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事件 |
昭和
55年
(ワ)
6390号
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 1986/04/25 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
一 被告は原告に対し、金五五万円及びこれに対する昭和五九年一二月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。 二 原告のその余の請求を棄却する。 三 訴訟費用はこれを一五分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。 四 この判決は主文一項について仮に執行することができる。 |
事実及び理由 | |
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全容
一 当事者の求めた裁判1 原告(一) 被告は原告に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する昭和五九年一二月一四日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。 (二) 訴訟費用は被告の負担とする。 (三) この判決は仮に執行することができる。 2 被告(一) 原告の請求を棄却する。 (二) 訴訟費用は原告の負担とする。 二 原告の請求原因 被告は無効原因のある実用新案権に基づいて原告の取引先に虚偽の事実を陳述流布し、これによつて原告に損害を興えた。その事実関係は以下のとおりである。 1 原・被告は食品包装用合成樹脂材等の製造販売を業とする会社である。原告は別紙目録記載の豆腐充填用の容袋(以下「原告容袋」という。)を製造販売している。 被告は次の実用新案権の権利者であつた。 登録番号 第一二七七九三五号考案の名称 包装豆腐出願日 昭和四三年一〇月一一日出願公告日 昭和五三年六月六日登録日 昭和五四年三月一五日本件実用新案の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲の記載は次のとおりである。 「合成樹脂薄膜を重ね合わせ底部2と、平行直線状の左右接着側縁3、3とで、上部の開口した袋状胴部1を形成し、この両側縁3、3の上方を夫々内方かつ斜上方向け傾斜状に接着して肩部縁4、4を形成すると共に、ノズル13と照応した口経と機械充填の際挟持を得るに充分な長さとを持つ口部5を造り出す様、肩部縁4、 4をへてほぼ直上方向に延びる口側縁6、6を接着形成し、かつ、両肩部縁4、4と胴部両側縁3、3並びに口側縁6、6との接合部に丸みを持たせてアール部7、 7、8、8を形成させた容袋9でもつて、その口部5からノズル13を用いて注入充填させた後、その口部5を接着11して密封された豆乳類を加熱に次ぐ冷却を得て凝固させて造り出された豆腐10を真空包装状に密封包装させた包装豆腐。」2 本件実用新案の無効 原告は、本件実用新案に明白な無効理由のあることを理由として、昭和五四年八月二四日付で無効審判を請求したところ、昭和五六年一月一七日付でその登録を無効とする旨の審決が下された。 右審決の理由は次のとおりである。本件実用新案は、実公昭三五ー二八七八九号公報及び実公昭三六ー二二八八八号公報記載の公知事実、並びに本件実用新案出願前に周知の事実(豆乳を豆腐とする際加熱し次いで冷却することにより凝固させること)に基づき、当業者が極めて容易に考案できたものであり、実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができない。 被告は昭和五六年三月六日審決取消訴訟を提起したが東京高等裁判所は昭和五九年六月二七日審決の判断には誤りがないとして請求棄却の判決を下し、右判決が確定した。 3 本件実用新案は被告の詐欺行為によつて登録されたものである。 (一) 被告は、本件実用新案の出願日である昭和四三年一〇月一一日以前から、 本件実用新案の構成要素を充たす豆腐充填用の容袋(以下「本件容袋」という。)を製造販売していた。右事実は次の各証拠からも裏付けられる。 (1) 債権者【A】債務者被告外一名間の大阪地裁昭和四四年(ヨ)第四一三号仮処分(以下「別件仮処分」という。)命令申請書(乙第三二号証)の第一目録の8ないし12には、被告が製造販売していた本件容袋が記載されている。右事件に至つたのは、【A】が被告に対し、本件実用新案の出願前である昭和四三年五月七日、本件容袋の製造販売の中止を求めたのに(乙第三三号証)、被告がこれを無視したためであつた。 (2) 別件仮処分事件における被告の昭和四四年五月二日付準備書面(乙第三四号証)及びその添付図面には、本件実用新案の全ての条件がそのまま示されており、被告は本件実用新案を出願前公然と実施していたことを自認したことに帰する。 (3) 被告は、本件実用新案の無効審判事件において、本件実用新案の出願前に製造販売していた豆腐充填用の容袋と称して、審判証拠乙第三号証を提出した(乙第三七号証)。この容袋の全容は本件容袋そのものである(乙第三九号証)。 (二) 本件実用新案は登録第五四〇三一五号実用新案(前出実公昭三五ー二八七八九号公報で公告。被告側はこれを本件実用新案出願前の昭和三六年一〇月に権利者から譲り受けた。)をそのままコピーして出願されたものである。右事実は次の各証拠からも裏付けられる。 (1) 本件実用新案登録願に添付された原始明細書(乙第二三号証)の記載と、 実公昭三五ー二八七八九号公報(乙第一六号証)の記載とは、容袋の構成、作用及び効果の点で符合する。 (2) 被告は、別件仮処分事件の前記準備書面(乙第三四号証)中で、その製造販売に係る豆腐充填用の容袋(本件容袋)は登録第五四〇三一五号実用新案の実施品であると陳述した。 (3) 被告の製造販売した本件容袋(乙第三五号証)には、実用新案登録第五四〇三一五号の表示の印刷がある。 (三) 以上のとおり、本件容袋が本件実用新案の出願前に既に被告によつて製造販売されていた点において、更には本件実用新案が登録第五四〇三一五号実用新案をそのままコピーして出願されたものである点において、本件実用新案は極めて悪質な詐欺行為(実用新案法57条)によつて登録されたものである。本件実用新案の特許庁での審査過程で、登録第五四〇三一五号実用新案の存在が看過されたために、被告の詐欺登録のもくろみを誰もが看破できなかつたものである。 4 被告の過失本件実用新案を無効とする上で決定的な意義のあつた登録第五四〇三一五号実用新案は元々被告側の権利であつた。 被告は、本件実用新案の登録出願時において右実用新案の存在を充分認識し、その実用新案公報の記載を本件実用新案の登録出願明細書の記載に便宜的に転用したものであるから、このような事情の下で取得された本件実用新案が有効に存在できると被告が信ずべき合理的理由はなかつた。 従つて、仮に被告が右のように信じていたとしても、そのように信ずるにつき過失があつた。 5 被告の本件実用新案権に基づく警告行為等(一) 被告は本件実用新案の出願公告後である昭和五三年九月二日以降、原告の得意先である原告容袋販売業者、原告容袋を使用する豆腐製造業者に対し、原告容袋は本件実用新案権を侵害するとして、その使用を中止するよう警告してきた。 (二) 被告は昭和五五年四月九日、原告の主要取引先である丸豆物産株式会社を含む五名を相手どり、本件実用新案権に基づき原告容袋の販売差止、原告容袋を使用した包装豆腐の製造販売差止、損害賠償請求等の訴えを大阪地方裁判所に起した。 (三) 被告は無効審決後も原告の得意先等に対し次のとおり前同旨の警告をした。 (1) 昭和五六年一月一八日、杖立温泉で開催された九州豆腐機材組合の会合において、原告の顧客に対し、原告が本件実用新案権を侵害しているとして、原告との取引を中止するよう口頭で警告した。 (2) 同年三月六日、原告の東北方面の得意先に対して、前同旨の廻状を出した。 (3) 同日、原告の得意先である丸栄化成工業株式会社に対し、被告の顧問弁理士及び顧問弁護士名で、前同旨の記載を含む書面(乙第四八号証)を送つた。 (4) 更にその頃、原告の得意先である青森県豆腐油揚商工組合に対しても、前同旨の警告をした。 (5) 同年七月二七日、原告の得意先である東北大栄プラスチツク株式会社に対して、被告訴訟代理人である原滋二弁護士の名で前同旨の書面(乙第五〇号証)を送つた。 (四) 被告は、本件実用新案権が本質的に無効理由を含むものであることを充分認識しながら、又は少なくとも過失によりこれを認識せずに前記各行為に及んだのであり、これらの行為は不正競争行為(不正競争防止法1条1項6号)、不法行為に該当する。 6 被告の右行為によつて、原告は次のとおり合計四一三四万三七四六円の得べかりし利益を失なつた。 (一) 原告容袋の製造販売は昭和五三年度まで次のとおり順調に推移した(各年度は七月より翌年六月まで)。 (1) 昭和五〇年度 二六二九万三一〇三枚(2) 昭和五一年度 三〇三八万七九三一枚(3) 昭和五二年度 三一四六万五五一七枚(4) 昭和五三年度 四七四三万五三四四枚(二) 被告が昭和五三年九月から昭和五八年六月頃まで前記行為に出たため、原告の業績は次のとおり極端に悪化した(各年度の始期、終期は前に同じ)。 (1) 昭和五四年度 三四〇五万一七二四枚(2) 昭和五五年度 二三二七万五八六二枚(3) 昭和五六年度 三四六八万七五〇〇枚(4) 昭和五七年度 三八六六万三七九三枚(三) そして、被告が虚偽事実の陳述・流布及び販売・使用中止の警告等をしなくなつた昭和五八年度(昭和五八年七月〜昭和五九年六月)に至り、原告の業績は過去最高であつた昭和五三年度並みの四九一三万七九三一枚に回復した。 (四) このようにして、右(二)の業績が悪化した期間の製造販売量は、昭和五三年度の実績に比して、次のとおりの大幅減となつた。 (1) 昭和五四年度 一三三八万三六二〇枚(2) 昭和五五年度 二四一五万九四八二枚(3) 昭和五六年度 一二七四万七八四四枚(4) 昭和五七年度 八七七万一五五一枚(五) 原告は、原告容袋一枚につき七〇銭の純利益を得てきたので、販売減少枚数にこれを乗じて算出した次のとおりの得べかりし利益を失つた。 (1) 昭和五四年度 九三六万八五三四円(2) 昭和五五年度 一六九一万一六三七円(3) 昭和五六年度 八九二万三四九〇円(4) 昭和五七年度 六一四万〇〇八五円 合計四一三四万三七四六円7 特許庁で無効審決が下された昭和五六年一月一七日以降の期間に、被告の虚偽事実の陳述・流布及び販売・使用中止の警告等によつて原告の蒙つた損害は、前記6項(五)の(3)(4)のほか、更に次のとおり合計九〇一万二七〇〇円である。 (一) 弁護士・弁理士費用合計四〇一万二七〇〇円 原告は、昭和五五年九月一二日当庁に本件訴訟を提起するとともに、被告が東京高等裁判所に提訴した審決取消訴訟への応訴を余儀なくされた。これら事件の訴訟行為を訴訟代理人、輔佐人に委任し、右金額の出費を要した。 (二) 無形の損害五〇〇万円 被告の前記5項の(三)の(1)ないし(5)の行為により原告は信用を著しく毀損され、これにより少なくとも五〇〇万円の損害を蒙つた。 8 よつて、原告は被告に対し、6、7項の損害金合計五〇三五万六四四六円の内金一〇〇〇万円、及びこれに対する不正競争行為、不法行為後である昭和五九年一二月一四日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。 三 請求原因に対する被告の認否1 請求原因1項及び2項の事実は認める。 2 同3項及び4項は否認ないし争う。 3 同5項について(一) (一)(二)の事実は認める。 (二) (三)の事実中、(1)(2)(4)は否認し、(5)は認め、(3)は認める(但し「前同旨の記載を含む」の部分は否認する)。 (三) (四)は争う。 4 同6項及び7項の事実は否認する。 四 被告の主張1 原告は別件仮処分事件申請書の第一目録に被告が製造販売していた本件容袋の記載があると主張する。 しかし、【A】が右仮処分申請をした日は、本件実用新案が出願されてから三か月余り後の昭和四四年二月八日である。申請書の目録に本件容袋の記載があつても、本件容袋が本件実用新案の出願前に公知であつたことの資料とはならない。 2 原告は、【A】が被告に対し、右仮処分申請前に本件容袋の製造販売の中止を求めたと主張する。 被告はそのような事実は不知であるが、原告指摘の乙第三三号証には「ジユース袋等」の構造の記載がないので、同号証は本件実用新案の出願前に被告が本件容袋を製造販売していた事実を示すものではない。 3 原告は、本件実用新案登録願に添付された原始明細書の記載と、実公昭三五ー二八七八九号公報の記載とが符合すると主張する。 