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事件 昭和 62年 (ヨ) 12号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 長野地方裁判所 諏訪支部
判決言渡日 1988/09/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事仮処分
主文 本件申請を却下する。
申請費用は債権者の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 申請の趣旨 債務者らは、各自別紙物件目録記載のU字溝を製造し、販売し、または販売のために展示してはならない。
二 申請の趣旨に対する答弁 主文第一項と同旨
当事者の主張
一 申請の理由1 債権者は次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といいその考案を「本件考案」という。)の所有者である。本件実用新案権は故【A】の所有であつたところ、債権者が譲渡によりこれを取得したものである。
@ 実用新案登録番号 第一六一九五四〇号A 考案の名称 吊上げ穴付きU字溝B 出願日、出願番号 昭和五七年三月五日(昭五七-三一〇四九号)C 公告日、公告番号 昭和六〇年六月八日(昭六〇-一九一〇二号)D 登録日 昭和六〇年一二月一六日2 本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲は次の通りである。
外部に向つて開口する吊上げ用の係止穴を両側外壁に設けてなると共に該係止穴は前記両側外壁の長手方向の略中央位置で、かつ両側外壁間の対向位置に各々形成されてなり、前記係止穴の内周面及び/またはこの係止穴に挿入される吊り金具の外周面を抜け防止粗面として形成してあることを特徴とする吊上げ穴付きU字溝。
3 本件考案の構成要件及び作用効果は次の通りである。
(一) 構成要件@外部に向つて開口する吊上げ用の係止穴をU字溝の両側外壁に設けてあり、
A右係止穴は右両側外壁の長手方向の略中央位置でかつ両側外壁間の対向位置に各々設けてあり、
B前記係止穴の内周面及びこの係止穴に挿入される吊り金具の外周面を、或いは前記係止穴の内周面またはこの係止穴に挿入される吊り金具の外周面を抜け防止粗面として形成してあるCことを特徴とする吊上げ穴付きU字溝(二) 作用効果(イ) U字溝の外壁長手方向中央位置でかつ両外壁の対向位置に係止穴が設けられていることから、一対の吊り金具を右係止穴に挿入してU字溝をワイヤーによつて吊り上げれば、逆U字状に寝かせて載置されておかれるU字溝を係止穴部を支点として容易に一八〇度反転させ、またこれを移送し、現場に打重(敷設)することができ、
(ロ) 係止穴の内周面及びこれに挿入される吊り金具の外周面、或いは係止穴の内周面または吊り金具の外周面が抜け防止粗面とされている(凹凸部が設けられている)ことから、前記吊り金具を係止穴に挿入してU字溝を吊り上げた際や、表向きに反転させる際などに、係止穴の内周面と吊り金具の外周面との間に大きな摩擦抵抗が生じ、U字溝の係止穴から吊り金具が抜けることはない。
よってU字溝の施工作業を安全かつ迅速を行うことができる。
4 債務者河原コンクリート工業株式会社(以下「債務者河原コンクリート」という。)、債務者波多コンクリート工業株式会杜(以下「債務者波多コンクリート」という。)、債務者八束コンクリート工業株式会杜(以下「債務者八束コンクリート」という。)は、いずれも、遅くとも昭和六〇年二月ころから、別紙物件目録記載のU字溝を製造、販売している。
5 債務者ら製造、販売になる吊り上げ穴付きU字溝の構成及び作用効果は次の通りである。
(一) 構成@外部に向つて開口する吊上げ用の係止穴をU字溝の両側外壁に設けてあり、
A右係止穴は右両側外壁の長手方向の略中央位置でかつ両側外壁間の対向位置に各々設けてあり、
