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事件 |
昭和
52年
(ワ)
5768号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1980/07/25 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
一 請求の趣旨1 被告は別紙イ号図面および同説明書記載の「窓枠モルタル額縁の見切り縁」を製造、販売、頒布してはならない。 2 被告は右見切り縁、およびその半製品を廃棄し、右製品製造用金型を除却せよ。 3 被告は原告に対して金二七〇〇万円およびこれに対する昭和五四年四月一二日から支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は被告の負担とする。 との判決ならびに第3項につき仮執行宣言。 二 請求の趣旨に対する答弁主文同旨。 三 請求原因(一) 原告は昭和五一年七月三〇日訴外【A】から同人の有する次の実用新案権(以下、本件実用新案権といい、その考案を本件考案という)の譲渡を受け、同年九月一〇日その旨の移転登録を受け、同日限りその権利者となつた。 (1) 考案の名称 「窓枠モルタル額縁の見切り縁」(2) 出願 昭和四五年三月一〇日(実願昭四五ー二三三一三)(3) 公告 昭和四八年一一月一三日(実公昭四八ー三八二八六)(4) 登録 昭和四九年七月三〇日(第一〇四六八九三号)(5) 実用新案登録請求の範囲「上方の一側に、先端部に凸起部を形成した凸片を凸設した直状片の下部取付座の下面を倒凹字形に形成し、これが断面を恰かも上字型に形成して成る窓枠モルタル額縁の見切り縁。」(二) 本件考案の構成要件およびその作用効果は次のとおりである。 (1) 構成要件(イ) 上方の一側に、先端部に凸起部を形成した凸片を凸設した直状片を形成し、 (ロ) 右直状片の下部取付座の下面を倒凹字形に形成し、 (ハ) 右直状片および取付座の断面が恰も上字型に形成して成る(ニ) 窓枠モルタル額縁の見切り縁(2) 作用効果(イ) 従来モルタル塗装する際には一々当て板を当てて塗つていたが、本件考案によると当て板等を使用する要なく、「見切縁」を直接窓枠に装着し、その高さに合わせてモルタル塗装することができるので、容易かつ迅速綺麗に仕上げることができる。 (ロ) 直状片の上方の一側に凸設した凸片先端部の凸起部の存在によつて見切り縁とモルタルとの肌切れを防止することができる。 (ハ) 取付座の下面に接着剤を注入コーキングして見切り縁の窓枠への装着を容易かつ完全にし、同時に窓枠と見切り縁取付座との間への雨水の侵入を防止することができる。 (三) 被告は別紙イ号図面および同説明書記載の窓枠モルタル額縁の見切り縁(モルタルコーナー。以下イ号物件という)を業として製造販売している。 (四) イ号物件の構成およびその作用効果は次のとおりである。 (1) 構成(イ)′ 上方の一側に先端部に凸起部を形成した凸片を凸設した直状片を形成し、 (ロ)′ 右直状片の下部取付座の下面を平坦面に形成し、 (ハ)′ 取付座上面中央やや他端寄りに先端部に凸起部を形成した凸片を凸設するとともに(ニ)′ 直状片および取付座内壁に並列する筋状の微小突起を設け(ホ)′ 直状片および取付座を断面恰かも上字型に形成してなる(ヘ)′ 窓枠モルタル額縁の見切り縁(2) 作用効果イ号物件は右のような構成をとることによつて本件考案と同一の作用効果を奏するものである。 (五) イ号物件は本件考案の技術的範囲に属する。すなわち、 (1) まず、イ号物件の構成(イ)′、(ホ)′、(ヘ)′が、本件考案の構成要件(イ)、(ハ)、(ニ)をそれぞれ充足することは明白である。 (2) 次に、イ号物件の(ロ)′の構成をみるに、この構成すなわち取付座下面を平坦面に形成する構成は必らずしも本件考案の(ロ)の構成要件すなわち取付座下面を倒凹字形に形成するという要件をそのまま充足するものではない。 しかし、両者は明かに均等である。