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関連審決 無効2003-35188
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  自然法則 /  設定登録 /  明細書の記載要件 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  公知技術 /  特段の事情 /  設計変更 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10016号 審決取消請求事件
原告 川万水産株式会社
原告 株式会社エフネット
両名訴訟代理人弁護士 小野明
同 坂口英一
同 弁理士 永田豊
同 増子尚道
被告 株式会社アルス
訴訟代理人弁理士 鎌田文二
同 東尾正博
同 鳥居和久
同 田川孝由
同 北川政徳
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2005/06/20
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が無効2003−35188号事件について平成16年6月16日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は,考案の名称を「魚貝類処理装置」とする登録第2089093号の登録実用新案(平成3年2月8日出願,平成7年3月1日出願公告,平成7年11月21日設定登録。以下「本件登録実用新案」という。)の実用新案権者である。
原告らは,平成15年5月13日,上記実用新案登録を無効とすることについて審判の請求をし,特許庁は,これを無効2003-35188号事件として審理した。被告は,同事件係属中の同年10月20日,本件登録実用新案に係る願書に添付した明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正を請求した。特許庁は,審理の結果,平成16年6月16日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,同月28日,その謄本を原告らに送達した。
2 訂正後の実用新案登録請求の範囲の【請求項1】に係る考案(以下「本件考案」という。)の要旨 両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合わせて成り,円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板と吊上げ用の吊金具を備え,処理液槽は槽本体内で前記ドラムを回転自在に支持する支持ローラとドラムを回転駆動する駆動部を備え,駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結して成り,この連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と,このハの字状の受金具の内側に係合する,前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成る魚貝類処理装置。
3 審決の理由 審決の理由は,別添審決謄本写し記載のとおりであり,要するに,@本件考案は,実用新案法3条柱書の考案に該当しないものであるとはいえない,A本件明細書考案の詳細な説明の開示が,当業者が容易に実施できる程度に記載されていないとまではいえないから,同法5条4項(注・平成6年法律第116号による改正前の実用新案法5条4項の趣旨と解される。以下同じ。)の規定に違反しない,B本件考案は,当業者が米国特許第4,324,020号明細書(甲2,以下「引用例」という。)に記載された考案(以下「引用考案」という。)及び周知慣用技術並びに公知技術に基づいて極めて容易に考案をすることができたものとはいえないとした。
原告ら主張の審決取消事由
審決は,本件考案自然法則に反するもので未完成であることを看過して,実用新案法3条柱書の考案に該当すると誤って判断し(取消事由1),本件明細書による本件考案の開示が不十分であることを看過し(取消事由2),また,本件考案と引用考案との相違点についての判断を誤り(取消事由3),その結果,原告ら主張の無効理由を排斥したものであって,違法であるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(実用新案法3条柱書の考案該当性の判断の誤り) (1) 本件考案は,吊上げ用の吊金具を円筒ドラムの両端に備えているところ,円筒ドラムの回転中,必然的に円筒ドラムを支持している支持ローラに吊金具が当たる構成となっており,吊金具が支持ローラに当たると円筒ドラムの回転は停止してしまう。原告らは,本件考案を検証するために,本件明細書及び図面に示されるとおりの装置を準備して実験してみたが,吊金具が支持ローラに当たると,吊金具は,支持ローラを乗り越えることができずに回転を停止し,本件明細書に記載されているような動作をしなかった。したがって,本件考案は,自然法則に反するものであって未完成の考案というべきであり,これが実用新案法3条柱書の考案に該当するとした審決の判断は,誤りである。
(2) 審決は,原告らが,その実験において,あえて突起高の高い吊金具を用い,しかも,支持ローラに衝突するような位置に当該吊金具を溶接したと考えられるから,原告らの主張は前提において誤っているという。
しかし,原告らは,適切な分析と配慮の下で,十分な注意を払って公平な条件で実験しており,それにもかかわらず,上記の結果が得られたのであって,審決の指摘は根拠のない不当なものである。