B前記係止穴の内周面の全部或いは一部を抜け防止のための凹凸部からなるねじ山として形成してあるC吊上げ穴付きU字溝(二) 作用効果(イ) 一対の吊り金具をU字溝の外壁に設けた係止穴に挿入してU字溝をワイヤーによつて吊り上げ、これを係止穴部を支点として容易に一八〇度反転させ、移送し、現場に敷設することができ、
(ロ) 係止穴の内周面が抜け防止のための凹凸部からなるねじ山とされているので、係止穴の内周面と吊り金具の外周面との間に大きた摩擦抵抗が生じてU字溝の係止穴から吊り金具が抜けることはない。
このように、製品の吊上げ作業が安全且つ簡単にできる。
6 本件実用新案権と債務者らのU字溝とを比較すると次の通りであるから、債務者らのU字溝は本件実用新案権の技術的範囲に属する。すなわち、
(一) 本件考案の構成要件@、A、Cと債務者らのU字溝の構成@、A、Cとは同じである。
(二) 本件考案の構成要件Bと債務者らのU字溝の構成Bとを比較すると、前者では、「(U字溝の)係止穴の内周面を抜け防止粗面として形成してあ」り、後者では、「(U字溝の)係止穴の内周面の全部或いは一部を抜け防止のため凹凸部からなるねじ山として形成してある」。
ところで、本件考案において、U字溝の係止穴の内周面を抜け防止粗面にしたのは、この係止穴に吊り金具を差し込んでU字溝を吊上げて反転する際、内周面と吊り金具との間の摩擦抵抗を増大させて吊り金具の抜出を防止したものである。そして、「抜け防止粗面」については、その一実施態様として、本件実用新案公報(以下「本件公報」という。)の考案の詳細な説明2欄九、一四、一六行目及び二一行目に孔の内周面に「凹凸部」を設ける旨の記載がなされている。
他方、債務者らのU字溝の係止穴の内周面には「ねじ山」が形成されているが、
「ねじ山」は、連続状の凹部と凸部により形成された「凹凸部」と言えるので、
「凹凸部」、従つて「抜け防止粗面」の概念に含まれる。
また、係止穴の内周面にねじ山を形成する目的、効果を考察しても、係止穴に吊り金具を差し込んでU字溝を吊り上げて反転する際、吊り金具が係止穴から抜出しないようにするために他ならず、このような目的、効果以外の目的、効果は全く考えられない。
したがつて、本件考案の構成要件Bと債務者らのU字溝の構成Bとは同一である。
(三) 債務者らのU字溝の作用効果(イ)、(ロ)は、本件実用新案権の作用効果(イ)、(ロ)に対応し、両者は同一である。
(四) 以上、債務者らのU字溝の構成、作用効果は、本件実用新案権の構成要件、作用効果と同一であるから、債務者らのU字溝は本件考案技術的範囲に属するものである。
7 債務者らは、前記のように、遅くとも昭和六〇年二月ころから、故意または過失により前記U字溝の製造、販売をしており、昭和六〇年一二月ころ以降だけでも、
(一) 債務者河原コンクリートについて@ 島根県斐川町直江北土地区画整理事業第二工区整備工事 金額二四六万五七九〇円A 島根県出曇市発注武志一の谷線道路改良工事 金額 一一万六三〇〇円B 広島県東城町始終森線道路工事 金額四〇八万〇〇〇〇円など、少なくとも四九件以上の工事で、計金四〇二二万円以上の売り上げがある。
(二) 債務者波多コンクリートについて@ 島根県大田市発注柿田線道路改良工事一工区 金額一八四万五一〇〇円A 島根県発注仁摩町宅野港港湾改修工事 金額 八〇万九二〇〇円など、少なくとも二七件以上の工事で、計金一二一九万円以上の売り上げがある。
(三) 債務者八束コンクリートについて@ 島根県宍道町発注町道砂子原線改良工事 金額 九九万六一〇〇円A 島根県発注湖陵掛合線特殊改良一種工事 金額 九三万一〇〇〇円など、少なくとも二八件以上の工事で、計金一八〇八万円以上の売り上げがある。
債務者らのU字溝の製造、販売による粗利(売上利益)は、売上高の少なくとも四割はあると考えられる。
従つて、昭和六〇年一二月ころ以降だけでも、現在までに、
(一) 債務者河原コンクリートによるU字溝の売上高は四〇二二万円以上であるので、同債務者は少なくとも約一六〇八万円の利益を得、
