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関連審決 審判1980-21954
関連ワード 技術的範囲 /  考案 /  考案の要旨認定 /  図面 /  組合せ /  国際出願 /  補正 /  先願考案 /  実施可能 /  きわめて容易 /  先願 /  拒絶理由 /  手続違反 /  減縮 /  削除 /  請求項 /  頒布 /  先願 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 60年 (行ケ) 49号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1986/10/15
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者双方の求めた裁判
原告は「特許庁が昭和五五年審判第二一九五四号事件について昭和六〇年一月三〇日にした審決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求め、被告は主文同旨の判決を求めた。
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五三年七月八日、名称を低周波治療器(後に「低周波電流マツサージ器」と訂正)とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願をしたが、昭和五五年九月二二日、拒絶査定を受けたので、同年一二月二四日、
これに対する審判の請求をした。特許庁は右請求を昭和五五年審判第二一九五四号事件として審理中、昭和五九年七月一八日原告に対し拒絶理由通知を発し、原告はこれに対し同年九月一九日手続補正書を提出した。しかし、特許庁は昭和六〇年一月三〇日「本件審判請求は成り立たない。」との審決をし、その謄本は同年三月四日原告に送達された。
二 本願考案の登録請求の範囲1 数Hz程度の低周波信号乃至該低周波信号の数倍程度の低周波信号を発生する発振回路(1)と、該発振回路(1)の出力端に接続され身体のマツサージ箇所に低周波電流を供給する導子(7)と、発振回路(1)に接続され発振回路(1)の前記低周波信号を数秒程度持続させた後、秒単位で停止させ、この断続作動を繰返す制御回路(3)とから構成される低周波電流マツサージ器。
2 制御回路(3)は、自走マルチバイブレータ(4)と該バイブレータ(4)の出力信号で作動するトランジスタスイツチ回路(5)との組み合せからなり、該スイツチ回路(5)で発振回路(1)の出力をON、OFFしている実用新案登録請求の範囲第一項に規定する低周波電流マツサージ器。(別紙図面(一)参照)三 審決の理由の要点1 本願考案の要旨は前記二、1記載のとおりである。
2 審判における昭和五九年七月一八日付拒絶理由は、本願考案は特開昭五〇―一五五〇八三号公報(以下「第一引用例」という。
)に記載されている技術的事項を周知の低周波治療器に適用することにより当業者が容易になし得るものであり、また、本願考案における周波数の選択及び作動時間と停止時間との選定は、設計事項の範囲を出ないものであり、結局本願考案は実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができないという点にある。
3 第一引用例には、発振回路と該発振回路の出力端に接続され身体のマツサージ箇所に電流を供給する導子(電極)と発振回路に接続され発振回路の出力信号を周期二秒の断続電流として断続して出力するための制御回路とから構成した電気マツサージ器に関する記載が認められる(別紙図面(二)参照)。
4 本願考案と第一引用例記載の発明を対比すると、両者はともに電流マツサージ器に関するものであり、発振回路と導子と制御回路とからなる点で一致し、(1)本願考案が作動用電流として数ヘルツないしその数倍程度の低周波を用いたのに対して、第一引用例記載の発明では作動電流の周波数が明確でない点及び(2)本願考案が信号の断続作動を数秒程度の持続と秒単位の停止とにより形成したのに対し、第一引用例記載の発明では周期二秒の断続流とした点において、両者には構成上の相違が認められる。
5 ところで、低周波電流を用いる電気マツサージ器は周知である。そして、従来の低周波マツサージ器にあつては、基本周波数は三ないし一〇〇〇ヘルツであるとされている(このことは、さきの拒絶理由中にも例示したように、例えば株式会社産報発行、瓜谷富三著「わかりやすいME〈医用電子技術〉」二一五頁(以下「第二引用例」という。)に記載されている。)。そして、この範囲内のうちからどの周波数を採用するかということは、単なる選択上の問題にすぎないと解せられるから、前記相違点(1)は周知技術そのものというほかなく、むしろこの点は本願考案の前提技術であると解すべきである。
6 また、低周波電流の断続作動における持続時間と停止時間をどれくらいの時間に設定するかということは、それを特定しても作用効果に格別のものが奏されるものでもないから、それは設計事項に尾するものとするのが相当であり、したがつて、相違点(2)は設計事項の範囲を出ない程度のことということができる。
