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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成17ネ10115損害賠償請求控訴事件 判例 実用新案
平成18ワ1139不当利得返還等請求事件 判例 実用新案
平成15ワ13028実用新案権侵害差止等請求事件 判例 実用新案
平成18ネ10001実用新案権侵害差止等請求控訴事件 判例 実用新案
平成18ワ1304意匠権侵害差止等請求事件 判例 実用新案
関連ワード 損害額 /  構造 /  新規性(3条1項) /  特定 /  利益額 / 
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事件 平成 17年 (ネ) 1514号 実用新案権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(1審原告) ジェイディジャパン株式会社
同代表者代表取締役 A
同訴訟代理人弁護士 松村信夫
同 塩田千恵子
同 坂本優
同 岡本満喜子
被控訴人(1審被告) 株式会社古川
同代表者代表取締役 B
同訴訟代理人弁護士 高橋浩文
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2006/02/10
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1 本件控訴を棄却する。
2 控訴費用は,控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨等
1 原判決を取り消す。
2 被控訴人は,原判決別紙物件目録(2),(3)記載の商品を輸入し,譲渡し,引き渡し,譲渡若しくは引渡しのために展示してはならない。
3 被控訴人は,その所有に係る前項記載の物件を廃棄せよ。
4 被控訴人は,控訴人に対し,717万円及びこれに対する平成15年12月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は,第1,2審とも被控訴人の負担とする。
6 仮執行宣言
事案の概要
1 本件は,「RAZOR」又は「JDRAZOR」と称するキックスケーター(控訴人商品)を輸入,販売する控訴人が,「SCOOTER」と称する同種商品(被控訴人商品)を輸入,販売する被控訴人に対し,被控訴人商品の輸入,販売は周知商品等表示に対する混同行為(不正競争防止法2条1項1号)に該当すると主張して,輸入,販売等の差止め,被控訴人商品の廃棄及び損害賠償を求めた事案である。
原審は,控訴人の請求をいずれも棄却したため,控訴人が本件控訴を提起した。
2 前提事実 当事者間に争いがない事実並びに各項に掲げた証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定できる事実は,次のとおりである。
(1) 控訴人は,平成12年5月ころから,久鼎金屬實業股○(編注:○にはイの編に分という文字が入る)有限公司(以下「久鼎」という。)が製造した原判決別紙物件目録(1)記載の商品(以下「控訴人商品」という。)を輸入し,「RAZOR」又は「JDRAZOR」という商品名で販売している。(甲6(枝番を掲げない限り枝番は全部含む。以下同じ。)) なお,控訴人が設立されたのは平成12年5月であるところ,それ以前に控訴人以外の者が輸入,販売していた久鼎の商品や,久鼎が海外で販売していた商品を,以下「久鼎商品」ということがあるが,その形態は,控訴人商品と同一である。
(2) 被控訴人は,平成15年4月ころから,原判決別紙物件目録(2),(3)記載の構成からなる商品(商品名「SCOOTER」。以下,原判決別紙物件目録(2)記載の物を「被控訴人商品1」,同目録(3)記載の物を「被控訴人商品2」といい,併せて「被控訴人商品」という。)を輸入,販売している。(輸入販売開始月については,乙25の1。) 被控訴人商品2は,被控訴人商品1から「定位体」(ハンドルホルダーも含む。)を取り外した物である。(弁論の全趣旨) なお,被控訴人は,被控訴人商品1は,遅くとも平成15年7月1日より新規販売をしておらず,同年9月以降は被控訴人を通じて店頭販売されている被控訴人商品1は基本的に存在しないと主張している。
