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事件 昭和 60年 (ワ) 6851号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1989/04/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告は、原告に対し、金二八一万四八〇四円及びこれに対する昭和六〇年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを一〇分し、その一を被告の負担とし、その余を原告の負担とする。
四 この判決の第一項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 被告は原告に対し金三三六七万〇〇九八円及びこれに対する昭和六〇年九月五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 第1項につき仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因1(一) 原告は次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、これに係る考案を「本件考案」という。)を有している。
考案の名称 製砂機のハンマー出願日 昭和五〇年三月一一日(実願昭五〇―三二九六〇)公告日 昭和五三年五月六日(実公昭五三―一七〇一七)登録日 昭和五四年一月三〇日登録番号 第一二七〇三七三号(二) 本件実用新案登録出願の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載は左記のとおりである。
記「前側面に案内溝を長手方向に形成し、この案内溝の溝底面に係止凹部を数段形成し、この係止凹部に対応して案内溝両側板に取付穴を数段形成したアームと、上記案内溝に直角に挿入し係止凹部に適合する内端部を下段の係止凹部に係止させ、中間部の取付穴と上記両側板の取付穴とに止め杆等を挿通して着脱自在に止着し且つ先部をアーム前側面から突出させた取付体と、長い厚板状に形成し、上部後側面の中央に形成した凹部を上記取付体の突出部に取外し可能に嵌合固着し、かつ上部をアーム先端から突出させた打撃板とからなる製砂機のハンマー。」2 本件考案の構成要件を分説すると次のとおりである。
A 前側面に案内溝を長手方向に形成し、
該案内溝の溝底面に係止凹部を数段形成し、この係止凹部に対応して案内溝両側板に取付穴を数段形成したアームB 内端部をアームの案内溝に直角に挿入しアームの係止凹部に係止し、中間部の取付穴をアームの両側板の取付穴に止め杆等を挿通して着脱自在に止着し、かつ、
先部をアーム前側面から突出させるようにした取付体Cイ 長い厚板の上部後側面の中央に凹部を形成しロ 該凹部を取付体の突出部に取外し可能に嵌合固着し、アーム先端から突出させるように構成した打撃板D からなる製砂機のハンマー3 本件考案の目的及び作用効果は次のとおりである。
(一) 従来、製砂機のハンマーは、投入原石の打撃破砕による摩擦・消耗が激しいため、アームの先端に破砕頭部を突出状に取外し自在に設け、破砕頭部が消耗するとこれを新品と取替可能とし、アームは連続して使用できるようにしている。しかしながら、破砕頭部の下面にアームへの取付用の大形の脚板及び前面保護板を鋳造により一体に設けていたため形状が複雑でコスト高となつている。また、頭部が消耗すると残つた大形の脚板及び保護板を廃棄又は再生処理するため無駄の多いものであつた。本件考案は、前記従来の欠点に鑑みこれを改良・除去したもので、アームに取付体を介して打撃板を装着し、打撃板を消耗の都度アームから段階的に突出し、打撃板のみ交換できるようにしたものである。
(二) 本件考案は右目的を次の作用効果により達成する。
(1) 強大な遠心力に耐えるような取付体をアームに確実・強固に取り付けることができる。
(2) 特に取付体の先端を係止部に嵌合させるだけで取付位置が確実に定まり、
取付け及び取付高さの調節が短時間で容易に行われる。
(3) 取付体とアームとの止着が一本の止め杆によつて行われ、安価に容易に製作できる。
(4) 打撃板を消耗の都度アームから段階的に繰出装着でき、製砂機を作動させられる。
(5) 打撃板が完全に消耗したときは打撃板のみ簡便に取替えできる。
4 被告は、別紙物件目録(一)記載の製砂機のハンマーの部品たる打撃板(以下「イ号物件」という。)を業として製造、
販売している。
5(一) イ号物件の構成は次のとおりである(ただし、(3)の構成を有しないものも含む。)。
(1) 長方形状の厚板の正面下端中央に長方形状の切入部を設け、
(2) 厚板裏面に切入部を覆う隆起部を設け、
(3) 厚板の正面中央部に平行する二個の摩耗検出用横溝部を設け、
(4) 厚板の両側面に、切入部を介して一連に貫通するよう取付孔を設けた(5) 打撃板。
(二)(1) イ号物件の構成(1)と、本件考案の構成要件Cイを対比すると、
イ号物件の構成(1)の長方形状の厚板は、本件考案の構成要件Cイの長い厚板に該当し、イ号物件の構成(1)の切入部は、取付体の突出部に嵌合するものであるから、本件考案の構成要件Cイの凹部に該当する。ただ、その位置が、イ号物件の構成(1)では正面下端中央となり、本件考案の構成要件Cイでは上部後側面の中央となつているのは視点の違いにすぎない。したがつて、イ号物件の構成(1)は本件考案の構成要件Cイを充足する。
(2) イ号物件の構成(2)、(3)は単なる設計事項である。
(3) イ号物件の構成(4)及び(5)と本件考案の構成要件Cロを対比すると、イ号物件の構成(4)の取付穴は、前記切入部(凹部)を取付体の突出部に取外し可能に嵌合固着し、アーム先端から突出させるように構成したものであり、イ号物件の構成(5)の打撃板が本件考案の構成要件Cロの打撃板に該当することは改めていうまでもない。したがつて、イ号物件の構成(4)及び(5)は、本件考案の構成要件Cロを充足する。
(4)よつて、イ号物件は本件考案の構成要件Cの打撃板に当たる。
6 被告が右のような構成のイ号物件を製造、販売することは、実用新案法第28条にいう登録実用新案(以下「考案」という。)に係る物品の「製造」に「のみ」使用するものを製造し譲渡することに該当する。すなわち、
(一) イ号物件は、原告が代表者となつている訴外晃立工業株式会社(以下「晃立工業」という。)が製作する商品名「ニユーサンドリフアイナー」なる製砂機(以下「晃立製製砂機」という。)のハンマー(以下「晃立製ハンマー」という。)の打撃板(以下「晃立製打撃板」という。)の取替部品として製造、販売されているものであり、そのこと自体は被告も認めていることである。
(二) しかるところ、右の晃立製ハンマーは本件考案の実施品であるから、イ号物件は、本件考案に係るハンマーの取替部品として使用されるものであるといわねばならない。そして、イ号物件を本件考案に係るハンマーの打撃板として使用することは、以下に述べるとおり前記法条にいう考案に係る物品の「製造」に当たると解される。すなわち、
右にいう「製造」とは、考案に係る物品(以下「考案品」という。)を新規に作成することである。そして、考案品を新たに作り出すことや、考案品を構成する既存の構成部材全部を全面的に取り替えることが、右にいう「製造」に当たることはいうまでもないが、構成部材全部を全面的に取り替えるのでなくとも、例えば、本来の効用を失つた主要構成部材をそつくり取り替えることも、考案品の新規作成に当たるというべきである。なぜなら、そのような行為は、主要構成部材が効用を失つたことにより全体として効用を失つた考案品に新たな効用を与えるものであり、
もはや考案品に生じた不具合を「つくろいなおす」という意味の修理の範囲には入らないと考えられるからである。
しかるところ、本件考案に係るハンマーは、前記のとおりアームと取付体と打撃板とにより構成されるものであり、打撃板は、いうまでもなく本件考案に必須の構成部材である。そして、本件考案は、大型の脚板及び前面保護板と一体になっていたため形状が複雑でコスト高となり、取替えの際の無駄の多かつた従来の打撃板の欠点を改良・除去したものであるから、打撃板は、まさに本件考案に係るハンマーの主要構成部材というべきものである。そして、本件考案に係るハンマーの打撃板は、いつたん、効用を失つたときにはそつくり新品と取り替えることが予定されているものであるから、効用を失つた本件考案に係るハンマーの打撃板をこれと同じ構成のイ号物件に取り替えることは、本件考案に係るハンマーを「製造」することに当たるというべきである。
