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関連審決 審判1993-18044
関連ワード 技術的範囲 /  権利濫用(権利の濫用) /  考案 /  考案者 /  図面 /  構造 /  物品 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  先願 /  通常実施権 /  独占的通常実施権 /  実施例 /  公知技術 /  設計変更 /  先願 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 5年 (ワ) 7332号
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裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1995/05/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求の趣旨
一 被告らは、別紙(一)及び(二)記載の配線用引出棒を製造し、販売し、販売のために展示してはならない。
二 被告らは前項の物件を廃棄せよ。
三 被告らは各自、原告ジェフコム株式会社に対し、三四九九万二〇〇〇円及びこれに対する平成五年八月一二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
四 訴訟費用は被告らの負担とする。
五 仮執行の宣言
事案の概要
一 以下の請求原因事実については、当事者間に争いがない。
1 原告【A】(以下「原告【A】」という。)の実用新案権と原告ジェフコム株式会社(以下「原告会社」という。)の独占的通常実施権 原告【A】は、左記の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有しており、原告【A】が代表者である原告会社は、本件実用新案権について独占的通常実施権を有している(但し、登録日及び登録番号については乙第二〇号証により認められる。)。
考案の名称 配線用引出棒出 願 日 昭和五八年九月三日(実願昭五八ー一三七二二二)出願公告日 平成四年一〇月二六日(実公平四ー四五三七六)登 録 日 平成五年八月二七日登録番号 第一九八〇八一八号実用新案登録請求の範囲「先端から根元へ順次外径寸法が増加する複数本のつなぎ竿15…を、外径寸法の大きいものの根元から外径寸法の小さいものを挿入して先端側への引張力にて引抜けないように、かつ、伸縮自在に連結して、引出棒本体1を形成し、
かつ該つなぎ竿15…をグラスファイバー等の絶縁材質とし、
さらに、該引出棒本体1の先端16に電球6等の照明乃至目印部を、該引出棒本体1の根元側から目視可能として付設し、
しかも、根元方向へ内側が向くように、弯曲した、線を挟んで引く引っ掛け部4、及び、先端方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで押すための押し部14を、一本の線状部材にて連続状に形成して、
上記引出棒本体1の先端16に設けたことを、
特徴とする配線用引出棒。」(別紙実用新案公報〔以下「公報」という。〕参照。)2 本件考案の構成要件 本件考案の構成要件は、以下のとおり分説するのが相当である。
a 先端から根元へ順次外径寸法が増加する複数本のつなぎ竿15…を、外径寸法の大きいものの根元から外径寸法の小さいものを挿入して先端側への引張力にて引抜けないように、かつ、伸縮自在に連結して、引出棒本体1を形成し、
b かつ該つなぎ竿15…をグラスファイバー等の絶縁材質とし、
c さらに、該引出棒本体1の先端16に電球6等の照明ないし目印部を、該引出棒本体1の根元側から目視可能として付設し、
d しかも、根元方向へ内側が向くように、弯曲した、線を挟んで引く引っ掛け部4、及び、先端方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで押すための押し部14を、一本の線状部材にて連続状に形成して、上記引出棒本体1の先端16に設けたことe を特徴とする配線用引出棒3 本件考案の作用効果イ 狭い天井裏や壁間の箇所にて、短縮して持ち込んで後に、その場で伸張して使用できて、至便である(公報4欄41行〜44行)。
ロ 一本の線状部材をもって、連続状に、引っ掛け部4及び押し部14を形成したから、製作が容易でかつ構造がシンプルとなり、電線を引いたり押したりする時に、他の物に不意に干渉しない。そのため容易・迅速に作業ができる(同5欄1行〜5行)。
ハ 伸縮自在でありながら強く引っ張った場合にも、その引張力でつなぎ竿15…は分離しないので、耐久性に富む(同5欄6行〜8行)。
ニ 感電事故の虞がなく、安全に作業できる(同5欄9行)。
ホ 引出棒本体1の先端の照明ないし目印部を、作業者が根元側から目で確認しながら作業できるため、天井裏や壁間等の暗い箇所での作業が著しく容易となる(同5欄10行〜6欄2行)。
4 被告らの行為 被告らは、別紙(一)及び(二)記載の配線用引出棒を製造し、販売し、販売のために展示している(以下、別紙(一)の物件を「イ号物件」、別紙(二)の物件を「ロ号物件」という。)。
5 イ号物件及びロ号物件の構造上の特徴及び作用効果(一) イ号物件(1) 構造上の特徴A プラスチックからなる引出棒本体101は先端が細く、根元が太いように、順次外径寸法の変化する複数本のつなぎ竿115…を、伸縮自在に連続してなっている。
B この引出棒本体101の先端116に頭部118が取付けられ、この頭部118は、根元方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで引く引っ掛け部104と先端方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで押すための押し部114(両者は、一本の線状部材にて連続状に形成されている。)と、先端照明用電球106とこれを保護するカバー107とを備え、先端116に着脱可能に接続ナット108で取付けている。
C 配線用引出棒である。
(2) 作用効果 前記3の本件考案の作用効果と同じである。
(二) ロ号物件(1) 構造上の特徴X プラスチックからなる引出棒本体201は先端が細く、根元が太いように、順次外径寸法の変化する複数本のつなき竿215…を、伸縮自在に連続してなっている。
Y この引出棒本体201の先端216に頭部218が取付けられ、この頭部218は、根元方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで引く引っ掛け部204と先端方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで押すための押し部214(両者は、一本の線状部材にて連続状に形成されている。)と、先端蛍光目印部206とを備え、先端216に着脱可能に接続ナット208で取付けている。
