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関連審決 審判1968-317
審判1970-9403
審判1957-106
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審判番号(事件番号) データベース 権利
判例 実用新案
昭和53行ウ29 判例 実用新案
平成19行ケ10300審決取消請求事件 判例 特許
平成17ワ2649特許権侵害差止等請求事件 判例 特許
平成20行ケ10151審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  補正 /  設定登録 /  減縮 /  削除 /  実施例 /  明細書 /  請求の範囲 /  明瞭でない記載 / 
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事件 昭和 55年 (行ケ) 136号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1981/11/05
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟の総費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告 「特許庁が昭和四八年八月二三日、同庁昭和四五年審判第九四〇三号事件についてした審決を取消す。訴訟の総費用は、被告の負担とする。」との判決二 被告(本案前の申立て)「本件訴を却下する。訴訟の総費用は、原告の負担とする。」との判決(本案について) 主文同旨の判決
当事者の主張
一 請求の原因1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「耕耘機に連結するトレラーの駆動装置」とする登録第七三一九七一号実用新案(昭和三六年四月一三日出願、昭和三九年二月一七日登録)の実用新案権者であるが、昭和四五年九月一六日、右実用新案の願書に添付した明細書を別紙訂正目録のとおり訂正することについて審判を請求し、昭和四五年第九四〇三号事件として審理された結果、昭和四八年八月二三日、「本件審判の請求は成り立たない。」旨の審決があり、その謄本は、同年一一月一日原告に送達された。
2 本件考案の要旨(訂正審判請求前のもの) 「本文に記し図面に示すように耕耘機ミツシヨンの一部より動力を取出し架台3の後方に延長伝動すべくなし一方トレラー側はリヤーシヤフトより架台8前方のヒツチ金具12附近に至る伝動装置を設けて、その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―Cに設けた耕耘機に連結するトレラーの駆動装置。」(別紙図面参照。)3 審決の理由の要旨(一) 本件審判請求の要旨は、登録第七一三九七一号実用新案の明細書を別紙訂正目録記載のとおり訂正することを求めるものである。
(二) 判断 訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載してある「双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを結合する結合ピン3軸心線上C―Cに設けた」という考案の構成要件についての実施例は、図面と訂正前の明細書の記載からみて、「耕耘機AとトレラーBの双方の伝動装置に連動する傘歯車を上下両端に有する垂直伝動軸の中間に介在させた分離噛合自在の結合子よりなる動力結合点17を、耕耘機AとトレラBを左右屈折自在に結合する抜き挿し自在の垂直結合ピン13軸心線C―C上に設け、このことによつて、耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線と、耕耗機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線C―Cと、動力結合点17を通る垂直伝動軸の軸心線との三つの軸心線を一致させた」構造を備えているものと認められる。
次に、訂正前の実用新案登録請求の範囲に記載された考案の構成要件と、これについての実施例構造からみて、本件登録実用新案の訂正前の考案の要旨には、次の(a)(b)の二点が限定してなく、(c)(d)の二点が明瞭でないものと認められる。
(a) 結合ピン13が抜き挿し自在であるのか否か。
(b) 動力結合点17が分離噛合自在であるのか否か。
(c) 結合ピン13によつて結合されている耕耘機とトレラーがどの部分において左右に屈折するのか。
(d) 動力結合点17が設けられている動力結合部の具体的な構造
次に、訂正後の実用新案登録請求の範囲に記載されている「その双方の動力を結合する旋回自在の動力噛合結合部をなす上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17を耕耘機とトレラーを左右屈接自在に結合する結合軸心線C―C上に設けた」を訂正前の「双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―Cに設けた」と対比すると、訂正前において、耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線と、耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線C―Cと、動力結合点17を通る垂直伝動軸の軸心線との三つの軸心線を一致させるために必要であつた「動力結合点」「ピン13」及び「動力結合点17を結合ピン軸心線上に設けた」が訂正の結果抹消されたことに徴して、本件登録実用新案の訂正後の考案の要旨には、前記した三つの軸心線が一致しないもの、すなわち「結合ピンよつて耕耘機とトレラーを左右に屈折しないように結合するとともに、上下両端に傘歯車を有し、中間に動力結合点を備えていない垂直伝動軸の軸心線を中心として耕耘機とトレラーが左右に屈折するように構成した耕耘機に連結するトレラーの駆動装置」が実施例として包含されることになることが明らかである。
しかしながら、かかる実施例は、図面と訂正前の明細書にはなにも記載されていないところであるので、別紙訂正目録掲記の(7)及び(8)による実用新案登録請求の範囲の訂正は、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものと認める。
したがつて、本件の訂正は実用新案法第39条第2項の規定に違反しているものである。
4 本案前の主張に対する原告の反論 被告は、本件実用新案の登録を無効とする旨の審決(昭和四三年審判第三一七号)が確定したこと(昭和五五年五月一日の上告棄却の判決によつて同無効審決が確定したことは認める。)によつて本件訂正審判は遡及的にその対象を失つたことになり、したがつて、本件訴訟は訴の利益が存しないことになつた旨主張するが、
