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関連ワード 技術的範囲 /  考案 /  図面 /  構造 /  物品 /  新規性(3条1項) /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 昭和 39年 (ワ) 282号
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裁判所 前橋地方裁判所
判決言渡日 1970/02/24
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第一、当事者の申立原告代理人は、
「被告は原告に対し金九二九万五、〇〇〇円及びこれに対する昭和三九年一月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。」との判決及び担保を条件とする仮執行の宣言を求め、被告代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
第二、原告主張の請求原因一、原告は昭和三五年三月二一日から同三六年一月二四日までの間、登録第三七七五九四号実用新案(以下本件実用新案という。)の権利者であつたが、その実施料は一件につき金五、〇〇〇円が相当である。
しかるに被告は右期間内に業としてサタケワンパス精米機(以下被告精米機という。)一八五九台を製造販売したが、被告精米機を構成する精白筒の部分は以下に述べるとおり本件実用新案の権利範囲に属し、これを侵害するものであり、原告は被告の故意又は過失による右製造販売行為により金九二九万五、〇〇〇円の損害を蒙つた。
二、本件実用新案の「性質、作用及び効果の要領」並に「登録請求の範囲」は、別紙一記載のとおりであるが、その技術的範囲は要するに精白筒の直径一に対し長さを三以上とする構造を採ることにより、(イ)、連続長時間摩擦させて高温、温潤を維持し、かつ、(ロ)、搗精に伴い剥離する糠を抵抗として摩擦を強化し、もつて搗精を促進することにある。
而して凡そ摩擦式精穀装置は、精米と精麦とを問わず、穀粒を押圧しながら回転する回転子を精白筒に収納する構造をとらざるをえないのであり、本件実用新案はそのような製穀装置としての「物品の型」に関するものである。
三、被告精米機の構造は別紙二図面のとおりであるが、その精白筒は穀粒供給口に近く送穀スクリユーを収納する円筒部(長さ六五ミリメートル)と、これに接し精白翼を収納する六角多孔筒部(長さ二〇二ミリメートル)とから成り、従つて精白筒の長さは二六七ミリメートルである。
四、被告精米機の精白筒の直径は六五ミリメートルである。
すなわち摩擦式精白装置は回転子の回転による摩擦力を利用するものであるところ、摩擦力は回転子翼片とそれを収納する精白筒の内面とが最も近接する個所において強く生ずる。
本件実用新案は精白筒の形状についてはなんら制限していないから円筒に限られる謂はないところ、多角精白筒の場合その屈折部は穀粒の班搗(むらづき)を是正するための混合作用を行うことを主目的とするにすきずき精白作用はなさないのであるから、筒内面の前記摩擦個所を結び回転軸の中心を貫く最短距離をもつて精白筒の直径と見るべきであり、被告精米機においては六角筒の内平行面間の最短中心距離(六五ミリメートル)がこれに相当する。
結局、被告精米機の精白筒は、直径一に対し長さ三以上であり、本件実用新案は前記のとおり精米機か精麦機かはこれを問わないのであるから本件実用新案を侵害することは明らかである。
五、(後出被告の主張五に対し)本件実用新案の技術的範囲は前記のとおり精穀装置としての「物品の型」に関するものであつてその作用、効果に係るものではないから、被告精米機もその名称に拘らず右技術的範囲を免れることはできない(仮に被告主張の相違点第三の五(ハ)、(ニ)があるとしても、それらは付随的事項にすぎず、精穀機の必須要件ではない。
なお本件実用新案の登録前に精白筒の長さを直径の三倍以上とする精米機が公然知られていたことは争う)。
六、よつて原告は被告に対し、前記損害金九二九万五、〇〇〇円と、これに対し不法行為の後である昭和三九年一月二八日から完済に至るまで民事法定利率五分の割合による遅延損害金の支払を請求する。
