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関連審決 審判1971-3546
関連ワード 考案 /  考案者 /  図面 /  構造 /  技術的思想の創作 /  補正 /  きわめて容易 /  拒絶理由 /  減縮 /  実施例 /  容易に想到 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 53年 (行ケ) 131号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1980/08/27
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
原告は、「特許庁が昭和四六年審判第三五四六号事件について昭和五三年六月七日にした審決を取消す。訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、被告は、主文と同旨の判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和四〇年一月二〇日、名称を「熱ローラ装置」とする発明について特許出願をしたところ、昭和四三年七月四日拒絶査定を受け、実用新案法第8条第1項の規定により、昭和四三年九月二四日、右特許出願を実用新案登録出願に変更し(以下、「本願考案」という。)、昭和四四年二月二〇日出願公告(実公昭四四-四六五七号)された。右出願公告に対し、実用新案登録異議の申立があつたので、
原告は、実用新案登録請求の範囲を訂正する昭和四四年一二月一日付手続補正書(以下、「第一の補正」という。)を提出したが、昭和四六年二月一八日、右異議の申立を理由があるとする決定とともに、拒絶査定(この査定における本願考案の要旨は、第一の補正による実用新案登録請求の範囲のとおりとされた。)があり、
右拒絶査定に対し、原告は、昭和四六年五月六日審判請求をしたところ、特許庁昭和四六年審判第三五四六号事件として審理され、その後昭和五〇年七月二二日付拒絶理由通知があつたので、同年九月一七日付手続補正書(以下、「第二の補正」という。)を提出したが、昭和五三年六月七日、第一、第二の補正をいずれも却下する旨の決定ならびに右審判請求は成り立たない旨の審決があり、その審決の謄本は、同年七月一三日、原告に送達された。
二 本願考案の実用新案登録請求の範囲1 第一の補正前のもの 回転軸の回転によつて回転せしめられる発熱用ローラと、このローラの内部に位置して固定されてあり、かつ、このローラの軸心にのびる鉄心と、この鉄心に巻装され交流電源によつて附勢される線輪とからなり、
前記線輪が附勢されたときに誘起する交番磁束に対して前記ローラの円周側壁が一回巻の閉回路として鎖交するようにした熱ローラ装置において、前記ローラの円周側壁の内面にこのローラより高導電性の材料からなる層を施してなる熱ローラ装置。
(別紙図面参照)2 第一の補正後のもの 駆動源によつて回転せしめられる回転軸と、この回転軸の回転によつて回転せしめられるように前記回転軸の先端面が固定されてある閉塞端板を有するローラと、
このローラの内部に位置し、前記ローラの開放端面に空隙を介して固定されてある固定部に対して固定されてあり、かつ、前記ローラの軸心にのびる鉄心と、この鉄心に巻装された交流電源によつて附勢される線輪とからなり、前記線輪が附勢されたときに誘起する交番磁束に対して前記ローラの円周側壁が一回巻の閉回路として鎖交するようにした熱ローラ装置において、前記ローラの円周側壁の内面にこのローラより高導電性の材料からなる層を施してなる熱ローラ装置。
三 本件審決の理由の要点本願考案の要旨は前項の1記載のとおりである。
本願考案の実用新案登録出願(遡及出願日昭和四〇年一月二〇日)前に日本国内及び外国において頒布された刊行物である英国特許第八五八八五五号明細書(以下、「引用例」という。)には、「電導性の高い非磁性材料の薄膜で内面を覆われた強磁性材料の回転可能な円筒と、この円筒内部に位置して固定して設けられた積層鉄心と、この鉄心のまわりに巻かれた多数回巻コイルとからなる熱ローラ装置であつて、コイルを交流電源に接続したときに、電流が円筒の中を一廻りして流れ、
その一部は円筒の磁性材料の中を流れ、他の一部は非磁性被膜の中を流れるようにすることによつて、誘導電流の熱効率を増大し、さらに力率をも改善するローラ装置」が記載されている。