(三) そして、イ号物件は、その構成からみて本件考案に係るハンマーの打撃板に使用する以外に実用的な用途はなく、右ハンマーの製造に「のみ」使用するものである。現に、晃立製打撃板とイ号物件を対比してみると、イ号物件が晃立製打撃板の取替部品として製造されていることからみて当然のことながら、その形状、寸法は全く同一であり、イ号物件は、その構成のみならず、形状、寸法からみても、
これに制約されて、本件考案の実施品である晃立製ハンマーの打撃板の取替部品以外の用途に使用することは不可能なものである。
(四) 以上のことを経済的観点から実質的にみると、以下のようにいうことができる。すなわち、本件考案の打撃板は摩耗、消耗しやすい消耗品であるが、晃立製ハンマーを装着した晃立製製砂機を購入した者(以下「購入者」又は「ユーザー」という。)において打撃板を自由に取替えさせることを予定しているものではない。打撃板は本件考案の主要構成部材であるから、消耗のあかつきには、当然、本件実用新案権者である原告の許諾を受けて取替部品を製造するか、本件実用新案権の通常実施権者たる晃立工業の製品を購入すべく予定されているのである。右のように解するのが社会通念上又は取引慣行上の解釈である。そのことは、製砂機全体の価格を比較的安価に決定し、購入者が容易に製砂機を購入できるようにし、晃立工業及び本件実用新案権者たる原告の得るべき利益の大半を打撃板等の消耗品の販売により確保するようにしている取引の実態から明白である。
被告はこれを知りながら、晃立製製砂機の購入者に対し打撃板たるイ号物件を販売し、晃立工業ひいては本件実用新案権者たる原告の得るべき利益を盗取しているのである。
(五) 被告がイ号物件を業として製造、販売する行為は、本件実用新案権の間接侵害行為に当たるというべきである。
7 損失及び損害(一) 被告は、イ号物件を次のとおり製造、販売した。
(1) 昭和五三年五月六日から同五七年八月二八日まで 一万四一一八個 五四四六万三〇八〇円(2) 昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日まで 一万〇八六二個 四二〇八万九七二〇円(3) 合計 二万四九八〇個 九六五五万二八〇〇円(二) 昭和五三年五月六日から同五七年八月二八日までの間の損失(1) 被告は、右の期間、本来支払うべき実施料を支払わずにイ号物件を製造、
販売したのであるから、実施料相当額につき法律上の原因なく利得し、原告は、これにより同額の損失を被つたこととなるので、原告は、被告に対し、右不当利得の返還を請求する。
(2) 原告が本件考案を実施させているのは晃立工業だけであり、その実施料は無償であるが、原告が第三者に本件実用新案に係る打撃板の製造、販売を実施許諾するとすれば、晃立製打撃板についての晃立工業の利益率が四〇パーセントであることに鑑みると、その実施料は二〇パーセントを下ることはない。したがつて、本件打撃板の製造、販売についての実施料は販売額の二〇パーセントが相当である。
(3) 右期間中に被告が販売したイ号物件の個数は一万四一一八個であり、その販売額は五四六六万三〇八〇円であるから、右販売額に二〇パーセントを乗じた一〇八九万二六一六円が不当利得として被告から原告に返還されるべき額である。
(三) 昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日までの間の損害について(1) 逸失利益@ 本件実用新案権者である原告は、個人として本件考案を実施してはいないが、
原告が代表取締役を務める晃立工業は本件考案を実施しており、かつ、以下に述べるように晃立工業は原告と同視すべき者又は本件実用新案権につき利害を共通とする一体不可分の関係にある。すなわち、原告は、昭和三一年個人営業の晃立工業所を創立し、幾多の発明、考案をなし、その事業化を図り、昭和四四年法人(晃立工業)に改組し、その代表者に就任し、現在に至つている。晃立工業の株主は、原告の家族及び親族により構成され、かつ、その役員もまた、家族及び親族によつて構成されており、さらに、本社の主要なる土地、建物は原告の個人所有物を借用して営業の用に供しているのであり、晃立工業は原告の個人企業である。
原告は、本件考案の実施を晃立工業のみに許諾し、他には許諾していない。また、
原告は、晃立工業から本件考案の実施料も受け取つていない。
かかる場合においては、たとえ原告が個人としては本件考案を実施していなくとも、無権原者が本件考案を実施したことにより晃立工業の被つた損害を原告の損害と同視すべきである。このように解するのが、実用新案権者と侵害者との間の利益考量の見地から妥当であり、公平にかなうものである。
A 昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日までの間、被告がイ号物件を販売しなければ、晃立工業は、被告によるイ号物件販売個数と同数の一万〇八六二個の晃立製打撃板を販売することができた。これを晃立工業が販売した場合の販売額は五六〇九万九四一〇円であり、右販売により晃立工業が得るはずであつた利益は右販売額に利益率四〇パーセントを乗じた二二七七万七四八二円である。
よつて、原告は、右期間中の被告のイ号物件販売行為により二二七七万七四八二円の損害を被つた。
(2) 実施料相当額 仮に、右逸失利益の請求に理由がないとすれば、原告は実施料相当額の賠償を請求する。
(イ) 被告がイ号物件を業として製造、販売することが、本件実用新案権の侵害になることは、前記のとおりである。原告は、被告に対し、昭和五四年六月二六日付け書面により、右侵害の事実を指摘してイ号物件の販売停止を求めた。これに対し、被告は、昭和五四年七月五日付け書面により、販売を停止する旨回答した。ところが、被告は、その後も昭和五七年八月二九日から昭和六〇年八月二九日までの間、イ号物件の製造、販売を継続した。被告は、右期間中、故意に本件実用新案権を侵害したものであり、故意又は過失による不法行為責任を免れない。
(ロ) しかるところ、本件考案に係る打撃板の製造、販売についての実施料は前記のとおり打撃板の販売額の二〇パーセントが相当である。そして、昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日までの間に被告が販売したイ号物件の個数は一万〇八六二個で、その販売額は四二〇八万九七二〇円であるから、右販売額に二〇パーセントを乗じた八四二万七九四四円が実施料相当額の損害である。
8 よつて、原告は、被告に対し、不当利得返還請求権に基づき一〇八九万二六一六円、本件実用新案権の侵害による損害金として二二七七万七四八二円、合計三三七六万〇〇九八円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である(損害金については不法行為の後である)昭和六〇年九月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1の事実は明らかに争わない。
2 同2は争う。
3 (一)同3(一)の事実は、本件考案の「実用新案公報」(以下「本件公報」という。)にそのような記載があることは認める。
(二) 同(二)は、本件考案が(1)ないし(3)の作用効果を奏することは認める。(4)の作用効果を奏することも認めるが、これは(2)の作用効果に伴うものにすぎず、殊更(2)と別個の作用効果というほどのものではない。(5)の作用効果を奏することも認めるが、これは従来品でも奏する作用効果であり、本件考案に特有の作用効果とはいえない。
4 同4の事実は認める。
5 同5(一)の事実は認め、同(二)は争う。
6(一) 同6(一)の事実は認め、同(二)ないし(五)は争う。
7(一) 同7(一)の事実は否認する。昭和五三年七月一日から同五七年八月二八日までの間のイ号物件の販売個数は八五七八個、販売額は三一九三万九一四〇円であり、昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日までの間のイ号物件の販売個数は六三〇三個、販売額は二四一三万七九五〇円であり、合計販売個数は一万四八八一個、合計販売額は五六〇七万七〇九〇円である。
(二) 同(二)は、被告が原告に対しイ号物件の製造、販売につき実施料を支払わなかつたことは認め、その余は争う。
(三) 同(三)(1)@の事実は、晃立工業が昭和四四年に設立され、原告が同社の設立当初からの代表取締役であること及び原告が本件考案考案者であることは認めるが、その余は不知、晃立工業の損害と原告の損害を同視すべきとの主張は争う。Aの事実は否認する。
