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関連審決 審判1961-312
審判1960-83
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  物品 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  同一の作用効果 /  寄せ集め /  置換 /  転用 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 38年 (行ケ) 159号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1976/09/22
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用及び被告ら補助参加人らの参加によつて生じた費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の申立
原告訴訟代理人は「特許庁が昭和三八年一〇月一〇日同庁昭和三五年審判第八三号事件及び昭和三六年審判第三一二号事件についてした各審決を取り消す。訴訟費用は、被告らの負担とする。」との判決を求め、被告ら訴訟代理人は主文第一項同旨竝びに「訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。
(特許庁における手続)一 原告は、名称を「作業用莫大小手袋」とする登録第五〇〇二九九号実用新案(昭和三一年五月二二日出願、昭和三四年九月一五日登録)につき実用新案権を有するものであるが、昭和三五年二月一七日被告【A】から、昭和三六年六月八月被告大阪商事株式会社から順次右実用新案の登録を無効とする審判の請求がなされ(右請求の順により特許庁昭和三五年審判第八三号事件、昭和三六年審判第三一二号事件)、特許庁は昭和三八年一〇月一〇日いずれも「実用新案登録を無効とする」旨の本訴請求の趣旨掲記の各審決(以下、右事件の掲記の順に従い、第一、第二審決という。)をし、その謄本は同年同月二六日原告に送達された。
(考案の要旨)二 本件考案の要旨は「継目なしで円形に編成した主体1に連続して同一編目数で連続編成した手首部3の全面にわたり、上段編目と下段編目との編環掛合部4に伸長状態で掛止し、隣接する縦編目列の適宜数の裏面を潜通させ、再び編環掛合部4に掛合させたゴム糸5を横編目列の適宜間隙ごとに編み込み、これらゴム糸5と編環との掛合部を同一縦編目列に揃えて編成してなる作業用莫大小手袋の構造」(別紙第一図面参照)というのであつて、各審決ともその理由中においてこれを認めている。
(審決の理由)三 各審決の理由の要点は次のとおりである。
(1) 第一審決にのみ固有の理由 審判請求人(本訴被告)【A】は、手袋及び手袋編機に関する発明、考案について、第二〇三九九五号及び第二七四二八八号特許を受けているほか、特許、実用新案登録の出願中でもあるから、手袋に関する本件実用新案登録の無効審判を請求するについて利害関係がある。
(二) 両審決に共通の理由 継目なしに連続編成した(ただし、第一審決は「全体を」とし、第二審決は、
「指部、掌胛部及び手首部を」としている。)作業手袋(軍手)は本件登録出願前国内において「周知」(第一審決)ないし「極めて普通に知られるところ」(第二審決)であつた(この点について、第一審決は、顕著な事実であつて、昭和二四年一二月五日株式会社技報堂発行、【B】著「編組工学」第三五四ないし三五六頁((以下、「第一引用例」という。))の記載をその一例であるとし、第二審決は第一引用例によつてみとめられるといつている。)。
そして、昭和二九年実用新案出願公告第一四六号公報(以下、「第二引用例」という。)によれば、手袋における手首部(ただし、第一審決には単に「手袋」とあるが、それは第二審決の記述と対比して明らかに誤記と認められる。)の全面にわたり、横編目一列おきにゴム糸を挿通したものは本件登録出願前公知であつたことが認められるところ、さらに、昭和二五年実用新案出願公告第八二七二号公報(以下、「第三引用例」という。)には、足部、脚部及び履口部全体を継目なしに同一編目数で直円筒形に連続編成した無踵靴下(いわゆる軍足)における履口部の全面にわたつて、上段編目と下段編目との編環掛合部に伸長状態で掛止し、隣接する縦編目一列の裏面を潜通させ、再び次の編環掛合部に掛合させたゴム糸を、横編目列ごとに編み込み、これらのゴム糸と編環との掛合部を同一縦編目列に揃えて編成した構造(別紙第二図参照)が記載されていて、その説明によれば、本件考案と全く同じ作用効果を達成しうることが認められる。なお、第三引用例におけるゴム糸の挿通構造は、前記刊行物「編組工学」第二六一、二六二頁(以下、「第四引用例」という。)からみても、本件登録出願前普通に知られていたものと認めることができる。
以上によると、本件考案は、第三引用例によつて公知であつた靴下に関する考案を、周知の継目なし作業用手袋における拇指の付け根から履口端縁に至る構造転用したものに相当するが、そもそも、軍手(作業手袋)と軍足(無踵靴下)とは、
