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関連ワード 技術的範囲 /  損害額 /  逸失利益 /  実施料相当額 /  考案 /  図面 /  専用実施権 /  同一の作用効果 /  請求の範囲 /  利益額 / 
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事件 昭和 52年 (ワ) 1508号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1980/06/17
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 被告は原告に対し金九万六、八二二円およびこれに対する昭和五二年四月一〇日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを一〇分し、その九を原告の、その一を被告の各負担とする。
4 この判決は第1項、第3項に限り仮りに執行することができる。
事実及び理由
全容
一 請求の趣旨1 被告は原告に対し金三〇〇万円およびこれに対する昭和五二年四月一〇日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決並びに仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
三 請求原因(一) 原告は左記実用新案権(「本件実用新案権」「本件考案」という)の権利者である。
(1) 名称 表札(2) 出願 昭和四五年五月二六日(実願昭四五―五一五三八)(3) 公告 昭和四八年一二月六日(実公昭四八―四一九一九)(4) 登録 昭和五二年四月二八日(第一一七二九五〇号)(5) 実用新案登録請求の範囲「前面に嵌合凹部1を凹設した矩形状枠体2の前記凹部1内周縁上面に長手方向への長孔3を開設し、且裏面に形成した凹入部4内に文字記入板5が嵌合すると共に下縁に突片6を設け上下寸法が凹部1の上下よりも僅かに長い透明覆板7を、その上縁部を長孔3に挿入して凹部1内に嵌合せしめ、さらに枠体2の凹部1の内周縁下面に透明板7の下方への移動で該板7の突片6が挿通する掛合孔8を開設して成る表札。」(二) 本件考案の構成要件およびその作用効果は次のとおりである。
(1) 構成要件(イ) 矩形状枠体2の前面に嵌合凹部1を凹設し、右凹部1内周縁上面に長手方向への長孔3を、さらに右凹部1内周縁下面に透明板7の下方への移動で該板7の突片6が挿通する掛合孔8を開設し(ロ) 裏面に形成した凹入部4内に文字記入板5が嵌合するようにし、下縁に突片6を設け、上下寸法が凹部1の上下よりも僅かに長い透明板7を形成し、
(ハ) 右透明覆板7の上縁部を長孔3に挿入して凹部1内に嵌合せしめてなる(ニ) 表札(2) 作用効果本件考案は右の構成要件よりなることによつて次のような作用効果をあげるものである。
(イ) 透明覆板7はその上下寸法が凹部1の上下間より長いため突片6を掛合孔8に挿入してその下縁を凹部1下面に載置しても該覆板7の上部は長孔3内に嵌合して支持され、この上部の嵌合と突片6の掛合孔8への挿通により枠体2の覆板7および記入板5は確実に保持される。
(ロ) 文字記入板5に記入した文字の書きかえ等の必要が生じた場合は、透明覆板7を指先で押圧しながらこれを押上げ突片6を掛合孔8より抜取つた後右板7の下縁を持つて手前に引き、上部を長孔3より引抜けば枠体2より覆板7と記入板5を容易に外すことができる。
(ハ) 文字記入板5はその前面が透明覆板7で保護され且凹入部4内に嵌合しているため、雨水等の文字記入面への流入が完全に防止でき、したがつて文字の滲みや文字面の汚れ発生は皆無となつて長期にわたり美麗さを保持することができる。
(三) 被告は昭和四九年一月ごろから別紙ロ号図面および同説明書記載の表札(以下ロ号物件という)を業として販売している。
(四) ロ号物件の構成およびその作用効果は次のとおりである。
(1) 構成(イ)′ 矩形状枠体2の前面に嵌合凹部1を凹設し、右凹部1内周縁上面に長手方向への長孔3を、さらに右凹部1内周縁下面に透明板7の下方への移動で該板7の突片6が挿通する掛合孔8を開設し(ロ)′ 裏面に形成した凹入部4内に文字記入板5が嵌合するようにし、下縁に突片6を設け、上下寸法が凹部1の上下よりも僅かに長い透明板7を形成し、