実用新案法第39条第4項には「第一項の審判は、実用新案権の消滅後においても、請求することができる。ただし、第37条第1項の審判により無効にされた後は、この限りでない。」と規定されており、その本文からしても訂正の対象を失つたときにも訂正の審判請求をすることができることはいうまでもない。したがつて、訂正の対象を失つたことを理由とする被告の主張は理由がない。問題となるのは右第39条第4項ただし書が無効審判により「無効にされた後は、この限りでない。」とした規定の意味であるが、以下述べるとおり右ただし書は、訂正の対象である実用新案の登録についての無効審決が確定したときは、右確定以後新たな訂正審判請求がなしえないことを規定したものと解すべきであり、本件におけるごとく既に係属中の「訂正審判の請求は成り立たない。」旨の審決に対する取消請求訴訟をも不適法とする趣旨の規定と解することはできない。すなわち、
(一) 訂正審判は、無効審判請求の対抗手段として請求されるものとしても、時間的には無効審判請求のある前であることも、同時であることもあり、あるいは無効審判請求がなされた後であることもある。このようにして訂正審判と無効審判が現に係属している場合には、訂正審判の審決によつて無効審決が覆えることにたるにもかかわらず、必ずしも訂正審判の審決確定後でなければ無効審判につき審理することができないものとはされておらず、あくまでも特許庁や裁判所の裁量にまかされているのである(最判昭四八・六・一五取消集四八年第九頁参照)。そうすると、訂正審判請求事件の係属中に無効審決が先に確定することがありうるが、この場合、適法な訂正審判の請求をしていたにもかかわらず、無効審決が先に確定することによつて訂正審判について裁判を受ける権利が奪われることになる場合も起りうるが、かかる事態の生ずることを前提とする解釈は到底採用することができない。
(二) また、実用新案法弟42条は、確定審決に対する再審の請求を認め、民事訴訟法第420条第1項及び第二項並びに第421条(再審の理由)の規定を準用しており、同法第420条第1項第8号には再審事由の一つとして「判決ノ基礎ト為りタル……行政処分カ後ノ……行政処分ニ依リテ変更セラレタルトキ」との規定をおいている。
そうすると、無効審決の確定後に、係属中の訂正審判において訂正を認める旨の訂正審決がなされ、確定したときには、民事訴訟法第420条第1項第8号の再審事由になるといわなければならない。
ところで、最高裁判所は、当審で実用新案無効審決の取消請求を理由なしとし棄却した判決の上告事件において、その上告中に当該実用新案に対する訂正審決が確定した場合について、右のように上告審係属中に訂正審決が確定したときには、
「原判決の基礎となつた行政処分は後の行政処分により変更されたのであるから、
原判決には民訴法第420条第1項第8号所定の事由が存するといわなければならないが、このような場合には、原判決につき判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の違背があつたものとしてこれを破棄し、更に審理を尽くさせるため事件を原審に差し戻すのが相当である」(昭和五三年(行ツ)第四七号、昭和五四年四月一三日判決)と判決した。
右のように、登録査定は一つの行政処分であり、無効審判は右の行政処分を前提として審理せられるものであるが、当該登録査定によつて実用新案となつた明細書又は図面が訂正審決によつて訂正せられたときは、当該実用新案の願書に添付された明細書又は図面は、右の訂正せられたとおり特許出願、出願公告、出願公開、特許をすべき旨の査定又は審決及び実用新案権の設定の登録がされたもめとみなされるのである(実用新案法第41条が準用する特許法第128条)。換言すれば、訂正審決の確定によつて、無効審判の基礎となつた実用新案権の内容(原判決の基礎となつた行政処分)が、訂正審決の内容どおり変更せられることになるのである(後の行政処分)。したがつて、ここに民事訴訟法第420条第1項第8号の再審事由が発生することになるのである。
右のことは、当該事件が上告審に係属している場合と当該事件が確定している場合に差異があるものではない。けだし、前者の場合は再審事由を上告理由に準用しているのであり、後者の場合にこそ本当に再審事由を適用する場合であるからである。
もし訂正審決が違法と判断され、原審決が取消されたときは、原判決の基礎となつた行政処分が変更され、民事訴訟法第420条第1項第8号所定の事由が発生する可能性があることとなるのである。そして、右要件に該当する事由が発生したときには、無効審決について再審が開始される要件に該当することになるのである。
右のように再審の要件に該当する可能性がある本件審理について、全く再審の可能性を拒否する考え方は、具体的妥当性を重んじ再審制度を採用した法の趣旨に反することになる。
(三) 本件において訂正審判の請求を認めなかつた本件審決の取消を求めることに訴の利益があるとみるべきことは、最高裁判所における事件処理の経過からも明らかである。すなわち、本件訂正を認めないとした審決は昭和四八年八月二三日になされ、一方実用新案登録を無効とする審決は昭和四九年一月三一日になされたものであるところ、東京高等裁判所は、昭和五二年一○月二九日、本件訂正審決取消請求事件については別紙訂正目録(2)ないし(7)の訂正に関する部分の審決を取消す旨の判決をなすとともに、同日無効審決取消請求事件については、原告の請求を棄却する旨の判決をなし、両事件とも上告の結果、最高裁判所第一小法廷に係属した。そして、同第一小法廷は、本件訂正審決取消請求事件については、口頭弁論を開き昭和五五年五月一日、原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す旨の判決をする一方、右同日無効審決取消請求事件については、上告を棄却して実用新案登録を無効とする審決を確定させたのである。このように、最高裁判所が本件を差し戻したのは、無効審決の確定後も本件訂正審決の取消を求めるところの訴の利益が存在するものとみていたからである。けだし、被告が主張するごとく、無効審決の確定によつて訂正審判請求はその対象を失い、その審決取消訴訟は、訴の利益を欠くことになるのであれば、最高裁判所としても本件訂正審決取消請求事件について、原判決を破棄したうえ、差し戻し判決をすることなく原告の請求を退けたはずであるからである。
(四) 右のように、民事訴訟法第420条第1項第8号を解するとき、実用新案法第39条第4項ただし書は、無効審決が確定したのちには、新たに訂正審判の請求ができない趣旨と解すべきであつて、既に訂正審判の請求があつた後に無効審決が確定しても、訂正審判についての訴の利益が無くなるものではないのである(なお、特許庁総務課編「とつきよ」第八九号によると前記最高裁判所の判決を引用して、「そうだとしたら、無効確定後といえども係属する訂正審判を持続する利益は存在し、対象なしとして簡単に却下はできない」((第一二頁右の段))と解釈している)。
5 審決を取消すべき事由審決には、次の点に誤りがあり違法であるから、取消されるべきである。
(一) 本件訂正審判手続において、一部訂正を求める趣旨を明示するための補正の機会が認められなかつた点(1) 本件訴訟において、原判決を破棄し、本件を差し戻した最高裁判所の判決は、抽象的な法律論の部分において、
「……それ故、このような訂正審判の請求に対しては、請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうち一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別、……」と判断し、次いで、本件についての具体的判断において、「そうすると、本件原明細書の記載を原判決別紙目録(1)ないし(8)(本判決添付の訂正目録(1)ないし(8)と同じ)のように訂正することを求めるだけで、これと別に同目録(2)ないし(7)のように訂正することを求めていないことが記録上明らかな被上告人の本件訂正審判の請求につき、……」と説明しているのである。
