関連審決 |
審判1991-17220 |
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関連ワード | 考案 / 図面 / 構造 / 補正 / きわめて容易 / 削除 / 容易に想到 / 頒布 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
5年
(行ケ)
47号
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1995/09/27 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が、平成3年審判第17220号事件について、平成5年2月9日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者が求めた判決
1 原告 主文と同旨2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、昭和57年2月20日に実用新案登録出願され(実願昭57-22937号)、平成元年9月29日に出願公告され(実公平1-31912号)、平成3年7月23日に実用新案登録された登録第1859017号実用新案権(以下、その考案を「本件考案」という。)の権利者である。 原告は、平成3年8月29日、被告を被請求人として、上記実用新案登録を無効とすべき旨の審判の請求をした。 特許庁は、同請求を平成3年審判第17220号事件として審理したうえ、平成5年2月9日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年3月24日、原告に送達された。 2 本件考案の実用新案登録請求の範囲の記載 「密封キャビネットの庫内側と庫外側に連通する一対の開口を、連結アームで一体的に連結された一組の開閉シャッターにより開閉自在としたユニットケースの乾燥処理室内に、タイマーにより所望時間間隔毎に所定時間宛通電され発熱される加熱体によって加熱される乾燥剤を収容した熱良導性で通気性のある材質で構成した乾燥容器を配設し、該乾燥容器の近傍に、加熱されると収縮するよう処理された記憶合金線を臨ませるようにしてその一端を適宜ユニットケース内に固定させ、他端を前記連結アームに止着させるとともに、前記記憶合金線を伸長させる方向に付勢する引張りバネを連結アームとユニットケースとの間に張設し、加熱体により乾燥剤が加熱再生される期間中のみは記憶合金線が加熱収縮され、前記引張りバネに抗して連結アームを駆動し、前記シャッターにより庫内側の開口を閉止し、同時に庫外側の開口を開放させるように構成したことを特徴とする密封キャビネットにおける自動乾燥装置」(平成元年6月2日付け手続補正書による補正後のもの)3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、請求人主張の無効理由1、すなわち、本件出願公告決定の謄本の送達前にされた平成元年6月2日付け手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)は要旨を変更するものであるから、本件の出願は上記手続補正書が提出された平成元年6月2日にされたものとみなされ、そうすると、本件考案は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である請求人提出の書証(審判事件甲第16、第17、第20号証、本訴甲第18〜第20号証)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとの無効理由につき、本件補正を要旨変更と認めず、また、同無効理由2、 すなわち、仮に出願日が繰り下がらないとしても、本件考案は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物(審判事件甲第1〜第3、第5〜第8、第18号証、本訴甲第5、第6、第8、第9、第13〜第16号証)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるとの無効理由につき、これを認めず、したがって、請求人の主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案を無効とすることはできないとした。 |
