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関連審決 審判1995-27948
関連ワード 分割出願 /  考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  進歩性(3条2項) /  一致点の認定 /  容易に想到 /  公知技術 /  特段の事情 /  明細書 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 232号 審決取消請求事件
原告 シャープ株式会社代表者代表取締役 A
訴訟代理人弁理士 B、C、D、E
被告 特許庁長官F
指定代理人 G、H、I、J
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2000/05/25
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
原告の求めた裁判
「特許庁が平成7年審判第27948号事件について平成11年6月12日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告は、昭和58年4月26日にした実用新案登録出願(実願昭58-64562号)を、平成2年7月23日に分割出願し(実願平2-78056号。考案の名称「携帯用情報処理装置」。本願考案)、出願公告されたが(実公平6-7384号)、登録異議の申立てがあり、平成7年12月5日拒絶査定があったので、同月29日審判を請求し、平成7年審判第27948号事件として審理されたが、平成11年6月12日「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決があり、その謄本は同月27日原告に送達された。
2 本願考案の要旨 必要な情報を入力するためのキーボードを前方に配置すると共に、その後方部を当該キーボードより1段高く形成して印字紙の出し入れ口及び内蔵プリンターの紙送り用摘子を設けた機器本体と、
このキーボードと印字紙の出し入れ口との間において上記機器本体に回動自在に枢支され、上記キーボードを覆うように開閉可能になされ、内面に上記情報等を表示する表示部として液晶表示装置を配設した蓋体とを具備し、
上記キーボードは前下がりになるよう傾斜して設けると共に、
上記蓋体は閉成することによって、当該蓋体の上面が上記機器本体の後方部上面に略面一状態で連なりかつ上記機器本体の後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜し、
開成した状態においては上記液晶表示装置が上記機器本体の後方部上面より上にほぼ位置する構造となし、
上記印字紙の出し入れ口は上記蓋体の開成位置後方で上記機器本体上方部に設けたことを特徴とする携帯用情報処理装置。
(別紙本願考案図面参照) 3 審決の理由の要点 (1) 本願考案の要旨 前項のとおりと認める。
(2) 引用例 これに対して、実公昭47-14961号公報(引用例1)には、次の事項が記載されている。
「操作キー11が取付けられた前下がり傾斜状のパネル部12を前方に配置すると共に、その後方部を当該パネル部12より1段高く形成した筺体4と、このパネル部12と1段高く形成した後方部との間において上記筺体4に回動自在に枢支され、上記パネル部12を覆うように開閉可能になされ、内面に表示管部10を配設した蓋体5とを具備し、上記蓋体5は閉成することによって、当該蓋体の上面が上記筺体4の後方部上面に略面一状態で連なり、開成した状態においては上記表示管部10が上記筺体4の後方部上面より上に位置する構造となした簡易携行型卓上計算機。」(1頁2欄2〜19行、第2図(a),(b)(本判決別紙引用例1図面)の各記載参照。) 特開昭57-91291号公報(引用例2)には、次の事項が記載されている。
「小型ワードプロセッサー、電子タイプライタ等の電子機器(小型情報処理装置)において、キーボード10と表示器94を前方に配置した機器本体の後方部に、印字装置41(プリンター)を内蔵し、印字紙出し入れ口とプラテンノブ1(紙送り用摘子)を設けること。」(1頁左下欄17行〜2頁右上欄13行、第1図(本判決別紙引用例2図面)の各記載参照。) (3) 対比 そこで、本願考案と引用例1に記載のものとを対比すると、引用例1に記載された「パネル部12」、「筺体4」、「簡易携行型卓上計算機」は、本願考案の「キーボード」、「機器本体」、「携帯用情報処理装置」にそれぞれ相当するので、
両者は、