すなわち、 (イ) もともと、本件考案における解決課題は先に(二)(2)の欄で述べた作用効果のうち(イ)(当て板を使用する手間を省くこと)と(ロ)(見切り縁とモルタルとの間の肌切れを防止すること)とにあつたが、本件考察は右課題解決のため、 上方の一側に先端部に凸起部を形成した凸片を凸設した直状片を形成すること(構成要件(イ))と該直状片と取付座を断面恰かも上字型に形成すること(同(ハ))を提案しているのであり、この部分こそ本件考案の技術思想を表わした主要な本質的構成要件である。これに対し(ロ)の構成要件は前記課題解決に何らの寄与をしていない部分である。その証拠に、本件考案の明細書は、前二つの作用効果については詳細に述べながら、取付座下面を倒凹字形にしたことの作用効果については明らかにしていない(強いて推測すれば、倒凹字形部分に接着剤を注入コーキングすることにより見切り縁の窓枠柱への装着を完全にすること、および雨漏り防止を向上徹底させることが考えられる程度であろう。)。したがつて、(ロ)の構成要件は本件考案にとつて非本質的な重要でない部分である。 (ロ) そして、イ号物件は(ロ)′の構成をとることによつて、前記本件考案の(ロ)の構成要件が意図したと推測される作用効果と同一の効果を得ている。すなわち、イ号物件の(ロ)′の構成によつてもイ号物件は容易かつ完全に窓枠柱側に装着できるし、そのことにより雨漏り防止の効果も奏している(窓枠柱側被着面の材質に小さい凸凹がある場合でも液状の接着剤を施して右効果を挙げうる。)。 またそれ故、両者の構成は互いに置換が可能であり、かつそのように置換することは出願当時における当業者ならば本件考案の公報の記載から当然想到しうる程度のものであること明らかである。 (3) したがつて、イ号物件は本件考案の構成要件を実質上全部充足している。 なお、イ号物件は本件考案の構成要件にはない(ハ)′、(ニ)′の構成をも具備しているのであるが、これらの構成は特段新たな作用効果をもたらすものではないから、単なる付加ないし設計上の微差というべきである。したがつて、このような付加構成の故に前記結論が左右されないことはいうまでもない。 (六) 仮りに(ロ)の構成要件に関して均等の主張が認められないため、イ号物件は(ロ)の要件を完全に充足していないと評価されるとしても、イ号物件を全体としてみるとそれは本件考案を不完全に利用した改悪実施品にほかならないから、 結局、本件考案の保護範囲に入る構成を有していると解すべきである。すなわち、 一般に、ある考案の重要な構成要件をそのまま採用し、ただ比較的重要でない一部の要件を省略し、または他の不十分な構成に置換えたため、考案所期の作用効果より不完全な作用効果しか発揮しない物品であつて、そのような構成をとつた意図が意識的に当該考案の技術的範囲該当性を回避するところにあると解されるような場合は、その物品を当該考案の不完全利用物または改悪実施品として全体としては当該考案の保護範囲に属すると解すべきである。 これを本件についてみるに、 (イ) イ号物件は前記のとおり本件考案の重要な構成要件(イ)、(ハ)、 (ニ)を全部充足しており、ただ比較的重要でない(ロ)の要件を省略し、または不完全な(ロ)′の構成に置換えたにすぎない物品である。 (ロ) そして、そのことにより、イ号物件は本件考案の重要な作用効果(前記当て板省略の効果および肌切れ防止の効果)を発揮しているとともに、(ロ)の構成要件の効果と推認される二つの効果(@見切り縁の窓枠柱への装着を完全にする点およびA窓枠柱と見切り縁との間の雨水侵入防止を向上させる点についても不十分ながら一応はこれを発揮している。すなわち、イ号物件のような取付座下面を平坦にした構成品を接着テープをもつて窓枠に接着する場合には、被着面に僅かな凹凸やひずみがあつたり、微小なゴミ、ホコリ等が付着していることが多いため見切り縁と窓枠柱との間に当然隙間が生ずる。したがつて、本件考案(ロ)の要件のように取付座下面を倒凹字形に形成し、接着剤による接着コーキングをした方が前記効果を十分発揮することは明らかである。