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関連審決 審判1977-16306
関連ワード 考案 /  補正 /  新規性(3条1項) /  きわめて容易 /  拒絶理由 /  頒布 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 53年 (行ケ) 130号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1980/05/20
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告1 特許庁が昭和五三年六月一二日、同庁昭和五二年審判第一六三〇六号事件についてした審決を取り消す。
2 訴訟費用は、被告の負担とする。
二 被告 主文第一、二項と同旨の判決。
当事者の主張
一 請求の原因1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四五年九月八日、特許庁に対し、名称を「同軸型粒子測定装置」とする発明について特許出願(特願昭四五ー七八六〇九号)をしたところ、昭和五一年五月三一日、拒絶査定を受けたので、昭和五一年七月二九日、右特許出願を実用新案登録出願に変更したが、昭和五二年一〇月七日、拒絶査定を受けた。
そこで、原告は、昭和五二年一二月八日、審判の請求をし、昭和五二年審判第一六三〇六号事件として審理されたが、昭和五三年六月一二日、「本件審判の請求は、成り立たない。」旨の審決がなされ、その謄本は、同年六月二七日原告に送達された。
2 審決の理由の要旨(一) 本件考案の要旨は、実用新案登録願の明細書における実用新案登録請求の範囲に記載されたとおり認める。
(二)これに対して、当審において引用例として「大気電気研究」、第二号、大気電気研究会(昭和四五年三月一〇日発行)、第四六頁ないし第四八頁を引用し、本件出願の考案は、その出願前日本国内において頒布された前記刊行物に記載された考案であるから、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を受けることができない旨の拒絶理由を通知し、次の追書をして期間を指定して意見書の提出を求めた。
「なお、念のため次の記載を付記する。
本願は、特許法第30条第1項の規定の適用を受けた昭和四五年特許願第七八六〇九号の出願を昭和五一年七月二九日に実用新案登録願に出願変更したものである。ところで、特許出願人がその特許出願を実用新案登録願に出願変更をし、実用新案法第9条第1項で準用する特許法第30条第1項の規定の適用を受けるには、
実用新案法第8条第3項の規定によると、特許法第30条第4項に規定する手続は、出願変更をしたその日を基準として進めなければならないのである。しかるに、本願の実用新案登録出願書類には、出願と同時に実用新案法第9条で準用する特許法第30条第1項の規定の適用を受ける旨を記載した書面が添付されておらず、また出願変更をしたその日から三〇日以内に特許法第30条第1項に規定する発明であることを証明する書面も添付されていない。してみれば、本願は、実用新案法第9条で準用する特許法第30条第1項の規定の適用を受けることができない。」 請求人は、意見書を提出して、「@実用新案法第8条第3項の規定をみると、これは、変更した時点でいまだ特許法第30条第1項の規定の適用を受けていない場合には必要な条項であり、また特許法第30条第4項は「……規定の適用を受けようとする者は、……」と規定され、本件のようにすでに特許法第30条第1項の適用を受けたものに対して適用するのは適当でないと考える。Aこの変更した実用新案においても、特許の場合と同じような理由による拒絶査定を受けているので、実用新案法第9条第1項の規定はすでに受けているものと考えるのが適当である。」旨を主張している。
そこで、請求人の主張する点について検討すると、@実用新案法第8条第3項は、実用新案登録願に出願変更されたときは、変更された出願の出願時点は、もとの出願時である特許出願をしたとき、にしたものとみなすこと、即ち、出願日が遡及するが、新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続をすべき時期については出願日が遡及しないということを規定している。したがつて、出願変更をしたその出願について再び新規性喪失の例外規定の適用を受ける場合は変更出願の日を基準として特許特許法第30条第4項に規定する期日及び期間内にその手続をしなければ、特許法第30条第1項に規定する利益を享受できないのである。A特許出願においてなした手続が完備しているからといつて、その手続が変更された実用新案登録出願について特許出願と同様の理由で拒絶をすべき旨の査定を受けたからといつて、実用新案法第9条で準用する特許法第30条第1項の規定の適用がすでに認められたとする根拠はない。そして、上記拒絶理由は妥当なものと認めるから、この理由によつて本願について拒絶をすべきものとする。
3 審決を取り消すべき事由 審決の引用にかかる刊行物の発行日および本件考案がこの刊行物に記載された考案であることは、争わない。