「必要な情報を入力するためのキーボードを前方に配置すると共に、その後方部を当該キーボードより1段高く形成した機器本体と、このキーボードと1段高く形成した後方部との間において上記機器本体に回動自在に枢支され、上記キーボードを覆うように開閉可能になされ、内面に上記情報等を表示する表示部を配設した蓋体とを具備し、上記キーボードは前下がりになるよう傾斜して設けると共に、上記蓋体は閉成することによって、当該蓋体の上面が上記機器本体の後方部上面に略面一状態で連なり、開成した状態においては上記表示部が上記機器本体の後方部上面より上にほぼ位置する構造となした携帯用情報処理装置」である点で一致し、次の各点で相違するものと認められる。
(1)本願考案が、機器本体の後方部に印字紙の出し入れ口及び内蔵プリンターの紙送り用摘子を設けるようにしているのに対して、引用例1に記載のものは、このようにしていない点。
(2)本願考案が、蓋体を閉成することによって、当該蓋体の上面が機器本体の後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜するようにしているのに対して、引用例1に記載のものは、このようにしていない点。
(3)本願考案が、印字紙の出し入れ口を蓋体の開成位置後方で機器本体上方部に設けるようにしているのに対して、引用例1に記載のものは、このようにしていない点。
(4)本願考案が、表示部を、液晶表示装置としているのに対して、引用例1に記載のものは、表示管部としている点。
(4) 相違点(1)についての審決の判断 小型情報処理装置において、キーボードと表示部を前方に配置した機器本体の後方部に、プリンターを内蔵し、印字紙の出し入れ口と内蔵プリンターの紙送り用摘子を設けることが引用例2に記載されているので、本願考案のように、機器本体の後方部に印字紙の出し入れ口及び内蔵プリンターの紙送り用摘子を設けるようにすることは、当業者が極めて容易に想到し得ることと認められる。
(5) 相違点(2)についての審決の判断 キーボードを前方に配置すると共に、その後方部を当該キーボードより1段高く形成した機器本体と、上記キーボードを覆う蓋体とを具備した携帯用情報処理装置において、上記蓋体を閉成することによって、当該蓋体の上面が上記機器本体の後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜するようにすることは周知のことである(例えば、実願昭54-5183号(実開昭55-105372号)のマイクロフイルムの記載参照)ので、本願考案のように、蓋体を閉成することによって、当該蓋体の上面が機器本体の後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜するようにすることは、当業者が極めて容易に想到し得ることと認められる。
(なお、この相違点となる構成は、本願の分割の基礎となる出願である実願昭58-64562号に最初に添付された明細書又は図面に明示されていないことにも注意) (6) 相違点(3)についての審決の判断 キーボードと表示部を前方に配置した機器本体の後方部にプリンターを内蔵した情報処理装置において、印字紙の出し入れ口を表示部の表示位置後方で上記機器本体上方部に設けることは周知のことである(例えば、特開昭53-72525号公報、実開昭55-159434号公報、特開昭57-10823号公報等参照)ので、本願考案のように、印字紙の出し入れ口を蓋体の開成位置(表示部の表示位置)後方で機器本体上方部に設けるようにすることは、当業者が極めて容易に想到し得ることと認められる。
(7) 相違点(4)についての審決の判断 キーボード及び表示部等を設けた情報処理装置において、表示部を液晶表示装置とすることは、例示するまでもなく周知のことであるので、本願考案のように、表示部を液晶表示装置とすることは、当業者が極めて容易に想到し得ることと認められる。
(8) 審決のむすび したがって、本願考案は、前記引用例1,2に記載された考案に基づき、前記各周知事項を参酌して、当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるので、実用新案法3条2項の規定により実用新案登録を受けることができない。
原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は、本願考案と引用例1記載のものとは「このキーボードと1段高く形成した後方部との間において上記機器本体に回動自在に枢支され」る蓋体の取付構成で一致すると認定したが、誤りである。
本願考案の蓋体は、「このキーボードと印字紙の出し入れ口との間において上記機器本体に回動自在に枢支され」ているのであって、「このキーボードと1段高く形成した後方部との間において上記機器本体に回動自在に枢支され」ているのではない。
