運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  考案 /  構造 /  進歩性(3条2項) /  実施例 /  容易に想到 /  公知技術 /  明細書 /  請求の範囲 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 11年 (ワ) 3970号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 進弘繊維株式会社代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 中嶋邦明
同 平尾宏紀右補佐人弁理士 【B】
被告 株式会社小久保工業所右代表者代表取締役 【C】
被告 【C】
被告ら訴訟代理人弁護士 梅本弘
同 川村和久右補佐人弁理士 【D】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1999/08/31
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 被告らは、別紙イ号物件目録記載のごみ袋を製造、販売してはならない。
二 被告株式会社小久保工業所は、その占有に係る別紙イ号物件目録記載のごみ袋を廃棄せよ。
三 原告の被告【C】に対するその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は被告らの負担とする。
五 この判決は、第一項及び第二項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
一 主文第一項同旨。
二 被告らは、その占有に係る別紙イ号物件目録記載のごみ袋を廃棄せよ。
事案の概要
本件は、被告【C】(以下「被告【C】」という。)がかつて製造、販売し、被告株式会社小久保工業所(以下「被告会社」という。)が現在製造、販売するごみ袋が、原告の有する実用新案権を侵害するとして、原告が被告らに対し、右ごみ袋の製造、販売の差止めとその廃棄を求めた事案である。
【争いのない事実等】一 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有している。
1 登録番号 第二〇四七二九〇号2 考案の名称 ごみ袋3 出願日 平成二年三月二三日(実願平二-三〇四〇九号)4 公開日 平成三年一二月一二日(実開平三-一二二〇〇二号)5 公告日 平成六年三月二日(実公平六-八〇八一号)6 登録日 平成七年一月二三日7 実用新案登録請求の範囲 別紙実用新案公報「実用新案登録請求の範囲」欄記載のとおり。
二 本件考案を分説すると次のとおりである。
A 上下が開口した筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設けていること。
B 筒形網体の筒心を軸に下端部をねじって折り返すと共に、網体側面にこの端縁を固着して二重の袋底を形成していること。
C ごみ袋であること。
三 本件考案の作用効果1 円形編機によって、筒形網体を編成しながら口ゴム部を形成し、同時に捩り操作、折返し操作、端縁固着操作を経て二重の袋底を形成することができる。したがって、ミシン縫目により袋底を作成する従来品と比較して、省力化及び効率化を図ることができる(甲1)。
( なお、被告らは、右は製法であって作用効果ではないと主張するが、本件考案のような構造を採用したことにより、右のように従来品と比較して省力化及び効率化という効果を奏しているものと認められるから、右も本件考案の効果と評価することができる。)2 筒心を軸に下端部を捩って折返すことにより、二重の袋底を作成したことから、この袋底にごみの重量がかかると、中心部が更にきつく締められ、耐荷重性に優れる。したがって、従来の如くミシン縫目がないことから、袋底が不用意に破れることがなく、確実にごみを収納することができる。
3 下端部のみが二重となっていることから、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される。
四 被告らの行為1 被告【C】は、遅くとも平成八年三月中旬ころから少なくとも同年一〇月ころまで、「ゴミポン」の商品名で別紙イ号物件目録記載のごみ袋(以下「被告商品」という。)を製造、販売していた。