3 争点 (1) 被控訴人商品の輸入,販売は,控訴人の周知商品等表示に対する不正競争防止法(以下「法」という。)2条1項1号所定の混同行為に該当するか。
(2)ア 被控訴人商品の輸入,販売は,久鼎の周知商品等表示に対する法2条1項1号所定の混同行為に該当するか。
イ 上記アに該当する場合,控訴人は法3条1項にいう「不正競争によって営業上の利益を侵害され,又は侵害されるおそれがある者」に該当するか否か。
(3) 控訴人の損害額は幾らか。
争点に関する当事者の主張
1 争点(1)について 【控訴人の主張】 (1) 控訴人商品の形態(久鼎の有する実用新案に係る「二輪車の取り外し可能ハンドル」部分を除いたもの。以下同じ。)の商品等表示性と周知性 ア 控訴人商品の形態 (ア) 使用時 控訴人商品の使用時の商品形態は,原判決別紙物件目録(1)添付写真(A)の形態のとおりである。控訴人商品の形態の具体的な構成態様は,概略以下のとおりである。
a 全体的構成(基本的構成態様) (a) 控訴人商品は,@長さ約40センチメートル,幅約10センチメートルの矩形をした踏み板(ボード)と,A上記踏み板(ボード)の前端に(折畳み収納装置を介して)高さ約50センチメートル弱の円筒形部分と,円柱部に垂直にチューブにより折畳み自在に装着された約35センチメートル強のハンドル及び直径約10センチメートルの前輪部と,B上記踏み板(ボード)の後端に接合した二本のホークによって支持された直径約10センチメートルの後輪部と,C同じく上記踏み板後端に弾力性部品と固定ねじによって接合された車輪カバーを兼ねる後輪ブレーキ装置より構成されている。
(b) 商品の主要部分がアルミ合金(一部スティール)を素材とし,塗装が施されていないため,全体的に金属的でシャープな印象を与えている上記のような特徴を備えたスケートボード(キックスケー夕ー)である。
b 個別的構成(具体的構成態様) (a) 踏み板(ボード)部は, @ 上部中央部分に,前後に長い長楕円形の形状をした着色されたすべり止めテープが存在し,その上には白色で商品名が記載されている。
A 前後端部には,着色された成型プラスチックで作成された保護カバーが装着されている。
B 矩形の踏み板(ボード)の左右両端が下部内側に向かって傾斜している。
(b) ハンドル及び前輪部 @ ハンドル部下方には,折畳み収納装置によって踏み板(ボード)前端と接合された円筒形へッドチューブが存在する。
A その下端が左右一対のホークで前輪と接合する円筒形で中空の定位チューブが上記へッドチューブ内に嵌合している。
B 定位チューブの上部には,下部の内径が上部の内径よりやや太い円筒形で中空のジョイントパイプが存在し,定位チューブの上部がジョイントパイプの下部(内径が上部よりやや太く作られている部分)に嵌合し,ジョイントパイプ下部に設けられた固定バンドにより,両者は一体に回動するよう固定されている。
C ジョイントパイプの上部には,上端にT字形の把手取付部分を有する円筒形のハンドルポストが上下に伸縮自在に嵌合されている。
D 上記ハンドルポストは,使用者の身長等にあわせて上下に伸縮することができ,伸縮によって定位置が決定されると,ジョイントパイプ上端にある偏心レバー付固定バンドを操作することによって定位置に固定することができる。
E ハンドルポスト上端には,上記ハンドルポストと一体をなすT字形の把手取付部分が存在し,上記パイプの左右には,各々一本のパイプからなる左右一対の把手が着脱自在に嵌合されている。上記把手には発泡ウレタンで作成された両端がやや太く,両端からやや中央部よりの位置に各々絞りがあり,中央部に向かってややふくらみを持たせた着色された把手カバー一対が装着されている。
F 前輪部は,定位ポスト下端から下方に伸びた一対のホークによって支持され,直径約10センチメートルの半透明の硬質ポリウレタン製車輪とスポークから成っている。
G 使用者がハンドルポスト上端のT字把手を左右に操作することによって,上記ハンドルポスト及びこれと偏心レバー付固定バンドや固定バンドでそれぞれ固定されたジョイントパイプ及び定位ポストが左右に回動をなし,これに伴って定位ポストの下端にある前輪が左右に回動して,ボードの進行方向を左右に変えることができる。
(c) 後輪部は, 前記のように,踏み板後端に接着された二本のホークによって支持され,前輪と同じく,直径10センチメートルの半透明の硬質ポリウレタン製の車輪とスポークから成っている。