Z 配線用引出棒である。
(2) 作用効果 前記3の本件考案の作用効果と同じである。
6 イ号物件及びロ号物件と本件考案の対比イ号物件及びロ号物件は、以下のとおり本件考案技術的範囲に属する。
(一) イ号物件について(1) 構成の対比 イ号物件の構成Aは、本件考案の構成要件a、bを充足する。
イ号物件の構成Bのうち、引出棒本体101の先端116に先端照明用電球106を該引出棒本体101の根元側から目視可能として付設していることは、本件考案の構成要件cを充足する。
イ号物件の構成Bのうち、根元方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで引く引っ掛け部104と先端方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで押すための押し部114を、一本の線状部材にて連続状に形成していることは、本件考案の構成要件dを充足する。
イ号物件の構成cは、本件考案の構成要件eを充足する。
(2) 作用効果の対比 イ号物件の作用効果は、前記のとおり本件考案の作用効果と同じである。
(二) ロ号物件について(1)構成の対比 ロ号物件の構成Xは、本件考案の構成要件a、bを充足する。
ロ号物件の構成Yのうち、引出棒本体201の先端216に先端蛍光目印部206を該引出棒本体201の根元側から目視可能として付設していることは、本件考案の構成要件cを充足する。
ロ号物件の構成Yのうち、根元方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで引く引っ掛け部204と先端方向へ内側が向くように弯曲した、線を挟んで押すための押し部214を、一本の線状部材にて連続状に形成していることは、本件考案の構成要件dを充足する。
ロ号物件の構成Zは、本件考案の構成要件eを充足する。
(2)作用効果の対比 ロ号物件の作用効果は、前記のとおり本件考案の作用効果と同じである。
7 被告らによるイ号物件及びロ号物件の製造販売高 被告らは、平成四年一一月一日から平成五年七月末日までの間に、イ号物件及びロ号物件を合計三億四九九二万円分製造販売し、少なくとも三四九九万二〇〇〇円の利益を得た。
二 原告らの請求と被告の抗弁 原告らは、本件実用新案権又はその独占的通常実施権に基づき、被告らに対し、
イ号物件及びロ号物件の製造販売、販売のための展示の停止及び廃棄を求めるとともに、原告会社は、被告らによる本件考案についての仮保護の権利の侵害行為により被告らの得た利益と同額の損害を被ったとして、被告ら各自に対し、三四九九万二〇〇〇円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成五年八月一二日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
イ号物件及びロ号物件が本件考案技術的範囲に属することは前示のとおり争いがなく、被告らは、権利の濫用、先使用による通常実施権(以下「先使用権」という。)を主張して争うものである。
三 争点1 本件考案の実用新案登録に無効事由があり、原告らの請求は権利濫用に当たるか。
2 被告らは本件考案について先使用権を有するか。
争点に関する当事者の主張
一 争点1(本件考案の実用新案登録に無効事由があり、原告らの請求は権利濫用に当たるか)【被告らの主張】1 公知技術について 本件考案は、次の(一)ないし(四)記載のとおり、その構成要件がすべて出願前公知の特許公報又は実用新案公報に記載されており、いったんは公知の資料に基づいて拒絶査定がされたものであり、公知資料記載の発明又は考案の単なる総和に過ぎず、そこには何の進歩性もなく、各発明又は考案の効果の総和以上の予期しえない新しい効果を生ずるものでないことが極めて明らかで、本来登録されるべきでないのに誤って登録されたものである。
(一) 昭和五年実用新案出願公告第一〇〇二三号(乙第二号証)の「登録請求ノ範囲」には、「図面ニ示ス如ク長キ把持杆(1)内ニ電池(2)ヲ装置シ其ノ端子導線ヲ押釦開閉器(5)ヲ通シテ把持杆先端内ニ附設セル電球(6)ニ接続シ該電球ノ反射鏡ノ前部ニハ内方ニ傾斜セル截頭円錐形ヲナス光ノ拡散防止壁(8)ヲ設ケ且其ノ開口ヲ特殊ノ着色透光板(9)ニテ遮蔽シ把持杆先端ニハ電線指導鉤(10)(10ダッシュ)ヲ固着シテ成ル軍用夜間電線架設器ノ構造」と記載され、
「実用新案ノ性質、作用及効果ノ要領」の欄には、「(10)(10ダッシュ)ハ相対向シテ曲ケラレタル電線指導鉤ニシテ把持杆(1) ノ端部ニ固着セラレ電線ヲ是レニ掛ケテ樹木ノ枝等ニ架設スルニ供ス」との記載がある。したがって、右考案には、本件考案の構成要件c及びdに相当する技術思想が含まれている。
(二) 実開昭五五ー四〇六八七号公開実用新案公報(乙第一号証)の実用新案登録請求の範囲には、
「伸縮自在の棒の先端部に球状又は双舟艇形状の案内用部材とケーブルを引掛けるフックを設けた事を特徴とするケーブル布設棒。」と記載されている。右考案には、本件考案の構成要件a及びdに相当する技術思想が含まれている。
(三) 実開昭五二ー一四三六九号公開実用新案公報(乙第三号証)の実用新案登録請求の範囲には、「1 一側にケーブルとの連結部材を備え他側に引出鉤との掛止部材を備えたケーブル引出用掛止具。2 実用新案登録請求の範囲第1項記載のケーブル引出用掛止具において、連結部材を加圧によりケーブルに喰込むような金属製挟着片としたもの。3 実用新案登録請求の範囲第1項記載のケーブル引出用掛止具において、掛止部材を弾性繊維の輪状集合物で構成したもの。4 実用新案登録請求の範囲第1項記載のケーブル引出用掛止具において、連続部材を金属製又は合成樹脂製の挟着片と締付環で構成したもの。5 実用新案登録請求の範囲第1項および第3項記載のケーブル引出用掛止具において、掛止部材をてぐす又は合成樹脂繊維としたもの。」との記載があり、また、実施例第5図には引出鉤8、鉤片9、豆電球10が示されている。両者相俟って、ここには本件考案の構成要件c及びdに相当する技術思想が含まれている。
(四) 特開昭五三ー四八八八号公開特許公報(乙第四号証)の特許請求の範囲第1項には、「引き伸しのできる中空グラスロッド状の継ぎ竿に…(中略)…電動または手動で継ぎ竿を伸縮操作する本体と…(後略)」と記載され、本件考案の構成要件a及びbが示されている。
2 明細書の要旨の変更について 原告【A】の本件考案の出願手続における補正は、以下のとおり、出願当初の原明細書又は図面に記載された範囲を越えて実用新案登録請求の範囲を変更したもの、すなわち明細書の要旨を変更したものといわなければならず、繰り下がった出願日を基準とすれば、本件考案は全部公知の考案というべきであるから、その実用新案登録には無効原因がある。