(2) 被告は、本願考案が「印字紙の出し入れ口」を有している点については、引用例1との相違点として相違点(1)及び相違点(3)として認定していると主張する。しかし、相違点(1)及び相違点(3)は、「印字紙の出し入れ口」を「機器本体の後方部」に設けることについてのものであって、本願考案の構成「蓋体」を「印字紙の出し入れ口」と「一段高く形成した後方部」の間に設ける点についてのものではない。
2 取消事由2の1(相違点(1)についての判断の誤り) (1) 引用例1に記載のものとの間の相違点(1)に関する本願考案の構成は、当業者が極めて容易に想到し得ることと認められるとした審決の判断は、誤りである。
(2) 審決は、そこで、引用例2の「本発明は小型ワードプロセッサー、電子タイプライタ等の電子機器に関する。」なる記載(1頁左下欄17行ないし18行)における「小型ワードプロセッサー、電子タイプライタ等の電子機器」を「小型情報処理装置」と言い換えているが、引用例2には「小型ワードプロセッサー、電子タイプライタ等の電子機器」を「小型情報処理装置」と言い換えた記載は何もなく、
本願考案が対象とする「携帯用情報処理装置」であるとの記載も示唆もない。
すなわち、引用例2には「小型のワードプロセッサー」と記載されているだけであり、この「小型」が引用例1にいう携帯用程度の大きさであるとの記載はない。
仮にワードプロセッサー、電子タイプライタが情報処理装置であるとしても、「小型」と記載されているのはワードプロセッサーのみであって、電子タイプライタについては「小型」と記載されていない。
(3) 引用例2に記載のものの出願当時市販されていた小型のワードプロセッサーの重量は20kgないし30kg程度であると考えられることを考慮すると、本願考案が対象としている携帯用情報処理装置と、引用例2に示された審決のいわゆる「小型情報処理装置」とは、明らかに異なる。
引用例2に記載のものはキーボード、表示部、プリンターを設けた電子機器であり、操作時に表示部及びプリンターを同時に見ることができるものである。これに対して、引用例1に記載のものは、キーボードを蓋する蓋体の内面に表示管を設け、機器の使用時には当該蓋体を立てる構成であり、操作者から蓋体の背後は見渡せなくなるものであって、プリンターがなく、またプリンターを設けることを示唆する記載もない。したがって、表示管の使用時には、蓋体の背後になって操作者から見えない引用例1に記載のものにおいて、表示管の使用時には、蓋体の開成位置後方に印字紙の出し入れ口を設けるという技術的思想は到底得られるものではない。
3 取消事由2の2(相違点(2)についての判断の誤り) (1) 引用例1に記載のものとの間の相違点(2)についてした審決の判断も、誤りである。
審決が示した周知例である実願昭54-5183号(実開昭55-105372号)のマイクロフイルムに示された第2カバー7は、本願考案のように、内面に情報等を表示する「表示部として液晶表示装置を配設した蓋体」の上面を手前側に向かって前下がりに傾斜させる構成とは、その機能・構成において根本的に異なる。
(2) 被告は、「蓋体を閉成することによって、当該蓋体の上面が上記機器本体の後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜」する構成は周知であるとして、実公昭49-39715号公報、実公昭53-6374号公報を追加主張している。しかし、実公昭49-39715号公報に記載の蓋体10は、単に表示部5のみを保護するものであって、本願考案の蓋体のように内面に表示部を有しておらず、かつキーボードをカバーするものとは全く異なる。実公昭53-6374号公報に記載のものでは、キー部4′を有する計算機本体1′と表示体2′を有する表示部3′を当該本体1′の端部の支点部5′を中心に回転自在にしたものであって、本願考案の蓋体のように、キーボードと印字紙の出し入れ口との間において機器本体に回動自在に枢支されたものとは全く異なる。
本願考案の蓋体は、携帯用情報処理装置の使用時において、プリンターの使用に際して、印字紙の出し入れ操作を容易にしたもので、引用例1に記載のものはもちろん、審決及び被告が掲げる周知例のいずれからも得ることができない独特の作用効果を奏する。
4 取消事由2の3(相違点(3)についての判断の誤り) (1) 引用例1に記載のものとの間の相違点(3)についてした審決の判断も、誤りである。
審決は、キーボードと表示部を前方に配置した機器本体の後方部にプリンターを内蔵した情報処理装置において、印字紙の出し入れ口を表示部の表示位置後方で上記機器本体上方部に設けることは周知のことであるとし、特開昭53-72525号公報、実開昭55-159434号公報、特開昭57-10823号公報を例示している。
