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事件 平成 10年 (ワ) 520号 実用新案権侵害行為差止等請求事件
原告 株式会社飯田鉄工右代表者代表取締役 【A】
原告 【A】右原告ら訴訟代理人弁護士 三山峻司右補佐人弁理士 【B】
同 【C】
被告 株式会社松本製作所右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 中務嗣治郎
同 加藤幸江
同 宮塚久右被告訴訟代理人中務嗣治郎復代理人弁護士 小林章博
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 1999/10/07
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告は、別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録記載の油圧式フォークを製造、
販売し、販売のために宣伝広告してはならない。
二 被告は、原告株式会社飯田鉄工に対して金一〇〇〇万円、及び、原告【A】に対し金一〇〇〇万円、並びに、これらに対してそれぞれ平成一〇年一月三〇日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
一 事案の概要 本件は、別添実用新案公報記載の考案について実用新案権を共有する原告らが、
被告に対し、被告が製造、販売する別紙イ号物件目録及び同ロ号物件目録記載の油圧式フォーク(以下、それぞれ「イ号物件」、「ロ号物件」という。)は右考案技術的範囲に属するとして、製造、販売等の差止め、損害賠償を請求している事案である。
これに対し被告は、イ号物件及びロ号物件について、@現在製造、販売していない、A右考案技術的範囲に属しない、B仮に右考案技術的範囲に属するとしても、被告は先使用による通常実施権を有する、と主張している。
二 前提的事実(いずれも争いがない。)1 当事者 (一) 原告株式会社飯田鉄工(以下「原告会社」という。)は、鉄工業・建設用各種バケットの製造及び販売等を目的とする会社であり、原告【A】(以下、「原告【A】」といい、原告会社と併せて「原告ら」という。)は、原告会社の代表取締役である。
(二) 被告は、建設機械の製造、修理及び販売等を目的とする会社である。
2 原告らの権利(一) 原告らは、次の実用新案権(以下、「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を共有している。
登録番号 第一九六四八六四号 考案の名称 掴み機 出願日 昭和五九年七月二〇日(実願昭五九-一一〇七〇七号) 出願公告 平成四年六月四日(実公平四-二三八九七号) 登録年月日 平成五年五月一三日 実用新案登録請求の範囲 別添実用新案公報(以下「本件公報」という。)該当欄記載のとおり(二) 本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A ショベル型掘削機の作業アーム先端に装着されるホルダーと、このホルダーに各基端が枢着される上下一対のクランプと、一端がホルダーに枢着され且つ他端が一方のクランプに連結された油圧シリンダーと、両クランプを連動させる連動部材とからなる掴み機において、
B 油圧シリンダーはその上端側がホルダーに枢着され、下端側が下方側のクランプに連結されているとともに、上端が下端よりも後方側に位置する斜め状態で配設されており、
C 下方側のクランプはそのホルダーへの枢着部より後方で且つ斜め下方に突出する片を備えて、この片に油圧シリンダーが連結されていることを特徴とするD 掴み機。
3 被告の物件(一) 被告は、イ号物件を「チルト式フォーククローMX-Tシリーズ」なる名称で、また、ロ号物件を「ロータリーフォーク」なる名称で製造、販売した(現在まで継続して製造、販売しているかについては争いがある。)。
(二) イ号物件及びロ号物件は、本件考案の構成要件のうち、構成要件A中の「ショベル型掘削機の作業アーム先端に装着されるホルダーと、このホルダーに各基端が枢着される上下一対のクランプと、一端がホルダーに枢着され且つ他端が一方のクランプに連結された油圧シリンダー」との構成、及び構成要件BないしDの構成のすべてを備える。(被告は、イ号物件及びロ号物件につき、後記のとおり、構成要件A中の「連動部材」の存否を争うのみで、その余の点については明らかに争わないから、民事訴訟法159条1項により自白したものとみなす。)三 争点1 被告は、現在、イ号物件及びロ号物件を製造、販売しているか。
2 イ号物件及びロ号物件は、本件考案技術的範囲に属するか。
イ号物件及びロ号物件は、本件考案の構成要件Aにいう「連動部材」を備えているか。
