• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 技術的範囲 /  出願経過 /  意識的除外 /  均等 /  間接侵害 /  分割出願 /  損害額 /  逸失利益 /  実施料相当額 /  消滅時効 /  考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  物品 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  きわめて容易 /  先願 /  拒絶理由 /  通常実施権 /  削除 /  実施例 /  本質的部分 /  同一の作用効果 /  容易に想到 /  公知技術 /  特段の事情 /  置換 /  先願 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 /  利益額 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
元本PDF 裁判所収録の別紙1PDFを見る pdf
事件 平成 7年 (ワ) 1110号 信用毀損行為差止等請求事件
平成 7年 (ワ) 4251号 実用新案権侵害差止等請求事件
本訴原告(反訴被告) 株式会社システックキョーワ 右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 牛田利治
同 岩谷敏昭右補佐人弁理士 【B】
同 【C】
同 【D】
本訴被告(反訴原告) 株式会社奥田製作所 右代表者代表取締役 【E】
本訴被告 株式会社カワノ 右代表者代表取締役 【F】
本訴被告 有限会社エイム 右代表者代表取締役 【F】 右三名訴訟代理人弁護士 上原洋允
同 小杉茂雄
同 水田利裕右補佐人弁理士 【G】
同 【H】
同 【I】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/05/23
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 本訴被告株式会社カワノ及び同有限会社エイムは、本訴原告(反訴被告)のマジックヒンジ3が本訴被告(反訴原告)株式会社奥田製作所の実用新案権を侵害する旨を告知し又は流布してはならない。
二 本訴被告株式会社カワノ及び同有限会社エイムは、本訴原告(反訴被告)に対し、連帯して金一〇〇万円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 本訴原告(反訴被告)は、別紙ホ号物件目録記載の物品を、生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
四 本訴原告(反訴被告)は、別紙ホ号物件目録記載の物品が記載されているいっさいのカタログの右物品記載部分の配布を停止せよ。
五 本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)株式会社奥田製作所に対し、金三七六八万二九〇六円及び内金一〇〇〇万円に対する平成七年四月二九日から、内金四八四万〇九六四円に対する平成一一年五月二五日から、内金二二八四万一九四二円に対する同年七月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
六 本訴原告(反訴被告)のその余の本訴請求及び本訴被告(反訴原告)株式会社奥田製作所のその余の反訴請求をいずれも棄却する。
七 訴訟費用は、本訴反訴を通じてこれを一〇〇分し、その四四を本訴原告(反訴被告)の、その五四を本訴被告(反訴原告)株式会社奥田製作所の、その一を本訴被告株式会社カワノの、その余を本訴被告有限会社エイムの負担とする。
八 この判決は、第二項及び第五項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
(本訴) 一 被告らは、文書又は口頭で、次の事実を告知し又は流布してはならない。
1 原告が製造、販売する別紙イ号物件目録記載の蝶番が、被告奥田製作所が有する別紙実用新案権目録1記載の実用新案権を侵害するものであるとの事実。
2 原告が製造、販売する前項記載の蝶番を使用した別紙開き戸装置目録記載の家具の開き戸装置が、鈴木家具工業株式会社(本店所在地 静岡市<以下略>。
以下「鈴木家具」という。)の有する実用新案権(登録番号一九三一六一一号)を侵害するものであるとの事実。
3 原告が製造、販売する前項記載の家具の開き戸装置が具備された家具を購入した家具店及び百貨店が、鈴木家具からその販売差止め及び高額の損害賠償を請求する訴訟が提起されるおそれがあるとの事実。
4 家具の開き戸装置に使用する蝶番は、被告奥田製作所か鈴木家具の製品以外は、すべて右両社の有するパテントに抵触するとの事実。
二 被告らは、原告に対し、連帯して金三〇九九万六〇〇〇円及びこれに対する平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
(反訴) 一 原告は、別紙ハ号物件目録及び同ホ号物件目録記載の物品を、生産し、使用し、譲渡し、貸し渡し、又は譲渡若しくは貸渡しのために展示してはならない。
二 原告は、前項記載の各物品を廃棄し、同物品製造のための金型を除去せよ。
三 原告は、第一項記載の各物品のいずれかが記載されているいっさいのカタログの右物品記載部分の配布を停止せよ。
四 原告は、第一項記載の各物品のいずれかが記載されているいっさいのカタログの右物品記載部分を回収・廃棄せよ。
五 原告は、被告に対し、金一億三五八〇万円及びこれに対する平成七年四月二九日(反訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
一 基礎となる事実(いずれも争いがないか弁論の全趣旨により認められる。) 1 当事者 (一) 原告は、蝶番等の建築家具金物の製造、販売を目的とする株式会社である。