被告は、本件実用新案出願当時、実公昭三六ー二二八八八号公報にみられるような角型容袋を製造販売していたが、この容袋では破袋を生ずる欠陥が指摘された。 そこで、被告の代表取締役であつた【B】が本件実用新案を考案し、緊急に出願する必要上、実公昭三五ー二八七八九号公報の記載の一部を表現上援用したまでである。本件実用新案は、出願後補正されて登録が認められたものであるから、原始明細書の記載を云々するのは当らない。 4 原告は、被告が別件仮処分事件において、「本件容袋は登録五四〇三一五号実用新案の実施品である」と陳述した事実をとらえて、被告の悪意を主張する。 しかし、右事件の争点は、被告の製造販売する容袋の注入口が【A】の特許権を侵害するか否かであつた。被告はこの争点に関して右実用新案の実施品である旨陳述したにすぎない。被告が注入口に関してかような陳述をしたからといつて、本件容袋全体が右実用新案の実施品であることを認めたことにはならない。 5 原告は、被告の製造販売した本件容袋(乙第三五号証)に実用新案登録第五四〇三一五号の表示のある事実をとらえて、被告の悪意を主張する。 しかし、右容袋に右実用新案の表示をしたのは、右容袋が右実用新案の要旨とする容袋口部の特長を備えているからである。この表示は注入口に関する効用を訴えるためのものであつて、容袋全体が右実用新案の対象である旨の表示ではない。 6 被告は、本件実用新案が審決取消訴訟の確定によつて無効とされるまでは、本件実用新案の権利者であつた。原告容袋を業として販売することは本件実用新案権を間接侵害し、原告容袋を用いて業として豆腐を製造することは本件実用新案権を侵害する。 従つて、被告が本件実用新案権者であることを主張して、原告容袋販売業者、原告容袋を使用する豆腐製造業者に対し、本件容袋が本件実用新案権を侵害するものである旨を陳述・流布し、その販売・使用を中止するように警告することは、権利者として当然の行為である。このことは後に至つて本件実用新案が無効とされたことによつて変るものではない。 7 不正競争行為、不法行為による損害賠償請求権の成否を判断するに当つては、 行為者及び被害を主張する者の行為態様など種々の観点から検討すべきである。 被告は多くの費用、労力を投入して研究を重ね、特許庁の慎重な審査を経て本件実用新案の登録に至つた。これに対して、原告は、被告の開発した本件容袋をそのままコピーして、原告容袋を製造販売している。 本件実用新案が後に無効とされても、被告が登録を受けた権利者としてなした行為を理由に、商業道徳に反してコピーした原告の損害賠償請求が認められてよい筈はない。 五 証拠(省略) 理 由一 請求原因1項及び2項の事実は当事者間に争いがない。 成立に争いのない甲第一号証、別紙目録の記載及び弁論の全趣旨によれば、本件実用新案の無効が確定するまでの間については、別紙目録記載の豆腐充填用の容袋(原告容袋)を業として販売することは、本件実用新案権を間接侵害(実用新案法28条)し、原告容袋を用いて業として豆腐を製造することは、本件実用新案権を侵害するといえる。 二 原告は本件実用新案が被告の詐欺行為によつて登録されたと主張するので、検討する。 1 請求原因3項(一)について。 (一) 成立に争いのない乙第三二号証、第三四号証によれば、債権者【A】債務者被告外一名間の当庁昭和四四年(ヨ)第四一三号仮処分(別件仮処分)命令申請書添付第一目録記載の8ないし12の容袋、及び同事件での被告の昭和四四年五月二日付準備書面添付債務者製品(B)の説明書記載の容袋は、本件容袋と同一のものと認められる。 しかし、乙第三二号証によれば、別件仮処分事件は、本件実用新案出願日である昭和四三年一〇月一一日から約四か月も経過した昭和四四年二月八日に申請されたことが認められる。しかも、同申請書の一二項の六行目以下には、「最近に至り債務者両名は相謀り別紙第一目録記載の豆腐容袋として大量に生産販売し」との記載がある。 右「最近に至り」との記載に照らせば、右目録及び説明書から別件仮処分命令申請当時第一目録記載の8ないし12の容袋が存在したと認めうるにしても、本件容袋が本件実用新案出願前から製造販売されていたものとは認められない。 (二) 弁論の全趣旨により成立の認められる乙第三三号証によれば、【A】が被告に対し、本件実用新案の出願前である昭和四三年五月七日、ジユース袋等の製造販売の中止を求めたことが認められる。 