(一) 明細書の要旨の変更とは、実用新案登録請求の範囲に記載された事項が実質的に変わる場合を言うと解すべきであるが、
出願公告をすべき旨の決定の送達前にした補正については、出願当初の明細書又は図面に記載された事項の範囲内である限り、実用新案登録請求の範囲を変更しても要旨の変更とはみなされない(実用新案法9条、特許法41条)。そして、出願当初の明細書又は図面の直接表現されていなくても出願時に当業者に自明な事項は右の「記載された事項」に含まれるものと解すべきであるが、このような自明な事項に当たるというためには、その考案の技術分野では周知の事項であり、しかも、明細書に記載された考案の目的から当業者が判断すれば当然その考案に利用できることが分るような場合であって、その事項自体が明細書に記載されていたのと同視できるものであることを要する。
(二) 乙第七号証によれば、本件考案の出願当初(出願人は【B】外一名)の明細書(以下「当初明細書」という。)には、「この考案は、天井裏や壁の中等のように狭いところに配線する場合にこの引出棒を差し込み(4)又は(5)に引っ掛けて引き出すものである。従来は、このようなものはなく普通の竿や番線や鋼鉄線等を使用しているが、なにしろ手探りの作業であり、竿が長くてあつかいにくく、
線は途中で障害物にあたり進まず長時間かかっておる現状である。」((1)頁16行〜(2)頁3行)ので、このような欠点をなくし、作業能率を高め配線を正確に位置付けることができるようにするために、先端が細く、根元が太くなっている竿で、数本釣り竿のようにつなぎ合わせ伸縮自在にできるようにした引出棒で、先端に引っ掛ける部分と、結束して引くところと、線を挟んで押すところと、先端を照らす電球と、電球を保護するカバーを取り付けたもの、また、竿の継手が回らないように突出部を作り溝に差し込み、また、根元に乾電池、スイッチ、電線を巻くスプリング式自動巻き等を内蔵したものである旨記載されている。また、当初明細書添付の図面(以下「当初図面」という。)には、本件考案の斜視図、頭部の詳細図、頭部の根元の断面図が記載されている。
その後、原告【A】は、【B】外一名から本件考案について実用新案登録を受ける権利の譲渡を受け、昭和六二年一月一六日付(第一次)、昭和六三年二月一七日付(第二次)及び同年七月六日付(第三次)各手続補正書を提出して三度にわたる補正を行い、その結果、出願公告、登録に至った。
第一次補正では、実用新案登録請求の範囲において、引っ掛け部と押し部について、「線を挟んで引く引っ掛け部4及び線を挟んで押すための押し部14」(訂正明細書1頁8行、9行)と、引出棒の先端について、「引出棒本体1の先端16に電球6等の照明乃至目印部が設けられている実用新案登録請求の範囲第1項記載の配線用引出棒」(同11行〜13行)とする補正がされ(後者は実施態様項に関するもの)、実施例に関する説明において、「各つなぎ竿15自体はストレート状とし」(同4頁3行)、「この引っ掛け部4及び押し部14等の形状は種々設計変更可能である。」(同15行、16行)、「電球6に代えて、頭部18の一部、又は、引出棒本体先端16の一部に蛍光塗料を塗布したり蛍光樹脂を使用するも自由である。」(同18行〜20行)とする補正がされた。
第二次補正では、実用新案登録請求の範囲において、照明ないし目印部について、「さらに、該引出棒本体1の先端16に電球6等の照明乃至目印部を、該引出棒本体1の根元側から目視可能として付設し、」(手続補正書7頁9行〜11行)と、引っ掛け部と押し部について、「一本の線状部材にて連続状に形成し」(同15行、16行)とする補正がされた。
(三) 右の補正は、当初明細書のどこにも存在しない事項であって、出願後に新規に加入された事項である。
実用新案登録請求の範囲についての補正は、当初明細書に記載のない事項を考案の必須の構成要件とするものである。しかも、これらの補正に係る技術的構成は、
以下のとおり、出願時には配線用の引出棒の分野では周知の事項ではなく、しかも当初明細書に記載された考案の目的から当業者が判断すれば当然その考案に利用できることが分るような、当業者に自明な事項ではないから、これらが当初明細書に記載されていたと同視できる場合ではない。
すなわち、当初明細書では、引出棒の頭部に先端を照らす電球と電球を保護するカバーを取り付けたものであったが、第一次補正により、電球の外に目印部が付け加えられた。これは明らかに権利範囲を拡張するものであって許されない。また、
当初明細書では、引出棒の先端に引っ掛ける部分と結束して引くところと線を挟んで押すところを設ける旨記載されているのに、第一次補正により、線を引く部分が「結束して引く」から「線を挟んで引く」と変更されており、引く方法が異なったものになっている。さらに、第二次補正における、引っ掛け部と押し部を一本の線状部材にて連続状に形成するとする補正については、当初明細書には全く記載がなく、当初図面第2図には引っ掛け部と押し部が一本として形成されているらしい図が記載されているが、引っ掛け部にはのこぎりの歯のような溝が刻んであるところからみて一本の線状部材ではなく鋳物であろうと思われる。形式上は範囲を限定したともみえるが、鋳物と線状部材は全く別のものであって、出願当初自明であったとはいえない。
(四) したがって、実用新案法9条、特許法40条により本件考案の実用新案登録出願は、少なくとも第一次補正がされた昭和六二年一月一六日にしたものみなされる。そうすると、要旨の変更によって繰り下がった右出願の日には既に当初明細書考案が公刊されているので、出願前公知の考案としてその実用新案登録が無効になることが明らかである。
現に、大丸興業株式会社及び被告ミノル工業株式会社(以下「被告ミノル工業」という。)が請求した無効審判事件(平成五年審判第一八〇四四号、同第二一五二〇号事件)において、平成六年一二月二六日、要旨の変更を認定したうえ、本件考案の実用新案登録を無効とする審決がなされた(乙第二〇号証)。
原告【A】は平成七年二月二七日右審決の取消訴訟を東京高等裁判所に提起したが、右審決が取り消される可能性は全くない。
3 ロ号物件が本件考案の実用新案登録出願前に公知公用のものになっていたことについて ロ号物件は、後記二【被告らの主張】1記載のとおり、本件実用新案登録出願前に、被告ミノル工業が大丸興業株式会社に製造させ、高野電機商会株式会社に販売していた(乙第六号証の1〜5、第八、第九号証、第一〇号証の1・2)。
他方、被告ミノル工業は、ロ号物件を、昭和五八年八月二九、三〇日に東京国際貿易センター新館において開催された「ジャンボびっくり見本市」Cブロックにおいて出品し、不特定多数の入場者の閲覧に供し、興味を示した多数の関係業者に手に触れさせて説明し、受注もした(乙第一二号証の1〜3、第一三号証、第一六、
