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事件 昭和 54年 (ワ) 11214号
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裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 1983/02/16
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は、別紙目録記載のドアノブ飾りを製造、販売してはならない。
2 被告は、原告に対し、金九六〇万円及びこれに対する昭和五四年一一月二〇日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 2につき仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁主文同旨
当事者の主張
一 請求の原因1 原告は、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有する。
考案の名称 ノブ飾り出願日 昭和四八年四月一七日出願公告日 昭和五二年二月七日登録日 昭和五二年九月三〇日登録番号 第一一九七四八三号2 本件考案の実用新案登録出願の願書に添附した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりである。
「円板状の布と、この布のほぼ中央の裏側に固定されしかも装着しようとするノブがほぼ覆える大きさのウレタンホームと、前記布の一定半径上でしかもノブを完全に包み込める位置にリング状に設けられて布を絞るゴムとを有し、前記ウレタンホームが設けられている布の面を内側としてノブを包むようにしたことを特徴とするノブ飾り。」3(一) 本件考案の構成要件を分説すれば次のとおりである。
(1) 円板状の布と(2) この布のほぼ中央の裏側に固定されしかも装着しようとするノブがほぼ覆える大きさのウレタンホームと(3) 前記布の一定半径上でしかもノブを完全に包み込める位置にリング状に設けられて布を絞るゴムを有し(4) 前記ウレタンホームが設けられている布の面を内側としてノブを包むようにしたことを特徴とする(5) ノブ飾り(二) 本件考案の作用効果は次のとおりである。
(1) ノブ飾りの外側からドアノブを握つた場合には、布及びその内側に設けたウレタンホームにより断熱がなされ、かつ柔らかい手ごたえを与える結果、握つた感じが極めて良い。
(2) 布とドアノブとの間にウレタンホームが介在しているため、両者間に大きな摩擦が得られ、ドアノブを容易に回動させることができる。
(3) 布の内側のウレタンホームをドアノブの外周をほぼ取り囲むように配置しているため、ドアの開け過ぎによつてドアノブが家具等に接触してもウレタンホームが緩衝物となつて家具等を傷つけることがない。
(4) ドアノブは装飾が極めて困難であるが、ノブ飾りを用いれば、ワンポイント的な装飾的効果が得られる。
4 被告は、遅くとも昭和五二年一一月ころから別紙目録記載のドアノブ飾り(以下「被告製品」という。)を製造、販売している。
5 被告製品の構成を分説すれば次のとおりである。
(1)′ 表裏二枚から成る円板状の布と(2)′ 装着しようとするノブの正面部の大きさよりやや大きめの円形のウレタンホームと(3)′ 前記表裏二枚の布の間に布の中心より一定半径の位置にあつてノブを完全に包み込める場所に縫製したゴム通しにリング状に挿通したゴムを有し、裏地の布を内側として前記ゴムにより布を袋状に絞り(4)′ 布の内部に前記ウレタンホームを挿入したままノブを包むようにした(5)′ ドアノブ飾り6(一) 本件考案の構成要件と被告製品の構成とを対比すると、本件考案がウレタンホームを円板状の布のほぼ中央の裏側に固定し、かつその大きさを装着しようとするノブがほぼ覆える大きさとしているのに対し、被告製品においてはウレタンホームは袋状に絞つた布の内部に挿入され、その大きさは装着しようとするドアノブの正面部の大きさよりやや大きめである点を除くと、被告製品は本件考案の構成要件をすべて充足している。
