関連審決 |
審判1973-6536 |
---|
関連ワード | 考案 / 図面 / 構造 / 補正 / 先願考案 / 先願 / 減縮 / 置換 / 転用 / 先願 / 特定 / 明細書 / 請求の範囲 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|---|
元本PDF | 裁判所収録の別紙1PDFを見る |
事件 |
昭和
56年
(行ケ)
123号
|
---|---|
裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1983/03/23 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が昭和四八年審判第六五三六号事件について昭和五五年一二月二三日にした審決を取り消す。 訴訟費用は、被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
当事者の求めた裁判
原告は、主文同旨の判決を求め、被告は、「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。 |
|
原告主張の請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、一九六九年(昭和四四年)七月一二日にドイツ国においてした特許出願に基づく優先権を主張して、昭和四五年五月二六日、特許庁に対し、名称を「電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」とする考案(以下「本願考案」という。)につき実用新案登録出願(昭和四五年実用新案登録願第五一六九八号)をしたところ、昭和四八年四月二三日に拒絶査定を受けた。そこで、原告は同年九月一一日に審判請求をし、特許庁は、これを同年審判第六五三六号事件として審理し、 昭和五四年九月二八日右出願について出願公告(同年実公第三〇九九一号)したが、実用新案登録異議の申立があつたので、原告は、昭和五五年六月三〇日付手続補正書により実用新案登録請求の範囲の記載を訂正した(以下右手続補正書による補正を「本件補正」という。)が、同年一二月二三日、本件補正を却下する旨の決定(以下「本件補正却下決定」という。)及び本件審判の請求は成り立たない旨の審決(以下「審決」という。)があり、その各謄本は昭和五六年一月二一日原告に送達された。なお、出訴期間として三か月が付加された。 二 本願考案の要旨(本件補正後の実用新案登録請求の範囲の記載による。) 露出に用いられる光量の十分か否かの検査と電池電圧検査とを併せ行なうようにした回路に指示装置を設け該指示装置はその付勢の際のみ、露光に十分な光量のときまたは露光の光量不十分のとき少なくとも一つの出力を送出するようにし、さらに露光に用いられる光量の不足か否かに無関係に電池の所定の出力電圧に応じた限界値に応動する限界値回路を前記指示装置に接続するようにし、それによつて、 電池出力電圧が所定値を下回つた際前記指示装置を電池回路から遮断し、電池が前記の所定電圧を上回るときだけ前記指示装置が付勢されそれによつて前記指示装置の出力の送出によつて電池電圧が前記の所定出力値を上回ることが指示されるようにし、さらに給電電池に直接的に並列に露出制御装置における光電分圧器を接続し、さらに前記光電分圧器の両端子間に並列に前記指示装置と前記限界値回路との直列接続体が設けられているようにし、それによつて前記電池出力電圧が所定値を下回つた際前記限界値回路が前記指示装置のみを電池から遮断し、その際にも露出制御回路は動作しうるようにして成る電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ。(別紙図面参照。傍線部分が本件補正によつて付加された構成)三 審決の理由 本願考案の要旨は、出願公告された明細書及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの「露出に用いられる光量の十分か否かの検査と電池電圧検査とを併せ行なうようにした回路に指示装置を設け該指示装置はその付勢の際のみ、露光に十分な光量のときまたは露光の光量不十分のとき少なくとも一つの出力を送出するようにし、さらに露光に用いられる光量の不足か否かに無関係に電池の所定の出力電圧に応じた限界値に応動する限界値回路を前記指示装置に接続するようにし、それによつて、電池出力電圧が所定値を下回つた際前記指示装置を電池回路から遮断し、電池が前記の所定電圧を上回るときだけ前記指示装置が付勢されそれによつて、前記指示装置の出力の送出によつて電池電圧が前記の所定出力値を上回ることが指示されるようにして成る電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ。」