第一七号証)。したがって、ロ号物件は、被告らが先使用権を有する商品であるにとどまらず、本件考案の出願前に公知になっていた商品である。
右の見本市には、原告会社(当時の商号はデンサン工業株式会社)も、被告と同じCブロックにおいて、本件考案に係る商品以外の従来商品を出展していた(乙第一二号証の1〜3、第一六、第一七号証)。したがって、原告【A】において、同業競業関係にある被告ミノル工業がロ号物件を出品していたことは、十分知悉していたはずである。このことは、原告【A】がロ号物件と競合する原告製品(先端にライトをつけた配線用引出棒)について、わずか二か月後の同年一一月七日に実用新案登録出願をした(以下「別件出願」という。)ことからも容易に想像できる。
ところが、原告【A】は、別件出願にかかる考案が既に出願公開されていたにもかかわらず、右見本市の後に出願された本件考案についての実用新案登録を受ける権利を、本件考案の出願後実に三年以上を経過した昭和六二年一月八日に至って、
被告のイ号物件及びロ号物件の製造販売の差止のためにわざわざ買い取り、明細書を三度にわたって全文訂正して考案の要旨を変更し、拡張し、審判請求をして出願公告されるや、未だ登録に至らないうちに、仮保護の権利を利用して本件訴訟を提起したものである。
4 以上1ないし3のいずれからみても、本件考案の実用新案登録には無効事由があり、原告らの請求が権利濫用に当たることは明らかである。
原告らの主張 被告らの権利濫用の主張は、以下のとおりいずれも失当というべきである。
1 公知技術についての被告らの主張について 被告らの主張は、各構成要件がそれぞれ公知のものであったとの主張であって、
主張自体失当である。
2 明細書の要旨変更の主張について 被告は、本件考案の出願手続における補正明細書の要旨を変更したものである旨主張するが、いずれも理由がない。
(一) 実用新案登録請求の範囲補正(1) 第一次補正における、引っ掛け部と押し部について、「線を挟んで引く引っ掛け部4及び線を挟んで押すための押し部14」(訂正明細書1頁8行、9行)とする補正について 当初図面第2図には、引っ掛け鍵4と線を挟み押し出し用くぼみ14が示されており、右の第2図は公報第2図と全く同一である。これを引っ掛け部と押し部とに補正したものである。また、当初明細書に「引っ掛けやすいように内側をノコギリの刃のようになっておる鍵(4)と…線を挟んで押し出す部分(14)((2頁16行〜18行)と記載されているように、引っ掛け部(4)及び押し部(14)も、線を挟むものであることは当初明細書の記載自体から明らかである。
(2) 第一次補正おける、引出棒の先端について、「引出棒本体1の先端16に電球6等の照明乃至目印部が設けられている実用新案登録請求の範囲第1項記載の配線用引出棒」(訂正明細書1頁11行〜13行)とする補正、及び第二次補正における、照明ないし目印部について、「さらに、該引出棒本体1の先端16に電球6等の照明乃至目印部を、該引出棒本体1の根元側から目視可能として付設し、」(手続補正書7頁9行〜11行)とする補正について 当初明細書によると、本件考案は、「天井裏や壁の中等のように狭いところに配線する場合にこの引出棒を差し込み(4)又は(5)に引っ掛けて引き出すもの」((1)頁16行〜18行)であり、また、「電気、電話、消防用設備等の各工事の配線等や暗闇のところの建築物の配線、配管等の点検、その他、多目的に使用出来る」((2)頁6行〜8行)ものである。そうすると、本件考案にあっては、
「棒の先端部に『目印部』」があることが必要であり、かつ、その「目印部」は「根元側から目視可能として付設する」ことが必要である。けだし、目印部がなければ、暗闇のところで本件考案に係る引出棒を使用しても意味がなく、また、その目的物が根元側から目視可能でなければ、その目的物を設けたこと自体が意味をなさないからである。
(3) 第二次補正における、引っ掛け部と押し部について、「一本の線状部材にて連続状に形成し」(手続補正書7頁15行、16行)とする補正について 当初図面第2図に引っ掛け鍵4と線を挟み押し出し用くぼみ14が示されており、右の第2図が公報第2図と全く同一であることは前記(1)のとおりである。
そして、当初明細書考案の詳細な説明(ロ)には、「引っ掛けやすいように内側をノコギリの刃のようになっておる鍵(4)と結束のできるリング(5)と線を挟んで押し出す部分(14)」((2)頁16行〜18行)と記載されており、それらが連続状に一本の線状部材にて形成されていることは、右記載の第2図から明らかである。
(二) 実施例の記載の補正 実施例の記載の補正は、実用新案登録請求の範囲補正と全くその性質を異にし、元来要旨の変更が問題となるものではないが、念のため反論する。
(1) 第一次補正における、「各つなぎ竿15自体はストレート状とし」(訂正明細書4頁3行)とする補正について 乙第一号証によっても明らかなように、この種の引出棒として伸縮自在棒を用いることは公知自明のことに属している。しかるに、本件考案においては、当初明細書で「根元が太くなっている…」という無用の限定を付していたので、「ストレート」のものも含まれる旨の実施例を加えたまでのことであり、その要旨を変更するものではない。
(2) 第一次補正における、「この引っ掛け部4及び押し部14等の形状は種々設計変更可能である。」(訂正明細書4頁15行、16行)とする補正について 引っ掛け部及び押し部等の形状については、当初図面の第1、第2図以降現在までそのまま開示されており、かつ右各図面実施例を開示するものであるから、実用新案登録請求の範囲内で種々の設計変更が可能であることは、考案の本質からいって当然のことである。
(3) 第一次補正における、「電球6に代えて、頭部18の一部、又は、引出棒本体先端16の一部に蛍光塗料を塗布したり蛍光樹脂を使用するも自由である。」(訂正明細書4頁18行〜20行)とする補正について 当初明細書における実用新案登録請求の範囲には、「先端を照す電球(6)」とあり、実施例にも「電球(6)」と記載されている。しかしながら、当初図面は必ずしも電球そのものを示しておらず、本件考案の目的からすれば、必ずしも電球(6)そのものにこだわる必要はない。「先端を照らす…」ものであればよく、そのことによって目的を達することができるものである。むしろ、「先端を照らす…」と表現したことは、かえって電球(6)そのものを意味するものではなく、
「根元側から目視可能」なものであり、かつ、先端を照らす機能を有するものであればよいことを示しているのである。そうすると、この記載を「電球6等の照明乃至目印部」とし、その実施例として、「蛍光塗料を塗布したり蛍光樹脂を使用するも自由である。」と補正することは、考案の要旨を変更するものではない。