(二) 被告奥田製作所は、蝶番の製造、販売等を業とする株式会社、被告エイムは被告奥田製作所製の蝶番の総代理店であり、被告カワノは、右蝶番を販売している。
2 被告奥田製作所の実用新案権及び意匠権 (一) 被告奥田製作所は、別紙実用新案権目録3記載の実用新案権を有しており、同目録1及び2記載の実用新案権を有していた(以下、右各権利を右各目録の番号に従い「本件第一実用新案権」等と、右権利に係る考案を「本件第一考案」等といい、併せて「本件実用新案権」及び「本件考案」という。また、各考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書の記載は、別添実用新案公報〔以下、「本件第一公報」等という。〕の記載のとおりである。)。
本件考案の構成要件は、それぞれ、別紙実用新案権目録1ないし3の「本件考案の分説」欄記載のとおり分説するのが相当である。
(二) 被告奥田製作所は、別紙意匠権目録記載の意匠権を有している(以下、右権利を「本件意匠権」といい、右権利に係る意匠を「本件登録意匠」という。)。
3 原告の行為 (一) 原告は、昭和五九年一二月ころから、「マジックヒンジ」又は「マジックヒンジ1」という商品名の蝶番(以下単に「マジックヒンジ1」という。)を製造、販売した。
もっとも、この蝶番の構造が別紙ロ号物件目録記載のもの(以下「ロ号物件」という。)か別紙二号物件目録記載のもの(以下「二号物件」という。)かについては争いがある。
(二) 原告は、昭和六二年一二月ころから、別紙イ号物件目録記載の蝶番(以下「イ号物件」という。その現物が検甲2。)を、「マジックヒンジ2」の商品名で製造、販売している。
(三) 原告は、平成八年三月一八日まで、別紙ハ号物件目録記載の蝶番(以下「ハ号物件」といい、同物件に係る意匠を「ハ号意匠」という。その現物が検乙2)を、「マジックヒンジ4」の商品名で製造、販売した(なお、製造、販売の始期については、先使用の主張との関係で争いがある。)。
(四) 原告は、平成八年三月一九日以降、別紙ホ号物件目録記載の蝶番(以下「ホ号物件」といい、同物件に係る意匠を「ホ号意匠」という。その現物が検乙4の1)を、「マジックヒンジ5」の商品名で製造、販売している。
4 各物件と本件考案との関係 (一) イ号物件は、本件第二考案の構成要件中、構成要件B及びCを充足する。イ号物件が構成要件Dも充足する場合には、イ号物件は、本件第二考案に係る「ケースの扉構造」の生産にのみ使用される物であり、その製造、販売は本件第二実用新案権を侵害するものとみなされる(間接侵害)。
(二) ロ号又は二号物件は、
ア 本件第一考案の構成要件中、構成要件B及びCを充足する。ロ号又は二号物件が構成要件Dも充足する場合には、ロ号又は二号物件は、本件第一考案に係る「ケースの扉構造」の生産にのみ使用される物であり、その製造、販売は本件第一実用新案権を侵害するものとみなされる(間接侵害)。
イ 本件第二考案の構成要件中、構成要件B及びCを充足する。ロ号又は二号物件が構成要件Dも充足する場合には、ロ号又は二号物件は、本件第二考案に係る「ケースの扉構造」の生産にのみ使用される物であり、その製造、販売は本件第二実用新案権を侵害するものとみなされる(間接侵害)。
(三) ハ号物件は、
ア 本件第二考案の構成要件中、構成要件B及びCを充足する。ハ号物件が構成要件Dも充足する場合には、前記(2)イ同様、本件第二実用新案権を侵害するものとみなされる(間接侵害)。
イ 本件第三考案の構成要件を充足するか否かは争いがある。
(四) ホ号物件は、本件第三考案の構成要件中、構成要件A及びBを充足する。
5 原告による各物件の売上数 原告による平成三年四月以降のイ号物件、平成三年一一月以降のハ号物件及び平成八年四月以降のホ号物件の各売上数及び売上高は、別紙「原告の帳簿に基づくイ号、ハ号、ホ号の集計表」(以下「集計表」という。)のとおりである。
二 本件の各請求の概要 (本訴) 本訴は、被告らがイ号物件等が被告奥田製作所の実用新案権を侵害する等の事実を告知、流布した行為が、原告の営業上の信用を害する虚偽の事実の告知、流布(不正競争防止法2条1項13号)に当たるとして、原告が被告らに対し、それらの行為の差止め(同法3条1項)及び損害賠償(同法4条)を請求した事案である。
(反訴) 反訴は、原告のイ号物件等の製造、販売等の行為が、被告奥田製作所の実用新案権(及びその仮保護の権利)及び意匠権を侵害するとして、被告奥田製作所が原告に対し、次の請求をした事案である。
1 イ号物件については、本件第二実用新案権侵害に基づき、主位的に損害賠償請求、予備的に不当利得返還請求 2 ロ号又は二号物件については、本件第一及び第二実用新案権侵害に基づき、主位的に損害賠償請求、予備的に不当利得返還請求 3 ハ号物件については、@本件第三実用新案権及び本件意匠権の関係での製造、販売等の差止め(実用新案法27条1項、意匠法37条1項)及びA廃棄、カタログの配付停止及び回収等(実用新案法27条2項、意匠法37条2項)、B本件第二及び第三実用新案権侵害及び本件意匠権侵害に基づき、主位的に損害賠償請求、予備的に不当利得返還請求 4 ホ号物件については、@本件第三実用新案権及び本件意匠権の関係での製造、販売等の差止め(実用新案法27条1項、意匠法37条1項)及びA廃棄、カタログの配付停止及び回収等(実用新案法27条2項、意匠法37条2項)、B本件第三実用新案権侵害及び本件意匠権侵害に基づき、主位的に損害賠償請求、予備的に不当利得返還請求 三 争点 (本訴) 1 被告らは、本訴請求の趣旨一1ないし4記載の事実の告知を行ったか。
2 前項の告知事実は虚偽か。
3 被告らの責任と原告が請求し得る損害額 (反訴) 1 イ号ないしホ号物件は本件実用新案権及び本件意匠権を侵害するか。
(一) イ号物件関係 イ号物件は、本件第二考案の構成要件Dを充足するか。
(二) ロ号又は二号物件関係 (1) 原告が「マジックヒンジ1」の商品名で製造、販売していたのはロ号物件か二号物件か。