しかし、これらは、いずれも、キーボード、プリンター及び表示部を有する情報処理装置にすぎず、使用状態において、表示部、プリンターを同時に見ることができる構成のものである。これらは内面に表示部を有する開閉自在の蓋体であって、
蓋体を開いて表示部を使用状態にセットした場合には、その背後が見渡せない蓋体を設けた引用例1の携帯用情報処理装置とは構成及び設計思想が全く異なる。特開昭53-72525号公報、実開昭55-159434号公報に記載のものは、携帯用ではないプリンター付卓上計算機であり、特開昭57-10823号公報に記載のものは、キーボード、表示部、プリンターが同一平面上に設けられていて、いずれも、本願考案とは構成が異なる。
(2) 表示部を内面に有し、かつキーボードをカバーできる蓋体を設けた情報処理装置において、その本体にプリンターを設ける要請があった場合、プリンターをどのように付けるかが問題であるが、その場合、表示及びプリンターが持つ本質的な機能を損なわないようにしようとするのが自然と考えられる。この観点からすると、表示部、プリンター共に情報処理装置の操作者から一目で見えることが最も重要であり、通常であれば、操作者が最も見やすい距離、高さを考慮した位置に表示部、プリンター共に配置することを考えるであろう。実際にも、操作者が表示部もプリンターも同時に見えるように配置するのが技術の流れであった。
(3) 被告は、「引用例2に記載のものにおけるプリンターの出し入れ口が機器本体上方部に設けているかが不明瞭であるため、キーボードと表示部を前方に配置した機器本体の後方部にプリンターを内蔵した情報処理装置において、印字紙の出し入れ口を表示部の表示位置後方で上記機器本体上方部に設けることが明瞭に記載された審決摘示の各公報を周知例として掲げたものである。」旨主張する。
しかしながら、審決は引用例2の構成として、「印字装置41(プリンター)を内蔵し、印字紙出し入れ口とプラテンノブ1(紙送り用摘子)を設けること」と認定している。にもかかわらず、引用例2におけるプリンターの出し入れ口が機器本体上方部に設けているかが不明瞭なためか、被告は上記のように述べている。
審決は、引用例2に記載のものにおいて印字紙の出し入れ口が分からないままに、その印字紙の出し入れ口を勝手に認定したものである。
5 取消事由2の4(相違点(4)についての判断の誤り) 引用例1に記載のものは、表示部が厚みのある表示管であり、かつプリンターがないものである。これに対して本願考案は、操作時において表示部を有する蓋体を開くことによって背後が見えなくなる携帯用の情報処理装置において、表示部として液晶表示装置を用いることによって、蓋体の薄型化を可能とし、キーボードに沿って蓋体を閉成した時に、蓋体の上面の高さを低くし、印字紙を挿入、離脱する際の操作を容易とすることが可能としたものである。
したがって、印字紙の出し入れ口を表示部を内面に設けた蓋体の開成位置後方に設けた携帯用情報処理装置において、表示部を液晶表示装置とするという技術的思想は、引用例1はもとより、仮に液晶表示装置が周知であったとしても到底得られるものではない。
液晶表示装置が出願時において周知であるという理由で、引用例1の表示管に代えて用いることが当業者が極めて容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。
6 取消事由3(作用効果を含めた全体的評価の判断の誤り) (1) 審決は、引用例1に記載のものとの間の相違点のそれぞれを本願考案のようにすることについて、個々に当業者が極めて容易に想到し得ると判断しているが、
これらがどのような技術的思想に基づいて同時にされたかについての判断を欠如している。
すなわち、表示部を有する蓋体を設けた携帯用情報処理装置において、蓋体によって見渡すことができなくなる蓋体の開成位置後方に印字紙の出し入れ口を設けるという技術的思想は、審決が示した引用例及び周知例のいずれにも、開示も示唆もない。したがって、これらを参酌することによって、本願考案の構成を得ることはできるものではない。
(2) 本願考案は、プリンターを使用する場合において操作性がよくなる。
蓋体の背後にプリンターが位置すると、開成状態の蓋体により操作者は印字紙が見えず、立ち上がって蓋体越しに操作しなければならない。また、キー入力操作と同じ状態(例えば座ったままの状態)でプリンターを操作するとすれば、蓋体をできるだけ手前側に倒して、この蓋体越しに印字紙を挿入することになるが、例えば蓋体の上面が手前側に向かって傾斜せず、機器本体の後方部と同じ高さであると、