2 取消事由2(明細書の記載要件に関する判断の誤り) 上記1(1)のとおり,本件考案において,円筒ドラムの外面の吊金具が支持ローラに当たって円筒ドラムの回転を阻害しているところ,仮に,これが未完成の考案と認められないとしても,本件明細書考案の詳細な説明には,当業者が本件考案を容易に実施することができる程度に記載されているとはいえないから,実用新案法5条4項に違反したとした審決の判断は誤りである。
審決は,本件明細書図面【図1】によれば,吊金具と支持ローラとが互いに接触しない位置に配置して取り付けられているものと読み取ることができるという。
しかし,本件考案では,ドラム両端の外周面(リング)が支持ローラへ荷重を伝え,ドラム位置が軸方向のどちらかへずれようとすると,その外周面(リング)に隣接するフランジと支持ローラとが,その側面同士で当接してドラム全体を反対方向へ押し戻し,反対側へずれた場合でも,同様の作用が働き,両端のこれら作用があいまってドラムは軸方向の一定の位置範囲に維持されるものである。本件考案がこのような原理のものである以上,ドラム両端の外周面には,支持ローラと接触しないことが確実な場所はない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り) (1) 審決は,本件考案と引用考案とを対比して,両者が「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り,円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備えた魚貝類処理装置」であるという点で一致し,一方,本件考案が, a 円筒ドラムが吊上げ用の吊金具を備えている点(相違点a) b 処理液槽はドラムを回転駆動する駆動部を備える点(相違点b) c 駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結し,連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と,このハの字状の受金具の内側に係合する,前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成る点(相違点c) d 処理液槽は槽本体内で前記ドラムを回転自在に支持する支持ローラを備える点(相違点d) で引用考案と相違すると認定したが(審決謄本14頁最終段落〜15頁第1段落),審決の以上の認定及び相違点bについての判断は認める。
(2) 相違点aについて ア 審決は,相違点aについて,引用考案が,「典型的には5ガロン(約19リットル)程度の容積の魚介類洗浄機であり,使い易く,軽く,簡単に持ち運びでき,紫胎貝を容器の中に入れたま運搬するもので,各人が集めた紫胎貝を迅速に完全に洗浄することができ,各人にとって使い勝手の良いものを目的とするもの」(審決謄本15頁第4段落)であるとした上で,「引用考案には,本件考案1(注,「本件考案」を指す。以下同じ。)のように,大型のドラム内に魚貝類を入れたままで,複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着,取外しするという技術的課題はないし,また,それを示唆する記載もない。そして,引用考案において,その目的を考慮すれば,吊金具を必要とするほどの大型のドラムを採用することは当業者としては通常考えないことであるから,引用考案において,円筒ドラムに吊上げ用の吊金具を設ける動機付けが,先ず以て存在しない。」(同頁第4段落〜第5段落)とするが,この判断は誤りである。
審決は,本件考案には,「大型のドラム内に魚貝類を入れたままで,複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着,取外しするという技術的課題」があるとしているが,本件考案は,実用新案登録請求の範囲の記載から明らかなとおり,「複数工程の処理液槽」を構成要件としていないから,審決の判断は,前提において既に誤っているものである。
次に,引用考案の目的は,「孔開き容器を水槽内に浸して容器内に収容した魚貝を水槽内の水で処理できる装置を提供する」ことにあり,小型のドラムに限定されるものではない。「5ガロン(約19リットル)程度の使い易く,軽く,簡単に持ち運びでき,紫貽貝を容器の中に入れたまま運搬し,各人が集めた紫貽貝を迅速に完全に洗浄し,各人にとって使い勝手の良い魚介類洗浄機を提供する」ことは,引用考案にとって副次的な目的の一つにすぎず,引用考案の本来の目的とはいえない。
さらに,本件考案の出願前において,多くの事業者が日常的に工場で大量の魚貝の洗浄・解凍処理をしていたことにかんがみると,当業者が引用考案に接したときに,引用考案に開示されたドラムを工場内で使用するために大型化することは日常的な設計変更の範囲内でし得ることである。そして,引用例に,モータによるドラム回転の自動化(甲2の4欄42行目〜43行目)が記載されているように,事業者が工場内で魚貝の解凍洗浄を行うときに,ドラムを大型化し,一度に処理できる量を増やすことは,当業者であれば自然に行う技術的な流れであるから,「吊金具を必要とするほどの大型のドラムを採用することは当業者としては通常考えないことである」といえないことは明らかである。
イ 審決は,実願昭53-41147号(実開昭54-143476号)のマイクロフィルム(甲8-1),特開昭54-129557号公報(甲8-2),実願昭59-116100号(実開昭61-31081号)のマイクロフィルム(甲8-3),実願昭60-58361号(実開昭61-173277号)のマイクロフィルム(甲8-4,以下,これらを「甲8刊行物」と総称する。)に記載された考案について,「何れも,単に吊下式の回転不可能な籠等の解凍容器を有する解凍洗浄機」(審決謄本15頁最終段落)であるとし,また,原告らが使用していた魚貝類解凍洗機を示す写真(甲5),原告らが使用していた魚貝類解凍洗機を撮影した写真(甲9),別件実用新案権侵害差止等請求事件(本件被告を原告,本件原告らを被告らとする大阪地裁平成14年(ワ)第12523号事件)に関する陳述書等(甲10-1,2),冷凍タコ解凍機に関するリース契約書の写し等(甲11-1〜4),上記リース契約に係る会社の閉鎖登記簿謄本の写し等(甲12-1,2)に示される公知技術についても,「単に吊下式の回転不可能な籠等の解凍容器を有する解凍洗浄機」(審決謄本16頁第2段落)であるとした上で,いずれも,本件考案の相違点aに係る構成が記載されておらず,また,それを示唆する記載もないとするが,この認定は誤りである。
