関連審決 |
審判1997-10983 |
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関連ワード | 考案 / 構造 / 組合せ / 物品 / 設定登録 / 進歩性(3条2項) / 一致点の認定 / 相違点の認定 / 相違点の判断 / きわめて容易 / 公知技術 / 特定 / 明細書 / |
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事件 |
平成
10年
(行ケ)
175号
審決取消請求事件
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原告 株式会社ダイサン代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁護士 「薫 同復代理人弁護士 林 範夫 訴訟代理人弁理士 【B】 被告 ホリー株式会社代表者代表取締役 【C】 訴訟代理人弁護士 猪原英彦 同 弁理士 【D】 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 1999/08/30 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた判決
1 原告特許庁が、平成9年審判第10983号事件について、平成10年4月28日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告主文と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、名称を「簡易足場用敷盤」とする実用新案登録第2021235号実用新案( 昭和62年2月28日実用新案登録出願、平成6年6月21日設定登録。以下「本件考案」という。) の実用新案権者である。 被告は、平成9年6月26日、本件考案の実用新案登録を無効とする旨の審判の請求をした。 特許庁は、同請求を、平成9年審判第10983号事件として審理した上、 平成10年4月28日、「登録第2021235号実用新案の登録を無効とする。」との審決をし、その謄本は、同年5月14日、原告に送達された。 2 本件考案の要旨 金属平板によって形成した敷盤本体のベース金具取り付け面へ、平面形状が四角形をなしたベース金具の四隅角部又は四片の内三辺と係合し、該ベース金具がベース金具取り付け面に対し鉛直方向に移動するのを阻止する鉤片を複数個配設した簡易足場用敷盤。 3 審決の理由 審決は、別添審決書写し記載のとおり、本件考案が、実願昭59-115563号(実開昭61-32352号)のマイクロフィルム(審決甲第1号証、本訴甲第4号証、以下「引用例1」という。)、実願昭54-58551号(実開昭55-160738号)のマイクロフィルム(審決甲第2号証、本訴甲第5号証、以下「引用例2」という。)及び実願昭60-92672号(実開昭62-2292号)のマイクロフィルム(審決甲第3号証、本訴甲第6号証、以下「引用例3」という。)に記載された各考案(以下「引用例考案1」、「引用例考案2」及び「引用例考案3」という。)に基づいて、当業者がきわめて容易に考案をすることができたものであるから、本件実用新案登録は、実用新案法3条2項の規定に違反してなされたものであり、同法37条1項2号に該当し、無効とすべきものであるとした。 |
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原告主張の取消事由の要点
審決の理由中、本件考案の要旨の認定、被請求人(原告)の主張の認定、引用例1〜3の記載事項の認定、本件考案と引用例考案1との一致点及び相違点の認定(両考案が「簡易足場用敷盤」として一致するとの点を除く。)、相違点についての判断の一部(審決書16頁5行〜17頁11行)は、いずれも認める。 審決は、本件考案と引用例考案1との一致点を誤認する(取消事由1)とともに、相違点に関する判断を誤った(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されなければならない。 1 取消事由1(一致点の誤認) 審決が、引用例考案1の「足場板鋼管サポートうけ台」を本件考案の「簡易足場用敷盤」に対応するものと認定し(審決書15頁6〜8行)、両考案が「簡易足場用敷盤」として一致すると認定した(同頁14行)ことは誤りである。 すなわち、本件考案の対象物品は、小規模建設工事に用いる簡易足場用の敷盤であり、鋼管を組んだ足場構体に足場板や階段を組み付けて、工事作業者の作業足場や、歩径路を提供する構造物のためのものであり、地面上に敷設して、簡易足場の脚杆を支持するものである。