• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  出願経過 /  禁反言 /  意識的除外 /  均等 /  考案 /  図面 /  構造 /  物品 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  公然実施 /  拒絶理由 /  減縮 /  実施例 /  同一の作用効果 /  公知技術 /  特段の事情 /  置換 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 /  利益額 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 昭和 60年 (ワ) 8672号
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1989/05/31
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告(反訴被告)らの本訴請求及び被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、本訴・反訴を通じてこれを一〇分し、その一を被告(反訴原告)の負担とし、その余を原告(反訴被告)らの負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
(本訴)一 請求の趣旨1 被告(反訴原告、以下「被告」という。)は、別紙目録(二)記載の柱等保護具を製造し、販売してはならない。
2 被告は、原告(反訴被告、以下「原告」という。)らに対し、金三〇〇〇万円及びこれに対する昭和六〇年一一月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
(反訴)一 請求の趣旨1 原告らは、被告に対し、各自、金二五〇万円及びこれに対する昭和六一年一二月一〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
3 仮執行の宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 被告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
当事者の主張
(本訴)一 請求原因1 原告らは、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を共有している。
考案の名称 柱等保護具出願日 昭和五一年一一月二九日(手続補正書提出の日。実願昭五六―一三一三一八)公開日 昭和五七年五月一四日(実開昭五七―七八三四六)公告日 昭和五九年五月一五日(実公昭五九―一六四四三)登録日 昭和六〇年六月一一日登録番号 第一五九八五七〇号実用新案登録請求の範囲 別添実用新案公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおり2 本件考案の構成要件及び作用効果は、次のとおりである。
(一) 構成要件(1) 板材の短手方向中央部を緩やかな曲率で湾曲する湾曲部とし、
(2) 湾曲部の両端から鋭角に屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する保持部を形成し、
(3) 保持部の先端に角度をつけ、外側へ屈曲させた嵌合案内用の端縁部を形成し、
(4) 湾曲部の背面部で鋭角部よりも中央寄りの個所に長手方向に沿つて係合用突起を形成して成る柱等の保護具。
(二) 作用効果(1) 保持部が湾曲凹部側へ真直へ突出した形状で、その先端に外側に開いた端縁部を形成しているから、保護具を柱に押し付けたときには、端縁部が案内となつて保持部は必ず外側に開いて、内側に座屈するようなことがなく、ワンタツチの操作で容易に柱に嵌着できる。
(2) 湾曲部の背面で鋭角部よりも中央寄りの個所に突起を形成したから、この突起を利用し、これに他の保護具の案内用端縁部の角部を引つ掛けることにより、
保護具同士を脱落しないように重ねることができ、このため柱の隣り合う二面ないし四面を被覆保護することができる。
3 被告は、昭和五七年五月一四日から同年八月三一日までの間は別紙目録(一)記載の柱等保護具(以下「イ号物件」という。)を、同年九月一日から現在に至るまでの間は別紙目録(二)記載の柱等保護具(以下「ロ号物件」という。)を、それぞれ業として製造し、販売してきた。
4 イ号物件及びロ号物件の構成及び作用効果は、次のとおりである。
(一) イ号物件 前記の本件考案の構成要件及び作用効果と同じ。
(二) ロ号物件(1) 構成 本件考案の構成要件(4)の「鋭角部よりも中央寄りの個所に」とあるのを「鋭角部に」と訂正するほかは、本件考案の構成要件と同じ。
(2) 作用効果 前記の本件考案の作用効果と同じ。
5(一)(1) イ号物件は、その構成が本件考案の構成要件をすべて充足し、作用効果も本件考案のそれと同一であるから、本件考案技術的範囲に属する。
(2) なお、仮に、イ号物件の保持部と湾曲部両端との角度が厳密な意味では鋭角になつていないとしても、本件考案の構成要件(2)を充足する。すなわち、保持部と湾曲部の角度の関係は、もともと、湾曲部の曲率は固定されたものではないから、
曲率を強くすれば保持部の角度は鋭角となり、曲率を緩やかにすれば鈍角となるものであり、製品の出来具合あるいは保管方法によつても、その角度は影響を受ける。そして、保持部は柱に嵌合させるのが目的であるから、本来、保持部は湾曲凹部側へ屈曲させることによつて、その目的を達するものである。したがつて、仮に、イ号物件の右角度が鋭角でないとしても、湾曲凹部側へ鋭角に近い角度で屈曲していれば、それによる特別の作用効果があるわけではないから、均等物というべきである。
(二)(1) ロ号物件は、本件考案の構成要件(1)ないし(3)を充足する。
(2) 本件考案の構成要件(4)は、湾曲部の背面部で「鋭角部よりも中央寄りの箇所」に係合用突起を形成するものであるところ、ロ号物件は、突起を湾曲部の両端近くに設けてはいるが、別紙参考図(一)から明らかなとおり、端部(以下「角部」ともいう。)自体に設けたものではなく、やはり端部から中央寄りに設けており、本件考案の右構成と異ならない。右突起は係合用のものであるところ、突起の係合部(同図参照)は端部にあるのではなく、端部から中央寄りに位置しているから、ロ号物件が本件考案の構成要件(4)を充足することは明らかである(もし、ロ号物件の係合用突起が「鋭角部よりも中央寄りの箇所」に設けられているといえないとすれば、別紙参考図(二)のようなものも本件考案技術的範囲に属しないことになり、その不当性は明らかである。)。また、湾曲部の両端は、端部といつても点ではなく、別紙参考図(三)記載のとおり約二七〇度の広がりを有している(「鋭角部」を九〇度とした場合)。しかるところ、ロ号物件の突起は右二七〇度の広がりの中央(一三五度)より湾曲部中央寄りにあることは明らかであり、
この点から見てもロ号物件が本件考案の構成要件(4)を充足するものというべきである。
(3) 仮に、ロ号物件の係合用突起が湾曲部の背面部で「鋭角部よりも中央寄りの箇所」ではなく、「鋭角部」に形成されるものというべきであるとしても、ロ号物件の右構成と本件考案の構成要件(4)とは均等である。すなわち、背面部の突起を「鋭角部」に設けると、突起のため「鋭角部」が出つ張り、保護具同士を重ねると更に「鋭角部」が出つ張るばかりでなく、突起の存在により「鋭角部」の剛性が増して弾性が小さくなり、保持部の拡開幅とその嵌着力が減少するので、本件考案では鋭角部よりも中央寄りに突起を設けたものであり、右の点を忍べば、「鋭角部」に突起を設けてもその作用効果は同一である。
ロ号物件がこのように本件考案の構成要件(4)を採用せず、これにより劣悪な構成を採用しているのは、被告において専ら権利侵害の責任を免れる意図に出たことを示すものであり、ロ号物件は本件考案の構成要件を実質上すべて充足している。
(4) 原告ら主張の均等の成立は、次の理由からも認められるべきである。すなわち、原告【A】(以下「原告【A】」という。)は、訴外二上木材株式会社(以下「二上木材」という。)を設立して木材販売業を営み、訴外フタバ産業株式会社(以下「フタバ産業」という。)を養生カバーの販売会社としていたところ、被告代表者【B】(以下「【B】」という。)は、昭和五三年二月フタバ産業に養生カバーの販売担当として採用され、同社の従業員として、また昭和五五年一月に同社を退社した後も同社の代理店として、本件考案の実施品を販売してきた。しかるに、その後、【B】は、被告を設立すると共に、原告ら又はフタバ産業の承諾を得ずにイ号物件を第三者に製造させて自ら販売し、本件考案が公開されるや、権利侵害を免れるために突起の位置をわずか二、三ミリ中央寄りに移動させてロ号物件として製造販売を続行しているのである。このように、被告側には信頼関係を破壊した違法性があるから、均等の成立を認めるべきである。
(5) なお、ロ号物件における保持部と湾曲部両端とのなす角度の点は、イ号物件について述べたところと同じである。
(6) そして、ロ号物件は本件考案同一の作用効果を奏するから、本件考案技術的範囲に属する。
6 フタバ産業は、前記のとおり、昭和五三年二月、【B】を本件考案の実施品の販売担当者として採用し、右実施品につき実用新案登録出願中である旨説明して販売に当たらせてきた。ところが、【B】は、昭和五七年三月、被告を設立し、被告は、右実施品と同一の商品であるイ号物件の製造販売を始め、さらに、本件考案が公開になるや、イ号物件を一部改造したロ号物件の製造、販売を始めた。
以上のとおり、被告は、本件考案の実施品について実用新案登録出願中であることを知り、かつ考案の内容についても認識があつたものであるから、イ号物件及びロ号物件を製造、販売したことについて実用新案法13条の3第1項の悪意者に該当するものというべきである。
なお、本件考案については、出願公開時における実用新案登録請求の範囲の記載がその後の手続補正書により変更されているが、右補正は表現上のものにすぎず、
実質的な変更はないから、右補正後に改めて警告をする必要はない。
7(一) 被告は、別表(一)第1期欄記載のとおり、本件考案が公開された日である昭和五七年五月一四日から同年八月三一日までの間に、イ号物件を合計一五四二ケース販売し、七〇六万九一〇六円の利益を得た。右利益額の三割に当たる二一二万〇七三二円が、被告がイ号物件を販売したことにより原告らが通常受けるべき金銭の額に相当する。
(二) 被告は、別表(一)第2期欄記載のとおり、昭和五七年九月一日から本件考案が出願公告になつた日である昭和五九年五月一五日までの間、ロ号物件を合計六九一二ケース販売し、三〇一九万六二五三円の利益を得た。右利益額の三割に当たる九〇五万八八七六円が、被告が右期間ロ号物件を販売したことにより原告らが通常受けるべき金銭の額に相当する。
