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事件 昭和 63年 (ラ) 671号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1989/02/15
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事仮処分
主文 本件抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
事実及び理由
全容
一 抗告人は「1 原決定を取り消す。2 相手方らは、各自別紙物件目録記載のU字溝を製造し、販売し、または販売のために展示してはならない。」との裁判を求めた。
当事者双方の主張は、当審における抗告人の主張が別紙「抗告人準備書面(五)」写し記載のとおりである他、原決定の、「第二 当事者の主張」の項のとおりであるから、これを引用する。
二 当裁判所は、原審における当事者双方の主張及び疎明に、当審における抗告人の主張及び疎明を合わせ考えても、イ号製品が本件考案技術的範囲に属しないものであり、イ号製品が本件考案技術的範囲に属することを前提とする抗告人の本件仮処分申請は理由がないと判断するものであるが、その理由は、次のとおり付加する他、原決定の、「第三 当裁判所の判断」の項のとおりであるから、これを引用する。ただし、原決定二〇枚目表九行目「イ号製品のねじ山が係止穴にねじ山が形成された吊り金具」とあるを、「イ号製品のねじ山(雌ねじ)は、それがその内周面に形成された係止穴に、外周面に右ねじ山(雌ねじ)に対応するねじ山(雄ねじ)が形成された吊り金具」と訂正する。
1 当審における抗告人の主張一について ねじ山は、連続状の凹部と凸部により形成された凹凸部と言うことができるが、
その凹部と凸部の連続の態様が極めて特殊で、独立の基本的機械要素となつていることは技術常識である。したがつて、「抜け防止粗面」あるいは「凹凸部」という文言が、ねじ山を含まない趣旨で使用されることも十分考えられるところである。
本件考案明細書中には、実用新案登録請求の範囲に記載された「抜け防止粗面」の意味についての定義もなく、明細書中にも図面中にも、ねじ山が形成されている状態が「抜け防止粗面」に含まれることを示唆する記載がないことは、原決定が認定したとおりであるから、ねじ山が、凹凸部により形成されているからといつて、直ちにこれを「抜け防止粗面」に当たると解釈するのは相当でなく、イ号製品のねじ山が本件考案の抜け防止粗面に当たると解することができるか否かは、本件考案の「抜け防止粗面」及びイ号製品のねじ山の、それぞれの目的、作用効果及びその目的、作用効果達成の手段として各構成が採用された技術的意義を比較考察して判断すべきものである。
右と同じ見解を採るものと解される原決定の判断は正当である。右のような比較考察をするまでもなく、イ号製品のねじ山は本件考案の凹凸部に含まれるので、イ号製品の構成要素Bは本件考案の構成要素Bを充足し、イ号製品は本件考案技術的範囲に属する旨の抗告人の主張は採用できない。
2 当審における抗告人の主張二について(一) 本件考案が、吊上げ用係止穴の内周面を「抜け防止粗面」と形成する構成を採用した目的、作用効果は、右係止穴に吊り金具を挿入してU字溝を吊り上げた際、右係止穴の内周面と吊り金具の外周面との間の摩擦抵抗を増大させて係止穴から吊り金具の抜け出しを防止するという点にあること、イ号製品が、吊上げ用係止穴の内周面の奥約二分の一にねじ山を形成する構成を採用した目的、作用効果は、
右ねじ山(雌ねじ)に対応してその外周面にねじ山(雄ねじ)を形成してある吊り金具を右係止穴に螺入し、両者を螺合することによつて係止穴から吊り金具の抜け出しを防止するという点にあること、したがつて、本件考案の「抜け防止粗面」とイ号製品のねじ山とは、吊上げ用係止穴から吊り金具の抜け出しを防止するという目的、作用効果を同じくすることは、原決定が認定したとおりである。
