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事件 昭和 45年 (ネ) 603号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 1976/02/10
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの連帯負担とする。
事実及び理由
全容
控訴人ら代理人は、「原判決を取消す。被控訴人ら三名は、控訴人アートメタル株式会社に対し、連帯して、金四七七万八、三三〇円およびこれに対する昭和四二年二月二二日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を、控訴人【A】に対し、連帯して、金一七万六、九九〇円およびこれに対する前同日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を、それぞれ支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの連帯負担とする。」との判決を求め、控訴人深江金属工業株式会社代理人、
被控訴人株式会社阪急百貨店および同鐘淵紡績株式会社代理人は、いずれも、主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張および証拠関係は、次に附加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
一、控訴人ら代理人の主張(一) 本件実用新案の技術的範囲とイ号製品の構造 イ号製品の構造は、本件実用新案の技術的範囲に属するものというべきである。
1 実用新案法第5条によると、実用新案登録請求の範囲には、考案の詳細な説明に記載した考案の構成に欠くことができない事項のみを記載しなければならない。
したがつて、実用新案の考案技術的範囲は願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基いて定めなければならない(実用新案法第26条、特許法第70条)。被控訴人阪急・同鐘紡は、本件実用新案権は、実用新案法施行法(昭和三四年法律第一二四号)第21条により旧法(大正一〇年法律第九七号)による権利である旨主張するが、施行法第21条は、新法施行の際現に特許庁に係属していた手続に関する規定であり、登録が確定すると、同法第3条によつて、新法(昭和三四年法律第一二三号)の権利となるのである。
なお、被控訴人ら主張の判決例(最高裁昭和三九年八月四日判決・民集一八巻七号一、三一九頁、同昭和三七年一二月七日判決・民集一六巻一二号二、三二一頁)は、「登録請求の範囲の項中往々考案の要旨ではなく、単にこれと関連するに過ぎないような事項を記載することがあり、また逆に考案の要旨と目すべき事項の記載を遺脱することもある」場合の事件についての判決であつて、本件の場合、登録請求の範囲の記載は明瞭であつて、右判決例は本件に適切ではない。また、右判決例は、考案の要旨の認定に当つて公知の部分を除外することを認める趣旨ではない。
更に、被控訴人ら主張の東京地裁昭和四七年九月二九日判決も、本件に適切ではない。本件は、無効審判について専権を有する特許庁において被控訴人らが公知であると主張する意匠の構造が不明であるとし、したがつて、本件実用新案は公知のものではないとして、昭和四一年二月四日審決(昭和三七年審判第一、四五六号。
甲第三号証)及び昭和五〇年四月二日審決(昭和四五年審判第三、九五七号。甲第一四号証の三)で二回に亘り「審判請求は成り立たない」と判断した以上、本件実用新案は公知公用のものでないことは明白である。右の点については、特許庁の専権事項であり、裁判所としては右の審決に対する不服申立訴訟である審決取消訴訟(東京高等裁判所の専属管轄)においてのみ審理判断しうるのである。
2 本件実用新案の願書に添付した明細書に記載された「登録請求の範囲」は、原判決三四枚目の実用新案公報の該当欄記載のとおり(但し、二行目に「編み編籠を上り」とあるのは「編み上り」の誤植)である。
なお、図面技術的範囲を理解するための実施例を示したものであり、本件第一図は斜視図であることは明らかであり、図面の記載にその範囲は限定せられるべきではない。また、「実用新案の説明」の項に「図において11、12は編骨杆1、