手足に着けるメリヤス製被服として同一範疇に属するうえ、前者が指部、掌胛部、
手首部及び履口部からなるのに対応して、後者も指部、足胛部、足首を含む脚部及び履口部からなるから、これに関して同一の作用効果を目的とする考案であれば、
それぞれの当業者が技術上の普通の知識に基づき格別工夫を要しないで、彼此相互に転用することができるものである。まして、本件考案の手袋と第三引用例の無踵靴下とは、拇指の付け根から履口端縁に至る共通の部分において類似の構造を有し、作用効果も何ら相違するところがないから、なおさら、この靴下に関する第三引用例の考案を第一引用例のような周知の継目なし作業手袋に転用して本件考案に想到することは当業者が容易になしうるものであり、このことは、第二及び第四引用例にみられる前記のような公知事実の存在によつて裏付けられる。
従つて、本件考案は、旧実用新案法(大正一〇年法律第九七号)第1条にいう考案を構成しないものであるから、その登録を同法第16条第1項第1号により無効にすべきものとする。
(審決の取消事由)四 しかし、審決が本件考案をもつて旧実用新案法第1条にいう考案に当らないとして、その登録を無効としたのは事実誤認に基づく誤判であるから、違法であつて取消されるべきである。
1 まず、本件考案は、
(A) 継目なしで円形に編成した主体部1を有すること(番号は別紙第一図面記載のもの。以下同じ)、
(B) 主体部1に連続して、同一編目数で連続編成した手首部3を有すること、
(C) 手首部3の全面にわたり、上段編目と下段編目の編環掛合部4に伸長状態でゴム糸5を掛合せるとともに、隣接する縦編目列の適宜数の裏面を潜通して再び編環掛合部4に掛合すること、
(D) ゴム糸5を横編目列の適宜間隙ごとに編込み、これらゴム糸との掛合部を同一縦編目列に編成すること、
という要件の結合によつて構成された作業用手袋(軍手)の構造であり、その構造のうち拇指付根部から手首部に至る間において目減らしをしないことを最も重要不可欠の要件とするが、右構成によつて、
(1) 伸長状態で手首部3に編込まれたゴム糸5が縮小して、ゴム糸が掛合する縦の編目列は内方へ引込まれて凹入し、全体として、ゴムメリヤスと同様の外観を呈すること、
(2) ゴム糸5の使用によりゴム編以上の伸縮力を有し、良く手首に密着すること、
(3) 主体1と同一編目数で編成したため、手首部の伸長拡大が良好で着脱が容易であること、
(4) 同一編目数であるため、主体下方、手首部等の目減らしを必要としないので、編成を連続的になし得て、好能率に制作し得ること等の効果があるものである。
2 審決は、「全体を」(第一審決)、または「指部、掌胛踵部及び手首部を」(第二審決)継目なしに連続編成した作業手袋が本件登録出願前周知であつたことを顕著な事実であるとし(第一審決)、また第一引用例によつて認められるとしている(第二審決)が、さような周知事実はない。また、第一引用例には、なるほど、手袋に「縫目なしのもの」と「裁縫したもの」とがあり、「・・・・・そこで現在の軍手は編止めを行うのであるが、従来のものはこれにゴム口織部を編続ける。」との記載があるので、審決は、右記載のうち、「編続ける」の部分をもつて、主体とゴム口織部とを一連に連続編みすることの意味に解したものと考えられるが、その記載より前には、「・・・・・手首部の大さとした後、編糸を切断して機械から取去る。」との記載があり、後には、ゴム織部の通常の組織である2×2のゴム口織部を編成するのに編針をどのように配列するかにつき、詳細な説明を行い、「作動針の総数は、手甲及び掌部を編んだときの最後の編針数と同一であらねばならぬ。」、「所要の長さを編んだときの最後の編み終つたときは、次の口織部を編む」、「各口織毎にその編み始めには二〜三コースの袋編を行わねばならぬ。」、「この口織部はその両側縁を縫合わせて筒となし、前に編んでおいた手部の編終りに於ける編目と、口織部の最後の編目(勿論捨て糸を除いた)とを接続し」と記載されていることによれば、第一引用例のものは、主体(指部、掌胛部)とゴム口織部とを連続編みしたものではなく、ゴム口織部だけ手部と同数の数を連続編成したのち、一枚ごとに切断して、それに主体を接続したものであることが明らかである。そして、縫目という言葉と継目という言葉とは、一般に前者が二つの生地の一部を重ねてこれを糸で縫合せる場合その縫つた部分をいうのに対し、後者が二つの生地の一部を重ねないで糸でその端と端をかがり合わせる場合その継いだ部分をいい、明らかに異なるところ、第一引用例においては、手袋を右の意味の縫目なしのものと、裁縫したもの(継目のあるもの)とに大別し、継目のある手袋も縫目なし手袋としている。従つて、第一引用例における「そこで現在の軍手は編止めを行うのであるが、従来のものはこれにゴム口織部を編続ける」との記載のうち「従来の」云々の部分は、従来は一つの手部(指部、掌胛部)を編成したら、これを機械から取去つた後、改めてその機械の針を2×2に配列して、新たにゴム口織部を編成し、そのうえで両者をかがり合せて一つの完成手袋を作つていたことを表現しているのである(このことは第三七二図により明らかである。)なお、その前の「現在の」云々の記載部分は、右のような方法では能率が悪いので、現在は手部は手部用機械で、ゴム口織部は別の機械でそれぞれ必要枚数を編成したうえ、両者をかがり合わせ同様の手袋を作つていることを表現したものであつて、審決のいうように、本件考案による方法が従来から存在していたことを説明しているものではない。すなわち、本件考案は第一引用例の記載と何の関係もないのである。