しかし、(ロ)′の構成の場合の接着でも不十分ながら前記効果を奏することもまた明らかである。 (ハ) また、このように、イ号物件が(ロ)の構成要件を採用せず、これより劣悪な(ロ)′のような構成を採用しているのは、被告においてもつぱら権利侵害の責任を免れる意図に出たことを示すものであることも明らかである。 (七) 以上のとおりであるから、いずれにしても被告はイ号物件を業として製造販売することによつて原告の本件実用新案権を侵害している。 (八) 被告は原告が本件実用新案権の権利者となつた昭和五一年九月一〇日から同五四年二月九日までの三〇カ月間にイ号物件を業として製造販売することが原告の本件実用新案権を侵害することになることを知りながら、もしくは過失により知らないで、これらを月平均六万本、合計一八〇万本製造販売し、金二七〇〇万円の利益(一本当り一五円の利益)を得た。したがつて、原告はこれと同額と推定される損害を蒙つた(実用新案法29条1項、特許法102条1項)。 (九)よつて、原告は被告に対して(1)イ号物件の製造販売頒布の差止め、同製品および半製品の廃棄、ならびにイ号物件製造に供する金型の除却と(2)損害金二七〇〇万円およびこれに対する訴変更申立書送達の日の翌日である昭和五四年四月一二日から支払いずみに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。 四 請求原因に対する答弁(一) 請求原因(一)項は認める。 (二) 同(二)項の(1)、(2)の(イ)、(ロ)は認めるが(ハ)は否認する。 (三) 同(三)項は認める。 (四) 同(四)項の(1)、および(2)のうちイ号物件が本件考案の前記(イ)、(ロ)の作用効果と同一の作用効果を奏することは認めるが、その余は否認する。 (五) 同(五)項の(1)は認めるが、その余は否認する。 (六) 同(六)、(七)、(八)項は否認する。 なお、原告はいまだかつて取付座下面を倒凹字形に形成した本件考案の実施品を販売したことはないのであつて、ただこれと異なる取付座下面平坦なもの(甲第三号証記載のA型)を販売しただけであるから、仮りに被告のイ号物件の製造販売が本件実用新案権を侵害するものであつても、原告はこのことにより特段損害を蒙つたことにはならない。 五 被告の主張(一) 原告はイ号物件の構成(ロ)′が本件考案の構成要件(ロ)と均等であるとか、イ号物件は本件考案の改悪実施品または不完全利用物であると主張するが、 いずれも失当である。すなわち、 (1) まず、原告は、本件考案の(ロ)の構成要件は本件考案にとつて非本質的な重要でない構成要件であると主張しているが、そもそも実用新案登録請求の範囲には考案の構成に欠くことのできない事項のみを記載しなければならないのであるから(実用新案法5条4項)、右登録請求の範囲に記載された要件を重要なものとそうでないものとに分けて考えるようなことは許されるべきことではない。 のみならず、本件考案の目的は見切り縁をいわゆる埋殺しのものにすることによつて従来工法のような当て板の装着、取外しという手間を簡略化すること(この点は原告の主張と同一)と見切り縁部の肌切れによる間隙発生を防止することにある。そして、ここに間隙発生の防止とは単に見切り縁先端部とモルタルとの間の間隙防止のみでなく、見切り縁の下部取付座下面と窓枠柱部との間の間隙防止をも指していると解すべきである(公報1欄25行目と2欄6行目から10行目までの記載参照)。そして、構成要件(ロ)は右後者の間隙発生防止目的を達成するため採用されたものにほかならないのである。したがつて、右構成要件(ロ)が本件考案において重要な要件の一つであることは明らかである。 そうすると、(ロ)の構成要件が非本質的部分であることを前提とする原告の主張はその前提を欠き、すでにこの点において失当である。 (2)次に、原告の(ロ)の構成要件、(ロ)′の構成の各作用効果に関する主張も到底首肯し難い。すなわち、 1 本件考案は、釘で打ち込むことによつて窓枠に装着する見切り縁についての考案である(したがつて、窓枠は任意釘着可能な木製であることが前提となる。)