右の判決によると「原判決別紙目録(1)ないし(8)のように訂正することを求めるだけで、これと別に同目録(2)ないし(7)のように訂正することを求めていない」と説示し、また、これを前提として、「右複数の訂正箇所のうち一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは」と説明しているのである。換言すれば、請求人は(1)ないし(8)の全部についての訂正を求めるが、
もし、右の訂正が特許庁において認められないならば(2)ないし(7)だけの一部分だけの訂正だけでもよろしいですよとの趣旨を特別に明示したときは、特許庁は右の一部訂正が認められるかどうかについても審理判断しなければならないのである。右のことは前記引用のとおり、「……これと別に同目録(2)ないし(7)のように訂正することを求めていない」と認定判断していることによつて明らかである。本件最高裁判所の判決によつて明らかなように実用新案法第39条の訂正審判は、請求人の特別の申立があれば、一部の訂正審判を認めているのである。
ちなみに、右最高裁判所の判決批評(民商法雑誌第八三巻五号第一二二頁ないし第一二五頁)において【A】氏は、次のごとく指摘している。すなわち、「本件判決は結局、訂正審判手続において複数の訂正箇所の中に不適法な訂正箇所があると判断した場合の特許庁は次の如く措置すべき旨を示唆しているものであるといえる。
即ち、そのような場合特許庁は、出願審査手続におけると同じく、請求人にその旨を通知して意見書提出の機会を与え(法41条、特許法164条)ると同時に、
請求人が訂正明細書につき前記許容範囲内に再訂正することを含めた意味の請求書補正を認め、審理を進めた結果なお訂正箇所の一部に不適法なものが存する場合には、原則として全部棄却の審決をすべきものである。但し、その訂正が誤記の訂正のような形式的なものである場合には、例外的に一部認容の審決をすべき場合がある。而して、右請求書補正の中には複数の訂正箇所のうちの一部の箇所について訂正を求める趣旨を特に明示する場合を含む。」とし、さらに、「本件審判手続中に請求書補正がおそらくなされなかつたであろうこと前記のとおりであるが、特許実務(二)が前記のとおりであつた以上、請求書補正が無視された場合の手続違背に準じて審決の取消し判決がなされ得ないものであろうか。」といつている。
右のことからみても、原告のこの点の主張は決して、原告独自のものではなく、
本件最高裁判所の判決によつて、自然に読みとることができる判断を前提として、
当然に導き出されてきた主張である。
(2) ところで、特許庁は訂正審判について、「訂正を認容し得る部分と認容し得ない部分とを共に訂正要旨に含む訂正の審判において、請求人からの要旨を減縮して訂正を認容し得る部分にのみ限定する意思を有しない場合において、その部分のみに訂正を許可し、その他の部分の訂正を許可しないとするに足る解明がなされていないので、これを不可とする当庁審判の審決慣行……」(昭和三二年審判第一〇六号)と判断し、その実務においても、確定的にその一部訂正を認めていなかつたのである(【B】特許法概説(第5版)第四四一頁七行目、判例時報第九六七号第四九頁第一段。)判例タイムズ第四一七号第八五頁第四段)。
前述のとおり実用新案法39条の訂正審判には、一部の訂正審判の請求が認められるとするのが法たる規範であるにかかわらず、特許庁は実用新案法第39条の1訂正審判には一部の訂正審判は認めないとし、すべての訂正審判においても、一部の訂正審判を認めていなかつた。したがつて、本件においても、請求人(原告)が本件訂正審判の請求について、もし、請求人の全部の訂正審判が認められないのであれば、別紙訂正目録(2)ないし(7)についてのみ訂正審判を求めるとの特別の申立てをしたときは本件訂正審判請求は不受理処分を受けることが明らかである。
そのため、原告としても、かかる請求をすることができなかつたのである。しかしながら、元来実用新案法39条は前記のとおり一部請求を認めているのであるから原告には一部請求をする権利があつたのである。
はたして、そうであるならば、原告は、本件について訂正審判において一部請求を明示するために本件を審判の段階に戻して貰う法律上の利益があるのである。換言すれば、審決は、実用新案法第39条の解釈適用を誤り、ひいて、原告の一部訂正請求権を侵害したのであるから、右の審判手続における誤りは、審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。
よつて、審決は違法として取消されるべきである。
(二) 訂正目録(7)及び(8)に関する訂正審判請求の趣旨を誤つて理解し、
この誤つた前提に立つて右の点の訂正を実質上「登録請求の範囲」を変更するものと判断した点(1) 明細書の「実用新案登録請求の範囲」における「動力結合点17」を「動力を結合する旋回自在の動力噛合結合部をなす上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」と訂正すること(別紙目録(7))は、次に述べるとおり「登録請求の範囲」の減縮に該当し、「登録請求の範囲」を変更するものではない。
(i) 「登録請求の範囲」の記載からみて「動力結合点17」とは、「その双方の動力結合点17」のことであるが、この点に関する「考案の詳細な説明」における記載をみると、双方の伝動装置の末端は、ミツシヨン側のものが「プーリー14」に至り、リアーシヤフト側のものが「ヒツチ金具12附近」に至り、その両者を結合しているのが「旋回自在の動力噛合結合部」である。そして、願書添付の図面(別紙図面参照)第2図をみると、その「旋回自在の動力噛合結合部」は縦軸の上方と下方に位置する各二枚の傘歯車からなる相対構造以外にありえないから、原明細書中、登録請求範囲記載の「その双方の動力結合点17を一…C―Cに設けた」とは、上方の二枚の傘歯車の交点と下方の二枚の傘歯車の交点とをC―Cに設けたと解するほかなく、そのような動力結合点は右図面上明らかに上下に傘歯車を有する垂直伝動軸の両端である。したがつて、「動力結合点17」を、双方の「動力を結合する………上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」と訂正しても、これには表現上の差異があるのみであつて、その意味は同一である。
また、右図面における符号「17」(動力結合点)の引出線は、一見「結合子」を指しているかに見えるが、「結合子」自体は、「旋回自在の動力噛合結合部の機能を有しない(旋回自在の動力噛合は、傘歯車の作用による。)から、「結合子」を「動力結合点17」とみるのは妥当でないのみならず、明細書における作用効果に関する「結合ピンの軸心C―C線上に結合点17が設けられているから、旋同時に於ても支障なくリヤーシヤフトへ動力を伝動する事が出来る。」(甲第二号証第一頁右欄一三行-一六行目)との記載とも合致しない。
したがつて、結局符合「17」の引出線は、「結合子」を指すごとく見えるも、