そこで、本願考案と引用例のものとを対比すると、両者は、「発熱用ローラの内部に位置して固定されてあり、かつ、このローラの軸心にのびる鉄心と、この鉄心に巻装され交流電源によつて附勢される線輪とからなり、前記線輪が附勢されたときに誘起する交番磁束に対してローラの円周側壁が一回巻きの閉回路として鎖交するようにした熱ローラ装置において、前記ローラの円周側壁の内面にこのローラより高導電性の材料からなる層を施してなる熱ローラ装置」である点で一致しており、本願考案の熱ローラは、回転軸の回軸により回軸するローラであるのに対して、引用例の熱ローラは、固定軸に対して回転可能に取着けされたものである点で相違する。
しかし、この相違点は、ローラの駆動型式の相違、つまり、積極的な駆動型式か、従動型式かの相違にすぎず、また、この両型式の熱ローラが合成繊維等の熱処理用ローラとして用いられていることは、本願考案の出願前すでに周知である。
そうであれば、引用例に記載されている熱ローラの駆動型式としてローラを回転軸の回転によつて回転せしめるようにすることは、当業者がきわめて容易に想到できたものである。したがつて、本願考案は、引用例に記載されたものに基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項の規定により実用新案登録を受けることができないものである。
四 本件審決の取消事由 審決は、本願考案の要旨の認定を誤つたものである。すなわち、昭和五三年六月七日付「補正の却下の決定」(以下、単に「補正却下決定」という。)は誤りであり、本願考案の要旨は、前記二の項の2記載のもの(第一の補正後のもの)になるべきものである。
補正却下決定の理由の要点は、次のとおりである。
「第一の補正は、実質的には出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲の記載中の「回転軸」を、@「駆動源によつて回転せしめられる回転軸」と、「このローラの内部に位置して固定されてあり、かつ、このローラの軸心にのびる鉄心」を、A「回転軸の先端面が固定されてある閉塞端板を有するローラと、このローラの内部に位置し、前記ローラの開放端面に空隙を介して固定されてある固定部に対して固定されてあり、かつ、前記ローラの軸心にのびる鉄心」とする補正を行うものであり、第二の補正は、明細書第六頁一一行目ないし一三行目の「以上のように……奏する。」を、B「又、本考案では、ローラ2のスラスト方向の振動を抑制することができる。……このような吸引力の低下によつて、ローラ2のスラスト方向の振動が抑制されるようになるのである。以上のように、本考案によれば、単に高導電層をローラ内面に施すことにより、力率の向上、発熱温度の増大化、ひいてはローラのスラスト方向の振動を抑制しうるといつた効果を奏する。」とする補正を行うものであり、上記のうち、A項の補正は、ローラの開放端面が空隙を介して固定部に相対しているという構成を新たに附加するものであるが、その結果としてもたらされる作用効果は、補正事項B項の記載からみて「……それだけ空隙における磁気的な吸引力を抑制することができるようになる。この吸引力は前記のように磁束密度の2乗に比例するものであるから、磁束密度の僅かな低減によつても吸引力は大きく低下する。このような吸引力の低下によつてローラ2のスラスト方向の振動が抑制されるようになるものである。」というものであるところ、本願考案の出願公告された明細書の記載に徴すれば、本願考案の目的は、負荷の力率の低下を改善し、かつ、入力電力に対する発熱温度の増大化を図る点にあることは明らかであり、ローラのスラスト方向の振動を防止するという目的、効果については、全く記載もしくは示唆されておらず、前記A項の補正において、ローラの開放端面が空隙を介して固定部に相対しているという構成を附加する補正は、単に形式的にみれば、実用新案登録請求の範囲減縮になるとしても、B項の補正から明らかなように、出願公告された明細書に記載された目的、効果、すなわち、負荷の力率低下の改善及び入力電力に対する発熱温度の増大化をはかることとは無関係の新たな作用効果を奏するものであるから、実質上、実用新案登録請求の範囲を変更するものであるといわざるをえない。したがつて、第一及び第二の補正は、実用新案法第41条、特許法第159条第2項第64条第2項第126条第2項の規定に違反するので、実用新案法第41条、特許法第159条第1項第54条の規定により却下すべきものである。」 しかしながら、