(2) 「マジックヒンジ1」は、本件第一考案の構成要件Dを充足するか。
(3) 「マジックヒンジ1」は、本件第二考案の構成要件Dを充足するか。
(三) ハ号物件関係 (1) ハ号物件は、本件第二考案の構成要件Dを充足するか。
(2) ハ号物件は、本件第三考案の構成要件を充足するか。
(3) ハ号物件は、本件登録意匠と類似するか。
(4) 原告がハ号物件を製造、販売するおそれがあるか。
(四) ホ号物件関係 (1) ホ号物件は、本件第三考案の構成要件Cを充足するか。
ア 文言上の充足の有無 イ 均等の成否 (2) ホ号物件は、本件登録意匠と類似するか。
2 本件実用新案権及び本件意匠権の無効事由の有無及び先使用の存否 (一) 本件第一実用新案権には無効事由があるか。
(二) 本件第二実用新案権には無効事由があるか。
(三) 本件第三実用新案権の出願前公知及び原告の先使用の成否。
(四) 本件意匠権の出願前公知又は原告の先使用の成否 3 カタログ回収・廃棄請求の可否 4 被告奥田製作所が請求し得る主位的請求の損害額 5 被告奥田製作所が請求し得る予備的請求の不当利得返還額
争点に関する当事者の主張
一 本訴争点1(被告らの告知内容)について 【原告の主張】 被告らは、以下のとおりの事実の告知をした。
1 平成元年二月又は三月ころ 被告奥田製作所は、甲7の書面により、イ号物件が本件第一実用新案権を侵害する旨を告知、流布した。
2 平成五年ころ (一) 被告エイムは、甲9の文書により、平成五年五月ころ、被告奥田製作所又は鈴木家具以外の開き戸装置用蝶番は、すべていずれかが有する実用新案権(鈴木家具が有する実用新案権は、登録番号登録番号第一九三一六一一号のもの)に抵触する旨を告知、流布した。
(二) 被告カワノは、平成五年一〇月ころ、レブナテック株式会社に対し、
原告製の開き戸装置用蝶番は被告奥田製作所及び鈴木家具の実用新案権に抵触する旨を告知、流布した(甲19)。
3 平成六年一〇月から平成七年一月ころ (一) 被告奥田製作所は、平成六年一〇月ころ、木工組合の打ち合わせの席上、被告奥田製作所以外の開き戸用蝶番を使用すると鈴木家具から訴えられるおそれがある旨の告知を行った(甲18)。
(二) 被告奥田製作所は、平成六年一一月三〇日付け「ホームリビング」紙(甲5)において、原告製を含む最近市場に出回っている被告奥田製作所製の開き戸装置用蝶番と酷似した製品は同社の実用新案権を侵害し、不正競争防止法違反である旨を告知、流布した。
(三) 被告エイムは、このころ、甲10の文書により、@被告奥田製作所又は鈴木家具以外の開き戸装置用蝶番は、すべていずれかが有する実用新案権に抵触する旨、A被告奥田製作所又は鈴木家具以外の開き戸装置用蝶番を備えた家具の販売先である家具店、百貨店は、右家具の販売差止め及び高額の損害賠償を請求する訴訟が鈴木家具から提起されるおそれがある旨を、告知、流布した。
(四) 被告カワノは、平成六年一二月ころ、株式会社サカミ工芸(甲11)、
立野木材工芸株式会社(甲14)、シギヤマ家具(甲20)、オファ(甲21)に対し、
甲10の文書を示す等して、原告製の開き戸装置用蝶番は被告奥田製作所又は鈴木家具以外の開き戸装置用蝶番は、すべていずれかが有する実用新案権に抵触する旨を告知、流布した。
4 1ないし3の被告らの行為の対象は、被告奥田製作所と鈴木家具以外のすべての開き戸装置用蝶番を対象としてなされたものであるが、その中には原告製の開き戸装置用蝶番も含まれているから、原告製の蝶番について告知、流布したこととなる。
5 1ないし3の行為は、被告らが意を通じて行ったものである。
【被告らの主張】 原告の主張はすべて否認する。被告らは原告主張の事実を告知、流布していない。
また、原告指摘の諸文書は、原告の製品を特定して述べているわけではないし、被告エイムは甲10の文書を作成、配布したことはない。
また、被告らは、イ号物件を特定し、かつ本件第一実用新案権を特定して原告の主張する内容の告知行為を行ったことはなく、将来も行うつもりはない。
二 本訴争点2(告知の虚偽性)について 【原告の主張】 被告らが前記のような告知、流布を行った際に原告が製造、販売していた開き戸装置用蝶番は、被告奥田製作所及び鈴木家具のいずれの実用新案権をも侵害することはなく、したがって鈴木家具がイ号物件を使用した家具を購入する家具店等に対して訴訟を提起する可能性はないから、被告らの告知した内容は虚偽である。
【被告らの主張】 原告の製造、販売に係る蝶番が、被告奥田製作所の本件実用新案権を侵害していることは明らかであるし、鈴木家具がイ号物件を使用した家具店等に対して訴訟を提起する可能性は客観的に存在していたから、仮に原告主張に係る告知内容を前提としても、その内容は虚偽ではない。また原告自身、イ号物件は鈴木家具の実用新案権に抵触すると考えていた(乙40〜42)。
三 本訴争点3(損害額)について 【原告の主張】 1 平成一〇年五月一二日付け原告準備書面(一九)による主張 原告は、被告らの営業誹謗行為により、毎月五万四〇〇〇個余の売上減を強いられたところ、平成六年一一月から平成一〇年三月までの四一か月間では合計二二一万四〇〇〇個の売上の減少を受けた。
そして、原告の製造、販売に係るマジックヒンジの一個当たり純利益は一四円であるから、右の期間中に原告が被った損害額は三〇九九万六〇〇〇円となる。
2 平成一一年七月一二日付け原告準備書面(三二)による主張 1の一個当たり純利益についての原告の主張は正確でないから、原告は、
本訴請求の損害について、売上減少に基づく主張を撤回する。
原告は、本訴請求の損害としては、信用毀損による無形損害を主張する。
その額は、民事訴訟法248条により算定されるべきである。
【被告らの主張】 原告の製造、販売に係るマジックヒンジの一個当たり純利益が一四円である点は認め、その余は争う。
原告の純利益の額の撤回は自白の撤回に当たり、許されない。