元来、明細書の記載においては、「双方の伝動装置を結合する垂直結合線」を指すものであるところ、訂正後の登録請求の範囲の記載においては「上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」とすることによつて、「登録請求の範囲」を減縮したものであり、「登録請求の範囲」を変更したものではない。
(2) 次に明細書の「実用新案登録請求の範囲」における「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―C」を「耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C―C上」と訂正すること(別紙目録(8))は、明細書中のその余の記載および図面の記載に基づき明瞭でない記載についてなされた釈明もしくは「登録請求の範囲減縮」に該当し、もとより「登録請求の範囲」を変更するものではない。すなわち、原記載に「左右屈折自在に結合する」と加えたのは、明細書中「旋回の場合は結合ピン13を支点として耕耘機とトレラーは左右屈折する事が出来る」(甲第二号証第一頁右欄一〇行-一二行目)との記載に基づくものであり、もとの「登録請求の範囲」の記載から「ピン13の文字」を削除して、その前後を「左右屈折自在に結合する結合軸」と続けるように訂正したのは、これによつてその構成に変更が生じないからである。
元来、機体Aと機体Bを結合軸で回動的に結合する形態としては、社会通念上機体Aと機体Bに設けた穴に丸い結合軸を貫通することによつてなされているのであり、この社会通念上の理解を前提として本件訂正をみると本件訂正目録(1)及び(8)の訂正は、「結合ピン13」の構造と機能に限定を加えるものであり、審決のいうように「結合ピン」なる限定を解消したものではない。
したがつて、もともと「結合ピン13軸心線」は、そこに「その双方の動力」を結合する垂直伝動軸を重合させることに意味があるため、その垂直伝動軸を「(耕耘機とトレラーを左右屈折自在に)結合する結合軸心線C―C上」に設けても「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―C」に設けるのと変りがないからである。
なお、別紙訂正目録(1)及び(2)ないし(6)の訂正は、それぞれ「登録請求の範囲」の記載を同目録(8)及び7のとおり訂正することに伴う「考案の詳細な説明」の記載に関するものである((2)〜(5)は、語句を整理したもの、
(6)は訂正後の構成に基づく作用効果を追加したもの)。
(3) 審決の認定判断の誤り(一) 審決は「動力結合点17」を「結合子」よりなるものと認定しているが、
結合子には前掲「結合ピンの軸心C―C線上に結合点17が設けられているから、
旋回時においても支障なくリヤーシヤフトヘ動力を伝動することができる。」との明細書記載の作用効果がないから、右の認定は誤りである。
(二) 審決は、本件考案は、訂正前において、耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線と、耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線C―Cと、動力結合点17を通る垂直伝動軸の軸心線との三つの軸心線を一致させた構成であると認定しているが、「登録請求の範囲」にはそのような記載は見当らない。その考案の要旨においては、「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―C」に「その双方の動力結合点17」を設けるとされているから、この二つの軸心線のほかに一致することを必須の要件とする軸心線はない。すなわち、審決がそれ以外に一致させられるものとして示した「耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線」は、右にいう「……結合ピン13軸心線」と同一であつて、耕耘機とトレラーとの結合の軸心が結果として両者を左右屈折回動させる軸心となつているにすぎない。したがつて、審決の右の認定は誤りである。
なお、審決は「結合ピン13軸心線C―C」と表現しているが、「登録請求の範囲」には「結合ピン13軸心線上C―C」と記載されているから、C―Cは、結合ピン13の軸心線そのものではなく、その軸心線上に重台される重直伝動軸の軸心線を指すものである。
(三) 審決は、本件考案の訂正後における構成によると、その訂正前、前掲の三軸心線を一致させるために必要とされた「動力結合点」、「ピン13」及び「動力結合点17を結合ピン13軸心線上に設けた」構成が抹消された結果、考案の要旨には、実施例として右三軸心線が一致しない構成の、したがつて、図面及び原明細書に記載されていない装置まで包含されることになるとして、別紙訂正目録(7)及び(8)記載の訂正は実質上「登録請求の範囲」を変更するものであると判断している。
しかしながら、明細書の訂正が実質上登録請求の範囲の変更に当るか否かはその請求範囲自体について判別すべきものであるから、審決の判断のように、訂正後における考案の要旨に図面及び原明細書に記載されていない実施例が包含されるというだけでは、全く意味がないのみならず、次に述べるとおり、審決がその実施例として想定する耕耘機に連結するトレラーの駆動装置の構成(結合ピンによつて耕耘機とトレラーを左右に屈折しないように結合するとともに、上下両端に傘歯車を有し、中間に動力結合点を備えていない垂直伝動軸の軸心線を中心として耕耘機とトレラーが左右に屈折するように構成した耕耘機に連結するトレラーの駆動装置)も、訂正によつてはじめて考案の要旨に包含されることになつたと解するのも誤りである。すなわち、
(i) 右装置の「結合ピンによつて耕耘機とトレラーを屈折しないように結合する」との構成は、訂正の前後とも登録請求の範囲に包含されていないから、考案の対象外というべきである。
(A) 同じく「上下両端に傘歯車を有する」との構成は訂正の前後とも登録請求の範囲に包含され、図面にも記載されている。
(B) 同じく垂直伝動軸の「中間に動力結合点を備えていない」との構成は、訂正の前後とも「登録請求の範囲」に包含されていないから、考案の対象外というべきである。
(C) 同じく「垂直伝動軸の軸心線を中心として耕耘機とトレラーが左右に屈折する」との構成中「耕耘機とトレラーが左右に屈折する」のは、訂正前においては「結台する結台ピン」を支点とし、訂正後においては「結合する結合軸」を支点とするものであつて、結局、いずれにしても「垂直伝動軸」を支点とするものであるから、この「垂直伝動軸」は訂正の前後ともに耕耘機とトレラーを結合する軸に相当し、当然、登録請求の範囲に包含されている。
二 被告及び被告補助参加人の答弁並びに主張1 請求の原因1ないし3の事実は認める。
2 同4の主張及び同5の取消事由についての主張は、いずれも争う。
審決の認定及び判断はすべて正当であり、何ら違法の点はない。
(本案前の申立ての理由)(一) 原告が、本件訂正審判請求事件(昭和四五年審判第九四〇三号事件)において訂正を求めていた登録第七一三九七号実用新案は、「右登録を無効とする」旨の審決(乙第一号証)の取消しを求める審決取消請求事件(最高裁判所昭和五三年(行ツ)第八号事件)について昭和五五年五月一日、上告棄却の判決(乙第三号証)がなされたことにより、その登録の無効が確定した。これによつて、本件登録実用新案は、はじめから存在しなかつたものとみなされる(実用新案法第41条で準用する特許法第125条)ため、本件訂正審判は、遡及的にその対象を失つたものである。