(ハ)′ 右透明覆板7の上縁部を長孔3に挿入して凹部1内に嵌合せしめてなる(ニ)′ 表札(2) 作用効果ロ号物件は右のような構成を有することによつて、本件考案同一の作用効果を奏するものである。
(五) 被告のロ号物件の前記構成(イ)′は本件考案の構成要件(イ)を、同じく(ロ)′は(ロ)を、(ハ)′は(ハ)を、
(ニ)′は(ニ)をそれぞれ充足していること明らかであるから、ロ号物件は本件考案の構成要件のすべてを具備するものであり、また、その作用効果も前記のように本件考案のそれと同一である。したがつて、ロ号物件は本件考案技術的範囲に属するものであり、被告はロ号物件を業として販売することにより原告の本件実用新案権を侵害している。
(六) 被告は昭和四九年一月ごろより現在までの間業としてロ号物件を販売することが原告の本件実用新案権を侵害するものであることを知りながらもしくは過失により知らないでこれを三万八、〇〇〇枚製造販売し、原告に次のような損害を与えた。
(1) 被告はロ号物件を販売することによつて一枚につき少くとも金二六〇円の利益を得ているので右販売によつて総計金九八八万円以上の利益をあげたことになる。したがつて、原告は右利益額と同額の損害を蒙つたものと推定される(実用新案法29条1項。なお、右に主張した販売数量、利益額が認められないとしても、
被告自ら提出した丙号各証―ロ号物件販売に関する帳簿、計算関係書類―によると販売数は一万二、一六二枚、利益額は一枚につき少くとも金六〇円はあつたことが認められるのであるから、被告の得た利益は少くとも計金七二万九、七二〇円あつたことは疑いない。)。
(2) 仮りに右推定による主張が認められないとしても、原告は、被告のロ号物件の販売行為によつてその間自らの本件実用新案権の実施品の販売につき少くとも一万二、一六二枚の売上げの減少を来たし、右減少枚数が売れておれば得べかりし利益相当の損害を蒙つたこと明らかである。そして、原告の右実施品販売による利益は一枚当り金一九〇円であるから右逸失利益は計金二三一万〇、七八〇円である。
(3) 以上のいずれの方法による損害額の主張も認められないときは、原告は被告のロ号物件販売によつて得べかりし実施料相当額損害額として主張する(実用新案法29条2項)。
(七) よつて、
原告は被告に対し右損害金内金三〇〇万円とこれに対する訴状送達の翌日である昭和五二年四月一〇日から支払いずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
四 請求原因に対する答弁(一) 請求原因(一)、(二)項は不知。
(二) 同(三)、(四)項は認める。
(三) 同(五)、(六)項は否認する。
(1)原告は自ら本件実用新案の実施品の販売をして一枚当り金一九〇円の利益を得ている旨主張しているが、原告は自ら表札の製造販売をしているものではない。
ただ、有限会社日本表札(代表者は原告)が、原告から本件実用新案権の実施権の設定をうけて、その実施品を製造販売しているにすぎない。したがつて、仮りに被告が原告に損害を与えたとしても、その額はせいぜいその受けるべき実施料相当額の限度に限られるべきである。(2)また、被告がロ号物件を販売して得た利益も原告主張のような多額ではない。すなわち、まず販売価額と仕入価額との差額(荒利益)は一枚平均金五〇円程度にすぎないから、被告の得た荒利益はたかだか金六〇万円ぐらいである(証拠により、販売数量を約一万二、〇〇〇枚としたもの)。
そして、被告がこれにより得た純利益は右荒利益から更に相当額の人件費その他の経費を控除した金額と考えなければならない。
五 抗弁(一) 公知公用 本件考案はその出願前公知公用のものであつたから本来実用新案の登録を受けうるものではなかつた。換言すれば、原告の本件実用新案権は無効とすべきものである(実用新案法3条1項37条1項1号)。このような本来無効の権利に基いて権利行使をすることは許されるべきではない。