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原告主張の審決取消事由の要点
1 審決の無効理由1についての判断中、当初の明細書の記載事項、周知事項及び「当初の第1図に記載された、乾燥剤容器8の右下の左下がりの斜線は仕切壁であって、記憶合金線7は仕切壁によって仕切られた下部の空間に収縮自在に設けられている」との各認定(審決書4頁20行〜6頁8行)は認める。 しかし、本件補正は、本件の願書に最初に添付した明細書及び図面(以下、図面を含め「当初明細書」という。甲第2号証)において「乾燥剤加熱容器内」とされていた記憶合金の配置位置を、「乾燥容器の近傍」とすることにより、乾燥剤加熱容器外を含むように拡大したものであるから、要旨を変更するものであり、これを要旨変更と認めなかった審決の判断は誤りであり、この誤りが審決の結論に影響することは明らかであるから、審決は違法として取り消されなければならない(取消事由1)。 仮に要旨変更でないとしても、本件考案は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である実願昭49-87806号(実開昭51-16264号)のマイクロフィルム(審判事件甲第1号証、本訴甲第8号証)及び実願昭54-118557号(実開昭56-39119号)のマイクロフィルム(審判事件甲第2号証、本訴甲第9号証)に示すシャッター駆動用電磁コイルの代わりに、実公昭45-13276号公報(審判事件甲第3号証、本訴甲第6号証)及び実公昭45-13277号公報(審判事件甲第18号証、本訴甲第5号証)記載のバイメタルを採用した自動乾燥装置において、シャッターを開閉するのにバイメタルに代えて、昭和56年8月1日発行「機械設計」25巻10号(審判事件甲第5号証、本訴甲第13号証)、昭和55年11月1日発行「自動化技術」11月号(審判事件甲第6号証、本訴甲第14号証)、昭和56年1月1日発行「鉄と鋼」VOL.67NO.1(審判事件甲第7号証、本訴甲第15号証)、昭和56年12月20日発行「科学と工業」VOL.55NO.11(審判事件甲第8号証、本訴甲第16号証)に記載された形状記憶合金を用いて、本件考案の構成とすることは、当業者がきわめて容易になしうることであるのに、審決は、これをきわめて容易になしえないとして、その判断を誤ったものであり、審決は違法として取り消されなければならない(取消事由2)。 2 取消事由1についての詳細(1) 当初明細書の実用新案登録請求の範囲には、「乾燥剤加熱容器内に記憶合金を配置し、受熱効果を効率良く利用したことを特徴とする自動乾燥器のシャッター開閉の構造。」と記載され、その考案の詳細な説明の項には、「記憶合金線7は乾燥剤容器8内の熱を対流、伝導して受熱し得るよう、乾燥剤容器8内に収縮自在に空間を設け埋設してある。乾燥剤容器下部13は一部開孔し、 アームの結合点11に結合線14が可動し得るものである。」(甲第2号証明細書2頁11行〜16行)、「以上の如く、記憶合金7部分を乾燥剤加熱容器内に設定する事により周囲温度の影響を受けにくく作用が極めて、安定して作動するものである。」(同4頁5行〜7行)と記載されている。 これらの記載と図面(第1図)によれば、乾燥剤容器8内の右下に仕切壁で斜めに仕切られた空間(以下「空間A」という。)があり、記憶合金コイル7はこの空間Aに埋設されており、その一端は乾燥剤容器8の内側に形成した内部固定点12に固定され、他端が結合部15で結合線14に結合されていること、乾燥剤容器8の下部(底面)には結合線14が可動しうるための一部開孔13が形成されており、この開孔13には空間Aが連なっており、この空間Aは乾燥剤容器8内を通って庫外方向に斜め上方に延びていることが明らかである。 このように、当初明細書には、記憶合金が乾燥剤加熱容器内に配置されていることは記載されているが、乾燥剤容器外に設けることは一切記載されていないし、記憶合金が乾燥剤加熱容器外に配置されることが自明であるということはできない。 (2)一方、本件補正により補正された明細書及び図面(以下、図面を含め「補正明細書」という。