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関連ワード 考案 /  設定登録 /  通常実施権 / 
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事件 昭和 48年 (ワ) 10168号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1976/09/20
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
一 原告1 被告は原告に対し、実用新案登録番号第八四九二一七号実用新案権について昭和四四年九月一日受付第一九二二号をもつて抹消登録された同年三月一三日受付第四三二号通常実施権設定登録の回復登録手続をせよ。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決を求める。
二 被告主文同旨の判決を求める。
請求の原因
一 被告は、実用新案登録第八四九二一七号、コンクリート床建造用床受装置の実用新案権(以下「本件実用新案権」という。)を有する。
被告は、昭和四四年三月一三日原告及び訴外Aに対して、本件実用新案権について持分各二分の一とする左記内容の通常実施権(以下「本件通常実施権」という。)を許諾し、原告らは同日特許庁受付第四三二号をもつてその設定登録(以下「本件通常実施権設定登録」という。)を経由した。
範囲 全部実施料 販売価額の一三パーセント支払場所 東洋興産株式会社名古屋支店経理係二 ところが原告の知らない間に、本件通常実施権設定登録は、原告が本件通常実施権を放棄した旨が記載された原告作成名義の放棄書を原因証書として、同年九月一日受付第一九二二号をもつて抹消登録(以下「本件抹消登録」という。)された。
三 しかしながら、本件抹消登録は、被告が原告作成名義の文書を偽造してした申請に基づいてされたものである。
四 よつて原告は、被告に対し本件通常実施権設定登録の回復手続を求める。
被告の答弁及び抗弁
一 答弁(一) 請求原因一のうち、被告が原告及びAに対し本件実用新案権について通常実施権を許諾したとの点は否認し、その余は認める。
(二) 同二のうち、本件抹消登録が原告の知らない間にされたとの点は否認し、
その余は認める。
(三) 同三は、争う。
二 抗弁 本件実用新案権について本件通常実施権設定登録がされ、さらにそれが抹消登録されるに至つた経緯は、次のとおりである。
(一) 本件実用新案権は、コンクリート床建造用床受装置に関するもので、昭和四三年六月一一日その設定登録を受けたものであるが、この考案の実施品(後に「ツシマトラス」の名称で売出されることになつたので、以下においてはこの考案の実施品を「ツシマトラス」という。)を使用すれば高層建築物の床の建造が従来の工法に比べて極めて能率的、経済的に行えるため、ツシマトラスに対する需要は大いに見込まれたのである。しかしながら、被告の資金不足と宣伝不足のため、売行はいま一歩というところで延びず、被告が苦慮していたとき、たまたま原告及びAと知り合い、三者共同で「ツシマトラス」製造販売の事業化をはかることになつた。ところが原告とAだけではなお信用面と資金面に不足があつたので、社会的にも信用があつた訴外Bにも協力を依頼して、当時休眠会社であつた訴外東洋興産株式会社(以下「東洋興産」という。)を買取つてBがその代表取締役に就任したうえで被告は東洋興産と本件実用新案権について通常実施権許諾契約をする、という方策をたてた。その予定された契約内容は、次のとおりである。
(1) 東洋興産は、被告に権利金として契約成立時に金三〇〇万円を支払う。
(2) 実施料は、商品一台の価額を金四、〇〇〇円として売上の一割三分とする。
(3) 実施料の支払は、毎月二〇日締切り当月末支払とするが、契約成立時に金二〇〇万円を前払する。