1 第一の補正は、実用新案登録請求の範囲を次の二点において補正するものである。
(1) ローラの構造に限定を加えた。すなわち、ローラの端面は一方側は閉塞端板により閉塞されており、他方側は開放端面として開放されていて、そのローラの中を通る回転軸の先端面は、右閉塞端板に固定されていること。
(2) 固定部とローラとの位置関係及び固定部と鉄心との位置関係を限定した。
すなわち、固定部はローラの開放端面に空隙を介して固定されてあり、鉄心はそのような位置にある固定部に固定されて、そこからローラの軸心方向にのびていること。
要するに、第一の補正は、補正前の本願考案実施例の構成に、請求の範囲減縮して、引用例との構造上の相違を明確にしたものであつて、その補正事項は、すべて出願当初の明細書及び図面に記載されていたものであり、補正前の請求の範囲に構成上明確な限定要件を附加したものであるから、実用新案登録請求の範囲減縮にあたる。
2 第二の補正は、昭和五〇年七月二二日付拒絶理由通知に対するものである。右拒絶理由は、「ローラの円筒側壁の内面にこのローラより高導電性の材料からなる層を施したために、審判請求補充書中で主張しているようなローラのスラスト方向の振動が著しく抑制できるという効果が明細書に記載されていないので、この点が不明瞭である。」から、実用新案法第5条第3項に規定する要件を満していないというものであつた。
そこで、原告は、明細書第六頁一一行目ないし一三行目(本願考案の実用新案公報第二頁右欄一二行目ないし一四行目)を次のように補正した。
「又本考案では、ローラ2のスラスト方向の振動を抑制することができる。すなわち、ローラ2の開放端面と、固定部とが空隙を介して相対しているとき、この空隙が前記磁路の一部を構成しているところから、この空隙を通る磁束によつて、その空隙で磁気的な吸引力が生じる。前記磁束は交番磁束であるから、前記吸引力は交番的に変化し、
これによつてローラ2はスラスト方向に振動するようになる。しかして、この吸引力は一般に空隙での磁束密度の2乗に比例することが知られており、又この磁束密度は線輪の誘起電圧に比例することも知られている。しかし、上記した表から理解されるように、本考案のように層8を設けた場合には、ローラの発熱温度を同一とするのに、層8を設けない場合に比較して、線輪6の電圧を小さくすることができるようになり、このように電圧を小さくすれば、前記の説明から磁束密度も小さくなり、それだけ空隙における磁気的な吸引力を抑制することができるようになる。
この吸引力は、前記のように磁束密度の2乗に比例するものであるから、磁束密度の僅かな低減によつても吸引力は大きく低下する。このような吸引力の低下によつてローラ2のスラスト方向の振動が抑制されるようになるのである。
以上のように、本考案によれば、単に高導電層をローラ内面に施すことにより、
力率の向上・発熱温度の増大化、ひいては、ローラのスラスト方向の振動を抑制しうるといつた効果を奏する。」右経過から明らかなように、第二の補正は、第一の補正でした構成上の減縮に見合う効果の補充であるにすぎない。
補正却下決定においては、ローラの開放端面が空隙を介して固定部に相対しているという構成と、ローラのスラスト方向の振動を防止するという効果とが相対応するかのようにされているが、スラスト方向の振動を防止できるという効果は、ローラ内面に高導電層を施したことによる効果であつて、ローラの構造に限定を加え、
固定部とローラとの位置関係及び固定部と鉄心との位置関係に限定を加えた第一の補正後の構成において、もし高導電層がなかつたとしたならば帯有する欠陥が、高導電層を施すことにより、除かれることを、右補正後の構成の効果として記載したものである。
右効果は、第一の補正前の構成においては、その構成を有するもののすべてに共通するものではない。右補正前の構成に含まれる実施例、すなわち補正後の構成だけについていえる効果である。したがつて、右効果は、第一の補正前の明細書においてその考案の効果としてあげることのできるものではないが、その実施例については当然に具備されていたものであり、ただ、それが明示されていなかつただけである。