また、地面の不陸及び不同沈下に対応して、個別に脚杆の長さ調節を容易に行うとともに、敷盤とベース金具とを一体化した後に最適位置に移動させて作業効率を高め、かつ、不陸の地面にベース金具を垂直に立てたときに敷盤が離脱しないように、ベース金具がベース金具取付面に対し鉛直方向に移動するのを阻止するものである。 これに対し、引用例考案1の対象物品は、「鋼管サポートすべりどめ器」であり、この「鋼管サポート」とは、主としてコンクリート建造物の建築現場において、コンクリート打設面などの剛構造の床面に立設され、その上端に床スラブコンクリート打設用などの型枠を支持するための支柱部材である。しかも、鋼管サポート滑り止め器は、鋼管サポートからの荷重を床面に分散支持する役目とともに、該鋼管サポートが床面上で横方向(水平方向)に滑り移動しないように安定的に立設するために使用され、サポートの台板を上からの落込みによって結合するものであるから、両考案はこれらの点において相違する。 被告は、引用例考案1の「鋼管サポートすべりどめ器」と、本件考案の「簡易足場用敷盤」との実質同一性を主張するが、引用例考案1のような鋼管サポート滑り止め器は、鋼管サポート式の支保工のための支持部材である「パイプサポート式型わく支保工」であり(乙第2号証67〜70頁)、「建わく」を用いる「わく組式型わく支保工」(同号証74頁)のための支持部材ではない。 2 取消事由2(相違点の判断誤り)1 本件考案と引用例考案1とが、ともに「釘打ち」を止めたいという考案の動機づけの点で共通性があることは認めるが、具体的な技術的課題が、前示のとおり、 本件考案では、ベース金具が「鉛直方向に移動するのを阻止」することであるのに対し、引用例考案1では、単にベース金具の水平方向への滑り止めである点で相互に異なっている。 被告は、本件考案と引用例考案1とは、「固着」の具体的技術に関係したものである旨主張するが、本件考案の構成が「固着」の概念に属するものであるかどうかの議論は、本件考案の進歩性の有無の問題とは直接関係がない。 したがって、本件考案のような特定の技術的課題とその解決手段を示唆するものではない引用例考案1について、引用例考案2及び3に開示された構成を採用することは容易でなく、また、仮に引用例考案2及び3に開示された構成を採用したとしても、本件考案の有する課題及び構成を達成できるものではない。 2 審決が 引用例考案2を「建築パネルの枠組装置の枠位置決め脚部の取付け構造に関するもの」であり、引用例考案3を「電子部品取付装置に関わるもの」であり、いずれも本件考案における簡易足場用敷盤とは、直接の技術分野を異にすると認定しながら(審決書16頁20行〜17頁5行)、「甲第1号証に示されているものに代えて、適用されている直接の技術分野は異なるものの、具体的な取付け構造、取付装置として、甲第2及び3号証において示されているような解決手段を採用するようなことは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易になし得る程度のことである。」(同18頁8〜14行)と判断したことは誤りである。 確かに、引用例2には、ベース(3)上にコ字状の突条(17)を溶接して設け、この突条(17)による係止溝(4)に、開放側から位置決め脚部(2)の係止突条(6)を挿入して、位置決めを行うことが記載されており、この係止構造自体は本件考案が採用している構成と一部共通性を有している。しかし、引用例考案2は、「建築パネルの枠組装置」に関するものであって、工場内設備としての建築パネル組立製作用の治具の一種であり、本件考案に係る物品とは何の関係もない。 また、その「ベース(3)」が、用法、用途、機能上、本件考案の「金属平板によって形成した敷盤本体」に相当するものとは認められないし、上記の係止構造も脚部(2)をベース(3)上にマグネットやボルト等の固着具で固着するための予備的な位置決め機構として採用されているものであって、本件考案におけるベース金具の敷盤本体に対する相対的移動防止と保持を目的とするものとは、その採用目的が異なるものである。 また、引用例考案3が、複数の係止片によるフランジの係止による仮止め構造を示していることは認めるが、それは、「電子部品の取付装置」に関するものであって、電子部品を取付対象物とし、その取付用フランジを係止片に保持させて仮止め状態とした後、固定ねじによる固定具で上記係止片に固定するというものであり、 本件考案とは、技術分野が大きく隔絶しているだけでなく、目的、構成、効果のいずれも相違している。 このような引用例考案2及び3第3引用例の構成及び構造を、本件考案の対象物品である「簡易足場用敷盤」へ適用することが、後者の技術分野における当業者にとって、きわめて容易に予測し得るものであるはずがない。 |