(三) 被告は、別表(一)第3、第4期欄記載のとおり、昭和五九年五月一六日から同六二年九月三〇日までの間、ロ号物件を合計九九八六ケース販売し、四四八一万四四七三円の利益を得た。右利益の額が、被告が右期間ロ号物件を販売したことにより原告らの被つた損害の額と推定される。
8 よつて、原告らは、被告に対し、本件実用新案権に基づきロ号物件の製造、販売の差止め並びに前記7(一)記載のイ号物件の販売による実用新案法13条の3第1項に基づく補償金二一二万〇七三二円、同(二)記載のロ号物件の販売による同条同項に基づく補償金九〇五万八八七六円、同(三)記載のロ号物件の販売による損害の内金一八八二万〇三九二円、以上合計金三〇〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である昭和六〇年一一月一日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否、反論1 請求原因1の事実は知らない。
2 同2の(一)の構成要件及び(二)の作用効果が、それぞれ本件考案の「実用新案登録請求の範囲」及び「考案の詳細な説明」に記載された事項であることは認める。
ただし、本件考案の詳細な説明には、本件考案の作用効果として原告ら主張の(1)、(2)のほかに次の二点が挙げられている。
(3) 突起の存在で保護具の角部が不必要に出つ張るおそれがないばかりか、保護具同士を深く重なり合うよう係合させることができて、保護具で柱の二面ないし四面を被覆しても保護具が柱の周りへ大きく膨出するおそれがなく、作業の邪魔にならない。
(4) 突起のために「鋭角部」の剛性が増大するようなことがないから、該「鋭角部」の弾力性が大で保持部の拡開幅、嵌着力がともに大きく、柱の太さに拘わらずこれに強力に装着できる。
3 同3のうち、被告が昭和五七年五月一四日から同年七月六日までの間イ号物件を、同年九月一日以降現在までロ号物件をそれぞれ業として製造し、販売してきたことは認めるが、イ号物件が別紙目録(一)記載のとおりであること及びロ号物件が別紙目録(二)記載のとおりであること並びに被告がイ号物件を昭和五七年八月三一日まで製造、販売していたことは否認する。被告は、同年七月六日をもつてイ号物件の製造、販売を中止し、同月一二日からはロ号物件の製造、販売を開始した。なお、原告は、前にイ号物件を昭和五七年五月一四日から同年七月二〇日まで製造、販売したことを認める旨陳述したが、右は真実に反し錯誤に基づくものであるから撤回する。
イ号物件は別紙目録(三)記載のとおり、また、ロ号物件は別紙目録(四)記載のとおり特定されるべきであり、イ号物件及びロ号物件の中央湾曲部と保持部との間の角度は約九〇度である。この点を敷衍すると、イ号物件及びロ号物件はいずれも、押出成型機から一次口金(金型)及び二次口金(金型)を通して成形加工されているところ、イ号物件、ロ号物件とも金型における「中央湾曲部と保持部との角度」は九〇度であるから、右金型を通すことによつて成形加工されたイ号物件及びロ号物件の「中央湾曲部と保持部との角度」も九〇度になるべきものである。しかし、イ号物件及びロ号物件は、ポリ塩化ビニール製であるため、製品化にあたつてばらつきが生じたり、製品の保管状況及び製造後の時間の経過によつて右角度に変化が生じることがある。したがつて、製品レベルでイ号物件及びロ号物件の右角度を厳密に特定することは困難であり、イ号物件及びロ号物件は上記のとおり特定されるべきである。
4(一) 同4(一)のうち、イ号物件が原告主張の本件考案の構成要件(1)、
(4)及び(2)のうち「湾曲部の両端から屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する保持部を形成し」の構成を具えていることは認めるが、同(2)の「鋭角に」に部分及び同(3)の構成を具えていることは否認する。
(二) 同4(二)のうち、ロ号物件が前記本件考案の構成要件(1)及び同(2)の「湾曲部の両端から屈曲して湾曲凹部側ヘ真直に突出する保持部を形成し」の構成を具えていること、同(4)のうち保持部の両端の角部に突起を形成するものであることは認めるが、同(2)の「鋭角」の部分、同(3)の構成、同(4)のうち前記突起が係合用のものであること並びにロ号物件の作用効果が本件考案の作用効果と同じであることは否認する。
5(一)(1) 同5(一)の(1)のうち、イ号物件が前記本件考案の構成要件(1)及び(4)を充足することは認めるが、その余は争う。
(2) 同(2)は争う。
(二)(1) 同5(二)の(1)のうち、ロ号物件が前記本件考案の構成要件(1)を充足することは認めるが、その余は争う。
(2) 同(2)ないし(6)は争う。
6 同6のうち、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載が公開後の補正により変更されたことは認めるが、その余は争う。
7 同7(一)ないし(三)は否認する。原告ら主張の期間における被告のイ号物件及びロ号物件の販売に関する仕入数量・単価・金額、販売数量・単価・金額は別表(二)記載のとおりである。
三 被告の主張1 限定解釈 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、以下に述べるとおり、本件考案の詳細な説明及び図面に記載された内容に限定して最も狭く解釈されるべきである。
すなわち、
(一)(1) 原告らは、昭和五〇年三月、本件考案に係る湾曲部の背面部で「鋭角部」よりも中央寄りの個所に長手方向に沿つて係合突起を形成した柱等保護具(養生カバー)を開発し、本件考案の出願日である昭和五一年一一月二九日より前から原告【A】の経営する二上木材が販売する木材の保護具として使用していた(右事実は、原告らがその昭和六一年二月二六日付け準備書面において主張したことであり、右は出願前の公然実施に関する先行自白である。しかるところ、被告は、同年四月四日付け準備書面でこれを援用したから、右自白の撤回は許されない。被告は、右自白の撤回に異議がある。)。
(2) このように、出願に係る考案がその出願前既に公然と実施されていたような場合の実用新案登録請求の範囲の記載は「実用新案公報に記載された字義どおりの内容を持つものとして最も狭く限定して解釈す」(大阪高等裁判所昭和五一年二月一〇日判決、無体集八巻一号八五頁)べきである。しかるところ、本件考案においては、本件公報記載の柱等保護具の背面部の形状に関する実施例のうち第2図記載のものは出願前公知であるから、その背面部の形状は第3図又は第4図に記載されたものに限定されるべきである。そうすると、本件公報の第3図、第4図に示された実施例と背面部の形状を異にするイ号物件及びロ号物件が、共に本件考案技術的範囲に属しないことは明らかである。
(二)(1) 本件考案は、昭和五一年五月一四日に原考案が出願され、同年一一月二九日に手続補正書が提出されたが、右補正は、昭和五六年六月一二日付け「補正の却下の決定」によつて、「請求の範囲に記載された技術的事項を実質的に変更するものと認められる。」(いわゆる「要旨変更」に当たる。)との理由で却下された。右却下決定に対し、原告らは、実用新案法36条の審判請求によつて争わず、右決定を受け入れ、右却下決定の謄本送達の日から三〇日以内である同年九月二日に補正後の考案について新たな登録出願を申し立てたので、本件考案は、同法13条によつて準用される昭和六〇年法律第四一号による改正前の特許法53条4項により、右手続補正書提出の日である昭和五一年一一月二九日に出願したものとみなされることになつた。
(2) しかし、右補正を要旨変更に当たるとした右補正却下決定は、その判断を誤つたものであつた。
すなわち、
前記昭和五一年一一月二九日付け手続補正書による補正内容は、原出願の実用新案登録請求の範囲の記載はそのままとし、考案の詳細な説明の欄に、従来の記載に加えて「中央湾曲部から両方の鋭角部に至る間に長手方向に対して突起筋を設ける」という構成を付加することにより、柱の複数面を保護するという作用効果が付加されるというものであつた。右補正は、原出願の「柱、敷居、鴨居等の汚損防止」という作用効果について何ら実質的変化を生じさせるものではなかつた。
しかるところ、特許庁は、特許請求の範囲に記載された技術的事項の変更(いわゆる「要旨の変更」)に該当するか否かを判断するについて、「補正前の明細書からみて当業者に自明でない事項の変更をしても、その補正により特許請求の範囲に記載した技術的事項が何ら実質的変化を受けないときは、特許請求の範囲に記載した技術的事項は、依然として補正前の明細書に『記載した事項の範囲内』のものであるから、そのような補正は要旨変更とみない。」との審査基準を掲げている(特許庁編「審査基準の手引き」改訂第一一版二一六頁)。
したがつて、右基準からすれば、前記手続補正書における原告らの補正内容は、
要旨の変更に当たらないものであつた。
(3) 右のとおり前記手続補正書における補正内容が要旨の変更に当たらないものであつたとすると、前記特許法53条4項の規定はその適用の前提を欠くことになり(右規定は補正が要旨変更に当たる場合の規定である。)、前記新出願については右規定に基づく出願日遡及の効力は認められないことになる。
そうすると、本件考案(新出願)の出願日は、原告らが実用新案登録願を現実に提出した日である昭和五六年九月二日ということになるので、本件考案は、昭和五二年一一月一八日に公開された原出願の公開実用新案公報により、出願日前にその内容が公知となつていたことになる。
(4) したがつて、本件考案は、前記(一)で述べたところと同じく、実用新案登録請求の範囲の記載を本件公報の実施例の記載に限定して解釈すべきであるから、イ号物件及びロ号物件が本件考案技術的範囲に属しないことは明らかである。
(三) 本件考案の構成要件(1)ないし(4)のうち(1)ないし(3)は本件考案の出願前に公知の技術であり、本件考案は構成要件(4)に限つて新規性を認められるべきである。すなわち、
(1) 構成要件(1)について 本件考案は柱等保護具に関するものであるが、その保護の対象物である柱、敷居等の形状からみて、保護具の中央部分(両端の保持部の間の部分)が直線もしくは曲線(円弧、放物線、双曲線等)の形状しか取りようがないことは明らかである。
また、実際にも、実公昭四四―三〇三六一号公報(公告日・昭和四四年一二月一五日)記載の敷居用養生カバーに関する考案において、アルフアベツトの「C」の字型すなわち板材の短手方向中央部を緩やかな曲率で湾曲せしめた形状の養生カバーの実施例が示されている(乙第五号証)。このことからも明らかなように、本件考案の出願以前において構成要件(1)はすでに公知の技術であつた。
(2) 構成要件(2)について 実公昭四八―二一五三七号公報(公告日・昭和四八年六月二三日)記載の柱保護用カバーに関する考案において、弾性を有する合成樹脂その他の板材の両側を鉤状に折曲して保持部を形成する旨の考案の詳細な説明があり、その実施例として保持部を角度八二度の鋭角に屈曲した図が示されている(乙第六号証)。
したがつて、保持部を湾曲部の両端から鋭角に屈曲させる構成要件(2)も、本件考案の出願以前において既に公知であつた。
