• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  考案 /  図面 /  構造 /  物品 /  物品の形状 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 昭和 55年 (ネ) 1857号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 1981/12/17
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
全容
控訴代理人は、「原判決を取消す。被控訴人日本ベビー縫製株式会社は原判決別紙イ号図面及び同説明書記載のおしめを製造し、譲渡し、貸し渡してはならない。
同被控訴人は右のおしめを廃棄しなければならない。被控訴人らは各自控訴人に対し金九〇〇万円及びこれに対する昭和五一年一月一日から右各金員の支払済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文同旨の判決を求めた。
当事者双方の主張と証拠の関係は、次のとおり付加・訂正するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
(原判決の訂正) 原判決三枚目裏一行目の「状」の次に「に」を加え、同四枚目裏一二行目の「左記」を「次」と、同五枚目表三行目の「考え」を「す」とそれぞれ改め、同枚目表一三行目の「基」の次に「づ」を加え、同七枚目表四行目と五行目の「そ」をいずれも「紋」と改め、同一三枚目表一二行目の「第三号」の次と、同一三行目の「第九号」の次と、同枚目裏一行目の「第一号」の次にいずれも「証」を加え、同裏三行目の「第二」の次に「号証」を加える。
(控訴代理人の主張)一 原審裁判所は、「凹凸感のある風紋状に編成又は織成した生地2を用いる」との本件考案の構成要件のうち、「風紋」の意味を解釈するにあたり、弁論主義に反して、当事者双方が原審口頭弁論に提出せず、顕出もされなかつた各種の国語辞典を参照しているが、このような場合、当事者はこれらの辞典について全く弁論の機会を与えられず一方的、天下り的に判断を受けた結果になり極めて不当である。
そればかりか、原判決は、各種の国語辞典というだけで、具体的に特定していないので、当事者としては控訴審においても原審が参照した国語辞典について弁論することもできない。
次に、本件考案の構成要件として「生地を繭形に形成する」との要件があるところ、原審裁判所は、右の繭形の意味を解釈するにあたり、弁論主義に反して、当事者双方が原審口頭弁論に提出していない「商品大辞典」、「世界大百科辞典」を引用して右の「繭形」の意味を独断的に解釈している。
しかしながら、実用新案法5条4項、同法26条によつて準用される特許法70条によれば、実用新案の技術的範囲は、明細書考案の詳細な説明に記載されたところに基づいて定められなければならないのに、右記載とは離れて、口頭弁論に全く顕出されなかつた証拠に基づいて右技術的範囲を決する構成要件を解釈し認定することは、右法令に違反するものである。
果たしてそうであるならば、控訴審裁判所は、当事者に弁論の機会を与えるため、すべからく本件原判決を取消のうえ、本件を原審に差戻すべきである。
二 右の「風紋」とは、原判決指摘のような「風によつて砂地表面に形成されるランダムな紋様又は縞模様」という意味のものではなく、我が国における代表的な砂丘である鳥取砂丘に見られるような規則正しく平行になつた紋様又は縞模様をも含むと解釈すべきである。
(1) けだし、実用新案法施行規則2条、様式第三の備考8からすると、実用新案登録の願書に添付すべき明細書の用語ひいては実用新案公報の用語は、普通の意味において使用されなければならず、特に、我が国の実用新案権は日本国内でしかその効力はないから、我が国における普通の意味において使用されなければならない。したがつて、このような意味における「風紋」とは、乙第二号証の一ないし三に見られるサハラ砂漠のそれではなく、我々が最もよく知つている我が国での代表的な鳥取砂丘で見られるそれに依拠して「風紋」の概念を決すべきものであり、そして右によれば、そこには前記のとおり規則正しく平行な紋様又は縞模様が見られるのである。
(2) 実用新案法による考案は、産業上利用性を有することが必要であり、換言すれば、何人がその考案を実施しても同じものができるという反覆性、継続性のある考案でなければならない。したがつて、本件考案の構成要件中の「風紋状」の意味も、その実施品が反覆性・継続性を具備できるように解釈すべきであるところ、
「風紋状」の意味を原判決説示のような「何らかの形で自然天然現象特有のランダムさを感じさせる模様」と解するならば、全く反覆性・継続性のある実施品はできないから、右の解釈は考案の本質及び実用新案の要件に照らし誤りといわなければならない。
