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関連審決 審判1985-362
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  先願考案 /  きわめて容易 /  先願 /  拒絶理由 /  削除 /  置換 /  頒布 /  先願 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 62年 (行ケ) 130号
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裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 1989/05/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
一 原告 「特許庁が昭和六〇年審判第三六二号事件について昭和六二年五月一四日にした審決を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決二 被告 主文同旨の判決
請求の原因
一 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和五四年八月九日、名称を「ボールジヨイント付きドラツグリンク」(その後「ステアリング用ドラツグリンク」と訂正)とする考案(以下「本願考案」という。)について実用新案登録出願(同年実用新案登録願第一〇九六〇〇号)をしたが、昭和五九年一〇月一七日に拒絶査定を受けたので、同年一二月二七日、これに対し審判の請求をした。特許庁は、右請求を昭和六〇年審判第三六二号事件として審理したうえ、昭和六二年五月一四日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年六月二四日原告に送達された。
二 本願考案の要旨 一対のボールジヨイントと、前記一対の各ボールジヨイントに予め組付けた少なくとも一部が中空の金属パイプ部片と、前記各ボールジヨイントに組付けられた前記金属パイプ部片に比し長尺の中空金属パイプであつて、前記金属パイプ部片の各々の自由端に摩擦溶接によつて接合し前記中空の金属パイプ部片どうしの間を接続してなる前記長尺の中空金属パイプと、によつて構成されたことを特徴とするステアリング用ドラツグリンク。(別紙(一)図面参照)三 審決の理由の要点1 本願考案の要旨は前項記載のとおり(本願考案明細書(以下「本願明細書」という。)の実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)である。
2(一) 特公昭四四ー二三二八六号公報(以下「第一引用例」という。)には、
ねじ溝つき軸頸により鋼管かじ取引棒の各端部にある内ねじへねじ込まれ、かつ、
ロツクナツトによりかじ取引棒の端面に拘束されているものにおいて、内ねじ1aを持つかじ取引棒1の端部が、鋼管の端面より拡大されたロツクナツト3用の接触面1cを備えていることを特徴とする動力車両用の玉継手を有する鋼管かじ取引棒(特許請求の範囲)が記載されている(別紙(二)図面参照)。
(二) また、前記「鋼管かじ取引棒」は、ステアリングホイールとナツクルアームとの間に配設されて力を伝達するものであり、前記のとおり、長尺の鋼管の両端に玉継手を連絡した構成からみて、ステアリング用ドラツグリンクとして使用し得るものと推認することができるから、第一引用例には、一対の玉継手(ボールジヨイント)と、前記一対の各ボールジヨイントに一体に連結した中実の軸頸と、前記各ボールジヨイントに一体に連結した前記軸頸に比し長尺の鋼管(中空金属パイプ)であつて、前記軸頸の各々の自由端にねじ込みによつて結合し前記軸頸どうしの間を接続してなる前記長尺の中空金属パイプと、によつて構成されるステアリング用ドラツグリンクが記載されているものと認める。
3 そこで、本願考案と第一引用例記載のものとを対比すると、両者は、本願考案では、少なくとも一部が中空の金属パイプ部片を各ボールジヨイントに予め組み付け、金属パイプ部片の各々の自由端に摩擦溶接によつて中空金属パイプを接合するのに対し、第一引用例に記載されたものは、中実の軸頸を各ボールジヨイントに一体に連結し、軸頸の各々の自由端にねじ込みによつて中空金属パイプを結合する点で相違し、その余の点で実質的に一致するものと認められる。
4 そこで、右相違点について検討する。
(一) 本願考案における「少なくとも一部が中空の金属パイプ部片」の記載では、中空の部分の位置が特定されていないが、中空金属パイプと接合すべき金属パイプ部片の自由端の状態について分けてみると、金属パイプ部片の自由端が中実丸棒状の場合と中空パイプ状の場合とがあると解することができる。
(二) まず、金属パイプ部片の自由端が中実丸棒状であると解した場合には、本願考案では、金属パイプ部片の中実丸棒状の自由端と中空金属パイプとを摩擦溶接によつて接合するのに対し、第一引用例に記載されたものでは、中実の軸頸の自由端に中空金属パイプをねじ込みにより結合する点でのみ相違することになるが(前記「一体に連結」と「予め組付け」とが実質的に同じであることは明白である。)、自由端が中実丸棒状のものと中空金属パイプを接合(結合)する場合に摩擦溶接することもねじ込みすることも周知技術(必要ならば、前者について「改訂三版・溶接便覧」昭和五二年三月三一日、丸善株式会社発行、五九三頁ないし五九八頁参照)であるので、前記相違点は当業者が単純な設計において適宜なし得る程度の差異にすぎないものと認める。
(三) また、金属パイプ部片の自由端が中空パイプ状であると解した場合には、