(二) 債務者波多コンクリートによるU字溝の売上高は一二一九万円以上であるので、同債務者は少なくとも約四八七万円の利益を得、
(三) 債務者八束コンクリートによるU字溝の売上高は一八〇八万円以上であるので、同債務者は少なくとも約七二三万円の利益を得、
それぞれ債権者に同額の損害を与えた。
8 保全の必要性 債権者は債務者らを被告として本件実用新案権侵害禁止及び損害賠償請求の訴を
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しかるに、債務者らは、現に債権者の本件実用新案権を侵害して前記U字溝の製造、販売を行つており、将来も右製造、販売を継続する予定である。
したがつて、債務者らによる侵害が継続すると、債権者の損害は一層増大し、債権者が前記訴訟において勝訴の判決を得ても、
それだけでは回復し難い損害を被るおそれがあるので本申請に及ぶ次第である。
二申請の理由に対する認否1申請の理由1及び2は認める。
2同3の(一)、(二)(イ)は認める。(二)(ロ)のうちU字溝の係止穴から吊り金具が抜けることはないとの点は否認し、その余は認める。
3同4のうち、債務者らがU字溝を製造販売していることは認めるが、債務者らが製造販売する右U字溝は、「外部に向つて開口する吊上げ用の係止穴をU字溝の両側外壁の長手方向略中央位置でかつ両側外壁間の対向位置に設け、前記係止穴の内周面の奥約二分の一にねじ山が形成してある吊上げ穴付きU字溝」と特定すべきである。
4同5の(一)@、A、Cは認めるが、Bは否認する。債務者らのU字溝は、
「係止穴の内周面の奥約二分の一にねじ山が形成してある」ものである。(二)(イ)のうち、「係止穴に挿入して」とある点を否認し、その余は認める。債務者らのU字溝は係止穴に吊り金具を挿入するものではなく、螺入するものである。
(ロ)のうち、「U字溝の係止穴から吊り金具が抜けることはない」との点及び「製品の吊上げ作業が安全且つ簡単である」との点は認めるが、その余は否認する。債務者らのU字溝において吊り金具が係止穴から抜けないのは、内周面の奥約二分の一にねじ山が形成された係止穴に外周面にねじ山が形成された吊り金具を螺入し、両者を螺合することによる完全止着効果のためである。
5同6の(一)は認める。(二)のうち、本件考案において、U字溝の係止穴の内周面を抜け防止粗面として形成してあること、右抜け防止粗面にしたのは、係止穴に吊り金具を差し込んでU字溝を吊上げて反転する際、内周面と吊り金具との間の摩擦抵抗を増大させて吊り金具の抜出を防止するためであり、右抜け防止粗面の実施態様として本件公報の考案の詳細な説明欄に債権者主張のとおりの記載があることは認めるが、その余は否認する。(三)、(四)は否認する。
6同7のうち債務者らがU字溝を製造販売していることは認めるが、その余は否認する。
7同8のうち債権者がその主張の本訴を提起したことは認めるが、その余は否認する。
8債務者らのU字溝は、次のとおり、その構成、作用効果を対比すると、本件考案のそれと相違するから、本件考案技術的範囲に属さないというべきである。
(一)構成の対比本件考案の構成要件Bにいう「抜け防止粗面」は「粗面」であり、U字溝において一般に「粗面」というときは、本件考案実施例にも記載されているように表面に無数の突起が散点状に並んだ、いわゆるザラザラの面を指すのが技術常識であるから、債務者らのU字溝の係止穴内周面の奥約二分の一に形成されたねじ山を指して「粗面」といわないことは明白である。更に本件考案の構成要件Bにおいては、
係止穴に吊り金具を挿入するとされているところ、一般に「挿入」というときは、
すべり入れるようにして「差し込み入れる」ことを意味し、ねじを回しながら入れる「螺入」は含まれないのが技術常識である。これに対し、債務者らのU字溝はねじ山を切つた係止穴にねじ山を切つた吊り金具を螺入するものであり、この点においても本件考案の右構成要件と相違している。