確かに,甲8刊行物に開示されているのは,「吊下式の回転不可能な籠等の解凍容器を有する解凍洗浄機」であるが,これらの技術は,多数の孔を有して処理液槽内の水が自由に出入り出来る容器に魚貝類を入れこれを解凍処理する装置に係るものであって,上記刊行物には,上記解凍洗浄機を吊り上げて処理液槽に出し入れするという目的を持った吊金具に関する技術が開示されており,これは,本件考案と同様の目的,作用を有するものである。このように,甲8刊行物に記載された技術は,引用考案と同一の技術分野に属し,かつ,同一の機能ないし作用を有するのであるから,上記各刊行物に記載された技術において開示されている吊金具を引用考案に適用して,吊金具を備える円筒ドラムの構成とすることは,当業者が極めて容易に想到し得たものである。
このことは,甲5,9,10-1,2,甲11-1〜4,甲12-1,2に示される公知技術についても同様であり,吊金具を備える円筒ドラムの構成とすることは,当業者が極めて容易に想到し得たものである。
ウ したがって,相違点aに係る本願考案の構成について容易想到性を否定した審決の判断は誤りである。
(3) 相違点cについて ア 審決は,相違点cについて,「引用考案において,円筒ドラムに吊上げ用の吊金具を設ける動機付けがないから・・・負荷装置Dを吊り上げ,これを上方から駆動モータMに下降させることによって嵌合溝11bの内側に嵌合突起12bを嵌合させ,モータ側と負荷側とを接続する連結構造を採用する動機付けがない。」(審決謄本17頁第2段落)とするが,前記のとおり,引用考案において円筒ドラムに吊上げ用の吊金具を設ける動機付けがあるから,上記判断は,前提において既に誤りである。
イ 審決は,実願昭59-19758号(実開昭60-133229号)のマイクロフィルム(以下「甲13-1刊行物」という。)から相違点cに係る本願考案の構成に想到することが極めて容易であるとはいえないことの根拠の一つとして,「甲第13号証の1に記載された考案は,(13の1-3)記載のとおり『嵌合溝の巾広側から嵌合突起を挿入して嵌合させることにより,嵌合溝の側壁面と嵌合突起の側面とが係合して駆動軸13と従動軸14とが精度良く同軸に連結される。』ものであって,本件考案1の受金具に相当する嵌合溝の形状は,逆ハの字状になっており,連結は容易であるが,楔形の楔が強く食い込むと,取り外しが困難になるものと考えられる。」(審決謄本17頁下から第3段落)とするが,この認定は誤りである。
審決は,要するに,回転力を伝達する駆動軸の連結部(楔形連結部)に負荷装置の自重が掛かるから,逆ハの字状の嵌合溝に,楔形の楔が強く食い込むと,取り外しが困難になるとしているものであるが,技術的に見て通常のことではない。甲13-1刊行物には,「台板S等を介在させて負荷装置Dを床面F上に設置する」(6頁15行目〜16行目)と記載されていることなどから明らかなとおり,回転力を伝達する駆動軸,従動軸及び継手部材には負荷装置の荷重(自重)を掛けないようにし,この負荷装置の自重を台板Sによって支えるようにしているのであり,したがって,甲13-1刊行物記載の装置においても,台板Sにより負荷装置Dが支持され,楔形の連結が食い込むことが防止されることは,本件考案において支持ローラによりドラムが支持されて楔形の連結が食い込むことが防止されるのと同じである。
また,甲13-1刊行物に係る技術において,何らかの手段(台板Sと見るのが自然)で負荷装置の荷重を支持していない場合,嵌合溝が逆ハの字となって上方が拡がった状態に保持されている間はいいが,軸が180度回転し,逆ハの字が上下反転して下方が拡がったハの字形となった場合には,嵌合突起が落下して連結が外れてしまうことになる。
ウ 審決は,「本件考案1は,連結部をドラムの側端に設けたハの字状の受金具と,このハの字状の受け金具の内側に係合する,回転軸の軸端に設けた平板部材を設けることにより,ドラム装着が容易であるだけでなく,吊り下げによるドラム装着中に楔形連結構造の平板部材が受金具に強く食い込むことがなく,吊り上げによるドラムの取り外しが容易であるという,当業者が予期し得ない効果を奏する」(審決謄本17頁末行〜18頁第1段落)とするが,この判断が誤りであることは,上記イと同様である。
エ したがって,相違点cに係る本願考案の構成について容易想到性を否定した審決の判断は誤りである。
(4) 相違点dについて ア 審決は,相違点dについて,「引用考案は,第1図を参照してもわかるように,各人が独りで簡単にクランク8により手動で水中で容器を回転できるものであるから,ローラーにより支持する動機付けはない。また,第2図の,水槽の両側面の溝に支持されたジャーナル軸受けを使用し,貫通クランクにより支持されたものは,八面ドラムであるから,貫通クランクをモーターにより駆動して,使い勝手を良くすることは示唆されるものの,ローラーにより支持すると円滑な回転が望めないものであるから,やはりローラーにより支持する動機付けはない。」(審決謄本18頁第4段落)とするが,この判断は誤りである。