3 審決認定のうち、手首部の横編目一列置きにゴム糸を挿通したものが本件登録出願前公知であつたことは争わないが、審決がその公知文献として挙げた第二引用例の手袋は本件考案の手袋と全体の構造、ゴム糸の挿通形式等が全く異なる。すなわち、それは、手先部と手首部とが別箇に、かつ別箇の組織により各別に編成されたものを継合せたものであつて、この意味において、本件考案の重要要件である同一編目数による連続編成の要件を欠くとともに、手首部が丸編組織の縦編目列ごとに単純にゴムを挿通しただけのものである点において、本件考案のゴムと編環部との掛止構造を具えていないのである。従つて、審決が第二引用例によつて本件考案が公知であることを認めたのは重大な事実誤認である。以下に、これを詳説する。
第二引用例の「実用新案の性質、作用及び効果の要領」欄には「図中1は手先部で従来の通り横編メリヤス機で袋編をするものとす。
本案においては、手首部を丸編メリヤス機で丸編みし、且その横編糸と交互に又は数本置きにゴム糸を自動挿入し乍ら丸編みに編込んで手首部を構成し、該手首部と手先部の端部とをかゞり機により継ぎ合せ継ぎ目を形成するものとする。」との記載があるところ、その添付図面の第二図には、横編糸を表わす符号3からの二本の引出線が示され、上方の引出線が表編目縦列(表編ウエール)を指し、下方の引出線が裏編目縦列(裏編ウエール)を指しているから、これは横編糸3の形成する編地について表編目縦列一本と裏編目縦列一本とが互い違いになつているごく普通に知られた1/1のゴム編組織にゴム糸が挿入された構造を図示したものであり、
また、同図によると、そのゴム糸の挿通方法は、コースを二段とびごとの等間隔に挿入するものであることが明らかである。従つて、ゴム糸を横編糸に編込むについて右記載の「交互」なる構造が、垂直方向に往復する一組の編針によつて、編糸を咬え込んで表編ウエールを形成し、水平方向に往復する他の一組の編針が編糸を咬え込んで裏編ウエールを形成する機構の編機によつて、表編ウエールと裏編ウエールとが一本ごとは交互したものであり、同じく「数本置」なる構造が、抽象的記載であつて、ゴム編組織を総称するものであることは自明の事実である。すなわち、
同図は表編ウエールと裏編ウエールとが「交互」に配列された構造を忠実に図示し、一方、本文における「数本置」の記載はゴム編組織における類似物防止のために記載されたものであつて、説明書本文とその添付図面との記載は密接不可分のものであるから、第二引用例の考案の要旨による手袋の構造がゴム編組織であることは言を俟たない。
次に、第二引用例のようにゴム編組織にゴム糸を挿入する場合には、ゴム糸は、
ループの中間に単純に挿通され、図によつて明らかなように、表編ウエールの裏側に隠れ裏編ウエールの表側に表われる構成、換言すれば、編糸の形成する高い畦間に隠れ低い畝間に表われる態様になるが、これに対し、本件考案のような平編組織にゴム糸を挿入する場合には、元来、その組織の垂直方向、または水平方向に往復するただ一組の編針が編糸を咬え込んで、編糸が一方にのみ引出され編目を形成し、各編目が、同じ状態に配列されるものであつて、あたかも織物における平織に匹敵する極めて実用的な組織であるため、ゴム糸は、上段編目と下段編目との編環掛合部に伸張状態で掛止めされ、したがつて、表側からは見えない態様になるから、両者に著しい構造上の差異がある。
そして、第二引用例の考案は、手先部を「従来通り横編メリヤス機で袋編をするものとす。」との前記のような記載から推して、手首部を手首の太さにするため、
拇指付根部から手首部に至る間、五回にわたり、目数八四本から目数六四本に目減らしする作業を行い、ゴム編組織に丸編した手首部にゴム糸を挿入したものを継目により継合せた手袋の構造であるのに対し、本件考案は、手首部を良く伸長拡大して着脱を容易ならしめるとともに拇指付根部から手首部末端に至る間に目減らしすることなく、同一編目数の平編のまま連続編成する手袋の構造であつて、その編成に手数を要せず、好能率に制作し得る効果があるものである。
従つて、本件考案は第二引用例のものと根本的に技術的思想を異にし、その構造新規性があるものである。
4 審決は第三引用例に記載されたいわゆる軍足の構造が本件考案と全く同じ作用効果を達成すると認定しているが、手袋と靴下とはそれぞれ天賦の形状に適応するように形成されているため、靴下を手に着用してもこれを足に着用したときのような作用効果を奏することはできないから、右認定は誤つている。以下にこれを詳説する。