(二)(1) 本件考案の「固定されたウレタンホームを有する」という要件は、
ウレタンホームがノブ飾りの装着前に予め円板状の布のほぼ中央の裏側から動かないようにされていることまで要求しているものではなく、ノブ飾りをノブに装着した時にウレタンホームが円板状の布のほぼ中央の裏側から動かなくなるように構成されていれば足りると解すべきである。
被告製品においては、
円形のウレタンホームは袋状に絞つた円板状の布の内部に挿入されているだけであるが、被告製品を手で強制的に拡げてドアノブに被せて手を放すと、円板状の布を絞つているゴムの力が働いて被告製品はしつかりとドアノブを包み込む。その結果、内部に挿入されているウレタンホームは布とドアノブにはさまれた形となつて円板状の布のほぼ中央の裏側から動かなくなる。
したがつて、被告製品は本件考案の「固定されたウレタンホームを有する」という要件を具備している。
(2) 仮に、本件考案の「固定されたウレタンホームを有する」という要件が、
ウレタンホームがノブ飾りの装着前に予め円板状の布のほぼ中央の裏側から動かないようにされていることを要する趣旨だとした場合には、本件考案に係るノブ飾りと被告製品とではウレタンホームが予め固定されているか否かという点で違いがあるといわざるを得ない。
しかし、本件考案においてウレタンホームを予め固定させておくのは、ノブ飾りをノブに装着した際に布からずれ動かないようにするためであり、それによつてノブの快い握り感が得られ、ノブの回動が容易となり、他の物品に接しても傷が生じないという効果が得られるからである。
一方、被告製品を前記(1)記載のようにしてドアノブに装着した場合には、ウレタンホームは布とドアノブにはさまれた形となつて円板状の布のほぼ中央の裏側から動かなくなる。そして、ドアノブが握られる箇所は主としてその正面部とこれに続く部分であるから、ウレタンホームは布とあいまつて快い握り感を与えるとともに、その摩擦力によつてドアノブを容易に回動させることができるし、ドアノブの正面部を覆うウレタンホームは緩衝物となつてドアノブが家具等に接触した際の傷の発生を防止するというような本件考案と同様の作用効果を生じる。たまたま被告製品のかぶせ方が悪くてウレタンホームが袋の下方にずれた場合でも、ウレタンホームがゴムの部分まで移動することは考えられないから、ウレタンホームが依然としてドアノブの正面部の大半を覆うことに変りはなく、前記作用効果を生ずることに変りはない。
したがつて、
ウレタンホームが予め布に固定されているか否かという点で本件考案と被告製品とでは構成上の違いがあるが、その相違は微々たるものであり、両者は均等である。
(三) 本件考案においては、ウレタンホームは装着しようとするノブがほぼ覆える大きさであることを要件としているのに対し、被告製品においては、ウレタンホームは装着しようとするドアノブの正面部の大きさよりやや大きめという程度であつて、ウレタンホームの大きさについて違いがある。
しかしながら、
(1) 被告製品は右のような大きさのウレタンホームを有することによつて前記(二)(2)記載のように本件考案と同様の作用効果を生ずるのであつて、本件考案のウレタンホームの大きさに関する構成と被告製品のウレタンホームの構成は均等である。
(2) 仮に、被告製品のウレタンホームが本件考案のそれより小さいことから作用効果が劣るとしても、被告製品は本件考案の不完全実施ないし改悪実施であつて、均等物であることを免れない。
被告製品のウレタンホームは本件考案の作用効果を低下させる以外に他に何ら優れた作用効果を伴わないのに専ら権利侵害を免れるために本件考案のウレタンホームの要件とされる大きさより小さくしただけのものであつて、その技術思想には何ら変更がない。本件考案では技術的完全を期するためにノブがほぼ覆える大きさと規定したのに対して、被告製品では特別の理由もないのにこれより効果が劣ることが明白な大きさにまで縮少しているのであつて、これは本件考案技術的範囲から逃れるためにあえてそうしたとしか考えられない。しかも、そのように縮少することは、本件考案を見れば容易に思いつくことで、特別の考案力を必要としない。被告製品のウレタンホームがこのようなものである以上、本件考案のウレタンホームの不完全実施品ないし改悪実施品であることは否定できず、均等物であるということができる。