(d) 後輪ブレーキ部は, @ 全体として,半円弧状の後輪の車輪カバーのごとき形状を成し,その一端が,後端部に弾力性部品と固定ねじをもって接合され,かつ上記弾力性部品が踏み板部で車輪カバーを押し上げ,常態時には後輪と適当な距離を保つよう配慮されている。
A 使用者が片足のかかと部分を上記ブレーキの円弧上部に乗せ,ボードを減速又は停止する場合には上記片足かかと部を強く下方に踏み込むことにより,後輪との接合部に位置する弾力性部品が圧縮され,半円弧状のブレーキ部分の下側にあるブレーキカーブ面が後端と接触し,上記接触による摩擦の大小により走行を減速,又は停止することができる構造になっている。
(イ) 折畳み携帯時 使用者が控訴人商品を使用しない時(折畳み携帯時)の控訴人商品の形態は,原判決別紙物件目録(1)添付写真(B)のとおりであり,具体的な構成態様は次のとおりである。
a 前記(ア)b(b)において説明したジョイントパイプに対して上下に伸縮自在に嵌合されたハンドルポストを,ジョイントパイプに嵌合された定位チューブの筒内に存在するポスト受けチューブに接着する位置まで下方に押し下げ,偏心レバー付固定バンドで定置し, b 次に,踏み板前端部分に存在する折畳み収納装置の偏心レバーを開放し,へッドチューブ,定位チューブ,ジョイントパイプ及びハンドルポストを前記後端ブレーキ部上端に接着するまで押し倒して,これを簡易に携行することができる。
イ 控訴人商品の形態が,控訴人の商品等表示に該当し,周知となったこと (ア) 控訴人商品の形態が,控訴人の商品等表示に該当すること a 控訴人商品は,前記アのとおりの形態的特徴を有し,そのこれまでのスケートボードにはない新規特異な形態の特徴によって,強い自他識別力を有しているため,控訴人商品が市場に登場した直後に商品等表示性を有していた。特に,@そのスポーティーでコンパクトな全体的な構成と,A黒いハンドル部分を除き全体的にアルミ合金素材のため銀色であり,金属的でシャープな印象を与えている外観,及び,B2つに簡単に折り畳め,携行が容易である点を特徴とし,特に自他識別性の強い点は,前記アのうち,(ア)a(b)(アルミ合金で塗装のない点),b(a)B(ボード部の形状),(b)B(ハンドルから前輪部にかけてのジョイントパイプなど),C,D(ハンドルポスト),E(把手取付部分と把手),(b)Fと(c)(前輪部と後輪部の素材や色彩),(イ)(折畳み携帯時の形状,折畳み収納装置の形態)である。
そして,控訴人商品は,短期間の強力な宣伝広告とともに,成人向けの遊技・スポーツ用具として若者を中心とする一般消費者を需要者として,全国的に販売されたが,発売直後からその特異な形態と利便性から人気を集め,控訴人商品の形態が商品自体の機能や美観等の観点から選択されたという意味を超えて自他識別機能又は出所表示機能を有するに至り,平成12年5月又は同年秋に周知となった。
b また,仮にそうでないとしても,控訴人商品の形態は,これまでのスケートボードにはない新規特異なものであったがゆえに,平成11年4月ころの日本における久鼎商品の発売以来,青少年を中心に注目され,平成12年3月,4月ころには一大ブームになった。これに加えて,控訴人は,莫大な費用を投入して精力的に広告宣伝を行い,その際,必ず商品の写真を掲載していたことからすれば,少なくとも平成12年5月又は同年秋には,控訴人商品の形態は,二次的出所表示機能を取得し,控訴人の商品等表示になっていた。
(イ) 久鼎商品の形態が,久鼎の商品等表示に該当し,控訴人は久鼎の商品等表示性を承継して周知となったこと a 久鼎は,平成11年4月ころから,日本向けの久鼎商品の輸出を始めたが,代理店を絞って輸出し,平成12年5月以降は,ブランドとしての品質の高さを確保するために,控訴人を総輸入販売代理店とした。
久鼎商品は,発売直後から爆発的にヒットし,平成11年12月から平成12年春先にかけては品不足の状態になり,同年4月ころまでには人気と知名度が確立した。他にも,久鼎商品は,アメリカのCNNニュースを始めとしてマスコミにも多く取り上げられ,取引者,需要者の間で広く知られるに至った。
日本では,株式会社アトラスオート(以下「アトラス」という。)が初めて久鼎商品を輸入し,平成11年4月から平成12年4月にかけて大量に販売し,人気商品となった。
アトラス及び久鼎は,久鼎商品の日本国内における一層の普及を目的として,平成12年5月に控訴人(ただし,当時は有限会社であった。)を設立し,以降は控訴人が日本国内の控訴人商品の総輸入代理店として独占的に輸入をしている。