(二)作用効果の対比本件考案は、U字溝の吊り上げ用の係止穴の内周面及びこの係止穴に挿入される吊り金具の外周面或いは右係止穴の内周面または右吊り金具の外周面を粗面化することによる摩擦力増強効果を狙つたものであり、そのために右吊り金具が右係止穴から抜けにくくなるという効果を奏するものであるのに対し、債務者らのU字溝は、U字溝の吊り上げ用の係止穴の内周面と吊り金具の外周面にそれぞれねじ山を切り、両者を螺合することによる完全止着効果を狙つたものであり、そのために右吊り金具が右係止穴から抜けなくなるという効果を奏するものである。更に本件考案の効果として、「U字溝の施行作業を安全かつ迅速に行うことができる。」とされるが、これは前記のとおり吊り金具を係止穴に挿入するという本件考案の構成から生ずる効果であるのに対し、債務者らのU字溝は前記のとおり係止穴に吊り金具を螺入するため、それに時間がかかり、施行作業を迅速に行うことはできない。
以上のとおり、債務者らのU字溝は、本件考案の構成要件Bを欠くうえ、その作用効果においても本件考案のそれとは格段の差異を有するから、本件考案技術的範囲に属さない。
三抗弁1仮に本件考案の構成要件Bにいう「抜け防止粗面」にねじ山が含まれるとするならば、本件考案は実用新案法3条2項に違反している。すなわち、右条項は、出願前当業者が極めて容易に考案できたものである場合は、登録を受けることはできない旨規定しているところ、本件考案は、(イ)昭和五五年二月二五日公開の実開昭五五-二八六四三号及び(ロ)昭和五四年九月二七日公告の実公昭五四-三〇七六六号の各考案において示されたU字溝に、(ハ)昭和五〇年七月二一日公告の実公昭五〇-二五四七七号、(ニ)昭和五四年一二月四日公開の実開昭五四-一七一二三七号及び(ホ)昭和五四年一二月二六日公告の実公昭五四-四五四〇〇号の各考案において示されたねじによる抜け防止技術を単に転用することによつて出願前当業者が極めて容易に考案することができたものであるから、明らかに前記規定に違反して登録されたものであり、無効理由がある。したがつて、本件考案を有効なものとして取扱うとするならば、その構成要件Bにいう「抜け防止粗面」の解釈については、本件考案明細書及び図面実施例として具体的に明示された「散点状の突起」に厳密に限定して解釈されるべきである。
2また、仮に本件考案の構成要件Bにいう「抜け防止粗面」にねじ山が含まれるとするならば、本件考案は実用新案法3条の2第1項に違反している。すなわち、
右条項は、出願に係る考案が、当該出願日前の他の実用新案、特許出願であつて、
当該実用新案出願後に出願公告又は出願公開がなされたものの、願書に最初に添付した明細書又は図面に記載された考案又は発明と同一であるときは、その考案については登録を受けることができない旨規定しているところ、本件考案先願に係る昭和五六年八月一三日出願の実願昭五六-一二〇五〇九号(昭和五八年二月二二日公開実開昭五八-二七二七号、以下「本件先願」という。)の出願当初の明細書及び図面には、本件考案の全ての構成要件が開示されている。
まず、本件考案の構成要件@、A、Cが本件先願の出願当初の明細書及び図面に明瞭に記載されていることについては全く疑問の余地はない。次に、本件考案の構成要件Bが本件先願の出願当初の明細書及び図面に記載されているか否かをみると、本件先願の当初の明細書二頁一四ないし一五行等には、U字溝Aの吊上げ穴Bに挿入される「加工ボールト5」の文言が明瞭に記載されており、「加工ボールト5」とは雄ねじを有する「加工ボルト」の意味であるから、ねじを切つた部位に何の限定もない以上、右加工ボルトのU字溝内に位置する部分にもねじ山が形成されていると考えるのが技術常識である。
また、本件先願を原出願としてなされた分割出願(実願昭五九-九〇四七六号)の明細書には、「差込み棒5はその長手方向に連結するねじ山を有する加工ボルトからなる差込み棒本体15と、この差込み棒本体15を前記一対の吊り上げ杆4、