甲第3号証)によれば、当初明細書に記載されていた「乾燥剤加熱容器内に記憶合金を配置」する構成は、すべて削除され、補正明細書の実用新案登録請求の範囲には、「乾燥容器の近傍に、・・・記憶合金線を臨ませるようにして・・・固定させ」と記載され、考案の詳細な説明の項には、「乾燥容器5の凹陥部5Aに配設されたコイル状記憶合金線11」(同号証明細書7頁9行〜10行)と記載され、図面(第1〜第4図)には、記憶合金線11は三角コ字状の外部に開放された空間に配置されていることが示されている。すなわち、補正明細書の「近傍」は「容器内」のほか「容器外」を含むものとなった。 このように、本件補正により、記憶合金の配置位置が当初明細書に開示されていた「乾燥剤加熱容器内」以外の同容器外側空間をも含むようになったのであるから、本件補正は要旨を変更するものである。 被告は、「乾燥容器の近傍」とは、「乾燥容器からの熱を効率良く利用できる空間」であり、その限りにおいて乾燥容器の内外を問わないと主張するが、上記のとおり、当初明細書には、記憶合金線が乾燥容器の外側に配設されることは一切記載されていないのであるから、記憶合金線が「乾燥容器からの熱を効率良く利用できる空間」に限定された乾燥容器の外側に配置されることもまた記載されていないことが明らかである。 (3)そうすると、実用新案法9条で準用する特許法40条に基づいて、本件考案の出願日は、本件補正の日である平成元年6月2日に繰り下がるところ、審決は、 本件補正が要旨を変更するものでないと判断した結果、請求人(原告)提出の実願昭57-22937号(実開昭59-26597号)のマイクロフィルム(審判事件甲第16号証、本訴甲第18号証)、「早期審理に関する事情説明書」(審判事件甲第17号証、本訴甲第19号証)の記載や、これに添付された乾燥保管庫のカタログ及び実願昭57-117900号(実開昭59-24120号)のマイクロフィルム(審判事件及び本訴甲第20号証)に記載された考案は、いずれも、本件考案の出願後に公知になったものとして、これらの考案に基づく本件考案の容易推考性について判断しなかった。 したがって、審決の要旨変更についての判断の誤りは、審決の結論に影響を及ぼすことが明らかである。 |
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被告の反論の要点
1 審決の認定判断は正当であり、原告主張の各審決取消事由は、いずれも理由がない。 2 取消事由1についての反論(1)当初明細書(甲第2号証)には次の記載がある。 @ 「乾燥剤加熱容器内に記憶合金を配置し、受熱効果を効率良く利用したことを特徴とする自動乾燥器のシャッター開閉の構造。」(明細書1頁4行〜6行)A 「本考案は、乾燥剤加熱容器内に設け、加熱体の熱を有効に利用してシャッターの開閉力を得たことを特徴としたものである。」(明細書1頁12行〜15行)B 「記憶合金線7は乾燥剤容器8内の熱を対流、伝導して受熱し得るよう、 乾燥剤容器8内に収縮自在に空間を設け埋設してある。」(明細書2頁11行〜14行) そして、当初明細書に次の事項が記載されていることについては、原告も認めるところである。 C 記憶合金線7には、加熱体からの熱が乾燥剤を介して伝わり、加熱の進行に伴い、記憶合金7の変態点を越え、その時記憶合金7は乾燥剤容器8内の空間内で収縮作用する。 D 第1図に記載された乾燥剤容器8の右下の左下がりの斜線は仕切壁であって、 記憶合金線7は仕切壁によって仕切られた下部の空間に収縮自在に設けられている。 E 乾燥剤は記憶合金線とは混在せずに乾燥剤容器内に封入されている。 (2) ここにおいて、上記@の「乾燥剤加熱容器内に」とは、上記Dの記載より、「仕切壁によって仕切られた乾燥剤容器8の下部の空間に」の意味であることが理解できる。 そうすると、上記@の記載より、記憶合金線7を仕切壁によって仕切られた乾燥剤容器8の下部の空間に配置するのは、受熱効果を効率良く利用するためであることが理解できる。 そして、記憶合金線7は、受熱すると、上記空間内で収縮作用するものであることが上記Cの記載より理解できる。 また、受熱は加熱体からの熱の有効利用によるものであり(上記A)、記憶合金線7は乾燥剤容器8からの熱を受熱し、収縮作用するものであることが上記Bの記載より理解できる。 