第三、被告の主張(項数は第二と照応する)一、本件実用新案実施料の額及び被告精米機の製造販売が本件実用新案を侵害するとの点を否認し、その余の事実は認める。
二、本件実用新案の「性質、作用及び効果の要領」並びに「登録請求の範囲」が別紙一記載のとおりであることは認めるが、その技術的範囲は争う。
三、被告精米機の構造、寸法は原告主張のとおりである。
しかしながら送穀スクリユーを収納する円筒部の作用は送穀のみであつて精白作用は行わないからいわゆる精白筒には該らない。
従つて被告精米機の精白筒の長さは二〇二ミリメートルである。
四、直径とは円(球、楕円、円錐線等を含む。)の中心を通り円筒(球面を含む。)に達して終る直線である(従つて直径の存することを前提としている本件実用新案の精白筒の形状は円筒でなければならない)。
しかるに被告精米機の精白筒は六角筒であつて、その対辺距離は六五ミリメートル、対角距離は七三ミリメートルであるが、直径は計測できない。
従つて被告精米機につきその長さと直径の比を論ずることは失当である。
五、被告精米機は専ら精米のみを目的とする物品であるから、精麦装置に係る本件実用新案の技術的範囲には属しない。
すなわち、実用新案の技術的範囲は、明細書の「登録請求の範囲」の記載のみに拘泥することなく、明細書のその他の記載や添付図面をも勘案して実質的に認定すべきものであり、その際型としての形状、構造だけではなく、むしろ型に表現された考案の作用、効果に重きをおかなければならないが、その反面明細書の記載を殊更拡張解釈することは他人の産業活動の不当な拘束となるから許されないのである。
しかるに本件実用新案の作用、効果の要点は原告主張の二点(第二の二(イ)(ロ))であるが、被告精米機においては右の様な作用、効果は存せず、却つて、
(ハ)精米にあつては糠は有害であるから噴風によつて除糠し、(ニ)右噴風により精白筒内を冷却しかつ湿気を排除するものであつて両者は明らかに物品を異にする。
そもそも精白筒の長さを直径の三倍以上とする精米機は、本件実用新案登録出願前に国内において公然知られていたのであり、それにも拘らず本件実用新案が新規性を認められ出願公告を許されたのは、物品を精麦装置に限定しこれを考案構成上の要件としたからである。
立証関係(省略) 理 由一、原告が昭和三五年三月二一日から同三六年一月二四日までの間本件実用新案権者であつたこと、本件実用新案公報記載の「性質、作用及び効果の要領」並びに「登録請求の範囲」は別紙一記載のとおりであること、被告が右期間内に業として被告精米機一八五九台を製造販売したこと、以上は当事者間に争いがない。
そして原告は、被告の右行為は本件実用新案を侵害すると主張するので、以下その当否を判断する。
二、まず被告精米機が、長さ六五ミリメートルの円筒部と、長さ二〇二ミリメートルの六角孔筒部を本体とすることは、当事者間に争いがない。
これにつき被告は「右円筒部は送穀装置であり、精白作用は行わないから精白筒とはいえない。」と主張するが、原本の存在、成立に争いない甲第一〇号証(甲第四一号証、乙第九号証の九判定事件答弁書添付の審決書も同じ。)によると、送穀スクリユーを収納する部分は送穀スクリユー回転によつて単に穀粒を移送するのみならず、それとともに相当程度の一次搗精作用をも有するものと認められ、これに反する証拠はない。
よつて被告精米機の右円筒部と六角部とは合体して一個の精白筒を構成するものというべきでありその長さは二六七ミリメートルということになる。
三、次に被告精米機の精白筒につき直径が存するか否かの判断は暫らく措き、仮りに直径が存するとしても、それが六角筒の対角距離七ミリメートル(この点は被告の自認するところである。)を超え得ないことは明らかであり、結局前認定の長さ(二六七ミリメートル)は直径の三倍以上となるから、その比率という点だけでは被告精米機は一応本件実用新案の明細書に記載されているところに該当するものといわなければならない。
四、ところで原本の存在、成立に争いない乙第九号証の一ないし一二、第一〇号証及び成立に争いない乙第一一、一三号証によれば玄米に比し糖層が厚くかつ粗剛であるため、荒皮の搗精は容易であるが、その後の精白過程に至ると、精米機では技術を要し時間も多く費す上、多量の砕麦を生ずるので、精麦専用の装置(多くは麦粒を湿潤させて行う。)を必要とすることが認められる。