にあるものと認める。 これに対して、先願にかかる実用新案登録第一二一三七四五号(実願昭四四―一二六二七号、実公昭五二―八四四七号。以下「引用例」という。)は、昭和四四年二月一五日の出願であつて、その考案の要旨は、「露光量過剰表示用ランプと露光量不足表示用ランプを有する露光量表示回路と、前記露光量表示回路の電源と、 前記露光量表示回路と電源間に接続され前記電源電圧が所定値以上の時のみ閉じるトランジスタと、前記露光量過剰表示用ランプと並列接続された第一制御部と、前記露光量不足表示用ランプに並列接続された第二制御部と、前記第一、第二制御部によつて制御され両制御部が不動作時のみ閉じるスイツチ部と、前記スイツチ部を介して前記トランジスタの出力側に接続された適正露光表示用ランプとを備え、露光量の不足、適正過剰および電源電圧の不良を表示するようにしたことを特徴とする露光適正表示回路」にあるものと認める。 ここで、本願考案と引用例の考案とを比較すると、両者はいずれも露出に用いる光量が十分か又は不十分かの検査と電池電圧の検査とを併せ行うようにした回路に指示装置(後者では指示用ランプ)を設け、該指示装置に電池の所定電圧に応じて応動する限界値回路(後者ではトランジスタ)を接続し、これによつて該電池電圧が所定値を下回つた際は該指示装置を電池回路から遮断し、該電池が所定値を上回るときだけ該指示装置を付勢するようにして、露光適正・不適正と電源電圧の不良を併せ指示できるようにした表示装置であるという主要構成要件では全く一致し、 唯、露出に用いる光量が適正でない場合に、前者では単一の表示のみを行う構成であるのに対し、後者ではこの場合さらに露光量過剰と露光量不足とに夫々分けて表示できる別個の指示手段とそのための制御部を付加したことをもその構成要件としている点で相違する。 そこで、前記の相違点を検討するに、後者では露出に用いる光量が適正でない場合に、それが光量が過剰によるものか又は不足によるものかをさらに細かく表示できるようにしたものであるが、このような細部の構成は後者が眼目とする前記主要構成と結びついて特有の作用効果を発揮するものとは認められず、後者は具体的に実施する際に必要によつてさらに付加することのできる単なる派生的な構成にすぎないものと認められるので、このような細部構成が実用新案登録請求の範囲に記載されているか否かによつて両者はそれぞれ別個の考案を構成するものとは認められない。 以上のとおり、 本願考案と引用例の考案は、実質上その全体構成を同じくするものであり、その目的及び作用効果においても異なるところは認められないので、本願考案はその先願である引用例の考案と同一と認められ、実用新案法第7条第1項の規定により登録を受けることができない。 四 本件補正却下決定の理由 本件補正において、実用新案登録請求の範囲に「給電電池に直接的に並列に露出制御装置における光電分圧器を接続し、限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際にも露出制御回路は動作しうる」構成を付加する部分は、実用新案登録請求の範囲の減縮を目的とするものと認められるが、これによつて補正後の考案の目的は「電池電圧が不十分な場合における露出制御」になるものと認められるので、補正前の考案の目的である「露光適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示すること」という範囲を逸脱するものと認められる。したがつて、本件補正の前記部分は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものと認められ、実用新案法第13条及び特許法第64条第2項の規定によつて準用する特許法第126条第2項の規定に違反するものと認める。 よつて、本件補正は実用新案法第41条及び特許法第159条第1項によつて準用する特許法第54条第1項の規定により却下すべきものとする。 五 審決を取り消すべき事由 審決は、後記のとおり、結局本願考案の要旨を誤認したものであり、その誤認が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、違法として取り消されるべきものである。 1 本願考案の要旨の誤認 本件補正却下決定は、認定判断を誤つたものであり、したがつて、審決が右決定を前提として本願考案の要旨を出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲の記載のとおりに認定したことは、本願考案の要旨を誤認したものといわなければならない。 すなわち、右決定は、本件補正により考案の目的が補正前のそれを逸脱したから、右補正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであるとしたが、それは誤りである。 