2における相反届曲部を示している」との記載、「縁部Aは上下の各脚5、6、
7、8との連鎖状に相連る」との記載、「一直線上に並ぶ縁部Aが……構成される」との記載は、いずれも実施例の記載であつて、登録請求の範囲の記載ではない。
3 したがつて、本件実用新案は、金属編籠の縁編組装置の構造であつて、
(1) 開口上縁のごとき編み上り最終である縁部の相隣る各編骨杆1、2の各末端を掛止環部3、4を有する水平届曲脚5、6及び7、8と届曲脚6、8よりさらに屈曲された掛鉤部9、10に形成すること。
(2) 各編骨杆1、2をその掛止環部3、4よりの各屈曲脚5、6及び7、8の挿出と掛鉤部9、10の環部3、4への掛止を介し連結一体化した縁部Aを形成すること。
との二要件からなつている。
被控訴人らが後記二(一)3で本件実用新案の作用効果として主張する(@)ないし(F)のうち、(D)は本件考案の要件であるが、他は要件ではない。しかも、イ号製品は、二本の脚が隣の輪に水平方向に二本とも係止している(係止が確実である―安定せる縁編である)旨の主張は事実に反する。すなわち、イ号製品についても、二本の脚のうち一本は掛止であり他の一本は挿出されている。その他の比較は、本件考案の要件と無関係な比較であつて、実用新案法上無意味な主張である。考案の構成要件と全く関係のない不一致を幾ら主張しても技術的範囲に無関係であることは確定した考え方である。
4 本件実用新案の技術的範囲に属するというためには、イ号製品と右考案の構成要件との一致が重要であつて、相異点が存在することは問題ではないのである。
以上の次第で、イ号製品は右の要件を充足するものであるから、本件実用新案の技術的範囲に属するものというべきである。
5 なお、前記昭和四一年二月四日審決(甲第三号証)は、意匠登録第一四三、三三四号の願書に添付した図面代用写真(同事件における甲第五号証)及び同拡大写真(同事件における甲第二号証の二、三)では籠の上縁部の具体的構造が判明しないので同写真と本件実用新案にかかる考案とが一致した構造と認めることはできないと判断しているのであつて、被控訴人らの主張するように同一構造でないと判断したのではない。また、前記昭和五〇年四月二日審決(甲第一四号証の三)も「登録意匠の図面代用写真には、その拡大写真である別件昭和三七年審判第一、四五六号(本件における右甲第三号証の審判事件)の甲第五号証と甲第二号証の二、三を見ても、籠の上縁部の具体的構造が判明しないので、到底この構成から本件登録実用新案の縁組装置が容易に考案できたものとすることはできない」と判断しているのであつて、被控訴人らの主張するように容易に考案できるものでもないと判断したのではない。右両審決は、所謂無効審判請求事件であるから、公知の技術の構造が明らかでないから、同一又は容易推考の判断ができないとしたのである。換言すれば、挙証者である審判請求人が、前提事実を立証しないから、同一でない、容易推考でないと判断したのであつて、イ号製品が本件実用新案権と技術的範囲を異にすると判断したものではない。
(二) 本件実用新案の新規性進歩性1 本件実用新案がその出願当時公知公用であつたことは否認する。証人【B】、
同【C】の各証言はいずれも信用できないものである。
2 本件実用新案権の有効性を肯定しながら、右権利に基く禁止権の行使を否定することは、一方で与えられたものを他方で奪うに等しく自己矛盾である、というべきである。
およそ、現行実用新案制度(特許制度も同じ)はその権利の付与及び剥奪する権限を特許庁長官に与えている。換言すれば、特許庁長官(審査官及び審判官)の登録査定によつて実用新案権が付与され、無効審判によつて実用新案権が剥奪されるのである。そして一旦与えられた権利は無効審決の確定がある迄は有効なものとして取扱われるのである。そして有効な実用新案権が差止請求権及び損害賠償請求権を有することは法の明定するところである。したがつて、実用新案権の有効性を肯定する以上は、実用新案権に基く禁止権の行使をも肯認すべきである。実用新案権の有効性を肯定しながら、禁止権の行使を否定する見解は、無効審判制度を否定することになる、といわざるをえない。蓋し、右の見解は、旧実用新案法(又は旧特許法)における無効審判制度におけるが如く無効審判の請求について三年(又は五年)の除外斥期間がある場合に(旧実用新案法第23条第1項、旧特許法第85条第1項)、除斥期間が経過したことの故をもつて公知公用の実用新案権(又は特許権)に基づいて差止することは正義に反するのではないかということから出た問題である。