3 被告は、本件考案の出願前からイ号物件を製造、販売しており、イ号物件及びロ号物件の製造、販売につき、先使用による通常実施権を有するか。
4 被告が損害賠償責任を負う場合、原告らの損害額 四 当事者の主張1 争点1(被告は、現在、イ号物件及びロ号物件を製造、販売しているか。)について【原告らの主張】 被告は、現在もイ号物件及びロ号物件を製造、販売している。
一九九七年版「特機大全」(神鋼コベルコ建機株式会社作成)及び平成九年版「アタッチメント・応用製品ハンドブック」(日立建機株式会社作成)には、いずれもイ号物件であるチルト式フォーククロー(型式は「MT」であるが、構造はイ号物件と同一である。)及びロ号物件であるロータリーフォーク(型式は「MR」である。)が掲載されている。
また、被告あるいは被告が一〇〇パーセント出資し、被告の製品の販売窓口である株式会社エムエーシーが最近発行しているパンフレットやカタログにもイ号物件及びロ号物件が掲載されている。
【被告の主張】(一) 被告は、イ号物件については平成四年六月以降、ロ号物件については平成六年九月以降、製造、販売していない。
(二) 被告が現在製造しているチルト式フォーククローは別紙三及び別紙四記載のとおりである。
(1) 別紙三の油圧式フォークの構造は次のとおりであり、油圧シリンダーが垂直の状態で配設されているものであるから、本件考案の構成要件Bを充足しない。
(a) ショベル掘削機の作業アームの先部に装着されるホルダーと、
(b) このホルダーに各基端が枢着される上下一対のクランプと、
(c) ヘッド側の一端がホルダーの上部に枢着され、かつロッド側の他端が下方のクランプから斜め下方に突出する片に枢着され、上端と下端を結んだ線がクランプを閉じた状態の上下クランプの水平中心線に垂直の状態で配設された油圧シリンダーと、
(d) 両クランプの基端側を延長した部分に連結されたリンクピンからなる連動部材を有する。
(2) 別紙四の油圧式フォークは、後掲一号機及び二号機と同一の構造であり、すなわち、イ号物件と同一の構造である。
(三) 被告が製造、販売している製品名「ロータリー式フォーククロー」の油圧式フォークは、別紙三及び別紙四の油圧式フォークに旋回装置を装着したものであるから、別紙三の油圧式フォークに装着したものは本件考案の構成要件Bを充足せず、別紙四の油圧式フォークに装着したものはロ号物件と同一の構造である。
2 争点2(イ号物件及びロ号物件は本件考案技術的範囲に属するか。)について【原告らの主張】 イ号物件及びロ号物件は、本件考案の構成要件Aにいう「連動部材」を備えていることは明らかである。
被告は連動部材の個数を問題とするが、これは本件考案の必須の要素ではない。
本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲においては、「両クランプを連動させる連動部材」との構成は存在するものの、連動部材の個数については何ら限定していないから、一個であろうと二個であろうと、上下一対のクランプを連動させるものであれば、本件考案にいう「連動部材」に該当する。
被告の主張する部分は実施例の記載にすぎない。
【被告の主張】 本件考案にいう連動部材は、ホルダーの左右両側にそれぞれ配設されているものであり、すなわち掴み機に二個存在することを前提としている。ホルダーの左右両側に配設されているからこそ、「両クランプで対象物を掴む時、左右いずれか片側の爪だけで掴んでも、クランプに作用するねじれが少なくなるようになっている」ことを特徴として強調しているのであり、本件考案における連動部材とはホルダーの左右両側に配設されていることが必要不可欠である。
これに対し、イ号物件及びロ号物件は、一つの連動部材からなるものであり、その設置個所もホルダーの内部であってホルダーの左右両側ではない。すなわちイ号物件及びロ号物件における連動部材は本件考案にいうところの連動部材とは明らかに異なるものであり、本件考案の構成要件Aにいう「連動部材」に当たらない。
3 争点3(先使用による通常実施権)について【被告の主張】(一)(1) 被告は、昭和五八年二月から五月ころ、別紙一記載の油圧式フォーク一台(以下「一号機」という。)を製造した。一号機の構造は次のとおりである。
(a) ショベル型掘削機の作業アームの先部に装着されるホルダーと、
(b) このホルダーに各基端が枢着される上下一対のクランプと、
(c) ヘッド側の一端がホルダーの上部に枢着され、かつロッド側の他端が下方のクランプから斜め下方に突出する片に枢着され、上端が下端よりも後方側に位置する斜め状態で配設された油圧シリンダーと、
(d) 両クランプの基端側を延長した部分に連結されたリンクピンからなる連動部材を有する。