(3) 構成要件(3)について 本件考案は柱等保護具に関するものであるが、その保護の対象物である柱、敷居等は(柱が円筒形をしている場合を除くと)、通常その断面は四角形をなしている。したがつて、本件考案がこれらを保護することを目的とする工作物である以上、その嵌着が滑らかに行えるように、保持部の先端に端縁部を設けることは当業者であれば容易に思いつくことの出来るものである。
例えば、実公昭四四―三〇三六一号公報(公告日・昭和四四年一二月一五日。乙第五号証)記載の実施例第6図においては、本件考案の保持部に相当する両端部1a、1bの先端に、外側へ屈曲させた嵌合凹部2を備えた形状が示されている。右実施例において、嵌合凹部2は、全体として見れば敷居の裏側に嵌まるための爪構造になつているが、両端部1a、1bと嵌合凹部2との折り返し点に注目すると、
これは嵌合凹部2の末端よりも内側に位置するので、保護対象物に装着する際にはこの折り返し点が最初に接触することになる。そして、装着する場合には嵌合凹部2が折り返し点から外側に開いているので、右折り返し点が嵌合案内作用をすることは明らかであり、この点から見れば、右実施例における右折り返し点は本件考案の構成要件(3)と全く同一である。
また、本件考案に対してなされた昭和五八年七月五日付け拒絶理由通知(乙第二号証)の拒絶理由末尾においても、「本考案のように、保持部の先端に端縁部を設けることは、当業者ならば通常成し得る設計上の微差であると認める」との認定がなされている。
したがつて、保持部先端に外側へ屈曲させた嵌合案内用の端縁部を形成する構成要件(3)は公知の技術であつた。
(4) 構成要件(4)について 以上述べたとおり、構成要件(1)ないし(3)は本件実用新案登録出願の日以前から公知の技術であつたから、本件出願の構成は構成要件(4)の点のみに新規性が認められるにすぎないが、構成要件(4)についても、これに極めて近い構成のものが実公昭五一―三八六二九号公報(公告日・昭和五一年九月二一日)記載の建築材角部仮保護板に関する考案実施例において示されている。右実施例においては、中央湾曲部の両端を直角に屈曲して突出した保持部の角部を外方に膨出させて、この角部の肉厚をこの角部に連なる板状部分の厚さよりも大にした構成が取られている(乙第七号証)。
したがつて、右実施例に照らせば、構成要件(4)は、@中央湾曲部の背面部に形成した突起が係合用のものであり、かつ、A突起の位置が鋭角部よりも中央寄りの個所に存する点で新規性を有するにすぎないものである。
(5) しかも、構成要件(1)ないし(3)を構成要件(4)に結合させたことによつても特段の作用効果は生じていない。したがつて、構成要件(4)は本件考案の詳細な説明及び図面に記載された内容に限定して最も狭く解釈すべきである。
そうすると、イ号物件及びロ号物件が本件考案技術的範囲に属しないことは明らかである。
2 イ号物件と本件考案の対比 仮に、以上の主張が認められないとしても、イ号物件の構成(2)、(3)は、
本件考案の構成要件(2)、(3)を充足せず、イ号物件は、本件考案技術的範囲には属しない。すなわち、
(一) 本件考案の構成要件(2)は、保持部が湾曲部両端となす角度を鋭角としている。ところが、イ号物件の保持部が湾曲部両端となす角度は、前記のとおり約九〇度であり鋭角ではなく(イ号物件の現物である検甲第二号証の中央湾曲部と保持部との角度は約一〇七度の鋭角である。)、イ号物件の構成(2)は、本件考案の構成要件(2)を充足しない。
原告らは、保持部が中央湾曲部両端となす角度が鋭角の場合でも鋭角でない場合でも作用効果に差はないと主張する。しかし、右角度が鋭角である場合とそうでない場合とでは、両者の保持部の根本の距離が同じであつても、開口部の幅は前者の方が狭くなるという違いがある。したがつて、柱に嵌着するため養生カバーの開口部を拡開する際、プラスチツクの弾性が同じであれば、拡開の限度は、当然イ号物件の方が本件考案を実施した柱等保護具よりも大きくなる。右のとおり、イ号物件は、中央湾曲部と保持部との角度を鋭角としないことにより、本件考案に比して嵌着可能な柱の太さの範囲が広くなるから、本件考案とは作用効果を異にするというべきである。
(二) 本件考案の構成要件(3)は、保持部の先端に嵌合案内用の「端縁部」を形成するというものであるが、実用新案登録請求の範囲では、端縁部の形状について、「保持部の先端に角度をつけ」「外側へ屈曲させ」ると明記しており、また、
本件公報の第1図には、保持部と端縁部とが「く」の字状に約一〇七度の角度で直線的に屈曲した実施例が掲げられている。本件考案が、保持部と端縁部とを「く」の字状に直線的に屈曲させる構成を採つていることは明らかである。
これに対し、イ号物件は、保持部先端が「約三ミリの屈曲半径で外向きに半円状に湾曲して」端縁部を形成しているから、本件考案の端縁部とは形状を異にし、本件考案の構成要件(3)を充足しない。
3 ロ号物件と本件考案の対比 ロ号物件の構成(2)、(3)、(4)は、本件考案の構成要件(2)、
(3)、(4)を充足せず、ロ号物件は、本件考案技術的範囲には属しない。すなわち、
(一) ロ号物件の構成(2)、(3)が本件考案の構成要件(2)、(3)を充足しないことは、イ号物件について述べたところと同じである。
(二) 本件考案の構成要件(4)は、「湾曲部の背面部で鋭角部よりも中央寄りの箇所に」係合用突起を形成するものであるが、ロ号物件の突起の位置は湾曲部の両端であるから、ロ号物件は本件考案の構成要件(4)を充足しない。
原告らは、ロ号物件の突起の位置について、「端部自体に設けられたものではなく、やはり端部から中央寄りに設けられている」旨主張する。しかし、「突起の底辺の幅(厚み)のない突起」というようなものはあり得ないから、ロ号物件のように「湾曲部の背面の両端に突起を設ける」といつても、突起の厚みのために、突起の底辺のうちの湾曲部の両端部に対して反対側の方は、当然、厳密な意味での両端よりも若干中央寄りの場所において湾曲部の曲線と交わる。厚みのない突起が物理的にあり得ない以上、ロ号物件における突起の位置が、社会通念上「両端に突起を設ける」ものと認められるべきであることは明らかである。また、原告らは、「両端部は端部といつても点ではなく……約二七〇度の広がりがある」と主張するが、
本件考案の突起は、「中央湾曲部の「背面部」に形成されるのであり、背面部の曲線の両端が点であることは明らかであるから、原告ら主張のような「両端部の広がり」を議論する余地はない。
(三) 原告らは、ロ号物件の突起が形成される位置が湾曲部の「鋭角部」であつて、本件考案の「鋭角部よりも中央寄りの個所」とはいえないとしても、両者は均等であると主張する。
(1) しかし、ロ号物件においては、均等の成立要件の一つである置換可能性(作用効果同一性)を欠くから、原告らの右主張は失当である。
すなわち、本件公報によれば、本件考案は、「鋭角部」よりも中央寄りの個所に突起を設けたことにより、請求原因に対する認否2に記載した(3)及び(4)の作用効果が生じるとされている。
右作用効果は、湾曲部の角部に突起を設けたのでは生じないところ、ロ号物件は、突起を湾曲部の両端部に設けているから、右の作用効果を生じない。ロ号物件が湾曲部の両端に突起を設けているのは、湾曲部の両端すなわち角部の剛性を高めて強度を増すことをその目的とするものである。何故なら、建築用養生カバーは建築中の建物の柱、敷居等に傷が付かないよう保護することを目的とする商品であるが、柱の場合は、四周の面そのものよりも面と面との間の角部に物が当たりやすいし、敷居の場合には角部を踏み付けられることが多いので、これらを保護する養生カバーにおいても角部が損傷する可能性が強い。そこで、ロ号物件では、角部に突起を設けることにより角部を補強し、養生カバーの損傷を防止せんとしているのである。
以上のとおり、ロ号物件と本件考案とでは、置換可能性を欠くものである。
(2) 原告ら主張の均等論が成立しないことは、
本件考案出願経過を参酌すれば一層明らかである。
(イ) 本件考案の昭和五六年九月二日付け願書に添付された明細書(乙第一号証の二)では、突起の位置について、「中央湾曲部1から両方の鋭角部2、2′に至る間の背面部に長手方向に沿つて突起13、13′を形成した柱等保護具」と記載されているのみであり、突起の具体的位置は特定されていなかつた。
(ロ) しかるところ、特許庁審査官は、これに対し、昭和五八年七月五日付け拒絶理由通知書(乙第二号証)を発し、突起の位置に関し実公昭五一―三八六二九号実用新案公報(乙第七号証)を引用して、本件考案の「板材の中央部から両方の鋭角部に至る間の背面部に突起を形成した点」は引用の考案に照らして新規性がないとの判断を示した。
これに対し、原告らは、昭和五八年九月二二日付け手続補正書(乙第三号証)を提出して、同補正書において、突起の位置につき「中央湾曲部の背面部で鋭角部よりも中央寄りの個所に長手方向に沿つて係合用突起を形成した」と突起の位置を限定し、かつ同時に提出した意見書(乙第四号証)において@前記引用公報で開示されている突起は、「角部の補強用であつて係止用のものでは」ない。Aこれに対し、本件考案では、「柱の隣合う二面乃至四面にそれぞれ保護具を被せると突起に係止できて保護具の外れが防止でき」るうえ、B「突起が鋭角部から離れたところに位置するから、鋭角部が突起の分だけ厚みを増すことによる鋭角部の弾性の減少が防止でき」、しかも、C「斯る係止個所は保護具の鋭角部よりも中央寄りの位置にくるから、保護具同士が柱のコーナ部から出つ張らず互いに掛止でき」る、という効果を奏すると主張した。
右のとおり、本件考案の出願過程において、原告らは、自ら、構成要件(4)すなわち突起が「鋭角部」よりも中央寄りに形成される点に本件考案の独自性があることを明らかにしている。
(ハ) 本件考案は、前記手続補正書及び意見書提出後に出願公告され、登録に至つたものであり、これは、突起の位置及びその効果に関する原告らの前記意見書における主張が審査官を説得したからにほかならない。
(ニ) したがつて、突起の位置が本件考案と異なる構成については、本件考案技術的範囲に含まれないことが明らかであり、原告らが均等の主張をすることは、
包袋禁反言の法理に反し許されない。
(ホ) また、以上のとおり、原告らは、突起の位置を鋭角部よりも中央寄りに限定して実用新案登録を受けたのであるから、突起の位置がこれと異なる構成はいわゆる意識的除外に当たり、本件考案技術的範囲に属しない。
4 補償金請求の前提となる悪意の不存在(一) 【B】は、昭和五三年二月から同五五年一月までの間、原告【A】が代表取締役を務める二上木材に勤務し、本件考案を実施した柱養生カバーの販売業務に従事していた。【B】は、原告【A】から二上木材の製品の柱養生カバー(検甲第一号証)について実用新案出願中であると聞いたことはあつたが、本件考案の構成等については何ら説明を受けておらず、本件考案の出願関係の書類を見せられたこともなかつた。【B】は、昭和五七年三月に被告を設立する前の昭和五六年一一月頃、訴外大阪樹脂工業株式会社(以下「大阪樹脂工業」という。)及び訴外日大工業株式会社(以下「日大工業」という。)と業務提携契約を締結し、同契約に基づいてイ号物件の製造、販売を開始したが、その際、イ号物件の金型発注前に、原告らの特許・実用新案の出願状況について【C】弁理士に調査を依頼した。そして、