四 反訴争点1(一)(イ号物件は本件第二考案の構成要件Dを充足するか)について 【原告の主張】 1 構成要件Dの「切欠部」の欠如 (一) 「切欠」の一般的語義は、「材料の縁(へり)に局部的にできたへこみ部」であるから、本件第二考案での「切欠部」は、枢支部という材料の縁に局部的にできたへこみを意味することになる。
これに対してイ号物件では、枢支部30がまず存在し、これに枢支軸18とコイルバネ20を貫通させるための突起を設けたことによって、枢支部の裏に単なる空間部31が形成されたにすぎず、右空間部31が何かを切り欠いて形成されたものではない。隣接する技術分野である各種扉のヒンジ構造に関する特許公報や実用新案公報を見ても、イ号物件の右構成が、「切欠部」と表現されている例はない。
(二) また、本件明細書において「切欠部」は、枢支部30の中央部を切り取って、その表から裏まで部材を欠いた状態にして、枢支軸18を露出させるようにした部分とされているが、イ号物件では、枢支部の裏に単なる空間があるにすぎない。
(三) 本件第二考案は、コイルバネ20が切欠部31に収納された状態になっている構成から、@コイルバネ20が召合せ部材12の枢支軸18廻り回動の大きな摺動抵抗となることがないという効果、Aコイルバネ20が可動部材17や固定部材15と接触して摩耗することも少なくなるという効果、B線径の充分太いコイルバネの使用が可能となるという効果、C非常に簡単にコイルバネ及び枢支軸を組み込むことができるという効果を有するものであるが、イ号物件では、枢支部の裏に空間を設けただけで、コイルバネ20は可動部材17と完全に接触しているため、これらの効果を生じない。
また、右Bの効果が生じるためには、「切欠部」は、コイルバネの全周を完全に露出させる構造となっている必要があるが、イ号物件は、このような構造を具備しない。
(四) 本件第二考案は、公知のドア蝶番の構造(検甲13、14)にわずかな改良を施したものにすぎないから、公知技術にまで権利が及ぶことがないよう、その技術的範囲は、明細書に開示された実施例程度に限定して解釈すべきである。そうすると、右明細書実施例においては、「切欠部」は、可動部材の枢支部を表から裏まで完全に切り欠いた形状のものが記載されているだけであるから、イ号物件のように枢支部の裏に単なる空間がある構成のものは、「切欠部」に該当しないと解すべきである。
2 規制傾斜面の欠如 本件第二考案に係る扉構造において、召合せ部材が取り付けられている回動扉4を閉塞する際には、召合せ部材は他方の回動扉5との衝突を回避するために後方回動した姿勢(回避姿勢B)をとらなければならないが、仮にこの回避姿勢Bが回動扉4との関係で九〇度より大きい場合には、召合せ部材が受承面部と当接した際に回動扉5とは更に反対の方向に回動してしまい、回動扉4、5の召合せ間隙の閉塞姿勢Aをとることがない。したがって、本件第二考案においては、召合せ部材(を取り付けた可動部材)の回動を規制する構成を設けることが必須であるから、本件第二考案技術的範囲は、この構成を補充して解釈しなければならないところ、そのような構成として明細書で開示されているのは規制傾斜面を設ける構成のみであり、分割前の第一考案に係る明細書においても同様であるから、本件第二考案は、規制傾斜面を必須の構成要件とするものと解すべきである。
しかるにイ号物件は規制傾斜面を具備せず、そのまま傾斜姿勢で停止可能な構成を具備しているから、イ号物件は本件第二考案技術的範囲に属しない。
また、本件第二明細書実施例における切欠部31とイ号物件における裏側の空間部31とは、回避姿勢Bにおける回動を規制する手段の相違を導く点で大きく機能を異にすることから、裏側の空間部31は本件第二考案の「切欠部」に当たらない。
【被告奥田製作所の主張】 1 構成要件Dの「切欠部」の具備 (一) 本件第二考案明細書によれば、同考案における「切欠部」は、枢支軸に外嵌した軸受筒内にコイルバネを収納するという従来構造の問題点を解決するために設けられたものであるから、原告が主張するように、「その表から裏まで部材を欠いた状態にして、枢支軸を露出させるようにした部分」と解すべき必然性はなく、文言どおり、「枢支部の上下方向中央部に枢支軸中央部を露出させるように設けられたもの」であれば足りると解すべきである。そしてイ号物件の空間部31は、枢支部30の上下方向中央部に設けられており、この空間部31において、枢支軸18の中央部は露出しており、しかも、該空間部31内に、枢支軸18に巻回した状態でコイルバネ20が収納されているから、空間部31は「切欠部」に該当する。
(二) イ号物件では、コイルバネ20と枢支軸17とは接触しているが、それは点接触にすぎないから、摩耗や摺動抵抗の問題が生じず、本件第二考案の効果を奏する。
2 規制傾斜面に関する原告の主張は争う。
五 反訴争点1(二)(1)(ロ号又は二号の原告による製造、販売)について 【被告奥田製作所の主張】 原告が「マジックヒンジ1」の商品名で販売していた開き戸装置用蝶番(甲26、乙16、17)は、ロ号物件(検乙1)である。
【原告の主張】 ロ号物件(検乙1)は、原告が製造、販売したものではない。原告が「マジックヒンジ1」の商品名で販売していた蝶番(甲26、乙16、17)は、二号物件である。
六 反訴争点1(二)(2)(ロ号又は二号物件は本件第一考案の構成要件Dを充足するか)について 【被告奥田製作所の主張】 原告が「マジックヒンジ1」の商品名で販売していた蝶番であるロ号物件は、本件第一考案のすべての構成要件を充足している。
【原告の主張】 原告が「マジックヒンジ1」の商品名で販売していた蝶番である二号物件は、本件第一考案の連結壁、切欠部及び規制傾斜面の構成を具備しない。
七 反訴争点1(二)(3)(ロ号又は二号物件は本件第二考案の構成要件Dを充足するか)について 【原告の主張】 「マジックヒンジ1」は二号物件であるところ、二号物件は、イ号物件と同様、本件第二考案の「切欠部」及び「規制傾斜面」を具備しない。その理由の詳細は、反訴争点1(一)についての原告の主張のとおりである。