しかるに、現行法は原則として除斥期間の制度を廃止し(実用新案法第38条、特許法第124条)、その上、実用新案権(又は特許権)の消滅後も無効審判の請求ができることになつたのである(実用新案法第37条第2項、特許法第123条第2項。) したがつて、実用新案権侵害訴訟が提起された場合にも、これを受けて立つ被告たる者は何時にても無効審判の請求ができるのであつて、無効審判がなされないにも拘らず裁判所が一方的に公知公用を認定し無効と同様な結果をもたらす禁止権行使不可の判断をすることは現行法上は許されないといわざるをえない。現に、本件の場合、訴外株式会社伊藤商店外三名から旧実用新案法第3条第1項の所謂出願前から公知又は公用に属するものであることを理由として請求された無効審判は、昭和四一年二月四日に請求不成立との審決があり、又、被控訴人深江金属工業株式会社から請求せられた無効審判は現に特許庁に係属中である。裁判所は、かかる実用新案制度(又は特許制度)を尊重し、右制度を前提とする特許庁の審決を尊重すべきである。
なお、実用新案権の有効性を肯定しながら禁止権の行使を許さないものとする前記見解は、ドイツにおいても実用新案権に関する少数説であつて、判例でも通説でもない。ドイツの実用新案は所謂形式的審査のみをなし、所謂実質審査(新規性進歩性・高度性の審査)をせずに登録せられるものであつて、我が国の実用新案が特許と同じく実質審査をなす制度とその制度を異にする。
さらに、ドイツにおいても、特許権自体の存立を否定する抗弁は許されない。すなわち、侵害訴訟手続においては、特許は、それが付与された内容のものとして甘受されなければならないのであり、裁判官は発明の直接の対象(本件の場合、実用新案登録請求の範囲の文言によつて確定せられた考案の対象)に拘束されるのであつて、たとえ被控訴人らがイ号製品と同一の公知公用の事実を引用してもその侵害性を否定することはできないのである。
(三) 控訴人会社の損害賠償請求権の根拠1 控訴人会社の損害賠償請求権の根拠は、本件実用新案権についての独占的通常実施権である。
そして、通常実施権は契約のみで効力を生じるのであり、登録を要件としない。しかも、通常実施権は登録しなくとも第三者に対抗することができる。本件は不法行為に基く損害賠償請求であるから尚更である。
2 通常実施権には差止請求権がないことは被控訴人ら主張のとおりである。しかしながら、差止請求権は準物権に基くものであり、損害賠償請求権は差止請求権を前提とするものではなく、物権侵害たると債権侵害たるとを問わず、他人の違法な行為に基いて損害が発生した場合には不法行為に基く損害賠償請求権が発生するのである。そして、独占的通常実施権者はその得べかりし利益の喪失分について、その侵害者に対して損害賠償請求権を有するのである。
(四) 被控訴人らの故意過失 被控訴人らは本件実用新案権の存在を知つて本件製造又は販売行為をなしたものであるから、仮にそれが公知であるとか、イ号製品はその技術範囲に属しないと思料したとしても、かかる事実は故意を阻却することはあつても、過失責任を阻却するものではない。また、専門家に相談したことを以て過失責任を免れるものではない。
二 被控訴人阪急、同鐘紡の主張(一) 本件実用新案権の技術的範囲とイ号製品の構造 イ号製品の構造は、本件実用新案権の技術的範囲に属しないものというべきである。
1 控訴人らは、実用新案権の技術的範囲について「登録請求の範囲」の記載の文字のみに拘泥しているという過誤がある。すなわち、「旧実用新案法施行規則第2条は、出願者に対し説明書の記載事項の一つとして『登録請求の範囲』を記載せしめることとしているが、これは出願者自らが当該考案の及ぶ範囲として主張するところを明らかならしめんとする趣旨に出たものである。したがつて、実用新案権の効力の及ぶ範囲が問題となつた場合、右『登録請求の範囲』の記載をもつて判断の有力な資料となすべきことはいうまでもない。しかし、出願者は、その登録請求の範囲の項中往々考案の趣旨ではなく、単にこれと関連するに過ぎないような事項を記載することがあり、また逆に考案の要旨と目すべき事項の記載を遺脱することもあるのは経験則の教えるところであるから、実用新案の権利範囲を確定するにあたつては、『登録請求の範囲』の記載の文字のみに拘泥することなく、すべからく、