したがつて、現段階においては、本件訴訟において本件訂正審判請求に係る審決の取消を求める利益が存在しないことになる。
(二)(1) 原告は、実用新案法第39条第4項本文によれば、その対象を失つたときにも訂正審判の請求ができることはいうまでもないと主張するが、右の規定は、訂正審判が実用新案権について無効審判をもつて攻撃される場合の一つの防衛手段となるという側面を有することにかんがみ、無効審判が権利消滅後においても請求し得ることとしたこと(同法第37条第2項)との調和を図つたものとされている。この趣旨に照らせば、この規定が対象としているのは、存続期間満了による権利消滅の場合などあくまでも過去において実用新案権が存在していたことになる場合であり、本件のように実用新案権が遡つて初めから存在しなかつたとみなされる(同法第41条で準用する特許法第125条)無効審決確定後の場合は含まないと解すべきである。そして、右第39条第4項のただし書は、このことを念のため明確にしたものと解される。
したがつて、右第39条第4項の規定は、遡及的にその対象を失つた場台にまで訂正審判が請求できるとしたものではないから、原告の主張は理由がない。
(2) 原告は、実用新案法第39条第4項ただし書の規定は、無効審判確定後には、新たに訂正審判の請求ができないという趣旨に解すべきであり、無効審判確定前に既にその請求がなされている訂正審判の場合には適用されない旨主張する。
しかしながら、無効審決確定前に訂正審判の請求がなされている場合であつても、無効審決の確定によつて、係属中の訂正審判は、訂正の対象となる権利自体が初めから存在しなかつたことになるから(同法第41条で準用する特許法第125条)、無効審決確定後に訂正審判を請求する場台と法律的には全く同様の状態になるものといわざるを得ない。
したがつて、無効審決確定前に訂正審判の請求がなされている場合にも当然第39条第4項ただし書の規定が適用されるといわなければならない。
そもそも右のような審判手続に係る規定は、請求人のみならず審判官をも拘束するものであることはいうまでもなく、この意味から審判権の制限を内容とするものとみることができる。このようにみると、右規定が無効審決確定後は訂正審判そのものをすることができないことを規定していることは明らかである。
このような用語例は、特許法には随所にみられ、例えば特許法第124条第167条等で「請求できない」と請求人側からの表現をもつて規定している場合であつても、審理や審判について制限していると解されるのと同様である(【C】ほか・出願・審査・審判・訴訟(特許法セミナー(2))第六九九頁参照)。
この点につき、原告は、実用新案法第39条第4項ただし書について被告のような解釈を採るならば、無効審判と訂正審判の審理が併行する場合においていずれの審理を先行させるべきかについての規定、制約がないので、無効審決が先に確定したときには元来適法だつた訂正審判の請求について審判を受ける権利が奪われることになるし、また、無効審決確定後に訂正を認める審決がなされれば、無効審決について再審事由を生じることになるはずのところ、再審事由を生じさせる道を閉ざすことになる結果、再審制度の存在意義自体を疑わしくすることになる旨主張する。
しかしながら、そもそも実用新案法第39条第4項ただし書の規定を設けた趣旨は、むしろ、実用新案権が無効とされた後において訂正審判を認めるとすると、訂正審判がたされたことが、同法第41条で準用する特許法第128条との関連において、確定した無効審決についての再審事由になつてくることにもなり、その結果いたずらに制度を複雑化することになりかねないことを考慮して、訂正審判の防衛的機能は実用新案権の無効が確定する前に限つて認めるようにしたところにあるとされているのである(特許庁編・工業所有権法逐条解説第二六六頁参照)。
ちなみに、仮に、原告主張のように、請求が以前になされていれば無効審決確定後においても訂正審判をすることができるとすると、例えば、訂正審判について請求どおりの審決があると、既に確定している無効審決について再審の問題が生じるばかりでなく、その後に更に訂正無効の審決がなされた場合を想定すると、実用新案権は再び無効原因を有するもとの内容にもどることになるため、無効審決の再審によつて遡及的に有効に成立したことになつていた実用新案権について再び再審の問題が生じるようなことも考えられ、いたずらに法律関係を複雑化する事態を招来することになるのである。
(3) 原告は、最高裁昭和五四年四月一三日第二小法廷判決(「特許と企業」第一二六号第一五頁)を引用し、右判決の論旨に従えば、無効審決が確定した後の本件事案についても、訂正審判の審理をすることにより無効審決の再審事由が生じる可能性があるのであるから、かかる可能性を全く否定する被告のような考え方は、
具体的妥当性を重んじ再審制度を採用した法の趣旨に反する旨主張する。
しかしながら、右最高裁判決に係る事案は、実用新案権を無効とする審決に係る訴訟が未確定な状態で上告審に係属中に、明細書の訂正を認める審決が確定したという事案であり、右判決は、明細書の訂正を認める審決が確定したことにより、原判決の基礎となつた行政処分は後の行政処分により変更されたため、原判決に民訴法第420条第1項第8号所定の再審事由が存することとなつたことが、上告理由たる、判決に影響を及ぼすことの明らかな法令違背に当たるものとして、原判決を破棄し、更に審理を尽させるため事件を原審に差し戻したものであつて、既に先に無効審決が確定している本件事案には直接参考とならない。
(4) 原告は、最高裁が本件の差し戻し判決と無効審決を確定させる判決を同日付けでなしたことを根拠に最高裁も原告の主張するような法理を是認しているとみられる旨主張する。
しかしながら、最高裁が、もし原告主張のように無効審決について本件訂正審判の結果いかんにより原告に救済の道を与えようとしたのであれば、本件において最高裁が行なつたように無効審決を先に確定させ、訂正審判の結果いかんにより無効審決の再審による救済を考えるというよりは、無効審決に係る訴訟の審理を事実上中断し、訂正審判に係る訴訟の結果を待つことにするのが自然な事案処理の仕方であるといわなければならず、このような処理をしなかつたということは、最高裁は、特に原告が推測するような無効審決についての原告の救済を意識していなかつたとみるのが相当である。