同弁理士の昭和五六年一一月一七日付け調査報告により、本件考案の原出願(出願番号・実願昭五一―六一八二〇、公開番号・実開昭五二―一五二三二八)について補正却下の決定がなされていることを知り、さらに、昭和五七年二月二六日に至つて、原出願の補正却下に対して昭和五六年九月二日付けで新出願(本件考案の出願)がなされていることを知つた。しかし、この時点では新出願はいまだ出願公開されておらず、新出願に係る考案の構成を【B】において知ることはできなかつた。被告において本件考案の構成を初めて知つたのは、昭和五七年七月六日、被告代表者【B】が大阪樹脂工業及び日本工業の代表者と共に丸山国際特許事務所に打ち合わせに行つた際、【C】弁理士から昭和五七年五月一四日付けで公開になつた公開公報により本件考案の構成について説明を受けたときである。被告及び右訴外二社は、本件考案には実用新案権が付与されないのではないかと考え、また、仮に実用新案権が付与されてもイ号物件はそれに抵触しないと判断したが、万一を慮つて、協議の結果、イ号物件の製造、販売は即時中止することとし、同日時点でイ号の製造、販売を中止したものである。
被告が実用新案法13条の3第1項所定の悪意者に該当するというためには、被告が、@本件考案の構成(内容)を知り、かつ、A本件考案が出願公開されたことを知つて、イ号物件の製造、販売を継続したものであることを要するところ、前記のとおり、被告はイ号物件の製造、販売を中止した昭和五七年七月六日まで本件考案の構成を知らず、したがつて、出願公開された本件考案にイ号物件が抵触することを知らなかつた。
(二) しかも、本件考案の出願公開時の実用新案登録請求の範囲の記載は、被告がイ号物件の製造、販売を中止した後、昭和五八年九月二二日付け手続補正書によつて、以下のとおり変更されている。
出願公開時の記載123 縦長または横長矩形の板材11の短手方向中央部1を湾曲させ、
4 且つ短手方向両側部を湾曲凹部側へそれぞれ鋭角に屈曲させて湾曲凹部側へ真直に突出する保持部3、3′を設けるとともに、該保持部3、3′の端部を外側へそれぞれ角度をつけ屈曲させて嵌合案内用の端縁部4、4′とし、
5 更に中央湾曲部1から両方の鋭角部2、2′に至る間の背面部に長手方向に沿つて突起13、13′を形成した柱等保護具。
手続補正書における記載 縦長または横長矩形の板材11の短手方向両側部を湾曲もしくは屈曲させて該部に保持部を形成し、
この保持部により柱等の部材に嵌着するようにした保護具において、
板材の短手方向中央部を緩やかな曲率で湾曲する湾曲部とするとともに、
保持部を前記湾曲部の両端から鋭角に屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する形状とし、該保持部の先端に角度をつけ外側へ屈曲させた嵌合案内用の端縁部を形成し、
更に中央湾曲部の背面部で鋭角部よりも中央寄りの個所に長手方向に沿つて係合用突起を形成した柱等の保護具。
すなわち、右3の「緩やかな曲率で湾曲する」並びに5の「中央寄りの個所」及び「係合用(突起)」は、出願公開時の実用新案登録請求の範囲に記載がなく、本件考案の出願公開後に被告が行つた情報提供(甲第一三号証)に基づいて特許審査官が行つた昭和五八年七月五日付け拒絶理由通知(甲第一四号証)に対し原告が提出した同年九月二二日付け「手続補正書」(甲第一五号証)において初めて記載され、それがそのまま本件考案の実用新案登録請求の範囲として、実用新案登録されたものである。すなわち、本件考案の実用新案登録請求の範囲は昭和五八年九月二二日の時点で変更されている。
右のように出願公開後に明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に変更があつたときは、実用新案権者が、実用新案法13条の3第1項に基づく補償金請求権を取得するためには、考案の実施者に対し変更後の実用新案登録請求の範囲に基づいて警告書を送付するか、又は考案の実施者が変更後の実用新案登録請求の範囲についても悪意でなければならない。ところが、本件の場合、右のいずれの場合にも該当しないから、例えイ号物件が本件考案技術的範囲に属するとしても、被告は、補償金の支払義務を負わない。
四 予備的相殺の抗弁 以上のとおり、イ号物件及びロ号物件はいずれも本件実用新案権又はその仮保護の権利を侵害していない。しかるに、原告らは本件考案が出願公告された後に、昭和六〇年五月二九日付け警告書を被告に送付し、被告が同年六月一〇日付け回答書で、本訴におけるロ号物件に関する被告の主張と同旨の理由を挙げて原告らの主張の誤りを説明したにもかかわらず、右説明を無視し、同年一〇月二八日本訴を提起した。そのため、被告は、応訴の費用の負担を余儀なくされ、反訴請求原因で主張するとおり、四九九万円の損害を被り、原告らに対し、右同額の損害賠償請求権を取得した。
仮に、イ号物件が本件考案技術的範囲に属し、被告が補償金支払義務を負うとしても、被告は予備的に、原告らに対し、
昭和六二年六月二六日付け被告第七準備書面により右補償賠償請求権をもつて右補償金請求権と対当額にて相殺する旨の意思表示をし、右準備書面は右同日原告ら訴訟代理人に送達された。
五 被告の主張に対する原告らの反論1 本件考案は、出願前公然と実施されていたものでもなければ、公知のものでもなかつた。
(一) 原告らが、その昭和六一年二月二六日付け準備書面において、「原告【A】は二上木材を設立して、従来から木材販売業を経営していたが、昭和五〇年三月本件考案に係る柱等保護具を開発し、自社販売木材の保護具用に使用するとともに、昭和五一年五月実用新案登録を出願した。」と主張したのは事実である。しかし、右主張には不正確な点があつたので、原告らは、被告が右の点に関する主張をする以前の昭和六一年四月二日付け準備書面において、前記の事実主張を「…昭和五〇年三月柱等保護具(本件考案と異なり、かすがい型で背面突起の存しないもの)を開発し、自社販売木材の保護用に使用するとともに、昭和五一年五月本件考案に係る柱等保護具の実用新案登録を出願した。」と訂正した。したがつて、右事実主張については、被告主張の自白は成立しない。ちなみに、被告が右の点に関する主張をしたのは、昭和六一年四月四日付け準備書面においてである。
仮に、原告らの昭和六一年二月二六日付け準備書面における前記主張につき自白が成立するとしても、右は真実に反し、かつ錯誤に基づくものであるから、原告らはこれを撤回し、被告の主張事実を否認する。
(二) 仮に、本件考案の構成要件(1)ないし(3)が公知の技術であつたとしても、本件考案は、(1)ないし(4)の構成要件が結合することにより特別の作用効果を奏するものであり、新規性を有する。出願前に公知であつたとされるいわれはない。
2 ロ号物件の構成(4)は、本件考案の構成要件(4)と均等である。
(一) 被告は、ロ号物件の突起は角部に設けられているから本件考案の(3)、
(4)の効果を生じない。柱等は四周の面より角部が損傷しやすく、これを保護する養生カバーも角部が損傷する可能性が強いので、ロ号物件においては角部に突起を設けることにより角部を補強し、養生カバーの損傷を防止せんとしているものであると主張する。しかし、損傷しやすい個所は、柱の角部と養生カバーの接触部であり、養生カバーの角部に突起を設けても、柱の角部の保護にも養生カバー自体の保護にもならない。右突起は係合用の作用を奏しているにすぎない。ロ号物件の突起は、本件考案にない独自の作用効果を奏するものではない。
(二) 被告が均等論に関して主張する本件考案出願経過については特に争わないが、右経過は原告が主張する均等論を否定する根拠になるものではない。
(1) 被告も主張するとおり、本件考案の昭和五六年九月二日付け願書に添付した明細書においては、突起の位置は中央湾曲部から鋭角部に至るまでの間全部を包含するものであつた。ところが、特許庁審査官は、実公昭五一―三八六二九号実用新案公報を引用して、「板材の中央部から両方の鋭角部に至る間の背面部に突起を形成した点」につき、進歩性がないとする拒絶理由通知書(乙第二号証)を発した。そこで、原告らは、右引用例を念頭に置き、引用例との差異を明確にするために、昭和五八年九月二二日付け補正書(乙第三号証)で「中央湾曲部の背面部で鋭角部よりも中央寄りの個所に長手方向に沿つて係合用突起を形成した」と補正した。
しかし、右拒絶理由は明らかに審査官の錯誤に基づくものであつた。何故なら、
右引用例は、背面部に突起を形成したものではなく、単に角部を補強するために肉厚にした建築材角部仮保護板の考案にすぎなかつたからである。原告は、右拒絶理由に対処するため、右補正書で、突起が補強用のものではなく、係合用のものであることを強調するとともに、突起が鋭角部に位置しても係合目的は達せられるものの、右引用例との差異を明確にするために、突起の位置を前記のとおり補正した。
また、原告らが右補正書で、突起を「鋭角部」よりも中央寄りに位置することによつて「保護具の角部が不必要に出つ張るおそれがない」、「突起のために鋭角部の剛性が増大することはない」等の効果を強調しているのも、右引用例を念頭に置いてのことに外ならない。
したがつて、もし、審査官の錯誤による右拒絶理由通知がなかつたならば、右補正はなされず、本件考案の突起の位置が中央湾曲部から「鋭角部」に至る間を全部包含していたことは明らかである。
(2) 以上のような出願経過を参酌すると、前記補正は誤つた拒絶理由により歪曲されていることが明らかであり、本件考案の突起の位置は「鋭角部よりも中央寄り」の位置に限定されたものと解釈されるべきではない。少なくとも、突起の位置を「鋭角部よりも中央寄り」としたもの以外の構成を意識的に除外したと解釈されるべきではない。
3 被告のイ号物件の製造・販売時期に関する主張の変更は、自白の撤回に当たるから異議がある。
六 相殺の抗弁に対する認否 原告らが被告に対し昭和六〇年五月二九日付け警告書を送付し、これに対し被告が同年六月一〇日付け回答書を出したこと、原告らが同年一〇月二八日本訴を提起したことは認めるが、その余は争う。
(反訴)一 請求原因1 原告らは、昭和六〇年一〇月二八日、被告に対し、被告の製造、販売に係るイ号物件及びロ号物件が原告らの有する本件実用新案権又はその仮保護の権利を侵害したとして本訴を提起し、本訴において、ロ号物件の製造、販売の差止め並びに実用新案法13条の3第1項に基づく補償金請求及び不法行為による損害賠償請求として合計金三〇〇〇万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた。
2 しかし、原告らによる本訴の提起は、以下のとおり、不当であり、被告に対する不法行為を構成する。すなわち、
(一) イ号物件及びロ号物件は、いずれも本件考案とは構成を異にする。また、