考案の性質、目的又は説明書及び添付図面全般の記載をも勘案して実質的に考案の要旨(構成要件)を認定すべきである。また、出願当時すでに公知、公用にかかる考案を含む実用新案について、その権利範囲を確定するにあたつては、右公知、公用の部分を除外して新規な考案の趣旨を明らかにすべきである。」(最高裁昭和三九年八月四日判決・民集一八巻七号一三一九頁、同昭和三七年一二月七日判決・民集一六巻一二号二三二一頁)。
控訴人らは、右判決例は本件に適切ではない旨主張するが、理由がない。何となれば、最高裁判決(昭和三九年八月四日)は、権利範囲の確定は(一)実質的に考案の要旨(構成要件)を認定すべきこと及び(二)公知公用の部分は除外して新規な考案の趣旨を明らかにすべきことを判示しているのであつて、本件考案は、その「登録請求の範囲」の文字のみに拘泥するときは、鎖天場の公知の構造に対し、すべて公知の構成要件となり、公知事項を除外すれば、本件実用新案は構成要件ゼロとなる理であるが、実質的に考案の要旨(構成要件)を決定するにおいては、「公報(甲第二号証)記載のとおりの内容のものとして最も狭く解する」ことができる(すなわち、公知事項を除外してもゼロにはならないで、いくらかは権利部分が残る)という法理を解するものとして、東京地裁昭和四七年九月二九日判決(無体財産権関係民事・行政裁判例集四巻二号五一七頁)とともに本件には最も適切な判例というべきものである。
なお、控訴人は、現行の実用新案法(昭和三四年法律第一二三号)第5条第26条、特許法(昭和三四年法律第一二一号)第70条の適用のあることを前提として、本件実用新案の権利範囲について主張する。しかし、実用新案法施行法(昭和三四年法律第一二四号)第3条は、「旧法による実用新案権であつて、新法施行の際現に存するもの」すなわち、昭和三五年四月一日現在においてすでに登録されていたものであることを要件として、「新法による実用新案権となつたものとみなす」規定であるところ、本件実用新案は昭和三四年三月二七日の出願(甲第二号証)であり、新法施行の際には実用新案登録出願の係属中であり、新法施行後である昭和三七年年五月三一日に登録されたものである(甲第一号証)から、「新法施行の際現に登録の存するもの」との要件を欠くものであり、「新法による権利」ではなく、実用新案法施行法第21条第1条により、なお従前の例によるべきもの、すなわち旧法(大正一〇年法律第九七号)による権利である。したがつて、新法による権利であることを前提とする控訴人の主張は全て誤りである。
2 本件実用新案の願書に添付した明細書に記載された「登録請求の範囲」が控訴人ら主張のとおりであることは認める。
しかし、控訴人らは「本件第一図は斜視図である」と主張するが、本件明細書には、「第一図は」「正面図」「第二、三図は」「正面図」と明記してあるところ、
本件実用新案の権利範囲は「その図面並びに明細書の記載そのものに依るべきもの」であつて、控訴人らの「解説または意見」に拘束されるべきものではない(大審院昭和四年六月五日判決)から、本件第一図について明細書に「正面図」と明記してあるものを「斜視図」と主張することは全く理由がない。また、「実用新案の説明」の項に、「図において11、12は編骨杆1、2における相反屈曲部を示している」、「縁部Aは上下の各脚5、6、7、8と連鎖状に相連る」、「一直線状に並ぶ縁部Aが……構成される」との各記載が実施例の記載であつて登録請求の範囲の記載ではない旨の主張は争う。
3 前記最高裁及び東京地裁の判決例の示す法理に則り、本件実用新案の「登録請求の範囲」、「実用新案の説明」「図面の略解」各記載及び第一、二、三図による本件考案技術的範囲を検討すると、本件考案は次の構造のものに限定される、と解すべきである。
(a) 本件実用新案の「図面の略解」の項には、「第一図は本案装置の一部切欠正面図、第二、三図は一対の編骨杆の一部切欠正面図」と明記してあるから、図面は次の構造を示している。
(@) 縦線(タテリ。編骨杆)を内から外に向って縁編みする。したがつて、左利きでないと能率が上がらない。