同(2)は争う。
三 被告の主張1 本件考案の構成要件の分説について 本件考案の構成要件は次のとおり分説すべきである。
a 前側面に案内溝を長手方向に形成し、この案内溝の溝底面に係止凹部を数段形成し、この係止凹部に対応して案内溝両側板に取付穴を数段形成したアームとb 上記案内溝に直角に挿入係止凹部に適合する内端部を下段の係止凹部に係止させ、中間部の取付穴と上記両側板の取付穴とに止め杵等を挿通して着脱自在に止着し、かつ、先部をアーム前側面から突出させた取付体とcイ 長い厚板状に形成し、上部後側面の中央に凹部を形成した打撃板であつて、
ロ 凹部を上記取付体の突出部に取外し可能に嵌合固着し、
かつ、上部をアーム先端から突出させた打撃板とd からなる製砂機のハンマー2 打撃板の取替が「製造」に該当しないこと及び用尽効果ないし社会通念等による間接侵害の不成立について(一) 本件実用新案に係るハンマーの打撃板が使用により消耗した場合にこれを新品と取り替える行為は、実用新案法2条3項28条にいう「製造」には当たらず、実用新案権のいわゆる用尽効果あるいは社会通念、取引慣行上の理由から、被告のイ号物件製造、販売行為によつては間接侵害は成立しない。
すなわち、実用新案権者又はその実施権者(以下「実用新案権者等」という。)が正当に製造した実施品の購入者は、実用新案権の用尽効果によりその実施品を自由に使用できるほか、実施品の修理に伴う部品取替行為についても、実用新案に係る部分以外の部分を取り替える場合や、実用新案に係る部分の取替えであつても、
それが一部にしかすぎず、非取替部分になお優勢に用尽効果が残存する場合は、該実用新案に係る実施品を新たに製造するものとはいえず、侵害は成立しない。
本件考案に係るハンマーは、アーム、取付体及び打撃板からなるが、打撃板は摩耗しやすい消耗品であり、修理のために打撃板を取り替えても、アームや取付体に用尽効果は優勢に残存する。したがつて、打撃板の取替行為は本件考案に係るハンマーを新たに製造するものとはいえず、本件実用新案権を侵害するものではない。
原告は、構成要件Cの打撃板こそが本件考案中最も重要な要素であると主張するが、現実製品としての「製砂機のハンマー」にとつて取替可能な打撃板を有することが必要不可欠な重要事項であるとしても、取替可能な打撃板は従来周知なものであつて、本件考案により初めて創作されたものではないから、技術思想としてみた場合には、打撃板に係る構成要件Cの重要度は著しく低いのである。
このように重要度の低い打撃板を取り替えても、非取替部分であるアーム及び取付体に優勢に用尽効果が残存するといえるから、本件考案に係るハンマーを新たに製造することにはならず、本件実用新案権を侵害することにはならない。
(二) 原告は、原告及び晃立工業(以下「原告ら」という。)は製砂機全体の価格を比較的安価にし、利益の大半を打撃板等の消耗品の販売により得ているのが取引の実態であるから、製砂機の正当な購入者といえどもその打撃板を取り替えるためには原告の許諾を受けて打撃板を製造し、又は、晃立工業から打撃板を購入しなければならない旨主張する。しかしながら、右の取引実態なるものは、それが仮に事実であるとしても、それは原告らの単なる営業方針にすぎず、また、打撃板そのものが実用新案登録を受けているわけではないから、打撃板の販売による利益までが本件実用新案権により保護されなければならないいわれはない。原告らの右営業方針は、その販売に係る製砂機のハンマーについては権利が用尽されているにもかかわらず、さらにその一要素にすぎない消耗品である打撃板を販売することによりハンマー本体(アーム及び取付体)の寿命が尽きるまで重複して独占的利益を得ようとするものであり、到底是認されるものではない。逆に、製砂機の取引界一般においては、打撃板が摩耗、損傷しやすい消耗品であり、製砂機の使用に当たり頻繁に打撃板を取り替えなければならないことは充分認識されているのであるから、製砂機の販売の際には、その購入者が打撃板を消耗の都度、自由に取り替えることが社会通念上又は取引慣行上許されているというべきである。
(三) また、原告の主張に従うと、次のような極めて不当な結果が生じる。すなわち、
@ 権利者は製砂機の販売後も打撃板の取替えにつき許否の自由を有することになるが、製砂機の正当な購入者であつても必ずしも右許諾を得られるとは限らないから、安価な一部品にすぎない打撃板が消耗したために高価な製砂機全体が使用不能となり、その損傷は著しいのみならず、社会経済上の損失も計り知れない。
A 許諾料(打撃板の販売価格)が高額であつても、製砂機を使用するためには購入者はこれを甘受するほかはないから、打撃板について要素保護を認めたことになり、権利者に不当な利益をもたらすことになる。
B 製砂機の正当購入者は、通常、迅速な取替修理のために消耗品である打撃板を予備として事前にストックするが、その取替え前に実用新案権が譲渡された場合には、予備の打撃板を前権利者の許諾を受けて製造し又は正当に購入していたとしても、それをもつて新権利者に対抗できず(対抗のための登録手段はない。)、打撃板の取替えができなくなる。
C 製砂機の正当購入者が予備の打撃板を持たず、打撃板の消耗の都度、権利者の許諾を得て打撃板を取り替えるとすれば、その煩に堪えない。
以上のとおりであるから、消耗品である打撃板の取替修理について原告主張のごとく解釈するのは誤つている。
3 イ号物件は本件考案に係る物の製造に「のみ」使用するものではないことについて イ号物件は、別紙物件目録(二)及び(三)記載の物件(以下、それぞれ「参考物件一」、「参考物件二」という。)の製造にも使用することができるから、本件考案に係るハンマーの製造にのみ使用するものではない。
(一) 参考物件一について(1) 参考物件一の構成は次のとおりである。
a 前側面が平坦なアーム1とb アーム1の前側面に直角に突出して設けたアームと一体の長方形状の取付体3とc 切欠部24を取付体3に取外し可能に嵌合固着し、かつ、上部をアーム1の先端から突出させたイ号物件とd からなる製砂機のハンマー(2) 本件考案の構成要件(被告の主張1に分説したもの)と参考物件一の構成を対比すると、
@ 参考物件一の構成aは本件考案の構成要件aを充足しない。すなわち、本件考案の構成要件aにおいては、アームの前側面に案内溝を設け、また、係止凹部や取付穴を設けているが、参考物件の一の構成aにおいては、前側面が平坦であり、案内溝、係止凹部、取付穴は設けられていない。
A 参考物件一の構成bは本件考案の構成要件bを充足しない。すなわち、本件考案の構成要件bにおいては、取付体がアームと別体であり、両者を組み合わせて止め杆等により着脱自在に止着しているのに対して、参考物件一の構成bにおいては、取付体がアームと一体であり、着脱することができない。
したがつて、その余の構成を対比するまでもなく、参考物件一は本件考案技術的範囲に属さない。
(3) 参考物件一は、本件考案特有の作用効果(1)ないし(3)(請求原因3(二)参照)は奏することができないが、摩耗・消耗し易い打撃板を取外し自在にできる等、従来技術の有する作用効果を奏することはでき、経済的にも実用的価値を充分有する。参考物件一は昭和六〇年九月ころには被告において製造可能になつており、製造、販売を準備中であつたが、本訴提起により製造、販売を中止したものである。単に実験的又は一時的な使用可能性があるにすぎないものではない。
(二) 参考物件二ついて(1) 参考物件二の構成は次のとおりである。
a 前側面に上下二段の蟻溝40′40を横手方向に形成し、各蟻溝の中央にネジ穴41′41を設けたアーム1とb 内端部に形成した蟻柄(ほぞ)42をアーム1の蟻溝40又は40′に挿入し、アームのネジ穴41又は41′にねじ込んだボルト48又は48′で、蟻柄42の内端部中央に設けた凹部44を圧接して着脱自在に止着し、かつ、先部をアーム前側面から突出させた取付体3とc 切欠部24を取付体3に取外し可能に嵌合固着し、かつ、上部をアーム1の先端から突出させたイ号物件とd 取付体3をアームの上段の蟻溝40′に取り付けた状態で、内端部に形成した蟻柄46をアーム1の下段の蟻溝40に挿入し、アームのネジ穴41にねじ込んだボルト48で、
蟻柄46の内端部中央に設けた凹部49を圧接して着脱自在に止着する厚板状の保護板45とe からなる製砂機のハンマー(2) 本件考案の構成要件(被告の主張1に分説したもの)と参考物件二の構成を対比すると、
@ 参考物件二の構成aは本件考案の構成要件aを充足しない。すなわち、取付体の止着のために、本件考案の構成要件aにおいては、アームに長手方向の案内溝、