以上によれば、当初明細書には、次の技術的事項が記載されている。 ア 乾燥剤容器には乾燥剤が収容されている。 イ 記憶合金線7は仕切壁によって仕切られた乾燥剤容器8の下部の空間に収縮自在に設けられている。乾燥剤とは混在していない。 ウ 記憶合金線7を仕切壁によって仕切られた乾燥剤容器8の下部の空間に配置するのは、乾燥剤容器8からの熱の受熱効果を効率良く利用するためである。 エ 記憶合金線7は受熱によって収縮作用する。 (3) ところで、補正明細書(甲第3号証)には、「シャッターを駆動する駆動力源として記憶合金線を採用し、該記憶合金線を加熱によって収縮するように乾燥容器の近傍に配設したものであるから」(同号証明細書9頁13行〜16行)と記載されている。この記載により、記憶合金線を乾燥容器の近傍に配設するのは、記憶合金線が乾燥容器からの熱を受け、加熱によって収縮するようにしてシャッターの駆動力源として利用するためであることが理解できる。そうすると、上記「記憶合金線7を乾燥容器の近傍に配設する」ことの技術的意義と、上記ウの「記憶合金線7を仕切壁によって仕切られた乾燥剤容器8の下部の空間に配置する」ことの技術的意義とは互いに共通し、両者とも乾燥容器からの熱を効率良く利用して記憶合金線が受熱によって収縮するようにするという技術的意義を有するものであるということにおいて共通するものであることが理解できる。このような理解のうえに立つと、「乾燥容器の近傍」の技術的意義は、「乾燥容器からの熱を効率良く利用できる空間」であり、その限りにおいて乾燥容器の内外を問わないと理解できる。 このように理解することは、「近傍」の用語の意味すなわち「距離空間で、一点Pからの距離が或る値より小さいすべての点から成る部分集合を、Pの近傍という。」(広辞苑)において、Pを乾燥容器とした場合の記憶合金線の配置とも符合するものである。 そうすると、当初明細書に記載されている「記憶合金線7を仕切壁によって仕切られた乾燥剤容器8の下部の空間に配置する」(上記ウ)の空間は、「乾燥容器からの熱を効率良く利用できる空間」ということができるから、当初明細書には、 「記憶合金線を乾燥容器の近傍に配設する」技術的事項が記載されていることとなる。 そして、「記憶合金線を乾燥容器の近傍に配設する」ことと、本件補正後の実用新案登録請求の範囲記載の「乾燥容器の近傍に、・・・記憶合金線を臨ませる」こととは、表現が違うのみで実質的に同一の技術内容を意味することはいうまでもないから、「該乾燥容器の近傍に、加熱されると収縮するよう処理された記憶合金線を臨ませるようにして」(甲第3号証明細書4頁2行、 3行)なる技術的事項が当初明細書に記載されていることは明らかである。 したがって、審決の要旨変更についての認定判断は正当である。 |
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証拠関係(省略)
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当裁判所の判断
1 取消事由1(要旨変更についての判断の誤り)について(1)当初明細書(甲第2号証)には、その実用新案登録請求の範囲に、「乾燥剤加熱容器内に記憶合金を配置し、受熱効果を効率良く利用したことを特徴とする自動乾燥器のシャッター開閉の構造。」(明細書1項4行〜6行)と記載され、その考案の詳細な説明の項には、その冒頭に、「本考案は各種密閉キャビネットに付加して使う自動乾燥器の作動シャッターの開閉機構に関するものである。」(同1頁8行〜10行)として、本件考案の技術分野を明らかにし、次いで、「従来、シャッターの開閉は電磁弁又はモーターの回転力を利用したものが一般的であるが、本考案は、乾燥剤加熱容器内に設け、加熱体の熱を有効に利用してシャッターの開閉力を得たことを特徴としたものである。」(同1頁11行〜15行)として、本件考案の特徴が、加熱体の熱を有効に利用してシャッターの開閉力を得るものであって、その開閉力を与える手段を乾燥剤加熱容器内に設ける点にあることを明らかにし、これに続く本件考案の詳細構造を図面(第1図)により説明している部分において、この開閉力を与える手段が、乾燥剤容器8内に配置されたコイル状記憶合金線7(記憶合金7)であることを、次のとおり記載して明らかにしている。 