控訴人は,新聞・雑誌等の広告を通じて,控訴人商品及びその形態の宣伝,広告を行うとともに,控訴人が我が国における総輸入代理店であることを表示した。また,控訴人は,東京国際自転車展に控訴人商品を出展した。
b よって,久鼎商品の形態は,平成11年ないし平成12年初めころまでには,久鼎の商品等表示として周知になり,控訴人は,久鼎の獲得した商品等表示性を承継し,久鼎商品は平成12年3月,4月ころには一大ブームになり,これに加えて,莫大な費用を投入して精力的に広告宣伝を行い,その際,必ず商品の写真を掲載していた。それにより,久鼎商品ないし控訴人商品の形態は,少なくとも平成12年5月又は同年秋には,控訴人の商品等表示として周知となっていた。
(2) 被控訴人商品の類似及び混同 被控訴人商品の形態は,控訴人商品の形態と酷似している。被控訴人がこのような極めて類似した被控訴人商品を販売することは,販売店等の取引業者及び若者等の需要者をして,被控訴人商品と控訴人商品との出所を混同するか,あるいは両商品の提供主体に法律上・経済上何らかの関連があるのではないかとの混同を生じるおそれがある。
(3) 被控訴人主張(技術的形態除外論)に対する反論 被控訴人は,控訴人商品の形態のうち,@ハンドル操作により方向調節が可能(前記アの(ア)b(b)G),Aハンドル部分の高さを一定限度調節できる((ア)b(b)D),B折り畳むことによって簡易に携行できる((イ)),C車輪カバーを兼ねる後輪ブレーキ装置で減速停止できる((ア)a(a)C,(ア)b(d)A),Dハンドルについて左右一対の把手が着脱自在に嵌合されている((ア)b(b)E)点については,技術的形態であり,商品等表示性を欠くと主張する。
しかし,その余の形態,例えば,@T字型を形成したハンドルの把手や把手の両端に発泡ウレタンで作成された把手カバーが装置されていること,Aについてはハンドル部分の高さを調整するためのジョイントパイプの素材や下端部の内径が上部の内径より太く構成されているため全体が緩やかに外側に膨出した形状,Bについては半円弧状に形成された折畳み収納装置の形態,Cについては後輪ブレーキ装置が半円弧状の形状を有し,車輪カバーとしての形態・機能を併存していること,Dについては着脱自在の把手がT字型のハンドルポストに嵌合されている形状や把手に装着された把手カバーの形状などは技術的機能に由来することがない商品形態である。
また,控訴人商品の形態において技術的機能に由来する点があったとしても,控訴人商品の自他商品識別力が強い場合等には商品等表示として保護されるべきである。そして,控訴人商品は,その斬新で独創的な形態や控訴人による広告宣伝により周知性を獲得し,その自他商品識別力は非常に強いものであるから,出所表示機能が認められるべきである。
【被控訴人の主張】 (1) 商品等表示性及び周知性について ア 控訴人商品の形態とその構成が概ね控訴人主張のとおりであることは認める。
イ しかし,過去及び現在流通している他社の関連類似商品は,その求める機能上,従前よりどれも似たり寄ったりの形態になっている。
要するに,「運転するときハンドル付の細身のスクーターバイクのような形になることはもちろん,ハンドル操作によって方向が調節でき,ハンドルの高さを調節でき,さらに折り畳むことによって持ち運びができる」という特色と形を有するキックスケーターは,半透明のタイヤのものも含め,平成11年冬から平成12年春にかけて各メーカーがこぞって販売していた。例えば,「キックスケートボード街乗りテクニック&カスタム入門」(平成12年5月1日発行。乙37)に記載されているとおり,控訴人が強調している形態を備えている「タミ・タロス」,「マイクロ・ロングスケートスクーター」が,同日以前に,違う出所から販売されている。
ウ 控訴人が,【控訴人の主張】(1)アにおいて主張する形態のうち,ハンドル操作により方向調節が可能((ア)b(b)G),ハンドル部分の高さを一定限度調節できる((ア)b(b)D),折り畳むことによって簡易に携行できる((イ)),車輪カバーを兼ねる後輪ブレーキ装置で減速停止できる((ア)a(a)C,(ア)b(d)A),ハンドルについて左右一対の把手が着脱自在に嵌合されている((ア)b(b)E)などは,いずれも特定の技術的機能自体が強調されているか,その技術的機能を発揮させるための構造が主張されているにすぎない。このような技術的形態に関する特徴は,そもそも商品表示性を基礎付けるための材料となり得ない。