しかしながら、審決は、本件実用新案登録出願について、昭和四五年法律第九一号による改正前(以下、改正前という。)の実用新案法第9条第1項によつて準用される改正前の特許法第30条第1項(新規性の喪失の例外)の規定の適用を認めなかつた点で、違法であるから取り消されるべきである。
すなわち、改正前の特許法および実用新案法においては、出願変更前の原特許出願について、すでに新規性喪失の例外規定の適用を受けておれば、実用新案登録出願に出願変更するに際してあらためて改正前の特許法第30条第4項所定の手続をなす必要はないのである。改正前の実用新案法第8条第3項には、現行実用新案法第8条第3項にみられる「但書」が存在しなかつたからである。
仮に、実用新案登録出願に出願変更するに際し、あらためて新規性喪失の例外規定の適用を求める所定の手続がいるとしても、本件の場合のごとく、すでに考案についての内容審査に入つた以上、右例外規定の適用を認めたものとみるのが相当であるからである。
二 被告の答弁および主張1 請求の原因1、および2の事実は、認める。
2 同3の取消事由の主張は、争う。
審決の判断は、以下述べるとおり正当であつて、審決には何ら誤りはない。
(変更出願の性格) 変更出願は、もとの特許出願とは別個独立の新たな出願であつて、もとの特許出願がその同一性を保有しつつ出願形式のみを変更するものではなく、ただ、その出願の出願日がもとの特許出願の日まで遡及するという効果のみがあるにすぎない。
したがつて、もとの特許出願についてなした手続の効力がそのまま変更後の実用新案登録出願に承継されるものでないことは当然である。このことは、出願の変更が、新たな願書を作成して提出し、かつ新たな手数料を納付してなされるものであり、さらに、出願の変更があつたときは、もとの出願が取り下げられたものとみなされ、変更出願については、もとの出願についての経過とは全く関係なしに拒絶理由通知や公告決定などが行われ、補正についても、たとえば、もとの出願における公告決定の存在などによつて何ら制限されることがないなどのことからしても明らかであり、変更出願の性格を右のごとく解すべきことは、判例学説の支持するところである。
なお、出願の変更は、本件のような特許出願と実用新案登録出願との間のみならず、法律的にも質的にも、もつとかけ離れた特許出願と意匠登録出願との間、実用新案登録出願と意匠登録出願との間でも認められているが、これらの場合の出願の変更においては、もとの出願の手続の効力が、変更出願に当然承継されると考えることに無理があることは、一層明瞭である。
(新規性喪失の例外規定の適用申請の性格) 新規性喪失の例外規定の適用を受けようとする者は、その旨を記載した書面を出願と同時に提出し、かつ出願の日から三〇日以内に例外規定の適用を受けうる発明または考案であることを証明すべき書面を提出しなければならない(実用新案法第9条第1項、特許法第30条第4項参照。)が、この適用申請の法律的性格は、優先権主張の性格と同様、出願に附随した、出願とは別個の手続上の単独行為と解されるものである。けだし、新規性喪失の例外規定は、発明または考案が、刊行物などへの自らの公表によつて新規性を失つた場合においても、なおその後一定期間の出願について新規性あるものとみなすものであるから、この適用を受けようとする申請は、直接その利益を享受することを目的とする独立かつ自足的性格のものであるからである。
出願人が、適式の申請をなすかぎりその利益享受の効力が必然的に発生するものであつて利益を享受するかどうかは専ら出願人の意思のみにかかつているのである。
(変更出願についての新規性喪失の例外規定の適用申請) 前叙のとおり出願の変更にかかる本件実用新案登録出願が、もとの特許出願とは別個独立の新たな出願であり、かつ新規性喪失の例外規定の適用申請が出願に附随した手続上の単独行為であり、その利益享受が全く出願人の意思のみにまかされた要式行為であることからすると、変更出願について、新規性喪失の例外規定の適用を受けようとするならば、もとの特許出願についてかかる利益享受の申請がなされていたとしても、あらためて、適式にその旨の意思表示をしなければならないものである。
しかるに、原告は、出願変更と同時にかかる適式な書面による意思表示をなさず、かつ新たな出願の現実の出願日から三〇日以内に所定の証明書を提出していないのであるから変更出願である本件実用新案登録出願については、新規性喪失の例外規定の適用を受けることができなくなつたものと解される。
したがつて、これと同旨の判断をなした審決には何ら違法はない。
理 由一 特許出願から本件実用新案登録出願への変更の手続を含む特許庁における手続の経緯および審決の理由に関する事実(請求の原因1、2)は、当事者間に争いがない。
二 そこで、本件審決についての取消事由の存否について判断する。
原告は、まず、本件において、出願変更前の特許出願(以下、「原特許出願」または「原出願」という。)が昭和四五年九月八日になされたものであり、かつ昭和四五年法律第九一号による改正前の実用新案法には、現行実用新案法第8条第3項但書に相当する規定がなかつたのであるから、原特許出願について、すでに新規性喪失の例外規定の適用を受けておれば、実用新案登録に出願変更するに際して、あらためてその旨の意思表示を含めた所定の手続をする必要はないものと解すべきであると主張する。しかしながら、原告の右主張は、以下述べるところにより採用することはできない。