そもそも、本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載は、本件考案の詳細な説明及び図面に記載された内容に限定して最も狭く解釈すべきものでありイ号物件及びロ号物件がいずれも本件考案技術的範囲に属しないことは明らかである(本訴における被告の主張を参照)。
(二) さらに、イ号物件については、
被告において昭和五七年七月六日に製造、販売を中止しており、原告らから書面による警告もなかつたから、イ号物件に関し被告が補償金の支払義務を負担するいわれは全くなく、本訴提起が不当であることは明らかである。
(三) また、ロ号物件については、本訴提起前に、被告の輔佐人弁理士が代理人となつて、原告らに対し、ロ号物件が本件考案技術的範囲に属しないことを明確に説明し、無用の紛争を避けるべく努めたにもかかわらず、原告らはこれを無視して本訴を提起したものであるから、やはり本訴の提起は不当である。
3 被告は、原告らから本訴を提起されたため、これに応訴するのに訴訟代理人及び輔佐人として弁護士及び弁理士を依頼することを余儀なくされ、それぞれと報酬契約を締結し、大阪弁護士会報酬規定及び特許事務標準額表の各標準額によつて着手金及び報酬合計四九九万円を支払うことを約した。右は、原告らの本訴提起と相当因果関係のある損害である。
4 よつて、被告は、原告ら各自に対し、右損害の内金二五〇万円及びこれに対する不法行為の後で反訴状送達の日の翌日である昭和六一年一二月一〇日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1の事実は認める。
2 同2、3は争う。
証拠(省略)
理 由
本訴について
一 成立に争いのない甲第一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第一九、第二〇号証並びに弁論の全趣旨によれば、請求原因1の事実(原告らの権利)を認めることができる。
二1 次に、請求原因2(本件考案の構成要件と作用効果)についてみるに、前掲甲第一号証(本件公報)によれば、本件考案の構成要件は次のとおり分説するのが相当であると認められる。
A 縦長又は横長矩形の板材の短手方向両側部を湾曲若しくは屈曲させて該部に保持部を形成し、この保持部により柱等の部材に嵌着するようにした保護具において、
B 板材の短手方向中央部を緩やかな曲率で湾曲する湾曲部とするとともに、
C 保持部を前記湾曲部の両端から鋭角に屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する形状とし、
D 該保持部の先端に角度をつけ外側へ屈曲させた嵌合案内用の端縁部を形成し、
E さらに中央湾曲部の背面部で鋭角部よりも中央寄りの個所に長手方向に沿つて係合用突起を形成したF 柱等の保護具。
2 また、前掲甲第一号証によれば、本件考案の作用効果には、原告らが請求原因2(二)で主張する(1)、(2)の作用効果のほか被告が請求原因に対する認否、反論2で主張する(3)、(4)の作用効果も含まれると認めるのが相当である(以下、右各作用効果を「本件考案の作用効果(1)」等という。右(1)、
(2)の作用効果が本件公報の「考案の詳細な説明」欄に記載されていることは、
当事者間に争いがない。)。
三 請求原因3(被告によるイ号物件、ロ号物件の製造、販売)のうち、少くとも被告が昭和五七年五月一四日から同年七月六日までの間イ号物件を、同年九月一日以降現在までロ号物件をそれぞれ業として製造し、販売してきたことは、当事者間に争いがない。
四 現在原因4(イ号物件、ロ号物件の各構成と作用効果)については、イ号物件の一種であることにつき争いのない検甲第二号証、ロ号物件の一種であることにつき争いのない検甲第三号証、弁論の全趣旨によりロ号物件であると認められる検乙第一号証、いずれも弁論の全趣旨により昭和六三年七月二六日にロ号物件の金型を撮影した写真であると認められる検乙第二号証の一ないし六並びに弁論の全趣旨を総合すれば、イ号物件及びロ号物件には、それぞれ三種のもの(商品記号でいえばAR―九五、AR―一一五、AR―一五〇)があるが、いずれもその形状は、概略、別紙目録(一)及び(二)の各図面に記載されたようなものであり、かつ、その構成は、次のように説明(分説)できるものであると認めるのが相当である。なお、作用効果については、後記五の判示参照。
1 イ号物件a 縦長の板材の短手方向両側部を屈曲させて該部に保持部を形成し、この保持部により柱等の部材に嵌着するようにした保護具であつて、
b 板材の短手方向中央部を緩やかな曲率で湾曲する湾曲部とし、
c 湾曲部の両端から約九〇度に屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する保持部を形成し、
d 保持部の先端を半円状に外向きに湾曲させて嵌合案内用の端縁部を形成し、
e 湾曲部の背面部で前記約九〇度の屈曲部よりも中央寄りの個所に長手方向に沿つて係合用突起を形成したf 柱等の保護具。
2 ロ号物件a 縦長の板材の短手方向両側部を屈曲させて該部に保持部を形成し、この保持部により柱等の部材に嵌着するようにした保護具であつて、
b 板材の短手方向中央部を緩やかな曲率で湾曲する湾曲部とし、
c 湾曲部の両端から約九〇度に屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する保持部を形成し、
d 保持部の先端を半円状に外向きに湾曲させて嵌合案内用の端縁部を形成し、
e 湾曲部の背面部で前記約九〇度の屈曲部に長手方向に沿つて係合用突起を形成したf 柱等の保護具。
五 そこで、次に、請求原因5(イ号物件、ロ号物件と本件考案の対比)について検討する。
1 最初に、被告の限定解釈の主張について検討する。
(一) まず、被告は、本件考案は出願前に「公然実施」されていた旨主張するところ、この点に関する自白の成否及び撤回の可否について当事者間に争いがあるので、検討する。
本件記録によれば、(1) 原告らは、その昭和六一年二月二六日付け準備書面において、「原告【A】は二上木材を設立して、従来から木材販売業を経営していたが、昭和五〇年三月本件考案に係る柱等保護具(養生カバー)を開発し、自社販売木材の保護用に使用するとともに、昭和五一年五月実用新案登録を出願した。」旨主張し、右準備書面は昭和六一年三月四日の第三回口頭弁論期日に陳述された。
右時点までに被告からは右のような主張はなされていなかつた。(2) ところが、原告らは、同年四月二日付け準備書面において、右の「昭和五〇年三月本件考案に係る…実用新案登録を出願した。」とあるのを「昭和五〇年三月柱等保護具を開発し、自社販売木材の保護用に使用するとともに、昭和五一年五月本件考案に係る柱等保護具の実用新案登録を出願した。」と訂正する旨主張した。(3) 被告は、昭和六一年四月四日付け準備書面において、「原告らが昭和六一年二月二六日付け準備書面において自認する右(1)記載の事実は実用新案法3条1項2号の『公然実施』に該当する。」、「原告らの昭和六一年四月二日付け準備書面における右(2)記載の主張の訂正は自白の撤回に当たる。」旨主張した。(4) そして、昭和六一年四月一一日の第四回口頭弁論期日において、原告らの同年四月二日付け準備書面及び被告の同年四月四日付け第二準備書面がそれぞれ陳述されるとともに、原告らは、「右(1)の主張は自白に当たらず、仮に自白に当たるとしても、それは真実に反し錯誤に基づくものである。」旨陳述した。以上の事実が明らかである。
右事実によれば、原告らの昭和六一年二月二六日付け準備書面における右(1)の主張は、本件考案がその出願前に公然実施されていたことを基礎付ける、自己に不利な事実の先行的な陳述であるといえる。しかし、右の先行的な陳述により自白が成立するのは被告が右主張を援用したときであると解されるところ、前記経過からすれば原告は、被告が右先行的陳述を援用する以前に、少なくともそれより遅れることなく、右先行的陳述を撤回する旨の陳述をしたものということができる。したがつて、右の点の自白は成立しないというのが相当である。
また、仮に、右の点の自白の成立が認められるとしても、原告らはこれを撤回したものであり、本件においては、以下のとおり右自白の撤回を許容すべきである。
すなわち、いずれも原告【A】本人尋問の結果により原本の存在と成立の真正を認める甲第二一、第二二号証、第二四号証及び同本人尋問の結果によれば、原告らは、昭和五一年四月頃に柱等保護具を考案し、製品企画化を始めたが、右柱等保護具は、中央部が湾曲しておらず平坦であり、背面部に突起もないもので、本案考案の柱等保護具とは異なる構造のものであつたこと、その後、中央部を湾曲させた構造のものを昭和五二年三月頃製品化し、さらに同年五月頃背面部に突起を設ける本件考案構造の柱等保護具を製品化したことが認められ、右認定を左右する証拠はない。右事実によれば、原告らの前記自白は真実に反するものというべきであり、
かつ特段の事情がなければ前記自白の撤回は錯誤に基づくものと推定すべきところ、特段の事情を認むべき証拠はないから、原告らの自白の撤回は許されるというべきである。そして、右自白以外には、被告主張の公然実施の事実を認め得る証拠はないから、被告の前記主張は採用できない。
(二) 次に、被告は、原告らが本件考案の原出願において昭和五一年一一月二九日付け手続補正書をもつてした補正内容は要旨の変更に当たらず、かつ右補正の却下決定に対し審判請求もしなかつたから、新出願について手続補正書提出時への出願日遡及の効力は生じない旨主張するところ、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第四、第五号証、第一一、第一二号証によれば、被告の主張1(二)の(1)に記載の事実を認めることができる。
しかし、実用新案法13条によつて準用される昭和六〇年法律第四一号による改正前の特許法53条4項本文が「(出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正が要旨の変更に当たるとして却下された場合に)…却下の決定の謄本の送達があつた日から三〇日以内にその補正後の発明について新たな特許出願をしたときは、その特許出願は、その補正について手続補正書を提出した時にしたものとみなす。」と規定していた趣旨は、補正却下決定という自己に不利益な処分を受けた特許出願人が当該決定に不服がなく、かつ当該補正をした状態で審査を受けることを希望する場合に、特許出願人の利益のために、新たな特許出願の出願日を手続補正書提出時に遡及させることを認めたことにあると解される。したがつて、仮に、補正が要旨の変更に当たるとしてこれを却下した特許庁審査官の判断に誤りがあつたとしても、それは、本来補正の効果を原出願時に遡及させることができた特許出願人がこの利益を受けられなくなつたことを意味するにすぎず、右審査官の判断の誤りによつて第三者の利益が害される恐れがあるという性質のものではない。補正が要旨の変更に当たることを審査官が看過した場合とは、性質を異にするというべきである。そうだとすれば、その後の侵害訴訟の場において、右却下決定につき不服申立をしなかつた特許出願人に対してはもとより、権利侵害を主張されている者に対しても、補正却下決定が誤りであつたとして新出願の手続補正書提出時への出願日遡及の効力を争うことを認めなければならない必然性はなく、これを争うことは許されないものと解するのが相当である。