案内溝底面の数段の係止凹部及び案内溝両側板の取付穴を設けているのに対し、参考物件二の構成aにおいては、アームに上下二段の横手方向の蟻溝を形成して、各蟻溝中央にネジ穴を設けているのであるから、両者はその構成を異にする。
A 参考物件二の構成bは本件考案の構成要件bを充足しない。すなわち、本件考案の構成要件bの取付体は、その内端部をアームの案内溝底面まで挿入し、底面の係止凹部に係止させて、中間部の取付穴で止め杆等によりアームに着脱自在に止着するのに対して、参考物件二の構成bの取付体はその内端部の蟻柄をアームの蟻溝に挿入し、アームのネジ穴にねじ込んだボルトで蟻柄の凹部を圧接して着脱自在に止着するのであるから、両者は取付体の構造及びその取付方法を全く異にする。
したがつて、その余の構成を対比するまでもなく、参考物件二は本件考案技術的範囲に属さない。
(3) 参考物件二は次の作用効果を奏することができる。
@ 強大な遠心力に耐える取付体をアームに確実、強固に取り付けることができる。
A 取付体の蟻柄をアームの蟻溝に挿入するだけで、取付位置が確実に定まり、取付及び取付高さの調整が短時間で容易に行われる。
B 取付体とアームの止着が主としてその蟻柄と蟻溝とのはまり合いによつて行われ、構造がシンプルで安価に容易に製作できる。
参考物件二は、本訴提起後開発されたもので、試作品の段階であるが、以上の作用効果は、本件考案特有の作用効果(1)ないし(3)(請求原因3(二)参照)と同等以上のものであり、参考物件二の実用的価値は極めて大きい。
4 逸失利益の請求について 原告は、原告自らは本件考案を実施していないが、原告が代表取締役を務める晃立工業は本件考案を実施していて、晃立工業は原告と同視すべき者又は本件実用新案権につき利害を共通とする一体不可分の関係にある者であるから、晃立工業の損害を原告の損害と同視すべきであると主張し、被告の侵害行為による晃立工業の逸失利益を請求する。
しかしながら、原告の右主張は、いわゆる法人格否認の法理を当該法人又はその実質的支配者の側に有利に援用しようとするものであり、許されない。
5 実施料相当額の損害または損失の請求について 実施料相当額の損害の賠償を定めた実用新案法29条2項間接侵害の場合は適用がない。また、部品にすぎない打撃板についてだけ実施権を設定することはできないから、打撃板についての実施料相当額自体が考えられず、同条の類推適用もできないし、実施料相当額の不当利得もありえない。
四 被告の主張2(「製造」に該当しないこと等)に対する原告の反論1 被告は、非取替部分のアーム及び取付体に用尽効果が優勢に残存すると主張する。優勢とはいかなる意味であるのか不明であるが、原告も、アームと取付体に用尽効果が存すること自体は否定しない。原告がいいたいのは、アームと取付体に用尽効果が残存していたとしても、それらに新たに打撃板を付加することは、製砂機のハンマーを新規に作成することになり許されないということである。
2 晃立製製砂機が販売される際には、予備用の打撃板が一体となつて販売されている。打撃板についていうならば、用尽効果は本来はその一体となつて販売された打撃板についてのみ存する。そして、その打撃板が消耗した場合には晃立工業が責任をもつて、予め告知した価格で供給する体制がとられている。すなわち、本来は販売当初に製砂機の耐用期間中に必要な全使用量の打撃板をセツトにして販売すべきなのであるが、それでは購入者に多大の負担を強いることになるので購入者の注文に応じて供給する体制をとつているのである。したがつて、打撃板についての用尽効果は正当に供給された打撃板についてのみ存するのである。
3 被告は、打撃板の販売による利益は実用新案権者に留保されるものではないと主張する。しかし、本来は、前記のとおり製砂機の販売に当たつて製砂機の寿命の尽きるまでに使用すべき打撃板をセットにして販売すべきなのであり、購入者もそれを当然了解しているはずのものであるが、購入者の便宜をはかつて購入者の注文の都度、打撃板を供給する態勢をとつているにすぎない。したがつて、製砂機の寿命が尽きるまで重複して独占的利益を得ているものとは到底いえない。打撃板の販売による利益は当初から当然に実用新案権者である原告に留保されている正当な利益である。
4 そして、原告主張のように解しても、被告が被告の主張2(三)@ないしCで主張するような不当な結果も生じない。すなわち、
@について 打撃板の供給態勢は整つているのであるから、打撃板の供給がないため製砂機全体が使用不能となることはない。購入者において心配であれば製砂機の寿命が尽きるまでの数量の打撃板を事前に購入すればすむことであり、被告主張のような不合理は生じない。
Aについて 打撃板の販売価格は製砂機の販売時におよその価格は決まつており、被告主張のような不合理は生じない。
Bについて 予備の打撃板(正当に購入されたものに限る。)には用尽の効果が及び、以後取得した者も自由に使用でき、被告主張のような不合理は生じない。
Cについて 製砂機の購入者は常に予備の打撃板を持つており、かつ、予備のものが少なくなれば晃立工業に注文すれば直ちに送付する態勢となつているので、被告主張のような不合理は生じない。
証拠《省略》
理 由一 請求原因1の事実(原告が本件実用新案権を有すること)は、被告において明らかに争わないので自白したものとみなす。
二 請求原因2(本件考案の構成要件)については、成立に争いのない甲第一号証(本件広報)に照らすと、本件考案の構成要件は被告主張のとおり分説するのが相当と認められる。
三 請求原因3(本件考案の目的及び作用効果)については、同(一)の目的課題に関し、本件公報に原告主張のとおりの記載があることは争いがなく、その余の点についても、同(二)(4)の作用効果が同(2)の作用効果と別個のものであるか否かの点及び同(5)の作用効果が本件考案に特有の作用効果であるか否かの点を除いては、当事者間に争いがない。そして、前掲甲第一号証及び弁論の全趣旨によれば、同(一)については原告主張の事実を肯認するのが相当である。また、その余の点についても、確かに、被告の主張するように、右(4)の作用効果は右(2)の作用効果と密接に関連するものではあるが、それは、打撃板の使用態様に関するものであつて、(2)の取付けに関する作用効果と別に本件考案の作用効果として説明することもできるものと認められる。また、(5)の作用効果についても、被告の主張するように、消耗した打撃板の取替えの可能な製砂機のハンマーは従来から存在したが、本件考案は、その取替を簡便に行えるとの作用効果を奏するものであると認められるから、(5)も本件考案の作用効果として説明して差し支えないものと認められる。
四 請求原因4の事実(被告がイ号物件を製造、販売していること)は当事者間に争いがない。
五1 請求原因5(イ号物件の構成)のうち、同(一)(分説)については、イ号物件及びその付属装置の模型であることに争いのない検甲第一号証によれば、原告主張のとおり(ただし、(三)の構成を有しないものも含む。)と認めることができる(右分説については当事者間においても争いがない。)。
2 同(二)(イ号物件の構成と本件考案の構成要件Cの対比)については、原告の主張を肯認するのが相当である。
六 そこで、以下、請求原因6(間接侵害)について検討する。
1 原告本人尋問の結果により成立を認める甲第三、第四号証、証人【A】の証言、原告本人尋問の結果及び前掲検甲第一号証と弁論の全趣旨によれば、晃立工業が製作、販売している晃立製ハンマーは本件考案の実施品であるが、右ハンマーのアームは一、二年、取付体は二、三年の耐用期間を有するのに対し、打撃板は、三日から一週間くらいの使用で摩耗し、新品に取り替えられるものであること、したがつて、右のアームや取付体の耐用期間内に、打撃板を幾十度となく取り替えることとなり、その度に右ハンマーは当初の性能を回復して使用されるものであること、そして、晃立工業は、製砂機を販売するに際して、製砂機の耐用期間中に消費されるべきすべての打撃板を一括して販売するのではなく、製砂機と当面必要な打撃板を販売した後、購入者等の注文に応じて必要な予備の打撃板をその都度販売していること、一方、イ号物件は晃立製打撃板が摩耗・消耗した場合の取替部品として製造、販売されているものであるが(イ号物件が晃立製打撃板の取替部品として製造、販売されているものであることについては争いがない。)、イ号物件の寸法、形状は、晃立製打撃板のそれと同一といえるものであり、晃立製打撃板の替わりにイ号物件を用いた場合でも、晃立製ハンマーは、本件考案の構成要件を充足し、本件考案の作用効果を奏するものと認められる。