7 してみれば、本願考案は、従来周知の低周波電流マツサージ器に前記の第一引用例記載の考案を適用することにより、当業者がきわめて容易考案することができたものとするのが相当であるというべきであり、したがつて、本願考案は実用新案法3条2項により実用新案登録を受けることができない。
8 なお、請求人は、第二引用例は本願の出願日以後の刊行物である旨主張しているが、該刊行物は一九七一年四月一日に初版が発行されており、また、一九七四年一一月一三日発行の三版が昭和五一年三月二九日に特許庁資料館に受入れられた等の事実が認められる。これらの事実によれば、第二引用例は本願の出願前国内において頒布された刊行物であることは明らかであるから、請求人の右主張は理由がない。
四 審決を取消すべき事由 審決の理由の要点1は認める。但し本願考案の要旨はこれに限られるものではない。同2は認める。同3のうち、第一引用例に制御回路及び電気マツサージ器に関する記載があることは否認し、その余は認める。同4のうち、本願考案と第一引用例記載の考案との一致点のうち電気マツサージ器及び制御回路に関する部分は否認し、その他の一致点及び相違点は認める。但し、両者の相違点はこれに限られるものではない。同5は不知。同6は否認する。同7は認める。審決は、本願考案の登録請求の範囲第二項を考案の要旨と認定することを看過し、同項の考案性について判断を示さなかつた違法があり、また、第一引用例の記載内容を誤認し、本願考案と第一引用例記載の考案との一致点を誤認し、相違点(1)及び(2)に対する判断を誤つた結果、本願考案が第一及び第二引用例よりきわめて容易考案することができたとの判断をした違法があるから、取消を免れない。
1 要旨認定の欠如(取消事由(1))(一) 本願考案の登録請求範囲第二項(以下「本願第二項」という。)は同第一項(以下「本願第一項」という。)の実施態様項であるところ、実施態様項は、考案の詳細な説明に記載された考案の構成に欠くことができない事項又はその考案の他の実施態様を技術的に限定して具体化することによつて記載される請求項であり、必須要件項が削除された場合に必須要件項になり得る性格を有している。このように、実施態様項は登録請求の範囲の一部として記載すべき請求項である以上、
登録請求の範囲として機能するものであり、当該考案技術的範囲を定める基礎となるものであるから、必須要件項である本願第一項の拒絶理由を指摘するためには、その実施態様項である本願第二項に記載された技術的事項について、十分検討がなされることが必要である。したがつて、本願考案の要旨認定は本願第一項だけでなく、同第二項を含めて行い、登録出願の拒否を判断すべきである。
そうであれば、審決が本願第二項について要旨認定を行わなかつたことは違法というべきである。
(二) 因に、特許庁の「物質特許制度及び多項制に関する運用基準」(甲第一四号証)には「実施態様項は特許請求の範囲の一部として記載すべき請求項である以上特許請求の範囲として機能するものであり、特許発明の技術的範囲を定める基礎となるものである」と解説しており、多項制を導入した昭和五〇年の実用新案法の改正に際しての弁理士会における特許庁担当官の説明(甲第八号証)、特許庁多項制委員会作成の多項制に関する運用基準(案)(甲第九号証)にもこれと同趣旨の見解が示されている。かかる特許庁側の解説及び見解によるも、実施態様項である本願第二項についての要旨認定は必要である。更に実施態様項について要旨の認定をしないことはPCT規則一三・四の趣旨に照らしても許されない。
2 本願第二項に対する拒絶理由通知の欠如(取消事由(2))(一) 審判手続において、査定の理由と異なる拒絶の理由を発見したとして発せられた昭和五九年七月一八日付拒絶理由通知(甲第一九号証)は本願第一項に対するものであつて本願第二項に対するものではない。右拒絶理由通知に示された第一及び第二引用例には本願第二項の制御回路に関する技術の記載はないから、右拒絶理由通知が本願第二項に対し発せられたものと解することはできないのである。したがつて、被告は実用新案法41条で準用する特許法159条2項50条により本願第二項について原告に対し拒絶理由を通知し、意見書提出の機会を与えるべきであるのに、この手続を怠つた。
原告としては被告が本願の全部の請求項について審査を行うことを期待していた。それは、実用新案法5条4項及び同法施行規則2条の2は実施態様項が登録請求の範囲を構成していることを保証し、かつ審査の省略を許していないからである。仮に本願第一項に拒絶理由があつても、同第二項に拒絶理由がなければ登録請求の範囲を本願第二項の構成に減縮補正し、実用新案登録を受ける可能性もあつた。しかるに、被告が本願第二項に対する拒絶理由を通知せず、その判断を行わないまま、本願を拒絶したことは原告に補正の機会を失わせたもので、出願人である原告の信頼に反する不当な扱いである。
このように手続違反のある審決は違法なものとし取消されるべきである。
(二) 因に、拒絶理由通知が登録請求の範囲ごとに発せられなければならないことは、前記運用基準(甲第一三号証)、審査便覧(甲第一四号証)、特許庁と弁理士会が行つた運用協議内容を記載した対庁協議事項集(第一五号証)にも特許庁の側の見解として示されているところであるから、本願第二項についても拒絶理由通知は必要だつたのである。
3 制御回路に関する一致点の誤認(取消事由(3))(一) 第一引用例には審決が摘示するような制御回路の記載はない。別紙図面(二)の第8図(同引用例の第8図)のように電気回路を結線すれば、出力を発せず刺激電流を得ることは不可能である。したがつて、同引用例は単なる願望を記載したにとどまり、同記載の発明を実施する構成を開示しているとはいえない。