したがつて、右補正却下決定が誤りであつたことを前提とする被告の前記出願日不遡及の主張は、その前提を欠くもので主張自体失当であり、右出願日不遡及を前提とする本件考案が全部公知であるとの主張は、採用の限りでない。
(三) 被告は、本件考案は原告ら主張の構成要件のうち(1)ないし(3)は出願前に公知であり、構成要件(4)の@中央湾曲部の背面部に形成した突起が係合用のものであり、かつ、A突起の位置が鋭角部よりも中央寄りの個所に存する点に新規性が存するにすぎず、しかも、構成要件(1)ないし(3)を同(4)と結合させたことによつても特段の作用効果は生じていないから、構成要件(4)は、本件考案の詳細な説明と図面に記載された内容に限定して最も狭く解釈すべきである旨主張する。
しかし、被告の右主張自体からも、本件考案の右各構成要件が個別の公知資料に示されているものにすぎず、いわゆる全部公知を主張するものではないことが明らかであり、かつ、右構成要件(4)については新規性があることを自認しているのであるから、右構成要件(4)の解釈について被告主張のような限定解釈をしなければならない必然性がないことは、その主張自体から明らかである。また、前掲甲第一号証によれば、本件考案は実用新案登録請求の範囲に記載した構成にしたことにより、公知技術にはない前記認定のような作用効果を奏するものであることが認められるから、いずれにしても、被告の右主張は、失当たるを免れない。
2 そこで、イ号物件と本件考案とを対比する。
(一) イ号物件の構成aが本件考案の構成要件Aを充足することは明らかである。
(二) イ号物件の構成bが同B(原告ら主張の構成要件(1)に相当)を充足することも明らかである(このことは当事者間に争いがない。)。
(三)(1) イ号物件の構成cは、湾曲部の両端から約九〇度に屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する保持部を形成するものである。一方、本件考案の構成要件C(原告ら主張の構成要件(2)に相当)は、保持部を湾曲部の両端から「鋭角」に屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する形状とするものである。そして、「鋭角」とは一般に直角(九〇度)より小さい角度をいうものであることが明らかであるから、イ号物件の保持部と湾曲部のなす角度は厳密な意味では「鋭角」とはいえない(イ号物件の右角度は「約」九〇度であるが、九〇度より小さいものと断定するに足りる証拠はない。)。
(2) しかし、前掲甲第一号証(本件公報)の「考案の詳細な説明」によれば、
本件考案が構成要件Cにおいて「保持部を湾曲部の両端から『鋭角に』屈曲して湾曲凹部側へ真直に突出する形状とし」たのは、板材の中央部を湾曲させたことと合わせて、保護具に復元弾力を持たせ、保護具を柱等に嵌着したときに、右復元弾力により保持部先端の端縁部の折曲部(同公報図面第1図の12、12′)が柱等の両側面に左右から押し付けられ、その挟着力で保護具が柱等から脱落するのを防止することを目的としたものであることが認められる。したがつて、構成要件Cの「鋭角」というのも、右のような目的を達する角度をいうものと解することができ、本件考案の保護具が中央部を湾曲部としたことにより弾性を付与されていることを考慮すれば、湾曲部と保持部のなす角度は、極端に開いた鈍角は別として、必ずしも厳密な意味での「鋭角」でなくとも、直角又は直角に近い鈍角であれば、右目的を十分達することは明らかである。現に、前掲甲第一号証(本件公報)の本件考案実施例を示す図面の第1図では、柱に嵌着した状態においてではあるが湾曲部と保持部のなす角度が約九〇度の保護具が示されており、「考案の詳細な説明」欄にも右角度を特に厳密な意味で限定した趣旨の説明は見当たらない。さらに、いずれも原本の存在及び成立に争いのない甲第四ないし第一九号証によつて本件考案の原出願から本件考案の登録に至るまでの経過を検討しても、本件考案が湾曲部と保持部とがなす角度を特に厳密な意味での「鋭角」に限定したものと解すべき事情は見い出しがたい。以上の事実に照らせば、本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「鋭角」の中には、厳密な意味での「鋭角」だけではなく、直角や直角に近い鈍角等「鋭角」に近接する範囲の角度も含まれると解するのが相当である。本件考案の実用新案登録請求の範囲において「鋭角」という用語が用いられているのは、
本件考案の前示目的からみると、いささか的確性を欠き適切ではないといえるが、
右に述べたようなことは、本件公報の記載自体から十分理解しうることであると考えられる。したがつて、右のように解釈したからといつて、本件公報の記載を信頼した第三者に不測の損害を与えるおそれがあるとも認めがたい。
被告は、湾曲部と保持部のなす角度が「鋭角」の場合とそうでない場合とでは、
両者の保持部の根本の距離が同じであつても、開口部の幅は前者の方が狭くなるという違いがあり、そのために作用効果が異なる旨主張する。しかし、被告主張のような違いが生じるのは事実であるとしても、本件公報を検討しても、本件考案が右のような開口部の幅の点を意識して右角度を厳密な意味の「鋭角」に限定したものとは認められず、また、そのような違いは、右角度が「鋭角」の範囲内のもの相互の間でも生じうることであつて、「鋭角」とそうでない場合との間でだけ生じるものではない。それは、いわば、本件考案の作用効果を奏したうえでの付随的な効果に関する違いであり、この効果があるからといつて本件考案の作用効果を奏しないというものではない。さらに、右の違いを既に述べたような厳密な意味での「鋭角」に準ずる角度のものと、直角(九〇度)に近い「鋭角」のものとの間でみれば、その差は論ずるに足りない程度の微差にすぎない。少くとも、右角度が前示の「鋭角」に準ずるものである限り、「鋭角」のものとの間には、本件考案の作用効果に関する差異はないというのが相当であり、被告の右主張は採用できない。
(3) しかるところ、イ号物件の湾曲部と保持部のなす角度は、前示のとおり「約九〇度」であるから、厳密な意味での「鋭角」とはいえないが、それに極めて近いものであり、本件考案にいう「鋭角」に含まれるというのが相当である。イ号物件の現物である前掲検甲第二号証の保護具において、中央湾曲部と保持部がなす角度は九〇度よりやや大きいことが窺われるが(被告は一〇七度と主張)、イ号物件のようにプラスチツク板材から成る保護具では、製造後の管理状況等によつて右の角度に多少の変化が生じることは避けがたいと考えられるし、右検甲第二号証の保護具が有する中央湾曲部と保持部がなす角度程度であれば、本件考案の「鋭角部」に期待される前記のような復元弾力により保持部先端の端縁部の折曲部が柱を挟着する作用効果を奏することは、右検甲第二号証を検すれば明らかである。
(4) したがつて、イ号物件の構成cは、本件考案の構成要件Cを充足する。
(四) イ号物件の構成dは、保持部の先端を半円状に外向きに湾曲させて嵌合案内用の端縁部を形成するものであり、右は、本件考案の構成要件D「該保持部の先端に角度をつけ外側へ屈曲させた嵌合案内用の端縁部を形成」するとの要件を充足するというべきである。
被告は、イ号物件の端縁部と本件考案の端縁部とは形状を異にすると主張するところ、前掲甲第一号証によれば、本件公報の図面第1図には保持部と端縁部とが「く」の字状に直線的に屈曲した保護具が図示されていることが認められる。しかし、右図面に示された保護具は、本件考案実施例にすぎず、本件考案が端縁部の形状を右図面に示されたもののように限定したと解すべき根拠はない。本件考案の実用新案登録請求の範囲にいう「保持部の先端に角度をつけ外側へ屈曲させた」という表現は、必ずしも端縁部が直接的に屈曲しなければならないことを意味するものとはいいがたいし、考案の詳細な説明にも特に端縁部の形状をそのようなものに限定するような記載は認められない。右考案の詳細な説明によれば、本件考案の端縁部は、保持部の先端に外側に開く形で形成されていることにより、保護具を柱に嵌着する際の案内となるものであるが、イ号物件の端縁部も保持部の先端を外側に湾曲させて形成しているものであるから、本件考案の端縁部と同様の作用効果を奏することは明らかである。
したがつて、イ号物件の構成dは、本件考案の構成要件Dを充足する。
(五) イ号物件の構成eは本件考案の構成要件Eを充足する(「鋭角」の点は3で述べたところと同じである。)。
(六) イ号物件の構成fが本件考案の構成要件Fを充足することは明らかである。
(七) イ号物件は、前記の構成を有することにより、本件考案の作用効果と同じ作用効果を奏するものと認められる。
(八) よつて、イ号物件は本件考案技術的範囲に属する。
3 次に、ロ号物件と本件考案とを対比する。
(一) ロ号物件の構成a、b、c、d及びfがそれぞれ本件考案の構成要件A、
B、C、D及びFを充足することは、イ号物件について述べたところと同じである。
(二) そこで、ロ号物件の構成eが本件考案の構成要件Eを充足するか否かを検討する。
(1) 本件考案の構成要件Eは、「中央湾曲部の背面部で鋭角部よりも中央寄りの個所に長手方向に沿つて係合用突起を形成」するものであるところ、本件考案の実用新案登録請求の範囲に記載された文言からは、係合用突起の形成される場所が「中央湾曲部の背面部」であり、かつ「鋭角部よりも中央寄りの個所」という限定がなされているから、「鋭角部」の部分すなわち湾曲部と保持部との屈曲部分は係合用突起の形成場所からはずれることは明らかである。
(2) また、本件考案は前記(1)ないし(4)の作用効果を奏するものであるところ、特にこのうち(3)、(4)の作用効果は、係合用突起の形成場所として「鋭角部」を除外したことによるものであり、仮に、係合用突起が「鋭角部」に形成されたとすれば、このような作用効果を奏しないことが明らかである。そして、
前掲甲第一号証によれば、本件公報の「考案の詳細な説明」欄には「…もしも突起が板状の角部に位置すると、この突起のために角部が出つ張り、前述のように保護具同士を重ねると、更に角部が出つ張るばかりでなく、突起の存在で角部の剛性が増して弾性が小さくなり、保持部の拡開幅とその嵌着力が減少する」(3欄二〇行〜4欄一行)と係合用突起が「鋭角部」に形成された場合の欠点を指摘し、「本考案では突起を鋭角部から離れた個所に設けたから」前記(3)、(4)の作用効果を奏する旨明記されていることが認められる。
したがつて、本件公報の「考案の詳細な説明」の右のような記載を参酌すれば、
本件考案は、その係合用突起の形成場所として「鋭角部」を意識的に除外したものというべきであり、係合用突起が「鋭角部」すなわち湾曲部と保持部の屈曲部分に形成されたものは本件考案技術的範囲に入らないことが明らかである。