「アーム5の上部に結合点11があり,これより乾燥剤容器8の内部固定点12間にコイル状記憶合金線7が配置してある。この記憶合金7は結合部15で結合線14に結ばれ,アームの結合点11と内部固定点12間に配置してある。乾燥剤容器8内には加熱体(図省略)及び乾燥剤(図省略)が熱的に接して配置され,記憶合金線7は乾燥剤容器8内の熱を対流,伝導して受熱し得るよう,乾燥剤容器8内に収縮自在に空間を設け埋設してある。乾燥剤容器下部13は一部開孔し,アームの結合点11に結合線14が可動し得るものである。」(同2頁5行〜16行) そして、図面(第1図)には、記憶合金7が、乾燥剤容器8内において、乾燥剤が収納されている部分とは仕切壁によって区分された右下の空間部分に設けられていることが示されていることが認められる。 この構成の説明に続いて、本件考案の作用が述べられ、加熱源により乾燥剤容器8内の加熱が進行すると、記憶合金7が変態点を越えて収縮し、この収縮力が引張りバネ6の力に打ち勝ってアームの結合点11に力が及びアーム5が動き、これに伴い、庫内シャッター4が閉じられ庫外シャッター3が開かれ、加熱源への通電が停止されると、乾燥剤容器の温度が低下し、記憶合金7も変態点以下となり、引張りバネ6の力が打ち勝って、アーム5が逆方向に動き、これに伴い、庫内シャッター4が開き庫外シャッター3が閉じられ、これを1サイクルとして、これを繰り返しタイマーにより自動的に行うことが説明されており(同2頁17行〜4頁4行)、最後に、「以上の如く,記憶合金7部分を乾燥剤加熱容器内に設定する事により周囲温度の影響を受けにくく作用が極めて,安定して作動するものである。」(同4頁5行〜7行)と記載して、考案の詳細な説明を終えていることが認められる。 当初明細書の以上の記載によれば、当初明細書に記載された発明は、加熱体の熱を有効に利用してシャッターの開閉力を得るものであって、その開閉力を与える手段としてコイル状記憶合金線(記憶合金)を用い、このコイル状記憶合金線(記憶合金)を乾燥剤加熱容器内に配置することを必須の構成としたものであることが明らかであり、当初明細書には、コイル状記憶合金線(記憶合金)を「乾燥剤加熱容器内」以外の場所に配置することに関して、何らの記載もなく、また、これを示唆する記載はないことが認められる。 (2)一方、補正明細書の実用新案登録請求の範囲の記載が前示のとおりであることは、当事者間に争いがない。 補正明細書(甲第3号証)にいう「乾燥容器」が、当初明細書(甲第2号証)にいう「乾燥剤加熱容器」と同じく、加熱体によって加熱される乾燥剤を収納した容器を指すことは、両明細書の記載から明らかであるから、上記実用新案登録請求の範囲の「乾燥容器の近傍に、加熱されると収縮するよう処理された記憶合金線を臨ませる」との記載によれば、本件補正により、記憶合金線の配置位置が、本件補正前の「乾燥剤加熱容器内」すなわち「乾燥容器内」から、「乾燥容器の近傍」に改められたことが明らかであり、補正明細書の考案の詳細な説明の項及び図面を検討しても、この「乾燥容器の近傍」の意味を「乾燥容器内」と同旨であると解釈すべきことは、何ら記載されていない。 そして、「近傍」の一般的な意味が「近所、近辺」と同旨であって、ある所から距離的に近い空間を意味すると解されていることは、当裁判所に顕著な事実であり、したがって、「乾燥容器の近傍」とは、乾燥容器から距離的に近い空間を意味し、それ以上に特段の限定はされていないと解するほかはないというべきである。 (3)以上の当初明細書の記載と補正明細書の記載を対比すると、前者は、記憶合金の配置位置が「乾燥剤加熱容器内」すなわち「乾燥容器内」に限定された発明を開示しているのみであり、これ以外の場所に設置することを何ら開示していないのに対し、後者は、記憶合金の配置位置を「乾燥容器の近傍」とした発明を開示しているのであり、「乾燥容器の近傍」が「乾燥容器内」を含むかどうかは別として、 少なくとも、記憶合金の配置位置が「乾燥容器の近傍」であればよく、「乾燥容器内」に限定されないものとしたものであることが認められる。 そうとすると、本件補正は、当初明細書に記載されていた記憶合金線を乾燥容器内に設ける構成からなる発明を、記憶合金線を乾燥容器の近傍に設ける構成からなる発明に改めたものであって、明らかに、当初明細書の要旨を変更するものといわなければならない。 (4)審決は、当初明細書に、記憶合金線7が乾燥剤容器8の仕切壁によって仕切られた下部の空間に収縮自在に設けられていることが記載されていることを根拠に、「記憶合金線7が収縮できる仕切壁の下部の空間は『乾燥容器の近傍』ということができるから、記憶合金線は『乾燥容器の近傍に臨』んでいた構成は、当初の明細書及び図面に記載されていたと認められる。」(審決書6頁9行〜13行)として、これのみを理由に、本件補正は要旨を変更したものでないと判断している。 しかし、当初明細書において、記憶合金線7が収縮できる仕切壁の下部の空間は、あくまでも「乾燥剤加熱容器内」すなわち「乾燥容器内」として記載されているのであり、これを「乾燥容器内」以外の場所を含む「乾燥容器の近傍」と同一視することは、明細書の解釈として誤りであることは明らかであり、この誤った解釈を前提にした審決の上記判断も誤りであることは明らかである。 被告は、当初明細書に記載された記憶合金線を仕切壁によって仕切られた乾燥容器の下部の空間に配置することと、補正明細書に記載された記憶合金線を乾燥容器の近傍に配設することとは、両者とも乾燥容器内の乾燥剤からの熱を効率良く利用して記憶合金線が受熱によって収縮するようにするという共通の技術的意義を有するものである旨を主張するが、たとえ両者が共通の技術的意義を有するとしても、 当初明細書記載の発明は、記憶合金線を「乾燥容器内」に配置する構成を採用していたのに対し、補正明細書記載の発明は、これを「乾燥容器の近傍」に配置する構成を採用したのであって、本件補正により、当初明細書に開示されていなかった「乾燥容器内」以外の「乾燥容器の近傍」に記憶合金線を配置する構成が含まれることになったのであるから、本件補正が当初明細書の要旨を変更するものではないとすることはできない。 (5)以上のとおり、本件補正は、出願公告をすべき旨の決定の謄本の送達前にした補正であって、願書に添付した明細書及び図面の要旨を変更するものというべきであるから、実用新案法9条(平成5年法律第26号による改正前のもの)で準用する特許法40条(同前)に基づいて、本件考案の出願は、本件補正書を提出した平成元年6月2日にしたものとみなされることとなる。 そうすると、審決が、請求人(原告)が同年同月同日前に頒布された刊行物として提出した書証(審判事件甲第16、第17、第20号証、本訴甲第18〜第20号証)につき、これらはいずれも本件考案の出願(昭和57年2月20日)後に頒布ないし提出されたこととなるとして、判断を加えなかったことは誤りであり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、取消事由2について検討するまでもなく、審決は違法として取消しを免れない。 3 よって、原告の本訴請求を認容し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法7条、民事訴訟法89条を各適用して、主文のとおり判決する。 |
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(別添審決書の結論及び理由)審決結論本件審判の請求は、成り立たない。 審判費用は、請求人の負担とする。 理由T.本件考案本件登録第1859017号実用新案(以下「本件考案」という。)は、昭和57年2月20日に実用新案登録出願され、出願公告(公告日平成1年9月29日、 実公平1-31912号公報参照)後の平成3年7月23日にその登録実用新案の設定の登録がなされたものである。 U.請求人の主張これに対し請求人は概ね次のとおり主張する。 (1)甲第9〜15号証、甲第19号証からみて、本件考案に係る平成1年6月2日付けの手続補正は、要旨を変更するものであるから、実用新案法第9条で準用する特許法40条により、出願日は、その手続補正書を提出した平成1年6月2日とみなすことができる。そうすると、本件考案は、甲第16号証、甲第17号証及び甲第20号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項に該当し、実用新案法第37条第1項第1号の規定により無効にすべきものである(以下「無効理由1」という。)。 (2)本件考案は、その出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第1〜3、5〜8号証、甲第18号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、実用新案法第3条第2項に該当し、 実用新案法第37条第1項第1号の規定により無効にすべきものである(以下「無効理由2」という。)。 V.当審の判断1.無効理由1について請求人は、本件考案は、原明細書では記憶合金線が「乾燥容器内」にあることが強調され、容器外に設置する旨の記載は全くなかったのに対し、平成1年6月2日付けの補正により、記憶合金線を「乾燥容器の近傍」とし、第2〜4図を追加して記憶合金線が容器の外側にあるかのように本件考案の内容を実質的に変えて実用新案登録請求の範囲が不当に拡大されるようになった旨主張している。 審判請求人が要旨変更と指摘する点は、平成1年6月2日付けの補正により、実用新案登録請求の範囲に、「乾燥容器の近傍……記憶合金線を臨ませる」という記載が付加され、考案の詳細な説明に、「乾燥容器5の下縁部には、3角形状の凹陥部5Aを設け、該乾燥容器5の垂片5Bと、前記係着子9との間にコイル状の記憶合金線11を、結合線12を介装して張設したものである。」という記載が付加されたことにあるものと認められる。 そして、そうした記載と第1〜4図の記載から、乾燥容器の下縁部の凹陥部に記憶合金線が存在することが認められ、「乾燥容器の近傍」とは、乾燥容器の下縁部の凹陥部を指すものであることも認められる。 ところで、当初の明細書には、「乾燥剤容器8内には加熱体(図省略)及び乾燥剤(図省略)が熱的に接して配置され、記憶合金線7は乾燥剤容器8内の熱を対流、伝導して受熱し得るよう、乾燥剤容器8内に収縮自在に空間を設けて埋設してある。乾燥剤容器下部13は一部開孔し、アームの結合点11に結合線14が可動し得るものである。」「乾燥剤容器8内に熱的に接してる加熱源により乾燥剤容器内は急激に加熱作用が生じる。…乾燥剤容器8内の加熱の進行に伴い、記憶合金7の変態点(通常60℃程度)を越える。その時記憶合金7は収縮作用する…」と記載されており、したがって、当初の明細書には、記憶合金線7には加熱体からの熱が乾燥剤を介して伝わり、加熱の進行に伴い、記憶合金7の変態点を越え、その時記憶合金線7は乾燥剤容器8内の空間内で収縮作用するという構成が記載されているものと認められる。 また、乾燥剤は普通は粒状体であるから、記憶合金線を加熱体からの熱で可動とするためには乾燥剤は記憶合金線とは混在せずに乾燥容器内に封入されていることが必要なことは、乾燥機器の分野では周知の技術的事項である。 してみると、当初の明細書の前記の記載及び乾燥機器の分野の周知の技術的事項から、当初の第1図に記載された、乾燥剤容器8の右下の左下がりの斜線は仕切壁であって、記憶合金線7は仕切壁によって仕切られた下部の空間に収縮自在に設けられていると認められる。 そして、記憶合金線7が収縮できる仕切壁の下部の空間は「乾燥容器の近傍」ということができるから、記憶合金線は「乾燥容器の近傍に臨」んでいた構成は、当初の明細書及び図面に記載されていたと認められる。 したがって、請求人の本件考案の平成1年6月2日付けの手続補正は要旨を変更したものであるという主張は採用するに由なく、そうすると、甲第16号証、甲第17号証及び甲第20号証はいずれも本件考案の出願後に頒布ないし提出されたこととなるから、本件考案が甲第16号証、甲第17号証及び甲第20号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるという請求人の主張も採用するに由なく、無効理由1には、理由がない。 2.無効理由2についてこの考案の要旨は、上記1.