被告会社は、平成八年一一月一日設立された会社であるが、そのころから被告商品の製造、販売をしている。
2 被告【C】は、原告の警告に対し、平成八年四月一六日付内容証明郵便で、被告商品は本件実用新案権に抵触しないと回答した。また、被告会社も、原告に対し、被告商品は本件実用新案権に抵触しないとの平成九年三月一四日付内容証明郵便を送付した。
3 被告商品は、本件考案の構成要件B、Cを充足し、かつ、少なくとも前記三2及び3記載の作用効果を奏する。
争点及び争点に対する当事者の主張
一 被告商品は、構成要件Aを充足するか(争点一)。
【原告の主張】1 「上下が開口した筒形網体」について 被告商品は、別紙イ号物件目録記載のとおり、「開口した上端」と「開口した下端縁3を有する筒形網体1」をその構成として有している。
したがって、構成要件Aの「上下が開口した筒形網体」という構成を充足している。
2 「筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設けてあること」について(一) 本件考案明細書の記載からすると、本件考案において口ゴム部の設けられている「上端」とは、漠然と筒形網体の上端を示すものではなく、水切ごみ受等の支持体に装着する際に折り返す部分をいうと解すべきである。また、一般に本件で問題となっているようなごみ袋を使用するときは、ごみ袋を水切ごみ受等の支持体内に配置し、ごみ袋の上端を外向きに折り返して支持体に装着するのであるから、
口ゴムその他支持体に装着するための部材の設けられている部分を「上端」とするのが一般社会通念にも合致する。
被告商品では、口ゴム部は水切ごみ受等の支持体に装着する際に外向きに折り返す部分に設けられているから、「筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設けてあること」という構成を充足している。
(二) 被告らは、エプロン部の存在により生じる本件考案とは異なる作用効果を主張するが、それは付加的な作用効果にすぎない。
【被告らの主張】1 「上下が開口した筒形網体」について 被告商品の下端は開口していない。
2 「筒形網体の上端周縁に口ゴム部を設けてあること」について(一) 口ゴム部は、上端周縁に設けられておらず、エプロン部の下方に設けられている。
(二) 被告商品は、容器に密着、固定させるゴム糸部分の上方に容器とは密着しないエプロン部があるため、ここを指で摘むことによって容易に容器から取り外すことができる。
二 本件考案進歩性がないか(争点二)。
【被告らの主張】 本件考案は、その出願当時公知であった、実開昭六二-一〇〇九〇三号公開実用新案公報及び実公昭四七-四八〇〇号実用新案公報各記載の技術に基づいて、当業者が極めて容易に考案することができたものであるから、本件実用新案権は過誤登録である。
したがって、本件考案技術的範囲を制限的に解し、あるいは、端的に被告商品の製造、販売は本件実用新案権を侵害しないものと認定し、本訴を棄却するべきである。
【原告の主張】 被告らが摘示する公知技術によっても、本件考案の下端部を捩って折り返す構成や、網体側面に折り返した端縁を固着して二重の袋底を形成する構成は、開示されていない。また、本件考案は、下端部を捩って折り返す構成と網体側面に折り返した端縁を固着して二重の袋底を形成する構成とが一体不可分となって、第二【争いのない事実等】三記載の作用効果を奏することができるところ、右公知技術にはこのような作用効果を奏することを示唆するところもない。
したがって、本件考案は、被告らが摘示する公知技術に基づいて、当業者が極めて容易に想到することができたものではない。
三 被告【C】に対する差止請求等の必要性(争点三)。
【原告の主張】 被告【C】は、少なくとも平成八年一〇月まで、同人の個人事業として被告商品を製造、販売し、現在も被告会社の代表取締役として、被告商品の製造、販売に従事している。そして、被告会社は、従前からの被告【C】の事業を全て引き継いだものであり、役員のほとんどが被告【C】の家族等によって構成されているいわゆる同族会社である。また、被告【C】は、被告会社とともに、被告商品が本件考案技術的範囲に属さないものとして侵害の成否を争っている。