(二) 本件考案明細書中の考案の詳細な説明の欄には、従来の技術につき、
「係止パイプAと吊り金具Bとの係止は面接触による摩擦力で係止されているので十分でない。」(疎甲第二号証1欄二〇行から二二行まで参照。)と記載されていることも原決定認定のとおりである。
右従来技術の作用効果を検討するに、右の場合においては、係止パイプ(吊上げ用係止穴)の内周面も、吊り金具の外周面も凹凸がなく、U字溝を吊り上げた際、
水平な吊上げ用係止穴に吊り金具が水平に挿入されていれば、吊り金具の上側の外周面に対し、係止穴の上側の内周面を介し、鉛直方向から、即ち、吊り金具の軸方向に対し垂直な上方向からU字溝の荷重がかかるのである。
そして、何らかの理由で、吊り金具またはU字溝に、その吊り金具が係止穴から離脱する方向にも力が加わつた場合には、吊り金具の上側の外周面と係止穴の上側の内周面との間(吊り金具の外径が係止穴の内径よりかなり小さいとすれば、係止穴の出口付近の上側の内周面とこれに接する吊り金具の上側の外周面との間及び吊り金具の先端付近の下側の外周面とこれに接する係止穴の下側の内周面との間)に働く摩擦力によつて、吊り金具が係止穴から抜け出すのを係止するが、吊り金具が係止穴から離脱する方向に働く力が右の摩擦力を上回る状態になれば、吊り金具は係止穴から抜け出してしまうこととなることは技術常識である。
(三) 本件考案においては、吊上げ用係止穴の内周面及び吊り金具の外周面が抜け防止粗面として形成されている場合と吊上げ用係止穴の内周面または吊り金具の外周面が抜け防止粗面として形成されている場合とが含まれること、本件考案の公報に記載された考案の詳細な説明の欄には、右「抜け防止粗面」について実施例に則する説明として、「孔6の内周面には凹凸部が全面に設けられている」旨の記載があることは、原決定が認定したとおりである。
(1) そこで、まず、吊上げ用係止穴の内周面または吊り金具の外周面が抜け防止粗面として形成されている場合の内、実施例に則し、吊上げ用係止穴の内周面に抜け防止粗面として凹凸部(比較のため、ねじ山を含まないものとする。)が全面に形成されており、吊り金具の外周面は抜け防止粗面として形成されていない場合の作用効果を検討する。
右の場合においては、吊り金具の外周面には凹凸がなく、吊上げ用係止穴の内周面には凹凸部があるので、吊り金具の外周面と係止穴の内周面が全面的に接触するものではなく、係止穴の内周面の凸部の頂部(その形状は、凸部の形態により面状の場合、線状の場合、点状の場合がある。)が吊り金具の外周面と接触することになる。したがつて、U字溝を吊り上げた際、水平な吊上げ用係止穴に吊り金具が水平に挿入されていれば、吊り金具の上側の外周面に対し、係止穴の上側の内周面の凸部の頂部を介し、鉛直方向から、即ち、吊り金具の軸方向に対し垂直な上方向からU字溝の荷重がかかるのである。
そして、何らかの理由で、吊り金具またはU字溝に、吊り金具が係止穴から離脱する方向に力が加わつた場合には、吊り金具の上側の外周面と係止穴の上側の内周面の凸部の頂部との間(吊り金具の外径が係止穴の内径よりかなり小さいとすれば、係止穴の出口付近の上側の内周面の凸部の頂部とこれに接する吊り金具の上側の外周面との間及び吊り金具の先端付近の下側の外周面とこれに接する係止穴の下側の内周面の凸部の頂部との間)に働くより強い摩擦力によつて、吊り金具が係止穴から抜け出すのを係止するが、吊り金具が係止穴から離脱する方向に働く力が右の摩擦力を上回る状態になれば、吊り金具は係止穴から抜け出してしまうこととなることも技術常識である。