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被告の反論の要点
審決の認定判断は正当であって、原告主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。 1 取消事由1について 社団法人仮設工業会編「足場工事実務マニュアル」(乙第1号証、以下「技術文献1」という。)の44頁「2.わく組足場、2・4組立て上の注意、〔1〕基礎」以下には、枠組足場の基礎を組み立てる際に注意すべき事項が記載されており、同102頁の図5・9には、敷板の上に載せたべース金具を敷板に釘止めすることが示され、119頁の図6・11にも敷板の上に載せた固定型のべース金具を敷板に釘止めすることが示されている。 また、同社団法人編「型わく・支保工工事実務マニュアル」(乙第2号証、以下「技術文献2」という。)の67頁「3.パイプサポート式型わく支保工、3・6組立上の注意事項、〔3〕組立」以下には、パイプサポート式型枠支保工を組み立てる際の注意事項の説明があり、(3)「建て込まれたパイプサポートの上部は,有効に固定されなければならない.」とした上で、「サポート上下の固定は受板,台板に設けられているボルト穴で,くぎを用いて大引きおよび敷角に止める.」と記載されている。同78頁の図4・9には、ジャッキ型ベース金具が示され、同74頁の図4・2には、このジャッキ型ベース金具を使用した枠組式支保工が表示され、同86頁の図4・17には、ジャッキ型ベース金具を敷角に釘止めすることが示されている。 以上のことから、技術文献1に係わる作業足場でも、技術文献2に係わる支保工でも、下向きの重量がかかる支柱等の柱部材の下端に配置される下端部材の1つとして、ジャッキ型ベース金具が使用されることがあるとともに、このジャッキ型ベース金具等の下端部材は、敷板の上に載せられるものであるため、作業足場と支保工には、使用される部材及びその使用法に共通性があることが分かる。 したがって、本件考案と引用例考案1の双方において、従来、釘打ちで下端部材を敷板に止めていたことによる問題点が解決すべき課題となっており、両考案をなすに至った動機づけが同じであることを考慮すると、当業者にとって、本件考案の「簡易足場用敷盤」と引用例考案1の「鋼管サポートすべりどめ器」とは、実質的に同一であるといえる。しかも、仮設工事の分野では、技術文献1の仮設足場に係わる本件考案の「簡易足場用敷盤」と、技術文献2の支保工に係わる引用例考案1の「鋼管サポートすべりどめ器」とは、技術的に密接に関連しており、当業者は、 「敷板にくぎ打ちする」という記載だけで、仮設足場と支保工の両方を想到するため、両者を実質的に同一であると認識するものである。 したがって、審決における一致点の認定(審決書15頁2〜14行)に誤りはない。 2 取消事由2について 特許庁編「特許からみた機械要素便覧 固着」(乙第3号証、以下「技術文献3」という。)の「序」及び「まえがき」の記載によれば、「固着」は広い範囲で利用されている技術であって、それ自体で1つの技術をなしていると考えられ、また、同文献には、各種の対象物品に適用された「固着」の種々の技術が示されており、その1つとして、同号証66頁のFIG.285において、アイロンの把手をアイロン本体に形成したコ字状部分の蟻溝にスライド集合させる固着技術があげられている。 また、特許庁の「審査基準の手引き〔改訂第15版」(乙第4号証)の「3.3.4容易にできる『公知技術の用途の変更』の発明」における〔例2〕(同号証111頁)には、蛍光灯の底板に箱状カバーを圧着固定する「固着」の技術と、弁当箱の本体に上ぶたを密かんする「固着」の技術とが例示されている。そして、技術が適用された対象物品に蛍光灯と弁当箱という相違があっても、蛍光灯に適用された「固着」の技術が、弁当箱に使用されている公知の「固着」の技術と同じであれば、蛍光灯についての出願は進歩性が認められない旨が説明されている。 以上のとおり、物品が相違しているとしても、本件考案の特徴である、ベース金具を敷盤本体にどのように取り付けるかという技術と、引用例考案2及び3に開示された技術とは、「固着」の技術として全く同じであり、その「固着」の構造も同じであるから、作用効果も同じである。 