【被告奥田製作所の主張】 「マジックヒンジ1」はロ号物件であるところ、ロ号物件は本件第二考案の「切欠部」そのものを有する。
仮に「マジックヒンジ1」が二号物件の構造を有するとしても、反訴争点1(一)の被告奥田製作所の主張のとおり、裏側の空間部31は「切欠部」に該当する。
また、規制傾斜面に関する原告の主張は争う。
八 反訴争点1(三)(1)(ハ号物件は本件第二考案の構成要件Dを充足するか)について 【被告奥田製作所の主張】 反訴争点1(一)についての主張に同じ(ただし「イ号物件」とあるのを「ハ号物件」と読み替える。
【原告の主張】 反訴争点1(一)についての主張に同じ(ただし「イ号物件」とあるのを「ハ号物件」と読み替える。
九 反訴争点1(三)(2)(ハ号物件は本件第三考案の構成要件を充足するか)について 【被告奥田製作所の主張】 ハ号物件は、本件第三考案技術的範囲に属する。
【原告の主張】 1 否認する。また、ハ号物件は、既に製造販売をしていない。
2 本件第三考案についても、反訴争点1(一)に関する原告の主張2のとおり、規制傾斜面を設けることが必須の要件となると解すべきところ、ハ号物件には規制傾斜面はないから、本件第三考案技術的範囲に属しない。
一〇 反訴争点1(三)(3)(ハ号物件は本件登録意匠に類似するか)について 【被告奥田製作所の主張】 本件登録意匠の構成は別紙「本件登録意匠の構成(当事者の主張)」の「被告奥田製作所の主張」欄のとおりであり、ハ号物件の意匠の構成は、別紙ハ号物件目録記載のとおりである。
ハ号意匠は、本件登録意匠に類似している。
【原告の主張】 否認する。また、ハ号物件は、既に製造販売をしていない。
一一 反訴争点1(三)(4)(ハ号物件を製造販売するおそれ)について 【原告の主張】 ハ号物件は、平成八年二月一三日以降製造しておらず、同年三月一九日以降、販売していない。
【被告奥田製作所の主張】 争う。
一二 反訴争点1(四)(1)ア(ホ号物件は本件第三考案の構成要件Cを文言的に充足するか)について 【被告奥田製作所の主張】 1 ホ号物件では、取付部29の延設部51aが本件第三考案の「取付部」に相当し、基端52と先端51a'によって召合せ部材は幅方向に移動不能とされているから、
「基端52」と「先端51a'」は「取付部の幅方向両端に召合せ部材を幅方向に抱着挟持する一対の挟持壁」の構成を充足する。ホ号物件は、これに「延設部51bとその先端51b'」を単に付加したにすぎない。
2 本件第三考案における「一対の挟持壁は、該挟持壁の先端部間の幅が召合せ部材の幅よりも小となるように、取付部の幅方向両端から鉤形に屈曲されている」との構成の技術的意義は、一対の挟持壁の先端部分の幅は、召合せ部材の幅より小となることにより、一対の挟持壁は、召合せ部材を幅方向に抱着挟持するとともに、厚み方向にも挟持し、もって、一対の挟持壁によって召合せ部材が取付部から不測に抜脱しないように効果的に抜け止めすることができるという作用効果を奏する点にある。ホ号物件においては、延設部51a、51bによって召合せ部材を厚み方向に挟持しており、本件第三考案と同じ作用効果を奏するものであるから、右要件を満たす。
【原告の主張】 1 ホ号物件では、延設部51a、51bは、召合せ部材を厚さ方向に挟持するから、「幅方向に抱着挟持する挟持壁」との構成を充足しない。
被告奥田製作所は、ホ号物件では基端52と先端51a'が「取付部の幅方向両端に召合せ部材を幅方向に抱着挟持する一対の挟持壁」に該当すると主張する。しかし、ホ号物件において召合せ部材を抱着挟持するのは基端52と先端51a'ではなく、延設部・aと・bとが厚さ方向に抱着挟持しているのである。また、本件第三考案では、一対の挟持壁は、取付部の幅方向両端に位置して、召合せ部材を幅方向に挟持抱着する構成とされているところ、ホ号物件の取付部(延設部51a)には、
一対の挟持壁が設けられるべき両端がない。したがって、ホ号物件では、一対の挟持壁に相当する構成がなく、召合せ部材を抱着挟持する原理が本件第三考案とは大きく相違している。
2 本件第三考案の構成要件Cでは、「一対の挟持壁は、該挟持壁の先端部間の幅が召合せ部材の幅よりも小となるように、取付部の幅方向両端から鉤形に屈曲されている」とされているから、一対の挟持壁は取付部の幅方向両端に位置し、その先端部はいずれも屈曲により召合せ部材の厚さ方向反対側まで達していることが必要である。しかし、ホ号物件では、取付部に一対の挟持壁が設けられるべき両端がない上、延設部51a、51bの先端51a'、・b'の湾曲は、召合せ部材12の厚さ方向反対側にまで及んでいない。したがって、ホ号物件は、右構成要件を充足しない。
被告奥田製作所は、「一対の挟持壁の先端部間の幅は、召合せ部材の幅より小となる」との構成の技術的意義について、召合せ部材を厚み方向にも挟持する点にあると主張するが、第三考案明細書にはその旨の記載はない。
3 反訴争点1(一)に関する原告の主張2のとおり、本件第三考案でも規制傾斜面を設けることが必須の要件となると解すべきところ、ホ号物件には規制傾斜面はないから、本件第三考案技術的範囲に属しない。
一三 反訴争点1(四)(1)イ(ホ号物件は本件第三考案均等か)について 【被告奥田製作所の主張】 本件第三考案の構成要件Cとホ号物件の構成cとを対比すると、構成要件Cでは、一対の挟持壁により、召合せ部材を幅方向に抱着挟持するのに対し、構成cでは、一対の延設部により、召合せ部材を厚さ方向に抱着挟持するという相違点があるが、この相違点は、以下のとおり均等の要件を満たす。
1 非本質的部分での相違 本件第三考案本質的部分は、取付部に召合せ部材をネジ止め固定することなく、ワンタッチで嵌着固定し、固定後も両者の相対移動を許容して位置調整を可能とする点にあり、取付部の形状や挟持方向は本質的部分ではない。
2 置換可能性 本件第三考案の「一対の挟持壁により、召合せ部材を幅方向に抱着挟持する」という構成を、ホ号物件の「一対の延設部により、召合せ部材を厚さ方向に抱着挟持する」という構成に置き換えても、召合せ部材をヒンジに取り付けた後にも、召合せ部材を回動扉及びケース本体に対して上下方向に位置調整することができて、召合せ部材をヒンジに簡単かつ確実に取り付けることができるという本件第三考案の目的を達し、作用効果を奏する。