したがつて、被告製品は本件考案技術的範囲に属する。
7 原告は、本件考案の実施品であるドアノブ飾りを製造販売しているが、被告は、
本件考案の仮保護の権利及び登録がなされた後は本件実用新案権を侵害することを知りながら、または過失によりこれを知らないで前記4のとおり昭和五二年一一月から被告製品を製造販売しており、昭和五四年一〇月までの間に製造販売した被告製品の数量は一か月一万個の割合で合計二四万個、その販売価格は一個当り二〇〇円、その販売利益は一個当り四〇円であり被告は右期間に合計九六〇万円の利益をあげた。
この利益の額は、被告の侵害行為によつて原告が被つた損害の額と推定され、原告はこれと同額の損害を被つた。
8 よつて、原告は、被告に対し、被告製品の製造販売の差止を求めるとともに、
本件実用新案権侵害に基づく損害賠償として、九六〇万円及びこれに対する前記侵害行為の後である昭和五四年一一月二〇日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求の原因に対する認否1 請求の原因1ないし4の事実は認める。但し、同3(二)につき原告は本件考案の作用効果をドアノブ飾りに限つて主張しているが、本件考案はノブ飾り一般に関するものである。
2 同5のうち(1)′、(3)′、(5)′は認め、その余の事実は否認する。
被告製品には原告主張の(2)′、(4)′の構成は存在しない。
3 同6、7の事実は否認する。
三 被告の主張1 被告製品の内部に挿入してある円形のウレタンホームは整形用あんこであつて、被告製品を購入した消費者がこれをドアノブに装着するに際しては取り除くもので、被告製品の構成要素ではない。
2 仮に、消費者が、右の円形ウレタンホームを内部に入れたまま被告製品をドアノブに装着することがあるとしても、本件考案に係るノブ飾りとは、その構成を異にするのみならず、その作用効果において次のような差異がある。
(一) 被告製品の内部に挿入してある円形のウレタンホームの大きさは、ドアノブをほぼ包み込める大きさでないのみならず布に固定されていないために、被告製品を手で強制的に拡げてドアノブに被せ、手を放したときにはその重みで下方にずれてしまい、ドアノブの正面すら覆えない状態となる。仮に、
ドアノブの正面を覆う場合があるとしても、その大きさからしてドアノブの極く一部を覆うにすぎないため、ドアノブ全体にわたつてウレタンホームによる断熱と柔かい手ごたえが与えられることはなく、かえつて、ドアノブの回動によつて内部で移動してしまうことにより異物感を与え、握つた感じを悪くする。
(二) ドアノブを回動させてロツクをはずそうとするとき、布とドアノブとの間に、布と固定されておらず自由に移動しうる円形ウレタンホームが、しかもドアノブ正面からずれた不規則な位置に介在しているため、布とドアノブとの間の直接の摩擦が妨げられ、ドアノブの回動がやりにくくなる。
(三) 布の内側にあるウレタンホームは、ドアノブ正面の下方にずれた位置にあり、ドアノブ正面すらその全部を覆うことはできない状態にあるため、ドアの開けすぎによつて、ドアノブが例えば家具に接した場合、円形ウレタンホームが緩衝物となつて傷を生じないという効果は期待できない。
以上の理由から明らかなように原告の均等の主張は成立する余地がない。
原告は、袋状の布をドアノブにかぶせると、布を絞るゴムの力が働いて袋状の布はしつかりとドアノブを包みこみ、布とドアノブとの間に介在するウレタンホームは布から動かなくなると主張しているが、誤りである。ゴムの力はそのように強いものではなく、ウレタンホームの移動を防ぐことはできない。また、ゴムにそのような作用を期待できるのであれば、本件考案においても、ウレタンホームが布からずれ動かないようにするため、ウレタンホームを布のほぼ中央裏側に固定する必要はなかつた筈である。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因1、2、4の事実は当事者間に争いがない。