また,そもそも技術的機能自体の模倣は許容される状況下において,同一の技術的機能を有する形態が多数出回ってきた現状においては,それらが出所表示機能を取得する要素にはなり得ない。
エ このような技術的に関連する基本的形態及びそれより生ずる全体的特徴を前にしては,控訴人が差異を強調しようとする形態「@そのスポーティーでコンパクトな全体的な構成と,A黒いハンドル部分を除き全体的にアルミ合金素材のため銀色であり,金属的でシャープな印象を与えている外観」というものは,そもそも曖昧模糊とした評価であり,また,アルミという素材の選択やメタリックな色合い,「シャープ」な外観といった特徴も,メーカーであれば誰でも選択し得るようなもので,それ自体,もともと独立して商品等表示性を取得しがたい。
仮に,控訴人商品の形態を個別的に見て何らかの特徴的な点が存するとしても,それは結局のところ,従前より市場に広く出回っている多くのキックスケーター等の全体的な外観ないし普遍的な形態を前にしては,独立して個性を発揮しているとまではいえず,その主張する商品形態は周知商品等表示にまで至り得ない。
オ 控訴人商品販売開始後の間もない時期に違う出所が表示された同種商品の流通によって,控訴人商品の形態が有していたもともと弱かった新規性,特徴性もさらに弱まり,ついにはその商品形態自体の斬新性がなくなり,その形態が出所表示機能を有するに至らないまま現在を迎えているのである。
(2) 類似性及び混同について 被控訴人商品は,控訴人商品より一回り小さく,材質でもアルミ合金は踏み板部分にしか使っておらず,決して「全体的にアルミ合金素材のための銀色であり,金属的でシャープな印象を与えている外観」などを有しているものではない。
被控訴人商品は,控訴人商品の持つ重量感や高級感からは格段に劣るものであり,値段的にも外形的にも機能的にも,誤認混同のおそれは生じない。
2 争点(2)について 【控訴人の主張】 (1) 仮に,前記1【控訴人の主張】が認められず,控訴人商品の形態が控訴人の商品等表示に該当しないとしても,前記1【控訴人の主張】(1)イ(イ)aの事実からすれば,久鼎商品の形態は,久鼎の商品等表示に該当する。
(2) 控訴人は,前記1【控訴人の主張】(1)イ(イ)aの経緯により,日本国内における控訴人商品の総輸入代理店として独占的に輸入をしている。また,控訴人のその後の宣伝広告活動等により,久鼎商品ないし控訴人商品の形態はさらに広く知られるようになった。
したがって,控訴人は,法3条1項にいう「営業上の利益を侵害され又は侵害されるおそれがある者」として,久鼎の久鼎商品についての周知商品等表示性に基づき,被控訴人に対して被控訴人商品の販売等差止及び損害賠償を請求することができる。
【被控訴人の主張】 争う。控訴人商品の形態は,久鼎の商品等表示にも該当しない。
3 争点(3)について 【控訴人の主張】 (1) 法5条1項による損害 600万円 被控訴人の被控訴人商品1台当たりの利益額は200円であり,被控訴人は,平成15年4月ころから被控訴人商品を少なくとも3万台販売している。したがって,被控訴人が被控訴人商品の販売により得た利益は,600万円(200円×3万台)を下らない。
(2) 弁護士費用 117万円 (3) 合計 717万円 【被控訴人の主張】 争う。
当裁判所の判断
1 争点(1)について (1) 商品の形態は,商品の機能を発揮したり,商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり,本来的にはその商品の出所を表示する機能を有するものではないが,特定の商品形態が同種の商品と識別し得る独自の特徴を有し,かつ,それが長期間にわたり継続的にかつ独占的に使用されたり又は短期間であっても強力に宣伝されるなどして使用されたような場合には,結果として,商品の形態が,商品自体の機能や美観等の観点から選択されたという意味を超えて,自他識別機能又は出所表示機能を有するに至り,その出所表示機能が需要者の間で広く認識されることがあり得るというべきである。こうした場合には,その商品の形態自体が,法2条1項1号にいう商品等表示に該当するということができる。