蓋体を完全に閉成状態にしなければ、蓋体の手前側角部が後方部より高く、完全に閉成しても後方部と同じ高さにしかならないため、操作が非常にやりにくい。
これに対して、蓋体が本願考案のように手前に向かって傾斜するようにしておけば、手前側が低くなるので手前側に余裕ができ、後方部における印字紙の出し入れなどの操作が極めてやり易くなる。このような効果は本願考案により得られる独特のものである。
(3) したがって、本願考案が審決引用のものから極めて容易に想到することができるとした審決の判断は誤りである。
審決取消事由に対する被告の反論
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)に対して (1) 本願考案の蓋体は、「必要な情報を入力するためのキーボードを前方に配置すると共に、その後方部を当該キーボードより1段高く形成して印字紙の出し入れ口及び内蔵プリンターの紙送り用摘子を設けた機器本体」において「このキーボードと印字紙の出し入れ口との間において上記本体に回動自在に枢支され」たものである。印字紙の出し入れ口が蓋体の手前にあることは想到し難く、機器本体のキーボードより一段高く形成した後方部にあるのは明白である。
一方、引用例1に記載のものにおける蓋体5は、第2図(a)、(b)及びそれに関する記載から、操作キー11の存するパネル部12と該パネル部より一段高く形成されている後方部との間において蝶番6により筐体4に回動自在に枢支されているといえる。
したがって、引用例1の「パネル部12」、「筐体4」は本願考案の「キーボード」、「機器本体」に相当するので、両者の蓋体は、「このキーボードと1段高く形成した後方部との間において上記機器本体に回動自在に枢支され」た点で一致するとした審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は、本願考案の蓋体は「このキーボードと印字紙の出し入れ口との間において上記本体に回動自在に枢支され」たものであり、引用例1に記載のものとは異なると主張するが、本願考案が「印字紙の出し入れ口」を有している点については、引用例1との相違点として相違点(1)及び相違点(3)として認定し、判断している。
2 取消事由2の1(相違点(1)の判断の誤り)に対して (1) 引用例2には原告も主張するとおり、「本発明は、小型ワードプロセッサー、電子タイプライタ等の電子機器に関する。」との記載があって、引用例2に記載のワードプロセッサー及び電子タイプライタが情報処理装置であることは明白であり、かつ「小型」であるとの明記があるので、引用例2記載の電子機器を「小型情報処理装置」であるとした審決の認定に誤りはない。
引用例1の1欄37行ないし2欄1行には、「本考案はこれら従来の卓上計算機に於ける欠点を一挙に解決し、小型にて携行容易とした簡易携行型卓上計算機を提供するものである」と記載されており、引用例1の卓上計算機が小型の情報処理装置であることは明白である。ここに、引用例2の小型情報処理装置を引用例1記載の小型の情報処理装置に結び付けるのに無理はない。
(2) 原告は、引用例2の出願当時に市販されていた小型のワードプロセッサーの重量は20kgないし30kg程度であると考えられることを考慮すると、本願考案が対象としている携帯用情報処理装置と引用例2に示された審決の言う小型情報処理装置とは明らかに異なるものである、と主張しているが、失当である。引用例2には、引用例2記載の小型のワードプロセッサーの重量に関する記載はないから、引用例2記載の小型のワードプロセッサーを出願当時に市販されていた商品の一つに結びつけ重量を推定し本願考案の携帯用情報処理装置と異なるという論理は、成り立たない。
(3) 引用例1には、第1図の、原告の表現によれば、機器の使用時において表示管と筐体の後方部を同時に見ることができるような従来の卓上計算機の構成から、
第2図のような「表示管の使用時には筐体の後方部が蓋体の背後になって操作者から見えない」卓上計算機が考案されたことが記載されている。
一方、引用例2には、「機器の使用時において表示管と筐体の後方部を同時に見ることができるような」小型情報処理装置が記載されており、かつ、筐体の後方部にはプリンターが設けられている。当時の技術を顧みれば、計算結果を印字するプリンターを備える卓上計算機が数多く販売されており、引用例1の携行型卓上計算機にプリンターを設けることは、時代の流れから当然要請されることであった。そして、共にキーボード、表示器、プリンターを備えた電子機器であるとの観点から、引用例2のキーボード、表示器、プリンターの位置関係を引用例1の計算機に適用する程度のことは、情報処理技術の当業者であれば当然想到するもので、両者の組合せに無理はない。