二 右当事者間に争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載と成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報、別添実用新案公報と同じ。)によると、
本件考案の構成要件は次の(1)ないし(5)からなるものと認められる。
(1) 円板状の布を有すること(2) この布のほぼ中央の裏側に固定され、
しかも装着しようとするノブがほぼ覆える大きさのウレタンホームを有すること(3) 前記布の一定半径上でしかもノブを完全に包み込める位置にリング状に設けられて布を絞るゴムを有すること(4) 前記ウレタンホームが設けられている布の面を内側としてノブを包むようにしたものであること(5) ノブ飾りであること三1 被告製品が別紙目録記載のとおりであることは、当事者間に争いがない。
原告は、被告製品の袋状に絞られた布の内部に挿入されているウレタンホームは被告製品の構成要素であると主張し、被告は、右ウレタンホームは整形用あんこであつて被告製品の構成要素ではないと主張するので、まずこの点について検討する。
前記当事者間に争いのない請求の原因4の事実によると、被告製品のウレタンホームは袋状に絞られた布の内部に挿入された形で販売されていることが認められ、
この事実と後記四2(三)(2)で認定するように、被告製品からウレタンホームを取除かず、ウレタンホームを内蔵したままドアノブに被せて使用しても使用の妨げとはならず、ウレタンホームを取除いて使用した場合よりはドアノブを容易に回動させることができること、及び被告製品であることについて争いのない検甲第一ないし第三号証、検乙第一号証の二・三によれば、被告製品のウレタンホームは、
厚さ約四ミリメートルないし五ミリメートル、直径約六センチメートルないし六・五センチメートルの大きさの円形状のものであつて、その材質、大きさ、形状からして商品である布製のドアノブ飾りにふくらみをつけてその形を整え、あるいはその形くずれを防ぐことを唯一の目的とする整形用あんこであるとは直ちに認め難いこと、の各事実を総合すると、被告整品のウレタンホームは、被告製品をドアに装着するに際して必ず取り去られる前記目的にのみ供される単なる整形用あんこというよりは、むしろ被告製品の使用に際しても用いられることがありうるという意味で、その構成要素をなしていると認めるのが相当である。
なお、
原告の製造販売に係るドアノブカバー及び右ドアノブカバーの内部に挿入されたウレタンホームであることについて争いのない検乙第二号証の一・二によれば、原告は、布の裏側に固定されたノブが覆える大きさのウレタンホームを有するノブカバーの内部に厚さ約一センチメートル、直径約七センチメートルの大きさの円形状のウレタンホームを挿入したノブカバーを販売している事実が認められるが、右事実から直ちに被告製品の袋状に絞られた布の内部に挿入されているウレタンホームが整形用あんこであるとまでいえず、他に前記認定を覆えすに足る証拠はない。
2 右事実及び被告製品を表示するものであることについて当事者間に争いのない別紙目録の記載並びに本件口頭弁論の全趣旨によると、被告製品の構成は次のように分説することができる(番号は別紙目録記載の番号を指す。)。
(1)′ 表裏二枚から成る円板状の布1を有する(2)′ 装着しようとするドアノブの正面部の大きさよりやや大きめの円形のウレタンホーム2を有する(3)´ 前記表裏二枚の布の間に該布の中心より一定半径の位置にあつてドアノブを完全に包み込める場所に縫製したゴム通しにリング状に挿通したゴム3を有する(4)′ 裏地の布を内側として前記ゴムにより布を袋状に絞り、その内部に前記ウレタンホームを挿入してある(5)′ ドアノブ飾り四 そこで、被告製品が本件考案技術的範囲に属するか否かについて判断する。
1 原告は、本件考案の構成要件(2)にいう布のほぼ中央の裏側に固定されたウレタンホームを有する、という構成は、ウレタンホームがノブに装着する前に予め布のほぼ中央の裏側に固定されているという構成だけではなく、ノブに装着した際にウレタンホームがノブと布とにはさまれて布のほぼ中央の裏側から動かなくなるように構成されている場合も含むものであつて、被告製品は布のほぼ中央の裏側に固定されたウレタンホームを有するという構成を具備している旨主張する。