(二) 信義則違反 原告は本訴提起前に特段被告に対しロ号物件の販売行為が原告の本件実用新案権を侵害する旨警告したり、あるいはその差止や損害賠償を求める等の措置をとることがなかつた。このような態度は同業者として極めて遺憾なものである。被告は本訴提起によつて、初めて原告の本件実用新案権の存在を知り、直ちにロ号物件の販売を止め、必要とあらば前記日本表札からこれを仕入れてもよい旨申入れたにも拘らず、原告はこれを拒絶し、あえて本訴請求を維持している。このような原告の所為は商道徳に反するは勿論、権利万能的な発想であつて、信義則に反するものとして許されるべきではない。
六 抗弁に対する答弁争う。
七 証拠(省略) 理 由一 成立に争いない甲第一ないし第四号証によると請求原因(一)項(原告が本件実用新案権を有すること)、(二)項(本件考案の構成要件を分説すると(イ)ないし(ニ)となること、その作用効果が(イ)ないし(ハ)のとおりであること)を認めることができる。また、同(三)項(被告が昭和四九年一月からロ号物件を業として販売していること)、同(四)項(ロ号物件の構成を分説すると(イ)′ないし(ニ)′のようになること、その作用効界が(イ)′ないし(ハ)′のとおりであること)は当事者間に争いがない。
二 そこで、ロ号物件の構成を本件考案の構成要件に照らしこれと対比検討するに、前者の構成(イ)′ないし(ニ)′が後者の構成要件(イ)ないし(ニ)をすべて充足しているものであることは特段の説示をするまでもなく明白である(ロ号物件の透明覆板7に設けられている突片6は正面からみてかなり幅広のものであるが、これが本件考案のクレームにいう「突片6」に該当することはいうまでもない。)。
したがつて、ロ号物件の構成は本件考案技術的範囲に属する。
三 そうすると、被告はロ号物件を業として販売することによつて原告の有する本件実用新案権を侵害したものであり、かつ被告の右実用新案権侵害行為は過失によるものと推定される(実用新案法30条、特許法103条)。
したがつて、被告は原告が前記侵害行為によつて蒙つた損害を賠償する義務がある。
四 被告は、原告の本件損害賠償請求は本来許されるべきものではないと抗弁しているが、その主張はにわかに首肯することができない。すなわち、
(一) まず、被告は、本件考案は出願前公知公用のものであつたから、原告の本件実用新案権は本来無効のものでその権利行使は許されないものであるかのように主張している。しかし、もともと実用新案権は、特許庁がその専権において付与するものであつて、侵害訴訟裁判所がみだりにこれを無効視することができないことはいうまでもない。それが無効審判手続によつて無効と判断され確定しない限り何人もこれを有効な権利として尊重しなければならない。他に特段の理由も付さず、
原告の本件実用新案権行使を非難する被告の前記主張は主張自体にわかに認め難い。また、被告は単に公知公用をいうだけで、具体的に本件考案出願前のいつどこでいかなる構成の表札が公知公用であつたかについては全く主張するところがない。被告の前記主張はこの点においても不十分というほかない。
(二) 次に、被告の信義則違反の主張も主張自体失当である。実用新案権侵害を理由として損害賠償請求の訴を提起するに当り、一々事前に侵害者に対し侵害事実を通告する等の措置をとらなければならないいわれはない。また、訴訟係属中に相手方からの示談の申込みに応じなかつたからといつて、それだけで信義則に反するわけのものでもない。その他、証拠によつても、本件において、原告の本訴請求が信義則に違背するとの事情を認めることはできない。
五 そこで、すすんで原告の蒙つた損害額について検討する。
(一) 原告は、まず、損害額の算定につき、実用新案法29条1項を援用し、被告がロ号物件販売によつて得た利益即自己の蒙つた損害額であると推定される旨主張している。
しかし、原告本人尋問の結果(第一、二回)によると、原告は自ら本件実用新案権を実施しているわけではなく、かえつて、有限会社日本表札をしてこれを通常実施させているに過ぎないことが認められる。
そして、当裁判所は、このように権利者自らが当該権利を実施していないような場合には前記法条項を適用することは相当でないと考える。