(3) さらに、本件考案の係合用突起の位置を前記のとおり解すべきことは、本件考案出願経過からみても明らかである。すなわち、本件考案出願経過として被告の主張3(三)(2)記載の事実があつたことは当事者間に争いがなく、右事実によれば、本件考案の出願当初の明細書では突起の位置が「中央湾曲部から両方の鋭角部に至る背面部」とされていたにすぎなかつたが、原告らは特許庁審査官から昭和五八年七月五日付け拒絶理由通知書(乙第二号証)を受けたことに対応して、同年九月二二日付け補正書(乙第三号証)を提出して、係合用突起の位置を前示構成要件(4)のように限定する旨の補正を行い、同日付け意見書でも、突起が「鋭角部」よりも中央寄りに形成されることにより本件考案が独自の作用効果を奏する旨を明確に主張しているのである。右の出願経過からみても、出願人が、係合用突起が形成される位置には「鋭角部」を含まないように意識的限定を行つたことは明らかである。
原告らは、前記昭和五八年七月五日付け拒絶理由通知書における審査官の進歩性なしとの判断は錯誤に基づくものであり、もしこの拒絶理由通知がなかつたならば、前記補正はなされず、本件考案の突起の位置が中央湾曲部から鋭角部に至る間を全部包含していたとして、前記補正は誤つた拒絶理由により歪曲されているから、本件考案の突起の位置が「鋭角部よりも中央寄り」に限定されたものと解釈すべきではない旨主張する。しかし、拒絶理由通知における審査官の判断に誤りがあろうとなかろうと、明細書補正をなすか否か、またどのような内容の補正をするかということは、出願人がその責任において決すべきことであつて(出願人において、審査官の拒絶理由通知の判断に誤りがあると考えれば、その旨意見書で主張すればよいし、それにもかかわらず拒絶査定を受けたときは、査定に不服があれば審判を請求することができる。)、出願人が拒絶理由通知に接して、拒絶査定を免れるために補正を行つた以上、後になつて侵害訴訟の場において、権利者が拒絶理由通知は審査官の錯誤によるもので補正の必要はなかつたと主張するようなことは、
まさにいわゆる包袋禁反言の原則に照らして許されないものといわなければならない。原告らの右主張は、主張自体失当である。
(4) 一方、ロ号物件の構成eは、「湾曲部の背面部で前記約九〇度の屈曲部に長手方向に沿つて係合用突起を形成した」というものであり、係合用突起が本件考案の構成要件Eの「鋭角部」に相当する湾曲部と保持部の屈曲部に形成されているものである。したがつて、ロ号物件の係合用突起は、前記のとおり本件考案において係合用突起の形成場所として除外された「鋭角部」に形成されるものであるから、ロ号物件の構成eは本件考案の構成要件Eを充足しない。
なお、原告らは、ロ号物件においても、突起は湾曲部の両端近くに設けられてはいるが、端部自体に設けられたものではなく、端部から中央寄りに設けられていると主張し、別紙参考図(一)、(二)を援用する。しかし、突起にはある程度の厚み(幅)があるのは当然であるから、突起の位置が鋭角部(屈曲部)にあるか鋭角部(屈曲部)から離れた個所にあるかは、突起全体で判断すべきであり、原告らが右参考図(一)、(二)でいうような突起の中央側端部である「係合部」が湾曲部の両端から少しでも離れているか否かというようなことで判断すべきものではない(このことは、本件考案が「鋭角部」から離れた個所に突起を設けたことにより前記作用効果(3)、(4)を奏するとした趣旨にかんがみても明らかである。)。
また、原告らは、湾曲部の両端は端部といつても点ではなく、別紙参考図(三)記載のとおり約二七〇度の広がりを有しており、ロ号物件の突起は右二七〇度の広がりの中央(一三五度)より湾曲部中央寄りにあると主張するが、本件考案の係合用突起は、中央湾曲部の「背面部」で鋭角部よりも中央寄りの個所、換言すれば、湾曲部の背面部の両端よりも中央寄りの個所に形成されなければならないものであり、原告ら主張のような湾曲部両端部の角度的な広がりを云々することは意味がないというべきである。原告らの右主張は採用の限りでない。
(5) 原告らは、ロ号物件の係合用突起が本件考案にいう「鋭角部」に形成されているとしても、ロ号物件の構成と本件考案の構成とは均等である旨主張する。
しかし、ロ号物件のように係合用突起を湾曲部と保持部の屈曲部に形成した構成と、本件考案のようにこれを「鋭角部よりも中央寄りの個所」に形成した構成とでは、作用効果が異なること前示のとおりであるから、ロ号物件の構成と本件考案の構成との間に置換可能性があるとはいえない。また、ロ号物件のように係合用突起を湾曲部と保持部の屈曲部に形成することは、出願人において、本件考案の構成から意識的に除外したものと解すべきことも前示のとおりであり、このように出願人が意識的に除外した事項が登録実用新案の構成と均等であると主張することは許されないものというべきであるから、右の点からみても原告らの主張が理由のないことは明らかである。さらに、原告らは、被告側には原告らとの間の信頼関係を破壊した違法性があるから、その点からも均等の成立を認めるべきである旨主張する。
しかし、そもそも、ある物品が登録実用新案の技術的範囲に属するか否かは、当該物品の技術的構成と考案の構成要件とを客観的に対比して判断すべきものであるし、仮に、原告ら主張のような被告側の背信性の事実が認められるとしても、既に述べた理由により均等の成立を認めるに由ない本件において、均等の成否の判断を左右する事情になりうるとは考えられない。原告らの右主張は採用できない。
(三) 以上のとおりであるから、ロ号物件は本件考案技術的範囲に属しない。
六 そこで、請求原因6(被告の悪意)について判断する。
1 本件考案が昭和五七年五月一四日に出願公開され、昭和五九年五月一五日に出願公告されたことは、前示のとおりである。
ところで、実用新案法13条の3第1項は、「実用新案登録出願人は、出願公開があつた後に実用新案登録出願に係る考案の内容を記載した書面を提示して警告をしたときは、その警告後出願公告前に業としてその考案を実施した者に対し、その考案が登録実用新案である場合にその実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の支払を請求することができる。当該警告をしない場合においても、
出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知つて出願公告前に業としてその考案を実施した者に対しては、同様とする。」と規定している。しかるところ、本件において、原告らは、被告に対し同項前段の「警告」をしたことについては何ら主張、立証せず、被告がイ号物件を製造、販売するについて同項後段の「出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知つて出願公告前に業としてその考案を実施した者」(以下「悪意者」という。)に当たる旨主張している。そこで、右悪意の点についてみるに、同項後段は「出願公開がされた実用新案登録出願に係る考案であることを知つて」と規定しており、また、悪意者であることは同項前段の「警告」をしない場合の補償金請求権発生のための要件であるところ、「警告」については「出願公開があつた後に」「考案の内容を記載した書面を提示して」なされなければならないとされていることを考慮すると、右の「悪意者」であるというためには、考案の実施者が当該考案についての実用新案登録出願が出願公開されたことと、当該考案の同一性を認識できる程度に考案の内容を知つていたことが必要であると解される。
2 そこで、以下、被告の悪意の点について検討する。
原本の存在及び成立に争いのない甲第二六号証、いずれも成立に争いのない乙第八ないし第一〇号証、第二一号証、弁論の全趣旨により原本の存在と成立の真正を認める甲第二四号証、いずれも被告代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認める乙第一二ないし第一七号証の各一、二、証人【D】、同【E】の各証言、原告【A】、被告代表者(後記措信しない部分を除く。)各本人尋問の結果及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実が認められる。
(一) 原告【A】は、昭和四二年に二上木材を設立し、同社は木材の販売等を業としていた。また、昭和四六年には、同原告も参加して、木材の販売等を目的とする訴外宮滝産業株式会社が設立された。
(二) 原告らは、昭和五一年に新たな柱等保護具の開発を始め、同年四月一二日には本件考案とは別の「建物の柱、敷居、鴨居等用養生カバー」の考案について原告【A】を出願人として実用新案登録出願を行い(実願昭五一―第四七三〇六号)、さらに同年五月一四日には本件考案の原出願の実用新案登録出願(実願昭五一―六一八二〇号)を行うとともに、同年一〇月二七日に訴外宮滝産業株式会社の商号を「フタバ産業株式会社」(以下「フタバ産業」という。)と変更し、原告らの開発した柱等保護具は二上木材において訴外近藤化学工業株式会社(以下「近藤化学」という。)に製造させて、その販売はフタバ産業が担当するようになつた。
(三) その後、本件考案に係る柱等保護具も昭和五二年五月頃には製品化され、
他の形状の柱等保護具とともにフタバ産業によつて販売され、同社の使用していた養生カバーの散らしには「実用新案・意匠登録出願済」の文字が記載されていた。
(四) 【B】は、もと訴外永大産業株式会社に勤務し、合板の製造部門の仕事に従事していたが、同社を退社した後の昭和五三年二月に二上木材に雇用され、フタバ産業の柱等保護具の販売業務に従事することになつた。【B】は、前記のフタバ産業の散らしの記載を見たり、原告【A】から話を聞いたりすることにより、フタバ産業の販売している柱等保護具について実用新案登録出願がなされていることを知つていたが、本件考案の出願関係書類を見せられたことはなかつた。
(五) 【B】は、昭和五五年一月に二上木材を退社し、昭和五六年一月からは「荒瀬商店」の名でフタバ産業の代理店として柱等保護具の販売をするようになり、さらに昭和五七年三月一日、荒瀬商店を法人化して被告を設立した。
(六) ところが、【B】は昭和五六年一一月頃、日大工業(ただし、当時同社はまだ設立前であり、後に同社の設立後代表取締役になる【D】の父親が経営していた訴外新日本化学工業株式会社の営業部門であつた。)及び大阪樹脂工業と業務提携して、フタバ産業の販売している柱等保護具と同種の製品を独自に製造して販売することを企て、右三者の間で、製品は大阪樹脂工業が製造し、日大工業が在庫管理及び配送を担当し、荒瀬商店が販売を担当することを合意した。そして、大阪樹脂工業では同月中に金型を発注して、同年一二月頃からイ号物件を含む柱等保護具の製造を始めた。