しかし、右同号証には「ジユース袋等」と記載されているにすぎず、「等」のなかに豆腐充填用の容袋が含まれるか明らかでないうえ、「ジユース袋等」の構造が不明であるので、右同号証からは、本件容袋が本件実用新案出願前から製造販売されていたものとは認められない。 (三) 成立に争いのない乙第三七号証によれば、被告が本件実用新案の無効審判事件の答弁書中で採用する証拠として、「乙第三号証、被請求人(被告のこと)が本件実用新案の登録出願日以前に製造販売していた豆腐用容袋」と摘示し、答弁書末尾に右容袋のコピーを添付したことが認められる。 しかし、右添付された容袋のコピーは角型容袋であり、本件実用新案の「両肩部縁4、4と胴部両側縁3、3並びに口側縁6、6との接合部に丸みを持たせてアール部7、7、8、8を形成させた容袋9」の要件を充足せず、本件容袋ではないことが認められる。 従つて、乙第三七号証からは、本件容袋が本件実用新案出願前から製造販売されていた事実は認められない。 2 請求原因3項(二)の(1)ないし(3)について(一) コピーして出願したとの点 成立に争いのない乙第一六号証によれば、登録第五四〇三一五号実用新案は、 糊・液体・粉状物等を収容するための合成樹脂製袋の注入口に関するものであり、 注入口を形成する左右両側下辺と上辺を共に熔着して不離の状態となし、下辺のみを上辺より長く突出せしめるとともに、上辺の開口端を斜めに構成した合成樹脂製袋の注入口の構造に関するものと認められる。 他方、本件実用新案は、特定の形状を持つた豆腐充填用の容袋(本件容袋)と、 その容袋内に充填されている豆腐に関するものであり、しかも右容袋についても、 容袋全体の形状(特定の形状をもつた注入口、口部、胴部)に関するものである。 従つて、本件実用新案は登録第五四〇三一五号実用新案とは全く異なるもので、 そのコピーではない。 (二) 請求原因3項(二)(1)の点 前述のとおり、登録第五四〇三一五号実用新案は、糊・液体・粉状物等を収容するための合成樹脂製袋の注入口に関するものである。他方、成立に争いのない乙第二三号証によれば、原始明細書の実用新案登録請求の範囲は、豆腐を収容するための合成樹脂製袋の注入口と、その袋に充填されている豆腐に関するものと認められる。 従つて、原始明細書の記録と実公昭三五ー二八七八九号公報の記載は明らかに異なり、本件実用新案は登録第五四〇三一五号実用新案をそのままコピーして出願されたものとはいえない。 (三)同右(2)の点 前掲乙第三四号証によれば、被告が別件仮処分事件での前記準備書面の中で、被告の製造販売する豆腐充填用の容袋は登録第五四〇三一五号実用新案の実施品である旨主張し、その添付図面として本件容袋と同一の容袋を記載したことが認められる。 しかし、前掲乙第一六号証、第三二号証、第三四号証、被告代表者本人の尋問結果によれば、別件仮処分事件の争点は、被告が製造販売していた容袋(本件容袋)の注入口が【A】の特許権を侵害するか否かであり、被告は右争点との関係で、右容袋が登録第五四〇三一五号実用新案の実施品であると主張したものと認められる。 従つて、被告が前述のような主張をしても、本件容袋全体が右実用新案の実施品であることを認めたことにはならない。 (四) 同右(3)の点 乙第三五号証が被告の製造販売した本件容袋のコピーであることは当事者間に争いがない。同号証及び弁論の全趣旨によれば、被告の昭和四四年五月当時製造販売した本件容袋に実用新案登録第五四〇三一五号との表示のあつたことが認められる。 しかし、前掲乙第一六号証、被告代表者の本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告が右容袋に右実用新案の表示をしたのは、右容袋の注入口の部分が右実用新案の実施品であるとの考えから、注入口に関する効用を訴えるためであつたことが認められる。 従つて、右の表示をしたことは、被告が右容袋(本件容袋)全体を右実用新案の実施品と考えていたことを認める資料とはならない。 3 以上によれば、本件容袋が本件実用新案の出願前から既に被告によつて製造販売されていたものとは認められず、本件実用新案が登録第五四〇三一五号実用新案をそのままコピーして出願されたものと認めることもできない。 