靴下は、もともと靴を穿いた場合、足の各部に靴ずれによる傷病が起るのを防ぐとともに、歩行運動を完全ならしめる目的を有するため、足裏部の構成に最も技術的配慮が払われるほか、全体が適度に緊張して歩行中各部にしわが発生しないように配慮されているが、これに対し、手袋、殊に作業用手袋は、手の運動機能に障害を与えないためすべての技術的配慮が集中され、手の積極的な動作運動に添つて伸縮自在になるように工夫されているのであつて、作業用手袋においては、五本の指部、掌部、手首部の存在及びその関連に対する配慮が不可欠であり、また、拇指側及び小指側を数回目減らしし、手首部にゴム糸を挿入するのもその目的と密接に関連している。
なお、第三引用例の無踵靴下において単に靴下の脱落防止のため僅か数条のゴム糸を履口に挿入するのと異り、本件考案において手首部にゴム糸を挿入するのは、
これにより、手首を程良く緊締し、卓越した防寒と使用中の脱落防止とを図るとともに、目減らしをなくして伸縮度を極めて大きくし、在来の手袋には見られないほど手首部を大きく開口して着脱を容易にするほか、生産工程中、機械を停める目減らし作業が回避されて好能率に大量生産をするのに適する効果を挙げるものである。
従つて、手袋と靴下という、目的、性質、作用効果をことごとく異にする異種の物品を合理的根拠なしに同一視し、本件考案考案性を否定した審決の認定は首肯することができない。
5 審決は第三引用例におけるゴム糸の挿通構造が第四引用例からみて本件登録出願前普通に知られていたと認定しているが、第四引用例によつては手袋の手首部にゴム糸を挿通した履口を知る余地は全くないから、右認定は誤つている。以下これを詳説すると、第四引用例(表題には「緯糸又は経糸の編込んだメリヤス」とあるが、緯糸の編込についてのみ記載がある。)は、緯糸を波状に編込んだメリヤスの説明をしたものであつて、緯糸編込の目的がメリヤス自体の伸縮性を制限するとともに編地を厚く、かつ密にして地合を鞏固にするためであるが、これと反対に編地の伸縮性を著しく大きくするための場合もある旨を概説し、第二六四図とその説明文において、ゴム編に緯糸を編まずに封入した説明とゴム編組織の地編糸にも伸縮性糸を使用して縦横いずれの方向にも伸縮しうる性質を附与したことが記載されているが、審決の引用する第二六八図とその説明文は、単に、編地の厚さを増すため伸縮性のあまりない普通糸を緯糸として挿入したものを示しているものであつて、
ゴム糸を編込み緯糸として使用し、編地の横方向の伸縮性を増した組織構造を説明するものでは絶対にない。すなわち、その文中「第二六八図は平編を基礎とし、各コースにおいて緯糸を一目置きの編目中に挾み込むとともに、他の一目置きの編目の背後にタツク編のように掛けて緯糸を波状に編込んだ。」旨の説明及び緯糸が波状を保持する性状から推して、その緯糸は伸縮性のほとんどない普通糸であると判断するのが相当である。なぜなら、右説明のように「タツク編のように掛けて緯糸を波状に編込んだ」という具体的組織を第二六八図から正確に窺い知ることは編組工学的見地からやや困難ではあるが、もし組織的交絡なしに(同図からは、そうとしか判断のしようがない。)波状を保持させるには、その緯糸は伸縮性がほとんどないものでなくてはならず、もし伸縮弾力がある緯糸を伸長状に編込めば、一目置きの編目の背後にタツク編のように掛けて、緯糸を波状に編込むことは不可能であるからである。
また、右説明文のとおり緯糸が一目置きの編目の背後にタツク編のように何等かの手段で掛合するには、なおさら緯糸はゴム糸等の伸縮性のあるものであつてはならず、もしゴム糸であればそれに基づく平編組織の編地の伸縮性助長が著しく殺される結果となる。第二六八図のようにゴム緯糸を波状にすれば、緯糸が真直に収縮する弾力により、編目中に挾んだ縦の編目列は半目引上げられ、タツク編のように掛けた縦の編目は反対に半目引下げられる傾向を生じて吊り上り吊り下りにより編地が不具合に変形することが明らかであるとともに編地の横方向の伸縮は、緯糸一目置きに挾んだ編目と編目との間の他の編目の背後で遊ばせて置くことによつて最も有効となるのに、右説明文のように、他の一目置きの編目の背後にタツク編のように掛合せたのでは、恐らく半減するものと判断される。そのような欠点を除外しても、緯糸を「タツク編のように掛ける」ことと、本件考案のように裏面を潜通させることとは作用効果において同一又は類似の組織とすることができないのである。
6 次に、審決が本件考案は第三引用例によつて公知に属していた靴下に関する考案を周知の継目なし作業用手袋の履口の構造転用したものに相当すると判断したのは全く技術的背景のない机上の空論に過ぎない。本件考案の手袋は、その出願当時、これを製造する編機が存在せず、かつ、技術水準としても工業的にその製造を実施することができなかつたのである。