そして、引用例1の計算機に引用例2の配置関係を適用した結果、内蔵プリンターの位置は必然的に蓋体の背後となる後方部となり、その結果としてプリンターが蓋体の陰になって表示部とプリンターが同時に見えなくなり、意図するまでもなく結果として同じ作用効果を奏することになる。
3 取消事由2の2(相違点(2)の判断の誤り)に対して 「蓋体を閉成することによって、当該蓋体の上面が上記機器本体の後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜」する構成は周知である。審決摘示の周知例のほかに、実公昭49-39715号公報(特に第2図に関する記載)、実公昭53-6374号公報(特に第2図に関する記載)がある。
実願昭54-5183号(実開昭55-105372号)のマイクロフイルムには、上記のとおり「蓋体を閉成することによって、当該蓋体の上面が上記機器本体の後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜」する構成が記載されており、引用例1には、蓋体の内部に表示部を設ける技術が記載されているのであるから、キーボードを覆う蓋体の構成として上記マイクロフィルムに記載の第2カバー7のような形状を採用して前下がりとすることは、当業者が適宜想到し得ることである。
一般に小型化、軽量化のために電子機器の形状をスリム化することは普通に行われていることにすぎず、引用例1のようにキーボードが前下がり形状であればその蓋をも前下がり形状とする程度のことは当業者の設計的事項にすぎない。
4 取消事由2の3(相違点(3)の判断の誤り)に対して (1) 引用例2におけるプリンターの「出し入れ口」が機器本体上方部に設けているかが不明瞭なため(引用例2の1頁右下欄11行ないし19行には「ペーパーサポート2は用紙の案内板であり・・・用紙の終了行までの長さを知る事ができる。」とのみ記載されていて、第1図をみても「出し入れ口」がどこにあるのか不明瞭である。)、審決で、「キーボードと表示部を前方に配置した機器本体の後方部にプリンターを内蔵した情報処理装置において、印字紙の出し入れ口を表示部の表示位置後方で上記機器本体上方部に設けること」が明瞭に記載された特開昭53-72525号公報、実開昭55-159434号公報、特開昭57-10823号公報を周知例として掲げたものである。
それゆえ、印字紙の出し入れ口を蓋体の開成位置(表示部の表示位置)後方で機器本体上方部に設けるようにすることは、当業者が極めて容易に想到し得たことである。
(2) 原告は「表示管を有する蓋体を開くことによって蓋体の背後は見渡せなくなる位置に印字紙の出し入れ口を設けるという技術的思想」は引用例1からは得られないと主張するが、印字紙が表示管を遮って見えなくなる位置に印字紙の出し入れ口を設ける方がむしろ不自然で、逆に表示を確認する必要があるときには特に確認の必要がない印字紙の出し入れ口をキーボード操作、表示の確認の妨げにならない蓋体の背後に設ける方が自然である。
5 取消事由2の4(相違点(4)の判断の誤り)に対して 表示部を液晶表示装置とすることは、周知のことである。特開昭54-18649号公報、特開昭57-17041号公報など特許公報としても多数存在する。
一般に表示装置を液晶表示装置とすれば、表示装置の小型化、薄型化が図れるということは、技術常識である。したがって、引用例1記載の表示装置を液晶表示装置として更なる小型化、薄型化を図るようにすることは当業者が適宜想到し得ることである。
なお、「印字紙を挿入、離脱する際の操作が容易となる」という原告の主張する効果は、表示装置の薄型化に伴い当然に期待することができる自明な効果にすぎない。
6 取消事由3(全体的評価の誤り)に対して 「蓋体の上面を手前に向かって傾斜させる」構成は、既に詳述したように、極めて容易に想到し得るものである。そして、この技術的思想、言い換えれば「蓋体の上面を手前に向かって傾斜させる」ことによる効果は、当該構成をとることによって当然に期待することのできる自明な効果にすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 本願考案の要旨によれば、本願考案は「キーボードを前方に配置すると共に、その後方部を当該キーボードより1段高く形成して印字紙の出し入れ口・・・を設けた」、「このキーボードと印字紙の出し入れ口との間において上記機器本体に回動自在に枢支され、上記キーボードを覆うように開閉可能にされ、内面に上記情報等を表示する表示部として液晶表示装置を配設した蓋体」との構成を有するものである。これによれば、蓋体は、前方に配置されるキーボードと1段高く形成した後方部に設けられる印字紙の出し入れ口との間において機器本体に回動自在に枢支されるものであることが明らかである。