(二) 右第8図は別紙図面(二)の第7図(第一引用例第7図)のブロツク図と一体として理解すべきものであり、第7図のブロツク図は第8図の電気回路と照合して初めてその意義が明らかとなる性格を有するから、第7図のブロツク図を見れば、第8図の電気回路が直ちに作成できるものではない。第8図の電気回路が実施不能なため、同引用例に記載の効果を与えない以上、その原因は第8図の電気回路中の結線脱落と考えるよりも、むしろ同引用例記載の発明自体が実施不能と解する方がより自然である。本願出願は実用新案登録出願であるから、同引用例を読む者に高度の技術判断を期待することはできないのである。したがつて、この点に関する被告の主張は理由がない。
(三) このように、第一引用例記載の装置には制御回路の記載はないというべきであるから、同引用例にも制御回路の記載があるとして、この点を本願考案との一致点と認めた審決は誤りである。
4 電気マツサージ器に関する一致点の誤認(取消事由(4))(一) 本願考案に係るマツサージ器は、単なる電気刺激による電気感とは異なり筋肉運動である「もみ」「たたき」による指圧感を生じさせる点に特徴がある。即ち、昭和五五年一二月一四日付手続補正書(甲第三号証)によれば、本願考案のマツサージ器は、(イ)「もみ」を九秒間続けて三秒休む指圧の感じ、(ロ)「たたき」を九秒間続けて三秒間休む指圧の感じを人体に与えることができ(八頁一二行ないし一五行)、マツサージ師の指圧と同様の動作を行うのであり(二頁一五行ないし二〇行)かかる指圧感を生じさせることが本願考案におけるマツサージである。
(二) これに対し第一引用例記載の発明は「人体用電気刺激装置」に係るもので、同引用例には、(イ)「この発明は人体、特に腹部脂肪層の肥満部に電気刺激を与えることにより組織の新陳代謝を活発にさせ、実際に運動する事なく本装置取付け部に運動効果と同等の効果を与えようとするものであり」(一頁下段左一一行ないし一四行)、(ロ)「人体に安全かつ、新陳代謝に必要な刺激電圧を取出す様にしたものであり」(一頁下段右一一行ないし一二行)と記載されており、これらの記載は、同引用例に開示の装置が人体に電気刺激を与える機能を有していることを述べているが、マツサージを行なうことについては一切言及していない。
これによれば、第一引用例記載の発明の装置は「電気刺激」を身体の特に肥満部に与え、ビリビリとする電気感により神経を興奮させて、筋肉の新陳代謝を活発化させるもので、右の電気刺激による電気感は、前記のように筋肉運動を生じさせる本願考案の「もみ」「たたき」の指圧感とは全く異質のものである。
(三) 乙第一、二号証によるも、被告主張のように「血行をよくし疲労を去り筋肉の機能を高めること」がマツサージであることを示す記載はない。仮に被告の右定義にしたがうとしても、第一引用例には血行、疲労、筋肉機能の向上に関する記載はないから、同引用例記載の装置はマツサージ器とはいえない。のみならず、右乙号各証はマツサージの技法として、七法(軽擦、強擦、揉捏、叩打、振顫、圧迫、伸展)が説明されているが、これらの方法はいずれも専ら身体に物理的な力を加えるものであつて、電気刺激を含んでいないから、この点からも、電気刺激を目的とする同引用例記載の発明に係る装置はマツサージ器とはいえない。
(四) このように、第一引用例記載の装置はマツサージ器ではないから、同引用例にも電気マツサージ器の記載があるとして、この点を本願考案との一致点と認めた審決は誤りである。
5 相違点(1)に対する判断の誤り(取消事由(5))(一) 第二引用例には、低周波電流を医療、電気睡眠、電気麻酔に使用する旨の記載はあるが、低周波電流によつて筋肉運動をおこさせて、電気マツサージに使用する点に関する記載はない。審決が引用する従来の低周波マツサージ器の基本周波数が三ないし一〇〇〇ヘルツであるとの記載は上限と下限の数値の差が大きく、電気マツサージに応用できる周波数を開示したことにはならない。
実験的に電流を人体に通じてみると、電流が人体に与える感覚は周波数によつて大きく左右される。それが数ヘルツ程度であれば、電流パルスを数えることは可能であるが、五〇ヘルツを越えると電気刺激又はシヨツクとして感じられるだけで、
マツサージには利用できない。したがつて、同引用例が電気マツサージには数ヘルツ又はその数倍程度の低周波電流を使用することを明らかにしない限り、たとえ同引用例が出願前に公知であつたとしても、それが電気マツサージを極めて容易に示唆するとは考えられない。
ましてや同引用例の記載事項を第一引用例記載の発明に適用しても、右発明の目的は電気刺激であつて、人体組織の新陳代謝を活発化させることにあるから、その目的に適合した周波数が選定されるはずであり、それが本願考案の対象とする数ヘルツないしその数倍程度の周波数と同じであるか否かは明らかでないから、審決が「相違点(1)は周知技術そのものである」と認定したことは、判断を誤つたものである。
(二) 第一引用例には周波数の記載はないが、電圧を四〇ボルトに設定した場合刺激電流の周波数は実験の結果六〇ないし三〇〇ヘルツであることが確認された。
右の周波数範囲は本願考案の「数ヘルツないしそれの数倍程度」と相違しており、