(2) 次に、吊上げ用係止穴の内周面及び吊り金具の外周面が抜け防止粗面として形成されている場合につき、実施例に則し、吊上げ用係止穴の内周面及び吊り金具の外周面に抜け防止粗面として凹凸部(比較のため、ねじ山を含まないものとする。)が全面に形成されている場合の作用効果を検討する。この場合、係止穴の内周面の凹凸と吊り金具の外周面の凹凸が完全に係合するという限定はないから、吊り金具の外周面及び係止穴の内周面の一方の凸部の頂部(前記同様その形状は、凸部の形態により面状の場合、線状の場合、点状の場合がある。)が他方の凸部の頂部、凸部の立ち上がり面(斜面を含む。以下同じ。)または凹部と、一方の凸部の立ち上がり面が他方の凸部の立ち上がり面と接触する可能性があり、その接触の態様は、双方の凹凸部の形状、双方の位置関係により多様である。
したがつて、U字溝を吊り上げた際、水平な吊上げ用係止穴に吊り金具が水平に挿入されていれば、吊り金具に対し、その上側の外周面と係止穴の上側の内周面の接触部分を介し、鉛直方向から、即ち、吊り金具の軸方向に対し垂直な上方向からU字溝の荷重がかかるのである。
そして、何らかの理由で、吊り金具またはU字溝に、吊り金具が係止穴から離脱する方向に力が加わつた場合には、吊り金具の上側の外周面と係止穴の上側の内周面の接触部分の間(吊り金具の外径が係止穴の内径よりかなり小さいとすれば、係止穴の出口付近の上側の内周面とこれに接する吊り金具の上側の外周面との接触部分の間及び吊り金具の先端付近の下側の外周面とこれに接する係止穴の下側の内周面との接触部分の間)に働く更に強い摩擦力によつて、吊り金具が係止穴から抜け出すのを係止するが、吊り金具が係止穴から離脱する方向に働く力が右の摩擦力を上回る状態になれば、吊り金具は係止穴から抜け出してしまうこととなることもまた自然法則上容易に判断できるところである。
(四) イ号製品のように、吊上げ用係止穴の内周面の奥約二分の一にねじ山を形成し、右ねじ山(雌ねじ)に対応してその外周面にねじ山(雄ねじ)を形成してある吊り金具を右係止穴に螺入し、両者を螺合する場合の螺合部分の作用効果について検討する。右の場合においては、吊り金具の外周面のねじ山(雄ねじ)と係止穴の内周面のねじ山(雌ねじ)は、対応して形成されていて、両者を螺合してあるから、吊り金具の外周面の雄ねじのねじ山の斜面とこれに対応する係止穴の内周面の雌ねじのねじ山の斜面が連続的に接触しているものである。したがつて、U字溝を吊り上げた際、水平な吊上げ用係止穴に吊り金具が水平に挿入されていれば、吊り金具の上側の外周面の雄ねじのねじ山の斜面に対し、係止穴の上側の内周面の雌ねじのねじ山の斜面を介し、鉛直方向から、即ち、吊り金具の軸方向に対し垂直な上方向からU字溝の荷重がかかるのである。
そして、何らかの理由で、吊り金具またはU字溝に、吊り金具が係止穴から離脱する方向に力が加わつた場合にも、雄ねじのねじ山の外径は雌ねじの内径よりも大きいから、単にそのような方向に力が加わつただけでは、吊り金具が係止穴から抜け出すことはなく、吊り金具の軸の周囲に雄ねじを緩める方向に回転させる力が加わつても、雄ねじのねじ山の斜面と雌ねじのねじ山の斜面との間に働く強い摩擦力によつて、雄ねじが緩む方向に回転するのを係止し、雄ねじが緩む方向に回転するよう働く力が右の摩擦力を上回る状態になり、雄ねじと雌ねじの螺合が外れる状態まで回転して初めて吊り金具が係止穴から抜け出すことになることも技術常識である。
(五) 以上認定判断したところによれば、ねじ山とねじ山以外の「抜け防止粗面」とは、吊上げ用係止穴から吊り金具の抜け出しを防止するという目的、作用効果を同じくするとはいえ、その効果を達成する技術的手段、具体的作用の技術的意義を詳細に検討すれば、右(三)、(四)に認定したように、係止穴から吊り金具の抜け出しを防止する摩擦力が働く箇所、吊り金具が係止穴から抜け出すに至るのに働く力の方向、程度に顕著な相違があることは明らかであり、ねじ山とねじ山以外の「抜け防止粗面」との構成の差の技術的意義は異なるものである。