当業者が引用考案に接したときに,一度に処理できる量を増やし生産性を向上させるため,引用考案のドラムを大型化することが,日常的な設計変更の範囲内でし得るものであることは上記(2)アのとおりである。このようにして大型化したドラムをローラで支持することは,同様の構造を有する特開昭61-265043号公報(甲3,以下「甲3刊行物」という。)及び実願昭63-774号(実開平1-105483号)のマイクロフィルム(甲4,以下「甲4刊行物」という。)に記載された技術に接する当業者であれば,極めて容易に想到し得たものである。
イ 審決は,「本件考案1と,甲第3,4号証刊行物に記載された考案とを対比すると,甲第3号証刊行物に記載された考案は,円筒内の気泡噴出装置により魚介類を洗浄する固定型の回転式魚介類洗浄機であり,本件考案1とは洗浄方式が相違するものであり,甲第4号証刊行物に記載された考案も,円筒ドラムは多数の開口を有さない固定型の棒状物の回転式洗浄装置」(審決謄本18頁下から第2段落)であるとした上で,「何れも,単に支持ローラーにより回転式洗浄機を支持する技術に留まり,吊金具を有さないものであるから,甲第3乃至4号証刊行物には,本件考案1は記載されていないし,またそれを示唆する記載もない。」(同段落)としているが,この認定は誤りである。
甲3刊行物記載の技術は,水槽内の水が出入り可能な多数の孔を備えた円筒ドラムに魚貝類を入れ,これをローラで回転可能に支持し,モータで回転させて洗浄することにおいて引用考案と変わりがなく,また,甲4刊行物記載の技術も,円筒ドラムをローラにより回転可能に支持し,これをモータで回転させて洗浄を行う機能の点で引用考案と共通する。甲3刊行物には,多数の小孔を備えた中空の円筒ドラムを水槽内で回転自在にローラで支持するという本件考案の構成が開示されており,また,甲4刊行物には,円筒ドラムをローラで回転可能に支持するという本件考案の構成が開示ないし示唆されているから,審決の上記認定は誤りである。
(5) 総合判断について 審決は,総合判断として,「このような連結部(上記相違点(c))と同時に,吊金具(上記相違点(a))と支持ローラー(上記相違点(d))を設け,楔形連結構造とローラー支持構造を同時に採用することにより,ドラム装着が容易であるだけでなく,吊り下げによるドラム装着中に楔形連結構造の平板部材が受金具に強く食い込むことがなく,吊り上げによるドラムの取外しを容易にすることは,甲第2,3,4,8,13号証刊行物或いは甲第5,9乃至12号証には,記載されていないし,またそれを示唆する記載もない。」(審決謄本19頁第3段落)としたが,この認定は誤りである。
甲13-1刊行物,甲3刊行物及び甲4刊行物には,審決にいう「楔形連結構造とローラー支持構造を同時に採用することにより,ドラム装着が容易であるだけでなく,吊り下げによるドラム装着中に楔形連結構造の平板部材が受金具に強く食い込むことがなく,吊り上げによるドラムの取外しを容易にする」技術が開示されており,また,楔形の連結が食い込むのを防止する効果も,甲13-1と同一のものであって,楔形の連結が食い込まないように支持する対象物が円筒ドラムのように回転するのであれば,甲13-1刊行物の台板Sに代え,単に,周知慣用技術(甲3,4)であるローラを採用すれば済むことである。
被告の反論
審決の認定判断は正当であって,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(実用新案法3条柱書の考案該当性の判断の誤り)について 本件考案は,吊金具の取付位置について格別限定していないから,吊金具の取付位置は,当業者が,円筒ドラムをつり上げて搬送するために適宜の場所に設け得るものである。また,支持ローラも,ドラムを回転自在に支持するものであるから,その取付位置は,ドラム本体の適宜の場所に設け得るものである。ドラムの回転に支障のない位置に吊金具を設けて本件考案を実施することは,当業者にとって単なる設計事項にすぎない。
2 取消事由2(明細書の記載要件に関する判断の誤り)について 前記1のとおり,ドラムの回転に支障のない位置に吊金具を設けて本件考案を実施することは,当業者にとって単なる設計事項であるから,本件明細書考案の詳細な説明の開示が不十分であるとはいえない。
3 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点aについて 引用考案に開示されているのは,「典型的には5ガロン(約19リットル)程度の容積の魚介類洗浄機であり,使い易く,軽く,簡単に持ち運びでき,紫胎貝を容器の中に入れたまま運搬できるもので,各人が集めたある紫胎貝を迅速に完全に洗浄することができ,各人にとって使い勝手の良いもの」を本来の目的とした技術である。そうすると,引用考案の本来の目的に反して,ドラムを大型化することができるものではないから,甲8刊行物に記載された大型化したドラムを吊り上げるための吊金具を,大型化することができない引用考案に採用することはできず,その動機付けもない。また,引用考案は,処理液槽に対してドラムを着脱することができないのであるから,本件考案のように,処理液槽に対してドラムを吊り上げて装着したり取り外したりするという技術課題はない。
原告らは,本件考案が,審決のいう「複数工程の処理液槽」を構成要件としていないと主張するが,本件考案は,処理液槽に対してドラムを容易に装着,取外しすることができるものであるから,複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着,取外しするという使用法を採用することができることは自明である。
(2) 相違点cについて ア 引用考案には,円筒ドラムに吊上げ用の吊金具を設けるという動機付けがないから,甲13-1刊行物の負荷装置を吊り上げ,これを上方から駆動モータに降下させることによって嵌合溝の内側に嵌合突起を嵌合させ,モータ側と負荷側とを接続するという連結構造を採用する動機付けもない。この点についての審決の認定判断に誤りはない。