そして,法2条1項1号の目的は,当該事業者の周知の商品等表示に化体した信用等の無形的財産を,他の事業者が,上記商品等表示と同一又は類似の商品等表示を用いて混同を生じさせることにより奪取するという不正な競争行為を抑止することにあることに鑑みれば,当該事業者が,他の事業者の行為を,法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして,法3条に基づき差し止めるためには,当該事業者の商品の形態が過去のいずれかの時点で商品等表示に該当していたというだけでは足りず,差止請求訴訟の事実審の口頭弁論終結時において,当該事業者の商品の形態が商品等表示に該当していることを要すると解するのが相当である。
また,同様に,当該事業者が,他の事業者の行為を法2条1項1号の不正競争行為に該当するとして,法4条に基づき損害賠償を請求するためには,他の事業者が損害賠償請求の対象となる行為をした時点において当該事業者の商品の形態が商品等表示に該当していることを要すると解するのが相当である。
(2) 証拠(甲14,19〜24,35〜86,乙1〜9,37,39〜41,43〜46(枝番のあるものは枝番も含む。))及び弁論の全趣旨によれば,次の事実が認められる(重要な証拠については認定の末尾に再掲する。)。
ア 運転するときL字型でハンドル付の細身のスクーターバイクのような形になり,ハンドル操作によって方向が調節できるというキックスケーターは,子供用の玩具としては古くからあったが,成人用としては,昭和50〜60年代に,3輪でペダル式のもの(ローラースルーGOGO7),折り畳むことによって持ち運びができる3輪のもの(ジョイスケート)が販売されていた。(甲14,乙39の16) イ 久鼎は,平成10年11月ころ,久鼎商品をアメリカで発売した。久鼎商品は,平成11年4月ころから日本に輸入されるようになり,同年末ころには人気が出て,各地の販売店では品薄状態になった。
ただし,控訴人が設立された平成12年5月以前は,アトラス,タチカラ株式会社,株式会社野田商会,株式会社キット,株式会社ジェイアールエス,株式会社タケマエ,PIAA株式会社等が久鼎商品を輸入,販売していた。
(甲79〜85) ウ 平成11年末から平成12年初めにかけては,久鼎商品の他にも,ロゴマーク以外は久鼎商品ないし控訴人商品と同一である「マイクロ」や,2輪・T字型ハンドルで,踏み板が矩形であるが,大型で折畳みができない「ROLLERBOARD」,ハンドルの代わりに球状グリップ付きスティックを備え,3輪であるが,スティックの高さをクイックリリース機構で調節でき,2つに簡単に折畳みができて携行が容易で,車輪が直径10p程度の半透明の樹脂製で車輪カバーを兼ねる後輪ブレーキ装置を備え,スティック及び踏み板の前後が金属製で銀色の「K2キックボード」,4輪・T字型ハンドルで踏み板が矩形の「チロ・スケーター」,逆L字型ハンドルの高さを調整でき,踏み板が梯子状になっており,後輪がダブルタイヤになっている「IZボード」などが市場に存在した。
また,平成12年初めには,2輪で折畳みができる「MP-10ダックス」が発売された。
(甲14,19〜24,乙37,39〜41) このうち,平成11年夏ころに発売された「K2キックボード」は,キックスケーターブームの火付け役とされた人気商品であり,その商標である「キックボード」が控訴人商品を含むキックスケーターの総称のように使われていたものである。(甲14の8頁,75頁,乙10,乙37の3頁,26頁,乙39の1) また,「マイクロ」は,マイクロ社が久鼎の承諾の下に,久鼎商品ないし控訴人商品と同じ工場で製造してヨーロッパ向けに販売したものを,株式会社シークラフトが日本に輸入し販売していたもので,ロゴマーク以外は久鼎商品ないし控訴人商品と同一であるが,日本国内でも相当数販売されていた(甲14,乙37)。これに対し,株式会社シークラフト従業員作成に係る陳述書(甲87)には,マイクロの販売量は極めて微量であった旨の記載があるが,具体的販売量には言及していないものであり,甲14の16頁には「マイクロも日本国内で相当数販売されている」との記載があること,同78〜80頁にはマイクロ取扱店として多数の販売店が記載されていること,「マイクロ」向けの多数のカスタムパーツが発売されていること(乙37の16頁)に照らして,上記陳述書はにわかに信用できない。
平成12年4月ころの時点では,「キックスクートといえば「レーザー」というのは昔の話。2000年4月を境に続々と新ブランドが登場」,「おなじみのレーザー」とキックスケーターを紹介する本に書かれるほど,キックスケーターの中では久鼎商品が前記「K2キックボード」とともに最も人気のある商品であった。(甲50〜52,76〜86,乙37の10頁,11頁) エ 平成12年6月ころから同年末ころにかけて,久鼎の販売する久鼎商品はアメリカでも大人気となり,アメリカのテレビ番組や雑誌において紹介された。