4に回動可能にして係止しうる鍔部11及びナツト状の止め部9とを有して構成されているものである。」と記載され、図面にも加工ボルトの外周面にねじ山が描かれている。そして、右分割出願について出された拒絶理由通知に対して、出願人は意見書を提出し、「ところで「ボールト」は「ボルト」の意味であり、・・・たしかに図面(原出願の図面、債務者ら代理人注)にはねじ山を有する加工ボルトは描画されていません。しかしこれは出願人自ら図面を描画したからであり、出願人はこの「加工ボルト」をねじ山のある部材として認識していたのであり、その様に解釈できる図面の記載であります。・・・すなわち、前記ねじ山が抜け防止の役目を果たすことになるからであります。」と主張したところ、審査官も右主張を入れ、
前記分割出願考案と本件先願考案との同一性を認めるに至つている。したがつて、右出願人及び審査官の見解からしても、本件先願には「加工ボールト5」のU字溝内に位置する部分にもねじ山が切つてあることが実質的に記載されていたといわなければならない。
以上のとおり、ねじ山が本件考案の構成要件Bにいう「抜け防止粗面」に当たるとするならば、結局、本件先願の出願当初の明細書及び図面には本件考案の構成要件Bについても記載されていたといわなければならないから、本件考案が実用新案法3条の2第1項の規定に違反していることは明らかで無効とされるべきものである。したがつて、本件考案を有効なものとして取扱うとするならば、その構成要件Bにいう「抜け防止粗面」の解釈については、本件考案明細書及び図面実施例として具体的に明示された「散点状の突起」に巌密に限定して解釈されるべきである。
四抗弁に対する認否1抗弁1は争う。債務者ら主張の(イ)、(ロ)の各考案には本件考案の構成要件@、A、Cが示されているが、本件考案は、単に右構成要件@、A、Cにその要旨があるのではない。また、(ハ)、(ニ)、(ホ)の各考案は本件考案の構成要件Bに関するものであるが、(ハ)は「ケーブル用ドラム」、(ニ)は「金属性建具の支持装置」、(ホ)は「垂直平板ライナーの吊り具」の各考案であつて、その属する技術分野が本件考案とは全く異なるものであるから、本件考案進歩性の判断に引用できないものである。そもそも、本件考案は、構成要件@ないしCの構成要件に基づき申請の理由3(二)記載の優れた作用効果が生まれるところに特色があるものであるから、実用新案法3条の2項に違反していない。
2同2は争う。本件先願明細書及び図面を見ても「加工ボールト」なる文言のみしか記載されておらず、右記載からのみでは、本件考案の要旨の一つをなすU字溝の側壁略中間位置に設けた吊上げ穴の内周面をねじを切るなどして「抜け防止粗面」としたことの技術思想は何ら開示されていない。実用新案法3条の2第1項先願により後願を排除する効力を規定している以上、同条項に規定された「先願の願書に添付された明細書又は図面に記載された考案」とは、極めて明確かつ当業者の誰が判断しても分かるように客観的に記載されていることが必要であつて、本件先願明細書及び図面に本件考案と同一の考案が記載されているとはとうてい言えない。
五再抗弁仮に本件考案に実用新案法3条の2の適用を考えるとしても、同条一項本文かつこ書によると、先願考案または発明をした者が当該実用新案登録出願の考案者と同一である場合には、同条一項本文の適用が除外され、先願の願書に添付した明細書または図面に記載された考案または発明について、実用新案登録を受けることができるところ、形式的には、本件先願考案者は「【B】」であり、後願となる本件考案考案者は「【A】」であるが、本件考案考案者は実質的には【A】であり、同人は、子を思う気持から本件先願の権利を長男の【B】の所有にしようと考えその出願人を【B】名義としたものである。したがつて、本件考案は、前記の実用新案法3条の2第1項本文の適用除外の場合に該当する。
六再抗弁に対する認否否認する。