原告が、本件考案の特徴として強調する「ベース金具が『鉛直方向に移動するのを阻止』する」という「固着」上の構造的要請は、引用例考案2及び3でも実現されている。 このような「固着」の技術が示された引用例考案2及び3と、本件考案と同じ解決すべき課題が示されている引用例考案1とを組み合わせることにより、本件考案を構成することが可能であり、また、このような組み合わせを行うことは、当業者にとってきわめて容易であるといえる。 したがって、この点に関する審決の判断(審決書18頁6〜14行)に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 一致点の誤認(取消事由1)について 審決の理由中、本件考案の要旨の認定、引用例1〜3の記載事項の認定、本件考案と引用例考案1との一致点及び相違点の認定(両考案が「簡易足場用敷盤」として一致するとの点を除く。)は、いずれも当事者間に争いがない。 本件考案について、本件明細書(甲第2号証)には、「(従来の技術とその問題点)従来の簡易足場においては、支柱下端に位置するベース金具の下へ工事現場に落ちている板切れを敷いて敷盤としていた。しかし、この敷盤は表面が面一の平板であり、敷盤自身がベース金具へ固定する構成にはなっておらず、ベース金具の下面に固定するには、ベース金具を敷盤へ釘打ちし、又、作業終了後には釘を抜いてベース金具から外さなければならず、余分な作業を必要としていた。(解決しようとする問題点)本考案が解決しようとする問題点は、釘打ちすることなく敷盤をベース金具ヘワンタッチで定着、分離し得るようにすることである。(問題点を解決する為の手段)上記問題点を解決する為の本考案の手段は、金属平板によって形成した敷盤本体のベース金具取り付け面へ、平面形状が四角形をなしたベース金具の四隅角部又は四片の内三辺と係合し、該ベース金具がベース金具取り付け面に対し鉛直方向に移動するのを阻止する鉤片を複数個配設することである。上記鉤片に対するベース金具の取付け係合形態は回転係合、スライド係合の何れでも良いものである。(作用)上記した手段の作用は、鉤片夫々がベース金具の周縁複数箇所へ係脱自在に係合して、ベース金具がベース金具取り付け面に対し鉛直方向に移動するのを阻止し、ベース金具をベース金具取り付け面へ着脱自在に固定することである。(効果)以上の構成より、本考案は下記の効果を有する。@敷盤本体のベース金具取り付け面へ、ベース金具の四隅角部又は四片の内三辺と係合し、該ベース金具がベース金具取り付け面に対し鉛直方向に移動するのを阻止する鉤片を複数個配設したので敷盤をベース金具下面に取り付ける際には釘打ちすることなくワンタッチで確実に固定でき、又、取り外す際には釘抜きすることなくワンタッチで取り外しでき、 よって余分な作業を必要とすることのない作業性の良い敷盤を提供する。A上記@の効果より、従来の釘打ち固定の場合に生じていた抜いた釘が作業現場に落ちているといったことが一切なくなるので、現場の安全性を向上できる。」(同号証1頁1欄12行〜2頁3欄2行)と記載されている。 以上の記載によれば、本件考案は、建築作業現場において、釘打ちすることなく敷盤をベース金具へワンタッチで定着、分離し得るようにすることを技術課題として、前示本件考案の要旨に記載された複数の鉤片を配設した構成を採用し、その結果、ベース金具が、取付面に対し鉛直方向に移動するのを阻止するとともに、釘打ち及び釘抜きをすることなくワンタッチで着脱自在に固定するという作用効果を達成したものと認められ、その「敷盤本体」は、工事現場に落ちている板切れ等に代わって、ベース金具の台板の荷重を受け止める物品と認められる。 また、引用例考案1については、引用例1(甲第4号証)には、「この考案は、 建設現場の仮設用鋼管サポートのすべりどめに関するものである。従来、コンクリート打設面などに、重い足場板をのせ、それに鋼管サポートを、釘でうって、固定しているので、足場板の解体や、釘ぬき作業に、多くの時間が、かかっていた。・・・本案は以上のような構造であるから、足場板が不用となり、釘うち作業も必要ない。」(同号証明細書1頁8〜20行)と記載されている。 この記載並びに引用例第1及び第2図によれば、引用例考案1の「足場板鋼管サポートうけ台」は、該鋼管サポートを滑り移動しないように安定的に立設するために、箱型内部に鋼管サポートの台板を上から落し込むことによって結合するものであり、足場板に代わって当該台板の荷重を受け止める物品と認められる。 ところで、本件考案の「簡易足場」に関して、技術文献1(乙第1号証)の「2.わく組足場、2・4組立て上の注意、〔1〕基礎」(同号証44頁)以下には、枠組足場の基礎を組み立てる際の注意事項として、「(1)足場を建てる箇所を整地すること.