本願考案では、金属パイプ部片の中空パイプ状の自由端と中空金属パイプとを摩擦溶接によつて接合するのに対し、第一引用例に記載されたものでは、中実の軸頸の自由端と中空金属パイプをねじ込みにより結合する点でのみ相違することになるが、中空金属パイプの端部と端部とを摩擦溶接によつて接合することは周知技術(必要ならば、前記「改訂三版・溶接便覧」五九三頁ないし五九八頁参照)であり、実開昭五〇ー一一二八七〇号公報(以下「第二引用例」という。)には、ボールジヨイントに自由端が中空パイプ状のソケツト(金属パイプ部片)を予め組み付けることが記載されている(別紙(三)図面参照)ものと認められるから、第一引用例に記載されたものに第二引用例に記載されたことを適用し、金属パイプ部片と中空金属パイプとを前記周知の摩擦溶接によつて接合することにより、前記相違点で示した本願考案となすことは、当業者にとつて容易であり、そのことが不可能ないしは困難であると解すべき理由は存しない。
(四) したがつて、金属パイプ部片の自由端が中実丸棒状であると解した場合でも、或いは中空パイプ状であると解した場合でも、ともに前記相違点は当業者がきわめて容易に推考することができると認められる。
5 以上のとおりであるから、本願考案は第一、第二引用例に記載された事項及び前記周知技術に基づいて、当業者がきわめて容易考案をすることができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
四 審決を取り消すべき事由審決の理由の要点1は認める。2の(一)は認めるが同(二)は争う。3のうち、
第一引用例記載の鋼管かじ取引棒がステアリング用ドラツグリンク(以下「ドラツグリンク」ともいう。)であるとした場合、本願考案と第一引用例記載の発明の間には、審決摘示の相違点があることは認めるが、その余は争う。4(一)は認める。同(二)のうち、右3記載の「予め取付け」(本願考案)と「一体に連結する」(第一引用例)が実質的に同じであること及び周知技術の点は認めるが、その余は争う。同(三)のうち、第二引用例の記載内容(ただし、そのソケツトを金属パイプ部片としている点は争う。)及び周知技術の点は認めるが、その余は争う。
同(四)は争う。5は争う。
審決は、第一引用例の記載内容を誤認し(取消事由(1))、また、第二引用例の記載内容の誤認に基づいて本願考案の構成に関する容易推考性の判断を誤つた結果(取消事由(2))、本願考案進歩性を否定したものであるから、違法として取消しを免れない。
1 第一引用例の記載内容の誤認(取消事由(1))(一) 審決は、第一引用例記載のものをステアリング用ドラツグリンクと認定しているが、これがタイロツドであることは明らかである。
(1) 自動車は、ハンドルを回すことによつて前車輪の向きを同時に同方向に変え、これによりその進行方向を変えるようになつているが、そのための機構のうち、前車輪の向きを同時に同方向に変えるための仕組みがかじ取用リンク機構である。そして、第一引用例には、長尺の鋼管の両端に玉継手(以下、「ボールジヨイント」ともいう。)が連結された構成からなる部材が記載されているが、かじ取用リンク機構を形成する部材のうち、このような構成を有するのは、タイロツドか又はドラツグリンクであつて、それ以外にない。
(2) しかして、第一引用例記載のものが、ドラツグリンクではなく、タイロツドであることは、次の理由により明らかである。すなわち、ドラツグリンクとタイロツドの構造上の差異は、同引用例の出願当時の技術常識によれば、@ドラツグリンクは路面からの衝撃等を緩衝するためのコイルばねを内包するのに対し、タイロツドは、そのような緩衝作用をもたせる必要がないためコイルばねを内包しない点、Aタイロツドでは、トーイン(前車輪の直進安定性を確保するため、左右の前車輪を真上からみたときに進行方向に向けて微妙に「ハ」の字形になるようにすること)を調整するため、長さを調節できるようにボールジヨイントを鋼管にねじ込み結合する構成をとつているのに対し、ドラツグリンクはそうでない点、の二点にあるとされていたのであり、これを第一引用例記載の部材についてみると、@についてはコイルばねを内包しておらず、Aについてはねじ込み結合とされていることが認められるから、いずれもタイロツドとしての特徴を具備するもので、したがつて、これがタイロツドであつて、ドラツグリンクでないことは明白である。
(3) また、第一引用例は、ドイツ国出願に基づく優先権主張を伴う特許出願に係るものであるところ、右優先権主張の根拠となつたドイツ国出願明細書(甲第一一号証)によれば、第一引用例にいう「かじ取引棒」は右明細書の「Spurstange」の和訳であることは明らかであるところ、右「Spurstange」は「タイロツド」を意味するドイツ語であるから(他方「ドラツグリンク」を意味するドイツ語は「Lenkstange」であつて、両者は、自動車技術及び自動車工学の分野で明確に区別されて用いられている。)、右明細書記載の発明はタイロツドに関するものにほかならず、したがつて、これに基づいて出願された第一引用例記載の発明も、ドラツグリンクではなくタイロツドに関するものであることが明らかである。
(二) なお、この点に関する被告の主張ないし立証は、次に述べるとおり、いずれも失当である。
(1) まず、ある考案又は発明の対象が何であるかが後日問題となつた場合は、
その認定は、(イ)当該出願当時の当業者の技術常識を基準とし、(ロ)出願人及び審査に当たつた特許庁担当官の意思又は認識をも参酌してなされるべきである。
しかるに、