七再々抗弁仮に本件先願考案者が【A】であつたとすると、同人は、自ら真の考案者が【B】でないことを知りながら、故意に本件先願考案者を【B】であると偽つて本件先願を出願したわけであるから、本来【A】は本件先願が登録される前に、すなわち、本件先願が特許庁に係属している間に考案者の記載を訂正する責任があつたといわなければならない。しかるに、同人は、これを放置したまま登録を受け、
同人の相続人である債権者は、債務者らとの係争が起こつた後に初めて本件先願考案者は実は【A】であつたと再抗弁において主張しているのである。かかる債権者の主張が認められるとすれば、本件先願考案者が【A】であると信じ、これに基づいて本件考案が実用新案法3条の2の規定に違反するものであると信じた債務者らに著しい不利益が及ぶこととなる。したがつて、債権者の右主張は信義則にもとり、禁反言の原則に反するものである。
八再々抗弁に対する認否否認する。
第三当裁判所の判断一債権者が本件実用新案権を所有していること及び本件考案の実用新案登録請求の範囲が債権者主張(申請の理由1、2)のとおりであることは、いずれも当事者間に争いがない。
二右争いのない本件考案の実用新案登録請求の範囲及び疎明資料によれば、本件考案は、吊上げ穴付きU字溝に関するものであつて、債権者主張(申請の理由3(一))の@ないしCの各構成要件からなるものと認められる。
三疎明資料によれば、債務者らは、次の構成からなる吊上げ穴付きU字溝(以下「イ号製品」という。)を製造販売していることが認められる。
@外部に向つて開口する吊上げ用の係止穴をU字溝の両側外壁に設けてありA右係止穴は右両側外壁の長手方向の略中央位置でかつ両側外壁間の対抗位置に各々設けてありB前記係止穴の内周面の奥約二分の一にねじ山が形成してあるCことを特徴とする吊上げ穴付きU字溝四債権者は、イ号製品の構成は本件考案技術的範囲に属する旨主張するので検討する。
1まず、イ号製品が本件考案の構成要件@、A、Cを充足していることは明らかであつて、この点は当事者間にも争いがない。
2そこで、次にイ号製品が本件考案の構成要件Bを充足するか否かについて検討する。
本件考案の構成要件Bとイ号製品の構成とを対比すると、本件考案は、U字溝の吊上げ用係止穴の内周面が「抜け防止粗面」として形成されているという構成であるのに対し、イ号製品は、U字溝の吊上げ用係止穴の内周面の奥約二分の一にねじ山が形成されているという構成である。
しかるところ、債権者は、本件考案の右「抜け防止粗面」にはイ号製品の右ねじ山も含まれる旨主張する。しかしながら、疎明資料によれば、本件公報には、本件考案にいう「抜け防止粗面」の意味について特に定義されておらず、本件公報の考案の詳細な説明の項には、右「抜け防止粗面」について、実施例に則し、「孔6の内周面には凹凸部が全面に設けられている」と記載され、添付図面第五図にも係止穴の内周面の全面に多数の小突起が形成されている状態が図示されているに止まり、ねじ山が形成されている状態が「抜け防止粗面」に含まれることを示唆するような記載は存しないことが認められる。
もつとも、債権者は、ねじ山は連続状の凹部と凸部により形成された凹凸部と言えるので、本件考案にいう「抜け防止粗面」の概念に含まれる旨主張しており、なるほどねじ山はその山の頂と谷底の部分をみれば連続した凹部と凸部とによつて形成されているといえるけれども、ねじ山以外にも凹凸部の形状には種々のものが考えられるところであり、凡そ凹凸部であればその全てが本件考案にいう「抜け防止粗面」に含まれるとは解し難いから、イ号製品のねじ山についてもこれが凹凸部により形成されているからといつて直ちに右「抜け防止粗面」に含まれると解することは相当でなく、そう解し得るか否かは、更に右「抜け防止粗面」とイ号製品のねじ山との目的、作用効果及びその目的、作用効果達成の手段として右構成が採用された技術的意義を比較考察して決する必要がある。
