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関連審決 審判1970-9403
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  減縮 /  削除 /  実施例 /  特段の事情 /  明細書 /  請求の範囲 /  明瞭でない記載 / 
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事件 昭和 48年 (行ケ) 147号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1977/10/19
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が昭和四八年八月二三日同庁昭和四五年審判第九四〇三号事件についてした審決中別紙目録記載(2)ないし(7)の訂正に関する部分を取消す。
原告のその余の請求を棄却する。
訴訟費用および補助参加によつて生じた費用は、それぞれ被告およびその補助参加人らの負担とする。
事実及び理由
当事者の申立
原告訴訟代理人は「主文第一項掲記の審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告指定代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。
請求の原因
原告訴訟代理人は本訴請求の原因として次のとおり述べた。
(特許庁における手続)一 原告は、名称を「耕耘機に連結するトレラーの駆動装置」とする登録第七三一九七一号実用新案(昭和三六年四月一三日出願、昭和三九年二月一七日登録)の権利者であつたが、昭和四五年九月一四日その願書に添付した明細書の別紙目録記載の訂正について審判を請求(特許庁同年審判第九四〇三号事件)したところ、特許庁は昭和四八年八月二三日右請求は成り立たない旨、主文第一項掲記の審決をし、
その謄本は同年一一月一日原告に送達された。
(審決の理由)二 そして、右審決は、その理由中において、次のような判断を示している。
本件考案の原明細書中、登録請求の範囲に記載されている「双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C-Cに設けた」との構成の実施例は、図面と原明細書中その他の記載からみて、耕耘機AとトレラーBの双方の伝動装置に連動する傘歯車を上下両端に有する垂直伝動軸の中間に介在させた分離噛合自在の結合子よりなる動力結合点17を、耕耘機AとトレラーBを左右屈折自在に結合する抜き挿し自在の垂直結合ピン13軸心線C-C上に設け、これによつて、耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線と、耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線C-Cと、動力結合点17を通る垂直伝動軸の軸心線との三つの軸心線を一致させた構成を備えている。そして、本件考案の原明細書中登録請求の範囲記載の構成とその実施例の構成からみると、その考案の要旨においては、(a)結合ピン13が抜き挿し自在であるか否か、(b)動力結合点17が分離噛合自在であるか否かの二点が限定されず、また、(c)結合ピン13によつて結合されている耕耘機とトレラーがどの部分で左右に屈折するのか、
(d)動力結合点17が設けられている動力結合部の具体的構造はどうかの二点が明瞭にされていない。
そして、本件考案の訂正後における登録請求の範囲に記載されている「その双方の動力を結合する旋回自在の動力噛合結合部をなす上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17を耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C-C上に設けた」との構成によると、その訂正前、前掲三軸心線を一致させるため必要とされた「動力結合点17」「ピン13」および「動力結合点17を結合ピン13軸心線上に設けた」構成が抹消される結果、考案の要旨には、右三軸心線が一致しない構成の、すなわち、結合ピンによつて耕耘機とトレラーを左右に屈折しないように結合するとともに、上下両端に傘歯車を有し、中間に動力結合点を備えていない垂直伝動軸の軸心線を中心として耕耘機とトレラーが左右に屈折するように構成した耕耘機に連結するトレラーの駆動装置が実施例として包含されることが明らかである。
しかし、そのような実施例図面および原明細書に記載されていないので、別紙目録(7)および(8)記載の訂正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものというべきである。したがつて、本件審判請求は実用新案法第39条第2項の規定により許されない。
(審決の取消事由)三 しかし、審決は、本件審判請求の趣旨について、後記のように、認定、判断を誤り、実質上登録請求の範囲を変更するものとして、その訂正を許さなかつたものであつて、違法であるから、取消されるべきである。
