストロークLだけ前進せしめるものである」との記載は一実施例たる図面の説明であつて、本考案がこの範囲に限定されるものではなく、詳細な説明の項に、「……芯保持具7は図のような係止片によるか、ゴム片などの摩擦多い物質を用いる(この場合はゴム片が芯に接する)など種々の保持機構を採用する」(公報右欄二〇行目以下)と明記されているのは原告の右主張に副うものであるという。
しかしながら、本件実用新案公報の一頁右欄一行目以下の、
「文押杆3の先端にはテーパー面4aを有する芯挟持具4を一体に設け、この芯挟持具4の外周部に固定杆6の環部6aが上記テーパー面4aに添うよう設け、押杆3の摺動即ち押杆3のキヤツプ部3bを矢符Y方向に押すことにより押杆3は本体1の先端方向へ一ストローク即ち弾機Sの圧縮部分Lのみ移行される。この時芯挟持具が固定杆6の環部6aにて嵌合されて芯Cを上記芯挟持具4により固定されている状態より芯挟持具4のテーパー面4aが環部6aに沿うて移行し、この芯挟持具のテーパー面4aと環部6a間に空隙が生じ芯の挟持固定を解除し、更らに押杆3をY方向に押すと、芯挟持具4の先端4bが後述のスライダー5の内部に設けた芯保持具7にあたり、この芯保持具7により芯を軽く挟持したままスライダー5を芯Cと共に一ストロークLだけ前進せしめるものである」との記載、
ならびに、前記乙第一号証の補正書により補正した考案の詳細な説明の項の、
「本考案による時は芯の繰り出しを押杆3の摺動によりスライダー5を前進せしめスライダー5の芯保持具7を介して繰り出すので、一定寸法の芯を一度に繰り出し、しかもスライダー5から芯の出すぎることなく、……」との記載、
ならびに、明細書添付の図面によると、つぎの事実が認められる。
本件考案において、「芯挟持具」とは、芯を押しても内部に進入しないよう挟持するものであるが、外側からこれを締付けなければ拡開するように構成せられており、「固定杆の環部」は、芯挟持具が拡開しないように芯挟持具のテーパー面に対向し外側から締付け、もつて芯挟持具をして芯を固定挟持せしめる機能を有するものであつて、押杆が摺動する際にも、「固定杆の環部」は移動せず、終始本体に固定せられたままである。したがつて、押杆の摺動によりその先端の芯挟持具は固定杆の環部から離れて前進すると直ちに固定杆の環部による締付けの拘束から解放されて拡開し、芯を挟持しないまま前進する。スライダー内部に設けられる「芯保持具」はこの際、芯挟持具に押されて始めて芯を挟持し、更に芯挟持具に押されることにより、芯を挟持したままスライダーもろ共芯を繰り出す機能を有するものである。
本件考案における「芯挟持具」、「固定杆の環部」、「芯保持具」は右のとおりの機能を有すべきものとして構成せられており、その他の機能ないし運動の伝導関係についてはなんら触れるところがなく、示唆するところもない。
そうすると、本件登録実用新案の前記(D)の必須要件の、「押杆の摺動により芯保持具を介してスライダーとともに芯を繰り出す」との意味は、押杆の摺動によりその先端の芯挟持具が芯保持具にあたり、この芯保持具により芯Cを軽く挟持したままスライダーを芯と共に一ストロークだけ前進せしめて繰り出す趣旨であることは疑いを容れる余地がない。
詳細な説明の項中、芯保持具についての原告指摘の記載はなんら右認定の妨げとなるものではない。
つぎに、イ号物件における本件考案の(D)の必須要件に対応する構成を検討する。
イ号物件においては、前記のように、押杆の摺動により、段部15の位置まで「遊動環」が芯挟持具に芯を挟持せしめたまま前進する結果、その前進分だけ芯が繰り出されるのであるが、芯管(スライダー)の中間一側に設けた切欠部にゴム環(芯保持具の役目をなす)が嵌めてあつて、これが芯を軽く挟持しているもので、ゴム環が段部17にあたるところまでは、芯の繰り出しに伴い、ゴム環を介して芯管が芯とともに繰り出される。そうすると、イ号物件においても、「押杆の摺動により」、「芯」と「スライダー」が一緒に繰り出されるのが普通であり、この場合は両者の繰り出しに「芯保持具」が介在しているので、この結果だけを捉えるならば、本件考案の(D)要件と共通する点があるということができる。しかしながら、押杆の摺動に始まり、これが原因となつて芯とスライダーが一緒に繰り出されるという結果に至る過程における機構、自然法則の利用の仕方は両者同一ではない。すなわち、本件考案においては、芯の繰り出しは、芯保持具が芯を挟持して押し出すことに因るもので、スライダーが芯とともに繰り出される原因は芯保持具はスライダーの内部に設けられてあり、両者が連結されていることに因る。そして芯保持具は芯挟持具に押されて始めて芯を挟持するものである。これに反し、イ号物件においては芯の繰り出しは芯挟持具が直接、芯を挟持したまま押し出すことによるものであり、これに伴つてスライダーも一緒に繰り出されるのであつて、スライダーが芯とともに繰り出される原因は、スライダーの中間切欠部に嵌められているゴム環により、これを介してスライダーが芯を保持していることによる。その結果、本件考案においては、芯は「常に」、スライダーと共に繰り出され、芯が出過ぎることがない反面、芯のみ繰り出すことができないので、芯折れの場合、押杆を摺動することによつては芯を取り出すことができないのに反し、イ号物件においては、ゴム環の前進が段部17で阻止されるまでは、芯はスライダーと一緒に出るが、そのうち、更に押杆を押すことにより芯のみ繰出されるので、折芯の場合折れた芯を繰り出すことができる。右本件考案とイ号物件との間における差異は、それぞれ採用する構成要素の機能上の差異、すなわち、機構が異ることに基因するものというべきである。したがつて、イ号物件においては、本件考案の(D)の要件も具備していないと認めるべきである。