しかしながら、前顕甲第一号証によると、本件明細書考案の詳細な説明の項には、本件考案の構成の説明として、
本件考案の「目的を達成するために」「本考案によるノブ飾りは、円状に切断された布の少なくとも裏側のほぼ中央部に設けられ、ノブと前記布との間に摩擦抵抗を得るためのウレタンを設け、更に前記布のノブが包み込める半径位置にこの布を絞るようにゴムをリング状に固定したものである。以下図面を用いて本考案によるノブ飾りを詳細に説明する。」(本件実用新案公報第2欄九行ないし一六行)、「第1図は本考案によるノブ飾りの一実施例を示すものであり、特にノブ飾りを平面状に強制的に広げた場合における裏側、つまりノブと接する側を示したものである。
このノブ飾りは、表面に室内装飾に適した模様を有する円板状の布1を有しその裏側、つまりノブと接する側の面でしかも少なくともその中央部には、ノブをほぼ包み込める大きさのウレタンホーム2が固定されている。またこのウレタンホーム2の外側でしかもノブを完全に包み込める位置の布1上には、この布1がノブを包み込んで絞るためのゴム3がリング状に縫い付けられている。」(同公報第2欄一七行ないし二八行)との記載があり、予め布に固定されたウレタンホームが実施例として記載されていること、本件明細書において「固定」という言葉が原告主張の趣旨をも含むものとして使用されていることを窺わせるに足る記載は無く、かえつて、構成要件(3)に規定するゴムについては、本件考案によるノブ飾り一般の説明として「ゴムをリング状に固定したもの」(同公報第2欄一四行、一五行)と説明し、実施例として、布にリング状に縫い付けられていること(同公報第2欄二七行、二八行)を示して、ここにいう固定が、使用時において、布でノブを完全に包み込んで絞るために布に予め設けられていないゴムを用いる場合までは含まない意味を明らかにしていることが認められる。右事実からすれば、本件考案の構成要件(2)にいう布のほぼ中央の裏側に固定されたウレタンホームを有するという構成は、ノブ飾りをノブに装着した際にウレタンホームが布のほぼ中央の裏側から動かなくなるという構成であれば足りるというようなものではなく、"ウレタンホームを予め布のほぼ中央の裏側に動かないように固定しておくということを要する趣旨であると解するのが相当である。
したがつて、原告の右主張は理由がなく、本件考案と被告製品とでは、ウレタンホームが布に固定されているか否かという点で相違があることが認められる。
また、ウレタンホームの大きさについて、本件考案の構成要件(2)は装着しようとするノブがほぼ覆える大きさであることを要件としているのに対し、被告製品のウレタンホームは装着しようとするドアノブの正面の大きさよりやや大きいという程度であつて、右の点において相違があることは明らかであり、このこと自体は原告もこれを認めて争わないところである。
2 原告は、本件考案の構成要件(2)にいう固定されたウレタンホームを有するとの構成についての前記主張が認められないとしても、ウレタンホームが布に固定されているか否かの相違は微々たるものであり、またウレタンホームの大きさについての相違も同様であつて、被告製品の右の点についての構成は、本件考案の構成要件(2)と均等である旨主張しているので、以下その当否について検討する。
(一) 原告の均等の主張を肯認するためには、被告製品のウレタンホームに関する構成がもたらす作用効果が本件考案の構成要件(2)の有する作用効果と同一であることがとりあえず必要である。
(二) まず本件考案が(2)の要件を採用した目的、作用効果についてみるに、
前顕甲第一号証によると、本件明細書考案の詳細な説明の項には右の点に関して次のような記載が存することが認められる。
(1) 「ドアのノブは」「一般に金属によつて作られているために、冬期および朝夕等に於いてはこのノブが冷たく、ドアの開閉時に不快感が生ずる。また、このノブはただの球状物であるために、美観的にもあまり優れていなかつた。更にこのドアノブは、前述したように金属によつて作られているために、ドアを開けすぎた場合等には、このノブが壁あるいは家具に接触してこれらに傷を付けることがしばしばあつた。従つて、本考案による目的は、