そうすると、本件実用新案が出願前に公知であつたとは認められないのであるから、被告は本件実用新案が実用新案法3条1項により登録を受けることができないことを認識していたとは認められない。 その他、本件実用新案が被告の詐欺行為により登録されたことを窺わせる証拠はない。 三 被告が出願公告後無効審決の送達を受けるまでの間に原告の得意先に対して行つた警告行為等について1 請求原因5項の(一)(二)の事実は当事者間に争いがない。 証人【C】(第一・二回)の証言によれば、請求原因5項の(三)の(1)の事実が認められる。本件実用新案の登録を無効とする旨の審決が昭和五六年一月一七日になされたことは前記のとおり当事者間に争いがないところ、成立に争いのない甲第一二号証によれば、その審決謄本が原告に送達された日は同年二月九日と認められる。これらの事実によれば、被告は、杖立温泉で開催された九州豆腐機材組合の会合で原告の得意先に対して警告をした時点では、末だ審決の送達を受けておらず、無効審決がなされたことを知らなかつたと推認される。 2 前記争いのない事実のとおり、被告は、本件実用新案の出願公告後無効審決の送達を受けるまでの間に、原告の得意先に対して、原告容袋が本件実用新案権を侵害するとして、その販売・使用を中止するように警告し、あるいは当庁にその販売・使用の中止及び損害賠償を求める訴えを提起した。 ところで、実用新案権は設定登録によつて発生し(実用新案法14条。なお出願公告後は仮保護の権利が認められるー同法12条)、仮に登録に無効原因があつたとしても、無効審判手続により無効が確定するまでは有効に存在するものとして取扱われる。しかし、登録無効の審決が確定すると、後発的事由による無効の場合を除いては、初めから実用新案権は存在しなかつたものとみなされる(同法41条、 特許法125条)。従つて、被告が外形上存在した本件実用新案権の行使によつて原告に損害を与えた場合、被告に故意又は過失があれば損害賠償義務を免れない。 3 弁論の全趣旨により成立の認められる乙第一四号証によれば、本件実用新案は次の経緯を経て登録されたことが認められる。 ・ 実用実案登録出願 昭和四三年一〇月一一日 ・ 手続補正書(自発) 昭和四四年七月二一日・ 拒絶理由通知 昭和四六年一二月一〇日再送・ 意見書及び手続補正書 昭和四七年一月一九日・ 拒絶理由通知 昭和四七年六月二七日発送・ 意見書及び手続補正書 昭和四七年八月七日・ 拒絶査定(実用新案法3条2項による。) 昭和四八年二月一三日発送・ 審判請求書 昭和四八年三月九日・ 審判請求理由補充書 昭和四八年八月七日・ 審判請求理由補充書及び手続補正書 昭和五〇年四月一四日・ 拒絶理由通知 昭和五〇年八月二六日発送・ 意見書及び手続補正書 昭和五〇年一〇月三日・ 公告決定 昭和五二年一一月二日・ 出願公告 昭和五三年六月六日・ 登録査定審決 昭和五三年一二月五日・ 実用新案登録 昭和五四年三月一五日 その後、本件実用新案が請求原因2項記載の経緯及び理由により無効となつたことは、当事者間に争いがない。 4 ところで、実用新案権については、その設定に当り、審査官による厳格な審査及び出願公告に対する異議申立の制度が設けられており、一旦特許庁における審査を経て登録となつた実用新案権は確固たる地位を有し、容易な理由では無効とはならない制度が採用されている。殊に、本件実用新案については、前記認定のとおり審査の段階で二度拒絶理由通知が発せられた後に拒絶査定がなされ、審判の段階でも一度拒絶理由通知が発せられたが、最終的に登録査定審決・実用新案登録となつたものである。このように、本件実用新案は、審査官・審判官による長期間にわたる慎重審理の結果、登録が認められたものである。 その後本件実用新案は当業者が極めて容易に考案できたものとして進歩性が否定され無効とされた。しかし、出願前の公知事実並びに周知の事実に基づいて、当業者が極めて容易に考案できたものであるか否かを判断するについては非常に徴妙な技術的な価値評価を伴い、客観的に明白で一義的な基準によつて判断されるものではない。現に本件実用新案も、一旦審査の段階で進歩性を否定されて拒絶査定がなされた後、拒絶査定不服審判において進歩性を肯定され登録が認められた経緯がある。 