(2) 被告は、昭和五八年五月ころ、右一号機を野坂建設有限会社から借り受けたパワーショベルに装着してテスト実施を行い、開閉の状態等を写真撮影し、後日パンフレットを作成する際にこのときに撮影した写真を使用した。
被告は、右一号機を、同年八月に、解体業者である新生解体こと【E】に販売した。
(二) 被告は、昭和五九年五月、別紙二記載の油圧式フォーク一台(以下「二号機」という。)を製造した。二号機の構造は、油圧配管の出口が異なっているが、
その余の構造は一号機と同様である。
被告は、右二号機を、同年六月九日ころ、山本産業こと【F】に売却した。
(三) したがって、被告は、本件実用新案権の出願日以前から本件考案を実施していた。被告は、一号機、二号機の製造当時、本件考案の内容を知らなかったから、
本件実用新案権につき先使用による通常実施権を有する。
また、ロ号物件は、イ号物件に旋回装置を装着しただけのものであるから、イ号物件と同様、先使用による通常実施権を有する。
【原告らの主張】 争う。
4 争点4(損害)について 【原告らの主張】 被告は、イ号物件及びロ号物件を少なくとも三八五台製造し、一台当たり平均八〇万八〇〇〇円、総額三億一一〇〇万八〇〇〇円を販売した。
被告の利益率は三〇パーセントであるから、イ号物件及びロ号物件の製造、販売により被告が得た利益は九三三〇万二四〇〇円であり、原告らは同額の損害を被った。
本訴では、そのうち、原告ら各人についてそれぞれ一〇〇〇万円の支払を求める。
【被告の主張】 争う。
当裁判所の判断
一 争点2について 1 被告がイ号物件及びロ号物件をかつて製造、販売していたこと、イ号物件及びロ号物件は本件考案の構成要件のうち、構成要件A中の「ショベル型掘削機の作業アーム先端に装着されるホルダーと、このホルダーに各基端が枢着される上下一対のクランプと、一端がホルダーに枢着され且つ他端が一方のクランプに連結された油圧シリンダー」との構成、及び構成要件BないしDの構成を備えることは、
当事者間に争いがない。
2 被告は、本件考案の構成要件Aにいう「連動部材」は、ホルダーの左右両側にそれぞれ配設されているものであり、ホルダーの左右両側に配設されていることが必要不可欠であると主張する。
しかし、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲において、連動部材の個数が複数でなければならないことを示唆する記載はなく、その他、本件公報において、「連動部材」の意味について右のように限定的に解さなければならないとする根拠は見当たらない。被告が指摘する本件公報の記載部分は、いずれも実施例にかかるものであり、右のような実施例の記載のみから、本件考案の構成として連動部材がホルダーの左右両側に配設されていなければならないということはできないから、被告の主張は採用できない。
イ号物件及びロ号物件に上下一対のクランプを連動させる部材が存在することは被告も認めるところであるから、イ号物件及びロ号物件は、本件考案の構成要件Aにいう「連動部材」を備えているものと認められる。
3 よって、イ号物件及びロ号物件は、いずれも本件考案の構成要件を全て充足し、その技術的範囲に属する。
二 争点3について 1 甲第一七号証、乙第七号証ないし第二一号証を総合すれば、次の各事実が認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
(一) 一号機について (1) 被告は、取引先から、爪の開閉に加えて、アームに対する爪の角度を自由に変えられるフォーククローが製造できないかとの要望を受けて、昭和五八年二月から五月ころ、右の機能を有する一号機を、原寸型紙を用いて作成した。この一号機は、一二トンクラスのパワーショベル用であり、フォーク自体にシリンダーを取り付けて爪の開閉動作を行うとともに、パワーショベルに附属するバケットシリンダーでフォーク自体を上下させるという構造を有していた。一号機の構造は、
別紙一のとおりであり、イ号物件とほぼ同一であった。
(2) 一号機をパワーショベルに取り付けて作動させるためには、通常パワーショベルに標準装備されている二本の油圧ホースのほかに、さらにもう一本油圧ホースを接続する必要があった。そこで被告は、野坂建設有限会社から、かつて被告において油圧ホースを分岐するための切り替えバルブを付加する改造を行った特殊仕様の油圧パワーショベルを借り出し、これに一号機を装着して、被告の工場で試運転を行った。
この際に、被告代表者【D】は、一号機を装着したパワーショベルを写真撮影し、その写真を後に作成したパンフレットに使用した。
(3) 被告は、同年八月ころ、パワーショベルの修理のために被告の工場を訪れていた解体業者である新生解体こと【E】に、一号機を中古品として一四万円で販売した。