被告の主張は、(イ)の点につき、被告提出の書証が乙第六号証を除き、いずれも第一引用例の出願日である昭和四一年三月三〇日よりも後に発行されたものである(乙第九、第一〇号証の各一に至つては本出願後の公開公報である。)ことからも明らかなように、本出願当時の技術常識を基準としており(このような基準によれば、先願考案はその後の技術水準の進歩を次々とその中に取り入れて後願考案の権利取得の障害となり、不当な優越的地位を占めることになるから、これによることができないことは明らかであり、したがつて、第一引用例の出願日より後の発行に係るこれら書証の援用は許されない。)、(ロ)の点につき、前記甲第一一号証(ドイツ国出願明細書)や、甲第一五号証(第一引用例に係る出願の拒絶理由通知書)、第一六号証(右拒絶理由通知において引用された米国特許第三一一三七八七号明細書)によれば、出願人及び審査に当たつた特許庁担当官が、いずれも第一引用例記載のものをタイロツドと認識していたものであることは明らかであるのに、
これらの事情を無視していること、のいずれの点においても誤つているものである。
(2) また、右のとおり第一引用例出願前の発行に係る乙第六号証には、当時の当業者の技術常識を示すものとして、「ドラツグリンクには第46図の如く引抜管または型打物で作り、路面よりの衝撃を緩和するため両端にコイルばねを挿入する。タイロツドは……一般に鋼管を使用し両端の玉継手取付部はトーインを規正するためねじ結合とする。」との記載があり(なお、同証の改訂前又は改訂後のものである乙第一一号証及び甲第一二号証にも同じ記載がある。)、この記載からも明らかなように、少なくとも同引用例の出願当時の当業者の技術常識においては、ドラツグリンクとタイロツドは別構造、別機能のものとして明確に区別されていたものであり、被告主張のような「ドラツグリンクとも理解できる」というような玉虫色の認識はあり得なかつたものである。なお、コイルばねを内包しないドラツグリンクが出現したのは、その後のボールジヨイントの改良により、ボールジヨイントを抱持するボールカツプにプラスチツク等の非金属素材を用い得るようになり、このようなボールカツプ自体の弾力性で緩衝することができるようになつて以後のことである(本願考案のものも、このような改良後のもので、その点では従来のドラツグリンクとは構造を異にする。)(3) ところが、右のようにドラツグリンクを示すものとされる乙第六号証の第46図のaに記載されたものは両端にコイルばねが入つていないところから、被告は、これを、ドラツグリンクにもコイルばねを内包しないものがある例として援用しているものであるが、第46図のaは明らかに、説明と矛盾する図であり、また、乙第六号証の五年後に出版されたその改訂版である甲第一二号証(昭和四五年二月二五日・社団法人自動車技術会発行の「新編・自動車工学ハンドブツク」)によれば、右説明はそのまま残されているものの、第46図のaは削除され、第46図のbに記載されたコイルばねを内包するものの端部を拡大した図のみが残されていることを考慮すれば、もともと第46図のaのものはドラツグリンクではないものが誤つて記載されていたものと考えられ、したがつて、被告主張のように、これを根拠に、ドラツクリンクにもコイルばねを内包しないものがあるとするのは誤りである。
(4) 更に、被告提出の書証は農業用トラクターに関するものが圧倒的に多いが、農業用トラクターのように道路外で使用される車両と道路上で使用される車両は、JISの分類(甲第一三号証、農業用トラクターは、自動車D分類中の「建築車両・産業車両」に分類され、一般の自動車とは別項目とされている。)からも窺われるように、明らかに別体系に属するもので、また、本件で問題とすべき当業者も前者に関する技術者ではなく、後者に関する技術者なのである。しかるに、被告の主張は、農業用トラクターのような用途の特定された特殊な車両用のドラツグリンクの例をもつて、あたかも車両一般に妥当する普遍的なドラツグリンクであるかのように、その論旨を展開するもので、不当である。例えば、乙第七号証の一、二は農業用トラクターのドラツグリンクに関するもので、本願考案や第一引用例に係る、高速走行を目的とする一般の自動車のドラツグリンクとはその技術的背景を全く異にし、後者のドラツグリンクが、高速度で走行する自動車が路面からの衝撃をハンドルに伝えることによつてハンドル操作を誤る等の支障を避けるために両端にコイルばねを備えることを必要とするのに対し、農業用トラクターにおいては、そもそも高速走行を目的として作られていないから緩衝用のコイルばねを設ける必要もなく、したがつて、これにコイルばねが設けられていないのは当然のことにすぎず、この例をもつて、一般の自動車のドラツグリンクにもコイルばねを設けないものもあるとすることはできない(なお、同じく、農業用トラクターに関する乙第八号証をもつて、被告は、ねじ込み結合とされていないドラツグリンクもあるとする主張の根拠とするが、上記したところと同様の問題があるのみならず、同証のドラツグリンク(ドラグロツド8)はその両端にジヨイントボールを有する構造ではないので、そもそも被告の主張を裏付け得るものではない。)。
(三) しかして、タイロツドにおいては、ボールジヨイントと鋼管をねじ込み結合とすることは、前記(一)(2)@に述べたとおりトーイン調整の必要上不可欠の構成であり、したがつて、これを本願考案におけるような摩擦溶接に代えることは不可能であるにもかかわらず、審決は、第一引用例の記載内容に関する前記誤認に基づいて、これを単に相互に代替可能な結合方法の相違としてのみ捉え、それを前提に本願考案進歩性を否定する判断をしているものであるから、右の誤認が審決の結論に影響を及ぼすことは明らかである。
2 本願考案の構成の容易推考性に関する判断の誤り(取消事由(2))(一) 本願考案の特徴は、@一対のボールジヨイントに予め組付けられた各金属パイプ部片の少なくとも一部を中空にする点と、Aこれを中空金属パイプの両端に結合するのに摩擦溶接を用いる点にあり、これにより、ボールジヨイント以外の殆どの部分が中空パイプ状になるので、中実部分を含んでいた従来のドラツグリンクよりも全体を軽量化することができ、また、接合部分の強度を高め、ねじ込み結合の場合のように緩みも発生せず、製作も容易である等の利点が得られたものである。