原告は、本件第三考案の実施品とホ号物件とでは操作性に顕著な差があると主張するが、実施品との対比には意味がない上に、仮に原告主張のような作用効果の差があるとしても、程度の問題にすぎず、ホ号物件が本件第三考案と同じ作用効果を奏する限り、その異なる作用効果は付加的なものにすぎない。
3 置換容易性 本件第三考案においては、召合せ部材を取付部に装着するに際し、その挿入方向は特に限定されていない上、甲32、乙19、乙51の各記載からすれば、召合せ部材を幅方向に挟持する構成を、厚み方向に挟持する構成に置換することは、当業者であれば極めて容易に想到できたことである。
4 公知技術からの容易想到性 本要件に該当する事情はない。
5 意識的除外等の特段の事情 本要件に該当する事情はない。
【原告の主張】 被告奥田製作所が主張する相違点は、均等の要件を満たさない。
1 非本質的部分での相違 本件第三考案の課題は、召合せ部材の取り付け及び上下位置調整の作業性の改良であるから、その召合せ部材を挟持する可動部材の形状は、その本質的部分であり、この構成によって実用新案登録を受け得たのである。したがって、本件第三考案が示した可動部材の形状に関する枢要部分である「召合せ部材を幅方向に挟持する」との構成は、本件第三考案本質的部分に属する。
2 置換可能性 ホ号物件での可動部材では、召合せ部材の取付時はもとより、取り付けられた召合せ部材の位置調整も極めて軽い力で可能であり、本件第三考案明細書で示唆されているような上下方向に強く押圧又は引張したり、召合せ部材を木槌等で上下方向に叩くことは不要である。現に本件第三考案の実施品(検乙4の3)は、
ホ号物件(検乙4の1)と比べて、召合せ部材の取り付けについては約六・六倍、
上下位置調整についても約六・九倍の力を必要とする。このように、本件第三考案とホ号物件とは、召合せ部材の取付けの簡単・確実性及び上下位置調整の操作性という本件第三考案の二つの作用効果において顕著な差があり、このような作用効果の差は構成の差に由来するものであって、両者は同一の作用効果を奏するものではない。
3 置換容易性 ホ号物件のように召合せ部材を厚み方向に挟持するとの構成は、本件第三考案明細書はもとより、その他文献においても示唆されていない。したがって、
本件第三考案の構成をホ号物件のように置換することが容易に想到し得たとはいえない。
4 公知技術からの容易想到性 これに該当する事情がないことは認める。
5 意識的除外等の特段の事情 本件第三考案明細書には、召合せ部材を厚み方向に挟持することについては全く示唆するところがないから、ホ号物件のような構成は意識的に除外されていたというべきである。
一四 反訴争点1(四)(2)(ホ号物件は本件登録意匠と類似するか)について 【被告奥田製作所の主張】 1 本件登録意匠の構成は別紙「本件登録意匠の構成(当事者の主張)」の「被告奥田製作所の主張」欄のとおりであり、ホ号意匠の構成は、別紙「ホ号意匠の構成(当事者の主張)」の「被告奥田製作所の主張」欄のとおりである。
それによれば、本件登録意匠とホ号意匠とは、具体的構成のうち、@固定部材についての取付用の孔の形状、連結壁の形状及び窓孔の形状、A可動部材についての表面形状及び取付部の形状において相違している。
2 従来の公知意匠においては、固定部材も可動部材も共に縦長長方形状をしていたが、本件登録意匠では、固定部材が縦長長方形状であるのに対し、可動部材が横長長方形状である点に新規性、創作性が認められ、この点(基本的構成態様)が要部となる。したがって、ホ号意匠と本件登録意匠とは、要部において共通するから、類似するというべきである。
【原告の主張】 1 本件登録意匠の構成は別紙「本件登録意匠の構成(当事者の主張)」の「原告の主張」欄のとおりであり、ホ号意匠の構成は、別紙「ホ号意匠の構成(当事者の主張)」の「原告の主張」欄のとおりである。
2 本件登録意匠に係るヒンジは、本件第三考案と同様、可動部材の一対の挟持壁内側に召合せ部材の幅方向一端を当接した後、召合せ部材の他端を可動部材の他方の挟持壁内側に押し込む方法により、可動部材に召合せ部材を嵌め込み固定するものであり、このような技術的機能及び使用態様からすれば、需要者は、召合せ部材を幅方向に挟持すべく湾曲する一対の挟持部位の存在に注目するものというべきであるから、この部分が要部となる。他方ホ号意匠は、一つの挟持壁のみが取付部に設けられ、他の挟持壁は取付部には設けられておらず、前記一つの挟持壁から可動部材の回動方向に連接されている形状であり、右二つの挟持壁は召合せ部材を厚み方向に抱着挟持する形状であるから、両意匠は類似しない。
また、本件登録意匠では召合せ部材を挟持する部分が断面C字状であるのに対し、ホ号物件では断面U字状であり、形状として大きく相違する上に、右の相違点は、召合せ部材の取付け及び上下位置調整時の操作性に大きく影響を及ぼす点で需要者の注意を引く部分であるから、両者は類似しない。
3 現にホ号意匠は、平成八年三月八日に原告から意匠登録出願がなされ、平成一〇年四月二四日に登録された。
一五 反訴争点2(一)(本件第一実用新案権の無効事由の有無)について 【原告の主張】 本件第一考案の出願当初の明細書(甲33の5)では、召合せ部材12が嵌合する切欠部11を備えるという構成のみが開示されていたが、昭和六三年三月九日付け手続補正書(甲33の18)により、異なる構成による召合せ部材の嵌合機構をも包含させるようになったから、右は明らかに要旨変更に該当する。したがって、本件第一考案は、右手続補正書の提出日である昭和六三年三月九日に出願されたものとみなされるところ、その時点では当初明細書の内容を記載した公開実用新案公報(甲36)が発行されていたから、本件第一考案は出願前公知となり無効事由を有する。