(甲35〜44,47〜49,59〜75) オ 平成12年4月から6月にかけては,2輪・T字型ハンドルで,小型で2つに簡単に折り畳んで携行することができ,ハンドルの高さ調節ができ,後輪カバーがブレーキとなっているキックスケーターとして,次のものが存在した。
(ア) 半透明の車輪でハンドル部は持ち手以外が銀色で,踏み板は「メタリックでクールな質感」と評される「ストーム」(乙37の14頁) (イ) 半透明の車輪でハンドルの一部と踏み板が銀色の「タミ・タロス」(乙37の17頁。ただし,平成12年8月ころ,久鼎が申立てた仮処分によって販売が差し止められた。) (ウ) 踏み板とハンドルの一部以外が銀色の「フェザー」(乙37の19頁) (エ) ハンドルの一部以外が銀色の「マックスウエル」(乙37の23頁。ただしブレーキ装置はハンドル部分にある。) (オ) 踏み板(長楕円形)とハンドルの一部以外が銀色の「ストリートボード」(乙37の22頁) (カ) ハンドルを除く全体が銀色の「テッドマンズ」(乙44,46) (キ) ハンドルを除く全体が銀色の「ゼロ」(乙44) (ク) ハンドルを除く全体が銀色の「ブレット(シルバー)」(乙45。
ただし,ブレーキ装置は後輪カバーの他にハンドル部分にもある。) カ 平成16年2月ころには,2輪・T字型ハンドルで,小型で2つに簡単に折り畳んで携行することができ,ハンドルの高さ調節ができ,後輪カバーがブレーキとなっているキックスケーターとして,車輪が半透明の,「ラビット」,「ジャストスタート」,「ピラニア」や,上記特徴に加えて多くの部分が銀色の「キックスケーター」,「スタースティック」,「ズーム」,「スケーターズ」,「スクーター・プロ5181」が存在した。(乙1〜3,5〜9) (3) 控訴人のした宣伝,広告は次の内容である(甲6〜13,53〜58)。
ア 平成12年7月に一度,読売新聞のスポーツ欄又はテレビ・ラジオ欄の下部に三段抜きで全国的に控訴人商品を広告した。また,控訴人は,同月,西日本新聞にも一度,同様の広告をした。
イ 平成12年7月から同年10月にかけて,雑誌「Ollie」に3回,同年9月に雑誌「Hoo」に1回,同年10月から平成14年4月にかけて雑誌「Lightning」に5回,各1頁の広告をした。
自転車業界の業界紙に,平成12年9月から平成13年12月にかけて,9回にわたり半頁の広告をした。
ウ 平成12年11月及び平成13年11月に東京ビッグサイトで行われた東京国際自転車展に控訴人商品を出展し,これを得意先に通知した。また,その状況は,雑誌「CYCLE PRESS JAPAN」において紹介された。
(4) 以上の事実によれば,控訴人商品の形態の商品等表示性については,次のとおりと認められる。
ア 控訴人は,控訴人商品の形態の特徴として,@スポーティーでコンパクトな全体的な構成,A黒いハンドル部分を除き全体的にアルミ合金素材のため銀色であり金属的でシャープな印象を与えている外観,B2つに簡単に折り畳め,携行が容易である点,前記第3の1【控訴人の主張】(1)ア(ア)b(a)B(ボード部の傾斜),(b)B(ハンドルから前輪部にかけてのジョイントパイプなど),C,D(ハンドルポスト),E(把手取付部分と把手),(b)Fと(c)@(前輪部と後輪部の素材や色彩),(イ)(折畳み携帯時の形状,折畳み収納装置の形態)などをあげる。
しかし,上記主張に係る点のうち,(ア)b(a)B(ボード部の傾斜),(b)B(ハンドルから前輪部にかけてのジョイントパイプなど),C,D(ハンドルポスト),E(把手取付部分と把手),(b)Fと(c)@(前輪部と後輪部の素材や色彩)等は,特に意表をつくような素材,色彩,形状の選択ということができないものか,又は商品全体から見れば細部の違いというべきものであって,いずれも,一般消費者が商品を見るにあたって目を引く独自の特徴とはいえない。
また,@の「スポーティーでコンパクトな全体的な構成」とか,Aのうち「金属的でシャープな印象」というのは,見る者の主観であって,商品の形態ということはできない。
イ(ア) 以上の控訴人商品の形態の特徴とはいえない部分を除外すると,控訴人商品の形態は,T字型ハンドル付きの2輪で,黒いハンドル部分を除き全体的にアルミ合金素材のため銀色であり,小型でかつ2つに簡単に折り畳めることを兼ね備えているという点において,特徴を有するということが相当である。