1 審判請求の趣旨(一) 本件考案の原明細書中、登録請求の範囲記載の「動力結合点17」を「動力を結合する旋回自在の動力噛合結合部をなす上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」と訂正すること(別紙目録(7))は、明瞭でない記載の釈明あるいは登録請求の範囲減縮に該当し、登録請求の範囲を変更するものではない。その理由は次のとおりである。
(1) 原明細書中、登録請求の範囲の記載上「動力結合点17」とは「その双方の動力結合点17」のことであるが、考案の詳細な説明によれば、双方の伝動装置の末端は、ミツシヨン側のものが「プーリー14」に至り、リアーシヤフト側のものが「ヒツチ金具12附近」に至り、その両者を結合しているのが「旋回自在の動力噛合結合部」である。
(2) そして、願書添付の図面(別紙図面参照)第2図をみると、その「旋回自在の動力噛合結合部」は縦軸の上方と下方に位置する各二枚の傘歯車からなる相対構造以外にありえないから、原明細書中、登録請求範囲記載の「その双方の動力結合点17を……C-Cに設けた」とは、上方の二枚の傘歯車の交点と下方の二枚の傘歯車の交点をC-Cに設けたと解するほかなく、そのような動力結合点は右図面上明らかに上下に傘歯車を有する垂直伝動軸の両端である。
(3) したがつて、「動力結合点」を、「双方の動力を結合する……上下に傘歯車を有する垂直伝動軸」と訂正しても、これには表現上の差異があるのみであつて、その意味は同一である。
(4) また、右図面における符合「17」(「動力結合点」を意味する。)の引出線は一見結合子を指しているかに見えるが、結合子自体は前述の「旋回自在の動力噛合結合部」の機能を有しないから、これを「動力結合点」とみるのは妥当でないのみならず、原明細書中、作用効果に関する「結合ピンの軸心C-C線上に結合点17が設けられているから、旋回時においても支障なくリヤーシヤフトへ動力を伝動することができる」との記載(第三頁第一四なし第一七行目)とも合致しない。したがつて、結局、符合「17」の引出線は、元来、原明細書の記載においては、双方の伝動装置を結合する垂直結合線を指すものであるが、訂正後の登録請求の範囲の記載においては「上下に傘歯車を有する垂直伝動軸」を指すことが明らかになるため、その訂正はこの点について従来の不明瞭な記載を釈明しているものである。
(二) 次に、原明細書中、登録請求の範囲記載の「耕耘機とトレラーを結合する結合ビン13軸心線上C-C」を「耕耘機と、トレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C-C上」と訂正すること(別紙目録(8))は、同明細書中その余の記載および図面の記載に基づき明瞭でない記載についてなされた釈明に該当し、もとより登録請求の範囲を変更するものではない。すなわち、原記載に「左右屈折自在に結合する」と加えたのは、原明細書中「旋回の場合は結合ピン13を支点として耕耘機とトレラーは左右屈折することができる」との記載(第三頁第一一ないし第一三行目)に基づくものであり、原記載から「ピン13」を削除して、その前後を「左右屈折自在に結合する結合軸」と続けるように訂正したのは、これによつてその構成に変更が生じないからである。というのは、もともと「結合ピン13軸心線」は、そこに「その双方の動力」を結合する垂直伝動軸を重合させることに意味があるため、その垂直伝動軸を「結合する結合軸心線C-C上」に設けても「結合する結合ピン13軸心線上C-C」に設けるのと変りがないからである。
(三) なお、原明細書中、考案の詳細な説明の記載に関する別紙目録(1)および(2)ないし(6)の訂正は、それぞれ登録請求の範囲の記載を同(8)および(7)のように訂正することに関連するものである。
2 これに対する審決の認定、判断(一) 審決は「動力結合点17」を結合子よりなるものと認定しているが、結合子には前掲「結合ピンの軸心C-C線上に結合点17が設けられているから、旋回時においても支障なくリヤーシヤフトへ動力を伝動することができる。」との原明細書記載の作用効果がないから、右認定は誤りである。
(二) 審決は本件考案が動力結合点17により審決のいう前掲三軸心線を一致させた構成であると認定するが、その原明細書中、登録請求の範囲にはそのような記載がない。
その考案の要旨においては、「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C-C」に「その双方の動力結合点17」を設けるとされているから、この二つの軸心線のほかに一致することを必須の要件とする軸心線はない。すなわち、審決がそれ以外に一致させられるものとして示した「耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線」は、右にいう「……結合ピン13軸心線」と同一であつて、耕耘機とトレラーとの結合の軸心が結果として両者を左右屈折回動させる軸心となつているにすぎない。したがつて、審決の右認定は誤りである。なお、審決は「結合ピン13軸心線C-C」と表現しているが、本件原明細書中、登録請求の範囲には「結合ピン13軸心線上C-C」と記載されているから、C-Cは、結合ピン13の軸心線そのものではなく、その軸心線上に重合される垂直伝動軸の軸心線を指すものである。