けだし、実用新案法29条1項所定の損害額推定規定は、自ら実用新案権を実施している当該権利者(または自ら専用実施権を実施している当該専用実施権者)が侵害者の侵害によつて蒙つた消極的損害(侵害によつて失われたところの本来自らの実施により得べかりし利益相当の損害)の額や因果関係を立証するのが極めて困難であることに鑑み権利者保護のために設けられた規定であつて、単に権利を保有するだけでこれを実施していない不実施権利者(本件原告)のようにもともと前示のような消極的損害の発生自体を観念することのできない者に適用すべき規定ではないと解するのが、右条項の趣旨や損害賠償制度の本質上(利得返還、準事務管理制度と異なる点、損害賠償制度にも働らく損害負担公平の理念等参照)相当であると考えられるからである。
法は、このような場合、別途、当該権利の実施料相当額をもつて権利者の蒙つた損害とみるべき旨定めていると解される(同法条二項)。
そうすると、原告の蒙つた損害額は実用新案法29条2項に基き本件実用新案権の実施料相当額を求めて算定しなければならない。
なお、原告は、以上のほか、損害額の算定に関し、民法の一般原則に基き被告の権利侵害により失つた自己の得べかりし利益額そのものを算出し主張している部分もあるが、前示のとおり、原告は不実施の権利者であるから本来右のような逸失利益を想定すること自体困難であり、またそれゆえ、原告は被告の権利侵害と自己の蒙つた損害の因果関係の存在についても特段具体的に主張立証しえていないものである。したがつて、右の主張は採用の限りでない。
(二) そこで、以上のような見解に基き、原告の蒙つた損害額を求めるに、成立に争いない丙号各証および被告本人尋問の結果によると、被告は昭和四九年一月以降本訴を提起された昭和五二年三月頃までの間にロ号物件を数量にして合計一二、
一六二枚仕入れ(丙第一ないし第四号証の各一、二の買掛台帳参照。なお、同第一〇号証は右台帳の記載中、ロ号物件についてのみ集計したもの。)、これを全部売り尽したこと、その売却代金額は売り先によつて異なり、一枚二〇〇円から三〇〇円であることまでは判るが、その代金総額は必らずしも明らかでないこと、他方、
被告の売り掛台帳をみるに、前記仕入れ量全部に対応した台帳は提出されていないが、ただ昭和四九年一月から同五一年末までの帳簿等によると合計五、二五八枚のロ号物件を合計一三九万五、三二〇円で売却している事実があること(丙第七号証の一、二が現金売りの伝票、同第一一号証が掛売り分の帳簿)、以上のことが認められる。
右事実によると、被告のロ号物件売上枚数が少くとも一万二、一六二枚であつたことは認められるが、その売上代金総額は必らずしも明らかでない。ただ、売り掛台帳で明らかな右売却数の一部である五、二五八枚についてはこれを合計一三九万五三二〇円で売却している事実に着目し、前記の実際売上枚数に按分率を乗ずると、それは金三二二万七、四〇〇円を下らないものと推認されうる(1,395,320×12,162÷5,258=3,227,440 一〇〇円未満切捨て。
なお、実際の最低売値二〇〇円と最高売値三〇〇円の単純平均値二五〇円を実際の売上枚数で乗ずると三〇四万〇、五〇〇円にしかならないが、前掲証拠によると、
被告は問屋には安く、印判屋には高く売つているところ、後者の方に多く売つていることが認められるので、前記推認額は実際の額を上廻る額とは考えられない。)。
そして、本件実用新案権の実施料率は考案の内容その他当裁判所に顕著なこの種考案の実施料率の相場に照らすと、売上代金額の三パーセントをもつて相当と考える。
してみると、被告の本件実用新案権侵害により原告の蒙つた損害は計算上金九万六、八二二円となる(3,227,400×3÷100=96,822)。
六 よつて、原告の被告に対する本訴請求は損害金九万六、八二二円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和五二年四月一〇日から右金員支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当としてこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法92条を、仮執行宣言につき同法196条を各適用して主文のとおり判決する。
裁判官 畑郁夫
裁判官 上野茂
裁判官 中田忠男
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