の理由、明細書、及び図面の記載からみて、その実用新案登録請求の範囲に記載されたとおりの「密封キャビネットの庫内側と庫外側に連通する一対の開口を、連結アームで一体的に連結された一組の開閉シャッターにより開閉自在としたユニットケースの乾燥処理室内に、タイマーにより所望時間間隔毎に所定時間宛通電され発熱される加熱体によって加熱される乾燥剤を収容した熱良導性で通気性のある材質で構成した乾燥容器を配設し、該乾燥容器の近傍に、加熱されると収縮するよう処理された記憶合金線を臨ませるようにしてその一端を適宜ユニットケース内に固定させ、他端を前記連結アームに止着させるとともに、前記記憶合金線を伸長させる方向に付勢する引張りバネを連結アームとユニットケースとの間に張設し、加熱体により乾燥剤が加熱再生される期間中のみは記憶合金線が加熱収縮され、前記引張りバネに抗して連結アームを駆動し、前記シャッターにより庫内側の開口を閉止し、同時に庫外側の開口を開放させるように構成したことを特徴とする密封キャビネットにおける自動乾燥装置。」にあるものと認める。 ところで、請求人の引用した甲各号証と本件考案とを対比すると、甲第1号証(実願昭49-87806号(実開昭51-16264号)のマイクロフィルム)及び甲第2号証(実願昭54-118577号(実開昭56-39119号)のマイクロフィルム)には、密封キャビネットの一組の開閉シャッターをリンクを介して電磁コイルによって駆動している自動乾燥装置が記載されているものの、記憶合金線が記載されていない。 甲第3号証(実公昭45-13276号公報)には、バイメタル駆動用の加熱装置と乾燥剤再生用加熱装置を備えバイメタルによりシャッター開閉を行う食料乾燥庫が記載されているものの、乾燥剤再生用加熱装置によりバイメタルを加熱する点及び記憶合金線が記載されていない。 甲第5号証(「機械設計」第25巻第10号、昭和56年8月1日)には、形状記憶合金をバイメタルと同様に機械部品に応用できることが記載されているものの、乾燥剤の加熱する加熱体の熱により形状記憶合金を駆動する点が記載されていない。 甲第6号証(「自動化技術」11月号、昭和55年11月1日)、甲第7号証(「鉄と鋼」VOL.67NO.1、昭和56年1月1日)及び甲第8号証(「科学と工業」VOL.55NO.11)には、形状記憶合金を用いて温室の開閉窓等を自動開閉することが記載されているものの、乾燥剤の加熱する加熱体の熱により形状記憶合金を駆動する点が記載されていない。 甲第18号証(実公昭45-13277号公報)には、バイメタル駆動用の加熱装置を備えバイメタルによりシャッター開閉を行う食料乾燥庫が記載されているものの、乾燥剤再生用の加熱装置はなく、乾燥剤再生用の加熱装置の熱によりバイメタルを作動させること及び記憶合金線は記載されていない。 以上のことから、本件考案が甲各号証記載のものからきわめて容易に想到できないことはいうまでもない。 次に、甲各号証記載のものの組合わせについて検討する。 甲第3号証、甲第18号証のバイメタルは連動板、回転板及び連結腕等を介してシャッターを開閉するように構成され、本件考案の、記憶合金線の一端をユニットケース内に固定させ他端を連結アームに止着させて連結腕等を介さずにシャッターを開閉できる構成とは異なっており、そうした構成により明細書記載の「シャッターの開閉操作の際に騒音や振動が発生するおそれがなく、静粛で、円滑に自動乾燥処理がなされる」という効果があり、バイメタルと記憶合金線とが単なる慣用手段であるとはいえない。 したがって、甲第1号証、甲第2号証に示すシャッター駆動用電磁コイルの代わりに、甲第3号証、甲第18号証記載のバイメタルを採用した自動乾燥装置において、シャッターを開閉するのにバイメタルに代えて甲第5〜8号証に記載された形状記憶合金を用いることは当業者にとってきわめて容易になし得ることとはいえない。 よって、無効理由2には、理由がない。 W.むすび以上のとおり、本件考案は、平成1年6月2日付けの手続補正は、要旨を変更したものであるとは認められないから、実用新案法第9条で準用する特許法40条により出願日をその手続補正書を提出した平成1年6月2日とみなすことができず、 また、本件考案は、甲第1〜3、5〜8号証、甲第18号証に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとも認められないから、実用新案法第3条第2項に該当しない。 したがって、請求人が主張する理由及び提出した証拠方法によっては、本件考案を無効とすることはできない。 よって、結論のとおり審決する。 |
裁判官 | 牧野利秋 |
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裁判官 | 押切瞳 |
裁判官 | 芝田俊文 |