ノブを覆うことによりノブの快よい握り感が得られるノブ飾りを提供するにある。
考案による他の目的は、ノブの装飾効果が得られるノブ飾りに関するものである。本考案による更に他の目的は、ノブが壁および家具等に接触した場合に傷が生じないようにしたノブ飾りに提供するにある。」(本件実用新案公報第1欄二五行ないし第2欄ハ行)(2) 「このような目的を達成するために……本考案によるノブ飾りは、円状に切断された布の少なくとも裏側のほぼ中央部に設けられ、ノブと前記布との間に摩擦抵抗を得るためのウレタンを設け、更に前記布のノブが包み込める半径位置にこの布を絞るようにゴムをリング状に固定したものである。」(同第2欄九行ないし一五行)(3) 「ノブ飾りの外側からドアノブを握ると、布1およびその内側に設けられているウレタンホームによつて断熱されるとともに、柔らかい手ごたえを与えるためにドアノブを握つた感じが極めて良くなる。次にドアノブを回動させてロツクを外そうとすると、布1とドアノブ7との間にはウレタンホームが介在しているために、両者間に大きな摩擦が得られ、ドアノブ7を容易に回動させることができる。
またこの場合、布1の内側に配置されているウレタンホーム2は、ドアノブ7の外周をほぼ取り囲むように配置されているために、ドア6の開けすぎによつてドアノブ7が例えば家具に接しても、このドアノブ7を覆つているノブ飾りのウレタンホームが緩衝物となつて傷が生じない。また、近年室内装飾が盛んに行なわれるようになつてきたが、ドアノブ等は装飾が極めて困難であるために、このようなノブ飾りを用いれば、ワンポイント的な装飾効果および実用的効果が同時に得られる。」(同第3欄七行ないし第4欄三行)そして、右各記載からすると、ドアノブに関していえば、本件考案が(2)の構成を採用したことの目的及びその作用効果は、@ドアノブを握つた際に生ずる不快感を除去してやわらかい手ごたえを与える、Aドアの開けすぎによつてドアノブが家具等に接しても傷が生じない、B布とドアノブとの間に大きな摩擦が得られ、ドアノブを容易に回動させることができる、
という点にあるものと認められる。
(三) そこで、被告製品のウレタンホームに関する構成が右のような作用効果を奏するか否かについて検討する。
(1) 市販されているドアノブの一つであることについて争いのない検甲第五号証によれば、その正面部の大きさが約四・八センチメートルであることが認められ、右ドアノブに前顕検甲第一ないし第三号証の被告製品であるドアノブ飾りを装着して検証をなした結果によると、前記三1で認定したように直径約六センチメートルないし六・五センチメートルの大きさしかないウレタンホームは布とドアノブの正面部にはさまれておおむね右正面部を覆うことはできるものの、その大きさ及び形状からしてドアノブの外周部及び周側部を覆うことはできないこと、またウレタンホームが布に固定されていないことや袋の内部に遊びがあること、それにドアノブを完全に包み込める場所に設けたゴムの力によつてさほど強くはさまれているわけではないことから、ドアノブを回動させるとやや下方にずれることがあり、その場合には、ドアノブの上側の外周部を覆うことさえできなくなることが認められる。
(2) 前顕検甲第五号証のドアノブに前顕検甲第一ないし第三号証の被告製品のドアノブ飾りを装着して回動した場合とウレタンホームを取り除いて装着して回動した場合とでは、前者の方が摩擦抵抗があつて回動がし易いが、ウレタンホームを布の一部に貼着したドアノブカバーであることに争いのない検甲第七号証(ウレタンホームの大きさは直径約九・五センチメートルと認められる。)やウレタンホームを布の全部に貼着したドアノブカバーであることについて争いのない検甲第九号証(ウレタンホームの大きさは直径約一九・五センチメートルと認められる。)をそれぞれ前記ドアノブに装着して回動した場合に比べると摩擦抵抗が少なく回動しにくく、したがつて、ドアノブ飾りをドアノブに装着した際の摩擦抵抗の大きさは、ウレタンホームの大きさとそれが布に固定されているか否かということで決せられることが認められる。
そして、