7 審決が、軍手(作業手袋)と軍足(無踵靴下)とは同一範疇に属し、これに関する同一の作用効果をもたらす考案については当業者が技術上の知識に基づき格別工夫を要しないで、彼此相互に「転用」することができると判断したのは、無謀ともいうべき論理であり、これによつて本件考案を無効にされる理由はない。さもないと、帽子とブラジヤー等についても「同一範疇」に属する被服としてその一部または全部が緊縮性を具える限り、実用新案権の成立が不可能になるおそれがあるであろう。また、本件登録出願前には、前述のとおり、本件考案の手袋を編成する編機が存在しなかつたのであるから、軍足の技術の「転用」が可能となるわけがない。
元来、作業用手袋は、作業者の人身事故防止の機能を有するとともに、その装着により作業能率を低下させず、かつ、廉価に入手される必要があるから、同一の編組織で常に手全体に密着し運動自在であり、かつ余分のふくらみ、たるみ、継目、
かがり目等がないことが必須の要件とされるが、本件考案にかかる作業用手袋は、
これらの要件をほとんど具備した理想的構造のものであり、勿論、好能率に制作され、極めて安価に供給し得られるから、既往の同種考案にみられない利点があり、
現在、全国において圧倒的に使用されている所以でもある。従つて、審決が軍手と軍足とを手足に着けるメリヤス被服として同一範疇に属するとして、その構造及び作用効果を比較するのは全く無意味というほかはない。なお、第三引用例の無踵靴下には、作業用手袋と異なり、指部、足胛部、足首を含む脚部という構造的な区別がなく、拇指の付け根から履口端部にいたる構造において作業用手袋と類似する等という認識が生じるいわれがない。
8 さらに、審決は、本件考案にかかる作業用手袋と第三引用例の無踵靴下とは履口の共通的な部分において作用効果に相違がなく、その部分の考案を第一引用例の作業手袋に「転用」することは当業者が容易になしうるものであると認定するが、
それは既述のとおり、経験則に則しない単なる推論であつて、事実誤認というほかはない。
答弁
本訴請求の原因について、被告ら訴訟代理人は、原告主張事実をすべて認めると述べ、被告ら補助参加人ら訴訟代理人は次のとおり述べた。
一 原告主張の前掲一ないし三の事実は認めるが、四は争う。但し、その1の事実中、本件考案が原告主張の(A)ないし(D)の要件により構成され、これにより(1)ないし(4)の作用効果があることは認める。
二 本件考案は、下記のように、その出願前メリヤス製被服について慣用されていた技術を寄せ集め、しかも、その結果、従来公知のゴム入り軍手の有する以上の作用効果を奏するに至らないものである。従つて、第一、第二審決が、本件考案をもつて旧実用新案法第1条にいう考案を構成しないものとして、その登録を無効としたのは正当であつて、これには何らの違法もない。
(一)編物のことを称する莫大小(メリヤス)は編物製の「くつ下」を意味するスペイン語の meias´ポルトガル語のmediasを語源とするが、それは元禄時代、スペイン、ポルトガルから編物製の「くつ下」が輸入されたことに由来する。そして、メリヤス編機としても、丸編機「くつ下編機」、口ゴム編機等、多数のものが考案されて古くから使用されている。
このような事情に鑑みると、本件考案は正しく「くつ下」編成方法に基づいてわが国において発達してきたメリヤス編物の作業手袋への応用に過ぎない。
審決が「軍手(作業手袋)と軍足(無踵靴下)とは手足に着けるメリヤス製被服として同一範疇に属する」と認定したのはその間の事情を表したものである。
従つて、メリヤス編製作業手袋において、主体部を継目なしで円形に編成することが継目なし靴下そ同様に公知(第一引用例)である以上、審決が認定したように、第三引用例の無踵靴下における軍手の拇指の付け根から履口端縁に至る部分と共通的な部分の、その作用効果においても何等相違するところのない編成方法を、
継目なし作業手袋に転用することは、なんら特別の考案を要するものではなく、むしろ日常茶飯事に属する。なお、本件考案がメリヤス編靴下の編成技術の転用に過ぎないことは、軍手のメーカーがおおむね軍足のメーカーであること、軍足の編機により軍手の編成も容易になしうること、従つて、特許庁における審査分類も軍足、軍手ともに121Hに属することによつても裏書きされる。
(二) 進んで本件考案の前記(A)ないし(D)の各要件についていうと、
1 (A)の要件の「継目なしで円形に編成した主体部」なるものは、第一引用例の中、「メリヤス手袋類には種々の製造方法があるが、その中最も主要なのは靴下の場合と同様に縫目なしのものと、・・・とである。そして通常、手首部、手甲及指部から成り立つている。」との記載をみても明らかなように、本件考案の出願前公知であつた。
2 次に、(B)の要件は、本件考案明細書中、登録請求の範囲には「主体1に連続して同一編目数で連続編成した手首部3」とあるが、実用新案の説明には「手首部又は主体下方(主体下部ではなく、下方であるから手首部と同一部分を指しているものと解される)を目減らしすることなく、・・・・」と記載されている(一頁右欄四行目以下)ことから明らかなように、手首部を目減らしすることなく、平編のまま主体と連続編成することを要件としたものであつて、主体の編成について編目数については何ら限定したものではない(主体全体を同一編目数で編成するか、拇指付根部から手首部に至る間において多少の目減らしをするかは、本件考案の要旨に関係のない、しかもきわめてありふれた設計上の問題である。)。すなわち、(A)、(B)の要件は、指部、掌胛部、手首部のすべてが同一編目数であることを要するのではなく、掌胛部に連続する手首部がその連続部分において同一編目数で一体に平編のまま連続編成されていれば充足されるのである。