そもそも、考案の構成要件は、 その明細書に記載された目的により厳格に制限されるべきものではない。明細書における考案の目的に関する記載は、それが「できたらいいな」という一つの希望を含む意味で、考案の構成の記載に比較して重要性が少ない。たとえば、明細書中で目的に関する記載が欠けていても、考案の構成及び作用効果の記載からその考案を容易に実施できる限り、出願が拒絶されたり登録が無効にされたりすべきものではないのである。 右の意味で、本件補正により本願考案の目的の範囲が補正却下の決定にいうとおり変更されたとしても、それは、本願考案の課題解決の希求の範囲が拡がつたものにすぎず、これによつて本願考案の本質がいささかの変更をも受けるものではないし、本件登録請求の範囲が変更されるものでもないのである。 かくして、本件補正が登録請求の範囲を変更するかどうかは、補正前の構成と補正後の構成とを対比し、後者が前者から予測できないかどうかによつて決せられるべきものである。 本件補正についていえば、本件補正前における本願考案の構成要件は、単に「露光適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示する」ための指示装置に尽きるものではなく、「電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」(傍点原告)であつて、露出制御回路が露出制御装置に含まれる概念であることは、当業者に周知の事実である。 そして、本件補正に係る構成要件、すなわち、「給電電池に直接的に並列に露出制御装置における光電分圧器を接続し、さらに前記光電分圧器の両端子間に並列に前記指示装置と前記限界値回路との直列接続体」を電池給電式電子露出制御装置に設けることは、当業者にとつて苦もなく実施できる周知の技術的事項にすぎない。 すなわち、本願実用新案登録請求の範囲は、もともと「露出制御装置を有する写真カメラ」であつて、本来的に、本件補正が新たに付加した構成要件を含むものである。この点に関して、被告は、「露出制御装置を有する……」という字句が請求の範囲の末尾に記載されていても、必ずしも露出制御回路そのものを全く構成要件としていないものが多数存在し、 本願考案において「露出制御装置を有する」とは本願考案が用いられる対象を示すにすぎず、「露出制御のための手段」そのものは補正前の考案の目的及びそれを達成するための必須構成要件の範囲外のものである旨主張するが、本願考案は、露出制御回路そのものを構成要件とするものであるから、被告の右主張は理由がない。 そして、「限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際にも露出制御回路は動作しうる」構成が明細書及び図面に記載されていることは、甲第一四号証(本願考案の実用新案出願公告公報)六欄下から二行ないし七欄一二行、七欄二一行ないし二四行、八欄三二行ないし四一行、九欄二一行ないし二五行、五欄三行ないし五行、五欄一二行ないし一四行、六欄一二行ないし一四行及び各図面の記載から明らかであり、かつ、露出制御装置を、右甲第一四号証五欄三行ないし五行、五欄一二行ないし一四行、六欄一二行ないし一四行及び第一図に記載されたように、切換接点4、6、13、14、18がレリーズによつて作動状態にされるようにするとともに、切換接点13、14の一方13を介してトランジスタ12のコレクタをシヤツター制御電磁石15に接続する構成は、当業者にとつて周知の技術である。 また、本願明細書には、本件補正により付加された構成要件により、本願考案が全体としてどのような作用効果を達成するかも詳細に記載されている(甲第一四号証八欄一八行ないし二四行及び一〇欄一行ないし八行参照)。 したがつて、本件補正に係る構成要件の付加によつて考案の本質が変更することはないというべきである。 なお、本件補正は、願書に最初に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲に記載の構成要件に新たな構成を付加することによつて、もとの実用新案登録請求の範囲を限定制限するものであるから、このことは実用新案法第13条、特許法第64条第1項第1号の「特許請求の範囲の減縮」に該当することが明らかである。 以上のとおり、本件補正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものではない。しかるに、これと異なる認定判断の下に右補正を却下し、 審決において出願公告された明細書によつて本願考案の要旨を認定したのは、本願考案の要旨を誤認したものといわなければならない。 2 引用先願考案との異同の判断の誤り 本件補正後の考案が引用例と比較して優れた作用効果を奏するものであることは、甲第一四号証八欄一八行ないし二四行及び一〇欄一行ないし八行の記載から明らかである。 したがつて、審決が、前記のように本願考案の要旨の認定を誤つたことにより、 本願考案と引用先願考案との異同について、判断を誤つたことも明らかである。 |