右の事実と前記1に説示したところを考え合わせると、本件考案の「抜け防止粗面」にはイ号製品のねじ山は含まれないものというべきである。
原決定が、「本件考案の「抜け防止粗面」が係止穴の内周面とこの係止穴に挿入した吊り金具の外周面との摩擦力を増大させるものであるのに対し、イ号製品のねじ山が係止穴にねじ山が形成された吊り金具を螺入し両者を螺合させるものであつて、両者は、右目的、作用効果を達成するための技術思想、手段を異にしていることが明らかである。」と判断するのも、右と同じ趣旨であると解される。
原決定の「技術思想、手段」という用語の意味、用法の誤りを主張する抗告人の主張は、原決定の趣旨を正しく解しないもので失当である。
また、本件の場合「螺合」は摩擦力を増大するための一手段に過ぎず、「抜け防止粗面」と「ねじ山」は技術思想・手段として見ても同一である旨の抗告人の主張も、前記認定判断したところに照らし採用できない。
3 当審における抗告人の主張三について 抗告人は、イ号製品はその係止穴に外周面にねじ山が形成されていない吊り金具又は係止穴の内径より外径が小さい吊り金具を挿入して用いられるのが通常である旨主張するが、右事実を認めるに足りる疎明はない。
疎甲第五九号証ないし疎甲第六二号証には土木建設業者の代表者の報告として、
自社における作業については、抗告人の右主張のような態様であることが大半である、多い、又はそのような態様で行うことがある旨、他社の作業についても自社と同じ方法が多いのではないかと思う旨の記載がある。しかし、右の記載の内、他社の作業状況に関する部分は、そのように認識する根拠も明らかではなく信用できない上、それらはいずれも、愛知県又は三県重の業者についての記述であり、両県の業者が特に島根県の業者である相手方らが製造販売するイ号製品を使用していることを認めることのできる疎明もない。右愛知県、三重県の業者が使用しているU字溝が、相手方らがイ号製品に用いているものと同種の係止穴を用いて製造された、
イ号製品と同様のU字溝であつたとしても、係止穴のねじ山に吊り金具のねじを螺入する本来の用法でない便宜的な使用方法が、施工業者の間では通常の用法になるか否かは、U字溝を製造販売する業者がそれを推奨するか否かの態度、工事発注者や監督行政機関の指導方針、施工業者の作業慣行等により、地域によつて差があることが十分に予想されるから、前記各疎明をもつて、イ号製品の通常の使用方法が抗告人主張のような態様であつたと認定することはできない。
抗告人の主張は採用できない。
4 当審における抗告人の主張四について イ号製品の係止穴の内周面の奥約二分の一に形成されたねじ山では、実際的には、構成、目的・作用効果はもとより、技術思想・手段においても本件考案と同一であることを認めるに足りる疎明はない。抗告人の主張は失当である。
5 当審における抗告人の主張五、六について イ号製品が本件考案技術的範囲に属しない以上、抗告人の右五の主張について判断するまでもない。
原決定は正当である。
三 よつて、本件抗告を棄却することとし、
抗告費用の負担について民事訴訟法第89条を適用して、主文のとおり決定する。
追加
物件目録外部に向つて開口する吊上げ用の係止穴(4)をU字溝(1)の両側外壁(2)の長手方向略中央位置でかつ両側外壁間の対向位置に設け、前記係止穴の内周面の全部あるいは一部を係止穴に挿入した吊り金具の抜け防止のためのネジ山とした吊上げ穴付きU字溝右U字溝の構造図面による説明図1は、斜視図(以下図1、同2、同3の斜視図は、図5のB型U字溝で示す)図2は、U字溝の吊上げ状態を示す斜視図図3は、係止具(A)の埋設状況を示す斜視図図4は、U字溝のA型の正面図、平面図、左側面図図5は、U字溝のB型の正面図、平面図、左側面図図4及び同5において、右側面図は左側面図と対称にあらわれる。