。 このことは本件考案にかかる公報記載の第3図に取付座取付用釘孔4の穿設されている見切り縁が示されていること、更に右公報の詳細な説明欄にも「使用に当り……第5図に示すように窓枠部の両側柱a(bの誤記と解される)に釘孔4から釘着し」(1欄30行目から32行目まで)とか、「窓枠への取付けも釘打ちで至極簡単に取付けられ」(2欄16、17行目)と記載されており、それ以外の取付方法を示唆するような記載が一切ないことによつても明らかである。そして、本件考案は、このような釘着方式の見切り縁を窓枠に取付けた場合に、釘のない部分と窓枠柱側被接着部との間に生じる隙間から雨水が侵入する欠点を克服するために、下部取付座の下面を倒凹字形とし、この部分に接着剤を注入コーキングするようにしたものである。 2 これに対し、イ号物件はアルミ製窓枠に装着することを前提とした見切り縁である。したがつて、もしイ号事件を釘着するためには、アルミサツシ側にも予じめ釘穴を穿設する必要があり、その手間は大変なものである。被告はこの点種々検討の結果、見切り縁の下部取付座下面を平坦とし、この下面に設けた接着テープにより直接アルミサツシに接着することにしたのである。そして、イ号物件はこのような構成をとつたことにより雨水の侵入を十分防止できるとともに、アルミサツシに釘穴を設けることなく直接接着テープのみで装着できるため本件考案のものより容易迅速に装着できるという優れた効果を奏するのである。 3 このように、イ号物件の(ロ)′の構成は本件考案の構成要件(ロ)の奏する作用効果とは異なる著効を果すものであるから、原告の均等あるいは不完全利用の主張はこの点でも理由がないこと明らかである。 4 なお、原告は、後記のとおり、以上の点に関連して、「本件考案は特段見切り縁の取付方法を構成要件としているのではない。取付座下面が倒凹字形の見切り縁でも、凹部の深さに応じた厚さの接着テープを貼着すれば装着可能である。」と主張している部分もあるが、本件考案の公報には接着テープによる装着方法については何らの記載がないばかりか、詳細な説明欄では「接着剤を注入コーキング」という記載もあつて(接着テープは接着材ということはあつても接着剤とはいわず、また接着テープで取り付ける場合には貼着といい、注入とはいわない)、右記載によると、本件考案が接着テープによる装着を全く予想していなかつたことは明らかである。 (二) 次に、イ号物件の(ハ)′、(ニ)′の構成も原告主張のように単なる付加ということは妥当でない。けだし、これらの構成も相応の効果を示すものであるからである。特に(ハ)′にいう凸片は肌切れ防止作用を補強するとともに取付座部が肉薄であるのを補強する効果もある。 六 被告の主張に対する原告の反論 被告は、本件考案は釘着によつて窓枠に取り付ける見切り縁に関する考案であると主張するが、本件考案の構成要件(クレーム)は特段見切り縁の装着方法まで限定したものでないことはその記載自体からして明白である。被告の指摘する詳細な説明欄の記載(釘着による装着方法を述べている記載)は本件考案の一実施例に関し、その窓枠への装着方法の一つを例示したにすぎない。 現に、取付座下面を倒凹字形に形成した見切り縁でも、凹部の深さに対応する厚さの接着テープを使用すれば、窓枠への装着は十分可能である。 したがつて、イ号物件が接着テープによる装着方法を前提とする見切り縁であることを強調して、それがゆえに本件考案と異る作用効果があるという被告の主張は立論を誤つている。 七 証拠(省略) 理 由一 原告主張の請求原因事実中、(一)項(原告が本件実用新案権を有すること)、(二)項の(1)(本件考案の構成要件を分説すると原告主張の(イ)(ロ)(ハ)(ニ)となること)、(三)項(被告がイ号物件を業として製造販売していること)、(四)項の(1)(イ号物件の構成を分説すると原告主張の(イ)′(ロ)′(ハ)′(ニ)′(ホ)′(ヘ)′となること)はいずれも当事者間に争いがない。 二 そこで、イ号物件が本件考案の技術的範囲に属するか否かについて検討する。 (一) まず、イ号物件の(イ)′、(ホ)′(ヘ)′の各構成がそれぞれ本件考案の(イ)、(ハ)、(ニ)の各構成要件を充足していることは明らかで、この点については当事者間にも争いがない。 (二) そこで、次にイ号物件の(ロ)′の構成を本件考案の(ロ)の構成要件に対比して検討する。 (1) 本件考案の(ロ)の構成要件は見切り縁の直状片下部取付座の下面を倒凹字形に形成することを要件としているのに対し、イ号物件の(ロ)′の構成はこれを平坦面に形成している点において相違があることは明らかであり、このこと自体は原告もこれを認めて争わないところである。 (2) しかるところ、原告は、右イ号物件の(ロ)′の構成は、本件考案の(ロ)の構成要件と均等であると主張しているので、以下その当否について検討する。 1 原告の均等の主張を肯認するためには、イ号物件の(ロ)′の構成が、前記のとおり、一見(ロ)の構成要件を充足していないにもかかわらずそのもたらす作用効果が(ロ)の構成要件所期の作用効果と同一であることがとりあえず必要である。 そこで、まず本件考案が(ロ)の要件すなわち下部取付座の下面を倒凹字形に形成する技術を採用した目的、作用効果についてみるに、成立に争いない甲第二号証によると、本件考案の公報には右の点について必ずしも明確な記載は見当らないが、その第3、第5、第6図において見切り縁下部取付座下面の倒凹字形部分が番号6として示されており、これに呼応して詳細な説明欄中に「6…は適宜の接着剤コーキング部」(公報一欄二五行目)とあるほか、「見切り縁の取付け下部6……等にはビニールその他の接着剤を注入コーキングして肌切れを完全に防止し得る」(同二欄六行目から一〇行目まで)との記載も認められる。そして、これらの記載によると、本件考案では倒凹字形部分は「ビニールその他の接着剤を注入コーキング」する用に供せられるものとして考えられており、かつこのことにより「肌切れを完全に防止すること」が意図されていることがわかる。これを換言すると、倒凹字形部分は接着剤の注入コーキングにさいし剤を塗りつける空間余裕部となり、剤の注入を容易にする働らきをするものとして考えられていることがわかる(効果A。なお、@一般に接着剤とコーキング剤とが別異のものであることからすると、 右にいう接着剤の注入コーキングとは、取付座と柱とを接着することをいうのか、 取付座下部と窓枠柱との間をコーキングすることをいうのか、果して両者を正確に区別認識したうえでの記載であるのか必らずしも明らかではないが、この点は暫らくおく。様式体裁により真正に成立したと認める甲第四号証-弁理士【B】の鑑定書一八頁参照-参照。Aまた、ここに肌切れ防止とは本件考案の他の重要な目的の一つである見切り縁とモルタルとの肌切れ防止をいうのではなく、見切り縁下部取付座下面(底面)と窓枠柱との間の剥離防止をいつていると解すべきである。けだし、前掲甲第二号証によると、本件考案にかかる見切り縁は左官が窓周辺の壁をモルタル塗りするのに先立ち予めその下部取付座を窓枠柱に固着し固定しておくものとされており、このような施行順序からすると、下部取付座の下面がモルタルと接することは考えられないからである。公報一欄二九行目から三五行目までと同二欄一六行の「窓枠への」から一九行目の「塗装するもの」まで参照。)。そして、他に関連の記載はない。しかし、均等論に関して考案の作用効果を論ずる場合には単に明細書の記載のみによるのではなく、すすんで考案の構成から客観的に認識しうる効果についても検討する必要がある。そこで、右のような見地からさらに取付座下面を倒凹字形にしたことによる作用効果について考えるに、様式体裁により真正に成立したと認める甲第六号証(本件考案の考案者【A】の「説明書」と題する書面)の一部に当裁判所にも顕著な経験則を総合すると、それは、前記効果Aのほか、さらに取付座下面を窓枠柱にビス止めまたは釘打ち固定させるさいにその両端部(ただし、断面を見た場合の両端部)での密着性を良好にするという効果も殊にそれがプラスチツク製である場合に考えられるところである(釘打ち等により取付座下面が多少なりともたわみ、その弾発力が両端部に伝わるものと考えられる。