(二) 審決は、第一引用例にドラツグリンクが記載されていることを前提として、摩擦溶接に関する周知技術や第二引用例の記載を組み合せることによつて、本願考案きわめて容易に推考し得たものと判断しているが、右判断は誤りである。
(1) @の点に関し、第一引用例に本願考案のような金属パイプ部片が記載されていないことは審決も認めるところであるが、第二引用例については、審決は、そのソケツト10を中空パイプ状のソケツトといい、これを本願考案の金属パイプ部片と同視している。しかしながら、同引用例には、右ソケツトについて、「上記ボールジヨイント4は、上記ロツド5の端部にねじ止めされたソケツト10にボールスタツド11の球状頭部が挿入支持され、」(二頁一七行ないし一九行)と説明されており、右記載によれば、ソケツトの中空部分がロツドの端部をねじ込むためのスペースであることは明らかであつて、右ソケツトの中空部分も、中実ロツドの端部にねじ込まれた状態ではその延長として中実なものとなるのであり、したがつて、そこには、本願考案におけるような、中空部分を設けることによつて軽量化を図るとの技術思想が全くみられないこと明白であり、右ソケツトをもつて本願考案の金属パイプ部片と同一視することはできない。そうであれば、第一、第二引用例とも、本願考案の@の構成における、ドラツグリンク全体の軽量化のために金属パイプ部片を中空化するという技術思想は全く開示されておらず、したがつて、これらに基づいて本願考案の構成がきわめて容易に推考し得たとすることもできないことも明らかである。
(2) また、Aの点に関し、前記1で述べた第一引用例記載の部材がタイロツドであるとの点を措くとしても、同引用例で採用されているねじ込み結合と本願考案の摩擦溶接とでは、一方が長さの調節を前提とするに対し、他方はこれを全く予定しない点で、技術思想としては全く逆の結合手段であるのに、審決は、その点を看過し、これを単純に、いずれも当業者が任意に選択し得る結合手段にすぎないとして、本願考案における摩擦溶接の採用がきわめて容易に推考し得たとしたものであつて、誤りである。
請求の原因に対する認否及び被告の主張
一 請求の原因一ないし三は認め、四のうち1(一)(1)は認め、その余は争う。
二 審決の認定判断は相当であつて、原告主張のような違法の点はない。
1 取消事由(1)について(一) 第一引用例記載のものが、審決認定のとおり、当業者においてステアリング用ドラツクリンクとも認識し得るものであることは、次の(1)、(2)よりして明らかである。
すなわち、
(1) 第一引用例においては、これに記載された部材を示すために「かじ取引棒」との用語が使用されているが、(イ)乙第一号証(昭和四九年一月三〇日・オーム社発行の「和・英・独機械術語大辞典」)の六二頁には、「かじ取引棒」との用語の項に英語で「Steering rod」及び「Steering drag link」と示され、「かじ取引棒」が「ステアリング用ドラツグリンク」であることが明記されているし、(ロ)乙第二号証(昭和四四年六月二〇日(改著三版)・農林社発行の【A】著「図で見る農機2 農用トラクター」)の六七頁及び第三号証(昭和四二年一二月一日(改著後の第六版)・養賢堂発行の【B】著「改著 農業機械学概論」)の八一頁には、農業用トラクターのかじ取用リンク機構の図が記載されているが、これらの図ないし説明文でも、ドラツグリンク相当部材が「かじ取引棒」と表現されており、また、(ハ)乙第四号証(昭和四七年四月二五日(初版)・平凡社発行の「世界大百科辞典13」)の三七八頁では、自動車のドラツグリンクを、乙第五号証(特公昭三七ー三八〇六号公報)では、トラクターのドラツグリンク相当部材を、いずれも「引棒」と表現していることに照らし、本出願前、「かじ取引棒」との用語が、当業者において、ステアリング用ドラツグリンクの意味に一義的に理解されていたものであることは明らかである。
(2) 第一引用例記載のもののように、鋼管の両端にボールジヨイントを連結してなる構成のものが、タイロツドかドラツグリンクかのいずれかであり、かつ、それ以外には考えられないことは原告主張のとおりである。しかして、原告は、同引用例記載のものがタイロツドである理由として、これが@ボールジヨイントに緩衝用のコイルばねを内包しない点及びAボールジヨイントと鋼管がねじ込み結合とされている点を挙げているが、いずれの点も右部材をタイロツドとしてしか理解し得なくするようなものではなく、次のとおり、これらの点があつても、当業者において、ドラツグリンクとも理解し得るものである。
まず、@の点につき、第一引用例記載のものにはボールジヨイント部分にコイルばねが内包されているか否かは明らかでないが、ドラツグリンクにおいてボールジヨイント部分に緩衝用のコイルばねを有さないものもあることは当業者に周知であり、仮に同引用例記載の部材がコイルばねを内包しないとしても、これをドラツグリンクと理解する妨げとはならない。すなわち、(イ)乙第六号証(昭和四〇年一〇月三〇日(第五版)・社団法人自動車技術会発行の「自動車工学ハンドブツク贈補改訂第五版」)の12ー14頁第46図のaには、ボールジヨイント部分にコイルばねを設けていないドラツグリンクが記載されており、また、(ロ)乙第七号証の一(実開昭五三ー五二五二号公報)、同号証の二(右公報により公開された実願昭五一年第一三四五八五号の出願当初の明細書及び図面)、第九号証の一(実開昭五五ー四九〇三号公報)及び同号証の二(右公報により公開された実願昭五三年第八六〇九九号の出願当初の明細書及び図面)にも、ドラツグリンクの両端にタイロツドエンドが連結されたものが記載されており、一般にタイロツドエンドはコイルばねを有しないボールジヨイントで構成されているから、このドラツグリンクがボールジヨイント部分にコイルばねを有さない形式のものであることは明らかであり、更に、(ハ)乙第一〇号証の一(実開昭五五ー一四二三七八号公報)、同号証の二(右公報により公開された実願昭五四年第四〇五六四号、昭和五四年三月三〇日出願の当初明細書及び図面)にも、ドラツグリンクのボールジヨイント部分にコイルばねを内包しないものが記載されていることに照らせば、本出願前における当業者の技術常識として、ボールジヨイントと連結するドラツグリンクにはコイルばねを内包しないものもあることが周知であつたことは明らかである。