すなわち、出願の変更にかかる実用新案登録出願(実用新案法第8条第1項)は、原特許出願とは別個独立の新たな出願であつて、原特許出願がその同一性を維持しつつ出願形式のみを変更するものではなく、出願の日が原特許出願の日まで遡及する効果が付与されるほかは、原出願についてなした手続の効力がそのまま変更後の実用新案登録出願に当然に承継されるものではない。このことは、出願の変更があつたときは、原出願が取り下げられたものとみなされ(実用新案法第8条第4項)、原出願に関する審査、査定などと関係なく、新たに変更出願に対して審査その他一切の手続が進められることからも明らかである(なお、出願の形式も、変更出願であることおよび原出願を表示するほかは、新たな出願と異ならない。実用新案法施行規則第1条第2項、様式第二参照。)。
また、新規性の喪失の例外規定の適用申請(実用新案法第9条第1項の準用する特許法第30条第4項)は、出願とは別個に、しかしこれに附随してなされるべき、例外規定適用の利益を享受したい旨の要式行為たる単独の意思表示であると解するのが相当である。
したがつて、原特許出願を実用新案登録出願に変更するに際し、新たな出願について新規性喪失の例外規定の適用を受けようとするならば、原特許出願についてこの利益享受の手続をしていたとしても、特許法第30条第4項所定のとおり、出願の変更にかかる実用新案登録出願と同時に、あらためて、例外規定の適用を求める旨の書面を提出するとともに、新たな出願の現実の出願日から三〇日以内にその出願にかかる考案が同条第一項の規定するものであることを証明する書面を提出しなければならなかつたものである(もつとも、原特許出願について提出した証明書が変更を要しないものであるときは、その提出を省略しうるが、それには、その旨を願書に表示しなければならない。実用新案法施行規則第6条第4項の準用する特許法施行規則第31条第2項)。
たしかに、原告の指摘するごとく、現行実用新案法第8条第3項の但書は、昭和四五年法律第九一号によつて新たに追加されたものであり、改正前においては、出願の分割の場合について改正前の特許法第44条第3項が、新たな出願日がもとの出願の日まで遡及しても、新規性の喪失の例外規定の適用を受けるには、新たな出願の現実の出願日を基準にして書面および証明書を提出する必要のあることを明らかにしていた反面、出願の変更の場合については、これに相当する規定が欠けていたため、変更にかかる新たな出願について新規性喪失の例外規定の適用を受けようとするときには、再度前記書面による意思表示をし、かつ証明書を提出しなければならないかについては必ずしも判然としない点があつたことも否定できないが、前叙の出願の変更および新規性の喪失の例外規定の適用申請の法的性格は、右改正の前後によつて異別に解されるものではないから、現行実用新案法第8条第3項に新たに追加された但書も、前示解釈を明確にするために注意的に規定したものとみるべきである。
成立につき争いのない甲第五ないし第八号証、甲第一一ないし第一三号証によれば、本件において、特許庁の審査官は、変更出願である本件実用新案登録出願にかかる考案の内容を検討し、三つの刊行物も引用例として挙げたうえ、本件考案がこれらの引用例からきわめて容易考案できるものとして拒絶査定をしたので、原告において審判の請求をしたところ、審判手続において、前記引用例とは別個に、原出願において新規性喪失の例外規定の適用申請をしていたところの、原告が昭和四四年一二月六日にした研究発表の結果を掲載したとみられる雑誌「大気電気研究」第二号大気電気研究会(昭和四五年三月一〇日発行)第四六頁ないし第四八頁を引用して、本件考案が該刊行物に記載された考案であり、実用新案法第3条第1項第3号に該当するとして拒絶理由を通知し、審決も同じ理由のもとに審判請求を成り立たないとした経過が認められ、原告としては、本件実用新案登録出願にあたつて、あらためて新規性の喪失の例外規定適用申請をする必要がないものと誤解していたのではないかと思われるふしがあるが、本件考案が、審判手続で引用された刊行物に記載されたもので、しかも原告において実用新案法第9条第1項によつて準用される特許法第30条第4項所定の利益享受のための申請手続を履行していないことを自認する以上、考案の実質的内容についての審査がなされたからといつて、
本件実用新案登録出願について新規性喪失の例外規定の適用を受けうることに確定したものと考えるべき根拠はない。
したがつて、原告のこの点の主張も採用できない。
そうすると、本件実用新案登録出願は、実用新案法第9条第1項が準用する特許法第30条第1項の規定の適用を受けることができないから、本件考案は、それが審決の引用にかかる前記刊行物に記載された考案であることおよび右刊行物の発行日が審決認定のとおりであることに争いがない以上、実用新案法第3条第1項第3号に該当し、実用新案登録を拒絶すべきものとした審決の判断は正当であつて、本件審決には何ら違法はないというべきである。
三 以上のとおりであるから、本件審決の違法を理由に取消を求める原告の本訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条
民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 小堀勇
裁判官 高林克己
裁判官 舟橋定之