ところが、(B)の要件の「主体部に連続して同一編目数で連続編成した手首部」については、第一引用例中、前記1の記載のほか、「・・・・三〜四回拇指側の針を減じて編幅を挟め手首部の大きさとした後、編糸を切断して機械から取去る。そこで現在の軍手は編止めを行うのであるが、従来のものはこれにゴム口織部(注-このゴム口織部とは、手首部のことである)を編続ける。」との記載が(なお、丙第一五号証(一頁左欄一五行目以下)の「在来に於ては・・・・掌部手頸部の区部なく一体にメリヤス編に形成した手袋がある。」との記載も)既に主体と連続して平編のまま手首部を同一編目数で連続編成した軍手の構造を示している。
原告は、右軍手は主体とゴム口織部とを連続編したものではない旨を主張し、また、本件考案は拇指付根部から手首部に至る間に目減らししないことを最も重要不可欠な要件とする旨を主張するが、右主張はいずれも当らない。(B)の要件は、
前述のように、手首部の編目数と手首部が連続する主体部分の編目数とが同一編目数で連接編成されていることを意味するが、第一引用例の右記載における軍手の従来のものは正に(B)の要件に該当するのである。
3 次に、(C)、(D)の要件は本件考案の出願前古くから知られている手袋の手首部にゴム糸を潜通する(編込む)技術思想を、これまた公知に属する第四引用例の第二六八図に示す挿通手段及び第三引用例に示す技術思想と置換したに過ぎず、これについて、なんら特別の考案を要するものではない。
(三)そして、本件考案における前記のような作用効果は、その出願時において、
既に特異なものではなくなつていて、古くは昭和一一年の出願に係る特許第一二八七五七号明細書(丙第二〇号証)中、「発明ノ詳細ナル説明」の冒頭に次のような開示されている。『本発明ハ、継目ナシ「メリヤス」靴下類ノ編成法ニ関スル改良ニシテ・・・中略・・・而カモ平編ニ依リ平滑ナル編地ヲ編成スルモ猶且其ノ外観ガ恰モ「ゴム」口編〔リツプ・ファブリツク〕と同様観趣ヲ呈セシメ得ルモノナリ。而シテ右ノ平編トナスモ猶且「ゴム」口編ノ如キ外観ヲ呈セシメ得ルコトハ、
編地中ニ弾性編糸ヲ・・・・・編目縦列〔ウエール〕ヲ隔次一ツ置キ毎ニ編地ノ前面側ニ向ケ引張シテ互ニ近接セシメ、且其ノ中間ニ介在スル編目縦列ヲ同ジク編地ノ背面側ニ向ケ引張シテ「ゴム」口編ト同様ナル外観ヲ呈セシメ得ベクナス。
又・・・・・編成靴下ノ一部ハ単ナル平編ヨリ成リ、且他ノ一部ハ畦編状ノ外観ヲ呈スル様ニモ編成シ得ルモノニシテ、例ヘバ足部及脚部ハ平編ヨリ成リ口止ハ「ゴム」口編ト同様ナル外観ヲ呈スル継目ナシ靴下ヲ製造シ得ルモノトス。而シテ此口止部ハ・・・着用者ノ脚部ニ緊接シテ靴下「ガーター」ヲ不要ナラシムルノ効果ヲ有スルノミナラズ・・・本発明ニヨルトキハ・・・単一ナル編成機ニ依リ口止部モ脚部モ全部引続キ何等ノ困難ナク編成シ得ル利便アルモノナリ。』
証拠関係(省略)
理 由一 前掲請求の原因のうち、本件考案について登録無効審判の請求から審決の成立にいたる特許庁における手続、考案の要旨及び審決の理由に関する事実並びに本件考案の作業用手袋の構造が(A)ないし(D)の事項の結合により構成され、これにより(1)ないし(4)の作用効果があること自体は当事者間に争いがない。そして、審決取消事由の存在は、被告らのこれを認めるところであるが、被告ら補助参加人らにおいてこれを争つている。
思うに、実用新案登録無効の審判については、その確定審決があり、その登録がなされたときは、同一の事実及び同一の証拠に基いて再びその審判を請求することができないものであつて(大正一〇年法律第九七号実用新案法第26条、同年法律第九六号特許法第117条)、その限度においては審決に対世的効力があるから、
このような審決の取消訴訟に補助参加した者には、民事訴訟法第69条第1項の規定により補助参加人としてなしうる訴訟行為の範囲において、必要共同訴訟における共同訴訟人と同様の地位を与え、その訴訟行為については同条第二項の制約を免れさせ、かえつて同法第62条の規定を準用するのが相当である。すなわち、その訴訟参加の形態はいわゆる共同訴訟的補助参加に該るものと解される。なお、本件登録無効の審判については、実用新案法施行法第26条第3項によつて旧実用新案法第23条の規定が適用されるが、被告ら補助参加人らがいずれも同条所定の除斥期間内に自ら登録無効審判を請求せず、また、被告らの請求した本件登録無効の審判手続においても参加あるいは参加申請をしていないことは本件弁論の全趣旨により明らかである。従つて、このような場合、被告ら補助参加人らに必要的共同訴訟における共同訴訟人と同様の地位を与えることを行過ぎであるとして、その地位を単なる補助参加人たるに止むべきであるとの見解が考えられるが、無効審判請求の除斥期間に関する前記規定は、その期間経過後において適法に係属中の登録無効の審判に参加することまで許さない趣旨ではなく、まして適法に係属中の無効審決の取消訴訟に補助参加することの許否並びにその補助参加人の地位を定める根拠となりうるものではない。