すなわち、本願考案においては、印字紙の出し入れ口は1段高くした後方部に存在するのであり、審決が、蓋体に関して「このキーボ―ドと1段高く形成した後方部との間において上記機器本体に回動自在に枢支され」と引用例1に記載のものとの間の一致点を認定した点に誤りはないというべきである。
(2) なお、蓋体が「このキーボードと印字紙の出し入れ口との間において上記機器本体に回動自在に枢支され」ている点については、審決は、上記認定によって蓋体がキーボードの後方に存在するとの点を踏まえた上、相違点(1)として、「本願考案が、機器本体の後方部に印字紙の出し入れ口及び内蔵プリンターの紙送り用摘子を設けるようにしているのに対して、引用例1に記載のものは、このようにしていない点」を認定して、本願考案が印字紙の出し入れ口を有するものであるとし、相違点(3)として、「本願考案が、印字紙の出し入れ口を蓋体の開成位置後方で機器本体上方部に設けるようにしているのに対して、引用例1に記載のものは、このようにしていない点」を認定して、本願考案が印字紙の出し入れ口を蓋体の開成位置後方に設けるようにしている点を踏まえていることが明らかである。
したがって、引用例1に記載のものとの間の一致点の認定に、原告主張の理由(前記第3の1(2))に基づく誤りがあるということもできない。
2 取消事由2の1(相違点(1)の判断の誤り)について (1) 甲第5号証によれば、引用例2には、「本発明は小型ワードプロセッサー、
電子タイプライタ等の電子機器に関する。」(1頁左下欄17行ないし18行)との記載があることが認められる。本願明細書(甲第2号証の1)に「本考案は・・・ワードプロセッサーなどの・・・情報処理装置に関するものである。」(2頁4行ないし6行)と記載されているように、ワードプロセッサーが情報処理装置であることは明らかであり、引用例2に、上記のように「小型ワードプロセッサー」の記載がある以上、審決が相違点(1)についての判断において「小型情報処理装置において・・・引用例2に記載されている」とした点に誤りは認められない。
(2) 引用例2に記載のワードプロセッサーの重量について、原告は市販のワードプロセッサーの重量に基づく主張をするが、引用例2には技術的思想がされているにとどまり、この技術的思想が既存の市販ワードプロセッサと同等の重量を有するものだけに適用されると理解すべき記載が引用例2にあることは、甲第5号証によっても認めることができない。そして、引用例1(甲第4号証)に「小型にて携行容易」(1頁左欄末行)なる記載があるように、「小型」なる概念は引用例1にも示されていることが明らかである。したがって、審決が相違点(1)の判断をするに際し、引用例1に記載のものに引用例2に記載されたものを結び付けた点に誤りは認められない。
(3) 甲第5号証によれば、引用例2には、審決が認定したように、「小型ワードプロセッサー、電子タイプライタ等の電子機器において、キーボード10と表示器94を前方に配置した機器本体の後方部に、印字装置41(プリンター)を内蔵し、印字紙出し入れ口とプラテンノブ1(紙送り用摘子)を設けること」の記載があることが認められる。
そして、引用例2に記載のものが、原告主張のように、機器の使用時において表示器とプリンターを同時に見ることができるものであるとしても、引用例1に記載のものと引用例2に記載されたものとは、キーボード、表示器を備えた小型情報処理装置という点で技術分野を共通にするものであり、引用例2に示されたキーボード、表示器、プリンターの位置関係を、引用例1に記載の計算機に適用することをもって困難なものすることはできない。
3 取消事由2の2(相違点(2)の判断の誤り)について (1) 審決摘示の周知例及び被告主張の周知例をみるに、
甲第6号証によれば、実願昭54-5183号(実開昭55-105372号)のマイクロフイルムの第1図に、キーボード2を覆う第2のカバー7を具備するタイプライターであって、第2のカバー7を閉成することによって、第2のカバー7の上面が後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜するものの記載があることが認められ、
乙第1号証によれば、実公昭49-39715号公報の第2図に、蓋体10を有する卓上電子計算機であって、蓋体10を閉成することによって蓋体10の上面が後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜するものの記載があることが認められ、