また、Aの点についても、第一引用例記載のもののボールジヨイントと鋼管はねじ込み結合されているものであるが、次のとおり、ドラツグリンクにおいてもボールジヨイントと鋼管をねじ込み結合することは、当業者にとつて周知の結合方法にすぎず、このことは、(イ)前記乙第六号証の第46図のaのドラツグリンクはボールジヨイントと鋼管とをねじ込み結合したものであること、(ロ)前記乙第七号証の一、二のものは、ドラツグリンクの両端をタイロツドエンドにねじ込み結合したものであること、(ハ)前記乙第一〇号証の一、二記載のものも、ドラツグリンクとボールジヨイントがねじ込み結合されていることに照らしても明らかである。
(二) 右被告の主張に対し、原告は、まず、第一引用例の記載対象の認定は同引用例出願当時の技術常識を基準になされるべきであるとし、これを前提に被告提出の証拠等に関し縷々主張している(請求の原因四1(二)の(1)(イ)及び(2))が、右認定は本出願当時を基準になされるべきであり、これと異なる前提に立つ原告の主張はいずれも失当である。
次に、原告は、乙第六号証において第46図のaに示されたものがドラツグリンクとされているのは誤りである旨主張するが、ボールジヨイント部にコイルばねを有さず、ボールジヨイントと鋼管がねじ込み結合されていない例は右第46図のaのものに限らず、殊に、本出願より前の出願に係る前記乙第一〇号証の二の一頁一九行ないし四頁二行の記載に徴すれば、その出願当時、当業者間において、ドラツグリンクのボールジヨイント部分にコイルばねを内包せず、しかもねじ込み結合によりボールジヨイントと鋼管を連結するものは周知であつたことが明らかであることに照らせば、右第46図のaを誤りと断ずることはできず、むしろ、乙第六号証自体が第五版と改訂を重ねてきたもので、その間全く同じ図版が使用されてきたものであること(これらの第二版である乙第一一号証参照)、甲第一二号証の図版の組替えは、第46図のaのみでなく第46図のbをも削除したうえ、両図とは異なるドラツグリンクの端部の拡大図が掲載されているものであること(原告がこれを第46図のbの拡大図としているのは誤りである。)からして、右組替えは、甲第一二号証発行当時の代表的なドラツグリンクに図版を差替えたにすぎないものとみるべきである。
更に、原告は、自動車と農業用トラクターとでは技術分野を異にし、トラクターに関する例をもつて、一般的な自動車のドラツグリンクの構造を論ずるのは誤りである旨主張しているが、本願考案及び第一引用例記載のものが、一般の自動車用でトラクター用を除くものとの限定は何ら付されていないし、JIS・DO101「自動車の種類に関する用語」二頁(乙第一二号証)によつても、自動車につき「原動機、かじ取装置などを備え、それを用い乗車して地上を走行できる車両」と定義され、その分類中に「トラクター」が記載されている(第一二の一八頁及び二一頁)のであるから、そこでは、自動車の技術分野中に「トラクター」が位置付けられているものであることが明らかであるから、トラクターのドラツグリンクの技術によつて第一引用例等に記載されたものの理解又は評価を行つても、誤りとはいえない。のみならず、乙第七号証の二の一頁一〇行ないし一四行には、同証に係る考案は、トラクターその他の車両の操向装置用部材の改良に関し、ドラツグリンク等において締付操作を容易にしたものを提供するものである旨記載されており、右記載によれば、乙第七号証の一、二記載のドラツグリンクがトラクター用に限られないものであることが明らかであるし、また、乙第一〇号証の一、二に記載されたドラツグリンクは乙第七号証の一、二のそれと同一構造のものであるが、その操向装置はトラクターのものではなくトラツクやバス等にみられるものになつているのであるから、これらを第一引用例等の理解、評価に用いるのに何ら支障はない。
(三) また、原告は、第一引用例の出願の優先権主張の根拠となつたドイツ国出願明細書に使用されたドイツ語(Spurstange)がタイロツドの意味であることを根拠として、第一引用例の「かじ取引棒」がタイロツドであることは明らかである旨主張するが、右「Spurstange」自体、「タイロツド」の他に「引張棒」という意味もある(前記乙第一号証一一二七頁)のみならず、その点を措いても、実用新案法3条1項3号にいう「刊行物に記載された考案」は、刊行物の記載から当業者が了知し得る技術思想のことであり、第一引用例の場合は、右「刊行物の記載」とは第一引用例である特許公報の記載に他ならないのであるから、これに何が記載されているかは、あくまで、その記載自体に基づいて把握されるべきものであつて、優先権証明書にすぎないドイツ国出願明細書の記載のいかんにはかかわらないものというべきであるから、原告の右主張が失当であることも明らかである。
(四) 以上のとおり、審決が、第一引用例記載のものがステアリング用ドラツグリンクと理解し得るものであることを前提として爾後の判断を行つた点に何ら誤りはなく、したがつて、原告主張の取消事由(1)は理由がない。