してみると、被告ら補助参加人らはいずれも本件訴訟に共同訴訟的補助参加をなしたものというべきであるから、その陳述の主張に抵触する被告らの自白は効力を生じるに由がないものといわねばならない。
二 本件考案の構成要件及び作用効果については冒頭一において確定したところであるが、その進歩性の存在を否定した審決の判断の当否を審究する。
1 原告は、その手袋の構造としては拇指付根部から手首部に至る間において目減らしをしないことが不可欠の要件である旨を主張し、成立に争いのない甲第一号証(本件考案の出願公告公報)によると、本件考案明細書中、登録請求の範囲の「継目なしで円形に編成した主体1に連続して同一編目数で連続編成した手首部3の全面に亘り……」との記載があるのでその解釈として、本件考案の手袋においては、主体と手首部とが接続するそれぞれの部分及び手首部全体が同一編目数である(従つて、少くとも主体下端部から手首部末端に至る間においては目減らしがない)ことになるが、主体の拇指付根部から下端に至る間が同一編目数で構成されることについては登録請求の範囲に限定がなく、また、実用新案の説明に、「手首部又は主体下方を目減らしすることなく平編(原文には「手編」とあるが誤記と認める。)のまま連続編成し、編成に手数を要せず好能率に製作し得る効果がある。」と記載されているのも、そのうち「手首部又は主体下方」という部分が手首部全体と手首部に接続する主体下端部を指すものと解されるので、登録請求の範囲の記載としてさきに摘示した点と趣旨に変りがなく、他に拇指付根部から手首部に至る間において目減らしをしないことに関する記載は本件考案明細書のどこにも全く存在しない。従つて、作業用手袋の構造として、主体の拇指付根部から手首部に至る間を同一編目数で連続編成することは本件考案の構成要件ではないというべきである。
2 成立に争いのない丙第七号証の三(第一引用例)によると、第一引用例には、
「メリヤス手袋類には種々の製造方法があるが、その中最も主要なものは靴下の場合と同様に縫目なしのものと、メリヤス生地を適宜に裁断し之に縫綴したものとである。そして通常、手首部、手甲及び指部から成り立つている。」との記載が、また縫目なし手袋のうち軍手(すなわち作業手袋)に関する説明として「……人指指の外側に於ける針を拇指に要するだけ引き上げ、之に前に編んでおいた拇指を移して編み続け、三〜四回拇指側の針を減じて編幅を狭め手首部の太さとした後、編糸を切断して機械から取去る。そこで現在の軍手は編止めを行うのであるが、従来のものはこれにゴム口織部を編続ける。」との記載があるほか、その第三七二図には、手首部が主体に連続編成された作業手袋が図示されていること、これからみると、従来の作業手袋には、指部、掌胛部が円形に編成され、その編幅が手首部の大きさにされた後、続いて手首部が同一編目数で継目なしに編成されたものがあつたことが認められるところ、成立に争いのない丙第一五号証(昭和三〇年三月一九日出願の実用新案公報)には「在来に於ては次の二種の手袋がある。……(中略)……その二種は掌部手頸部の区別無く一体にメリヤス編に形成した手袋がある。これは製作に手数を要せず安価であるが、使用に際し手頸部が引締められないで弛緩するから、手より脱離する虞があり、作業に不便な欠点があつた。」との記載があり、さらに、成立に争いのない丙第二九号証(昭和三〇年六月一七日出願の特許公報)には「従来の作業用手袋は各指を夫々別個に編成し……(中略)……これ等の指を連繋して手掌部を筒状に編成した後、第一指を附設し再び筒状編成を行い最後に手首部を編成する……」との記載があることが認められるので、彼此併せ考えるならば、指部、掌胛部及び手首部を継目なしに連続編成した作業手袋は本件登録出願(昭和三一年五月二二日)前既に当業者にとつて周知事実であつたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。従つて、右周知事実に関する第一、第二審決の認定は誤りではないというべきである。
3 手袋における手首部の横編目一列置きにゴム糸を挿通したものが第二引用例によつて本件出願前から公知であつたことは原告の認めるところであり、成立に争いのない丙第六号証(第二引用例)によると、第二引用例には軍手の同一編目数で編成された手首部(但し、それは手先部とは別個に丸編されるものである。)において、横編糸の一本または数本置きにゴム糸を編込んだものが示されていることが認められるから、審決の右公知事項に関する認定には何ら誤りがない。原告は、第二引用例の手袋と本件考案の手袋とが全体の構造、ゴム糸の挿通形式等において異なるとして、審決が後者をもつて前者により公知であると認定したのは誤りである旨を主張するが、審決は本件考案の手袋と第二引用例の手袋とが全体の構造、ゴム糸の挿通形式等において異ならないとして、前者を後者により公知であると認定したわけではないから、原告の右主張は的外れという外はない。