|
請求の原因に対する被告の認否及び主張
一 原告主張の請求の原因一、三及び四の各事実は認める。 二 同二及び五の主張は争う。本件補正後の実用新案登録請求の範囲の記載は同二記載のとおりであるが、本願考案の要旨は審決認定のとおりであり、また、原告主張の審決取消事由は、後記のとおりいずれも理由がなく、審決には、これを取り消すべき違法の点はない。 1 本願考案の要旨の誤認の主張について 本件補正は、補正前の考案の「露光適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示する」こと、つまり、被写体の明るさ及び電池をチエツクして撮影可能か否かを事前に指示するという目的の範囲内で、その目的達成のために新たな構成要件を付加したものではなく、これとは全く異なつた「露出制御回路の動作」、つまり、シヤツタを開閉する撮影動作自体を目的とした構成を付加しようとするものである。 それゆえ、この様な補正は、一般公衆が、出願公告された補正前の「露光適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示する」ことを目的として構成された実用新案登録請求の範囲からは到底予測できないものである。つまるところ、本件補正は、 形式上構成要件をさらに付加することによつて表面上実用新案登録請求の範囲を減縮したかのように見えるが、補正前の考案の目的の範囲外のこれとは関係のない構成を付加したことによつて全体の構成が異なつたものとなり、実用新案登録請求の範囲を実質的に変更したものであるから、特許法第126条第2項に規定されている「変更」に相当することは明らかである。 原告は、 補正前の考案は、「電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」であつて、 露出制御回路が露出制御装置に含まれる概念であることは当業者に周知の事実である旨主張する。 しかし、「電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」、すなわち、いわゆる「電子シヤツタを有するカメラ」に関する発明・考案は、すでに登録されたものだけでも数え切れないほど存在している。これらのなかには「露出制御装置を有する……」という字句が請求の範囲の末尾に記載されていても、必ずしも露出制御回路そのものを全く構成要件としていないものが多数存在している。そして、補正前の考案は、電池給電式露出制御装置を有する写真カメラで使用される「露光の適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示する回路」を要旨とするものである。 つまり、「露出制御装置を有する」点は、本願考案が用いられる対象を示しているだけで、「露出制御のための手段」そのものは、補正前の考案の目的及びそれを達成するための必須構成要件の範囲外のものである。 原告は、また、「限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際にも露出制御回路は動作しうる」構成が明細書に記載されている旨主張する。 しかし、原告が指摘する明細書及び図面の部分には、要するに、シヤツタ・レリーズの前段階で撮影前の被写体の明るさ及び電池チエツクの事前操作を行い、次に、シヤツタ・レリーズの後段階で、接点の切換により被写体の明るさ及び電池チエツクのための指示回路を全く切離し、この指示回路で使用されていたホト抵抗(光電素子)及び電池を全然別の機能を有する露出制御回路に転用すること、が記載されているだけである。そこには、「限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際」、つまり電池電圧が十分な状態から不十分な状態になつた際でもなおかつ露出制御回路を動作させるために、どのような具体的な手段を設けるのか、またなぜその状態でも露出制御回路が動作するのか、についての説明は全くないのである。つまり、付加する補正事項は、それを実施するための技術的な裏付けを欠いているのである。 ここで、ついでながら、 本願明細書及び図面の記載から明らかなように、シヤツタ・レリーズの前段階、つまり、撮影前の被写体の明るさ及び電池チエツクのための指示回路が形成されている状態と、シヤツタ・レリーズ後段階、つまり、シヤツタの開閉動作を制御する露出制御回路が形成されている状態とは、一部の部品が転用されることはあつても、 それぞれの回路が機能的には全く独立した回路として動作するのであつて、互に何の影響も与え合わないものなのである。