2 取消事由(2)について(一) @の点(金属パイプ部片の少なくとも一部を中空にした点)について 車両のかじ取用リンク機構の設計において軽量化が当業者において自明の技術課題であることは、乙第一三号証(昭和五三年三月二五日・社団法人自動車技術会発行の「新編・自動車工学ハンドブツク」)のかじ取用リンク機構の形式の選択に関する記載(一二ー二五頁右欄二四行ないし二五行、三三行ないし三七行、四一行ないし四三行)やステアリング設計の狙いとして「重量およびコストの節減は初期段階で検討し目標を定めておく。」(同欄五一行ないし五二行)との記載がなされていることから明らかであり、また、ドラツグリンクの軽量化に関する技術課題についても、前記乙第六号証に引抜管(パイプ)を採用したドラツグリンクが記載されており、これはドラツグリンクの軽量化のためであると考えられることからも十分窺えるところである。そして、この点は、第一引用例記載のものにおいても、その発明の名称が「動力車両用の鋼管かじ取引棒」とされていることからも明らかなように、かじ取引棒に「鋼管」(パイプ)が用いられていることから、軽量化を図る技術思想があることが窺えるところであり、そうであれば、同引用例のものにおいて、これを更に軽量化することは当然考えられるところであり、しかも、第二引用例に「ボールジヨイントに自由端が中空パイプ状のソケツトを予め組付け」たものが存在し、また、一般に、パイプは、同径の中実管に比し強度をさして犠牲にせずに軽量化が図れるため、全体の軽量化のためにパイプを採用することがあることは材料力学上の技術常識であることにかんがみれば、第一引用例のボールジヨイントの中実の軸頸に代えて、これを中空パイプ状とすることにより更に軽量化を図る程度のことは、当業者において、きわめて容易に推考し得たことにすぎないものといわざるを得ず、したがつて、この点に関する審決の判断に誤りはない。
なお、右の点に関し、原告は、第二引用例のものには軽量化の思想が存しない旨主張しているが、審決は、第二引用例を、ボールジヨイントに中空状の金属パイプ部片を予め組付ける点についての引用例として引用したにすぎないものであつて、
これをドラツグリンク全体の軽量化に利用する点については、前示のように、自明の技術課題の存在や技術常識から容易であるといえるものであるから、原告の主張は当たらないものというほかない。
(二) Aの点(摩擦溶接の採用の点)について 第一引用例がタイロツドであることを前提としない限り、ねじ込み結合の点が長さの調節をする目的のためのものとはいえず、かえって、一般には、ねじ込み結合は結合手段の一つとしての意義を有するものであるから、第一引用例をドラツグリンクとして使用されるものであることを前提とした審決において、結合手段の一つであるねじ込み結合から他の結合手段である摩擦接合への置換容易性について論じた判断が誤りであるとすることはできない。そして、この点については、本願明細書においても、「従来のドラツグリンクは、曲線状とした丸棒(ロツド)の両端部にボールジヨイントをロツクナツトで締結する」(甲第三号証二頁六行ないし九行)、「従来のドラツグリンクに比較して…さらにパイプ同士の溶接部5が大きく、ねじ切りやボルト連結部の存在に伴うゆるみ易い不安定な連結構造を排する」(七頁一三行ないし一七行)と記載されているように、ねじ込み結合をあくまで単なる結合手段として捉え、そのうえで摩擦溶接を論じていることに照らしても明らかというべきである。
証拠関係(省略)
理 由一 請求の原因一ないし三(特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨並びに審決の理由の要点)は、当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断1 取消事由(1)について(一) 第一引用例に審決の要点2(一)摘示のとおりの内容の記載があること、
同引用例記載のものは鋼管の両端にボールジヨイントが連結された構成からなるが、前車輪の向きを同時に変えるための仕組みである車両のかじ取用リンク機構を形成する部材のうち、このような構成からなる部材はタイロツドかドラツグリンクであり、かつ、それ以外には考えられないことは、当事者間に争いがない。
(二) ところで、原告は、第一引用例出願当時の技術常識によれば、タイロツドとドラツグリンク(ボールジヨイント付きドラツグリンク)の構造上の差異は、@ドラツグリンクが衝撃緩衝用のコイルばねを内包するのに対し、タイロツドはそうでない点、Aタイロツドはトーイン調整のためボールジヨイントを鋼管にねじ込み結合する構成をとるのに対し、ドラツグリンクはそうでない点にあるとされていたところ、第一引用例記載のものは、@についてはコイルばねを内包しておらず、Aについてはねじ込み結合とされていることが認められるから、これが、ドラツグリンクではなくタイロツドであることは明らかである旨主張するので、まず、この点について検討する。
(1) 本件においては、第一引用例が本願考案の構成の推考容易性の判断資料として引用されているものであることは審決の理由自体に照らして明らかであるところ、右判断は、本出願時を基準として、当業者が、同引用例の記載から本願考案の構成を容易に推考し得たか否かの観点からなされるべきものであることはいうまでもない。そして、そうであれば、右判断自体に本出願時点での当業者の技術常識が参酌されるべきであるのは勿論、同引用例の記載内容の把握も、本出願時において、その記載から当業者が理解するところに従つてなされるべきであるが、その把握に当たつて、例えば、そこに記載されている用語の意味内容、特定部材の構造等が時の流れとともに変わることもあり得るところであるから、同引用例出願当時の技術水準あるいは、技術常識というものを全く無視し去ることはできない。
(2) 成立に争いのない乙第一ないし第五号証によれば、同引用例出願前から本出願に至るまで、「かじ取引棒」又は「引棒」が自動車のドラツグリンクを意味する語として用いられていたことが認められる(乙第五号証は同引用例出願前に頒布され、その余の乙号各証は同出願後に頒布されたものであるが、乙第三号証の奥付によれば、これと同内容の著書が同出願前である昭和三九年一月二五日に発行されていることが認められる。)。