2 ところで、イ号物件の製造、販売行為が本件実用新案権の間接侵害行為であるといえるためには、イ号物件が本件考案に係るハンマーの「製造」に「のみ」使用するものでなければならない(実用新案法28条)。
(一) そこで、まず、イ号物件を本件考案に係るハンマーの取替用打撃板として使用することが、本件考案に係るハンマーを「製造」することに当たるか否かを検討する。
(1) 原告は、本件考案に係るハンマーの打撃板は、右ハンマーの必須の構成部材であり、かつ、主要構成部材であるから、効用を失つた打撃板をそつくりイ号物件と取り替えることは、本件ハンマーを「製造」することに当たると主張する。そして、前示本件考案の構成と目的、作用効果に照らしてみると、打撃板が本件考案に係るハンマーの必須の構成部材であることは原告主張のとおりであり、本件考案の目的が、前示のとおり、従来の打撃板の欠点を改良・除去して打撃板だけを取り替えられるようにしたものであることからすれば、原告が、右のような点をとらえて、打撃板を本件考案の主要構成部材であるというのも、あながち理解できないことではない。
しかし、他面、前示本件考案の構成と目的、作用効果に照らすと、本件考案に係るハンマーは、一定の耐用性を有するアーム及び取付体と摩耗しやすい打撃板からなるものであり、打撃板が摩耗した場合には、アーム及び取付体は既存のものをそのまま使用し、打撃板だけを新しいものに取り替えて使用することを予定したものであるということができる。
このように、本件考案に係るハンマーの打撃板が摩耗しやすいいわば消耗品であるのに対し、他の構成部材であるアーム及び取付体が一定の耐用性のある耐用品であると考えられることからすれば、仮に、原告主張のような主要構成部材か否かという観点からいうときには、右のような耐用性のあるアーム及び取付体こそが主要構成部材であるということも可能であり、原告主張のように一概に打撃板だけを主要構成部材であるということはできない。原告主張のような観点だけからは、何が前記法条にいう「製造」に当たるかを決定することは困難である。
(2) しかるところ、右法条は実用新案権の排他的効力に関するものであるから、何が右法条にいう「製造」に当たるかを決定するに当たつても、実用新案権の排他的効力との関連において、これを考察することが相当であると考えられる。
そこで、こうした観点からみてみると、実用新案権者は業として実用新案を実施する権利を専有している(実用新案法16条本文)。そして、この実用新案権の排他的効力は、競争者による模造品の製造、使用、譲渡若しくは貸渡し又はこの模造品の譲受人若しくは借受人による使用等の行為を排除するが、実用新案権者等が製造、販売した実施品の正当な購入者の使用行為や転売行為、借受人の使用行為等(以下「購入者等の使用行為等」という。)は排除しない。これは一般に実施品の販売等により実用新案権が用尽されたからであると説明されたりするが、その実質的根拠は、右の購入者等の使用行為等が実用新案権者等に支払つた対価を回収する行為であり、これを認めることこそが、実用新案権者等の独占的利益の源泉を確保することになるからであるということができる。仮に、購入者等の使用行為等にも実用新案権の排他的効力が及ぶとすれば、実用新案権者等に対価を支払つて実施品を購入等する者はまずいなくなるであろうから、実用新案権者等の利益はかえつて害されることになる。このようにみてくると、機械、装置の部品の取替行為についても、右のような実質的な観点を加味して考察するのが相当である。そして、こうした観点からみると、購入した機械、装置が予定されていた使用目的を達成する以前に故障し、購入者等が、実用新案権者等に支払つた対価を予定どおり回収できなくなつたために、右の故障した機械、装置の機能を回復すべく故障した部品を取り替えるような場合は、支払つた対価の回収行為の範囲に属するといえるから、それは修理行為として許されるということができる。しかし、購入時に予定されていた使用目的を達成し、実用新案権者等に支払つた対価を予定どおり回収した後に、新たに部品を取り替えて機械、装置を使用するような場合は、取替えの結果、実用新案権者等に支払つた対価を超えて新たに考案を利用することになるから、そのような行為は当然に許されるものではないというのが相当である。購入者等が実用新案権者等に支払つた対価を超えて考案を利用するのは、本来、実用新案権者等に確保されるべき独占的利益を害することになると考えられるからである。これを前記法条にいう「製造」との関係でいえば、部品の取替えも、これにより実用新案権者等に支払つた対価を超えて考案を利用することになる場合は、もはや単なる修理行為とはいえず、右法条にいう「製造」に当たると解するのが相当である。
(3) そこで、本件考案において予定されている打撃板の取替えについて検討する。
まず第一に、本件考案において予定されている打撃板の取替行為は当然には一般にいわれている故障した部分の修理行為には当たらないものと解される。けだし、
修理とは、故障した部分を正常な状態に復することであり、故障とは、事物の正常の働きが損われることをいうものと解されるが、本件考案における打撃板は、前示のとおり、その本来の使用目的たる破砕を行うことにより必然的に摩耗するものであり、かつ、これを取り替えることが、考案自体においていわば正常な行為として予定されているものであるところ、このように、短期間で摩耗して取り替えられることが本来的に予定されており、摩耗して取替えが必要になることがいわば正常なことと考えられているものは、いわゆる故障の概念に含まれるものではなく、その取替えも、当然に一般にいわれている修理の概念に含まれるものではないと考えられるからである。このことを支払ずみの対価の回収行為といえるかどうかという前記の実質的な観点からみると次のようにいうことができる。すなわち、本件考案に係るハンマーは、前示のとおり、一定の耐用性を持つたアーム及び取付体と摩耗しやすい打撃板からなるものであり、打撃板が摩耗した場合には、アーム及び取付体は既存のものをそのまま使用し、打撃板だけを新しいものに取り替えて使用することを予定したものである。しかるところ、前掲甲第一号証(本件広報)、証人【A】の証言、原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、本件考案に係るハンマーの打撃板は、摩耗・消耗の激しいもので、アームや取付体の耐用期間中に多数回にわたつて取り替えられることが予定されているものであること、ところが、
右打撃板の消費量は製砂機の稼動時間や破砕量等によつて大きく左右されるため、
本件考案に係るハンマーを備えた製砂機の購入者等が、当該製砂機の購入時にその耐用期間中に必要になるであろう打撃板の数量を予測することは容易でなく、これを一括して購入することは、事実上、困難であること、もし、これをどうしても一括して購入しなければならないとすると、購入者等に不必要に大きな経済的負担を強いることになり、ひいてはそのような製砂機の購入者等を減少させて実用新案権者等の独占的利益の源泉を失わせる結果にもなりかねないこと、以上のような事実が認められる。そして、このような事実に照らしてみると、本件考案に係るハンマーを備えた製砂機を販売するに当たつて、当面必要な打撃板を販売し、その後は、
購入者等の注文に応じて予備の打撃板を販売していくというのが、本件考案の特質に即した販売方法であり、実用新案権者等の独占的利益を確保する方法として許されてよいものであるということができる。以上のとおりとすると、上記のような販売方法によつて販売された本件考案に係るハンマーを備えた製砂機を購入した購入者等が、実用新案権者等から新たに打撃板を購入し、これを適宜取り替えて使用することは、支払つた対価の回収行為として当然許されることであるといえるが、実用新案権者等から購入した打撃板を使用し終つた後に、実用新案権者等以外の者から新たに打撃板を入手する等して使用することは、実用新案権者等に対して支払つた対価を超えて本件ハンマーを使用することになり、当然に許されることではないというのが相当である。すなわち、これを前記法条との関係でいえば、そのような行為は、前記法条にいう「製造」に当たると解するのが相当である。なお、以上のようにみてくると、実用新案権者等から購入した打撃板自体に欠陥がみられる場合に、これを欠陥のないものに取り替えることは、支払つた対価の回収行為の範囲に属するといえるから、いわば修理行為であり、右にいう「製造」には当たらないということになると考えられる。しかし、前掲甲第一号証や弁論の全趣旨によれば、