(三) 審決は、本件考案の訂正後における構成によると、その訂正前、前掲三軸心線を一致させるため必要とされた「動力結合点」、「ピン13」および「動力結合点17を結合ピン13軸心線上に設けた」構成が抹消される結果、考案の要旨には、実施例として右三軸心線が一致しない構成の、したがつて、図面および原明細書に記載されていない装置まで包含されることになるとして、別紙目録(7)および(8)記載の訂正は実質上登録請求の範囲を変更するものであると判断している。しかし、明細書の訂正が実質上登録請求の変更に当るか否かはその請求範囲自体について判別すべきものであるから、審決の判断のように、訂正後における考案の要旨に図面および原明細書に記載されていない実施例が包含されるというだけでは、全く意味がないのみならず、審決がその実施例として想定する耕耘機に連結するトレラーの駆動装置の構成を訂正後に始めて考案の要旨に包含されると解するのも誤りである。すなわち、
(1) 右装置の「結合ピンによつて耕耘機とトレラーを屈折しないように結合する」との構成は、訂正の前後とも登録請求の範囲に包含されていないから、考案の対象外というべきである。
(2) 同じく「上下両端に傘歯車を有する」との構成は訂正の前後とも登録請求の範囲に包含され、図面にも記載されている。
(3) 同じく垂直伝動軸の「中間に動力結合点を備えていない」との構成は、訂正の前後とも登録請求の範囲に包含されていないから、考案の対象外というべきである。
(4) 同じく「垂直伝動軸の軸心線を中心として耕耘機とトレラーが左右に屈折する」との構成中「耕耘機とトレラーが左右に屈折する」のは、訂正前においては「結合する結合ピン」を支点とし、訂正後においては「結合する結合軸」を支点とするものであつて、結局、いずれにしても「垂直伝動軸」を支点とするものであるから、この「垂直伝動軸」は訂正の前後ともに耕耘機とトレラーを結合する軸に相当し、当然、登録請求の範囲に包含されている。
答弁
被告指定代理人および補助参加人ら訴訟代理人は請求の原因について次のとおり述べた。
一 原告主張の前掲一、二の事実は認める。
二 同三のうち、取消事由の存在は争う。審判の認定、判断は正当であって、審決には原告主張の違法はない。以下、右主張に対し反論する。
1 原告は、本件考案において「動力結合点17」は傘歯車を上下両端に有する垂直伝導軸の軸心をいうと主張する。しかし、その原明細書中、登録請求の範囲には「双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C-Cに設けた」と記載されているのみであるから、その動力結合点17は、双方の動力を結合すれば足りるとともに、構成上、位置について「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C-C」との限定があるほか何ら限定がない。本件審判請求の趣旨中、「傘歯車を上下両端に有する垂直伝導軸」(別紙目録(7)参照)は、結合ピン13軸心線上に動力結合点を設けるという構成を備えていない。
なるほど、その軸心は平面図についてみた場合垂直伝導軸の中心ではあるけれども、これを動力結合点であるとする記載は本件明細書および図面にないから、原告の右主張は失当である。
2 原告は本件考案が審決のいう三軸心線を一致させる構成であることを争うが、(a)「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線」と「耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線」とが同一であり、(b)C-Cが結合ピン13の軸心線上に重合される垂直伝導軸の軸心線であり、また、(c)「その双方の動力結合点17」が上下に傘歯車を有する垂直伝導軸に設けられていることは原告の自陳することであり、これらの事実によれば、動力結合点17が設けられている垂直伝導軸の軸心線はC-C線であるとともに(c)、そのC-C線は結合ピン13の軸心線上に重合され(b)、また、結合ピン13の軸心線は耕耘機とトレラーが左右屈折するときの中心となる軸心線である(a)が、そのことによつて、これら三つの軸心線は一致することが明らかである。そして、本件考案における根本的技術思想は右軸心線の一致である。
3 次に、もし、本件審判請求により原明細書中、登録請求範囲における「その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C-Cに設けた」と記載についてなされた別紙目録(8)の訂正が原告主張のような明細書および図面の記載に基づく釈明であるならば、本件考案の訂正後における構成は「その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを左右屈指自在に結合する結合ピン13軸心線上C-Cに設け」となるべきところ、実際にはこれからさらに「ピン13」を抹消して「その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを左右屈指自在に結合する結合軸心線C-C上にもうけた」となり、本件考案における「動力結合点17を結合ピン13軸心線上にもうける」という必須の構成用件まで抹消されてしまうことが明らかであつて、その考案の要旨は前掲三つの軸心線の一致という本件考案根本的技術思想を缺くことになるから、右訂正は実質上登録請求の範囲を変更するものである。