しかして、前記当事者間に争いのない第一引用例の記載内容及び成立に争いのない甲第五号証(第一引用例)によれば、同引用例に係る発明の名称は「動力車両用の鋼管かじ取引棒」であり、特許請求の範囲、発明の詳細な説明の項等においても、その発明対象を示すために、すべて「かじ取引棒」との用語が使用されていることが認められるところ、前記事実によれば、同引用例は少なくともその記載文言上は、自動車の「ステアリング用ドラツグリンク」についての発明と認めざるを得ないのである。
(3) 成立に争いのない甲第一二号証、乙第六、第一一号証によれば、第一引用例出願当時、原告主張のとおり、路面からの衝撃を緩衝するためのコイルばねを内包する構成のドラツグリンクがあつたこと及びトーイン調整のため長さを調節できるようにボールジヨイントを鋼管にねじ込み結合する構成のタイロツドがあつたことが認められる。
たしかに、前掲甲第五号証によれば、同引用例にはコイルばねに関する記載はないが、同引用例の発明がコイルばねと直接関わりのない部分に関するものであると認められるから、コイルばねに関する記載がなくても敢えて異とするに足りないともいえるのであり、仮に、原告主張のように、同引用例出願当時のコイルばねを内包したドラツグリンクが周知であつたとしても、同引用例に記載されたものがタイロツドであつてドラツグリンクでないと断定することはできない。
また、同引用例にはボールジヨイントを鋼管にねじ込み結合する構成が記載されているが、成立に争いのない甲第三号証(本願考察に係る昭和五九年一二月二七日付手続補正書)によつて認められる本願明細書の「従来のドラツグリンクは、曲線状として丸棒(ロツド)の両端部にボールジヨイントをロツクナツトで締結するか端部の内腔部にばねとねじとによりボールジヨイントを着座せしめて抱持したかたちで構成されていた。」(二頁六行ないし一一行)、「従来のドラツグリンク(の)…ねじ切りやボルト連結部の存在に伴うゆるみ易い不安定な連結構造を排する」(七頁一三行ないし一七行)との記載及び成立に争いのない甲第一〇号証の二、乙第七号証の一、二の記載のほか中実の軸頸と鋼管(中空金属パイプ)を結合する際これをねじ込み結合の手段によることは古くから採用されている慣用手段であることを勘案すれば、同引用例出願前から本出願に至るまで、ボールジヨイントと鋼管をねじ込み結合したドラツグリンクも当業者間に周知であつたことが認められる。したがつて、仮に、原告主張のように、タイロツドが右のねじ込み結合の構成を採ることが周知であつたとしても、同引用例に記載されたものがタイロツドであつてドラツグリンクでないと断定することはできない。
(4) 以上述べたところにより、本出願時において当業者が第一引用例出願時の技術常識をも参酌して同引用例に接した場合に、同引用例をどのように認識するかを検討すると、何よりもまずその記載文言から同引用例には自動車の「ステアリング用ドラツグリンク」の発明が記載されていると理解するものと認められる。また、前記のように同引用例にはコイルばねの記載はなく、他方ボールジヨイントを鋼管にねじ込み結合する記載があり、その限りではタイロツド又はドラツグリンクのいずれとも解する余地があるとしても(同引用例記載の発明がタイロツド又はドラツグリンクのいずれかに関するものであることは当時者間に争いがないことは前記のとおりである。)、同引用例の記載文言の意味するところが前記のとおりである以上、当業者は、同引用例記載の発明は「ドラツグリンク」に関する発明であると認識するものということができる。
(三) なお、原告は、第一引用例に係る出願の優先権証明書であるドイツ国出願明細書の記載に基づいて、第一引用例記載のものをタイロツドとみるべきである旨主張するが、同引用例の記載内容は、その記載自体から認定されるべきもので、優先権証明書にすぎない右明細書の記載いかんによつて左右されるべきものでないことはいうまでもないから、原告の右主張は採用できない。また、原告は、第一引用例に係る出願の出願人及び審査に当たつた特許庁担当官の意思又は認識が考慮されるべきであるとも主張するが、このような事情は、その記載内容の認定に際して考慮されるべき事情とはいえないから、この点に関する原告の主張も採用の限りでない。更に、原告は、前記認定に使用した乙号各証中に農業用トラクターのドラツグリンクに関するものがあるとして、これは本願考案や第一引用例に係る一般自動車のドラツグリンクとは技術分野が異なるとして縷々主張するが、成立に争いのない甲第二号証(本願考案の願書並びに添附の明細書及び図面)及び第四号証(昭和六二年三月二五日付手続補正書)並びに前掲甲第三号証及び第五号証に徴しても、本願明細書や第一引用例中に本願考案及び第一引用例記載のドラツグリンクが一般の自動車用のものに限られるとの明確な記載を見出すことはできないから、この主張も採用できないものというべきである。
(四) このように、第一引用例記載の発明の特許請求の範囲がドラツグリンクに関するものと認められる以上、右発明がタイロツドに関することを前提とする原告の取消事由(1)は理由がなく、結局、同引用例には審決の理由の要点2(二)に摘示された技術的事項が記載されているものということができる。
2 取消事由(2)について(一) 前示本願考案の要旨及び前掲甲第二号証ないし第四号証によれば、本願考案はドラツグリンクに関する考案であつて、前示本願考案の要旨のとおり(実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)の構成からなり、@一対のボールジヨイントに予め組付けられた各金属パイプ部片の少なくとも一部を中空にした点とA右金属パイプ部片の自由端と長尺の中空金属パイプの両端を結合するのに摩擦溶接を用いた点を特徴とし、右@、Aにより、ボールジヨイント以外の部分の殆どを中空パイプ状にするとともに、結合部分にナツト等の部材を用いる必要をなくして、全体としての軽量化を図ること等を目的としたものであることが認められる。