(取消事由(一)について) この点における原告の主張は、要するに、原告は本件訂正審判(昭和四五年審判第九四〇三号事件)において一部訂正請求権を有していたのであるが、審決はこれを侵害して審決を下したから、その取消を求めるというものである。そして、その前提として、本件の最高裁昭和五五年五月一日第一小法廷判決は、訂正審判の請求人が複数箇所にわたる訂正審判の請求をした場合に、全部の箇所の訂正が認められないならば、一部の箇所の訂正でも差し支えない旨を明示したときには、審判官(合議体を指す。以下同じ)は右の一部訂正の可否についても審理判断しなければならないと判示した旨主張する。すなわち、原告は、右最高裁の判決は訂正審判の請求において予備的請求を認めたものと解しているのであるが、原告の右の主張は、右最高裁判決を正解したいものであつて失当である。すなわち、右最高裁判決が、いみじくも判示するように、「実用新案登録を受けることができる考案は、一個のまとまつた技術思想であつて実用新案法39条の規定に基づき実用新案権者が請求人となつてする訂正審判の請求は、実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面(以下「原明細書等」という。)の記載を訂正審判請求書添付の訂正した明細書又は図面(以下「訂正明細書等」という。)の記載のとおりに訂正することについての審判を求めるものにほかならない」(同判決第四丁表五行ないし一〇行)から、訂正審判の請求は、既に登録された一個のまとまつた技術思想である考案を、訂正明細書等に示された別の一個の考案に置き換えることを求めるものであつて、実質的には一種の新規出願といえるものである。したがつて、訂正審判の請求において、複数の訂正明細書等を提示して択一的にその訂正を求めることはもちろんのこと、主位的に一の訂正明細書等のとおりの訂正を求めながら、子備的に他の訂正明細書等のとおりにも訂正を求めることも、たとえその予備的請求が主位的請求の一部であつたとしても一個のまとまつた技術思想であるべき考案について複数の技術思想を主張することになり許されないのである。
右のような訂正審判の性格に照らせば右最高裁判決が「請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したときは格別」(同判決第四丁裏六行ないし七行)と述べた趣旨は、補正可能な範囲内において、訂正明細書等を再度訂正した明細書等に交換し、当初の請求の一部の箇所についてだけの訂正を求める請求に変更した場合のみを想定していると解するのが正しく、予備的請求をも認めたものとは到底解することはできないのであり、これと異なり同判決が予備的請求を肯認したと解する原告の主張は、この判決を曲解するものであつて失当であるといわなければならない。
仮に、原告が予備的請求ができるという見解をとるのであれば、特許庁の事務取扱が原告と異なる見解に基づいてなされていたとしても、自己の解釈に基づいて予備的請求をなせばよかつたのであり、これに対して不受理処分を受ければその処分の取消を求めて争うべきであつたのであるから、予備的訂正審判請求の機会が別に奪われたわけではなく、このことをもつて審決を取消すべき事由とすることはできない。
なお、原告の援用する論文が、予備的訂正審判請求までも肯認しているものとは解されないが、仮に肯認しているのであれば、前述したように前記最高裁判決の内容を正しく理解していないものである。
しかも、仮に、原告の主張に沿つて、審決が取消されたとしても、原告が一部請求の趣旨を明示するためには、請求の趣旨との関係で、審判請求書に添付した訂正明細書等を再度訂正しなければたらない(一部請求の趣旨を直接に請求の趣旨中に入れて補正することは請求の要旨の変更に該当し、実用新案法第41条で準用する特許法第131条第2項の規定により許されない。)が、既に請求公告をすべき旨の決定の謄本が送達されている本件審判においては、原告は、訂正明細書等を訂正することができず(実用新案法第55条第2項、特許法第17条第1項)、一方、
訂正審判における審理の対象は請求人が請求書に添付した訂正明細書等のみによつて定まるものであることからすると、審判官はただこの訂正明細書等の全体について原明細書等を訂正明細書等のとおり訂正することの適否を審理判断し得るにすぎないのであるから、審判官自ら訂正明細書等を訂正することができないことはいうまでもない。このような事態は実用新案法の全く予想していないところである。したがつて、本件においては、既に原告のいう一部請求を明示する方法はないというべきである。
(取消事由(二)について)(一) 原告は、本件考案において「動力結合点17」は傘歯車を上下両端に有する垂直伝動軸の軸心をいうと主張する。しかしながら、その明細書中の登録請求の範囲には「双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―Cに設けた」と記載されているのみであるから、その動力結合点17は、
双方の動力を結合すれば足りるとともに、構成上、位置について「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―C」に設けるとの限定があるほか何ら限定がない。本件訂正審判請求の趣旨中の「傘歯車を上下両端に有する垂直伝動軸」(別紙訂正目録(7)参照)は、結合ピン13軸心線上に動力結合点を設けるという構成を備えていない。なるほど、その軸心は平面図についてみた場合垂直伝動軸の中心ではあるけれども、これを動力結合点であるとする記載は本件明細書及び図面にないから、原告の右主張は失当である。
(二) 原告は、本件考案が審決のいう三軸心線を一致させる構成であることを争うが、
(a)「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線」と「耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線」とが同一であり、(b)C―Cが結合ピン13の軸心線上に重合される垂直伝動軸の軸心線であり、また、(c)「その双方の動力結合点17」が上下に傘歯車を有する垂直伝動軸に設けられていることは原告の自認するところであり、これらの事実によれば、動力結合点17が設けられている垂直伝動軸の軸心線はC―C線であるとともに((C))、そのC―C線は結合ピン13の軸心線上に重合され((b))、また、結合ピン13の軸心線は耕耘機とトレラーが左右屈折するときの中心となる軸心線である((a))が、そのことによつて、これら三つの軸心線は一致することが明らかである。そして、本件考案における根本的技術思想は右三軸心線の一致である。
もし、登録請求の範囲における「その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―Cに設けた」との記載についてなされた別紙訂正目録(8)の訂正が原告の主張するように明細書及び図面の記載に基づく釈明であるならば、本件考案の訂正後における構成は「結合ピン13」を削除することなく、「その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合ピン13軸心線上C―Cに設けた」となるべきところ、実際には「結合ピン13」を抹消して「その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C―C上に設けた」とし、そのため、本件考案における「動力結合点17を結合ピン13軸心線上に設ける」という必須の構成要件まで抹消されてしまうことが明らかであつて、その考案の要旨は、前掲の三つの軸心線の一致という本件考案の根本的技術思想を缺くことになるから、右訂正は実質上「登録請求の範囲」を変更するものである。
この点に関し、原告は、機体Aと機体Bを結合軸で回動的に結合する形態としては、社会通念上、機体Aと機体Bに設けた穴を丸い結合軸で貫通することによつて実現されるものと理解されるから、本件訂正目録(1)及び(8)の訂正は、「結合ピン13」の構造と機能に限定を加えたもので「登録請求の範囲減縮」に該当し、「結合ピン13」の限定を解消したものではない旨主張するが、機体Aと機体Bとを結合する場合に、たとえ、それが屈折自在な結合であつても、必ずしも機体Aと機体Bとに設けた穴を結合軸が貫通するという態様を採るものではない(例えば、機体Aに設けた凸部を機体Bに設けた凹部にかん合させて結合すること、あるいは、機体A、Bの双方の結合部分に凹みを設けて、これら双方の凹みによつて形成される空間内に球体をそう入して両者を結合することなどが考えられる。)ことは、機械に関する常識上明らかである。