かかる異なる周波数を用いる同引用例記載の発明から本願考案を想到することはできない。
6 相違点(2)に対する判断の誤り(取消事由(6)) 本願考案と第一引用例記載の発明とでは、審決が相違点(2)として指摘するような断続作動に違いがあり、その結果本願考案には単なる電気刺激とは異なる「もみ」「たたき」による指圧感を生ぜしめるという引用例にない特有の効果を生ずるのであるから、相違点(2)は単なる設計事項上の差異ではない。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三は認めるが、同四は争う。
二 被告の主張1 取消事由(1)について 本願第二項は本願第一項の実施態様を明らかにするにすぎないものであり、考案の構成に欠くことができない事項(必須要件項)のみを記載しているものではない。しかして、本願は実用新案法6条による一考案について実用新案登録出願されたものであるから、審決が本願考案の要旨を考案の構成に欠くことができない事項を記載した本願第一項の記載だけに基づいて認定しても違法ではない。
実施態様項は出願に係る考案拒絶理由が存したり、登録実用新案に無効事由が存するなどの場合に補正又は訂正の手続により考案の構成に欠くことができない事項とするための予備として記載されるもので、それらの手続のないまま実施態様項を考案の構成に欠くことができない事項とすることができないのであるから、必須要件項に拒絶理由が認められる以上、拒絶査定に対する審判手続において実施態様項について要旨認定をしなくても違法ということはできないのである。また、登録実用新案の技術的範囲は登録請求の範囲の必須要件項に基づいて定められるのであり、実施態様項はその性質上必須要件項に含まれるものであるから、登録実用新案の技術的範囲を登録請求の範囲に基づいて定めるからといつて、拒絶査定に対する審判手続において必須要件項に拒絶理由が認められる場合に実施態様項を出願に係る考案の要旨と認定しなければならないというものではない。
なお、原告が昭和五九年七月一九日付拒絶理由通知後補正の機会を失わなかつたことは、自ら同年九月一九日付手続補正書を提出していることから明らかである。
2 取消事由(2)について 本願考案の要旨は必須要件項である本願第一項により把握されるものであつて、
任意の記載事項である実施態様項の本願第二項を含めて把握することはない。本願第二項は同第一項に拒絶理由がある場合に必須要件項とするための予備的記載にすぎない。したがつて、拒絶理由は各請求項ごとに示すことが実施態様項を設けた趣旨にそうものであるが、その記載方法として全ての請求項に対する拒絶理由が同一の場合に一括して「この出願の考案は……」として特に請求項をわけることなく拒絶理由を通知しているのが実務上の扱いであり、右取扱いを違法ということはできない。本件の前記拒絶理由通知もこの取扱いにしたがい本願第一項及び第二項に対し発せられたのである。
3 取消事由(3)について 第二引用例の第8図の回路は、第7図のブロツク図に対応したものであることが明らかであり、(交流)発振部及び制御用(直流)発振部にマルチバイブレータとして通常の非安定マルチバイブレータ回路の利用を意図したことが直ちに理解できるものである。したがつて、第8図には交流発振部の非安定マルチバイブレータ回路に一部配線の記載の脱落があるとしても、第7図を参照してその回路を正しく結線することは、当業者がきわめて容易になし得ることである。また、第8図は、第7図のブロツク図に示されているものをさらに詳細に説明するための配線にすぎず、引用例記載の考案は、第7図のブロツク図のみからでも理解することができる。
そうであれば、第一引用例には本願考案と同じ実施可能な制御回路が記載されているものということができる。
4 取消事由(4)について 第一引用例には、「マツサージ」、「指圧感」なる言葉は使用されていないが、
人体(腹部、大たい部、足部)に電流を通じ、人体の組織の新陳代謝を活発にさせ、運動効果と同等の効果を人体に与えようとするものである旨の記載があり、日常的に、血行をよくし、疲労を去り、筋肉の機能を高めることを「マツサージ」ということを考慮すると、第一引用例に本願考案でいう電流マツサージ器すなわち電気マツサージ器が記載されていると解しても誤りではない。なお、マツサージを右のように定義することについては、医学大辞典一四七〇頁(南山堂一九五四年一月一〇日第一版発行)、世界大百科事典29巻一〇九頁(平凡社一九七二年四月二五日初版発行)に記載されている。
本願考案の低周波電流マツサージ器と第一引用例に記載の電流マツサージ器を詳細比較するに、先ず目的において、前者は、特定の動作をする場合に、実際に指圧を受けているような感じさえも生じさせることができる装置を提供することに対し、後者は、人体の組織の新陳代謝を活発にさせ、運動効果と同等の効果を与える装置を提供することである点で相違し、また、両者は審決が摘示するような一致点及び相違点を有する。しかし、先ず、目的の相違については、装置の使い方に基づくものというべきであり、また、人体を対象とする以上、いわゆる感じに基づくことであつて(技術思想の目的は、本来、主観的に把握されるとしても、このような人体に対する感じという個々によつて当然異なる事項でもつて考案の目的とすること自体妥当でない)、前者において、この目的が達成されるとすれば、後者においても、この目的が達成されないと解することはできない。次に構成上の相違点については審決が摘示し、また、次に述べるように単なる選択又は設計事項にすぎない。