補正却下決定は、第一の補正前の明細書に、考案の目的及び効果として、ローラのスラスト方向の振動を防止することにつき、なんらの記載もないということを理由として、第一の補正を、形式的には実用新案登録請求の範囲減縮になるとしても、実質上はそれを変更するものであるとしているが、前述のとおり、ローラのスラスト方向の振動の防止という効果は、第一の補正前においてはその考案の効果として記載しうべきものではなく、むしろ記載してはならないものであるから、それを明示しないことを批難することはできないはずであり、請求の範囲実施例の構成に減縮した結果、もともと具備していた効果を記載したからといつて、請求の範囲を実質上変更するということにはならない。
補正前の明細書においては、第一の補正に相当する構成が記載されており、第二の補正によつて明示された作用効果も右構成において奏せられる効果として示唆されているものである。
すなわち、線輪6の電圧を小さくすることができれば、磁束密度を小ならしめて磁気吸引力を抑制できるということは、当業者の常識であるから、補正前の明細書における作用効果の具体的数値による説明で、高導電層8を設けた場合の電圧Eが高導電層8を設けない場合の電圧の半分に近いという例をみれば、当業者は、ローラのスラスト方向の振動という欠点は高導電層8の設置により抑制されるであろうことを予測できる。そうであれば、第二の補正に記載された作用効果は、補正前の明細書において、明文の記載はなかつたけれども、示唆されていたということができる。
補正前の明細書において、交番磁束が磁性板9を磁路として通るとあるのは、磁路がフレーム3の磁性板部分を通るということであり、磁性板9のみを通るという趣旨ではない。このことは、一般にフレーム3の部分を磁性体の材料で構成していることからいつても当然のことである。要するに、磁束は磁性板9から軸心に垂直にローラ2の開放端面内側に向うもののほかに、フレーム3を通り軸心に平行に空隙を通つてローラ2に向うものがあり、後者は第二の補正で示したスラスト方向の振動の原因となるものである。
以上のとおり、補正前の明細書及び図面には、ローラのスラスト方向の振動を抑制しうる作用効果は、示唆されているのであつて、請求の範囲減縮にともない、
これを明示する第二の補正をすることは、請求の範囲を実質上変更することにはならない。
被告の陳述
一 請求の原因一ないし三の事実は、いずれも認める。
二 同四の主張は争う。審決に原告主張のような誤りはない。なお、補正却下決定の理由の要点、四の1の主張、同2の主張のうち第二の補正の経緯及びその内容は、いずれも争わない。
実用新案登録請求の範囲に新たな要件を加えることは、請求の範囲減縮に相当するが、その新たに加えた要件により奏する作用効果をさらに明細書に付加した場合、その作用効果が補正前の明細書に全く記載されていないばかりでなく、補正前の考案の目的及び効果の範囲を逸脱した別異のものである場合には、別考案を構成することは明らかである。
本件においては、第一の補正において、「ローラの解放端面に空隙を介して固定されてある固定部に対して固定されてあり」という要件を付加し、第二の補正において、ローラのスラスト方向の振動を抑制するという効果を補充するものであるが、その結果として、力率を改善し入力電力に対する発熱温度の増大化を図るという本願考案の本来の目的及び効果の範囲を逸脱することになり、実質上、考案の要旨を変更するものとなる。
補正前の明細書においては、本願考案は、力率を改善するように構成するとともに、入力電力に対する発熱温度の増大化を図ることを目的とするものであつて、その実施例においても、ローラのスラスト方向の振動を抑制するという目的及び効果を具備するものではない。
補正前の明細書及び図面の記載において、ローラのスラスト方向の振動を抑制するという目的及び効果が示唆されてもいない。すなわち、当業者が補正前の明細書実施例において、ローラのスラスト方向の振動を抑制しうるという効果を認識できるためには、本願考案の熱ローラ装置がスラスト方向の振動を発生する機構のものであることが前提となるが、右明細書においては、その点について全く示唆されていない。のみならず、右明細書には、「線輪6が附勢されることによつて誘起する交番磁束は、鉄心5、磁性板9、ローラ2、ローラ2の頂板10を磁路として通る。」と記載されていて、ローラのスラスト方向の振動の原因となる磁束が固定部(フレーム3)を介してローラに至る磁路を通ることについては記載がなく、ローラのスラスト方向の振動が発生することを示唆しているものではない。したがつて、当業者であれば、補正前の明細書実施例において、ローラのスラスト方向の振動を抑制しうるという効果を認識できるとするのは、その前提を欠くものである。
証拠関係(省略)