(二) 前記のとおり、第一引用例には審決の理由の要点2(二)に摘示されたドラツグリンクに関する技術的事項が記載されているものというべきであり、このことを前提とした場合、同引用例と本願考案との間に審決の理由の要点3摘示のとおり相違点及び一致点があることが認められ(相違点については原告も認めるところである。)、また、第二引用例に同4(三)摘示のとおり(ただし、そのソケツトを金属パイプ部片としている点を除く。)の内容の記載があることも当事者間に争いがない。
(三) そこで、右@の点の容易推考性について判断する。
(1) 本出願前に頒布さなれたものと認められる成立に争いのい乙第一三号証には、ステアリング機構(かじ取用リンク機構のことであると解される。
)の形式の選択に関し「ラツク・ピニオン型はリンク類が少ないので重量…が有利である。」(一二ー二五頁右欄二四行ないし二五号)、「ラツク・ピニオン型は従来は小型スポーツカーに多くみられたが、重量…の有利さからしだいにふえて」(同欄四一行ないし四三行)との記載が認められ、また、ステアリング設計の狙いとして「重量及びコストの節減は初期段階で検討し目標を定めておく。」(同欄五一行ないし五二行)との記載が認められる。右各記載に照らせば、車両のかじ取用リンク機構の設計においては全体の軽量化が当業者に自明の技術課題であることが認められ、そうである以上、その構成部材であるドラツグリンクについても軽量化の課題があることは自明の事柄にすぎないというべきである。
(2) また、前示当事者間に争いのない第一引用例の記載内容(特許請求の範囲)に徴すれば、その「鋼管かじ取引棒」は「鋼管」とされていることからも明らかなとおり、同引用例記載の発明は、中空パイプ状の部材を使用することにより、
強度をさして犠牲にすることなく、かじ取引棒の軽量化を図つたものであることは明らかである。
(3) そうすると、第一引用例に記載された中実の軸頸についても、更に軽量化を図るために、本願におけるようにその一部を中空状とする程度のことは、当業者において、軽量化を図るべき課題に基づき格別の困難性を伴わずに推考することができるものと認めることができる。
(4) この点に関し、原告は、審決の引用する第二引用例につき、そのソケツトには軽量化の思想が全く存在しない旨主張するところ、前示当事者間に争いのない第二引用例の記載内容と成立に争いのない甲第六号証(第二引用例)によれば、同引用例にはボールジヨイントに組付けられた頸部が中空状のソケツトが記載されており、右ソケツトについて「上記ボールジヨイント(4)は、上記ロツド(5)の端部にねじ止めされたソケツト(10)」(二頁一七行ないし一八行)との記載があることが認められ、右記載に添付第2図(別紙(三)の第2図)を参酌すれば、
右ソケツト頸部の中空部分はロツドの端部をねじ込むためのスペースであることが認められる。したがつて、第二引用例に直接軽量化の技術思想が窺われないことは原告指摘のとおりであるが、本願考案における場合と目的を異にするとはいえ、ボールジヨイントに組付けられた頸部を中空状にするという点では本願考案と共通する点があり、その限りで、前記のような着想を更に容易にするものということができる。したがつて、同引用例を本願考案進歩性否定の資料とした審決を誤りということはできない。
(四) 次に、Aの点の容易推考性について判断する。
(1) 自由端が中実丸棒状のものと中空金属パイプ及び中空金属パイプどうしを接合する場合に摩擦溶接することが周知技術であることは当事者間に争いがなく、
成立に争いのない甲第一〇号証によれば、摩擦溶接とは、母材(金属)を突合せて相対回転運動をさせ、その接触面に発生する摩擦熱を利用して圧接するもので、自動車の関係でも、ステアリングシヤフト、クランクシヤフト等の溶接に利用されるものであることが認められる。
(2) そうすると、ボールジヨイントと鋼管の接合方法として、第一引用例記載のねじ込み結合に代えて、摩擦溶接を採用する程度のことは、単なる周知の結合方法の選択にすぎず、当業者において適宜採用し得る設計事項にすぎないといわざるを得ない(もつとも、本願考案における摩擦溶接の採用は、ドラツグリンク全体の軽量化にも資するものであることは明らかであるが、この点は摩擦溶接の採用に伴い当然予測し得る効果にすぎず、他に本願考案において摩擦溶接の採用の点から当業者の予測を超えるような格別の効果の発生を認めるに足りる証拠はない。)。
(3) この点に関し、原告は、ねじ込み結合と摩擦溶接による結合では、前者が長さの調節を前提とするのに対し、後者はこれが全く不可能とする点で技術思想を異にする旨主張するが、これらの結合方法がドラツグリンクにおけるボールジヨイントと鋼管を結合する方法として使用されることを前提とする限り、ドラツグリンクにおいて結合部分の長さを調節するようなことは予定されていないのであるから、ドラツグリンクにあつては、いずれの結合方法をも採用し得るのであつて、そこに原告主張のような点での技術思想の相違を認めることはできない。
(五) 以上のとおりであつて、原告主張の取消事由(2)も理由がないものといわざるを得ない。
三 以上のとおり原告主張の取消事由はすべて理由がなく、審決の認定判断は正当であるから、原告の本訴請求を失当として棄却し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条の各規定を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 松野嘉貞
裁判官 舟橋定之
裁判官 小野洋一