(イ) しかし,前記(2)認定のとおり,平成12年4月ないし6月ころには,既にT字型ハンドル付きの2輪で,小型でかつ2つに簡単に折り畳めることを兼ね備えているキックスケーターが多数販売されていたこと,その中には一部が銀色のものも複数存在し,特に「テッドマンズ」,「ブレット(シルバー)」は控訴人商品と同様に黒いハンドル部分を除き全体的に銀色であること,平成16年2月ころにも,T字型ハンドル付きの2輪で,小型でかつ2つに簡単に折り畳めることを兼ね備えているキックスケーターが多数販売されており,中でも「キックスケーター」,「ズーム」,「スケーターズ」,「スクータープロ5181」は,控訴人商品と同様に,黒いハンドル部分を除き全体的に銀色であることが認められる。
(ウ) また,平成11年ころから,久鼎商品及びロゴマーク以外は久鼎商品ないし控訴人商品と同一である「マイクロ」が日本国内でも相当数販売されていたことは前示のとおりである。そして,上記時期に販売されていた久鼎商品及び「マイクロ」は,いずれも輸入販売者が控訴人ではない(久鼎商品の輸入販売者はタチカラ株式会社等であり,「マイクロ」の輸入販売者は株式会社シークラフトであった。)。
(エ) 以上によれば,上記控訴人商品の形態は,同種の商品と識別し得る独自の特徴というほど需要者に認識されるとは認められない。
しかも,素材としてアルミ合金を使用したり,ハンドル部分を除く全体的に銀色にすることや,ハンドル部分を黒色にすることは,特に意表をつくものではない素材や色合いの選択の域を出ず,需要者においてそれほど特異なものと認識されるとは認められない。
そうすると,上記(3)認定の宣伝広告がされたことや,多数の控訴人商品が販売されたことを考慮しても,控訴人主張の平成12年5月又は同年秋においても,また,被控訴人商品の販売が始まった平成15年4月から当審口頭弁論終結時までの期間においても,控訴人商品の形態が自他識別機能ないし出所表示機能を備え,控訴人の商品等表示性を有していたということはできない。
そして,久鼎が平成11年から平成12年初めころにかけて日本で宣伝,広告とともに久鼎商品を大量に販売したとの控訴人主張事実に沿った証拠(甲14,25〜28,41,45,46,51,76)があるが,上記認定のとおり,控訴人主張の平成11年ないし平成12年初めころ,久鼎商品の他にも「ROLLERBOARD」,「K2キックボード」,「チロ・スケーター」,「IZボード」などが市場に存在したことに照らし,久鼎商品の形態が自他識別機能ないし出所表示機能を備え,久鼎の商品としての商品等表示性を有しており,控訴人がそれを承継したとはいえない。仮に同期間に同商品表示性を有した状況が出現した時期があったとしても,被控訴人商品の販売が始まった平成15年から当審口頭弁論終結時までの期間においても,久鼎商品ないし控訴人商品の形態が自他識別機能ないし出所表示機能を備え,商品等表示性を有していたということはできない。
(5) したがって,控訴人商品の形態が,控訴人の商品等表示に該当するとか,久鼎商品の形態が久鼎の商品等表示に該当し,控訴人が上記商品等表示性を承継したということはできないから,被控訴人商品の輸入,販売は,控訴人の周知商品等表示に対する法2条1項1号所定の混同行為に該当しない。
2 争点(2)について 上記1のとおり,久鼎商品と同様の特徴を有する多くのキックスケーターが販売されたことにより,控訴人主張の平成12年5月又は同年秋においても,また,被控訴人商品が販売された平成15年4月から当審口頭弁論終結時までの期間においても,久鼎商品の形態が久鼎の商品等表示であったとはいえない。
したがって,被控訴人商品の輸入,販売は,久鼎の周知商品等表示に対する法2条1項1号所定の混同行為に該当するということもできない。
3 結語 その他,原審及び当審における当事者提出の各準備書面記載の主張に照らし,原審及び当審で提出,援用された全証拠を改めて精査しても,以上の認定,判断を覆すほどのものはない。
以上によれば,その余の争点について判断するまでもなく,控訴人の請求は理由がないから,これを棄却した原判決は相当であり,本件控訴は理由がなく棄却を免れない。
よって,主文のとおり判決する。
(口頭弁論終結の日・平成17年12月20日)
裁判長裁判官 若林諒
裁判官 小野洋一
裁判官 中村心