理 由一 請求原因一ないし三の事実は、当事者間に争いがない。そこで、原告主張の審決取消事由の存否について判断する。
二 第一の補正の内容は、回転軸、ローラについての構造、固定部とローラの位置関係及び固定部と鉄心との位置関係に限定を加えたものであるから、実用新案登録請求の範囲減縮にあたるということができる。
次に、第二の補正について検討する。成立に争いのない甲第三号証(本願考案の実用新案公報)によれば、補正前の明細書における本願考案の目的は、従来例の熱ローラ装置の構成においては、ローラはローラ軸心に沿つて生ずる磁束に対して働く線輪となるけれども、この線輪は一回巻であるため、磁束発生のための線輪を附勢する交流電源からみれば負荷の力率がどうしても低下することとなり、そのため無効電力が増すことにより発熱温度を高めるには皮相電力の大きい電源を使用しなければならず、したがつて、経済的にみて損失が大きいところ、「力率を改善するように構成するとともに、これにより入力電力に対する発熱温度の増大化を図ること」であり、その作用効果は、「単に高導電層をローラ内面に施すことにより、力率の向上及び発熱温度の増大化を図りうる等の効果を奏する」ことであると認められる。
原告は、第一の補正でした構成上の減縮に見合う効果の補充として、第二の補正をなそうとするものであるが、その内容は、
「又本考案では、ローラ2のスラスト方向の振動を抑制することができる。すなわち、ローラ2の開放端面と固定部とが空隙を介して相対しているとき、この空隙が前記磁路の一部を構成しているところから、この空隙を通る磁束によつて、その空隙で磁気的な吸引力が生じる。前記磁束は交番磁束であるから、前記吸引力は交番的に変化し、これによつて、ローラ2はスラスト方向に振動するようになる。しかして、この吸引力は一般に空隙での磁束密度の2乗に比例することが知られており、又この磁束密度は線輪の誘起電圧に比例することも知られている。しかし、上記した表から理解されるように、本考案のように層8を設けた場合には、ローラの発熱温度を同一とするのに、層8を設けない場合に比較して、線輪6の電圧を小さくすることができるようになり、このように電圧を小さくすれば、前記の説明から磁束密度も小さくなり、それだけ空隙における磁気的な吸引力を抑制することができるようになる。この吸引力は前記のように磁束密度の2乗に比例するものであるから、磁束密度の僅かな低減によつても吸引力は大きく低下する。このような吸引力の低下によつてローラ2のスラスト方向の振動が抑制されるようになるのである。
以上のように、本考案によれば、単に高導電層をローラ内面に施すことにより、
力率の向上、発熱温度の増大化、ひいては、ローラのスラスト方向の振動を抑制しうるといつた効果を奏する。」というものである。
前述の補正前の明細書における本願考案の目的及び効果と対比して考察するときは、第二の補正の内容は、ローラのスラスト方向の振動の抑制という新たな別の課題を掲げ、これを解決するものとして、ローラのスラスト方向の振動を抑制しうるという効果を奏するとの新たな別の効果を記載したものというべきである。
もともと、考案は、一定の技術的思想の創作であるが、技術は、これを構成するいくつかの技術的要素が一体不可分に結合したものであつて、これにより、一定の目的をより適切効果的に達成しようとする手段に係り、この目的、効果は、当該技術と密接不可分に結びついているものである。ひいてまた、技術の目途する目的、
効果が異なるときは、技術としても異なるにいたるものというべきである。したがつて、ある考案について、その技術的構成要件に、さらにある構成要件を附加することにより、表面上、その考案が限定され、あたかも実用新案登録請求の範囲減縮されるような場合でも、一方でその考案に新たな別の目的、効果を附加することは、実質上考案を異ならせることになるから、補正により、このような差異を生ぜしめることは、実用新案登録請求の範囲を実質上変更するものとして許されないと解するのが相当である。
そうであれば、第一及び第二の補正は、実用新案登録請求の範囲減縮するものであるとしても、実質上、右請求の範囲を変更するものである。
原告は、第二の補正は、補正前の明細書実施例において、もともと具備していた作用及び効果を明示したにすぎないものであると主張する。しかし、補正前の明細書(前掲甲第三号証)を検討しても、そこには、ローラのスラスト方向の振動の発生及びその抑制については、全く触れられていないのであつて、同明細書実施例についてローラのスラスト方向の振動を抑制しうる効果があるとされていたものとみることはできない。原告の右主張は採用することはできない。