五 もつとも、イ号物件も本件考案と同じく、芯が折れるのを防ぐためスライダーを用いるものであり、押杆の摺動により一定長の芯をスライダーとともに繰り出し、スライダーが芯の消耗分だけ筆圧で順次後退して芯が繰り出され、しかも自由な角度にて傾斜せしめて筆記でき得るという本件登録実用新案公報の「考案の詳細な説明」の項に記載(公報一頁二欄上から三〇行目以下ならびに同項冒頭の記載)の作用効果の発揮がみられる。しかしながら成立に争いない甲第五号証の五の昭和三一年一二月四日特許庁資料館受入米国特許第二四五一七六六号公報、同甲第五号証の六の昭和四一年二月二二日同受入米国特許第三、二〇五、八六二号公報によると、シヤープペンシルにおいて、前者の特許発明においては芯を保護する補強管(a reinforcing Sleeve)が、後者の特許発明においては、
シールド(a Shieid element)が、いずれも本件スライダーに該当する技術要素として用いられており、スライダーの先端が紙面に接する状態に達すると、芯を保護しながら、芯の消耗分だけ後退するよう構成せられていて、右の技術が本件登録実用新案出願日以前に、既に国内において知られていた事実が認められるのである。したがつて、本件考案において認められる右の作用効果は本件考案に固有の新規な点であるということはできない。実用新案権により保護される対象は、云うまでもなく、その考案が発揮する作用効果自体にあるのではなく、その作用効果を発揮する構成にある。前記作用効果を発揮する機構において、イ号物件が本件登録実用新案と同一ではないと認めるべきことは既述のとおりである。
六 原告は、イ号物件における「遊動環」と本件考案における「固定杆の環部」と、イ号物件における「芯とスライダーの繰り出し機構」と本件考案における「芯とスライダーの繰り出し機構」とは、いずれも当業者が本件考案の開示を受けるときは、これから推考容易な均等の技術である旨主張するけれども、実用新案権の侵害訴訟において均等の理論が容認されるのは、その考案が採用した技術原理(課題の解決原理)と同一技術原理を侵害対象が用いていると認められることが前提であり、そのうえで考案構成要素の一部について同一機能を奏する他の技術要素と置換して実施している場合である。仮りに、開示された実用新案の構成から、侵害対象の構成が、推考容易であるとしても、技術原理を異にするときは、その構成は登録実用新案が保護される限界を超えているというべく、も早や均等を論ずる余地はない。けだし、実用新案が採用した技術原理は考案の本質をなすものであるから、これを異にするものまで考案の同一性を認めて保護することは理由がなく、著しく第三者に残された自由を侵害することになるからである。
既に認定したところによれば、イ号物件は本件考案の解決原理とは異なつた技術原理による構成であると認められるので、原告の右均等の主張は採用することができない。
七 以上によれば、被告がイ号物件を製造販売する行為が原告の本件登録実用新案権を侵害するものであることを前提とする本訴請求は理由がないからこれを棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第89条を適用して主文のとおり判決する。
追加
イ号図面説明書イ号図面はノツク式シヤープペンシルを示すもので、第一図は全体を拡大して示した縦断正面図、第二図は第一図の下方部分を更に拡大して示した図である。
図において、1はシヤープペンシルの本体である中空軸筒であつて、その内部に中介接続筒2を挿入してその拡大上部2′を軸筒1の段部1′に係合させ、下部のねじ部3に先細となつた中空先頭片4の上端部を螺着して軸筒1の下端に延長連結している。接続筒2の下部は遊動環(クラツチ)案内部5となつており、内面を上方へ縮小したテーーパー面6′となした遊動環(クラツチ)6を前記の案内部5に上下に摺動自在に嵌合させている。7は遊動環(クラツチ)6の内部に位置する芯挟持具(チヤツク)であつて、下部を放射方向に三つ割として外向拡開傾向の弾性を与えられており、この芯挟持具7の上方延長部は押杆8となつて接続筒2の内部を緩く貫通し、その上端に芯案内孔を有する芯ガイド9の下端をねじ部9′において●着結合し、芯ガイド9の上端には予備芯貯蔵官10の下端を連結し、この予備芯貯蔵官10の上端にしノツクキヤツプ11を嵌挿してクリップ付キヤツプ12の上端を緩く貫いて上方へ突出させている。13は接続筒2の上面と芯ガイド9の下面との間に介在させた圧縮バネである。軸筒1の中空先頭片4の内部孔14には遊動環(クラツチ)6の下方にそれの外径よりも小さい内径の団部15を有しており、この段部15の下方にさらに縮小した内径で下端が段部17で終わつている内孔16を設けて、この内孔16の上端部にブツシユ18を●着している。
20は鉛筆芯であり、21は芯20を縦通案内させる芯管であつて、上部に補強管19を一体に結合して前記のブツシユ18に上下自在に貫挿し、芯管21の下部は先頭片4の下端部の孔22を上下自在に貫通させ、芯管21の上下中間位置の一側に設けた切欠部23にゴム環24を嵌めてそのゴム環24の内面の一部を鉛筆芯20に軽く圧接させてある。
<11928-001><11928-002>
裁判官 大江健次郎
裁判官 渡辺昭
裁判官 北山元章
  • この表をプリントする