【E】は、一号機を三年間くらい使用した後、スクラップにして廃棄した。
(二) 二号機について (1) 被告は、昭和五九年五月ころ、一号機の構造と比較して、油圧ホースをシリンダーから直接出るように配置している点のみが異なる別紙二記載の構造を有する、二〇トンクラスのパワーショベル用の二号機を製造した。
(2) 被告は、同年六月ころ、パワーショベルのアームの先端の修理のために被告を訪れていた山本産業こと【F】に対し、良好だったら六〇万円で購入するとの約束で二号機を販売し、その後、代金を受領した。
(3) 山本産業は、二号機を昭和六〇年三月ころまで使用したが、油圧の取り出し口が標準仕様の新型ショベルに買い換えたために、新しいパワーショベルに二号機を装着することが不可能となり、二号機は被告が引き取った。
(4) 被告は、引き取った二号機を玄洋開発工業に売却し、その後、同社から株式会社宮崎組が引き取って、現在に至っている。二号機のクランプには、製造時期を示す「1984.5」の刻印が存在する。
(三) 被告は、各サイズのパワーショベルに取り付ける同様の構造のフォーククローを、一号機、二号機と合わせて合計三、四台製造し、さらに、これらを量産化した。
2 右で認定した各事実によれば、被告は、本件実用新案権の出願日(昭和五九年七月二〇日)より以前である昭和五八年五月には、本件考案技術的範囲に属するイ号物件と同様の構造を持つ一号機を製造し、同年八月にこれを販売していたことが認められる。そして、右一号機は、未だ量産化以前の試作品であるということができるが、甲第一七号証及び乙第二二号証によれば、この種フォーククローは受注生産の形態を取る製品であることが認められ、被告がこれを現に顧客に販売し、対価を得ていることからすれば、被告は、本件考案に係るフォーククローの実施である事業をしていたものというべきであり、仮にそうでないとしても、実施の準備をしていたものと認められる。
そして、被告が右当時、本件考案の内容を知っていたことをうかがわせる証拠資料は一切存在せず、取引先の要望により独自に一号機を製造したものと認められるから、被告には、一号機と同様の構造を有するイ号物件の製造、販売に係る部分については、先使用による本件考案通常実施権が認められるというべきである。
4 次に、右先使用の事実による通常実施権の範囲は、ロ号物件の製造、販売に及ぶかについて問題となるので、これを検討するに、先使用に基づく通常実施権の範囲は、先使用権者が現に日本国内において実施又は実施の準備をしていた実施形式に限定されるものではなく、その実施形式に具現されている技術的思想と同一性を失わない範囲内において変更した実施形式にも及ぶと解すべきところ(最高裁判所昭和六一年一〇月三日判決・民集四〇巻六号一〇六八頁参照)、ロ号物件は、
イ号物件と比較して、本件考案の構成要件とは関わりのない旋回装置を装着した以外はイ号物件と同一の構造を有しており、本件考案の実施という観点からみた場合には、技術的思想としての同一性を失わせるものではないというべきであるから、
ロ号物件の製造、販売も、右先使用による通常実施権の実施の範囲内であると認められる。
また、原告らが、別紙四の物件及びこれに旋回装置を装着した物件について、イ号物件及びロ号物件に含まれるものとして本訴の対象としているかは明確ではないが、これらの物件は、別紙四の記載から明らかなように、微細な点(両クランプの連動部材の配設方向等)においてイ号物件及びロ号物件と異なる点があるものの、本件考案の実施という観点からみた場合には、技術的思想としてはイ号物件と全く同一であり、本件考案との対比上問題となる構成部分の構造も同一であるから、仮に被告がイ号物件の製造、販売を中止し、別紙四の構造のもの及びこれに旋回装置を装着したものに変更したことが事実であったとしても、なお、これらの製造、販売も、右先使用による通常実施権の実施の範囲内というべきである(なお、
別紙三の物件は、シリンダーが上下クランプの水平中心線に垂直の状態で配設されていることは、その図面上明らかであり、本件考案の構成要件Bを充足しないから、その技術的範囲に属しないことは明白である。原告らもこれを本訴の対象とするものではないと考えられる。)。
5 よって、被告のイ号物件、ロ号物件、別紙四の物件及びこれに旋回装置を装着した物件の製造、販売行為は、いずれも、先使用に基づく通常実施権の行使として、本件実用新案権を侵害するものではない。
三 以上から明らかなとおり、原告らの請求はその余の点を判断するまでもなく理由がないから、主文のとおり判決する。
(平成一一年七月一三日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 渡部勇次
裁判官 水上周
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