原告は、第二の補正の内容は、補正前の明細書及び図面の記載中に示唆されていたものであるとも主張する。ところで、右にいう示唆の有無は、ローラのスラスト方向の振動の「発生」に関してではなく、その「抑制」に関して検討されるべきものである。補正前の明細書(前掲甲第三号証)に掲げられた電圧、電流、電力、力率及びローラ温度に関する二つの特性表によれば、層8(厚さ一・五ミリメートルの銅メタリコンを施したもの)の存在する装置は、層8の存在しない装置に比べて、約一〇分の六の低い電圧のもとで比較的に皮相電力の小さい電源によつて、ほぼ同等のローラ温度が得られることが示されている。
実用新案法第5条第2項、第三項においては、願書には、所定の事項とともに、
考案の詳細な説明を記載した明細書及び図面を添附すべく、その考案の詳細な説明には、その考案の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、その考案の目的、構成及び効果を記載しなければならないと規定し、さらに、実用新案法施行規則第2条、同様式第三の備考13によれば、「考案の目的」には、「当該考案が解決しようとする問題点……を、従来の技術との関連において記載する。」、「考案の効果」には、「当該考案によつて生じた特有の効果をなるべく具体的に記載する。」ことが求められていることが明らかである。このことは、所定の他の事項とともに、考案の目的、効果の記載が、当該考案の内容の特定及び開示のために不可欠であることを示すとともに、その記載の基準を明らかにしているものと解される。
ところで、前認定の第二の補正に係る事項とその補正前の明細書の記載とを対比して考えると、後者には、ローラのスラスト方向の振動抑制の目的、効果については、従来の技術との関連において説明されるところがないのはもちろん、上述のとおり、振動ないし振動の抑制について全く触れられておらず、考案者又は出願人がその課題ないし目的及び効果について想到していたことをうかがうこともできない。ひいてまた、右振動の抑制について、本願考案によつて生じた特有の効果として、これに少しも触れるところがなかつたのもまた、当然の帰すうであるとするのほかはない。本願考案補正前の明細書(前掲甲第三号証)に記載された前記二つの特性表の対比上、交流電源の電圧についての差が知られるとの一事をもつて、ローラの振動抑制についての解決課題ないし目的及び効果の記載がされているものと解することは到底できない。また、この目的、効果を推知することが当業者にとつて容易であるとするに足りる証拠もない。
原告が挙示する一般的事項についての当業者の常識の存在を前提として考えても、第一の補正の後にされた昭和五〇年七月二二日付拒絶理由通知が、明細書にはローラの振動抑制の効果についての記載がなく不明瞭である旨を指摘するにいたつて、原告も、第二の補正により、はじめてこの目的、効果について示そうとしたこと自体からもうかがえるとおり、具体的な指摘ないし説明がない限り、当業者もこの点について考えいたりうるものとは認められないから、にわかに右判断を左右するに足りない。
結局、高導電層を設けることのほかに、実用新案登録請求の範囲において、固定部のローラの開放端面との間の空隙を、限定的に規定し、これについて、新たな別の目的、効果を附加しようとするに帰する原告の右主張は、採用することができない。
右のとおりである以上、補正却下決定に誤りはない。したがつて、本件審決における本願考案の要旨の認定に誤りはなく、これを前提とする審決に誤りはない。
なお、本願考案について実用新案登録がされた場合の実用新案権の存続期間は、
昭和五四年二月二〇日をもつて満了しているものであるが、本願考案については昭和四四年二月二〇日出願公告がされているものであつて、このような場合は、拒絶査定を維持した審決の取消請求にかかる本訴について、原告はなお訴の利益を有するものと解するのが相当である。
三 よつて、本件審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条及び民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 荒木秀一
裁判官 藤井俊彦
裁判官 杉山伸顕
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