(二) そして、被告と東洋興産との間に前記のような内容の通常実施権許諾の本契約が締結される前にその設定登録申請手続をしておこうということになり、昭和四四年三月一三日特許庁でその手続をしようとしたところ、Bの東洋興産代表取締役就任の登記ができていないことがわかつた。そこで、関係者一同が協議したうえ、暫定処置として事業の準備に従事していた者の代表格である原告とAに対し共同名義で通常実施権を設定したような設定登録申請手続をすることにして、すでに通常実施権を東洋興産として所要事項を記入してあつた申請書の東洋興産とある部分を前記両名の名義に訂正したうえ、これを特許庁に提出した。そして、東洋興産の買収手続が完全に終了してBがその代表取締役に就任した段階で被告はただちに同社と通常実施権許諾の本契約を締結し、原告及びAに登録されている前記通常実施権の移転登録を同社に対してすることに関係者一同取り決めた。
(三) ところが、いよいよ被告と東洋興産との間で通常実施権許諾契約の本契約を締結しようとするにあたり、東洋興産には前記のように契約成立時に被告に支払うことになつていた五〇〇万円の金がないことが分つた。そのため結局被告と東洋興産との間には通常実施権許諾契約は成立するに至らず立消えとなり、本件通常実施権設定登録も抹消されなければならないことになつた。
(四) その後Aは、本件通常実施権設定登録の抹消登録手続をするのに必要な書類を作成して被告に交付した。原告は、右抹消登録手続をすることを被告に対して約しながら、一日のばしにこれをのばしていたが、最終的には昭和四四年六月二一日原告は被告に対し、被告が原告に代つて適宜本件通常実施権設定登録の抹消登録申請手続をとることを承諾し、被告はこれに基づいてその申請手続をしたものである。
(五) 以上述べたように、本件通常実施権設定登録はその実体関係をともなわないもので、当然抹消されるべきものである。従つて仮に本件通常実施権設定登録の回復登録手続がなされたとしても、窮極的には本件通常実施権設定登録は実体を欠くものとして抹消されざるを得ないことになるから、結局原告の本件請求は棄却されるべきである。
被告の抗弁に対する原告の認否
昭和四四年六月二一日原告が被告に対し、被告が原告に代つて適宜本件通常実施権設定登録の抹消登録申請手続をとることを承諾したとの事実は否認する。
証拠(省略)
理 由一 被告が本件実用新案権を有すること、昭和四四年三月一三日受付第四三二号をもつて本件通常実施権設定登録がされたこと、同年九月一日受付第一九二二号をもつて右の抹消登録がされたことは、当事者間に争いがない。
二 原告は、昭和四四年三月一三日被告は原告及び訴外Aに本件実用新案権について通常実施権を許諾したと主張する。成立について争いのない乙第四号証の二には、被告が原告主張の日に原告及びAに通常実施権の許諾をした旨の記載がある。
しかしながら、右乙号証の成立の経過は次に認定するとおりであり、これによつて被告が原告らに通常実施権を許諾したということはできず、他に許諾の事実を認めるに足る証拠はない。
真正に成立したことについて当事者間に争いのない乙第三号証、第四号証の一及び前掲二、証人Cの証言によつて真正に成立したことが認められる乙第五号証の一ないし四、証人C、同Dの各証言(証人Dの証言については後記措信しない部分を除く。)及び被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、本件通常実施権設定登録及び本件抹消登録の経緯は、次のとおりであると認められる。
(一) 原告は、ツシマトラスの製造販売事業が将来有望であることに目をつけ、
被告から本件実用新案権について通常実施権の設定を受けようと考える一方、昭和四四年二月までにB、D、Aら十数名の者に呼びかけてツシマトラスの製造販売の事業を行う会社として、東洋興産株式会社という名称の会社を設立するかあるいは既存の会社を買取つてその商号を東洋興産株式会社と変えてその会社でツシマトラスの製造販売の事業を行う準備をすすめ、東洋興産の代表取締役にはBを選任するという計画をたてた。そして、同月下旬には、名古屋市内で原告、B、Aが被告と会合し、右四者間で将来東洋興産が設立されるかあるいは既存の会社を買取つてその商号を東洋興産と変え、且つその代表取締役としてBの就任登記ができた場合には、被告は東洋興産との間に、本件実用新案権について次の内容のような通常実施権許諾契約を締結する旨互いに合意した。
(1) 東洋興産は、被告に権利金として、契約成立時に金三〇〇万円を支払う。
(2) 実施料は、商品一台の価額を金四、〇〇〇円として売上の一割三分とする。
(3) 実施料の支払は、毎月二〇日締切り当月末支払とするが、