(A) 切端(掛鉤部)が外になる。したがつて手を怪我したりする危険がある。
(B) 蓋体(蓋)と承体(身)を合わす段編みができない。切端が外側になるからである。
(b) 「実用新案の説明」の項中「図において11、12には編骨杆1、2における相反屈曲部を示している。」との記載は、次の構造をを示している。
(C) 縦線(編骨杆)各一組は対向的「く」の字状になつている。
(c) 「実用新案の説明」の項中「縁部Aは上下の各脚5、6、7、8と連鎖状に相連る」と明記してあり、図面の表描とも正しく一致し、次の構造を示している。
(D) 二本の脚(5、6)、(7、8)が上下になつており、そのうちの一本だけが隣の輪に縦に掛止めし、他の一本は差出しになつている。
(d) 「実用新案の説明」の項中「一直線状に並ぶ縁部Aが……構成される」との記載は次の構造を示している。
(E) 二本の脚(5、6)、(7、8)が同じ長さである。
(e) 本件考案(甲第二号証)には、イ号製品における「縦線を外から内に向つて縁編みする(能率的に縁編みできる)」構造についての記載はない。
(F) 凹凸が外側にできる。したがつて、収納物の安定ができない。
これに対して、イ号製品は原判決「い号図面説明書」記載の構造を有するものである。ところで、イ号製品の「鎖天場」の縁編み構造は、本件新案出願前既に公知公用のものであつた。しかるに、本件実用新案が登録されたのは、右公知公用の「鎖天場」と構造を異にするからである。したがつて、イ号製品は、公知の「鎖天場」の縁編み構造であるから本件実用新案とは構造が全く異なるのである。本件実用新案の前記構造と対比すべきイ号製品の構造は次のとおりである。
(@) 縦線(編骨杆)を外から内に向つて縁編みする。したがつて能率的に縁編みできる。
(A) 切端(掛鉤部)が内側になる。したがつて、手を怪我したりすることがない。
(B) 蓋体(蓋)と承体(身)を合わす段編みが可能である(切端が内側になるからである)。
(C) 縦線各一組はV字状になつて一三組(二六本)の奇数にしてあるから、飛び編みせずに、そのまま継続して編むことができる。
(D) 二本の脚が隣の輪に水平方向に二本とも係止している。したがつて、係止が確実であり、安定した縁編みとなる。
(E) 二本の脚は、外側の脚より内側の脚が短い。したがつて、円形の編み縁を形成する。
(F) 凹凸が内側にできる。したがつて、その凹凸によつてガラス容器など収納物が緊嵌、固定できる。
右(@)ないし(F)はイ号製品と本件実用新案との構成要件の差異である。
4 控訴人は、イ号製品と本件実用新案の構成要件との一致が重要であつて相違点が存在することは問題ではない旨主張するが、かかる主張は失当である。イ号製品と本件実用新案との前記構造上の相違及びその構造上の相違に基く作用効果上の差異こそが本件においては最も重要な事項である。
5 イ号製品の「特定構造」(鎖天場)は本件実用新案権と同一でもなければ本件実用新案から容易に推考しうるものでもない。との判断(昭和四一年二月四日審決、甲第三号証。昭和五〇年四月二日審決、甲第一四号証の三)に徴しても、イ号製品の鎖天場を本件実用新案権とは全く「技術的範囲を異にする」ものであることは明白であり、イ号製品が本件実用新案権の権利範囲に属しないことは明白である。
(二) 本件実用新案の新規性進歩性の欠如(公知公用であつたこと)1 本件実用新案がその登録出願当時既に国内において公知公用であつたことは、
原審証人【B】、同【C】、当審証人【D】、同【E】の各証言によつても明白である。
2 したがつて、仮にイ号製品の鎖天場が本件実用新案と同一構造であると仮定しても、本件実用新案は、その登録出願時に公知公用であり、何ら新規性ないし技術進歩性のないものがたまたま形式上登録されたに過ぎないのであるから、出願時に公知公用であつた技術は万人共有の財産であるというべく、私権は公共の福祉に遵う旨の民法の大原則(同法第1条)に徴するも、これまで万人共有の財産であつた権利について実用新案権の名のもとに一般にはその実施を禁止し、特定出願人にのみ独占権を行使せしめることは許されないものというべきである。