【被告奥田製作所の主張】 本件第一考案の当初明細書においては、第二実施例が記載されており、これによれば「召合せ部材12が嵌合する切欠部11」は必須ではなく、これに代わる構成を任意に選択することができることが示唆されていたから、原告の要旨変更の主張は失当である。
また、「切欠部11」を有しない構成は、本件第一考案の出願当時周知であった(乙37添付の乙1ないし3)から、原告の要旨変更の主張は失当である。
一六 反訴争点2(二)(本件第二実用新案権の無効事由の存否)について 【原告の主張】 1 出願日不遡及による出願前公知 (一) 本件第二考案は、本件第一考案の実用新案登録出願から分割出願されたものであるが、本件第二考案の出願に際しては、反訴争点2(一)に関する原告の主張と同様、本件第一考案の当初明細書に記載されていなかった事項を包含するものとされたから、右分割出願は不適法である。
(二) 本件第二考案は、本件第一考案の実用新案登録出願から分割出願されたものであるが、本件第二考案は、本件第一考案から、@固定翼15に「支持部25、26を回動扉4の枢支側で上下に連結する連結壁27とが一体に設けられ」との構成(構成要件B)と、A「枢支部30の内面側に、前記召合せ部材12の回動を前記回避姿勢Bで規制するように連結壁27に面接当する規制傾斜面22が設けられている」との構成(構成要件D)を削除した関係にある。しかし、両考案明細書における実施例は同一であるから、両者は同一の考案であり、分割出願は不適法である。
(三) したがって、本件第二考案は、その分割出願の日である昭和六三年三月九日に出願されたことになるところ、その前である昭和六一年七月四日には本件第一考案に係る公開実用新案公報が発行されていたから、本件第二考案は右公開実用新案公報により出願前公知となり、無効事由を有する。
また、本件第二考案は本件第一考案と同一であるから、先願規定に反するものとしても無効事由がある。
仮に、A考案とB考案実施例が同一である場合に同一考案性を否定する場合には、その実施例についてA実用新案権の存続期間が満了した後もB実用新案で侵害を主張することができることになり、あたかも実用新案権の存続期間が延長されたのと同様の事態を招来することとなり弊害が大きい。
2 進歩性の欠如 本件第二考案は、甲73添付の公知文献から極めて容易に考案し得たものである。
【被告奥田製作所の主張】 1 本件第二考案の内容が、本件第一考案の当初明細書に開示されていたものであることは、反訴争点2(一)に関する被告奥田製作所の主張のとおりである。
2 原告は、本件第一考案と本件第二考案とは同一考案であると主張する。しかし、考案の同一性は、実施例の同一ではなく、技術思想の同一性によって判断すべきである。実施例が同一であるが故に両考案が同一であるといえるためには、両考案実施例が共に唯一の実施例Cというもの以外に考えられない場合でなければならない。本件の場合には、本件第一考案と本件第二考案の各明細書における実施例の記載が同一であっても、第二考案では、「連結壁」や「規制傾斜面」が必須要件ではないので、実施例としてはそれらに関する記載を削除したものが観念されるのであり、両考案実施例は同一ではない。
また、分割出願は、原出願の出願当初の明細書又は図面に記載した事項の範囲内で許されるのであるから、この要件を充足させるためには、原出願の実施例が一つの場合、その同じ実施例を記載するしか方法がない。
したがって、本件第一考案と本件第二考案を同一考案であることを前提とする原告の主張は失当である。
一七 反訴争点2(三)(本件第三考案についての出願前公知又は原告の先使用の成否)について 【原告の主張】 原告は、従来からビスを用いないで召合せ部材をヒンジに取り付ける方法を検討していたところ、検討が熟し、本件第三考案の出願前の平成元年一月二七日にはハ号物件の設計図面が作成され(甲24)、金型等を製造し、同年三月上旬ころには、ハ号物件の製造、販売及び広告(甲25)を開始した。
したがって、本件第三考案は出願前公知であるとともに、原告は先使用に基づく通常実施権を有している。
【被告奥田製作所の主張】 否認する。甲24、25はいずれも信用性に乏しい。
一八 反訴争点2(四)(本件登録意匠の出願前公知及び原告の先使用の成否) 争点2(三)に同じ(ただし、「本件第三考案」とあるのを「本件登録意匠」に読み替える。)。
一九 反訴争点3(カタログ廃棄等請求の可否)について 【被告奥田製作所の主張】 イ号物件ないしホ号物件は、本件実用新案権及び本件意匠権を侵害するものであるところ、右物件が記載されたカタログ(甲26ないし28、甲32)を配布する行為は、考案に係わる物品の譲渡若しくは貸渡しの申出をする行為(実用新案法2条3項)に該当する行為であるから、被告奥田製作所は、原告に対し、実用新案法27条に基づき、右カタログの配布の停止を請求する権利がある。
また、右カタログの回収及び廃棄も、実用新案法27条2項によって請求する権利がある。カタログが配布された後であっても、そのカタログはイ号物件等を販売するために使用されているから、侵害行為は継続している。
【原告の主張】 仮にイ号物件ないしホ号物件が本件実用新案権又は本件意匠権を侵害するものであるとしても、カタログが配布された時点でカタログ配布による侵害行為は終了しているから、配布後のカタログは侵害行為を組成するものではなくなっている。したがって、カタログの回収・廃棄請求は失当である。
また、現在使用されていないカタログ(甲26ないし28)については、配布の停止を求める必要性がない。
二〇 反訴争点4(主位的請求の損害額)について 【被告奥田製作所の主張】 被告奥田製作所は、主位的に、全期間について不法行為に基づく損害賠償として、原告の得た利益を被告奥田製作所の損害額として主張する。
1 原告が得た利益の額の算定(実用新案法29条2項) (一) イ号物件の平成三年四月一日から平成一一年四月末日まで、ハ号物件の平成三年一一月一日から平成八年三月末日まで、ホ号物件の平成八年四月一日から平成一一年六月末日までの合計売上数量は六〇四万七七九二個であり、合計売上額は一億四二一八万六二九九円である。