本件考案に係るハンマーの打撃板は、従来からあつた打撃板の構成を簡略化にしたものであり、それだけに、打撃板自体の機構上の欠陥ということは、ほとんど考えられないものであると認められる。
(4) 被告は、原告らの主張は、ハンマーについては権利が用尽されているのに一要素にすぎない打撃板を販売することにより、ハンマー本体の寿命が尽きるまで重複して独占的利益を得ようとするもので、不当であると主張する。しかし、右に判示したところに従えば、購入者等は、元来、実用新案権者等から購入した打撃板の枚数に応じて本件考案に係るハンマーを使用できるにすぎないのであるから、実用新案権者等がいわれなく重複して独占的利益を得ることにはならない。また、打撃板は消耗品であるから自由な取替えが許されているとすべきであるという点も、
打撃板が本件考案に係るハンマー以外のものにも使用できる汎用品である場合はともかく、右のとおり摩耗した打撃板を取り替えることも、支払つた対価の回収行為といえるか否かというような実質的な観点からみて、本件ハンマーの「製造」に当たるか否かを決定しようという前記のような立場からすれば、消耗品であるということだけからは当然に許されるべきことであるとはいえず、にわかに採用できない。
また、被告は、間接侵害が成立するとした場合の不都合として四つの点を主張するが(被告の主張2(三)@ないしC)、いずれも理由がない。すなわち、
@について 被告が主張するように、実用新案権者等は打撃板の取替えにつき許否の自由を有することにはなるが、実用新案権者等は購入者等に打撃板を販売することにより経済的利益を享受するのであるから、購入者等が打撃板を実用新案権者等から購入するのであれば、右権利者等が打撃板の取替えを拒否することは、特段の事情のない限り、考えられない。購入者等はこうして購入した打撃板を用いて本件考案に係るハンマーを使用することができるのであるから、打撃板を取り替えたい購入者等は、実用新案権者等から打撃板を購入すればよいだけのことであり、被告主張のような不合理が生じるとは考えられない。
Aについて 被告が主張するように打撃板の販売価格が高額であつても、購入者等がこれを甘受するほかないことになる可能性は否定できない。しかし、ある実用新案の実施品を購入しようとする者は、実施品の価格につき実用新案権者等の設定した価格をもとにコストを計算をして当該実施品を購入するか否かを決するのが通常である。そして、本件実用新案に係るハンマーのように、消耗部品の取替えが予定されている物については、その消耗部品の取得費用も含めてコスト計算して当該実施品を購入するか否かを決することになると考えられる。そうすると、実用新案権者等も、消耗部品の価格設定にあたつて当然かかる点を考慮せざるを得ず、
その価格も一定の経済的合理性のある範囲にとどまらざるを得ないはずである。原告の主張に従うことが、直ちに被告主張のように実用新案権者等に不当な利益を与えることになるとはいえない。
Bについて 正当に購入された打撃板については、いわゆる用尽効果が及ぶから、実用新案権が譲渡されても、新権利者に差止めや損害賠償を請求されることはないと解される。
Cについて 多少煩雑な点があるとしてもやむをえないことである。また、一定量の予備の打撃板を一括して購入すれば、ある程度、煩雑さを減少させることも可能である。
以上述べたところによれば、被告の主張は、いずれも前示判断を左右するものではないというべきである。
(二) そこで、次に、イ号物件が本件考案に係るハンマーの製造に「のみ」使用するものであるか否かを検討する。
(1) まず、前示本件考案の構成要件とイ号物件の構成を対比してみると、イ号物件が本件考案に係るハンマーの打撃板として構成されたものであることは明らかである。そして、イ号物件の右構成と打撃板という物品の性質を参酌すると、他に特段の事情が認められない限り、イ号物件は、本件考案に係るハンマーの打撃板として使用する以外には商業的、経済的な実用性のある用途はないものと推認される。ところが、被告はイ号物件は参考物件一及び二のハンマーにも使用するものであると主張するので検討する。
(イ) 参考物件一について参考物件一の現物であることに争いのない検甲第二号証によれば、参考物件一の構成は、被告の主張3(一)(1)記載のとおり分説できるものであると認められる。そして、参考物件一の構成と本件考案の構成要件を対比すると、被告が被告の主張3(一)(2)で主張するとおり、参考物件一は本件考案の構成要件a及びbを充足しないものといえる。しかしながら、参考物件一は、被告の主張するところによつても、昭和六〇年九月ころには、せいぜい被告においてこれを製造することが可能になりその製造、販売を準備中であつたという程度にすぎず、いまだ実用化はされていなかつたことは明らかである。そして、被告以外の第三者によつて、参考物件一が実用化されあるいは実用化されようとしていたことを認むべき証拠は全くない。少なくとも、本訴において損害賠償及び不当利得返還請求が問題になる昭和五三年五月六日から同六〇年八月二九日までの期間中にイ号物件が参考物件一のハンマーの打撃板として使用される可能性があつたとは認められない。
(ロ) 参考物件二について 別紙物件目録(三)の記載によれば、参考物件二の構成は、被告の主張3(二)(1)記載のとおり分説できるものであるということができる。そして、参考物件二の構成と本件考案の構成要件を対比すると、被告が被告の主張3(二)(2)で主張するとおり、参考物件二は本件考案の構成要件a及びbを充足しないものといえる。しかしながら、被告の主張するところによつても、参考物件二は、本訴提起後被告において考案したもので、いまだ試作品もできていないものであることが明らかである。右のとおり、参考物件二は、本訴において損害賠償及び不当利得返還請求が問題になる前記期間中にはいまだ考案もされていなかつたのであるから、右期間中にイ号物件が参考物件二のハンマーの打撃板として使用される可能性がなかつたことは明らかである。
(2) そして、イ号物件が本件考案の実施品である晃立製ハンマーの取替用打撃板が摩耗・消耗した場合の取替部品として製造、販売されているものであり、その寸法、形状が本件考案の実施品である右晃立製ハンマーの打撃板のそれと同一であるといえるものであることは、前示のとおりである。また、本件考案に係るハンマーの打撃板が、従来からあつた打撃板の構成を簡略化にしたものであり、それだけに、打撃板自体の機構上の欠陥ということは、ほとんど考えられないものであることも前示のとおりである。しかるところ、前掲【A】証人の証言や原告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、これと構成を同じくするイ号物件を実際の製品としてみた場合にも、それ自体の欠陥というようなことは実用上ほとんど問題にならないものであると認められる。
(3) 以上によれば、イ号物件は、その構成からみた場合のみならず、これを実際の製品としてみた場合も、寸法、形状等からみて本件考案の実施品である晃立製ハンマーが摩耗・消耗した場合の取替部品として使用する以外には商業的、経済的に実用性のある用途はないものであつたと認められる。そうすると、イ号物件は、
少なくとも本訴において損害賠償及び不当利得返還請求が問題になる前記期間中は、本件考案に係るハンマーの製造に「のみ」使用する物であつたといえる。
(三) そして、既に判示してきたところと、晃立製製砂機が元来営業用の製品であることからすれば、右製砂機の購入者等が摩耗・消耗した晃立製ハンマーの打撃板をイ号物件に取り替えて使用することは、本件考案に係るハンマーを業として製造し、使用することになると解される。
(四) 原告の間接侵害の主張は理由があるというのが相当である。
七 請求原因7(損害及び損失)について検討する。
1 イ号物件の販売数量等(一)前掲【A】証人の証言により成立を認むべき甲第五号証、第一一号証、右証人証言及び原告本人尋問の結果によれば、原告が主張する被告のイ号物件の製造、
販売数量は、概括的にいえば、原告が晃立製製砂機を購入者に納入する前に各購入者毎に行う破砕テスト(右テストは、投入岩石の岩質及びサイズ、客先所要粒度並びに破砕方法-乾式、湿式の別-等により打撃板消費量を推計しようとするものである。)の資料から晃立製製砂機の購入者でかつイ号物件の購入者でもある各購入者の打撃板消費量を推計し、右消費量と晃立工業が右各購入者に晃立製打撃板を販売した実績との差ないし右各購入者に対する晃立工業の実績数量から被告の販売数量を推計したものであり、これに従えば原告主張のような数値が算定されることになるものと認められる。ただし、右甲号証といずれも原告本人尋問の結果により成立を認める甲第八、第九号証、第一〇号証の一、二及び弁論の全趣旨によれば、右販売数量のうち六〇個は、訴外有限会社テラノ工研が、昭和五九年ころ、被告から一個三六五〇円で仕入れて訴外大台建材有限会社(以下「大台建材」という。)へ納入した実績数量であると認められる。