(三) 控訴人会社の損害賠償請求権の根拠についての反論1 実用新案権の移転は登録しなければその効力は生じない(実用新案法第26条。特許法第98条第1項第1号)。すなわち、登録をもつてその効力の発生の要件としているのである。ところが、控訴人会社が控訴人【A】より本件実用新案権移転の登録を受けたのは昭和四一年四月二六日であることは控訴人らの自認するところであり、本件取引が一回だけなされた昭和四〇年六月当時には控訴人会社は未だ実用新案権移転の登録を得ていなかつたものである。仮に、これより先、昭和四〇年六月に控訴人会社が控訴人【A】より独占的通常実施権の設定を受けたとしても、当時通常実施権設定の登録を得ていなかつたので第三者に対して対抗しえない。
2 のみならず、実用新案法第27条は、実用新案権者又は専用実施権者に限定して、侵害者(被控訴人らが侵害者でないことは後記(四)のとおりである)に対し、差止請求権を有することを規定しているから、通常実施権者には差止請求権はなく、したがつて、差止請求権を前提とする損害賠償請求権もない。
(四) 故意過失についての反論 被控訴人ら故意、過失は否認する。すなわち、控訴人らは昭和四〇年六月イ号製品の取引をなすにあたり、予め専門家に委嘱してイ号製品が本件実用新案権と抵触しないか否かを十分に研究検討した上、イ号製品は客観的に公知の「鎖天場」の構造であるのみならず、本件実用新案とはその構造が相違し、その構造の相違に基づいて作用効果も著しい差異のあることを確認し、且つ本件実用新案の登録関係(控訴人会社は当時何らの登録も得ていなかつた)をも調査し、イ号製品は本件実用新案権に抵触しない客観的事実に基づいて本件取引をしたものである。したがつて被控訴人らに故意過失はない。
また、控訴人会社は右の如く当時何らの登録も得ていなかつたし、控訴人も当時は本件実用新案を全然実施していなかつたのであり、被控訴人らは「侵害者」ではない。
三 証拠関係(省略) 理 由一 本件実用新案権についての出願から登録に至るまでの経緯、右実用新案権の控訴人【A】から控訴人会社への譲渡及びその登録、右実用新案の明細書に記載された登録請求の範囲については、原判決理由第一項(原判決二一枚目表七行目から同裏九行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。
二 本件実用新案は民事的には無効の実用新案権として無視すべきである旨の被控訴人深江金属の主張が失当であることは、原判決理由第二項(原判決二一枚目裏一〇行目から同二二枚目表八行目まで)の説示のとおりであるから、これを引用する。
三 本件実用新案の技術的範囲について当事者間に争いがあるので、この点について判断する。
(一) 被控訴人阪急、同鐘紡は、本件実用新案権は旧法(大正一〇年法律第九七号)による権利である旨主張するので、本件実用新案権が旧法による権利であるか、新法(昭和三四年法律第一二三号)による権利であるのか、について判断する。
実用新案法施行法(昭和三四年法律第一二四号)第1条により新法は昭和三五年四月一日に施行されたのであるが、同施行法第21条第1項は、「新法の施行の際現に係属している実用新案登録出願(抗告審判に係属しているものを含む。)については、その実用新案登録出願について査定又は審決が確定するまでは、なお従前の例による。」と規定しているのであつて、従前の例によるのは査定又は審決が確定するまでであり、確定した査定又は審決は新法によつてなれたものとみなされ(同施行法第30条)、その後の手続は登録を含め、全て新法によつてなされるのである。ところで、本件実用新案権についての出願から登録に至るまでの経緯は前記(原判決理由第一項引用)のとおりであるから、本件実用新案の出願から査定の確定までは旧法によつたものであるが、登録は新法によつてなされたものである。
したがつて、本件実用新案権は新法による権利である。
右被控訴人両名の見解は独自の見解であつて採用できない。
以上の次第で、本件登録実用新案の技術的範囲は、実用新案法(新法)第26条、特許法第70条により、願書に添付した明細書の実用新案の請求の範囲の記載に基づいて定めなければならないものである。
(二) 当事者間に争いのない本件実用新案の登録請求範囲の記載及び成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によれば、本件考案の構成要件は、次のとおりであると認められる。
(イ) 開口上縁のごとき編み上り最終である縁部の相隣る各編骨杆1、2の各末端を掛止環部3、4を有する水平屈曲脚5、6及び7、8と、屈曲脚6、8より更に屈曲された掛鉤部9、10に形成すること。