イ 本件考案によると,駆動軸と従動軸との軸心が一致した状態で緊密に嵌合するテーパ状嵌合溝とテーパ状突起とをあらかじめそれぞれの継手部材の端面に形成しておくようにしたため,駆動軸と従動軸とを連結する際,嵌合溝に嵌合突起を緊密に嵌合させるだけで,この連結作業が極めて容易であるとともに,駆動軸と従動軸の調心も自動的に精度良くなされる。一方,甲13-1刊行物の記載からすれば,そこに記載された装置における駆動軸と従動軸との楔形結合は緊密であって,その取り外しは困難であると考えられる。したがって,引用考案と甲13-1刊行物の技術とを結合させるという動機付けはない。
(3) 相違点dについて 甲3刊行物や甲4刊行物は,いずれも,単にドラムやこれを回転支持する支持ローラを開示しているにすぎず,楔形連結構造を採用した場合の欠点である楔形の連結が食い込むことを防止する手段として支持ローラを開示しているものではない。
甲13-1刊行物には,「台板S等を介在させて負荷装置Dを床面Fに設置する」(6頁15行目〜16行目)と記載され,これを図示した第5図があるのみであって,台板Sによって楔形の連結が食い込むことを防止するとの記載はない。
(4) 総合判断について 上記のとおり,甲13-1刊行物には,台板Sによって楔形の連結が食い込むことを防止する旨の記載はない。また,甲3刊行物,甲4刊行物には,単にドラムやこれを回転支持する支持ローラが開示されているにすぎないから,同刊行物に,楔形連結構造を採用した場合の欠点である楔形の連結が食い込むことを防止する手段として支持ローラを開示しているとはいえない。
さらに,甲13-1刊行物に示される台板Sは,上記のとおり,襖形の連結が食い込むことを防止する旨の記載はないから,楔形の連結が食い込むことを防止することを意図して,この台板Sに代えて,周知慣用技術(甲3,4)であるローラを採用することに結び付かない。
当裁判所の判断
1 取消事由3(相違点についての判断の誤り)について (1) 相違点aについて ア 審決は,本件考案と引用考案との相違点aとして認定した,本件考案では「円筒ドラムが吊上げ用の吊金具を備えている点」について,引用考案が,「典型的には5ガロン(約19リットル)程度の容積の魚介類洗浄機であり,使い易く,軽く,簡単に持ち運びでき,紫胎貝を容器の中に入れたま運搬するもので,各人が集めた紫胎貝を迅速に完全に洗浄することができ,各人にとって使い勝手の良いものを目的とするもの」(審決謄本15頁第4段落)であるとした上で,「引用考案において,その目的を考慮すれば,吊金具を必要とするほどの大型のドラムを採用することは当業者としては通常考えないことであるから,引用考案において,円筒ドラムに吊上げ用の吊金具を設ける動機付けが,先ず以て存在しない。」(同頁下から第2段落)と判断した。
イ 引用例(甲2)に次の記載があることは,当事者間に争いがない。
@ 「容器は,典型的には5ガロンで,円周面に多数の開口を有する。」(公報1欄33行目〜34行目) A 「更なる目的は,安価に製造でき,使い易く,軽く,簡単に持ち運びできる紫胎貝洗浄機を開示することである。各人が集めた紫胎貝を迅速に完全に洗浄することができ,各人にとって使い勝手の良いものである。」(公報2欄19行目〜23行目) B 「本発明の紫胎貝洗浄機2は,ドラム4を備え,該ドラムは,当該ドラムの各端に装着された気泡浮き円盤6,7を有する。ドラムの一端からはクランク8が延び,このクランク8は当該ドラムを回転するために使用される。・・・図1および図2に示すように,ドラムは,穴の開いた外周10と中実な円形の端部12とを有する略円形の容器である。非常に多くの開口14が外周10に形成されている。・・・紫胎貝は,扉18を通じてドラムの内部に入れられ,またドラムから取り出される。・・・」(公報2欄40行目〜62行目,図1,図2) C 「使用者の要望に応じて,洗浄された貝は取り出すか,ドラム内に入れたまま,移動される。図3に別の実施例を示す。表面に複数の穴33を有する八面ドラム31が水槽34内に設置されており,これは水槽の両側面の溝に支持されたジャーナル軸受けを使用し,貫通クランクによる従来の方法で設置されている。
ハンドル8は,水槽の一側面を通過して延び,水槽内において通常のやり方でドラムを回転するのに使用される。」(公報4欄13行目〜22行目,図3) D 「例えば,ドラムを回転させるためにモータを設けることができる。」(公報4欄42行目〜43行目) そして,上記記載及び同引用例の図面によれば,引用例には,審決の認定するとおり,「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り,円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備えた魚貝類処理装置」(審決謄本14頁最終段落)という技術(引用考案)が開示されているものと認められる。また,「典型的には5ガロン(約19リットル)程度の容積の魚介類洗浄機であり,使い易く,軽く,簡単に持ち運びでき,紫胎貝を容器の中に入れたま運搬するもので,各人が集めた紫胎貝を迅速に完全に洗浄することができ,各人にとって使い勝手の良いものを目的とするもの」(同15頁第4段落)であることも読み取ることができる。
ウ ところで,引用刊行物に基づく容易想到性を考えるに当たって重要なことは,ある引用刊行物に接した当業者の視点から,これを契機として問題となっている考案に極めて容易に想到し得るかどうかということである。