3 ロ号物件が本件考案の実用新案登録出願前に公知公用のものになっていたとの主張について ロ号物件について本件考案の実用新案登録出願前の先使用の事実は認められず(この点は争点2に関して詳述する。)、したがって、ロ号物件が本件考案の実用新案登録出願前に公知公用のものになることもない。
なお、原告【A】が被告ら主張の「ジャンボびっくり見本市」の会場に行ったのは、原告会社も右見本市に展示をしていたからであり、そのついでに会場全体を見たことがあるに過ぎない。
また、被告らは、原告【A】が、本件考案についての実用新案登録を受ける権利を譲り受けたことを非難するが、原告【A】が別件出願をしていたとしても、先願があればその実用新案登録を受ける権利を譲り受け、自己の権利をより強いものにすることは知的所有権の社会にあっては当然のことである。
二 争点2(被告らは本件考案について先使用権を有するか)【被告らの主張】1 ロ号物件について(一)被告ミノル工業は、昭和五八年三月頃、訴外高野電機商会株式会社(現商号・株式会社タカノスマイル)から、釣竿を利用して電線の配線用引出棒を作れば売れるのではないかとの引合いを受け、かねて取引のある大丸興業株式会社に相談した。同社は、釣竿の製造販売部門があり、その製造技術を有していた。当時から伸縮自在の釣竿は公知の技術として存在していたが、釣竿に求められる「しなり」すなわち弾力性は配線用引出棒にはかえって適さず、また、天井裏などで配線の作業をする場合先端に発光体が必要であり、電線を引っ張ったり押し込んだりする必要からそれに適した金具がどのような構造形態であるべきかを被告ミノル工業と大丸興業株式会社が相談し、最終的に被告ミノル工業において、先端金具の形状、ポールの径・長さ・強度・収納時の長さ等を決定し、昭和五八年七月末にはロ号物件と同一の構成と作用効果を有する物品を大丸興業株式会社に製造させ、遅くとも同年八月中にはこれを高野電機商会株式会社に販売した(乙第六号証の1〜5、第八、第九号証、第一〇号証の1・2)。
なお、ロ号物件は、「釣竿の先に針金を付けただけのもの」という商品価値の低下をカバーする必要があったこと、この種の商品は薄暗い天井裏の配線にも使用するものであることから、製品化に当たって当初頭部に電球を付けた商品とすることを予定していた。しかし、電球付とするとコスト高となり販売価格を高く設定しなければならないので、被告ミノル工業は、配線用引出棒のような比較的安価な器具にコストをかけては売れないと判断し、電球の代替品として蛍光塗料を塗布することを着想し、竿の先端部分(先端等全体)につきガラス繊維クロスを透明ポリエステルで固めて透明とし、この先端部分に蛍光塗料を塗装し、これを第一弾商品として商品化したものがロ号物件である(乙第一八号証の1〜4)。検乙第一号証(配線用引出棒)は、被告ミノル工業が製作したロ号物件の原初のものであり、現在のロ号物件(検乙第二号証)と構成、外観は全く同じである。
(二) 原告は、誰がロ号物件の考案を完成したかを問題とするが、誰が考案を完成したかは本件訴訟とは直接関係がない。けだし、考案が完成していたからこそロ号物件が商品として完成したのであり、商品が完成していたという事実によって、
考案が完成していたことは十分明白であるからである。
他方、頭部形状については、製品の性質上、電線の押しと引き寄せが可能なものであればよいのであるから、誰でも任意に考えられる程度のものであり、考案者云々というような性質のものではない。ただ、当事者としては、商品として販売するための意匠上における形状を確定しただけのことである。
ただ、ロ号物件を敢えて考案品とするなら、被告ミノル工業代表者が本件考案の内容を知らないで考案したものである。
しかし、被告ミノル工業は、このようなものが新規な考案に値するものとは考えていなかったので、外には多数の知的所有権を有していながら、この件については何らの出願もしていない。大丸興業株式会社の実用新案登録出願及び意匠登録出願は、あくまで同社が単独で出願したものである。
(三) また、原告は、乙第六号証の1(大丸興業株式会社の売掛金元帳中、被告ミノル工業関係の昭和五八年八月三一日現在分)にいうEポールは部品であり、ロ号物件でないことは明らかである旨主張するが、Eポールとは、大丸興業株式会社が釣竿製品と区別するために、電気用製品であることを示すElectricの頭文字をとって名付けた名称であり、現在でも社内や外注先への連絡名称として使用されている(乙第一一号証の1〜5・出荷依頼書又は出荷指図書)。この乙第一一号証の1〜5は「付属部品」に関するものであるから、「Eポールフック」「Eポール用ネジ」等と表示されているが、このことは、かえって「Eポール」は完成品であることを示すものである。
2 イ号物件について(一) イ号物件がロ号物件と異なるのは、ロ号物件においては棒の先端が蛍光塗装されているのに対して、棒の先端に電球が付けられているという点だけであり、
特許法上はロ号物件と同じ物品と評価されるべきである。前記1(一)のとおり、
イ号物件と同一の構成を有する商品は、既にロ号物件の製品化に先立って構想されていたのであり、ロ号物件の売行きをみた上で第二弾商品として商品化することを予定していたものである。
ロ号物件は、古くから電気工事業者が「一般に市販されていた釣竿(振り出し式グラスロッド)の先端に針金を取り付けて使用していたもの」を商品化した程度のものであるから、売行きは芳しくないと予想していたが、予期に反して、昭和五八年八月二九、三〇日に東京国際貿易センター新館において開催された前記「ジャンボびっくり見本市」において需要の大きいことが確認されたので、早速第二弾商品としてイ号物件の製造に着手し、昭和五九年三月末日までには、大丸興業株式会社が製造して被告ミノル工業に納入し、被告ミノル工業が高野電機商会株式会社に販売している。
(二) このように、コストが高くつくライトを頭部に付けたイ号物件は、特許法上はロ号物件と同じ物品と評価されるべきであるのみならず、コストの安いロ号物件を発売した後に第二弾商品として発売することを当初から予定していた商品であって、本件考案の出願前から準備していた商品であるから、ロ号物件と同様事業の目的の範囲内のものであり、先使用権の範囲内のものである。
イ号物件がロ号物件と実質的に同一の製品とみなされるべきものであることは、
本件考案の当初明細書では蛍光塗料について一言の記載もなかったのに、補正によってその追加記載が許され、実用新案登録を受けているという事実に徴しても明らかである。
【原告らの主張】1 ロ号物件について 以下のとおり、ロ号物件の考案者考案の時期が明らかでなく、図面等も存在しないから、考案自体完成していないものであり、仮に考案自体は完成しているとしても、先使用の事実はなかった。
(一) 実用新案法26条で準用する特許法79条によれば、「特許出願に係る発明の内容を知らないで自ら発明をし」と規定されているから、先使用権を主張する被告らは、いつ、誰がロ号物件に係る考案を完成させたのかを明らかにしなければならない。