したがつて、本件補正後の考案においても当然に結合軸、換言すれば、結合ピンが存在するとの前提に立つ原告の主張は誤りである。
なお、原告は、審決が訂正後の考案の要旨には原明細書に記載のない実施例が包含されるとしてその訂正の適否を検討しているのは意味がないと主張するが、審決は、本件考案における「動力結合点17を結合ピン13軸心線上に設ける」という必須の構成要件が抹消された訂正後におけるその登録請求の範囲の記載には、その解釈上、訂正前における前掲の「三軸心線の一致」という技術思想を缺き、原明細書及び図面に記載のない実施例を含むことになるので、右訂正により登録請求の範囲が実質上変更されるものと判断しているのであって、右判断はもとより正当である。
理 由一 請求の原因1ないし3(特許庁における手続の経緯、本件考案の要旨及び審決の理由の要旨)に関する事実は、当事者間に争いがない。
二 そこで、まず、本案前の抗弁について判断する。
右争いのない事実及び成立に争いのない乙第一ないし第四号証によれば、昭和四三年一月二四日に本件実用新案登録の無効審判が請求され、昭和四九年一月三一日に「本件実用新案の登録を無効とする。」旨の無効審決(以下、「無効審決」という。)がなされ、一方、昭和四五年九月一六日に本件登録実用新案の明細書を別紙訂正目録(1)ないし(8)記載のとおり訂正することを求めた本件訂正審判が請求され、昭和四八年八月二三日に「本件訂正審判請求は成り立たない。」旨の審決(以下、「本件訂正審決」という。)がなされたこと、その後、無効審決及び本件訂正審決についての取消請求事件が東京高等裁判所に係属したが、昭和五二年一〇月一九日に、無効審決取消請求事件については、「原告の請求を棄却する。」旨の判決が、また本件訂正審決取消請求事件については、「別紙訂正目録(2)ないし(7)記載の訂正に関する部分について本件訂正審決を取消す。」旨の判決がなされたこと並びに右両事件とも上告された結果、昭和五五年五月一日、無効審決取消請求事件については、上告棄却の判決があり、これによつて本件実用新案登録を無効とする旨の無効審決が確定し、一方、本件訂正審決取消請求事件については、右同日、「原判決を破棄し、本件を東京高等裁判所に差し戻す。」旨の判決がなされたことが、認められる。
ところで、被告は、右無効審決の確定によつて本件訂正審決は遡及的にその対象を失つた旨主張するが、訂正審判の請求と無効審決との関係を規定する実用新案法第39条第4項ただし書は、無効審決の確定後は新たに訂正審判を請求することができないというにすぎず、無効審決の確定によつてそれ以前に既になされている訂正審判の請求の利益を失わしめる趣旨のものとは解されない。その理由は次のとおりである。
(1) 訂正審判の制度は、実用新案登録請求の範囲減縮することなどによつてすでに設定登録された考案が、本来有効として存続しうる部分も含めて全体として無効とされてしまうことを避けるため、該実用新案権者に対して、実用新案登録出願の願書に添付した明細書又は図面(以下、単に「原明細書等」という。)の記載を訂正審判請求書添付の訂正した明細書又は図面(以下、単に「訂正明細書等」という。)に置き換える機会を与えることにその実質的意義があるものであり、右のごとき訂正審判制度の機能からの当然の帰結として、原明細書等の訂正をすべき旨の審決が確定したときは、遡及的に、訂正明細書等により実用新案登録出願、出願公告、出願公開、登録をすべき旨の査定又は審決及び実用新案権の設定の登録がなされたものとみなされ(実用新案法第41条で準用する特許法第128条)、これによつて、原則的に出願時点における事由を請求の理由とする無効審判請求の攻撃から減縮されもしくは明瞭にされた実用新案登録請求の範囲における考案を防御し、これを存続させようとするものである。
(2) このように、訂正審判は、無効審判に対する防御手段であり、また、訂正審判の審決の結果によつて実用新案登録請求の範囲の記載が遡及的に変わることから、従前の登録請求の範囲を前提とした無効審決が覆えることになるにもかかわらず、訂正審判手続と無効審判手続とは別個独立した手続として審理され、訂正審判と無効審判とが同時に係属する場合においても、実用新案法第48条の12第3項が準用する特許法第184条の15第2項(国際特許出願固有の理由に基づく特許の無効の審判)のごとく訂正審判の審決があるまで無効の審判の審決をしてはならないとするような法律的根拠はない(その後の訂正審決取消請求事件と無効審決取消請求事件の審理順序をも含めて、いずれを先に審理するかは、専ら審判官の合議体や裁判所の裁量にまかされていて((最判昭和四八年六月一五日判決昭和四八年審決取消訴訟判決集第九頁))、訂正審判の審理もしくは訂正審決取消請求事件の審理がなされないうちは、無効審判の審決を確定させないような制度的な保証がない。)から、先に無効審決が確定する場合がありうるが、その場合にも訂正審判の結果訂正を認める旨の訂正審決が確定したときには、その訂正の効果を出願時まで遡及させることが、前記訂正審判制度の趣旨に合致する。
(3) そうすると、訂正を認める審決が確定したときは、確定している特許、実用新案等を無効とした審決取消請求事件についての判決の基礎となつた行政処分は、後の行政処分により変更されたものとして、右判決には民事訴訟法第420条第1項第8号所定の事由が存するというべきであり、かかる法律上の利益は訂正審判の請求人から奪われてはならない(最判昭和五四年四月一三日判決審決取消訴訟判決集昭和五四年第一〇一頁参照)。
以上のとおり、本件の場合、実用新案登録を無効とする旨の審決が確定しても、その確定前に既に本件訂正審判の請求をしていた原告は本件訂正審決の取消を求める法律上の利益を有するものと解するを相当とする。被告の抗弁は、理由がない。
三 次に、審決にこれを取消すべき違法の点があるか否かについて検討する。
1 まず、原告は、本件の差戻しを命じた最高裁判所の判決は、訂正審判請求人が一部の箇所について訂正を求める趣旨を特に明示したときには一部の訂正審判請求がなしうることを判示したものであり、原告は本来一部の訂正審判を請求しうる権利を有し、審判において一部の訂正請求を明示するために、本件を審判の段階に戻して貰う法律上の利益を有するところ、本件訂正審決は、実用新案法第39条の解釈適用を誤り、一部の訂正請求の可否については何ら判断することなく、原告の訂正請求全体につき、その訂正は認められないとしたものであつて、原告の一部訂正請求権を侵害したものであるから違法である旨主張する。
しかしながら、原告が指摘する右最高裁判所の判決でいうとおり、「請求人において訂正審判請求書の補正をしたうえ右複数の訂正箇所のうちの一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示したとき」には、審決において、その一部の箇所の訂正の可否について判断をなしうるものと解せられるが、そうでない限り、右複数の訂正個所を全体として、その訂正が許されるかどうかを判断すべきものであるところ、本件において原告が複数の訂正箇所のうち一部の箇所についての訂正を求める趣旨を特に明示しているものとは認められないから、審決が原告の訂正請求を全体としてその許否について判断した点に何らの違法はない。原告が、審判において、一部の訂正請求を明示するために、本件を審判の段階に戻して貰う法律上の利益を有するかどうかは、本件訂正審決の違法、適法を判断するうえでは何らの関係もないところである。原告の主張は理由がない。