そして、右のような推計も、イ号物件の販売数量を直接把握しうる資料を入手し難い立場にある原告がとる算定方法としては、理由のないものではなく、そのようにして推計される数値も全く考量に値しないようなものではないと考えられる。
しかしながら、成立に争いのない乙第一号証と証人【B】、同【A】の各証言によれば、打撃板の消費量は、製砂機の稼働時間又は破砕量により最も左右されるものであると認められるところ、原告の推計は、あくまでも推計であるうえに、右各証人や原告本人の供述に照らすと、右推計における各購入者の稼働時間又は砕砂量が実情に近いといえるものであるかどうかについては問題があるといわざるをえず、右推計の正確性には疑問が残るといわざるをえない。
(二) 一方、被告は、被告が販売したイ号物件の販売個数及び販売額は、(イ) 昭和五三年七月一日から同五七年八月二八日までの分の販売個数八五七八個、販売額三一九三万九一四〇円、(ロ) 昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日までの分の販売個数六三〇三個、販売額二四一三万七九五〇円、(ハ) 合計販売個数一万四八八一個、合計販売額は五六〇七万七〇九〇円である旨主張する。そして、成立につき争いのない乙第一二号証と前掲【B】証人の証言によれば、右販売個数、販売額は、被告の手許に残されていた売上台帳等の書類に基づく数値である(ただし、昭和五七年八月二九日当日は取引がなく、右の昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日までの分とは、実質的には昭和五七年八月三〇日以降同六〇年八月二九日までの分のことである。以下同じ。)と認められる。もつとも、右第一二号証に照らすと、右数値の中には、前示大台建材に関する六〇個分が含まれていないことは明らかであり、右数値の正確性についても全く疑問がないわけではない。しかし、これを全く虚偽のものであると断じる程の資料もなく、右の数値をたやすく無視することもできない。
(三) 以上のようなことをかれこれ勘案すると、確実な数値を算定の基礎とするという観点からみて、前示推計に基づく数値をそのまま原告主張の損害ないし損失算定の基礎とするのは相当でない。結局、他に的確な資料のない本件においては、
右算定の基礎となる数値としては、前掲乙第一二号証によつて裏付けられ、被告が自認している前示数値に前示大台建材に関する分(個数六〇個、被告の販売価格三六五〇円×六〇=二一万九〇〇〇円)を加算したものにとどめるほかはない。そうすると、右算定の基礎になる数値は、(イ)昭和五三年七月一日から同五七年八月二八日までの分が販売個数八五七八個、販売額三一九三万九一四〇円、(ロ)昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日までの分が販売個数六三六三個、販売額二四三五万六九五〇円、(ハ)合計販売個数一万四九四一個、合計販売額は五六二九万六〇九〇円となる。
2 昭和五三年五月六日から同五七年八月二八日までの間の損失(一) 原告が右期間中の実施料相当額の損失を主張するのに対し、被告は、実施料相当額の損害の賠償を定めた実用新案法29条2項間接侵害の場合には適用がなく、また、部品にすぎない打撃板だけについて実施権を設定することはできない、打撃板についての実施料相当額ということ自体考えられないし、同条の類推適用もできない、原告主張の実施料相当額の不当利得はありえない旨主張する。
確かに、一般に登録実用新案についての実施権の設定といえば、当該考案の構成全体について実施権を設定することをいい、その構成の一部についてのみ実施を許諾するというのは、右の一般にいう実施権の設定には当たらないものと解される。
しかしながら、前示のようにいわゆる間接侵害の成立を認める以上、実用新案権者である原告が、侵害者に対し、差止請求権と損害賠償請求権を行使できる立場に立つことは、明らかである。そして、このような立場に立つ原告が、侵害者との間で間接侵害を構成する部品の製造、販売について間接侵害を理由とする差止請求権及び損害賠償請求権を行使しないことを合意することは当然可能であるから、間接侵害を構成する部品を製造、販売しようとする者との間で、対価を得てこれについて右差止請求権や損害賠償請求権を行使しない旨合意すること、換言すれば対価(許諾料)を徴して右部品の製造、販売を許諾することも、不可能ではない(ただし、
一般の場合のようにこれを登録する方法はない。)。そして、このような間接侵害を構成する部品の製造、販売は、法律上、実用新案権者である原告の許諾なしには適法に実行できないものであるから、右許諾料を支払わずに、間接侵害を構成する部品を製造、販売した者は、法律上の原因なく右許諾料相当額を利得し、これにより、実用新案権者たる原告は同額の損失を被つたものとして、その返還を請求できると解するのが相当である。
そこで、本件における右許諾料相当額について検討するに、原告は、原告が本件考案を実施させているのは晃立工業だけであるが、仮に実施を許諾するとすれば、
晃立製打撃板の利益率が約四〇パーセントであるから、実施料率は、その半分の二〇パーセントは下らない旨主張し、原告本人はこれにそう趣旨の供述をする。
しかしながら、原告のいう実施料相当額ないし前記許諾料相当額は、客観的に妥当な額でなければならない。しかるところ、前掲甲第五号証及び原告本人の供述によれば、原告が主張する右利益率四〇パーセントというのは、晃立工業が晃立製打撃板を販売する際の販売単価が五一〇〇円ないし五四〇〇円であることを前提としたものであると認められる。ところが、前掲【A】証人の証言により成立が認められる乙第一四号証や右証人の証言によれば、晃立製打撃板が最終使用者である奥村組土木株式会社に納入された時の値段は、昭和五三年九月からは単価三九五〇円、
昭和五五年七月からは単価四〇〇〇円であつたことが窺われ、右原告の主張の前提自体に疑問があるといわざるをえない。
ところで、当裁判所に顕著な国有特許権実施契約書(官有特許運営協議会決定、
昭和二五年二月二七日特総第五八号、改正昭和四二年五月二六日特総第五三三号、
改正昭和四七年二月九日特総第八八号、特許庁長官通牒)の「実施料算定方式」によれば、実施料率は、
実施料率=基準率×利用率×増減率×開拓率の算式によつて求められ、販売価格を基礎として実施料を算定する場合の基準率は、実施価値の上、中、下により四、三、二パーセントの中から選択されるものであるから、仮に実施価値を上とみて四パーセントを選択し、利用率、増減率及び開拓率がいずれも一〇〇パーセントであつたとしても、実施料率は四パーセントにすぎないことになる。以上、原告の主張の前提自体に疑問があつてこれを直ちに採用できないことや右の実施料率のほか、前記許諾の対象が本件考案に係るハンマーそのものではなく、その一部品である打撃板に限られているうえ、打撃板の構成自体も特に複雑で高度なものとも考えられないこと等を考えあわせると、本件考案が原告において晃立工業だけにしか実施を認めていない、実際上の独占性の強いものであることを考慮しても、客観的にみて妥当な許諾料額は、せいぜい前示被告の販売額の五パーセント程度と認めるのが相当である。
そうすると、右許諾料相当額は、前記認定のイ号物件販売額三一九三万九一四〇円に五パーセントを乗じた一五七万六九五七円(円未満切捨て)となる。
原告は、不当利得に基づく返還請求権により、右の額の支払を被告に対し求めることができるというべきである。
3 昭和五七年八月二九日から同六〇年八月二九日までの損害(一) 原告は、原告自らは本件考案を実施していないが、原告が代表取締役を務める晃立工業は本件考案を実施していて、晃立工業は原告と同視すべき者又は本件実用新案権につき利害を共通とする一体不可分の関係にある者であるから、晃立工業の損害を原告の損害と同視すべきであると主張し、晃立工業の逸失利益相当額を原告自身の損害として請求する。