検乙第二号証には実用新案・意匠登録申請済と記載されており、これらの出願は大丸興業株式会社によってされたものであるとのことであり(被告ミノル工業代表者)、そして、実用新案登録出願は拒絶査定を受け、意匠登録出願については昭和六〇年八月一九日意匠登録を受けた。
(二) 被告らがロ号物件について先使用の事実を証する証拠として提出するものは、いずれも信用できないものである。
(1) 乙第六号証の1には、「8・31・Eポール」と記載されているだけであり、これがロ号物件であるか否かは不明である。
また、被告ミノル工業代表者は、ロ号物件の量産サンプルができたのは昭和五八年七月の半ばくらいだと供述し、その裏付けとして乙第八号証の、同年八月五日から一〇日の間に高野電機商会株式会社に納品されたとの記載を援用するが、一方、
乙第六号の1(大丸興業株式会社の売掛金元帳)の記載によると、先使用された製品の代金は、八月一五日締切で同月末に被告ミノル工業から大丸興業株式会社に支払われることになるところ、乙第六号証の1のように処理日が八月三一日であれば、九月一五日締切で同月末日支払となり一か月も入金が遅れることになるから、
乙第六号証の1と乙第八号証は、全く矛盾するものである。
乙第八号証は、作成名義人の【C】(高野電気商会株式会社代表取締役)の名前まで被告ミノル工業においてワープロで打ったものである上、被告ミノル工業代表者は、添付図面の作図者について佐當特許事務所であると虚偽の供述をしている。
(2) 乙第六号証の1、第一一号証の1〜5にいう「Eポール」は、被告ミノル工業代表者の供述によれば部品であり、したがって、ロ号物件でないことは明らかである。
(3) 大丸興業株式会社によるロ号物件についての実用新案登録出願及び意匠登録出願の日は昭和五八年一〇月一一日であるから、もし被告らの主張のとおりにロ号物件について先使用の事実があったとすれば、実用新案登録出願も意匠登録出願も拒絶されるべきものであり、意匠登録を受けても(甲第二号証)、無効審判によって無効とされるべきものである。大丸百貨店の子会社であるという大丸興業株式会社が、右出願の二か月も前に、考案又は創作に係る製品を他人に納入することは全く考えられない。
(4) 検乙第一号証(配線用引出棒)は、被告ミノル工業代表者によればサンプルに過ぎず、検乙第一号証の製品そのものについて先使用の事実はない。
しかも、検乙第一号証の先の黄色い部分と黒い部分の間にテープが付けてあり、
被告ミノル工業代表者の供述によれば、これは昭和五八年の六月か七月に折れたためであるとのことであるが、最初のサンプルができあがったのが昭和五八年六月頃というのであるから、これが六月か七月に折れるというのは不自然である。また、
右のテープに経時変化がないのも不自然である。
(5) 乙第九号証(Eポール部品図面)は、頭部の形状が検乙一号証と全く異なるものであり、蛍光塗料の記載もない。被告ミノル工業代表者は、検乙第一号証は設計変更したものであると供述するが、その設計変更をしたという図面は存在しない。
(6) 検乙第三号証(前記「ジャンボびっくり見本市」における被告ミノル工業の展示場所の写真)では、製品の頭部の形状、構造、蛍光塗料の有無は全く分からない。
(7) 甲第二号証(大丸興業株式会社出願に係る電線配線用工具の意匠公報)によれば、登録意匠では、頭部の金具の形状は明らかであるが、蛍光塗料の有無は明らかではない。
(8) 乙第一八号の1〜4(昭和五八年六月二七日付図面)は作成日のとおり作成されたものか疑わしく、仮にそうであったとしても、その頭部の形状は乙第九号証のとおりであって、ロ号物件とは異なる。
2 イ号物件について 右のとおりロ号物件自体について先使用の事実が立証されていないが、仮にこれが立証されたとしても、イ号物件はロ号物件とは別製品であるから、被告らがイ号物件についてまで先使用権を有することにはならない。
考案として同じであるかどうかと、先使用権の対象として同じであるかどうかとは、別問題である。イ号物件とロ号物件とは、ともに本件考案技術的範囲に属するが、先使用権の関係では、イ号物件の実施とロ号物件の実施とは、本件考案技術的範囲のうちでそれぞれ異なる技術(考案)の実施である。
被告らは、両者は「釣竿の先に針金を付けただけのもの」であるから同様であると主張するかのようであるが、釣竿と配線用引出棒とは技術分野を異にするものであるから、イ号物件とロ号物件とは異なるものである。
争点に関する判断
一 争点2(被告らは本件考案について先使用権を有するか)について判断する。
1 証拠(甲第二号証、乙第六号証の1〜5、第七ないし第九号証、第一〇号証の1・2、第一一号証の1〜5、第一二号証の1〜3、第一三号証、第一四号証の1・2、第一六、第一七号証、第一八号証の1〜4、検乙第一ないし第三号証、被告ミノル工業代表者、原告兼原告代表者、検証の結果)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 被告ミノル工業代表者は、昭和五八年二月ないし三月頃、高野電機商会株式会社の取締役副社長である【C】から、被告株式会社マーベル(当時の商号は高橋興産株式会社。以下「被告マーベル」という。)の社員を通じ、電気配線工事の現場では魚釣り用の伸縮竿(グラスファイバー製の振出し竿。価格は二〇〇〇円から三〇〇〇円程度。)の先端に引っ掛け金具を取り付けた手作りの竿で配線工事をしているが、これを製品化してほしいとの依頼を受け、その際、見本として、魚釣り用の伸縮竿の先端に単純にU字状に曲げた針金を取り付けた手作りの竿を示された。
被告ミノル工業代表者は、高野電機商会株式会社の依頼に係る配線用引出棒が単純な構造であることから商品価値に疑問を持ったが、同社から第一回の注文として三〇〇本の製造を依頼されたので、これを製品化することにし、昭和五八年五月中旬頃、釣具事業部を有する商社である大丸興業株式会社(大丸百貨店の子会社)に実際の製造を依頼した。
(二) 被告ミノル工業代表者、大丸興業株式会社の【D】及び高野電機商会株式会社の【C】は、それぞれの会社における職務の一環として、配線用引出棒の構造について協議を重ねた。
被告ミノル工業は、大丸興業株式会社に対し、竿の部分の形状は魚釣り用の伸縮竿と同様(先端が細く、根元が太いように、順次外径寸法の変化する複数本のつなぎ竿を伸縮自在に連結する。)とするが、材質について、天井裏の狭い場所で使用する配線用引出棒では、通常の釣竿のように先端がしなっては正確な作業ができない等問題があることから、特に丈夫なものとするよう依頼した。大丸興業株式会社は、昭和五八年五月二〇日、竿の金型を三進精工株式会社に発注した(乙第一〇号証の1・2。大丸興業株式会社では、通常の釣竿と区別するため右開発中の製品を内部的呼称としてElectricの頭文字をとってEポールと称していた。同社及び後にその釣具事業部が独立した株式会社ダイコーでは、現在のイ号物件及びロ号物件もこの名称で呼んでいる。乙第一一号証の1〜5)。