4 原告は、判決が、訂正後における考案の要旨には原明細書に記載のない実施例が包含されるとしてその訂正の適否を検討しているのは意味がないと主張するが、審決は、本件思案における「動力結合点17を結合ピン13軸心線上に設ける」という必須の構成要件が抹消された訂正後におけるその登録請求の範囲の記載には、その解釈上、訂正前における前掲三軸心線の一致という技術思想を缺き、原明細書および図面に記載のない実施例を含むことになるので、右訂正により登録請求の範囲が実質上変更されるものと判断しているのであつて、右判断はもとより正当である。
証拠関係(省略)
理 由一 前掲請求の原因のうち、原告が実用新案権を有したその主張の登録実用新案について、原告の訂正審判の請求により審決が成立するに至る手続、審判請求の趣旨および審決の理由に関する事実は当事者間に争いがない。
二 そこで、右審決に原告主張の取消事由があるか否かについて考察する。
(「動力結合点」および「結合ピン」の技術的内容)1 成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案広報)によると、本件考案の要旨は、その原明細書中、登録請求の範囲記載のとおり、耕耘機Aのミツシヨンの一部より動力を取り出し、耕耘機架台3の後方に延長伝動するようにし、一方、トレラーB側は、リヤーシヤフトより架台8の前方ヒツチ金具12附近に至る動力伝動装置を設け、その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーとを結合する結合ピン13の軸心線上CーCに設けた耕耘機に連結するトレラーの駆動装置(別紙図面参照)であることが認められる。そして、本件審判請求の趣旨によると、その最も主要な要素は右考案の要旨における「動力結合点」と「結合ピン」とにあるものと解されるところ、右考案の要旨に、右甲号証によつて認められる本件原明細書考案の詳細な説明中「これによつて、走行するとき施回の場合は、結合ピン13を支点として耕耘機とトレラーは左右屈折することができるが、耕耘機よりトレラーへの動力伝動装置も、結合ピンの軸心CーC線上に結合点17が設けられているから、
旋回時においても支障なくリヤーシヤフトへ動力を伝動することができる。」との作用効果の記載および図面の記載をあわせ考えると、
(T) 動力結合点は、
(@) 耕耘機のミツシヨンの一部から取り出され、その架台3の後方に延長伝動される動力を、トレラー側のリヤーシヤフトより架台8前方のヒツチ金具12附近に至る伝動装置に伝達する点であるとともに、旋回時においてトレラー側の伝動装置に伝達される動力の方向がその点を中心として左右に旋回し得るものであり、
(A) 結合ピンの軸心線上、したがつて、屈折時の中心となる軸心線上に位置するものである。
なお、その具体的構成は、右(A)の点のほか何ら限定されていない。
(U) 結合ピンは、耕耘機とトレラーとを結合する要素であるとともに、その軸心線が耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線と一致するものである。
と解することができる。
(「動力結合点」に関する訂正)2 さて、本件原明細書中、別紙目録記載(7)のように訂正された後における登録請求の範囲の記載によると、「上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」は「双方の動力を結合する旋回自在の動力噛合結合部」を形成するものであるから、その垂直伝動軸の上部および下部にある傘歯車に対応してこれらにそれぞれ噛み合い、かつ、耕耘機側の動力およびトレラー側の伝動装置にそれぞれ結合される傘歯車が当然存在することになるが、前出甲第二号証によれば、そのような垂直伝動軸およびその上下方にある各二枚の傘歯車はすでに本件考案の願書に添付された図面(別紙図面)にも記載されていることが明らかである。そして、右図面第2図から考えると、右垂直伝動軸の上下方にある各二枚の傘歯車の軸心の延長線が交わる点は、上下方ともに垂直伝動軸の軸心線上にあつて、旋回時には、その二つの交点を中心としてトレラー側の伝動装置に伝達される動力の方向が左右に旋回し得るものであるということができ、また、この場合、原明細書について別紙目録記載(8)の訂正は考慮に入つていないから、右交点が結合ピン13の軸心線上に位置していることはいうまでもないところである。したがつて、右交点は前示(T)の(@)、
(A)の技術的意義の動力結合点に相当する。
そうだとすると、右(7)の訂正は、結局、具体的構成上、格別の限定がなかつた「動力結合点17」について、限定を付加したにすぎないものであり、しかも、
その訂正後における構成が図面および原明細書記載の範囲を出でないものであることが明らかであるから、実用新案法第39条第1項第1号にいう登録請求の範囲減縮に該当するものであつて、同条第二項にいう実質上登録請求の範囲を変更するものではないといわねばならない。
なお、原明細書中別紙目録記載の(2)ないし(6)の訂正は、その内容が、登録請求の範囲の記載を同(7)のように訂正することに附随して、原明細書中、考案の詳細な説明の語句を整理し(同(2)ないし(5))、また、訂正後の構成に基づく作用効果を追加するもの(同(6))であることが明瞭であるから、基本たる右(7)の訂正と同様、法定の訂正の要件を具備するものというべきである。
(「結合ピン」に関する訂正)3 次に、別紙目録記載(8)の訂正は、原明細書中、登録請求の範囲における「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C-C」を「耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C-C上」に訂正するものであり、また、