(ロ) 各編骨杆1、2をその掛止環部3、4よりの各屈曲脚5、6及び7、8の挿出と掛鉤部9、10の環部3、4への掛止を介し連結一体化した縁部Aを形成すること。
ところで、被控訴人らは、右二要件のほかに、本件実用新案においては、(@)編骨杆1、2を内側から外側に向つて縁編みすること、(A)掛鉤部9、10が外側になること、(B)蓋体(蓋)と承体(身)を合す段編みができないこと、
(C)編骨杆各一組1、2の相反屈曲部11、12は対向的に「く」の字型になつていること、(D)二本の水平屈曲脚(5、6と7、8)が上下になつており、そのうちの一本だけが隣りの輪に縦に掛止し他の一本は差出になつていること、
(E)二本の水平屈曲脚が同じ長さであること、(F)凹凸が外側にできること、
の七要件が必要である旨主張する。しかしながら、右(@)ないし(F)の要件は、いずれも本件実用新案の構成要件ではなく、前顕甲第二号証の公報の図面の表現及び説明中の「上下の水平屈曲脚」「上下の各脚」「相反屈曲部」なる記載は、
本件実用新案の一実施例を示したに過ぎないものと解すべきであり、その理由は、
次のとおり附加するほか、原判決理由第四項の(二)中の第二、第三段(原判決二四枚目裏六行目から同二五枚目裏一二行目までの説示のとおりであるから、これを引用する(但し、原判決の@は右(D)オ前段に、Aは右(@)(A)(F)にBは右(C)にそれぞれ対応する。)。
(1) 被控訴人ら主張(B)の段編みの可能性については、図面及び説明の全般を通じても何らこれに言及した記載はないのであつて、段編みのできないことを以て本件実用新案の構成要件と解することはできない。
(2) 被控訴人らは(D)後段において、本件実用新案は、二本の水平屈曲脚(5、6と7、8)のうちの「一本だけが隣の輪に縦に掛止し、他の一本は差出になつている」旨主張するが、本件実用新案の前記「登録請求の範囲」には「各屈曲脚5、6および7、8の挿出と掛鉤部9、10の環部3、4への掛止」と記載されているのであるから、二本の屈曲脚がいずれも挿出されたうえ、そのうちの一本が掛止されるものと解すべきであつて、被控訴人ら主張の如く解すべきものではない。
(3) 被控訴人らは(E)において、二本の水平屈曲脚(5、6)、(7、8)が同じ長さであることも本件実用新案の構成要件の一つであると主張するが、前記「登録請求の範囲」には縁部Aが一直線に構成されるか否かについての記載はなく、しかも、前記「実用新案の説明」の項に「一直線に並ぶA」とあるのは前記(原判決引用部分)の如く平坦であつて凹凸のない縁部を意味するものと解せられる。したがつて、縁部を円型に形成することを排除する趣旨に解すべきではなく、
二本の水平屈曲脚(5、6)、(7、8)が同じ長さであることが構成要件をなすものと解することはできない。
(三) 当裁判所も、本件実用新案の構成要件(前記(二)項の(イ)(ロ))は全てが本件実用新案の登録出願当時既に公知公用であつたものと判断するのであつて、その理由は、次のとおり附加、訂正するほか、原判決理由第四項(三)のうち、原判決二六枚目表七行目の「成立に争いのない」から、同二九枚目表一一行目の説示のとおりであるから、これを引用する。
(1) 原判決二六枚目表七行目の「第八号証」を「第七ないし第九号証」と改め、同八行目の「第一三号証」の次に「、第一六号証」を加える。
(2) 原判決二七枚目表四行目の「証人【C】、同【B】」を「原審証人【C】、同【B】、当審証人【D】(第一、二回)、同【F】」と、同一一行目の「銀座の三愛」を「三愛、三越など」と、それぞれ改める。
(3) 原判決二七枚目裏九行目の「証人【G】の証言、原告【A】」を「原審証人【G】、当審証人【H】の各証言、原審及び当審における控訴人【A】」と改める。
(4) 原判決二八枚目表三行目の「でない。」の次に、「なお、実用新案法第41条により準用される特許法第167条は、同一の事実及び同一の証拠に基く再度の登録無効審判の請求を禁ずる規定であつて、特許侵害訴訟には適用されないものであり、裁判所において公知公用の判断をなしえないという理由はない。」を加える。