また、この配線用引出棒は天井裏等暗い場所で使用されるものであることから、
【C】の提案もあり、当初頭部に電球等照明を付けることが検討された。しかし、
被告ミノル工業は、開発中の配線用引出棒の価格を一万円程度に設定する予定であったところ、その基本的な構造は当時電気配線工事の現場で使用されていた前記(一)のような手作りの配線用引出棒と同じであったので、照明を付けて価格がさらに高くなるようでは売れなくなるのではないかと考えられ、他方、右のような手作りの配線用引出棒と全く同一の構造では商品価値がないと判断されたことから、
とりあえず、ガラス繊維クロスを透明ポリエステルで固めて、これに蛍光塗料を塗って蛍光目印部とし、フックと合わせて頭部としたものを製品化することとし、その売行きをみて頭部に電球を付けたものも商品化するかどうかを決めることにした。この蛍光目印部を設けることは、既に昭和五八年六月二七日には考えられていた(乙第一八号証の1〜4・大丸興業株式会社の担当者が同日付で製図した「Eポール」の図面。それぞれ先端が細く根元が細いように外径寸法が変化する、八本の太さの異なる竿が一組となって構成され、最先端の一本については「透明ポリ」で「蛍光色塗装」とすることが記載されている。フックの形状の記載はない。)。
さらに、頭部のフックの形状は、引っ掛け部と線を挟んで押すための押し部(一本の線状の部材を折り曲げて製造する。)を備えたものにすることにし、当初は側面から見てクエスチョンマークに近い形のものが考えられていたが(乙第九号証・昭和五八年七月一六日付「Eポール部品」の図面)、被告ミノル工業代表者が、この構造では細い電線を引っ掛けるときに滑るおそれがあるとして、先端部をやや細く尖らせることにし、現在のロ号物件のフック形状に変更した。
(三) 以上の経過を経て、ロ号物件と同一の構造上の特徴を有する配線用引出棒のサンプル(検乙第一号証)が昭和五八年七月中に完成した。
さらに、被告ミノル工業代表者は、よりコストを下げるため、右サンプルのうち各つなぎ竿先端のリング状金具及びグリップの滑り止めの糸を省くことを決めてロ号物件を完成した。
こうして、同年八月上旬には大丸興業株式会社からロ号物件一〇本が被告ミノル工業に納品され、被告ミノル工業は、これを直ちに被告マーベルを通じて高野電機商会株式会社に販売した(ただし、竿の色は、現在は黄色であるのに対し、当時は茶色であった。)。商品名は、そのころ、【C】により、ケーブルキャッチャーと命名された。さらに、被告ミノル工業は、同年九月上旬に一〇〇本、同月中旬に一〇〇本のロ号物件を高野電機商会株式会社に販売し、その後も被告マーベルを通じて継続して同社に販売している。
(四) 被告ミノル工業は、昭和五八年八月二九日、三〇日に東京晴海の国際貿易センター新館で開催された「ジャンボびっくり見本市」に七五〇〇円の価格を付してロ号物件を出品したところ、予想外に好評を博し、注文も受けたことから、ロ号物件を量産することとした。
(五) 昭和五八年一一月二四日頃、本件考案の出願人の一人である【B】が、被告ミノル工業に付し、本件考案の出願書類の控えを送付して、本件考案の実用新案登録を受ける権利を買うように働き掛けたが、被告ミノル工業は、その頃には既にロ号物件を販売していたので、これを断った(その後、本件考案の実用新案登録を受ける権利は、昭和六二年一月八日に【B】外一名から原告【A】に譲渡された。
乙第七号証。)。
(六) 被告ミノル工業は、ロ号物件の売行きが好調なことから、当初の構想どおり先端に電球を取り付けた配線用引出棒すなわちイ号物件も、ロ号物件より多少値段が高くても売れるという見通しがついたので、昭和五九年三月頃、イ号物件の販売を開始した。
以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
2 原告らは、被告ら提出の証拠について種々論難するが、以下のとおりいずれも失当である。
(一) 原告らは、乙第八号証にロ号物件が昭和五八年八月五日から一〇日の間に高野電機商会株式会社に納品されたとの記載があり、一方、乙第六号証の1(大丸興業株式会社の売掛金元帳)の記載によると、先使用された製品の代金は八月一五日締切で同月末に被告ミノル工業から大丸興業株式会社に支払われることになるところ、乙第六号証の1のように処理日が八月三一日であれば九月一五日締切で同月末日支払となり、一か月も入金が遅れることになるから、乙第六号証の1と乙第八号証は全く矛盾するものである旨主張するが、売掛金元帳(乙第六号証の1)で八月三一日が処理日となっていることと、それ以前に大丸興業株式会社から被告ミノル工業に納品されたロ号物件が高野電機商会株式会社に納品されたとする乙第八号証の記載とは、何ら矛盾しない。
乙第八号証は、作成名義人の【C】(高野電気商会代表取締役)の名前まで被告ミノル工業においてワープロで打ったものであるが、だからといってその一事をもって信用性が否定される理由はない。また、乙第八号証の添付図面は、訴状添付の別紙(二)ロ号配線用引出棒の図面を複写したものであることは明らかであるが、
被告ミノル工業代表者がその作図者について佐當特許事務所である旨供述したのは、被告ミノル工業代表者自らが乙第八号証の作成に関与していないため、被告ミノル工業が本件考案の実用新案登録の無効審判請求を委任した(乙第二〇号証)弁理士(佐當国際特許事務所)が作図したと勘違いしたことによるものであると推認されるから、被告ミノル工業代表者の右の供述を虚偽であるとして非難するのは当たらない。
(二) 原告らは、乙第六号証の1、第一一号証の1〜5にいう「Eポール」は部品であり、したがって、ロ号物件でないことは明らかである旨主張するが、乙第一一号証の1〜5には「Eポール フック」「Eポール用ネジM2X16」「Eポールソケットホルダー」などと記載されており、「Eポール」自体は完成品(ロ号物件)を意味すると解される。
(三) 原告らは、被告らの主張のとおりにロ号物件について先使用の事実があったとすれば、大丸興業株式会社による実用新案登録出願も意匠登録出願も拒絶されるべきものであり、意匠登録を受けても(甲第二号証)無効審判によって無効とされるべきものであるから、大丸百貨店の子会社であるという大丸興業株式会社が右出願の二か月も前に考案又は創作に係る製品を他人に納入することは全く考えられない旨主張するが、そのようなことはありえないことではなく、特に異とするに足りない。このことは、大丸興業株式会社が大丸百貨店の子会社であることによって何ら左右されるものではない。