(2)地面上では敷板,敷角を使用すること.(3)建わく脚柱下端には,ジャッキ型ベース金具を使用し,1段目の建わくの高さをそろえるようにしなければならない.(4)建わくがそれぞれ筋かい面と直角になるようにジャッキ型ベース金具を配置し,敷板などにくぎ付けすること.(5)コンクリート上に直接ジャッキ型ベース金具を設置する場合は,直角二方向に根がらみを設けること.」と記載されている。 この記載並びに同文献の図2・7(同号証30頁)及び図5・9(同号証102頁)によれば、枠組足場の基礎であるジャッキ型ベース金具は、地盤を整地した後、地面上に敷板や敷角を置いて使用され、その上部が建枠脚柱下端に挿入されて、これを支持するものであり、通常、ベース金具の台板(大きさ120o角以上)が、敷板に釘止めされるが、地面上だけでなくコンクリート上に直接設置される場合もあるものと認められる。 また、引用例考案1の「足場板鋼管サポート」に関して、技術文献2(乙第2号証)の「3.パイプサポート式型わく支保工、3・6組立上の注意事項、〔3〕組立(同号証67頁)以下には、パイプサポート式型枠支保工を組み立てる際の注意事項として、「(1)地盤の突固め,敷角の使用,必要があればコンクリートの打設,くいの打込みなどパイプサポートの沈下を防止するための措置を講ずること.(2)パイプサポートの脚部の固定,根がらみの取付けなどサポートの脚部の滑動を防止するための措置を講ずること.(3)・・・サポート上下の固定は受板,台板に設けられているボルト穴で,くぎを用いて大引きおよび敷角に止める.また,一度固定しても,施工中サポートが浮いたり,移動してしまうこともあるので・・・点検修正しなければならない.」と記載されている。 この記載並びに同文献の図3・3、図3・16、図4・9及び図4・17によれば、パイプサポートは、地盤を十分突き固めたり、地面上に敷角を置いたり、コンクリートを打設したりした上で使用され、その上部が建枠等に接続されて、これを支持するものであるところ、その下部の台板(大きさ140o角程度)は、通常、 敷角等に釘止めされて固定されるが、一度固定されても、施工中にサポートが浮いたり、移動したりすることがあるので、点検修正すべきものと認められる。 以上のことからすると、枠組足場のジャッキ型ベース金具の台板も、パイプサポートの台板も、建枠やパイプなどの荷重を分散して受け止めるものであり、通常、 敷角等に釘打ちされて固定されるものであるが、根がらみ等を設けてコンクリート上に直接設置される場合もあり、その台板自体の大きさや形状等にも格別の差異は認められないから、その用法、用途、機能において共通の物品と認められる。 そうすると、枠組足場のジャッキ型ベース金具の台板の荷重を受け止める本件考案の「敷盤本体」と、鋼管サポートの台板の荷重を受け止める引用例考案1の「足場板鋼管サポートうけ台」とは、その用法、用途、機能において共通の物品と認められ、両者は、実質的に同一のものといわなければならない。 原告は、本件考案の対象物品が、小規模建設工事に用いる簡易足場用の敷盤であり、鋼管を組んだ足場構体に足場板や階段を組み付けるためのものであって、地面上に敷設して、簡易足場の脚杆を支持するものであるのに対し、引用例考案1の対象物品が、「鋼管サポートすべりどめ器」であり、この「鋼管サポート」とは、主としてコンクリート建造物の建築現場において、コンクリート打設面などの剛構造の床面に立設され、床スラブコンクリート打設用などの型枠を支持するための支柱部材であるから、両考案はこの点において相違すると主張する。 しかし、前示のとおり、簡易足場と鋼管サポートは、いずれも、仮設工事現場において、足場板や型枠等を支持するために用いられるものであり、簡易足場のジャッキ型ベース金具が、直接コンクリート打設面に設置される場合がある一方、鋼管サポートが、地面上に敷設される場合もあると認められるから、原告の上記主張は、その前提とされた事実に誤りがあり、採用することができない。 また、原告は、本件考案が、地面の不陸及び不同沈下に対応して、個別に脚杆の長さ調節を容易に行うとともに、敷盤とベース金具とを一体化した後に最適位置に移動させて作業効率を高め、かつ、不陸の地面にベース金具を垂直に立てたときに敷盤が離脱しないように、ベース金具がベース金具取付面に対し鉛直方向に移動するのを阻止するものであるのに対し、引用例考案1の鋼管サポート滑り止め器は、 鋼管サポートからの荷重を床面に分散支持する役目とともに、該鋼管サポートが床面上で横方向(水平方向)に滑り移動しないように安定的に立設するために使用され、サポ-トの台板を上からの落込みによって結合するものであるから、両考案はこの点においても相違すると主張する。 