このように、使用目的、構成の類似する装置を「電気マツサージ器」と認定した審決の判断に誤りはない。
5 取消事由(5)について(一) 第二引用例には、基本周波数三ないし一〇〇〇ヘルツ、電圧波形として方形波の電流を人体を通じてその部分に刺激を与えること及び神経、筋(筋肉)の麻痺と痛みの治療をする低周波治療器が広く使われていることが記載されている。この低周波治療器は第二引用例によれば、第一引用例記載の発明に係る装置同様、本願考案の低周波電流マツサージ器と同じ機能を有するのであり、審決は第二引用例記載の周知の低周波治療器を本願考案の低周波電流マツサージ器と同義のものとして「低周波電流を用いるマツサージ器」又は「低周波マツサージ器」と称したのである。
なお、付言するに、本願の出願当初の明細書には、本願考案でいう低周波電流マツサージ器と同じ構成を有するものが低周波治療器と呼ばれていた事実があり、本願の考案は単にその装置を使用した際の人体に対する感じから低周波電流マツサージ器と名付けたものと解され、このことからも装置の構成として、低周波電流マツサージ器と低周波治療器に差があるとは解されない。
(二) 第二引用例には、「基本周波数は三〜一〇〇〇HZ」、電気睡眠を行う電気刺激装置は、二・五〜一〇〇ヘルツの電流を流す旨の記載があり、一方、本願の明細書の「積分回路(16)の抵抗(17)を可変抵抗器とすれば、発振周波数を滑らかに変更できることは勿論である。」の記載があるので、装置の構成として、
可変抵抗器を使用することを考慮すると、数ヘルツ程度の低周波信号乃至該低周波信号の数倍程度の低周波信号を発生する発振回路は、三〜一〇〇〇ヘルツの低周波信号を発生する発振回路の能力範囲内のものであつて、装置の構成としてみれば、
単なる選択上の問題である。
(三) このようにいずれの点からみるも、相違点(1)に対する審決の判断に誤りはない。
6 取消事由(6)について 本願考案は、低周波信号を数秒程度持続させた後、秒単位で停止させることを繰り返すものであり、第一引用例記載のものは低周波信号を一秒持続させた後、一秒停止させることを繰り返すものであるが、両者の相違点は、数秒及び秒単位と一秒という時間間隔のとり方の違いでしかない。
第一引用例には、原告が引用した「人体に流れる時の電流は、周期二秒、電圧40V程度の方形波になつており」の前段として「DC18Vの電源使用により、第7図に図示の如く発振部にて発生された交流を、独立した制御用発振器で発生された方形波により変調し、次段で半波整流、最終段にて昇圧トランスにより人体に安全かつ、新陳代謝に必要な刺激電圧を取出す様にしたものであり」の記載があり、
この記載によれば、発振回路とこれに接続され、発振回路の交流波信号を一秒持続させた後一秒停止させ、この断続作動を繰返す制御回路とから構成される、人体に電流を通じてその部分を刺激する装置、すなわち電流マツサージ器という本願の考案に対応する構成を直ちに理解できるものである。
したがつて、信号の持続と停止によつて人体の受ける感じ(刺激の度合)は種々の設定条件により同一刺激によつても異なるものであり、審決が相違点(2)について設計事項に属するものとした判断に誤まりはない。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三、制御回路及びマツサージ器に関する部分を除き、第一引用例に審決認定の記載があることは当事者間に争いがない。
二 取消事由(1)及び(2)について1 実用新案登録出願において、当該考案の構成に欠くことができない事項は必須の要件として、その登録請求の範囲に記載しなければならないのに対し、実施態様項は右必須要件項を実施した態様に関する記載で任意的なものであり、考案の構成に欠くことができない事項又はその考案の他の実施態様を引用し、これを技術的に特定し具体化して記載される従属的なものにすぎない(実用新案法5条4項、同法施行規則2条の2第2項)。
成立に争いのない甲第二号証の一ないし三(本願の実用新案登録願、同添付の明細書図面)、第三号証(昭和五五年一二月二四日付手続補正書)、第五号証(昭和五九年九月一九日付手続補正書)によつて認められる本願明細書の記載に照らせば、前記当事者間に争いのない本願考案の登録請求範囲のうち、本願第一項が考案の構成に欠くことができない事項である必須要件項に該当し、同第二項が同第一項を引用し同項に記載された制御回路(3)を特定し、かつ具体化して付加した同項の実施態様項であることが明らかである。
2 ところで、一個の考案につき必須要件項と実施態様項を登録請求の範囲とする実用新案登録出願(以下「多項制出願」という。)においては、必須要件項と実施態様項はともに審査、審判の対象になるのであるが、特許庁がその考案の要旨を認定するには考案の構成に欠くことができない事項である必須要件項により把握すべきである。前記のように実施態様項は必須要件項を引用してその一実施態様を登録請求の範囲として記載したもので、そこに示される事項は必須要件項に示される技術的事項に含まれているからである。(なお、登録実用新案の技術的範囲も、同様の理由により、必須要件項の記載に基づいて定めるべきであり、実施態様項の記載は必須要件項の記載の解釈の資料となるに過ぎない。) したがつて、本願考案について、必須要件項である本願第一項に基づいてその要旨を認定した上それについて拒絶理由の有無を判断した審決に違法な点はない。