各図中の番号、英文字は部材名称を示す。
<12759-001><12759-002>昭和六三年(ラ)第六七一号抗告人準備書面(五)抗告人(債権者)【A】被抗告人(債務者)河原コンクリート工業株式会社同波多コンクリート工業株式会社同八束コンクリート工業株式会社昭和六三年一二月二〇日抗告人代理人弁護士影山光太郎右輔佐人弁理士【B】東京高等裁判所第一三民事部御中記抗告人(債権者)は、長野地方裁判所諏訪支部昭和六二年(ヨ)第一二号仮処分事件についての昭和六三年九月三〇日付決定(以下単に決定という)について反論をすると同時に、抗告人の主張について資料に基づいて新たな説明を加える。
一、決定の構成の解釈についての反論決定は、本件考案の構成を決定書二丁裏ないし三丁表に記載の@、A、B、C、
イ号製品の構成を決定書一六丁裏@、A、B、Cとし、右のうち、イ号製品の@、
A、Cは本件考案の@、A、Cを充足しているとして、イ号製品が、本件考案のBを充足するか否かについて検討している(決定書一七丁表以下)。
これは、本件考案のBにおける「抜け防止粗面」にイ号製品のBにおける「ねじ山」が含まれるかという問題となる。
これについて、本件考案の抜け防止粗面については、決定書一七丁表一二、一三行目にもあるように、明細書(本件公報)の考案の詳細な説明の項に、「凹凸部」であることが示されている。そして、ねじ山は連続した凹凸部といえるので、ねじ山は抜け防止粗面に含まれることになる。
しかるに、決定書は、ねじ山は連続した凹部と凸部とによつて形成されていることを認めながら(一七丁裏七ないし九行目)、ねじ山以外にも種々の凹凸部が考えられるとし、凹凸部であればすべてが抜け防止粗面に含まれるとは解し難く、イ号製品のねじ山についてもこれが凹凸部により形成されているからといって直ちに抜け防止粗面に含まれると解することは相当でないとしている(一七丁裏七ないし一八丁表一行目)。
しかし、右の決定の論理は誤っている。
ここで本件考案の意味内容の解釈との関係で問題とすべきは、「凹凸部」にねじ山が含まれるかどうかだけで足りるのである。そもそも実際に、考案、発明などの記載に当たっては出願人はなるべく権利範囲を広くとれるように文言に工夫をこらして考案、発明を明細書に示し、これに対して特許庁は、権利の成立する要件を厳格に審査し、権利として認められる範囲で登録がなされるわけである。従って、ここでは、権利として認められた「凹凸部」にイ号製品の「ねじ山」が含まれるかどうかだけが問題であり、その逆、即ちねじ山以外に凹凸部があるかなどについて考察してねじ山が本件考案の権利範囲に含まれるか否かを判断するなどという論理展開は誤りである。
つまり、本件考案の権利範囲(凹凸部)にイ号製品のねじ山が入るか否か(必要条件)のみが問題なのであって、ねじ山以外にも凹凸があるかどうかなどは、イ号製品が本件考案技術的範囲に属するか否かを考える上で関係がないことである。
確かにねじ山以外に凹凸部というものがなければ、ねじ山は凹凸部であることの十分条件ともなり(同時に、前記三頁七、八行目で述べたようにねじ山は凹凸部に含まれるので、ねじ山は凹凸部であることの必要条件となっている)、凹凸部とねじ山とは正に一致する(必要十分条件)。
判決書の論理によれば、実用新案権などの権利の構成とイ号物件の構成とが必要十分条件とならなければ権利の抵触が生じないことになり、これは権利の範囲を不当に狭める解釈であって誤っている。
以上、本件においては、イ号製品のねじ山は本件考案の凹凸部に含まれるので、
前記イ号製品の構成要素Bは本件考案の構成要素Bを充足し、従って、イ号製品は本件考案技術的範囲に属する。