そして、原告本人の供述及び弁論の全趣旨によれば、原告が右の同一視ないし一体不可分関係の根拠として主張する事実自体は肯認できるが、右証拠によれば、晃立工業は、形骸化し単に法人格だけを残しているような会社ではなく、立派に実体的な企業活動を行つている会社であることも明らかである。このように実体のある法人が実在し独立した企業活動を行つている場合には、たとえ、右会社が実質的には代表者の個人企業といえるようなものであつても、右法人の存在を無視した法的処理を行うことは軽々に許されるべきことではないというべきである。これを許すことは、あるときには法人格の存在を主張しあるときには法人格の存在を無視するという身勝手な処理を許すことになり、法制度の濫用を認める結果になりかねないからである。
実在する法人格を否認ないし無視することが許される場合があるとしても、それは、そのような法理を用いるのでなければ、現行法上容認できない不当な結果を招来するというような特段の事情がある場合に限られると解するのが相当である。しかるところ、本件においては、右のような特段の事情があることについてはなんらの主張、立証もされていない。原告が晃立工業の逸失利益相当額の損害を問題にするのであれば、晃立工業に対し本件考案に関する専用実施権を設定しておけば、晃立工業が主体となつて専用実施権の侵害を理由に逸失利益相当額の損害賠償を請求することが可能であつたはずである。また、独占的通常実施権者の損害賠償請求権はこれを肯定するのが裁判例の主流であることに鑑みると、専用実施権未設定のままであつても、独占的通常実施権の侵害を理由に晃立工業が損害賠償請求訴訟を提起して逸失利益相当額の賠償請求をする方途も考えられないわけではない。本件において、原告の主張のような処理を認めなければ、現行法上認容できない不当な結果を招来するとは到底考えられず、原告の右主張は採用できない。
よつて、右損害に関する請求はその余の点の判断に及ぶまでもなく、理由がない。
(二) そこで、次に、実施料相当額の損害請求について検討する。
(1) 被告がイ号物件を業として製造、販売することが、本件実用新案権の間接侵害になること及び被告がイ号物件を昭和五七年八月二九日から昭和六〇年八月二九日までの間製造、販売していたことは前示のとおりである。そして、成立について争いのない甲第六号証と第七号証によれば、原告が、被告にその主張のとおり、
イ号物件の販売停止を求め、被告が昭和五四年七月五日付け書面によりその販売を停止する旨回答したこと、ただし、被告の右回答は、弁理士を通じてなされたものであり、その趣旨は、「イ号物件が本件考案に係るハンマーに組み込まれて使用されているかどうかは全く知らない、したがつて、イ号物件が本件考案に係るハンマーにのみ使用されるかどうかは不明であり、被告の行為が原告の権利を侵害するかどうか些か疑問があるが、いたずらに争うことを好まないのでイ号物件の製造を中止することにした。」というものであつたことが認められる。しかし、前掲【A】証人の証言によれば、被告としては、イ号物件が晃立製ハンマーに組み込まれて使用されること自体は、十分承知していたものと認められる。そして、晃立製ハンマーが本件考案の実施品であることは、前示のとおりである。以上の事実と弁論の全趣旨に照らすと、被告は、上記期間中、イ号物件を製造、販売するにあたつて、イ号物件が本件考案に係るハンマーにのみ使用されるものであることを知つていたか少なくともこれを知り得たものと認めるのが相当である。
(2) しかるところ、原告が本件考案に係るハンマーの打撃板の製造、販売に関し許諾料を徴してこれを許諾しうると解すべきこと及び右許諾料としては被告のイ号物件の販売額の五パーセント程度が相当であることは前示のとおりである。そして、右の許諾料と一般の実施料の性質の類似性(いずれも、実質的には権利者の有する差止請求権及び損害賠償請求権の不行使に対する対価であるといえる。)や実用新案法29条2項の立法趣旨に照らすと、右の許諾料についても同条項が類推適用されると解するのが相当である。
(3) そして、上記期間中のイ号物件の販売個数が六三六三個、販売額が二四三五万六九五〇円であることは前示のとおりである。そうすると、右許諾料相当額は右二四三五万六九五〇円に五パーセントを乗じた一二一万七八四七円(円未満切捨て)となる。
八 結論 以上のとおりであるから、原告の本訴請求は、二八一万四八〇四円及びこれに対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな(不法行為に基づく請求については不法行為の後である)昭和六〇年九月五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、この限度で認容し、その余の請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条92条を、仮執行宣言につき同法196条1項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
追加
実用新案広報(省略)物件目録(一)一図面の説明別紙図面の第1図から第3図は、イ号物件の図面であり、
第1図は斜視図、
第2図は正面図、
第3図は側面図、
である。
別紙図面の第4図から第7図は、イ号物件を晃立工業株式会社製造の製砂機「サンドリファイナー」のハンマーの打撃板として使用した状況の図面であり、
第4図はイ号物件、取付体、アームの斜視図、
第5図はこれらが組み合わされた状態の斜視図、
第6図はイ号物件、取付体、アームが組み合わされた状態の縦断面図第7図は第6図AA線での横断面図である。
構造の説明(ただし、(3)の構成を有しないものも含む。)(1)長方形状の厚板の正面下端中央に長方形状の切入部24を設け、
(2)厚板裏面に切入部24を覆う隆起部30を設け、
(3)厚板の正面中央部に平行する二個の摩耗検出用横溝部31を設け、
(4)厚板の両側面に、切入部24を介して一連に貫通するよう取付孔20、21を設けた(5)打撃板5三晃立工業株式会社製造の製砂機「サンドリフイナー」のハンマーの打撃板として使用した状況の説明(1)打撃板5の切入部24に取付体3の後部を挿入し、打撃板の取付孔2021、及び取付体の後部の孔を止め杆25により一連に貫通固着させ、打撃板5に取付板3を固着させる。
(2)打撃板を挿着した取付体の内端部17をアーム1の案内溝2の係止凹部4に挿入し、取付体の前部の取付穴18とアーム1の案内溝2側部の取付穴7を止め杆22によつて一連に貫通固着させ、
打撃板1を取付体3を介してアーム1に固着させ、アーム先端から打撃板を突出させ、(3)打撃板1の摩耗に応じて順次三段階に打撃板を上部にくり出し使用する。
<12771-001><12771-002><12771-003>物件目録(二)一図面の説明別紙図面は、イ号物件を用いた製砂機のハンマーの一例(参考物件一)を示す図面であり、
第1図は分解斜視図、
第2図は縦断面図、
である。
ニ参考物件一の説明参考物件一は、次の構成よりなるものである。
(a)前側面が平坦なアーム1と(b)アーム1の前側面に直角に突出して設けたアームと一体の長方形状の取付体3と(c)切欠部24を取付体3に取外し可能に嵌合固着し、かつ、上部をアーム1の先端から突出させた物件目録(一)に記載のイ号物件と(d)からなる製砂機のハンマー。
<12771-004>物件目録(三)一図面の説明別紙図面は、イ号物件を用いた製砂機のハンマーの一例(参考物件ニ)を示す図面であり、
第1図は分解斜視図、
第2図は取付体3をアームの下段の蟻溝40に取り付けた状態の縦断面図、
第3図は取付体3をアームの上段の蟻溝40′に取り付け、下段の蟻溝40に保護板45を取り付けた状態の縦断面図、
である。
二参考物件二の説明参考物件二は次の構成よりなるものである。
(a)前側面に上下二段の蟻溝40′40を横手方向に形成し、各蟻溝の中央にネジ穴41′41を設けたアーム1と、
(b)内端部に形成した蟻柄42をアーム1の蟻溝40又は40′に挿入し、アームのネジ穴41又は41′にねじ込んだボルト48又は48′で、蟻柄42の内端部中央に設けた凹部44を圧接して着脱自在に止着し、かつ、先部をアーム前側面から突出させた取付体3と、
(c)切欠部24を取付体3に取外し可能に嵌合固着し、かつ、上部をアーム1の先端から突出させた物件目録(一)に記載のイ号物件と、
(d)取付体3をアームの上段の蟻溝40′に取り付けた状態で、内端部に形成した蟻柄46をアーム1の下段の蟻溝40に挿入し、アームのネジ穴41にねじ込んだボルト48で、蟻柄46の内端部中央に設けた凹部49を圧接して着脱自在に止着する厚板状の保護板45と、
(e)からなる製砂機のハンマー<12771-005>
裁判官 上野茂
裁判官 小松一雄、青木亮
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