これらの点に照せば、被告にとつては、本件実用新案が新規性・進歩性を備えた有効なものであると信じるのは無理からぬことというべきであり、無効審決の送達を受けるまでの間については、本件実用新案が進歩性を欠き無効であることを知らずに権利行使をしたとしても、知らなかつたことにつき過失があつたとはいえない。 5 以上の次第で、被告が、出願公告後無効審決の送達を受けるまでの間に、原告の得意先に対して行つた警告行為・訴訟提起により、原告に損害を与えたとしても、被告には過失がなく、損害賠償義務はないものというべきである。 四 被告が無効審決の送達を受けた後に原告の得意先に対して行つた警告行為等について1 権利侵害の警告行為等の有無(一) 請求原因5項の(三)の(3)の事実(但しその記載内容については争いがある。)は当事者間に争いがない。 被告の送つた書面の内容を見るに、成立に争いのない乙第四八号証によれば、以下の記載であつたことが認められる。(1)被告が本件実用新案権に基づき当庁に原告らを相手に訴えを提起したこと、(2)特許庁が本件実用新案の登録を無効とする旨の審決をなしたが、被告は、右審決は誤りであり本件実用新案権は有効であることを確信して、東京高等裁判所へ審決取消訴訟を提起したこと、(3)登録された実用新案権が無効とされるのは、審決取消訴訟で最終的に審決に誤りのないことが確定したときであり、無効審決だけで直ちにこれが無効となるものではないこと、(4)無効審決がなされただけの現段階で、あたかも本件実用新案権が無効になつたかの如く喧伝されることを懸念するが、そのような文書・風聞に接しても、 本件実用新案権が引き続き有効なものであることを御理解願いたいこと等。 上記事実関係および判示に照せば、これらの記載には虚偽はない。 従つて、被告が原告の得意先に右書面を出したからといつて、被告が不正競争防止法1条1項6号にいう「虚偽ノ事実ヲ陳述」したものとはいえない。 (二) 請求原因5項の(三)の(4)の事実について 証人【C】(第二回)の証言及び同証言により成立の認められる乙第六〇号証によれば、青森県豆腐油揚商工組合の理事長【D】が、昭和五六年四月一六日原告会社の営業部長【C】に対し、本件実用新案権をめぐる原・被告間の争いがはつきりとしないと、組合員に原告容袋の購入を勧めることはできないと告げたことが認められる。 しかし、右事実から原告主張の警告行為のあつたことを推認することは困難であり、他に右警告行為の存在を認めるに足りる証拠はない。 (三) 請求原因5項の(三)の(5)の事実は当事者間に争いがない。 弁護士名による書面の内容を見るに、原本の存在・成立に争いのない乙第五〇号証によれば、以下の記載であつたことが認められる。(1)被告は本件実用新案権を有すること、(2)東北大栄が販売中の原告容袋は明らかに本件実用新案権を侵害するものであること、(3)東北大栄が原告容袋の販売を直ちに中止することを要求すること、(4)被告は、現在原告外数名との間で本件実用新案権侵害差止等を求めて訴訟中であるが、これ以上業界に紛争を拡大させることを望むものではないので、東北大栄が本件実用新案権を充分に理解し、侵害行為を止めることを要望すること等。 これに対し、被告が右書面を出した時点では、本件実用新案について無効審決がなされ、審決取消訴訟が係属中であつたにも拘わらず、右書面にはそのことに触れた記載がない。 本件実用新案は後に無効審決の確定により遡つて無効とされたのであるから、原告容袋は本件実用新案権を侵害するものではない。従つて、右認定のように被告が東北大栄に対して右書面を出し、そのなかで、原告容袋は明らかに本件実用新案権を侵害するものであると断定したうえ、原告容袋の販売を直ちに中止することを求め、無効審決の存在について何ら触れなかつたことは、「競争関係ニアル他人ノ営業上ノ信用ヲ害スル虚偽ノ事実ヲ陳述」(不正競争防止法1条1項6号)したことになり、被告に過失があり原告に損害の発生があれば、被告は原告に対する損害賠償義務を免れない。 (四)被告が、無効審決の送達を受けた後に原告以外の第三者に対して、原告容袋が本件実用新案権を侵害すると陳述・流布した事実については、右(三)で認定した以外には、これを認めるに足りる証拠はない。 2 被告の過失 被告が東北大栄に警告書を出した当時、既に本件実用新案を無効とする旨の特許庁の公権的判断による審決があつたのであるから、この判断が審決取消訴訟の提起により未確定であつても、被告は本件実用新案に無効原因のあることを当然知りうべき事情の下にあつた。 