しかし、前示の記載から明らかなように、本件明細書(甲第2号証)には、本件考案が、「地面の不陸及び不同沈下に対応して、個別に脚杆の長さ調節を容易に行うとともに、敷盤とベース金具とを一体化した後に最適位置に移動させて作業効率を高める」ことに関しての記載はないから、この点に関する原告の主張は、明細書の記載に基づかないものであって失当といわなければならない。また、本件考案が、「ベース金具を垂直に立てたときに敷盤が離脱しないように、ベース金具がベース金具取付面に対し鉛直方向に移動するのを阻止する」点に関しては、前示のとおり、本件考案が、考案の要旨に記載された複数の鉤片を配設した構成を採用した結果によるものであるところ、その構成は、審決において明確に相違点として認定されており(審決書15頁16行〜16頁3行)、この相違点に係る構成を当業者がきわめて容易に採用し得ることは、後記のとおりであるから、このことを理由に、審決が本件考案と引用例考案1との一致点を誤認しているということはできない。しかも、引用例考案1の対象である鋼管サポートにおいても、前示のとおり、 施工中にサポートが浮いたり、移動したりすることがあることが、一般的な公知の技術課題として認識されていたのであるから、引用例考案1において、鉛直方向への移動を阻止する構成を有しないとしても、鉛直方向への移動の阻止という技術課題自体は、本件考案及び簡易足場のみに特有なものということもできない。 いずれにしても、原告の上記主張を採用する余地はない。 したがって、審決が、引用例考案1の「足場板鋼管サポートうけ台」を本件考案の「簡易足場用敷盤」に対応するものと認定し(審決書15頁6〜8行)、両考案が「簡易足場用敷盤」として一致すると認定した(同頁14行)ことに誤りはない。 2 相違点の判断誤り(取消事由2)について1 本件考案と引用例考案1とが、ともに「釘打ち」を止めたいという考案の動機づけの点で共通性があることは、当事者間に争いがない。 原告は、具体的な技術的課題が、本件考案では、ベース金具が「鉛直方向に移動するのを阻止する」ことであるのに対し、引用例考案1では、単にベース金具の水平方向への滑り止めである点で異なるから、このような引用例考案1について、引用例考案2及び3に開示された構成を採用することは容易でなく、また、仮に引用例考案2及び3に開示された構成を採用したとしても、本件考案の有する課題及び構成を達成できるものではないと主張する。 しかし、前示のとおり、引用例考案1自体は、鉛直方向への移動を阻止する構成(相違点に係る構成)を有するものではないが、引用例考案1の対象となる鋼管サポートの分野においては、施工中のサポートの鉛直方向への移動の阻止が一般的な技術課題として認識されていたのであるから、当業者にとって、引用例考案1と引用例考案2及び3に開示された構成との組合せが困難となるものではなく、むしろ、前示の「釘打ち」を止めたいという本件考案と引用例考案1に共通の技術課題の観点から、引用例考案2及び3に開示された構成を採用することは、きわめて容易なことといわなければならない。その結果、ベース金具が鉛直方向に移動するのを阻止するという上記作用効果が生じることも明らかであるから、原告の上記主張を採用する余地はない。 2 本件考案と引用例考案1とが、「本件登録実用新案においては、ベース金具の四隅角部又は四片の内三辺と係合し、ベース金具がベース金具取り付け面に対し鉛直方向に移動するのを阻止する鉤片を複数個配設しているのに対し、甲第1号証に記載されたものにおいては、サポート下部板状部材を台のサポートうけ部内に取り付け、サポート下部板状部材が移動するのを阻止するだけの構成である点」(審決書15頁16行〜16頁3行、相違点)で相違すること、引用例考案2が、「建築パネルの枠組装置」に関するものであり、ベース上にコ字状の突条を溶接して設け、この突条による係止溝に、開放側から位置決め脚部の係止突条を挿入して、位置決めを行う構成が開示されており、この係止構造自体は本件考案が採用している構成と一部共通性を有していること、引用例考案3が、「電子部品取付装置」に関するものであり、複数の係止片によるフランジの係止による仮止め構造を示していることは、いずれも当事者間に争いがない。 原告は、審決が、引用例考案2及び3について、いずれも本件考案と直接の技術分野が異なると認定しながら、そこに開示された構成を引用例考案1の相違点に関して採用することが、当業者にとってきわめて容易であると判断したことは誤りであると主張する。 