契約成立時に金二〇〇万円を前払する。
(二) 同年三月一三日被告が本件実用新案権の通常実施権者を東洋興産とする通常実施権設定登録をするためにその旨の書類を整えて特許庁で原告及びAに出会つたところ、その時点においては東洋興産は未だ設立されてもおらず、また他の会社を買取つてその商号を東洋興産と変え、Bをその代表取締役として選任する旨の登記もされていないことが判明したので、原告らは窮余用意して来た申請書及び付属の通常実施権設定契約書の申請人欄及び通常実施権者の欄の東洋興産とあるところを抹消し、その欄に原告及びAの名を書き入れ押印して特許庁に提出し、その結果本件通常実施権設定登録がされた。そして右申請当日前記三者の合意により、東洋興産が設立されるか、又は他の会社を買取つて商号を東洋興産とし、且つBをその代表取締役に選任した旨の登記がされた場合には、被告は同社と通常実施権許諾契約を締結し、原告及びAに設定登録されている通常実施権の東洋興産への移転登録をすることを約した。
(三) しかしほどなく東洋興産の設立準備にたずさわる者達の内部で紛議を生じ、同年三月末か四月初頃被告宅で右関係者一同と被告が協議した結果、今後は原告を中心として東洋興産を設立しようというグループとAを中心としたグループとに分れて、それぞれが別途に事業を遂行することになり、すでにAから被告に渡されていた金三〇〇万円の金は、将来A側で設立するはずの事業主体と被告との間に締結されるべき通常実施権許諾契約の権利金に充当することとし、他方原告側においては、近日中に東洋興産を設立するか、又は他の会社を買取つて商号を東洋興産と変更し、且つBがその代表取締役に就任した旨の登記がされた段階で被告は同社と通常実施権許諾契約を締結し、そのうえで同社が権利金として金三〇〇万円を被告に支払えば、被告が東洋興産のために本件実用新案権についての通常実施権設定登録をすること、及びA、原告はそれぞれ直ちに本件通常実施権設定登録の抹消登録の申請をすることが合意された(乙第五号証の一ないし四は右の合意に基づいて作成された原告及びAの本件通常実施権の放棄書、抹消登録申請書等であるが、この書類は形式的な不備があつたためか、抹消登録申請には使用されなかつた。)。
(四) そして、A側ではその後日本技建株式会社を設立し、同年六月一七日被告は同社との間に本件実用新案権について通常実施権許諾契約を締結したうえその設定登録をし、Aは被告に対し本件通常実施権設定登録の抹消登録申請手続をするのに必要な書類を交付した。
他方原告側においては、新会社の設立は断念し、既存の会社を買取つて商号を東洋興産と変え、同年四月二五日は代表取締役としてBを選任した旨の登記手続を経た。しかしその後も東洋興産は依然として被告に権利金の支払をせず、また原告もその後は本件通常実施権設定登録の抹消手続に応ずる気配を示さなかつた。そこで、被告はやむなく原告名義の印章を購入しこれを冒用して原告作成名義の通常実施権の抹消登録申請書と放棄書(甲第二号証)を作成し、同年九月一日それを使用して本件抹消登録の申請手続をした。
以上の事実が認められ、証人Dの証言中右認定に反する部分は措信できない。
三 右に認定したように、被告は、原告及びAに本件実用新案権について通常実施権を許諾したことはない。従つて、本件通常実施権設定登録は、その実体を欠くものである。しかもその後原告は本件通常実施権設定登録の抹消手続をすることを被告に対して約している。そうすると原告は被告に対して本件通常実施権設定登録の抹消登録申請手続をする義務がある。
ところで、前記認定事実によれば、本件抹消登録は、原告自身が作成したのではない放棄書及び通常実施権の抹消登録申請書によりされたものであり、いわば偽造文書に基づいてされたものであるが、前説明のとおり本件通常実施権設定登録は実体関係に適合しないものであつていずれは抹消されざるを得ないものであり、しかも原告は抹消登録申請をすることに合意していたものであるから、抹消登録が偽造文書に基づいてされたものであつても、原告はその回復登録手続を求め得ないものといわなければならない。
四 そうすると、原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 高林克巳
裁判官 清永利亮
裁判官 木原幹郎