二、技術思想手段の意味及びその異同についての反論次に、決定は、本件考案における「抜け防止粗面」とイ号製品における「ねじ山」の目的・作用効果について比較し、いずれもU字溝の係止穴から吊り金具の抜出を防止するためであり、目的・作用効果を同じくすると正しく指摘している(決定書一九丁表一ないし一二行目。二〇丁表一ないし三行目)。
しかるにその後に、本件考案及びイ号製品においては、目的・作用効果を達成するための技術思想・手段を異にしているとして、イ号製品のねじ山は本件考案の抜け防止粗面には含まれないとしている(二〇丁表一一ないし一三行目)。そして、
右技術思想手段が違うということの説明として、本件考案の抜け防止粗面では、係止穴の内周面と吊り金具の外周面との摩擦力を増大させるものであるのに対し、イ号製品の係止穴のねじ山では、ねじ山が形成された吊り金具を螺入し両者を螺合させるものである旨を言う(二〇丁表七ないし一〇行目)。
しかし右の論理展開も誤っている。
先ず、考案(発明でも同様)における「手段」は、構成、目的、作用効果と同一レベルの概念であり、本件考案においては実用新案登録請求の範囲及び考案の詳細な説明のうち、本件公報1欄二七行目ないし2欄九行目、同欄一五ないし一七行目などに十分に述べられている。他方「技術思想」は、保護されるべき実用新案権の本質として、これら構成(手段)、目的、作用効果を包括したそれらより上位の概念である。従って、決定のように、「技術思想・手段」などと一括して論じられるものではない。
そして、本件考案の抜け防止粗面とイ号製品のねじ山とが目的・作用効果を同一にすると解する以上、手段を異にするというのであればその具体的な説明が必要である。技術思想については、正に「思想」の説明がなければならない。
しかるに前記決定の説示では、「技術思想・手段」などとして一括して論じられているばかりか、「摩擦力の増大」の代りに「螺合」と単に言葉を置き換えて違うと言っているに過ぎない。因みに、「螺」とは、「うずまき。らせん。ねじ」の意であり(疎甲第七一号証)、正にねじのことである。
結局、決定は、技術思想、手段は違うなどとしながら、これについての何ら具体的及び思想的な説明などなし得ていない。
それのみか、目的、手段、作用効果或いは特に技術思想として見ても、本件の場合においては、「螺合」は、「摩擦力を増大」するための一手段に過ぎない。このことは、既に抗告人が債権者準備書面(三)一で詳しく述べたところであるが、ここで新たに資料を基に説明を加える。
先ず、ねじは摩擦を利用してその抜出を防ぐ機械要素である(疎甲第七二号証六頁)。これはねじの基本的な技術思想を示している。このことは釘との比較で考えると良く分り、釘も材との間の摩擦によってその抜出が防止されることによって機能が発揮されるものであるが(疎甲第七三号証一二〇頁。疎甲第七四号証六二四頁)、釘にねじ山を切った木ねじでは一層強く、釘に比し二倍程度の摩擦力が生ずる(疎甲第七三号証一二一、一二二頁。疎甲第七四号証六二五頁。ここからも分かるように、「抜け防止粗面」を「ねじ山」として抜出防止を図ってもその効果は一般には程度の問題である。そして、本件のような場合においては、債権者準備書面(三)一の2において、疎甲第三一号証の試験結果に基づいて説明したように、吊り金具が係止穴から抜出し難いという効果において実際に差異はない)。右疎甲第七三、第七四号証では釘との比較で木ねじの特長、用法などについて述べられているが、同時にねじの技術思想が示されている。なお、釘にらせん状に溝を切った(凹凸部を設けた)らせん釘では、普通の釘に比し、三倍の抜出防止力があるとされている(疎甲第七五号証五六八頁、第七六号証一二ー二八頁)。
このように、ねじはその摩擦力を利用して抜出の防止を図るという思想を持ち、
そのための手段として生まれた技術要素なのである。
決定は、本件考案における抜け防止粗面とイ号製品におけるねじ山の目的・作用効果は同一と言いながら、更に、技術思想・手段などという基準を採り入れた上、