3 このように、多項制出願において考案の要旨を必須要件項に基づいて認定し、
同項について拒絶理由の有無を判断すれば足りるのであるから、出願人に対する拒絶理由通知も必須要件項について行えば足り、実施態様項についての拒絶理由を通知する必要はない。
成立に争いのない甲第一九号証によれば、審判手続において発せられた昭和五九年七月一八日付拒絶理由通知書はその記載内容からみて原告主張のように必須要件項である本願第一項について発せられたものと認められ、右のほかに実施態様項である本願第二項について拒絶理由が通知されたことを認めるに足りる証拠はない。
しかし、前記のとおり、実施態様項についての拒絶理由を通知する必要はないのであるから、右の事実は審決を取消すべき事由とはならない。
4 原告は、実施態様項は必須要件項が削除された場合に必須要件項になり得る性格を有するから、本願考案の要旨認定は本願第一項だけでなく同第二項を含めて行うべきであり、後者についても拒絶理由を通知する必要がある旨主張する。
原告が主張するとおり、実施態様項は必須要件項になり得る性格を有するが、そのためにはもとの必須要件項が削除されることが必要であることは原告の自認するところである。即ち、出願人においてもとの必須要件項を削除し実施態様項を必須要件項に改める補正をしない限り実施態様項は必須要件項になり得ないのであつて、特許庁が必須要件項に拒絶理由があると判断すれば当然に実施態様項を必須要件項として取扱わなければならなくなる訳ではない。本願考案については、出願人である原告において、必須要件項である本願第一項を削除しなかつたことは弁論の全趣旨により明らかであるから、実施態様項である本願第二項については、前記の理由により、拒絶理由を通知する必要はなく、これに基づいて本願考案の要旨を認定する必要もないことが明らかである。従つて、原告の右主張は失当である。
また、原告は特許庁が本願第二項に対する拒絶理由を通知しなかつたため本願について補正の機会を失つた旨主張する。
しかし、多項制出願の場合必須要件項についての拒絶理由通知がなされたときは、それはその出願全部に対する拒絶理由通知であるから、実施態様項についての拒絶理由通知がなされていなくても、出願人は前記のように必須要件項を削除し実施態様項を必須要件項に改める旨の補正をすることができる(実用新案法55条2項、特許法17条の2第3号)。本願については前認定のとおり、必須要件項である本願第一項について昭和五九年七月一八日付で拒絶理由通知が発せられているから、出願人である原告は所定期間内に前記のような補正をする機会があつたことが明らかである。しかるに、原告が右所定期間内である昭和五九年九月一九日手続補正書を提出したことは当事者間に争いがないが、その内容が本願第一項を削除する趣旨でなかつたことは弁論の全趣旨により明らかである。従つて、原告の右主張も失当である。
なお、原告の援用する甲第九号証(多項制に関する運用基準(案)、昭和五〇年七月特許庁多項制委員会作成)、第一三号証(物質特許制度及び多項制に関する運用基準、昭和五〇年一〇月特許庁作成)、第一四号証(審査便覧、昭和五六年一二月特許庁編)は特許庁が同庁における審査又は審判について示した基準又はその案であり、成立に争いのない甲第八号証(昭和五〇年二月二一日に弁理士会館で行われた特許法の一部を改正する法律案に関する説明会)は特許庁の商標担当係官、特許担当係官による右法律案についての説明であり、成立に争いのない甲第一五号証(対庁協議事項集、昭和五四年一一月六日)、第二一号証(対庁協議事項集、昭和六〇年一二月一九日)は特許庁と弁理士会の協議結果であり、いずれももとより法的拘束力を有するものではなく、これら甲号各証が原告主張の取消事由(1)及び(2)を裏付けるものではない。また、原告が指摘するPCT規則一三・四は国際出願に関する規定で、考案の要旨認定に関する原告主張の取消事由(1)を根拠づけるものとはいいがたい。
5 以上のとおりであるから、原告主張の取消事由(1)、(2)は理由がない。
三 取消事由(3)について 成立に争いのない甲第六号証によれば、第一引用例添付図面である別紙図面(二)の第8図が示す制御回路部分の配線のうち赤丸印が非接続状態<12642-001>であるため、この部分を接続状態<12642-002>に改めることなく同図のままの配線状態で通電しても、出力を発せず刺激電流を得ることができないことが認められる。しかし、やはり前掲甲第六号証によれば、別紙図面(二)の第7図には、同引用例の人体用電気刺激装置の構成ブロツクと各部の波形が示されており、第8図が第7図に示されているそれぞれの構成ブロツクの詳細な回路であると認められるから、当業者であれば、第7図に示されている構成ブロツクと各部の波形から、第8図に示されている回路のそれぞれの部分の配線状態や全体の動作は十分推認することができ、同図の右非接続状態の表示が接続状態の表示の誤記であることは容易に理解し得るところである。そして、前掲甲第六号証によれば、
右非接続状態の配線を接続状態の配線に改めると、第一引用例の装置において、第8図のうち制御回路部分は審決が摘示するように、発振回路に接続され同回路の出力信号を周期二秒の断続電流になるように断続して出力させる機能を営むものであることが認められるから、第一引用例記載の発明に係る装置には本願考案に係る装置の制御回路に相当するものが記載されているものということができる。