(被控訴代理人の主張)一 明細書における考案の詳細な説明欄の記載は、実用新案の登録請求の範囲の解説の役目を果たすべき部分であるが、本件考案の構成要件のうち「(ロ)糸の一部1をたくらせ、これを押えて凹凸感のある風紋状に編成あるいは織成した生地2を用いる。」との部分は、技術用語としては極めてあいまいな表現であり、更に本件考案の詳細な説明によつても、「風紋状」の意味は直接明らかにされていないから、本件実用新案の登録請求の範囲における「風紋状」の技術的意味は、その用語が本来有する意味や、前記の詳細な説明欄の記載や図面等を参考にして総合的に判断して決するほかはないのである。
そして、「風紋」という言葉が本来有する意味は、公知の事実(顕著な事実)であつて、本来証明を要せず、原審が公知の各種の国語辞典を参酌してもなんら違法ではない(民事訴訟法257条参照)。
二 風紋という日本語は、普通は鳥取砂丘のそれのみならず(なお、鳥取砂丘ですら、規則的な紋様のものも不規則な紋様のものも存在する。)、サハラ砂漠のそれをも指すものとして理解されており、後者のそれを除外して使用されているものと解すべきいわれはない。
原判決のように、「風紋状」の意味を「何らかの形で自然天然現象特有のランダムさを感じさせる模様」と解するとしても、このようなランダムさを感じさせる模様のものを反覆・継続して実施し製造できないことはないから、控訴人主張のように右解釈をもつて考案の本質及び実用新案の要件に照らし誤りとすることはできない。
(当審における証拠関係)(省略) 理 由一 当裁判所も控訴人の本件請求を全部失当として棄却すべきものと判断するが、
その理由は、次のとおり付加訂正するほかは、原判決の理由説示と同一であるから、これを引用する。
(一) 原判決一五枚目表五行目の「公知の各種の」を「原本の存在と成立に争いのない乙第一三、第一四号証の各一ないし三-広辞苑及び新明解」と改め、同枚目裏二行目の「断面図は」の次に「、「昭示断面図」即ち正確な断面図ではないと断られているとおり、」を、同裏一三行目の「また、」の次に「原審」を、同一九枚目裏七行目の「第一三号証」の次に「、当審における控訴人本人尋問の結果」を、
同裏九行目の「を与えるのは」の次に「、使用された綿糸の質(綿の原産地)の相違と、」をそれぞれ加え、同裏一一行目の「のように思わ」を「であることが認めら」と改め、同裏一三行目の「現物そのものではなく」を削り、同二一枚目表二行目の「であつて、」の次に「原本の存在と成立に争いのない乙第一五、第一六号証の各一ないし三によると」を加え、同八行目の「昭和五〇年六月一〇日」を「昭和四八年七月三〇日」と改め、同八行目の「参」から同一〇行目の「同旨。」までを「等」と改め、同一〇行目の「当裁判所に顕著であり」を「認められ」に改める。
(二) 原判決一六枚目表九行目と一〇行目との間に次のとおり加える。
「ところで、物品の製造方法は実用新案法における考案の対象たり得ず、当該物品が当該実用新案の技術的範囲に属するか否かの判断にあたつては製造方法の相違を考慮の中に入れることは許されない(最高裁判所昭和五六年六月三〇日第三小法廷判決参照)けれども、右実用新案の公報の中で、構成要件の一部の形状、構造の説明方法として、右一部の製造方法を説明しその製造の結果得られたものの一定の形状、構造のものであると説明することも許されないものではなく、そして、本件考案のように実用新案公報中にこのような説明方法がとられたときには、右説明どおりの方法により製造された物品の形状構造を現認した結果を本件考案の中で使用された用語の解釈の参考とすることにはなんらの支障もないことは明らかである。」(三) 控訴人は、原判決を取消のうえ本件を原審に差戻すべきである旨主張する。
しかしながら、ある用語に使用される言葉については、その言葉の持つ本来の意味内容が通常万人において共通に理解できるところがあつてこそ、はじめてその言葉としての存在価値が認められるもといえるのであり、したがつて、右言葉の意味内容は元来公知のものであることは明らかであるから、裁判所が右の公知の意味内容を確認するために弁論に顕出されていない市販の国語辞典を参照したところで、
弁論主義に違反するものではないことは多言を要しない。そして、「風紋」の一般的意味が「風によつて砂の上にできる模様」であることは公知ではある(原本の存在と成立に争いのない乙第一三、一四号証の各一ないし三-広辞苑及び新明解国語辞典の「風紋」の項参照)が、仮にその模様が普通はランダムなもののみをいうのか或いは規則正しいものをも含むのかについては公知ではないとしても、この点については、原審において当事者間で弁論がなされ(被控訴人の昭和五二年五月一三日付準備書面、同昭和五四年六月二九日付準備書面等)、また、当事者双方から証拠として「風紋」の写真(甲第三号証、乙第二号証の二)が提出されていることは記録上明らかであるから、原審がその一方の主張と証拠を採用し参照したとしても、なんら弁論主義に反するものではない。