(四) 原告らは、検乙第一号証の製品そのものについて先使用の事実はない、乙第九号証(Eポール部品図面)は、頭部の形状が検乙第一号証と全く異なるものであり、蛍光塗料の記載もなく、その設計変更をしたという図面は存在しない、検乙第三号証(「ジャンボびっくり見本市」における被告ミノル工業の展示場所の写真)では、製品の頭部の形状、構造、蛍光塗料の有無は全く分からない、甲第二号証(大丸興業株式会社出願に係る電線配線用工具の意匠公報)によれば、登録意匠では頭部の金具の形状は明らかであるが、蛍光塗料の有無は明らかではない、乙第一八号の1〜4(昭和五八年六月二七日付図面)は作成日のとおり作成されたものか疑わしく、仮にそうであったとしてもその頭部の形状は乙第九号証のとおりであってロ号物件とは異なるなどと論難する。
しかし、乙第九号証、第一八号証の1〜4により、昭和五八年七月一六日までに頭部のフックの形状を除きロ号物件と同一の構造上の特徴を有する配線用工具が設計されていたことは明らかである。また、製品開発の過程で設計変更がされるのは通常のことであり、その後、同月中にフックの形状を現在のロ号物件のように変更した検乙第一号証の製品がサンプルとして完成し、さらにコスト削減のため各つなぎ竿先端のリング状金具及びグリップの滑り止めの糸を省くことが決められてロ号物件が最終的に製品化されたことは、前記1冒頭掲記の各証拠及び弁論の全趣旨により優に認定することができる。
(五) なお、甲第三号証の1〜6、第四号証の1〜4、第五、第六号証の各1〜6、第七号証の1〜4、第八号証の1〜7、第九号証の1〜5によれば、被告ミノル工業は雑誌「電気と工事」に継続的に広告を掲載していたにもかかわらず、ロ号物件について広告をしたのは昭和五九年一月からであることが認められるが、ロ号物件は、当初は高野電機商会株式会社向けに製造された製品であり、本格的な製造は遅れたものであるから、右事実をもって被告ミノル工業がロ号物件の製造販売を開始したのは昭和五九年一月であるとすることはできない。
3 前記認定した事実に基づき、被告らが本件考案について先使用権を有するか否かについて検討する。
(一)ロ号物件については、前記認定事実によれば、被告ミノル工業代表者は、実際の製造を担当した大丸興業株式会社の【D】及び最初に提案をした高野電機商会株式会社の【C】とも協議の上、職務の一環として、本件考案の内容を知らないでその考案をし(1(一)ないし(三))、被告ミノル工業は、大丸興業株式会社に実際の製造を依頼して、昭和五八年八月上旬には同社からロ号物件の納入を受け、
これを被告マーベルを通じ高野電機商会株式会社に販売しており(1(三))、同月二九日、三〇日の「ジャンボびっくり見本市」でもロ号物件の注文を受けていた(1(四))、というのであるから、被告らは、本件考案の実用新案登録出願(昭和五八年九月三日)の際に現にロ号物件に係る考案の実施であるその製造販売の事業をしていたものと認められ、したがって、被告らは、本件考案についてロ号物件の製造販売、販売のための展示の範囲内で先使用権を有するものというべきである。
(二) 次に、イ号物件は、ロ号物件が頭部218に蛍光塗料を塗布した蛍光目印部206を有するものであるのに対して、頭部118に照明用電球106を有する点のみが相違するところ、前記認定事実によれば、被告ミノル工業としては、もともと頭部に電球等照明を付けた配線用引出棒を構想していたが、コストの関係でとりあえず、ガラス繊維クロスを透明ポリエステルで固めてこれに蛍光塗料を塗って蛍光目印部とし、これとフックを合わせて頭部としたものを製品化することとし、
その売行きをみて頭部に電球を付けたものも商品化するかどうかを決めることにしていたものであり(1(二))、昭和五九年三月頃にはイ号物件の販売を開始した(1(六))、というのであるから、イ号物件に係る考案自体はロ号物件に係る考案の完成と同時期に完成しており、被告らは、本件考案の実用新案登録出願の際に現にイ号物件に係る考案の実施であるその製造販売の事業の準備をしていたものと認められる。のみならず、先使用権は、実用新案登録出願の際に当該先使用権者が現に実施又は準備をしていた実施形式だけでなく、これに具現された考案と同一性を失わない範囲内において変更された実施形式にも及ぶものであるところ、ロ号物件のように引出棒本体の先端に蛍光目印部を設けたものも、イ号物件のように電球を付けたものも、本件考案と同一の技術思想の範囲内にあり、単に実施形式を異にするに過ぎないことは、本件考案の実用新案登録請求の範囲自体及び明細書の記載(公報4欄10行〜13行)から明らかであるから、ロ号物件の製造販売に基づく先使用権の効力は、イ号物件の製造販売にも及ぶというべきである。
したがって、被告らは、イ号物件の製造販売、販売のための展示に関しても、本件考案について先使用権を有するものというべきである。
二 結論 以上のとおり、被告らは本件考案についてイ号物件及びロ号物件の製造販売、販売のための展示の範囲内で先使用権を有するものであるから、原告らの被告らに対する請求は、その余の点について判断するまでもなくすべて理由がないというべきである。
追加
別紙実用新案公報(省略)別紙(一)イ号配線用引出棒一、図面の簡単な説明第1図全体斜視図である。
第2図短縮状態の側面図である。
第3図先端要部側面図である。
第4図先端要部平面図である。
第5図押し部に線を挟んで押す状態を示す斜視図である。
第6図引っ掛け部に線を挟んで引く状態を示す斜視図である。
第7図電球付きヘッド部と電池を抜き出した状態の斜視図である。
二、図面の詳細な説明プラスチックからなる引出棒本体101は先端が細く、根元が太いように、順次外径寸法の変化する複数本のつなぎ竿115…を、伸縮自在に連結してなっている。
この引出棒本体101の先端116に頭部118が取付けられ、この頭部118は、引っ掛け部104と線を挟んで押すための押し部114と、先端照明用電球106とこれを保護するカバー107とを備え、先端116に着脱可能に接続ナット108で取付けている配線用引出棒である。
以上<29469-001><29469-002><29469-003>別紙(二)ロ号配線用引出棒一、図面の簡単な説明第1図全体斜視図である。
第2図短縮状態の側面図である。
第3図先端要部側面図である。
第4図先端要部平面図である。
第5図押し部に線を挟んで押す状態を示す斜視図である。
第6図引っ掛け部に線を挟んで引く状態を示す斜視図である。
二、図面の詳細な説明プラスチックからなる引出棒本体201は先端が細く、根元が太いように、順次外径寸法の変化する複数本のつなぎ竿215を、伸縮自在に連結してなっている。
この引出棒本体201の先端216に頭部218が取付けられ、この頭部218は、引っ掛け部204と線を挟んで押すための押し部214と、先端蛍光目印部206とを備え、先端216に着脱可能に接続ナット208で取付けている配線用引出棒である。
以上<29469-004><29469-005>
裁判官 水野武
裁判官 小澤一郎
裁判官 本吉弘行
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