よって、被告【C】は、被告商品の製造、販売を再開するおそれが大きい。
【被告らの主張】 原告が主張する事実関係は概ね認めるが、被告【C】は、今後、個人として被告商品を販売する意思はないから、被告【C】に対する差止請求等の必要はない。
争点に対する判断
一 争点一について1 被告商品は、別紙イ号物件目録記載のとおり、「開口した上端」と「開口した下端縁3を有する筒形網体1」をその構成として有している。
したがって、被告商品は、本件考案の構成要件Aの「上下が開口した筒形網体」という構成を充足する。
被告らは、被告商品の下端は開口していないと主張するが、構成要件Aの「上下が開口した筒形網体」とは、ごみ袋が上下開口していることを意味するものではなく、「二重の袋底を形成したごみ袋」という物の構造を形成するための要素を記載したものであるから、完成した被告商品の下端が開口していないということは、被告商品が構成要件Aを充足するか否かとは何ら関係がない。
よって、被告らの右主張は採用することができない。
2 証拠(甲一)によれば、本件考案の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)には次の記載があることが認められる。
(一) 作用欄(公報三欄11、12行) 口ゴムがあるため支持体への装着が容易である。
(二) 実施例欄(同欄25ないし30行) 口ゴム部2を備えているため、流し台の水槽底面に付設されているごみ溜部内の水切筒体や、水槽底面上に置く水切ごみ受等の支持体への装着が容易であり、口ゴムを外向きに引っ張って折返すと多少サイズの違う支持体にもしっかりと装着できる。
3 右記載からすると、本件考案において、筒形網体の上端周縁に口ゴム部が設けられるのは、ごみ袋を水切筒体や水切ごみ受け等の支持体へ装着する際、ごみ袋の上方を外向きに折り返して口ゴム部を支持体に密着させ、装着状態を維持するためであると認められる。そして、本件考案において、口ゴム部の設置位置が、筒形網体の上端周縁とされたのは、そのことについて本件明細書には特段の記載がないことからすると、口ゴム部が右のような機能を果たすものであることを前提として、
単に、製造過程において筒形網体の材料を最も効率よくごみ袋に加工するためであると考えられる。すなわち、口ゴム部の下方に設けられる筒形網体はごみを収納する空間を形成するため、一定の容量が必要であるが、ゴミ袋としての機能を果たす上で、口ゴム部の上方に筒形網体がある必要はないから、本件考案では、口ゴム部の設置位置を筒形網体の上端周縁としたものと解される。
以上の本件考案において口ゴム部が果たす機能、口ゴム部の設置場所が上端周縁とされた理由からすると、本件考案における「筒形網体の上端周縁」とは、必ずしも、筒形網体の最上端部である必要はなく、実質的に見て上端の周縁といえる範囲であって、ごみ袋を支持体内に配置し、ごみ袋の上方を外向きに折り返して口ゴム部を支持体に装着した場合に、当該ごみ袋がごみ袋として機能し得る範囲内(すなわち、口ゴム部の下方に十分な筒形網体が存在していること)に、口ゴム部が設けられていれば、当該口ゴム部は、筒形網体の上端周縁に設けられていると評価し得るものと解される。
4 証拠(検甲1)によれば、被告商品における口ゴム部は、筒形網体(全長約一七センチメートル)の最上端部から約二センチメートル下がった部分に設けられているにすぎず、【争いのない事実等】記載のとおり、被告商品は、ごみ袋として販売されており、本件考案の実施品と被告商品を対比すれば(検甲1、2)、被告商品を支持体内に配置し、ごみ袋の上方を外向きに折り返して口ゴム部2を支持体に装着した場合に、被告商品がごみ袋として機能し得る範囲内に、口ゴム部2が設けられていることは明らかであるから、被告商品の口ゴム部2は、筒形網体1の上端周縁に設けられているものと認められる。
5 被告らは、被告商品は、容器に密着、固定させるゴム糸部分の上方に容器とは密着しないエプロン部があるため、ここを指で摘むことによって容易に容器から取り外すことができるという本件考案にはない効果を有していると主張する。