しかして、疎明資料によれば、本件公報の考案の詳細な説明の項に「この考案は、吊上げ用の穴を有する吊上げ穴付きU字溝に関する。U字溝施行に際し、現場に運び置いて行く場合、第1図に示すように置いていくがこれを反転させるために、また移送、打重を行なうためU字溝には、係止パイプAが設けられている。そしてこの係止パイプAに第2図に示すように吊り金具Bを挿入し、この吊り金具Bにワイヤーを取付け吊上げる。しかし、係止パイプAと吊り金具Bとの係止は、面接触による摩擦力で係止されているので十分でない。そのため係止パイプAから吊り金具Bが抜け出ることがあり、非常に危険で、またU字溝が破損することもある。この考案は前記事情に鑑み工夫されたものであり・・・・」「このような構成からたるU字溝1の反転、移送、打重を行なうための吊上げには、吊り金具9を穴4に挿入しワイヤー10によつて吊上げる。この時、吊り金具9には、係止パイプ5の孔6に設けられている凹凸部8により抜けにくい。吊り金具9は、係止パイプ5の孔6に挿入されている部分に凹凸部を設けたものでもよい。このようにするとさらに抜けにくくなる。」「U字溝に埋設されている吊上げ用の係止パイプに凹凸を設けることにより、吊上げ用の吊り金具が抜けにくくなり反転、移送、打重等のU字溝の施行作業が安全かつ迅速に行える。」との記載があり、右各記載によれば、本件考案が吊上げ用係止穴の内周面を「抜け防止粗面」と形成する構成を採用した目的、作用効果は、右係止穴に吊り金具を挿入してU字溝を吊り上げた際、右係止穴の内周面と吊り金具の外周面との間の摩擦抵抗を増大させて係止穴から吊り金具の抜出しを防止するという点にある。
これに対し、疎明資料によれば、イ号製品が吊上げ用係止穴の内周面の奥約二分の一にねじ山を形成する構成を採用した目的、作用効果は、右ねじ山(雌ねじ)に対応してその外周面にねじ山(雄ねじ)を形成してある吊り金具を右係止穴に螺入し両者を螺合することによつて係止穴から吊り金具の抜出を防止するという点にある(なお、疎明資料によると、施行業者の中には、イ号製品と同じく吊上げ用係止穴の内周面にねじ山の形成されたU字溝を吊り上げるに際し、右係止穴に外周面にねじ山が形成されていない吊り金具又はねじ山が形成されていても右係止穴の内径より外径が小さい吊り金具を挿入し両者を螺合しない場合があることが認められ、
この事実によると、イ号製品についても右と同様の使用方法が採られる場合がありうると考えられるが、他方、右使用方法は施行業者が係止穴に吊り金具を螺入するための不便手間を回避するため便宜的に行なつているものであつて、本来の用法でないことも認められるから、右使用方法が施行業者間で採られていることをもつて、イ号製品が吊上げ用係止穴の内周面にねじ山を形成している目的、作用効果が前記のとおりでなく、本件考案の「抜け防止粗面」のそれと同一であるとすることはできない。)。
以上によれば、本件考案の「抜け防止粗面」とイ号製品のねじ山とは、吊上げ用係止から吊り金具の抜出を防止するという目的、作用効果を同じくするといえるけれども、同一の目的、作用効果を有するからといつて直ちにイ号製品のねじ山が本件考案の「抜け防止粗面」に含まれるといえないことはいうまでもなく、かかる目的、作用効果を達成するために、本件考案の「抜け防止粗面」が係止穴の内周面とこの係止穴に挿入した吊り金具の外周面との摩擦力を増大させるものであるのに対し、イ号製品のねじ山が係止穴にねじ山が形成された吊り金具を螺入し両者を螺合させるのであつて、両者は、右目的、作用効果を達成するための技術思想、手段を異にしていることが明らかである。そうだとすると、本件考案の「抜け防止粗面」にはイ号製品のねじ山は含まれないというべきであるから、イ号製品は、本件考案の構成要件をB充足せず、本件考案技術的範囲に属しないものといわざるを得ない。
五以上の次第で、イ号製品が本件考案技術的範囲に属することを前提とする債権者の本件申請は、その余の点について判断するまでもなく理由がないから、これを却下することとし、申請費用につき民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり決定する。
別紙物件目録(省略)
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