乙第2号証によれば、実公昭53-6374号公報の第2図に、表示部3′を有する電子式卓上計算機であって、表示部3′を閉成することによって表示部3′の上面が後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜するものの記載があることが認められる。
(2) これらの記載によれば、蓋体を閉成することによって、当該蓋体の上面が上記機器本体の後方部から手前側に向かって前下がりに傾斜する構成は周知であったものと認めることができる。そして、このような構成は、表示部として液晶表示装置を配設した蓋体に特有の事項と認めることはできず、引用例1に記載のものにおいてこのような周知の構成を採用することは、当業者が極めて容易に適用し得ることであるとした審決に誤りがあるものと認めることはできない。
4 取消事由2の3(相違点(3)の判断の誤り)について 甲第7号証によれば、特開昭53-72525号公報の第1図及び第4図に、キーボード部5、表示部11を前方に配置した機器本体の後方部に印字装置1を内蔵した文字情報処理装置の表示装置付印字装置において、印字紙の出し入れ口を表示部の表示位置後方で機器本体上方部に設けるものが認められ、キーボードと表示部を前方に配置した機器本体の後方部にプリンターを内蔵した情報処理装置において、印字紙の出し入れ口を表示部の表示位置後方で上記機器本体上方部に設けることは、本件出願当時周知であったと認められる。
そして、同号証によれば、同公報の第4図には表示部11を可動とすることも示されていることが認められ、引用例1に記載のものにおいて、印字紙の出し入れ口を表示部となっている可動の蓋体の後方に設けることが、格別困難なものであったとは認められない。
5 取消事由2の4(相違点(4)の判断の誤り)について 原告は、表示部として液晶表示装置を用いることによって、蓋体の薄型化を可能とし、キーボードに沿って蓋体を閉成した時に、蓋体の上面の高さを低くし、印字紙を挿入、離脱する際の操作を容易とすることが可能としたものである、と主張する。
しかし、薄型化、小型化を可能とするために液晶表示装置を採用するのは、本件出願当時一般的な技術常識であったことは当裁判所に顕著な事項である。原告主張の「高さを低くし」、「操作を容易とする」ことも、薄型化、小型化により当然得られる効果であり、格別のものと認めることはできない。
したがって、表示部を液晶表示装置とすることは、当業者が極めて容易に想到し得ることとした審決の判断に誤りは認められない。
6 取消事由3(全体的評価の誤り)について (1) 原告は、「蓋体が本願考案のように手前に向かって傾斜するようにしておけば、手前側が低くなるので手前側に余裕ができ、後方部における印字紙の出し入れなどの操作が極めてやり易くなる。このような効果は本願考案により得られる独特のものである。」と主張する。しかし、相違点(2)の判断の誤りについていう取消事由2の2の判断で示したように、カバーが手前に向かって傾斜するようにしたものは実願昭54-5183号(実開昭55-105372号)のマイクロフイルムに示されており、ここに記載のものにおいても、「手前側が低くなるので手前側に余裕ができ、後方部における印字紙の出し入れなどの操作が極めてやりやすくなる」という本願考案と同等の効果が得られることは明らかである。
したがって、本願考案により独特の効果が得られるとする原告の主張は理由がない。
(2) 前記2ないし5において判断したように、相違点(1)ないし(4)についての本願考案の構成は、本件出願時の公知技術ないし周知技術から極めて容易に想到し得るものであるとした審決の判断に誤りは認められず、これらの相違点に関する本願考案の全体的な構成を斟酌してみても、本願考案を上記各技術から極めて容易に考案し得るものとした審決の判断に誤りがあるとすべき特段の事情も認められない。
(3) したがって、取消事由3も理由がない。
7 むすび 以上のとおり、本願考案は、引用例1、2に記載されたところに基づき、周知事項を参酌して、当業者が極めて容易に考案をすることができたものと認められるとした審決の判断に誤りがあるということはできず、審決取消事由はいずれも理由がない。
結論
よって、原告の請求は棄却されるべきである。
(平成12年5月16日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 永井紀昭
裁判官 塩月秀平
裁判官 橋本英史
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