(七) 右【B】ら三者は、前記業務提携を約するに当たり、昭和五六年一一月にフタバ産業の販売している柱等保護具について実用新案権の出願状況の調査を丸山国際特許事務所に依頼したが、右時点での同事務所の調査結果では、二件の実用新案登録出願があり、一件は拒絶が確定し、他の一件(実開昭五二―一五二三二八号、すなわち本件考案の原出願)の方は昭和五六年一〇月一五日現在最終結果が出ていないというものであつた。その後も引き続き同事務所の調査は続けられ、昭和五七年二月には、実開昭和五二―一五二三二八号の出願について補正却下決定がなされ、新たに実用新案登録出願(実願昭五六―一三一三一八号、すなわち本件考案の出願)がなされたが、まだ出願公開になつていないことが判明した。そして、同事務所の昭和五七年六月二九日付け報告書で、同事務所が特許庁に問い合わせた結果、実願昭和五六―一三一三一八号の出願について最近出願公開になつたことが判明し、関係書類を取り寄せる手配をした旨の報告がなされた。
(八) 一方、【B】は、昭和五七年二月頃、二上木材の【F】専務の訪問を受け、【B】が独自に柱等保護具の販売を始めたことにつき、今後は二上木材の商売敵だと言われたほか、前後して近藤化学の【G】部長から呼び出されて面会した際、【B】らが販売を始めた製品は原告らが実用新案登録出願をしているものと同じであり、商道徳にも反するから、金型を持つてきて謝罪したらどうかと言われた。しかし、これらいずれの場合も、【B】が本件考案の出願関係の書類等を見せられることはなかつた。フタバ産業は、【B】の行為が背信的であるとして、同年三月、荒瀬商店との代理店契約を破棄した。
(九) 昭和五七年七月六日、丸山国際特許事務所からの連絡により、【B】、大阪樹脂代表取締役の【E】、前記【D】ほかが同事務所に集まり、【C】弁理士から出願公開された本件考案の内容について公開公報に基づき説明を受け、対策を検討した。その結果、イ号物件は本件考案について実用新案権が成立すればその侵害になる可能性があるが、突起の位置を湾曲部の両端に持つてくれば侵害にならないだろうとの判断がなされた。
以上の事実が認められ、被告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。
3 右認定の事実によれば、被告は、昭和五七年七月六日の時点で、イ号物件の製造、販売につき実用新案法13条の3第1項後段の定める「悪意者」になつたというのが相当である。
4 ところで、被告は、本件考案は出願公開時の実用新案登録請求の範囲の記載がその後の昭和五八年九月二二日付け手続補正書によつて変更されたから、原告らが補償金請求権を取得するためには、右変更後の実用新案登録請求の範囲に基づいて警告書を送付するか、又は変更後の実用新案登録請求の範囲について被告が悪意であることを要する旨主張する。しかるところ、原告らが昭和五八年九月二二日付け手続補正書によつて明細書の実用新案登録請求の範囲補正を行つたことは前示のとおりであり、前掲甲第一二号証、第一五号証によれば、本件考案の出願公開時の実用新案登録請求の範囲及び右手続補正書によつて補正された実用新案登録請求の範囲は、被告の主張4(二)記載のとおりであると認められる。そして、右双方の実用新案登録請求の範囲の記載を対比すれば、補正後の実用新案登録請求の範囲は出願公開時のそれを明確化するとともに、一部については構成を限定し減縮したものであることが明らかである。そして、前記五で検討したところからすれば、右補正前の出願公開時の本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載によつてもイ号物件は本件考案技術的範囲に属するものと判断される。したがつて、原告らが、本件考案の出願公開後出願公告までの間に被告がイ号物件の製造、販売をしたことによる補償金請求権を取得するためには、右補正後に改めて警告等を行うことによつて被告が補正後の実用新案登録請求の範囲の内容を知ることを要しないものというべきである。
七 次に、請求原因7(出願公開後のイ号物件等の製造、販売)について、検討する。
被告は、昭和五七年七月六日の時点でイ号物件の製造、販売を中止した旨主張するところ、右同日、被告及び被告と業務提携関係にあつた日大工業、大阪樹脂工業の三者が、イ号物件の改造を行うことを決めたことは、前示のとおりである。そして、前掲証人【D】、同【E】の各証言、被告代表者本人尋問の結果によれば、前記【B】、【D】、【E】らは、右同日、丸山国際特許事務所からの帰途さらに協議した結果、イ号物件の製造を即日中止し、ただちに金型を修正に出すことを決めたことが認められる。そして、証人【E】と被告代表者は、修正した金型は翌日(証人【E】)あるいは二、三日(被告代表者)で出来上がり、直ちに大阪樹脂工業において新製品(ロ号物件)の製造に取り掛かり、同月一二日には最初のロ号物件を出荷した、イ号物件の在庫品は廃棄した旨供述しており、いずれも証人【E】の証言により成立を認める乙第二六、第二七号証の各一ないし八(大阪樹脂工業から日大工業への製品の納品書及びその受領書)も右各供述に副うような大阪樹脂工業から日大工業への製品の出荷状況を示す記載になつている。しかし、一方、証人【D】は、金型の修正に何日位かかつたか記憶はないが、新製品の出荷まで早くとも二週間はかかる、日大工業ではイ号物件の在庫品はそのまま出荷しており、廃棄はしなかつた旨供述しており、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認める甲第二八号証、第二九号証の一ないし六(売上帳)によれば、同年七月六日以降も引き続き日大工業から被告に対し柱等保護具の出荷が行われていることが窺われる。
もつとも、右甲第二九号証の一ないし六にせよ、乙第二六、第二七号証の各一ないし八にせよ、いずれもイ号物件(旧製品)とロ号物件(新製品)が同じ品番で記載されており、その間の区別が記載上なされていない。右のとおり、昭和五七年七月六日以降も被告がイ号物件を販売していたかどうかについては、対立する証拠があり、これらの証拠を総合して検討すれば、被告が右同日以降もその数量の多少は別としてイ号物件を販売したのではないかという疑いは強いというべきである。そして、被告が、当初、イ号物件を昭和五七年七月二〇日まで販売したことを認めたが、その後、それを同月六日までと訂正したことは被告の自認するところであり、
このことも参酌すれば、右の疑いはますます強くなるというべきである。しかし、
右主張の訂正を自白の撤回とみるべきか否かについてもなお検討すべき問題があるうえ、本件証拠上は、前掲のもの以外にはイ号物件の販売終期確定の資料となる証拠はなく、イ号物件の販売終期を昭和五七年七月六日とみるか、被告が一旦は認めた同月二〇日とみるか、はたまたそれらと別の時期とみるべきかにわかに確定し難いものがあるが、いずれにしても被告が悪意になつた同年七月六日以降に被告が販売したイ号物件の数量ないしその金額を確定するに足る証拠はない。
そうすると、被告がイ号物件を販売したことによる原告らの補償金請求は、その金額の算定基礎となるイ号物件の販売数量、金額が明らかでなく、その意味で、結局、理由がないといわざるをえない。なお、右イ号物件の販売数量、金額にかかわりなく本件考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額を算定しうるものと認めるべき証拠はない。
八 以上によれば、原告らの本訴請求は、その余の点について判断するまでもなく、全て理由がないから、これを棄却すべきである。
反訴について
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
二 被告は、原告らによる本訴の提起が不法行為を構成する旨主張するので、検討する。
1 まず、被告は、イ号物件及びロ号物件はいずれも本件考案と構成を異にし、そもそも本件考案はその構成が出願前に全部公知であつたから、イ号物件及びロ号物件がいずれも本件考案技術的範囲に属しないことは明らかであると主張するところ、右のうちロ号物件が本件考案の構成と異なることはそのとおりであるが、その余の主張が理由のないことは、本訴についての判断で判示したとおりである。したがつて、右の被告主張のような理由で本訴の提起が全体として違法視される余地のないことは明らかである。もつとも、本訴のうちロ物件に関する請求に限つてみれば、ロ号物件は本件考案技術的範囲に属しないものであり、その判断理由として判示したところにかんがみると、当業者であれば、そのことを知ることがそれ程困難であつたとはいえないと思料される。しかし、原告らがロ号物件が本件考案技術的範囲に属しないことを知りながらあえて本訴を提起したと認めるべき証拠はないのみならず、前示のとおり、ロ号物件と本件考案とでは係合用突起の位置が異なるが、その余の構成は同一であると解されることと、被告がロ号物件を製造、販売するに至つた経緯に照らすと、原告らがロ号物件もイ号物件とともに本件考案技術的範囲に入るとして本訴を提起したゆえんも、あながち理解できないものではなく、原告ら主張のような解釈も、所詮採用できないものではあるにせよ、議論としては全く成り立ち得ないものでもないと考えられること等の事情を参酌すると、原告らがイ号物件に関する請求と合わせて、ロ号物件についても本件考案技術的範囲に属するとしてその差止めや損害賠償等を請求したことをもつて、裁判制度の濫用であり、違法な行為であるとまではいえない。
2 次に、被告は、イ号物件については、被告は昭和五七年七月六日に製造、販売を中止しており、原告らから書面による警告もなかつたから、イ号物件に関し被告が補償金の支払義務を負担するいわれは全くなく、本訴提起は不当であるという。
しかし、本訴提起時に原告らにおいて被告が実用新案法13条の3第1項後段の「悪意者」になつたのが昭和五七年七月六日であり、しかも同日限り被告がイ号物件の製造、販売を中止したことを確実に知りえたと認むべき証拠はないから、被告の右主張は失当である。
3 さらに、被告は、ロ号物件については本訴提起前に被告の輔佐人弁理士が原告らに対し、ロ号物件が本件考案技術的範囲に属しないことを明確に説明し、無用の紛争を避けるべく努めたと主張するところ、成立に争いのない乙第二三号証によれば、原告らから被告に送付された警告書に対する回答書として本訴提起前の昭和六〇年六月一〇日付けで右主張のような内容の書面を被告代理人の弁理士から原告ら代理人の弁理士宛に送付した事実が認められる。しかし、前記1に判示した事情に照らすと、右のような事実が認められることを考慮しても、なお前記1で述べた判断は左右されるものではないというべきである。
4 以上のとおり、原告らの本訴提起が違法な行為であると認めることはできない。
三 以上によれば、被告の反訴請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないから、棄却すべきである。
結論
よつて、原告らの本訴請求及び被告の反訴請求をいずれも棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条92条本文、93条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。
裁判官 上野茂
裁判官 小松一雄
裁判官 青木亮
  • この表をプリントする