(四) 実用新案の構成要件の全てが公知公用である場合には、本件実用新案の登録を受けることができないものであり(実用新案法第3条第1項)、たとえ誤つて実用新案として登録されたとしても、無効審判の請求によりその実用新案の登録は無効とされうる(同法第37条第1項第1号)のであるが、いかに無効原因が明白であつても係争の実用新案につき無効審判の請求がなされない限り、また無効審判の請求がなされても実用新案を無効とする審決がなされ、しかもその審決が確定しない限り、裁判所は実用新案権を有効として取扱わなければならない。ところで、
被控訴人深江金属が昭和四二年四月一五日特許庁に対して本件実用新案の登録無効審判請求を提起し、同庁昭和四二年審判第二、六三四号として係属中であることは同被控訴人と控訴人両名との間に争いがなく、被控訴人阪急、同鐘紡は明らかに争わないのでこれを自白したものとみなす。しかし、弁論の全趣旨によれば、本件実用新案について無効審決は未だなされていないものと認められる。したがつて、当裁判所としても、本件実用新案を有効として取扱わなければならない。
しかしながら、本件実用新案は、前記認定のとおり、その構成要件が全て出願当時公知公用であつたものである。かかる場合には、万人の共有財産である公知技術を用いることは何人も自由であるべきであるという工業所有権制度に内在する原理から、いわゆる広義の自由な技術水準の抗弁を肯認すべきである、との見解があるが、右の意味における自由な技術水準の抗弁(被控訴人阪急、同鐘紡の当審における主張(二)2)を肯認するときは、結局実用新案の全てが自由な実施に委ねられることになり、実用新案権は形骸のみが残つて内容の全くないものとなることに帰着し、事実上実用新案権を無効として取扱うことになるので、右の意味における自由な技術水準の抗弁を肯認することはできない。しかし、元来万人が自由に使用しうべき考案につき、無効審決の確定がないことの故を以て実用新案権者に実施権能を独占せしめることは、公衆の利益・産業の発展に反するものである。そこで、無効審決の確定がない限り裁判所としては実用新案を有効として取扱わなければならないという原則、すなわち登録実用新案の保護と産業の発展との調和(実用新案法第1条参照)を図るためには、技術的範囲を実用新案公報に記載されている字義どおりの内容をもつものとして最も狭く限定して解釈するのが相当である。すなわち、実用新案の技術的範囲は厳格に記載された実施例と一致する対象に限られ均等物の変換すらも許さないものとして、最も狭く限定すべきである。
これを本件についてみるに、本件実用新案公報(前顕甲第二号証)の「登録請求の範囲」の記載並びに「実用新案の説明」及び「第一ないし第三図」によれば、本件実用新案の技術的範囲は、前記(イ)(ロ)の構成要件を有し、且つ「水平屈曲脚(5、6及び7、8)が上下に構成されていること」、「相反屈曲部11、12を有すること」の要件を充足しているものに限定すべきである。
四 イ号製品の構造が原判決別紙「イ号図面説明書」及びその添付図面(原判決三五枚目及び三六枚目)の記載のとおりであることの理由は、原判決理由第三項中原判決二二枚目裏二行目の「検甲第二号証」から同二三枚目表八行目までの説示と同一であるから、これを引用する。
右の如きイ号製品の構造は、本件実用新案の前記(イ)(ロ)の構成要件を具備するのであるが、「水平屈曲脚(5、6及び7、8)が上下に構成されていること」及び「相反屈曲部11、12を有すること」の要件を充足していない。したがつて、イ号製品は本件実用新案の技術的範囲に属しないものといわざるをえない。
以上の次第で、被控訴人らのイ号製品の製造拡布行為が控訴人【A】の本件実用新案権及び控訴人会社の独占的通常実施権を侵害することを前提とする控訴人らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく失当として排斥を免れないものである。
五 よつて、控訴人らの本訴請求を棄却した原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却し、控訴費用の負担につき民事訴訟法第95条第89条第93条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 北浦憲二
裁判官 弓削孟
裁判官 篠田省二
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