而して本件実用新案が精白筒の直径一に対しその長さを敢えて三以上に延長構成した意図は精麦に必要な湿度と温度を維持し、
且つ剥離した糠を摩擦抵抗体たらしめ、もつて高い摩擦抵抗下より長時間穀粒を摩擦させるにある(直径と長さの比を小さくすると摩擦抵抗が減じ精白を完了することなく排出されてしまう。)ことは明らかであるが、殊更にそのような構造を必要とした理由は、該考案が精麦装置に係るものであることの外見出だし難く、以上のことは、本件実用新案の明細書(成立に争いのない甲第一号証の二)の記載自体からも明瞭に看取できるところである。
してみれば本件実用新案においては、物品を精麦装置に限定することを考案の構成に欠くべからざる事項としているものと認めざるをえず、従つてその技術的範囲は精米装置に及ばないものとしなければならない。
右認定事実は本件実用新案が登録を受けるに至つた経過(原本の存在、成立に争いない乙第八号証の一ないし一八)に照らしても明らかである。
すなわち前出乙第九号証の一二によれば、「精白筒の長さをその直径の三倍以上とする精米機」は本件実用新案の登録出願前に公知であつたことが認められるところ、本件実用新案願書の説明書(乙第八号証の三)、上申書(同号証の七)は精白筒の形状、構造に重点を置いており、「精麦装置」の文字は存するものの、それが考案の独自性をもたらす所以は必ずしも明らかにしていなかつたゝめ、公知の実用新案に類似するとして再度にわたり登録を拒絶された(同号証の五、九)。
しかしその後原告において、本件実用新案はその物品を精麦装置に限定した点に独自性を有することを強調するに及び(同号証の一一、一五)、その意味で新規性を認められ出願公告及び登録を許されるに至つたものと理解されるものである(同号証の一六、一八)。
尤も右のようにいうことは、精穀機或は精米麦機といういわば精米機や精麦機の上位概念を否定するものではなく、精米と精麦とで効果に差をみない物品に係る考案についてはその様なものとして実用新案登録を受けられることは勿論であるが(甲第九号証)精麦専用装置に独得な考案もありうるし又必要であることは前認定のとおりであつて、これと見解を異にする甲第一一号証(A作成の鑑定書八項)は採用しない。
なお甲第五号証(登録異議の決定)は、精米用か精麦用かを特定しない「搗精転子の構造」に係る考案(甲第六号証)についてその出願前に公知の「精麦機における転軸部の構造」に係る考案(甲第七、八号証)に触れるとして新規性を否定したもの、甲第三〇号証(審決)は「精麦機」の発明(甲第三一号証)についてその出願前に公知の「搗精機の構造」(甲第三二号証)、「精米機の構造」(甲第三二号証)の各考案及び「精米機」の発明(甲第一三号証)との関係で新規性を否定したもの、また甲第四〇号証の一(審決)は原告が「精白筒の直径一に対しその長さを三以上となした精麦装置の構造」に係る考案(甲第四〇号の二)の登録出願をしたところ、その出願前に公知となつていた「精米装置の構造」の考案(すなわち本件実用新案である。)との関係で新規性なしとしてなされた拒絶査定を是認したものであるが、以上はいずれも上位概念に属する物品間の場合とは事実を異にすることは明らかである。
ちなみに甲三六、三九号証、第四二号証の二、三、第三号証は精麦工場において偶さか精米機が設備された例にすぎず、また甲第四八、四九号証は精米麦機なる商品が存在するというに止まり、いずれも前認定を左右するに至らない。
なお付言すれば、本件実用新案にあつては、前記のように搗精に伴い生ずる糠を摩擦の抵抗とし、また精白筒内を高温、湿潤に保つことを目論んでいるに反し、被告精米機においては糠を除去しまた精白筒内を低温、乾燥に保つため、筒に多孔を穿つと共に噴風装置を備えるように構成されていることはいずれも当事者間に争いがないが、この点からも両者はその目的、効果に明確な相違があることが推測できる。
五、以上認定のとおり本件実用新案の技術的範囲は精麦装置に限定されるべきところ、被告精米機がこれとは物品を異にすることは明らかであるから、右技術的範囲に属すると認めることはできない。
よつて被告精米機の製造が本件実用新案を侵害することを前提とする本件請求はその余の判断を俟たず理由がないから、
これを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法89条を適用して主文のとおり判決する。