根拠もなく、右両者において、これが違うなどとしている。しかし、技術思想・手段として見ても同一であることは以上述べた通りである。
以上、イ号製品のねじ山は本件考案の抜け防止粗面(凹凸部)に含まれるので、
イ号製品は本件考案の構成要素Bを充足し、本件考案技術的範囲に属する。
三、イ号製品の吊り上げの実施態様についてイ号製品は、債権者準備書面(三)二に、疎甲第五九ないし第六二号証などをあげて述べたように、その係止穴に外周面にねじ山が形成されていない吊り金具または右係止穴の内径より外径が小さい吊り金具を挿入して用いられる。
これについて、決定は、一九丁裏七ないし九行目で、吊り金具を螺入するための不便手間を回避するため便宜的に行っているもので、本来の用法でない旨を言う。
しかし、前記疎甲各号証によれば、このような用法は通常のことである(疎甲第五九号証では「大半であるのが実情」(一七行目)、同第六〇号証では「使うことが多くあります」(一九行目)、同第六一号証では「多い」(二頁目八行目)、同第六二号証でも「多い」(二頁目三行目)とされている)。そして、この場合は螺合はされず(決定書一九丁裏四行目)、前記二記載の決定の論理を採っても、イ号製品は本件考案の構成要素Bを充足することになる。
このようなケースにおいて実用新案権の抵触を認めないと、権利の抵触を回避するために形式上一部要素を少し変えておけば実際にはその本来の用い方をしなくとも権利に抵触しないということになって大変に不合理な結果となってしまう。
四、イ号製品における態様のねじ山について多くのイ号製品においては、その係止穴の内周面の奥略半分にねじ山が形成されている。しかも、このねじ山は当初は係止穴の奥行方向全面に形成されていたのが次第に少なくなって来たものである(債権者準備書面第一の一の五頁六行目ないし八頁九行目)。これは、穴の奥まで螺入させることは作業上不便で、そのため実際には余り奥まで螺入させないので落下事故を起こして危険なことに加えて、そんなに長くねじ山がなくても足りるということから実際的技術的に落ち着いて来たものである。
しかるに、右の程度のねじ山では、単に吊り金具をU字溝の係止穴に引っかけて摩擦力を高めているに過ぎず、文字通り吊り金具の抜出防止が図られているに過ぎない。
従って、仮に決定の言うようにねじ山と抜け防止粗面とがその「技術思想・手段」において差異があるとしても、形式的概念的に、「ねじ山」一般と「抜け防止粗面」一般との比較をすることは誤りで、工業所有権が産業上のものである以上、
実際的に考え、本件イ号製品の態様においては、そのねじ山は正に抜け防止のためであり、構成、目的・作用効果はもとより、技術思想・手段においても本件考案と同一であると解すべきである。
右主張は、債権者準備書面(四)第三の二において予備的になされているにも拘らず、決定においては、この点についての判断がなされておらず、不当である。
五、被抗告人(債務者)の抗弁の主張の法律構成について決定は、被抗告人による、本件考案が実用新案法3条2項及び同法3条の2第1項に違反する旨、或いはそのために抜け防止粗面の解釈を明細書及び図面実施例として具体的に明示されたものに限定して解釈さるべき旨の主張を抗弁としているが(一一丁裏、一三丁裏)、これは根拠のない法律構成である。
六、結語以上、決定は、その論理展開においても、事実認定においても多くの誤りを含んでおり、イ号製品は本件考案技術的範囲に属するものである。貴裁判所におかれては、これらの点について正しい判断をされ、被抗告人による本件実用新案権侵害行為差止の仮処分決定をされたく、お願いいたします。
裁判官 秋吉稔弘
裁判官 西田美昭
裁判官 木下順太郎
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