右事実にドアノブの形状からしてドアノブを握持してドアの開閉をしようとする場合に指や手のひらが接する部位は正面部よりはその周側面が主であること、またドアの開けすぎによつてドアノブが家具等に接触して傷をつけやすい部位はその正面部の外周部分が主であることなど経験則上認められる事実を総合勘案すれば、ウレタンホームが布に固定されておらず、しかも装着しようとするドアノブの正面部の大きさよりやや大きい程度のウレタンホームを有するにすぎない被告製品のウレタンホームに関する構成が、その構成上本件考案のような前記(二)@ないしBと同一の作用効果を挙げえないこと明らかである。
(四) 以上のとおり作用効果が同一といえない以上、原告の均等の主張はその余の点について検討するまでもなく理由がない。
3 次に、原告は、被告製品のウレタンホームが本件考案のそれより小さいことから、被告製品が本件考案に係るノブ飾りより作用効果の点で劣るとしても、被告製品は本件考案の不完全実施ないし改悪実施にあたり均等物であることを免れない旨主張する。
右主張は、いわゆる不完全実施論ないし改悪実施論によつて、本件考案の構成に欠くことのできない事項として本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載された事項のうち、「装着しようとするノブがほぼ覆える大きさのウレタンホーム」を有する、という点を被告製品が具備しておらず、しかもこのために作用効果の点で本件考案のそれに劣るとしても、なお本件考案技術的範囲に属するものと評価すべきであると主張するものと解される。
しかしながら、このような考えを容認することは、明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されている事項中には、当該考案の構成に欠くことができない事項の他、当該考案の構成に必須でない事項、すなわち、これを欠いても当該考案の要旨を変更するものではない事項があることを認める結果となり、このことはまた、出願過程においては、当該考案の構成に欠くことができない事項としてある事項を明細書の実用新案登録請求の範囲に記載して考案として保護を受ける範囲を画定し、
かかる明細書の記載に基づいて特許庁における審査を経て出願公告、実用新案登録を受けながら、当該考案にかかる実用新案権を行使する段階に至るや、卒然、右事項は当該考案の構成に欠くことのできない事項ではなかつたと主張し、公開された公報に客観的に公示された当該考案の実用新案登録請求の範囲の記載の一部を無視して技術的範囲の確定を求めることを許すことになるものであつて、かかる結果が実用新案法第5条第4項、同法第13条の規定により準用される特許法第64条
実用新案法第26条の規定により準用される特許法第70条、実用新案法第37条第1項第3号、同法第39条等の規定の趣旨を没却するに至ることは明らかである。
したがつて、右の考えは現行法上採用するに値するものということはできない。
原告の右主張は失当である。
以上のように、被告製品は本件考案の構成要件(2)を充足するとはいえないので、その余の点について判断するまでもなく本件考案技術的範囲に属するものとはいえない。
五 よつて、被告製品が本件考案技術的範囲に属することを前提とする原告の本訴請求は理由がないのでこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第89条の規定を適用して、主文のとおり判決する。
追加
目録ドアノブ飾り表裏二枚から成る円板状の布1と、装着しようとするノブの正面部の大きさよりやや大きめの円形のウレタンホーム2と、前記表裏二枚の布の間に該布の中心より一定半径の位置にあつてノブを完全に包みこめる場所に縫製したゴム通しにリング状に挿通されたゴム3とを有し、裏地の布を内側として前記ゴムにより布を袋状に絞り布の内部に前記ウレタンホームを挿入したドアノブ飾り図面第1図は展開図、第2図は分解斜視図である。
<12340-001><12340-002><12340-003><12340-004><12340-005>
裁判官 牧野利秋
裁判官 川島貴志郎
裁判官 大橋寛明
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