というのは、指示回路がどのような状態であつたとしても、シヤツタ・レリーズ後段階で回路が切り換えられ露出制御回路が形成されると、この露出制御回路は、指示回路とは全く独立独歩の動作を始めるのである。これを見てもわかるように、付加する補正事項は、補正前の考案の目的は勿論、機能面でも全く結びつかない異質のものなのである。 原告は、また、本件補正により付加された構成は当業者に周知の技術である旨主張する。 しかし、常識上、電池の良・不良をチエツクする回路を有する装置では、該チエツク回路が「電池電圧が不良」を指示した場合には、露出制御回路をロツクしてシヤツタ開閉動作をしないようにすることが素直な考え方である。なぜなら、電池電圧が不良であると、正確な露出制御が期待できないからである。追加する補正事項は、「限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際にも露出制御回路は動作し得る」つまり、電池電圧が不良(たとえそれが「平均動作電圧以下でさらに許容される動作電圧以上」であるにしても)状態でもなお且つ露出制御回路を動作させようとするものであるから、通常の常識と逆の考え方であり、ユニークな技術思想というべきである。 以上のとおりであるから、本件補正を却下したことは正当であり、したがつて、 審決が本願考案の要旨を誤認した旨の原告の主張は理由がない。 2 引用先願考案との異同の判断の誤りについて 本件補正が却下を免れないものであることは前記のとおりであるから、補正後の考案の効果として原告が主張する事項は、本願考案と引用先願考案の異同の判断に影響するものではないが、念のため付言すれば、 原告主張の作用効果は、電池電圧が通常の作動電圧以下であつて作動不能状態になる電圧に至る間を指示するというものであるが、これらは、本件補正によつて登録請求の範囲に付加した構成によつて当然に生じる作用効果ではない。 結局、本件補正却下の決定が正当である以上、本願考案の要旨は出願公告された明細書の実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりのものとなり、これを前提としてなされた本件審決に原告主張の誤りはない。 |
|
証拠関係(省略)
理 由一 原告主張の請求の原因一、三及び四の各事実(特許庁における手続の経緯並びに審決及び本件補正却下決定の理由)については、当事者間に争いがない。 二 そこで、審決取消事由の存否について検討する。 1 成立に争いのない甲第一四号証(本願考案の実用新案出願公告公報)により認められる本件補正前における本願考案の実用新案登録請求の範囲(以下「補正前の請求範囲」という。)の記載(審決が本願考案の要旨と認定したところと同じ。)と当事者間に争いのない本件補正後における本願考案の実用新案登録請求の範囲(以下「補正後の請求範囲」という。)の記載(請求の原因(二)に記載のとおり。)とを対比すれば、補正後の請求範囲は補正前の請求範囲に請求の原因(二)の記載中の傍線部分の記載を付加することにより、本件補正前の本願考案の構成に右部分の記載に示す構成を付加し、これによつて、本願考案の実用新案登録請求の範囲を減縮したものであることが明らかである。 2 前記争いのない本件補正却下決定の理由によれば、本件補正却下決定が本件補正は実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものであるとした根拠は、補正後の考案の目的が補正前の目的の範囲を逸脱したという点にあるものと認められる。 しかしながら、補正前の請求範囲の記載と補正後の請求範囲の記載とを対比すれば、本件補正後の本願考案が依然として本件補正前の本願考案の目的である「露光の適正・不適正と電池電圧の良・不良を併せ指示すること」を全く同程度に達成するものであることは明らかである。もつとも、 本件補正後の本願考案が「電池出力電圧が所定値を下回つた際にも露出制御装置が動作しうる」という作用効果をも奏するものであることも、補正後の請求範囲の記載自体に徴して明らかであり、この点は、観点を換えれば、その考案の目的の一部ということもできないわけではないが、それは、本件補正前の本願考案における前記目的に単に付加されたにすぎず、右目的がそれによつて置換されたとみられるものではない。しかも、右付加された作用効果ないしは目的も、本件補正前の本願考案のそれと関係なく単に「露出制御装置が動作しうる」というにすぎないものではなく、本件補正前の本願考案の目的に含まれる「電池出力電圧低下の表示」を行なうための構成である「指示装置の電池回路からの遮断」との関係において「右遮断が露出制御装置の動作に影響を与えない」ことをいうにほかならないものである。 