同(1)の訂正が右(8)の訂正に附随して原明細書中、考案の詳細な説明の語句を整理するものであることはその内容から明らかである。
原告は右(8)の訂正を原明細書および図面の記載の釈明であると主張する。しかし、右訂正により、原明細書中、登録請求の範囲における「……結合する結合ピン13軸心線」との記載が「……結合する結合軸心線」との記載となる結果、考案の要旨から「結合ピン」なる要件が抹消され、そのため、訂正後における考案の要旨においては、「結合ピン」の前示(U)の技術的意義のうち、少くとも、「耕耘機とトレラーとを結合する要素である」という構成上の限定が解消されたことになるから、右訂正をもつて原告主張のような釈明にすぎないものと解することはできない。原告は、「左右屈折自在に結合する結合軸」と訂正される以上、「ピン13」を抹消してもその構成は変更されない旨を主張するが、右訂正後における本件考案の構成上、耕耘機とトレラーとの結合が例外なく結合ピンによつて行われるものとは容易に考えることができず(その結合が結合ピンによることがこの種駆動装置の技術分野において自明であることを認めるべき証拠はない。)、また、「左右屈折自在に結合する結合軸心線」が直ちに結合ピンの軸心線であることを意味するとは限らないから、右主張は到底採用することができない。
そうだとすると、右(8)および(1)の訂正は、本件考案の構成における「結合ピン13」という限定要件を解消した点において実質上登録請求の範囲を変更するものというべきである。
三 以上の次第で、本件原明細書について別紙目録記載の訂正を全部許されないとした審決の判断は、同目録記載(2)ないし(7)の訂正に関する限り誤りというべきであるが、その余を誤りであるということはできない。もつとも、審決が同(8)の訂正を実質上登録請求の範囲を変更するものとした理由は、右に説示したところを出て、その実施例の構成に言及した点に首肯しがたいものがあるが、少くとも、右訂正によつて「結合ピン13」という要件がなくなつたことを根拠としているから、その判断は結局正当たるを失わない。
そして、実用新案法第39条の規定による登録実用新案の明細書または図面の訂正審判請求については、これを時期的に制限する規定がない(ただし、その実用新案権が無効審判により無効にされた後でないことを要する。)のみならず、一請求を一事項に限定する特段の規定もないから、一個の訂正審判請求により複数個の事項の訂正を求めることはもとより妨げがなく、そのような請求に対しては、原則として、事項ごとに訂正の適否を判断してこれに対応する趣旨の審決をすべきものと解するのが相当である。もつとも、訂正を求める複数個の事項が実質上一体不可分の関係にあるため、そのうち一部事項のみの訂正によつては実用新案権者としてその目的を達しえない等、特段の事情が存する場合には当然、右原則を修正すべきものと解するが、単に訂正を求める一部の事項についてこれを不適法とする事由があるというだけで、直ちに審判請求全体を成立しないものとして排斥すべき法律上の根拠はない。
ところが、本件審判請求にかかる訂正については、別紙目録記載の(2)ないし(7)がその他の項と一体不可分にある等の特段の事情を認めることができない。
よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求は、右審決が別紙目録(2)ないし(7)の訂正について審判請求を不成立とした限度において正当として認容し、その余を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第92条第93条1項第94条を適用して、主文のとおり判決する。
追加
(別紙一)目録(1)明細書中、第二頁第三、四行目の「結合する結合ピンの軸心線上」を「左右屈曲自在に結合する結合軸心線上」と訂正する。
(2)同頁第四、五行目の「動力噛合結合部」を「動力噛合結合部をなす上下に傘歯車を有する垂直伝動軸」と訂正する。
(3)第三頁第四行目の「その動力結合点17」を「その動力を結合する上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」と訂正する。
(4)同頁第九行目の「動力結合点17」を「垂直伝動軸17」と訂正する。
(5)同頁第一五行目の「結合点17」を「垂直伝動軸17」と訂正する。
(6)同頁第一六行目の「旋回時」を「公知の自在継手のように施回角度を三〇度以内に制限されることなく、九〇度を越えるような場合にも確実に動力伝達が行え、大旋回時」と訂正する。
(7)第四頁第一六行目の「動力結合点17」を「動力を結合する旋回自在の動力噛合結合部をなす上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」と訂正する。
(8)同頁第一六ないし第一八行目の「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C-C」を「耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C-C上」と訂正する。
(別紙二)<12034-001><12034-002>
裁判官 駒田駿太郎
裁判官 石井敬二郎
裁判官 橋本攻