効果B。そして、この効果Bも効果Aとともに結局のところ前記「肌切れを完全に防止すること」に奉仕するものである。)。またさらに窓枠柱への固着を接着テープで行なう場合にはこれを凹型の内側にはめ込む部分となりテープ貼り作業の正確さに寄与する効果も考えられなくはない(甲第六号証末尾参照)。 しかるところ、イ号物件の(ロ)′の構成は下部取付座下面を平坦にしているため、その構成上前記のような効果を挙げえないことは多言を要しないところである。 そうすると、イ号物件の(ロ)′の構成は本件考案の(ロ)の構成要件所期の作用効果を果しえないことが明らかである。 2 もつとも、原告の均等の主張中、本件考案の技術上の特徴に関して述べている部分には首肯すべき点もある。すなわち、既に述べたとおり、前掲甲第二、第四、 第六号証(ただし、第四、第六号証は一部)によると、本件考案の明細書が(ロ)の構成要件の目的効果について言及するところは極めて少なくかつ曖昧であり、むしろ、ここで本件考案の特徴として強調されているところは、@断面直角に一体形成した直状片と取付座とからなる見切り縁をいわゆる埋め殺しにするという着想によつて((イ)の構成要件の一部と(ハ)の構成要件参照)、従来左官が窓周をモルタル塗りするには一々当て板(定木)を当てて塗るので、その取り付け、取り外しの手間があつた欠点を克服するとともに、あわせてこのことによりモルタル塗装の高さも見切り縁の高さに合わせて塗ることができるため作業が容易かつ迅速綺麗に仕上げうるという利点を得たほか、Aさらに、この場合、モルタル塗り上り後に見切り縁とモルタルとの肌切れを防止するため、直状片の先端部に凸起部を形成した凸片を凸設すること((イ)の構成要件の一部)をも提案している点であることが明らかである。そして、このような本件考案の技術上の特徴からすると、本件考案の構成要件中、前記@の作用効果に対応する(イ)の一部と(ハ)の構成要件が最も重要な要件であり、またAの作用効果に対応する(イ)のその余の部分の構成要件も相応に重視されるべきものであることが認められる。 しかし、そうだからといつて取付座下面を倒凹字形とする(ロ)の構成要件を無視または軽視する解釈態度もまた正しいものとは言い難い。けだし、もともと本件考案者は右の要件をも他の要件とともに「考案の構成に欠くことのできない事項」と考えていたはずであるから(実用新案法5条4項)、いまこの要件を無視または軽視することは本件考案の技術的範囲を出願人の意図した以上に拡大する結果になり妥当でないし、現に、上来説示のとおり、(ロ)の構成要件は技術上無意味なものではなく、見切り縁の底面と窓枠柱との間に生ずる肌切れ防止を目的として提案されている要件であるからである。 これを要するに、本件考案の特徴は、まず@見切り縁を埋殺しにするという基本的な技術思想から出た前記(イ)の一部と(ハ)との構成要件を中心として、さらにこれにA塗装作業前の見切り縁の窓枠性への取付け固着作業上の両者の間隙完全防止という点にも配慮を及ぼした(ロ)の構成要件と、B塗装作業完了後の見切り縁とモルタルとの肌切れ防止に奉仕する前記(イ)のその余の部分の構成要件とが配されたところにあり、これらの要件は有機的統一的に配されることによつて考案所期の効果を発揮していると解するのが相当で、いまこのうちAの点だけを(しかもBには言及せず)無視または軽視することは本件考案の特徴を正しく理解したものとは言い難い。 3 以上のとおりであるから、原告の均等の主張は爾余の点について検討するまでもなく失当である。右の説示に反する甲第四、第六号証中の見解は採用し難い。 (三)そうすると、イ号物件は爾余の点について判断するまでもなく本件考案の技術的範囲に属しないものである。 三 次に、原告は不完全利用(または改悪実施)の主張をするので判断する。 いま仮りにいわゆる不完全利用の概念または法理を承認するとしても、これをどのような形で侵害訴訟における原告の有効な攻撃方法として位置づけるべきであるかは実用新案登録請求の範囲をどのように解するかという点(実用新案法26条、 特許法70条)にも関連して必らずしも明確ではない。