ところで、技術文献3(乙第3号証)に、「固着技術は、機械部門において最も基礎的な技術であり、ねじを始めとして自動車、車輌、自転車、工作機械、タービン、航空機、建設機械、船舶、電気機器、写真機、ミシン、繊維機械、家具、工具などの分野において広く利用されている」(同号証「まえがき」1〜3行))と記載されるとおり、固着技術は、建設機械等を含む機械部門において、基礎的、かつ、重要な技術であって、多岐に亘る機械技術に対して横断的な1つの技術分野を形成しているものと認められるところ、同文献には、各種の対象物品に適用された様々な公知の「固着技術」が示されており、完全な一体化固着の場合のみならず、 係脱自在な固着による場合もこれに含まれるものと認められる。そして、そのFIG.285には、本件考案及び引用例考案2の係止構造に類似する、アイロンの把手の当接部を、アイロン本体に形成したコ字状部分の蟻溝にスライドさせて挿入・結合する技術が、一般的な固着技術の1つとして紹介されている。 そうすると、引用例考案2に示された、本件考案の三辺と係合する「固着」の技術と同様の、ベース上にコ字状の突条を溶接して設け、この突条による係止溝に、 開放側から位置決め脚部の係止突条を挿入して位置決めを行う係止構造と、引用例考案3に示された、本件考案の四隅角部と係合する「固着」の技術と同様の、複数の係止片によるフランジの係止による仮止め構造を、引用例考案1の、箱型内部にサポートの台板を上から落し込むことによる結合に代えて適用することは、当該係止・仮止め構造が開示された具体的物品がそれぞれ引用例発明1と異なるとしても、上記のような多岐に亘る利用形態が存する固着技術の観点から見て、当業者にとって格別の困難性はないものと認められ、原告の上記主張を採用する余地はない。 また、原告は、引用例考案2のベースが、用法、用途、機能上、本件考案の金属平板によって形成した敷盤本体に相当するものとは認められないし、上記の係止構造も脚部をベース上にマグネットやボルト等の固着具で固着するための予備的な位置決め機構として採用されているものであって、本件考案におけるベース金具の敷盤本体に対する相対的移動防止と保持を目的とするものとは、その採用目的が異なるものであると主張する。 しかし、審決は、引用例考案2において、本件考案の三辺と係合する「固着」の技術と同様の、ベース上にコ字状の突条を溶接して設け、この突条による係止溝に、開放側から位置決め脚部の係止突条を挿入して位置決めを行う係止構造を認定したものであり、この係止構造は、引用例考案2のベースと本件考案の敷盤本体の具体的形状の差異によって左右されるものではないし、また、その係止構造が、引用例発明2において、予備的な位置決め機構として示されたものであるとしても、 この構成自体が明確に開示されている以上、原告の上記主張は失当といわなければならない。 さらに、原告は、引用例考案3が、電子部品を取付対象物とし、その取付用フランジを係止片に保持させて仮止め状態とした後、固定ねじによる固定具で上記係止片に固定するというものであり、本件考案とは、技術分野が隔絶しているだけでなく、目的、構成、効果のいずれも相違していると主張する。 しかし、引用例考案3が、本件考案の四隅角部と係合する「固着」の技術と同様の構成を開示しており、これが電子部品の取付装置に関するものであることが、当該構成を引用例考案1に適用する上で格別の困難性をもたらすものでないことは、 前示のとおりであるし、仮止め状態の後に固定ねじにより固定されるものであることが、その固定以前の仮止め状態の構造・構成を把握する際の支障となるものでないことが明らかであるから、原告の上記主張は到底採用できない。 したがって、審決が、「甲第1号証に記載された課題と同じ課題を解決するために、本件登録実用新案におけるものとは相違しているところの、甲第1号証に示されているものに代えて、適用されている直接の技術分野は異なるものの、具体的な取付け構造、取付装置として、甲第2及び3号証において示されているような解決手段を採用するようなことは、当業者であれば格別の困難性を伴うことなく、きわめて容易になし得る程度のことである。」(審決書18頁6〜14行)と判断したことに誤りはない。 3 以上のとおり、原告の審決取消事由はいずれも理由がなく、その他審決に取り消すべき瑕疵はない。 よって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中康久 |
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裁判官 | 春日民雄 |
裁判官 | 清水節 |