しかし、被告商品が右のエプロン部を設けたことにより本件考案にない効果を奏しているとしても、本件考案の構成要件の全てを充足し、本件考案の効果を奏していれば、被告商品は本件考案を利用しているものにすぎず、本件考案にない効果をも奏することを理由に、被告商品が、本件考案技術的範囲に属しないと評価することはできない。そして、本件考案の効果は、【争いのない事実等】三に記載したとおりであるが、同2及び3については、被告商品がその効果を奏していることに当事者間に争いがない。また、同1については、被告商品の客観的形状からして、
円形編機によって、筒形網体を編成しながら口ゴム部を形成し、同時に捩り操作、
折返し操作、端縁固着操作を経て二重の袋底を形成することができ、ミシン縫目により袋底を作成する従来品と比較して、省力化及び効率化を図ることができるものと認められるから、その効果を奏しているものと認められる。したがって、被告商品は、本件考案の効果を全て奏している。
よって、被告らの右主張は失当である。
6 以上より、被告商品は、本件考案の構成要件Aを充足する。
二 争点二について1 被告らは、本件考案が推考容易であったことの理由として、実開昭六二-一〇〇九〇三号公開実用新案公報及び実公昭四七-四八〇〇号実用新案公報各記載の公知技術の存在を指摘する。
(一) 実開昭六二-一〇〇九〇三号(乙1)について 右考案の実用新案登録請求の範囲は、「全面に水切用の小孔が開設された合成樹脂フィルムよりなる袋であって、該袋の開口部周縁には周縁に沿って環状に連通する袋部が形成されるとともに、該袋部内を全通して輪ゴム等の弾性紐が環状に内装されていることを特徴とするゴミ袋」というものである。
(二) 実公昭四七-四八〇〇号(乙2)について 右考案の実用新案登録請求の範囲は、「所要の長さを有する軟質発泡プラスチック性の伸縮自在な筒状網状物を、その長さのほぼ二分の一に当る位置で回捻した上、一片を反転させて他片の筒状網状物に被せて成るりんご、なし類の包装体」というものである。
2 被告らが指摘する公知例のうち、実開昭六二-一〇〇九〇三号の考案は、水切用の小孔が開設された合成樹脂フィルムからなるゴミ袋の上端開口部周縁に口ゴム部を設ける構成を開示しているに過ぎない。また、実公昭四七-四八〇〇号の考案は、りんご、なし類の包装体に関する考案であり、本件考案が対象とするゴミ袋とは、その用途、分野が異なるものと解される。もっとも、同考案は、筒状網状物の長さのほぼ二分の一に当る位置で回捻し、一片を反転させる構成を採っている。しかし、本件考案の「下端部のみが二重となっていることから、水分等は上部の一重の部分から速やかに排出される。」という効果は、網体側面に、捩って折り返した筒形網体の下端部の端縁を固着することにより達成されていると認められるから、
本件考案のような構成を採り右効果を奏することは、原告が指摘する公知技術には何ら示されていない。
したがって、本件考案が、原告が指摘する公知技術に基づいて、当業者が極めて容易に考案することができたと解することはできない。
3 よって、被告らの主張は採用することができない。
三 争点三について 現在、被告【C】が、被告商品を製造、販売しているとは認められないが、第二【争いのない事実等】四1、2記載のとおり、被告【C】は、少なくとも平成八年一〇月ころまで、被告商品を製造、販売していたこと、被告【C】は、原告の警告に対し、平成八年四月一六日付内容証明郵便で、被告商品は本件実用新案権に抵触しないと回答していること、被告会社は設立されてから二年九月程度しか経過していないこと、以上の事実に加えて、被告会社は被告【C】以外の取締役三名のうち二名が【C】姓で、監査役も【C】姓であり、いわゆる同族経営的な会社であること(右事実も当事者間に争いがない。)からすると、被告会社にのみ被告商品の製造、販売の差止めを命じた場合には、被告【C】が、被告会社に代わって、被告商品を製造、販売するおそれがあるものと認めるのが相当である。
したがって、被告【C】に対する侵害予防請求としての差止請求は理由がある。
ただし、被告【C】が、現在、被告商品を占有しているとは認められない以上、
被告【C】に対する廃棄請求は理由がない。
四 結論 以上より、原告の被告会社に対する差止請求及び廃棄請求並びに被告【C】に対する差止請求は理由があるから、これを認容することとし、被告【C】に対する廃棄請求は理由がないから棄却することとし、主文のとおり判決する。
(平成一一年七月二二日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 安永武央