そうであれば、審決には原告主張のような制御回路についての第一引用例の誤認とそれに伴う同引用例と本願考案との一致点についての誤認はないものというべきであるから、取消事由(3)は理由がない。
四 取消事由(4)について1 成立に争いのない乙第一号証の一ないし三(医学大辞典、一九五四年一月一〇日(第一版)南山堂発行)には、マツサージに関し、「マツサージの目的は徒手をもつて患者の体部に一定の操作を加え身体の一定部分の静脈血およびリンパの還流を促進し、局所への動脈血流入を昂進せしめあるいは筋肉、皮下組織、腱、皮膚を刺激して変形の矯正、筋力の回復、関節機能の改善に応用するにある。その技法はHoffaにより次の五つに分類されている。(一)軽擦法、(二)揉捏法、
(三)摩擦法、(四)打拍法、(五)振顫法」との記載があることが認められ(一四七六頁右欄四三行ないし五三行)、成立に争いのない甲第二号証の一ないし三(世界大百科事典29、一九七二年四月(初版)平凡社発行)には、マツサージに関し「マツサージの目的は、動脈血行をよくし、静脈又はリンパのうつ滞をとつて、組織内の新陳代謝機能を高進させるのにある……」との記載があることが認められる(一〇九頁中欄三二行ないし三五行)。これらの記載によれば、マツサージとは、一般的に、各種の手技により身体表面の各部を通じて人体組織に刺激を与え、組織内の新陳代謝の促進をはかることにより、筋力の麻痺、血行障害、関節機能障害等を回復、改善させる治療方法の総称であるということができる。
2 前掲甲第三、第五号証によれば、本願考案考案の詳細な説明の項には「本考案は身体表面のマツサージ箇所に具えた導子を通じて体内に低周波電流を供給することにより、筋肉に電気刺激を与え、しかも発振回路の時定数の経過又は制御回路との接続切換えによつて四Hz、又は二〇Hz程度の繰返し速度で、上記刺激を九秒間程度加えて三秒間休み、これを繰り返す指圧と略同様の動作を行なわせ、実際に指圧を受けているような感じさえも生じさせる低周波電流マツサージ器を提供することを目的とする。」との記載があることが認められる(甲第五号証により補正された甲第三号証の二頁一一行ないし二〇行)。
本願第一項及び右記載によれば、本願考案においてマツサージとは、身体表面の所望部位に手技に代わるものとして低周波信号を数秒程度持続させた後秒単位で停止させる断続的作動を繰返す低周波電流を供給することにより、筋肉に電気刺激を与える治療方法を意味し、かかる低周波電流を供給する装置を「低周波電流マツサージ器」と称しているものということができる。
原告は、本願考案においては電気刺激による電気感とは異なり、もみ、たたきによる指圧感を生じさせることがマツサージである旨主張する。なる程、前掲甲第三、第五号証によつて認められる本願明細書考案の詳細な説明の項には、指圧に関し前記の記載のほか、「導子(7)から身体に通じた低周波電流は筋肉に電気的刺激を与え、周波数が二〇Hz或いはそれ以上の場合は従来手で行なつていた「たたき」の感じを、四Hz或いはそれ以下の場合は「もみ」と略同様な感じが得られる。」との記載(甲第三号証七頁二行ないし六行)、「……恰もマツサージ師により指圧を受けている様なマツサージ効果を簡単な構成で得られる。然も導子(7)による刺激はスイツチ(6)(6a)の切換えによりa、四Hz程度の「もみ」の感じb、二〇Hz程度の「たたき」の感じc、四Hzの「もみ」を九秒間つづけて三秒間休む指圧の感じd、二〇Hzの「たたき」を九秒間つづけて三秒間休む指圧の感じという四種類のマツサージが一台のマツサージ器によつて実現される。特に本考案においてはc及びd項の指圧の感じが実際に起こる優れた効果を有するものである。」との記載(甲第五号証により補正された甲第三号証八頁六行ないし一八行)がある。
しかし、マツサージはあくまで治療目的のもとに行われる身体表面を通じての人体組織への刺激であり、指圧感という一定の感覚を感得させること自体を目的として行われるものではないから、かような人体に与える感覚自体を取上げて論ずることの技術的意義を見出すことは疑問であるだけでなく、仮にこの点に技術的意義を認めるとしても、本願第一項は低周波電流が人体に与える電気刺激に関してはなんらの限定を付しておらず、具体的にもみ、たたきによる指圧感を生じさせる事例に関する右の程度の記載をもつてしては、本願第一項に記載された広く、かつ限界値があいまいな低周波電流及びその断続作動時間の組合せのすべてについて右のような指圧感が生ずるか否かは不明であるといわざるを得ない。
したがつて、本願考案におけるマツサージの意義を限定的に解釈する原告の主張は理由がない。
3 他方、前掲甲第六号証(第一引用例)によれば、同引用例には「人体用電気刺激装置」に関する発明につき、「この発明は人体、特に腹部脂肪層の肥満部に電気刺激を与える事により組織の新陳代謝を活発にさせ……」と記載されていることが認められる(一欄一一行ないし一四行)。右記載によれば、第一引用例記載の発明に係る人体用電気刺激装置は、人体に電気刺激を与え組織の新陳代謝をはかる点において電流によるマツサージ器と認めて差支えない。
4 そうであれば、第一引用例には電気マツサージ器に関する記載があると認定したうえ、同引用例記載の発明と本願考案がともに電流マツサージ器に関するものである点において一致すると判断した審決に誤りはないものというべきであるから、