4 成立に争いのない丙第八号証(第三引用例)によると、第三引用例には、足部、脚部及び履口部の全体(但し、足部の先端を除く。)を継目なしに同一編目数で直円筒形に連続編成した無踵靴下(これがいわゆる軍足であることは公知であつて、当裁判所に顕著な事実である。)に関して、「履口部3の編素地糸1の内面に沿い横方向の編目毎に数条の護謨紐或は被覆護謨紐4を設け、之を編目の一つ置きに絡編部6の中間に挿通」するとの記載があるので、これをその図面(特に第二図)と対照すると、第三引用例の靴下の履口部について、審決認定のとおり、上段編目と下段編目との編環掛合部に伸長状態で掛止し、隣接する縦編目一列の裏面を潜通させ再び次の編環掛合部に掛合させたゴム糸を横編目列ごとに編込み、これらのゴム糸の編環との掛合部を同一縦編目列に揃えて編成した構造が開示されていることが明らかである。そして、右同号証によれば、第三引用例の無踵靴下の履口部について、ゴム糸の挿通により伸縮性が大きく、靴下の脱落を防止する作用効果があるほか、その構造上、当然のこととして、ゴム糸や掛合する縦の編目列が内方に引込まれて凹入し、ゴム糸が裏面を潜通した編目列が表面に浮出すため、全体としてゴムメリヤス同様の外観を呈することが認められ、また、右無踵靴下は、前記のような編方に鑑みると、本件考案について先に確定したところと同様の作用効果(但し、「手首」を「足首」と読みかえる。)、すなわち、手首部の伸長拡大良好のため着脱が容易であるとともに、編成が好能率に行われるという作用効果を奏することを推認するに難くない。
してみると、審決が第三引用例の無踵靴下の構成及びその作用効果についてした認定は正しく、非難するに足りない。原告は、作業用手袋との構成上、機能上の差異を挙げ、これを理由に審決の認定を非難するけれども、その主張は両者の差異を強調するあまり、その属する技術分野に共通性のあることを無視したものであつて、到底採用することができない。
5 成立に争いのない丙第七号証の四(第四引用例)によると、第四引用例には【B】著「編組工学」中、「第四一章、緯糸又は経糸の編込んだメリヤス」と題し、冒頭で「メリヤスの組織中に編目を作らずに緯糸、経糸又はこれ等両方を編込む場合がある。その目的は……(中略)……編地の伸縮性を著しく大きくしようとする場合もある。この場合にこれに編込むべき経緯糸にはゴム糸条の如き伸縮糸が用いられる。」を概説したうえ、例図の説明をしているが、その第二六八図について、「第二六八図は平編を基礎とし、各コースに於て緯糸を一つ目をきの編目中に挾み込むと共に、他の一目をきの背後にタツク編の如く掛けて緯糸を波状に編込んだものである。」との説明が記載されていることが認めらるところ、同図の説明は当然右概説を前提とするものであるから、同図において編込まれる緯糸は、少くとも編地の伸縮性の拡大を目的とする場合には、ゴム糸条のような伸縮糸が用いられるものと解するのが相当である(原告は同図の緯糸を伸縮性がないものであると主張し、いくつかの理由を挙げているが、いずれも首肯するに足りない)。そうだとすると、同図と第三引用例との両者における緯糸の性質及び挿通構造は同等であることが明らかであるから、結局、第三引用例におけるゴム糸の挿通構造(これは本件考案においてゴム糸を編込んだ構造に相当する。)が本件出願前公知であつたことは第四引用例によつても裏付けられることになる。
従つて、第四引用例に関する審決の認定には何ら誤りがない。
6 以上を総合すると、本件登録出願当時、本件考案の構成要件のうち、(A)及び(B)の事項は、作業用手袋において周知に属し、(C)及び(D)の事項は少くとも第三引用例のような無踵靴下において公知であつたものであつて、本件考案は、結局、主体と連続して同一編目数で連続編成した手首部を備えた周知の作業用手袋における手首部全体に、第三引用例の靴下の履口部におけるゴム糸編込構造転用したものに外ならず、これによつて生じる作用効果も第三引用例の靴下において充足されているということができる。従つて、手袋と靴下とがその製造上、極めて近接した技術分野に属し、相互に関連する面が多いことを勘案すると、本件考案は、いわゆる単なる寄せ集め考案というべく、当業者として周知事実及び公知文献に基づいて容易に推考することができたものと判断するのが相当である。
そうだとすれば、これと同趣旨の理由により本件考案が旧実用新案法第1条考案を構成しないとして、その登録を無効にすべきものとした審決の判断はいずれも正当というべきである。
三 よつて、本件第一、第二審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条
民事訴訟法第89条第94条の規定を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 駒田駿太郎
裁判官 石井敬二郎
裁判官 橋本攻
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