しかしここでは原告の主張に副い、原告主張の不完全利用の一般的成立要件の存否について検討する。ただ、 当裁判所は、仮りに不完全利用の法理自体を認めるとしても、それは決してみだりに適用されるべきものではないと考える。けだし、不完全利用の法理は当該発明考案の一部の構成要件を欠くにもかかわらず(省略でなく他の不十分な構成に置換えた場合でも要件欠除であることには相違ない)、なおかつ構成要件の全部充足の場合と同様に評価しようとするものであるから、それ自体発明考案の技術的範囲に関する基本原則を否定する契機を包臓していると考えられるし、またここで定立されている要件も果してこのような重要な帰結を導く法理にかかる要件としてすべての点で合理性を有しているかどうか必ずしも疑義なしとしないからである(ことにここで、省略されてよい構成要件を「比較的重要でない構成要件」とする考え方自体は肯認されるとしても、その基準はなおかなり曖昧で特許考案の技術的範囲の基本的な理解の仕方如何によつて結論が左右されることが予測されるのであつて、みだりにこれをゆるやかに解することは相当でないと考える。)。 そこで、このような見地から、イ号物件を本件考案に照らしてみるに、まず、イ号物件が本件考案の(ロ)の構成要件を欠いていることはすでに説示したとおりである。しかし、右(ロ)の構成要件が本件考案にとつて「比較的重要でない構成要件」であるとする原告の主張はにわかに首肯し難い。その理由とするところは前記二(二)(2)2において説示した本件考案の特徴からして明らかである。すなわち、(ロ)の構成要件は本件考案において最も強調されている中心的な目的、作用効果に対応するものではないが、しかし、相応の効果を期待されている要件であることも事実であつて、現にそのことは本件考案の明細書からも読みとりうるところでもある。いまこれを「比較的重要でない構成要件」であると解して、結果としてこれを無視するような解釈は相当でない。 また、イ号物件は(ロ)の構成要件を欠くためにその所期の効果すなわち「肌切れを完全に防止する」という効果を期待することができないことも既に説示したとおりである。イ号物件の(ロ)の構成でも不十分ながら同様の効果を奏するという原告の主張は、(ロ)の要件の効果をさらに上位概念である「見切り縁を窓枠柱に固着させうる効果」と解したか、または単に「肌切れを防止する効果」に置換えた所論というほかない。したがつて、イ号物件はこの点でも不完全利用成立の要件を欠いている。 これを要するに、イ号物件は(ロ)の構成要件を欠いているという以外に特段の評価を与えることが困難である。 原告の不完全利用の主張も失当である。 四 はたしてそうだとすると、被告が業としてイ号物件を製造販売することはなんら原告の本件実用新案権を侵害するものではない。 五 よつて、被告が本件実用新案権を侵害していることを前提とする原告の本訴請求はその余の点について判断するまでもなくすべて理由がないからこれを棄却し、 訴訟費用の負担につき民訴法89条を適用して主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
イ号図面説明書添付図面に示すように、直状片1および取付座3を有し、該直状片1は下部で該取付座3の一端と直角に連絡され、これが断面を略L字型に形成し、該直状片1の上方内面の一側には先端部に凸起部2′を形成した凸片2が設けられ、該取付座3の他端部寄り内面の一側には先端部凸起部12’を形成した凸片12が設けられ、 該取付座3の外面は平たんに形成され、該外面には離型紙14を貼付した接着剤層13が形成され、該直状片1および取付座3の内面には微小の筋状の突起15が多数、長手方向に並列されてなる窓枠モルタル額縁の見切り縁。 イ号図面<12182-001><12182-002> |
裁判官 | 畑郁夫 |
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裁判官 | 上野茂 |
裁判官 | 中田忠男 |