換言すれば、それは本件補正前の本願発明の目的の達成に附随して生ずる事態に関する作用効果であり、その意味で右目的に従属し、これに奉仕するものとみられるのである。したがつて、右の付加された作用効果ないしは目的は、本件補正前の本願考案の目的に付随する副次的なものというべきであり、これを右補正前の考案の目的を逸脱するものとみるのは相当でない。 なお、右の付加された構成と本件補正前の本願考案の構成との関係の面からみても、それは本件補正前の本願考案の目的とは全く別の「露出制御回路の動作」、つまり、シヤツタを開閉する撮影動作自体を目的とした構成、を付加するものであるということはできない。すなわち、シヤツタを開閉する撮影動作自体を目的とした構成は「露出制御装置」にほかならないところ、それが本件補正前の本願考案の構成要件であつたことは、補正前の請求範囲の末尾における「電池給電式電子露出制御装置を有する写真カメラ」の記載から明らかであり、また、この要件に照らせば、本件補正前の構成においても明記を欠くとはいえ当然存在したものと認められる指示装置、限界値回路等と露出制御装置の各部(電源電池、 光電分圧器等)との間の接続関係を特定のものに限定したにすぎないものであるところからみても、右の付加された構成が本件補正前の本願考案の目的と関係のない「露出制御回路の動作」を目的とするものとは考えられないのである。 ところで、被告は、「電池給電式電子露出制御装置を有する」との記載は考案が用いられる対象を示しているだけで、露出制御のための手段そのものは本件補正前の本願考案の目的及びそれを達成するための必須の構成要件の範囲外のものである旨主張するが、実用新案登録請求の範囲に明記されている事項である以上、それが考案の構成に欠くことのできない事項であることは当然であり、本件補正前の本願考案は、露出制御装置の存在を前提として考案されたものといわなければならないから、被告の右主張は採用できない。 また、被告は、本願考案の明細書及び図面には、限界値回路が指示装置のみを電池から遮断した際、つまり電池電圧が不十分な状態になつた際でもなおかつ露出制御回路を動作させるためにどのような具体的手段を設けるのか、また、なぜその状態でも露出制御回路が動作するのかの説明が全くないから、本件補正によつて付加する事項は技術的裏付けを欠く旨主張する。しかし、本願考案の明細書及び図面に、指示装置を切り離した後にホト抵抗と電池を露出制御回路に転用すること(前示のように、本願考案は露出制御装置を有するカメラにおいて指示装置を設けたものというべきであるから、むしろ、露出制御用のホト抵抗と電池を指示装置に転用したとみるべきであろう。)が記載されていることは被告の自認するところであり、右構造によれば、電池電圧が露出制御回路の動作にとつて十分であるかぎり、 指示装置を切り離した後で露出制御回路が動作しうることは明らかである。他方、 補正後の請求範囲の記載は、電池電圧が「所定値」を下回つた際に指示装置を切り離すというものであるから、右「所定値」の選定次第で右のような可能性が確実に生ずることは明らかである。そして、補正後の請求範囲の記載によれば、その記載中の「その際にも露出制御回路は動作しうるようにして」とは、 同じく「給電電池に直接的に並列に露出制御装置における光電分圧器を接続し、さらに前記光電分圧器の両端子間に並列に前記指示装置と前記限界値回路との直列接続体が設けられているようにした構成(この構成が本件補正前の明細書及び図面に記載されていることは前記甲第一四号証により明らかである。)によつてもたらされる前記のような可能性を示すにとどまるものと解するのが相当であるから、その技術的裏付けとしては、本願考案の明細書及び図面における前示記載で十分というべきであり、被告の右主張も失当である。 3 以上によれば、本件補正は、明細書及び図面に記載された事項の範囲内で考案の構成要件を付加することにより実用新案登録請求の範囲を減縮するものであり、 かつ、考案の目的を変更しないものというべきところ、このような場合には、実質上実用新案登録請求の範囲を変更するものにあたらないとするのが相当であるから、これを変更にあたるものとし本件補正却下決定を正当とする前提のもとに、本願考案の要旨を補正前の請求範囲の記載のとおりに認定した審決は、本願考案の要旨を誤認したものといわなければならず、また、その誤認が審決の結論に影響を及ぼすべきものであることは明らかである。 三 よつて、審決の違法を理由にその取消を求める原告の本訴請求を正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法第7条、民事訴訟法第89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判官 | 石澤健 |
---|---|
裁判官 | 楠賢二 |
裁判官 | 岩垂正起 |