本件において,引用例に,上記イのとおり,「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り,円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備えた魚貝類処理装置」という技術のみならず,審決のいう「典型的には5ガロン(約19リットル)程度の容積の魚介類洗浄機であり,使い易く,軽く,簡単に持ち運びでき,紫胎貝を容器の中に入れたま運搬するもので,各人が集めた紫胎貝を迅速に完全に洗浄することができ,各人にとって使い勝手の良いもの」との目的をも開示しているとしても,この目的は当該技術と密接に結び付いているものとはいえないから,当業者の有する通常の理解力や応用力を考慮すると,そのような目的を捨象し,より抽象化した「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り,円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備えた魚貝類処理装置」という技術を把握することが可能であることは明らかである。そして,この技術と上記目的とを切り離して把握することを困難とする特段の事情も認められない。
したがって,審決の上記アの判断は,前提において既に誤っているというべきである。
エ 甲8刊行物についてみると,実願昭53-41147号(実開昭54-143476号)のマイクロフィルム(甲8-1)に,「冷凍魚類を入れた吊上げ用部材を設けた伸縮可能な網状部材からなるカゴ10を解凍水槽Aに沈めて解凍を行う冷凍魚類の解凍装置。」(明細書4頁下から2行目〜7頁9行目,第1図,第5図),特開昭54-129557号公報(甲8-2)には,「金網等で形成された籠2に冷凍魚塊を入れ,この籠2をホイスト等で運搬して解凍槽1に入れ,槽1内に水を満たして解凍を行い,解凍後,籠2は解凍槽1から引き上げられる冷凍魚類解凍装置。」(公報2頁左下欄11行目〜3頁右上欄3行目,第1図〜3図),実願昭59-116100号(実開昭61-31081号)のマイクロフィルム(甲8-3)には,「作業台50に解凍容器30を載せて冷凍食品を収容した後,ホイスト21を操作して吊り下げワイヤ23の先端に取り付けたフック24によって解凍容器30を吊り下げ,これを移動させて解凍槽2に沈めて解凍作業を行い,解凍作業終了後には再び解凍容器30を吊り下げ,水を切り作業台50に移動する,冷凍食品の解凍装置。」(明細書10頁8行目〜14頁12行目,第1図〜3図),実願昭60-58361号(実開昭61-173277号)のマイクロフィルム(甲8-4)には,「金網等で形成された籠2に冷凍魚を投入する一方,解凍槽1に海水を入れ,この解凍槽1に籠2を入れて冷凍魚の解凍を行う冷凍餌解凍装置。」(明細書6頁2行目〜6行目,第1,4,5図)が記載されていることは,審決において認定しているところであり(審決謄本11頁下から第3段落〜12頁第2段落),当事者間にも争いはない。
そして,甲8刊行物の上記記載及び弁論の全趣旨によれば,本件考案の出願前において,多くの事業者が日常的に工場で大量の魚貝の洗浄・解凍処理をしていたことが認められる。
このような状況下にある当業者が引用考案に接したとき,引用考案に開示されたドラムを工場内で使用するために大型化し,一度に処理できる量を増やすことは,当業者がごく自然にしかも日常的な設計変更の範囲内でし得ることというべきである。そして,円筒ドラムを大型化して一度に処理できる量を増やせば,魚貝類の入った円筒ドラムの重量も当然大きくなるはずであるから,当然に人力で持ち上げることができなくことが予想され,そうなると,機械力を利用して円筒ドラムを吊り上げようと考えるのはごく自然のことである。
甲8刊行物には,吊下式の籠あるいは解凍容器を有する解凍装置が開示されており,この技術は,引用考案と同一の技術分野に属し,かつ近似した機能ないし作用を有するものということができるから,引用考案の「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り,円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備えた魚貝類処理装置」という技術に甲8刊行物記載の技術を組み合わせて,円筒ドラムを吊下式のものとし,相違点aに係る「円筒ドラムが吊上げ用の吊金具を備え」た構成にすることは,当業者にとって極めて容易であるというべきである。
オ 審決は,甲8刊行物について,「何れも,単に吊下式の回転不可能な籠等の解凍容器を有する解凍洗浄機」(審決謄本15頁最終段落)であるとし,本件考案の相違点aに係る構成が記載されておらず,また,それを示唆する記載もないとする。
しかしながら,甲8刊行物が吊下式であるのは,機械力を利用しようとしているからであり,機械力を利用しようとするのは解凍容器が重いからであって,解凍容器が回転可能か不可能かとは無関係である。そして,解凍容器が回転不可能であることが,甲8刊行物を引用考案に組み合わせることを困難にするような特段の事情も見当たらない。
カ 以上のとおりであるから,相違点aについての審決の認定判断は誤りである。
(2) 相違点cについて ア 審決は,相違点cとして認定した,本件考案では「駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結し,連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と,このハの字状の受金具の内側に係合する,前記回転軸の軸端に設けた平板部材から成る点」について,「引用考案において,円筒ドラムに吊上げ用の吊金具を設ける動機付けがないから・・・負荷装置Dを吊り上げ,これを上方から駆動モータMに下降させることによって嵌合溝11bの内側に嵌合突起12bを嵌合させ,モータ側と負荷側とを接続する連結構造を採用する動機付けがない。」(審決謄本17頁第2段落)と認定判断するが,上記(1)に判示したとおり,「引用考案において,円筒ドラムに吊上げ用の吊金具を設ける動機付けがない」とはいえないから,審決の上記認定判断は,前提において既に誤りである。