取消事由(4)は理由がない。
五 取消事由(5)について1 本願考案が作動電流として数ヘルツないしその数倍程度の低周波数を用いているのに対し、第一引用例には作動電流の周波数の記載がない点において両者が相違していることは当事者間に争いがない。
2 成立に争いがない甲第七号証(瓜谷富三著「わかりやすいME」〈医用電子技術〉産報出版株式会社発行)(第二引用例)によれば、同引用例二一五頁には「九・二・二低周波治療器 この装置は神経、筋の麻痺と痛みの治療に広く使われています。基本周波数は三〜一〇〇〇Hz、治療用電圧波形は図九・一七(別紙図面(三)第1図)のように表現できます。……図九・一八(別紙図面(三)第2図)はそのネツトワークと人体等価回路を示したものです。図中のrの両端の電位が皮下の神経、筋に有効に働く刺激電圧と考えられております。」と記載されていることが認められる(同引用例の初版が一九七一年四月一〇日に発行され、また、
一九七四年一一月一五日発行の三版が昭和五一年三月二九日に特許庁資料館に受入れられたことは当事者間に争いがない。)。
右記載によれば、三ないし一〇〇〇ヘルツの低周波電流により電気刺激を身体各部に与えて神経、筋の麻痺を治療する低周波治療器は本願出願前周知であり、右治療は電気刺激によるものであるから、前記四に述べたところに徴すれば、右低周波治療器は本願考案同様低周波電流マツサージ器であるということができる。
しかして、本願第一項の「数Hz程度の低周波信号乃至該低周波信号の数倍程度の低周波信号」の低周波電流は、第二引用例に示された周知の低周波電流マツサージ器(低周波治療器)に用いられる三ないし一〇〇〇ヘルツの低周波電流に含まれており、本願明細書を検討するも、本願考案が使用低周波電流の周波数を右のように限定したことによる格別の効果を見出すことができない。前掲甲第三、第五号証には、発振周波数を二〇ヘルツ或は四ヘルツとし、これを九秒間持続させて三秒間停止させる断続作動を有する波形信号を人体に通じた場合マツサージ師によるもみ、たたきによる指圧感を生ずる旨の記載があるが、仮に右のような指圧感になんらかの技術的意義を認めたとしても、本願第一項は右に示された具体的な周波数及び持続、停止時間に限られておらず、それ以外の周波数、持続、停止時間を選択した場合にも右のような指圧感が生ずるか否か不明であることは前記四、2に述べたとおりであるから、右のような指圧感をもつて、本願考案が奏する特別の効果と認めることはできないのである。
そうであれば、第二引用例に示された範囲でどの程度の周波数を採るかは選択上の問題であり、結局相違点(1)は、第二引用例記載の周知の低周波マツサージ器に用いられている低周波電流から本願第一項記載の範囲のものを選択し、これを第一引用例記載の発明に係る電流マツサージ器に適用すれば得られる構成というべきである。したがつて、相違点(1)は右両引用例からきわめて容易考案し得るところである。
3 原告は周波数五〇ヘルツをこえる電流は電気刺激を受けるだけでマツサージとして利用できない旨主張する。しかし、前記のように電気刺激も手技に代わるマツサージと認めることができるのであるから、右主張は意味がない。のみならず、仮に右にいうマツサージをもみ、たたきによる指圧感を意味するものと解しても、この点に関する立証はない。
また、原告は第一引用例記載の発明に係る装置が六〇ないし三〇〇ヘルツの低周波電流を使用するものであることが確認されたとして、同発明から本願考案を想到することの容易性を否定する。審決は、前記のように本願第一項には周波数の記載はあるのに対し、第一引用例にはこの点の記載がないことを相違点としてとらえ、
周波数については第二引用例の記載から選択事項であると判断したのであるから、
本願考案と第一引用例記載の発明における周波数の差を論ずることは意味のないことである。
4 このように取消事由(5)も理由がない。
六 取消事由(6)について 先願考案が信号の断続作動を数秒程度の持続と秒単位の停止とにより形成したのに対し、第一引用例記載の発明が周期二秒の断続流とした点において、両者が相違していることについては当事者間に争いがない。
しかし、前記のように、原告主張の指圧感に技術的意義を見出せないだけでなく、本願考案において本願明細書が示す限られた周波数信号、断続時間を除き常に指圧感が生ずるか否か不明というほかないから、指圧感をもつて本願考案の特有の効果と認めることができない。そうであれば本願考案と引用例記載の発明における断続作動の差にどれ程の技術的意義の差があるのか明らかでなく、右の差を単なる設計事項に属するとした審決の判断に誤りはない。
七 以上述べたところによれば、本願考案は第一引用例記載の発明に係る人体用電気刺激装置及び第二引用例記載の周知の低周波電流マツサージ器から、きわめて容易考案をすることができたものであるというべきであるから、本願考案が実用新案法3条2項により実用新案登録をすることができないと判断した審決は正当である。
よつて、本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。
裁判官 瀧川叡一
裁判官 松野嘉貞
裁判官 清野寛甫
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