2 次に、原告の求める本件訂正が、実質上「実用新案登録請求の範囲」を変更するものであるか否について判断する。(「動力結合点17」と「結合ピン13」の技術的内容)(一) 成立に争いのない甲第二号証(本件実用新案公報)によると、本件考案の要旨は、「実用新案登録請求の範囲」の記載のとおり、耕耘機Aのミツシヨンの一部より動力を取出し、耕耘機架台3の後方に延長伝動するようにし、一方、トレラーB側は、リヤーシヤフトより架台8前方のヒツチ金具12附近に至る動力伝動装置を設け、その双方の動力結合点17を耕耘機とトレラーとを結合する結合ピン13の軸心線上C―Cに設けた耕耘機に連結するトレラーの駆動装置(添付図面参照。)であることが認められ、さらに、「考案の詳細な説明」の欄には、「耕耘機AとトレラーBを結合する場合は耕耘機側のヒツチボツクス11にトレラー側のヒツチ金具12を挿入し動力結合点17における結合子同志の結合が適当か否かを確かめて後、結合ピン13を挿入すればよい。これによつて走行するとき旋回の場合は、結合ピン13を支点として耕耘機とトレラーは左右屈折することができるが、
耕耘機よりトレラーへの動力伝動装置も、結合ピンの軸心C―C線上に結合点17が設けられているから、旋回時においても支障なくリヤーシヤフトへ動力を伝動することができる。」(本件実用新案公報第一頁右欄六行ないし一六行)旨の作用効果に関する記載のあることが認められ、右各記載からみると、「動力結合点17」と「結合ピン13」とは次のようなものと認められる。
(T) 動力結合点17は、
(@) 耕耘機のミツシヨンの一部から取り出され、その架台3の後方に延長伝動される動力を、トレラー側のリヤーシヤフトより架台8の前方のヒツチ金具12附近に至る伝動装置に伝達する点であるとともに、旋回時においてトレラー側の伝動装置に伝達される動力の方向がその点を中心として左右に旋回し得るものであり、
(A) 結合ピン13の軸心線上、したがつて、屈折時の中心となる軸心線上に位置するものであること。
なお、「動力結合点17」の具体的構成は、右の点のほか「実用新案登録請求の範囲」の記載上何ら限定されていない。
(U) 結合ピン13は、耕耘機とトレラーとを結合する要素であるとともに、その軸心線が耕耘機とトレラーが左右に屈折するときの中心となる軸心線と一致するものであること。
(二) ところで、別紙訂正目録(8)の記載の訂正は、前掲「実用新案登録請求の範囲」における「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13を軸心線上C―C」を「耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C―C上」に訂正するものであり、また、同目録載(1)記載の訂正が右(8)の訂正に附随して考案の詳細な説明中の語句を整理するものであることはその内容から明らかである。
原告は、右(8)の訂正は、明細書及び図面の記載に基づき明瞭でない記載の釈明に該当すると主張するが、右の訂正によつて、実用新案登録請求の範囲における「……結合する結合ピン13軸心線」の記載が「……左右屈折自在に結合する結合軸心線」との記載となる結果、前記本件考案の要旨から「結合ピン13」なる要件が抹消され、そのため、「結合ピン13」の前示(U)の技術的意義も失われることになることは明らかであるから、右の訂正をもつて原告主張のように不明瞭な記載の釈明にすぎないものと解することはできない。
原告は、また、右の訂正は「左右屈折自在に結合する」という限定文言を挿入して「結合ピン13」の構造と機能に限定を加えたもので「実用新案登録請求の範囲減縮」に該当するものである旨主張するが、「結合ピン13」なる要件は抹消されてなくなつていることは前述のとおりであるから「左右屈折自在に結合する」と字句が「結合ピン13」を限定するものといえないことは明らかである。原告は、
さらに、本件考案においては「結合ピン」よりも「結合ピンの軸心線上」が構成の必須要件であるから「結合ピン13」を抹消しても、その構成は変更されないものであるとも主張するが、右訂正後における本件考案の構成上、耕耘機とトレラーとの結合が例外なく「結合ピン」によつて行われることが自明のこととはいえず(この駆動装置の技術分野において、屈折自在な結合形態として結合ピンによる結合しか考えられないものではないから、「結合ピン」を即「結合軸」と理解することはできない。)、したがつて、「左右屈折自在に結合する結合軸心線」が直ちに結合ピンの軸心線であることを意味するものとは認められないから、原告の右主張は到底採用することができない。
そうすると、別紙訂正目録(8)及び(1)の記載の訂正は、原告が主張するように実用新案法第39条第1項各号に該当するとみることはできず、むしろ、本件考案の構成における「結合ピン13」なる限定要件を解消したことによつて、実質上「実用新案登録請求の範囲」を拡張したものというべきである。
3 そして、本件訂正審判において訂正を求める別紙訂正目録(1)ないし(8)の記載は、実用新案登録請求の範囲に実質的影響を及ぼすものであるから、これを一体不可分の訂正事項として訂正審判の請求をしたものと解される以上、別紙訂正目録(2)ないし(7)記載の事項につき判断するまでもなく、本件訂正審判請求に係る訂正は、実用新案法第39条第2項の規定に違反するものである。
右と同旨の審決の判断は正当であり、本件審決には何らこれを取消すべき違法の点はない。
四 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条第96条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
追加
訂正目録(1)明細書中、第二頁第三行ないし第四行にわたる「結合する結合ピンの軸心線上」を「左右屈曲自在に結合する結合軸心線上」に訂正する。
(2)同第二頁第四行ないし第五行にわたる「動力噛合結合部を「動力噛合結合部をなす上下に傘歯車を有する垂直伝動軸」に訂正する。
(3)同第三頁第四行における「その動力結合点17」を「その動力を結合する上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」に訂正する。
(4)同第三頁第九行における「動力結合点17」を「垂直伝動軸17」に訂正する。
(5)同第三頁第一五行における「結合点17」を「垂直伝動軸17」に訂正する。
(6)同第三頁第一六行における「旋回時」を「公知の自在接手のように旋回角度を三〇度以内に制限されることなく九〇度を越えるような場合でも確実に動力伝達が行え、大旋回時」に訂正する。
(7)実用新案登録請求の範囲における「動力結合点17」を「動力を結合する旋回自在の動力噛合結合部をなす上下に傘歯車を有する垂直伝動軸17」に訂正する。
(8)実用新案登録請求の範囲における「耕耘機とトレラーを結合する結合ピン13軸心線上C―C」を「耕耘機とトレラーを左右屈折自在に結合する結合軸心線C―C上」に訂正する。
<12258-001>
裁判官 杉本良吉
裁判官 高林克巳
裁判官 舟橋定之