イ 審決は,甲13-1刊行物から相違点cに係る本願考案の構成に想到することが極めて容易であるとはいえないことの根拠の一つとして,「甲第13号証の1に記載された考案は,(13の1-3)記載のとおり『嵌合溝の巾広側から嵌合突起を挿入して嵌合させることにより,嵌合溝の側壁面と嵌合突起の側面とが係合して駆動軸13と従動軸14とが精度良く同軸に連結される。』ものであって,本件考案1の受金具に相当する嵌合溝の形状は,逆ハの字状になっており,連結は容易であるが,楔形の楔が強く食い込むと,取り外しが困難になるものと考えられる。」(審決謄本17頁下から第3段落)と認定しているので,検討する。
確かに,本件明細書(甲19)の発明の詳細な説明をみると,【効果】の欄には,「以上詳細に説明したように,この考案の処理装置は多数の小孔を設けたドラムを処理液槽と組合せ,処理液槽に設けた駆動部の動力を着脱自在な連結部を介してドラムに伝達するようにし,この連結部を前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と,このハの字状の受金具の内側に係合する,回転軸の軸端に設けた平板部材から構成したから,回転軸の軸端の平板部材を上向きにするだけで,複数工程の処理液槽に対してドラムを次々に容易に装着,取外しでき,その間に最初にドラム内に封入された蛸などの魚貝類は中から取り出すことなく所要の解凍,塩もみ,薬品処理などの作業が極めて効率的に行なわれるという種々の利点が得られる。」(段落【0026】)と記載されていることが認められる。上記記載からは,本件考案が,「連結部をドラムの側端に設けたハの字状の受金具と,このハの字状の受け金具の内側に係合する,回転軸端に設けた平板部材を設ける」ことによって,「ドラム装着が容易であるだけでなく,吊下げによるドラム装着中に楔形連結構造の平板部材が受金具に強く食い込むことがなく,吊り上げによるドラムの取り外しが容易である」という効果を奏するかのように読めなくもない。
しかしながら,本件考案の実用新案登録請求の範囲には,上記第2の2のとおり,「処理液槽は槽本体内で前記ドラムを回転自在に支持する支持ローラとドラムを回転駆動する駆動部を備え,駆動部の回転軸をドラムに対して着脱自在な連結部により連結して成り,この連結部が前記ドラムの側端に設けたハの字状の受金具と,このハの字状の受金具の内側に係合する」と記載されているのであって,槽本体内で円筒ドラムを回転自在に支持しているのは「支持ローラ」であり,「ドラムに対して着脱自在な連結部」ではない。
また,本件明細書考案の詳細な説明をみると,実施例には,「処理液槽2は,前記円筒ドラム1を受入れるに十分なスペースの槽本体を支持部11により支持され,その内部に円筒ドラム1を回転支持するための支持ローラ12を備えている。
支持ローラ12は,ドラム本体3の両端を支持するように槽本体斜めの底部に設けられている。」(段落【0016】),「円筒ドラム1を槽内に入れる際は,予め回転軸14の先端のL字部15を上向きにしてドラム側の受金具16に対して接続し易いように調整しておく。ドラム両端の下部は槽内に4点で支持する支持ローラ12に対して正しくセットする。」(段落【0021】)との記載があり,これらの記載によれば,円筒ドラムは,「支持ローラ」により支えられていると認められるのであり,「連結部」は,元来がドラムに対して着脱自在なのであって,受金具の形状をハの字状とするか否により,平板部材が受け金具に食い込む強さに格別の相違が生じると解すべき根拠は見当たらない。
そして,本件考案のような連結構造を採用すれば,吊り下げによるドラム装着や吊り上げによるドラム取り外しが容易になることは自明のことである。
したがって,「本件考案1は,連結部をドラムの側端に設けたハの字状の受金具と,このハの字状の受け金具の内側に係合する,回転軸の軸端に設けた平板部材を設けることにより,ドラム装着が容易であるだけでなく,吊り下げによるドラム装着中に楔形連結構造の平板部材が受金具に強く食い込むことがなく,吊り上げによるドラムの取り外しが容易であるという,当業者が予期し得ない効果を奏する」(審決謄本17頁末行〜18頁第1段落)との審決の判断が誤りであることもまた明らかである。
ウ 以上のとおりであるから,相違点cについての審決の認定判断も誤りである。
(3) 相違点dについて ア 審決は,相違点dとして認定した,本件考案では「処理液槽は槽本体内で前記ドラムを回転自在に支持する支持ローラを備える点」について,「引用考案は,第1図を参照してもわかるように,各人が独りで簡単にクランク8により手動で水中で容器を回転できるものであるから,ローラーにより支持する動機付けはない。」(審決謄本18頁第4段落)とする。
確かに,引用例(甲2)の第1図からすると,「各人が独りで簡単にクランク8により手動で水中で容器を回転できる」技術が開示されていることが認められる。しかし,上記技術は,引用考案の「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り,円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備えた魚貝類処理装置」という技術とは格別密接な関係があるものとはいえない。魚貝類処理装置を人力で操作できる程度のものにするか,機械力を利用する大型のものにするかは,当業者がごく自然にしかも日常的な設計変更の範囲内でし得ることである。
また,審決は,「第2図の,水槽の両側面の溝に支持されたジャーナル軸受けを使用し,貫通クランクにより支持されたものは,八面ドラムであるから,貫通クランクをモーターにより駆動して,使い勝手を良くすることは示唆されるものの,ローラーにより支持すると円滑な回転が望めないものであるから,やはりローラーにより支持する動機付けはない。」(審決謄本18頁第4段落)とする。