同様に、「繭形」という用語の言葉の意味内容も公知の部分があることは多言を要しないところであるが、当業者において公知の事項と異る意味内容を有するものとして右の言葉を使用しているものと認めるべき証拠もない。仮に原判決説示のような「繭形」という言葉の意味内容全てが公知ではないとしても、「繭形」が原判決説示の如き形状であるか否かについては、既に原審において当事者間で弁論がなされていることは(訴状、控訴人昭和五一年八月三一日付準備書面、被控訴人昭和五二年五月一三日付準備書面、同昭和五三年七月七日付準備書面等)記録上明らかである。
そして、右「風紋状」及び「繭形」という用語の意味を解釈するにあたり、本件公報の考案の詳細な説明の記載が考慮されていることは、原判決の判示自体に徴して明らかである。
してみると、控訴人の本件を原審に差戻すべきであるとの主張は理由がないといわなければならない。
(四) 控訴人は、当審において、「風紋」の概念は我が国における典型的な鳥取砂丘でのそれを基本において定めるべきであり、それは甲第三号証に見られるとおり規則正しい紋様である旨主張するところ、なるほど同号証の写真には極めて直線的であつて、波長、波高ともに等しく規則的な波模様となりそこには僅かな乱れしかない鳥取砂丘の風紋が見られる。しかし、成立に争いのない同号証によると、右写真は古く昭和二四年ごろの夏に田賀久治によつて撮影されたものを昭和五三年一・二月号の雑誌フレンドリーに掲載されたものであることが認められるところ、
右写真に見られる様な整然とした風紋が再三見られるのであるならば、これと対照的に同誌に掲載された後記冬の写真と対比して考えると、更に最近の写真が使用されてしかるべきであり、これが三〇年近くも昔の写真が同誌に掲載されたことはこの種写真は容易に得難い貴重な写真であるとも考えられるし、事実同号証によると、右写真と対照する趣旨で同誌に掲載されたものと思われる右同人によつて撮影された鳥取砂丘の写真は、同五〇年二月上旬(即ち冬期)に撮影されたものであり、しかも同写真には前記の写真に見られるような規則正しい風紋が全く見られない(右のように対照する趣旨で殊更このような写真を選んだものとしても)ことが認められることなどからすると、右の昭和二四年ごろの写真に見られるような整然とした規則正しい風紋を鳥取砂丘でよく見ることができるなどということは、容易に認めることはできないといわなければならない。
仮に右の昭和二四年ごろの写真の風紋が同砂丘における典型的なものであるとしても、イ号製品、検甲第二号証、検乙第一号証によれば、これらいずれの生地にしろ、右の昭和二四年ごろ撮影の写真に見られるような風紋は勿論、いかなる風紋とも形状がかなり相違するから、一般に通常人がこれらの生地を一見して直ちに風紋を連想することはできないものと認められるのであり、したがつて、これらについて当業者ならば普通誰でもがこのような連想が可能であるということは、当審における控訴人本人尋問の結果をはじめ本件審理に表われたすべての証拠によつてもこれを認めることはできない。そうすると、これらの生地をとらえて「凹凸感のある風紋状に編成あるいは織成した生地2」ということができないことは明らかである。控訴人は、綿糸を用いて本件考案の構成要件どおりその一部をたくらせこれを押えて編成した生地を、更に染工場で湯洗いし白く染色し乾燥させるなどの加工をすると、生地がしまり不規則な模様になるが、この模様を「風紋状」という旨主張し、当審における控訴人本人尋問の結果中には右の模様を「風紋」と呼ぶ方が解り易い旨の部分があるが、これらはいずれも控訴人の独自の見解であつてたやすく採用し難いところである。
(五) 控訴人は、当審において、原判決説示のように「風紋状」の意味を「何らかの形で自然天然現象特有のランダムさを感じさせるような模様」と解するならば、風紋状に織成又は編成した生地につき反覆性・継続性のある実施ができないと主張し、これを前提として原判決の右の点の説示を非難するけれども、原判決の説示する「ランダムさを感じさせる模様」とは全く規則性のない「ランダムな模様」のほか、規則性を幾分とも帯びるものをも含む趣旨であると解されることはその判文上明らかであるから、「風紋状」の意味を原判決説示のように理解するとしても、反覆性・継続性のある実施品を製造することが全く不能であると解することはできないし、事実原審証人Aの証言によると、原判決説示のような「風紋状」に編成した生地の反覆的・継続的な製造は可能であることが窺えるから、控訴人の前記非難は正鵠を得たものということはできない。
二 してみると、以上と同旨の原判決は相当であつて本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法95条89条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 唐松寛
裁判官 奥輝雄
裁判官 野田殷稔
  • この表をプリントする