従つて、被告としては、その権利の行使については特に慎重であることが要求されるのであつて、右無効審決が誤りであり、本件実用新案が進歩性を備えた有効なものであると信ずるについて合理的な理由がある等特段の事由がない限り、このように信じて東北大栄に警告書を出したことについては、過失があつたものというべきである。 これに対し、被告が右のように信ずるついて合理的な理由のあつたことについては、何ら具体的な主張がなく、全証拠によつても、右合理的理由のあつたことを認めえない。従つて、被告には、本件実用新案が有効なものと信じたとしても、東北大栄に警告書を出したことについて過失があつたものというべきである。 3 原告の損害(一) 逸失利益 原告が右警告書により東北大栄を含む取引先との取引に関して受けた損害を、具体的に認定するに足る証拠はない。 (二) 無形の損害 乙第五〇号証の警告書は法律の専門家である弁護士の名で出されたものであり、 しかも上記認定事実に照せば、右警告書では無効審決のあつたことが故意に秘されたとうかがわれるうえ、もし原告容袋の販売を中止しなければ訴訟の提起も辞さないことを暗に仄かす記載とも読めるものであつて、これによつて原告の営業上の信用が著しく失墜したことが推認される。 しかも、被告は、右警告書を出した前年の九月、すでに原告から、原告容袋が本件実用新案権を侵害するものであると言いふらすことの禁止を求める本件訴訟(後日訴の変更により損害賠償請求となつた。 )を提起されていた(この事実は当裁判所に顕著である)のであるから、警告書の送付については特に慎重であることを要求される情況にあつたものである。 以上の諸点に照らし、右警告書により原告の蒙つた無形の損害の賠償として、五〇万円をもつて相当と認める。 (三) 弁護士・弁理士費用 原告が本訴遂行のために要する弁護士・弁理士費用のうち、前記認容額五〇万円の一割である五万円については、被告の不正競争行為、不法行為と相当因果関係にある損害と認める。 審決取消訴訟との関係を見るに、被告は、昭和五六年三月六日審決取消訴訟を提起した後である同年七月二七日に東北大栄への警告書を出したものであり、被告がこれを出したために原告が右審決取消訴訟の応訴を余儀なくされた訳ではない。従つて、被告の各警告行為と原告の審決取消訴訟の応訴に伴う弁護士・弁理士費用の出捐との間には、因果関係を認めえないので、原告の審決取消訴訟に要した弁護士・弁理士費用の損害賠償請求は理由がない。 五 以上の次第で、原告の請求中、損害賠償金五五万円及びこれに対する不正競争行為、不法行為後である昭和五九年一二月一四日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める部分は理由があるので認容し、その余は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法89条、92条本文、仮執行宣言につき同法196条1項を各適用のうえ、主文のとおり判決する。 |
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追加 | |
目録末尾添付図面に示す如く、合成樹脂薄膜を重ね合わせ、底部2と平行直線状の左右接着側縁3、3とで上部の開口した袋状胴部1を形成し、この両側縁3、3の上方を夫々内方かつ傾斜状に接着して肩部縁4、4を形成するとともに、ノズルと照応した口径と機械充填の際挟持を得るに十分な長さを持つ口部5を造り出すよう、 肩部縁4、4を経てほぼ直上方向に延びる口側縁6、6を接着形成し、かつ、両肩部縁4、4と胴部両側縁3、3並びに口側縁6、6との接合部に丸みを持たせてアール部7、7、8、8を形成し、更に前記両側縁3、3の下方を夫々内方に向けて湾曲状に接着して底部2との間にアール部12を形成させた容袋であつて、口部5からノズルを用いて豆乳類を注入充填させた後、その口部を接着11して密封し、 容袋内の豆乳類を加熱により凝固させて豆腐に造り、これを真空包装状に容袋で密封包装させて使用するもの。 <12613-001> |
裁判官 | 横畠典夫 |
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裁判官 | 紙浦健二 |
裁判官 | 大泉一夫 |