しかし,引用例に記載されているドラムが八面ドラムであったからといって,当業者が円筒ドラムに想到するに当たっての支障になるとは考えにくいところである。現に,審決自身も,本件考案と引用考案とは,「両端を閉じた中空の円筒ドラムとこのドラムを受入れる処理液槽とを組合せて成り,円筒ドラムはその外面に内部に通じる多数の小孔と魚貝類の出入れ用の蓋板を備えた魚貝類処理装置」であるという点で一致しているとし,「八面ドラム」であることを捨象し,「円筒ドラム」と把握しているのである。
イ ところで,特開昭61-265043号公報(甲3刊行物)に,「全周面に多数の孔2,2’を備え,内部に螺旋状の区切り壁と気泡噴出装置を有する円筒ドラム(円筒状の回転ドラム1)と,このドラムを受け入れる処理液槽(水槽型の洗浄タンク7)とを組み合わせた魚介類洗浄装置において,円筒ドラム1は,第3図に特に示されるように支持ローラ(車輪式の軸受15,15’ ,15”・・・)によって回転自在に支持されており,駆動部(モータ20)により回転駆動される。」(公報2頁右下欄〜3頁右下欄,第1図,第3図) という技術が,実願昭63-774号(実開平1-105483号)のマイクロフィルム(甲4刊行物)には,「円筒ドラム(円筒形の洗浄槽6)を備えた棒状物の洗浄装置において,円筒ドラム6は,支持ローラ5によって回転可能に台車1の上に支持され,回転駆動装置21により回転駆動され,この駆動装置21の回転軸22は,第1図に示されるように連結部(カップリング等からなる軸継手23)によって,ドラム6に対し着脱自在とされている。」(明細書3頁〜5頁,第1図,第4図) という技術がそれぞれ記載されていることは,審決において認定しているところであり(審決謄本10頁最終段落〜11頁第2段落),当事者間にも争いはない。
上記(1)エに判示したとおり,当業者が引用考案に接したとき,引用考案に開示されたドラムを工場内で使用するために大型化し,一度に処理できる量を増やすということは,当業者がごく自然にしかも日常的な設計変更の範囲内でし得る事項であるところ,円筒ドラムを大型化して一度に処理できる量を増やせば,当然に,魚貝類の入った円筒ドラムの重量が大きくなるので,この重い円筒ドラムを何らかの手段で支持しようと考えるのが普通である。
その際,この魚貝類処理装置につき,その円筒ドラムを回転自在に支持する手段として,甲3刊行物及び甲4刊行物記載の支持ローラの技術に着目し,本件考案の相違点dに係る「処理液槽は槽本体内で前記ドラムを回転自在に支持する支持ローラを備える」という構成とすることは,当業者が必要に応じて適宜し得る設計事項というべきである。
ウ 審決は,甲3刊行物及び甲4刊行物について,「何れも,単に支持ローラーにより回転式洗浄機を支持する技術に留まり,吊金具を有さないものであるから,甲第3乃至4号証刊行物には,本件考案1は記載されていないし,またそれを示唆する記載もない。」(審決謄本18頁下から第2段落)としている。
しかし,上記のとおり,魚貝類の入った円筒ドラムの重量が大きくなって,この重い円筒ドラムを何らかの手段で支持しようと考えている当業者が,甲3刊行物及び甲4刊行物記載において着目するのは「支持ローラ」の技術であって,これが吊金具を伴っているか否かとは関係がない。そして,吊金具を有しないことが,「支持ローラーにより回転式洗浄機を支持する技術」を引用考案に適用することを妨げる事情となるものとは考え難く,本件全証拠によっても,そのような事情があることをうかがわせる証拠を見いだすことができない。
エ 以上のとおりであるから,相違点dについての審決の認定判断も誤りである。
(4) 総合判断について 審決は,総合判断において,本件考案が引用考案及び周知慣用技術並びに公知技術に基づいて極めて容易に考案をすることができたものとはいえない根拠として,「このような連結部(上記相違点(c))と同時に,吊金具(上記相違点(a))と支持ローラー(上記相違点(d))を設け,楔形連結構造とローラー支持構造を同時に採用することにより,ドラム装着が容易であるだけでなく,吊り下げによるドラム装着中に楔形連結構造の平板部材が受金具に強く食い込むことがなく,吊り上げによるドラムの取外しを容易にすることは,甲第2,3,4,8,13号証刊行物或いは甲第5,9乃至12号証には,記載されていないし,またそれを示唆する記載もない。」(審決謄本19頁第3段落)ことを挙げている。
しかし,上記(1)ウで述べたとおり,引用刊行物に基づく容易想到性を考えるに当たって重要なことは,ある引用刊行物に接した当業者の視点から,これを契機として問題となっている考案に極めて容易に想到し得るかどうかということである。審決のいうように,引用考案に相違点a,c,dに係る各公知技術を同時に組み合わせて本件考案とすることが引用刊行物にすべて開示されていなければ問題となっている考案に極めて容易に想到し得たといえないとするのは,当業者の有する理解力や応用力を不当に低く設定するものであり,不合理であるというほかない。
引用刊行物に,相違点a,c,dに係る各公知技術を同時に引用考案に組み合わせて本件考案とする技術が開示されていないとしても,上記(1)ないし(3)において判示したところに照らせば,引用例,甲8刊行物,甲13-1刊行物,甲3刊行物及び甲4刊行物のそれぞれに個別的に接した当業者が,それぞれの公知刊行物から把握した技術を同時に組み合わせることに格別の困難な事情はないものというべきである。
したがって,審決の上記判断もまた誤りである。
2 結論 そうすると,原告ら主張の取消事由3は理由があるから,その余の点について判断するまでもなく,審決は取消しを免れない。
よって,原告らの請求は理由があるから,これを認容し,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 青柳馨
裁判官 宍戸充