原告が右各物件の製造販売に要した費用は一個当たり一三・九〇八円である(甲47)。
したがって、右により原告が得た利益は五八〇七万三六〇八円である。
(二) イ号物件及びロ号(二号)物件の昭和六三年七月二九日(本件第一考案の出願公告日)から平成三年三月三一日までの売上数量及び売上額を推計すると、合計売上数量は一七一万三八二四個、売上単価は四二・五円であり、製造販売に要した費用は(一)と同じく一個当たり一三・九〇八円であるから、右により原告が得た利益は、四九〇〇万一六五六円である。
(三) ハ号物件の平成元年四月七日(本件第二考案の出願公告日)から平成三年一〇月末日までの売上数量及び売上額を推計すると、合計売上数量は七一万四五九一個であり、単価は五三・五円であり、製造販売に要した費用は(一)と同じく一個当たり一三・九〇八円であるから、右により原告が得た利益は二八二九万二〇八七円となる。
(四) 以上より、被告奥田製作所は、原告に対し、実用新案権侵害及び意匠権侵害の不法行為に基づき(1)ないし(3)の合計額である一億三五三六万七三五一円の損害賠償請求をする権利がある。
2 消滅時効の抗弁について (一) 反訴提起時において、被告奥田製作所は、損害額が不明であったため、とりあえずその予想として、五六二二万円の損害の発生を主張し、内金一〇〇〇万円の請求をしたものであって、被告奥田製作所が発生した損害額を正確に知ったのは、平成一〇年五月一二日付け原告準備書面及び甲47(原告代表者の陳述書)を受け取ったときである。したがって、本件での損害賠償請求権は、右の時から時効の進行を開始すると解すべきところ、それによれば、消滅時効は完成していない。
(二) 仮に被告奥田製作所が反訴の提起時点において五六二二万円の損害の発生を知っていたとしても、その余の損害額についてはその発生を知っていなかったから、右残余分及び反訴における当初請求分の一〇〇〇万円については消滅時効は完成していない。
【原告の主張】 1 原告が得た利益の算定について (一) 被告奥田製作所の主張1(一)のうち合計売上数量と合計売上額は認め、その余は争う。
まず本件第二考案は平成一一年四月七日をもって存続期間が満了しているから、イ号物件については損害賠償の請求期間を右までとすべきである。
また、被告奥田製作所の利益額の主張は粗利益額に近いものであるが、
損害額の計算に当たっては所要の販管費をも控除すべきであるから、本件において損害額計算のために適用すべき利益率としては、粗利益率と純利益率の中間値の二五・五五%を採用すべきである。
(二) 被告奥田製作所の主張1(二)(三)については争う。
2 消滅時効(三年)の抗弁 (一) 被告奥田製作所が反訴を提起したのは平成七年四月二七日であり、その際に損害額五六二二万円のうち一〇〇〇万円を請求したところ、平成四年四月二六日以前の原告の行為による損害賠償請求権は反訴提起時において既に消滅時効が完成していた。
(二) 次に被告奥田製作所は、平成一〇年七月一五日に反訴請求を拡張し、
請求額を一億三五八〇万円としたところ、平成四年四月二七日から平成七年七月一四日までの原告の行為による損害賠償請求権のうち、当初の反訴請求額を超える分は、右準備書面提出時において既に消滅時効が完成していた。
(三) 原告は右時効を援用する。
二一 反訴争点5(予備的請求の不当利得返還額) 【被告奥田製作所の主張】 仮に主位的請求について一部でも原告の消滅時効の抗弁が認められる場合には、消滅時効にかからない期間については不法行為に基づき原告の得た利益の額を被告奥田製作所の損害額として損害賠償請求し、消滅時効にかかる期間については不当利得に基づく請求をする。
1 原告は、イ号物件等を製造販売することにより被告奥田製作所の実用新案権や意匠権を侵害することについて、未必の故意があった。したがって、原告は、
悪意の受益者として、その受けたる利益を返還する義務を負う(民法704条)ことになるから、被告奥田製作所が不当利得に基づいて原告に対して請求し得る額は、結局、主位的請求と同額となる。
2 仮に原告が悪意の受益者でないとしても、侵害者による侵害品の売上には専ら被告奥田製作所の実用新案権及び意匠権が寄与しているのであるから、原告がイ号物件等の製造販売によって得た利益を不当利得金額と認めるべきである。これによれば、被告奥田製作所が不当利得に基づいて原告に対して請求し得る額は、やはり、主位的請求と同額となる。
3 仮に1及び2が認められない場合、次により算定される額を請求する。
(一) まず平成六年一月一日から平成七年四月二七日(反訴提起日)までのイ号物件及びハ号物件の販売によって原告が得た利益は九九九万〇七九二円であって、当初の反訴請求額の一〇〇〇万円を超えないから、この間のイ号物件等の製造販売によって被告が受けた損害の賠償請求権は時効消滅しない。したがって、右損害額については、不法行為に基づく損害賠償請求をする。
(二) 次に、反訴請求を拡張した平成七年七月一六日から平成一一年六月までのイ号物件等の販売によって被告奥田製作所が受けた損害については、時効消滅の問題は生じないから、不法行為に基づく損害賠償請求をする。右期間中に原告がイ号物件等を製造販売することによって得た利益の額は、二二八二万八〇一五円である。
(三) また、(一)より以前の期間分(イ号物件及びロ号(ニ号)物件については本件第一考案の出願公告日の昭和六三年七月二九日から平成五年一二月末まで、ハ号物件については本件第二考案の出願公告日の平成元年四月七日から平成五年一二月末まで)については、不当利得返還請求として実施料相当額の請求をする。
イ号物件及びロ号(二号)物件の実施料相当額としては、一個当たり一二円を下らず、ハ号物件の実施料相当額としては、一個当たり一五円を下らないところ、原告は、右期間中にイ号物件及びロ号(二号)物件を合計三四五万三五二二個販売し、ハ号物件を一三五万九二五五個販売したから、実施料相当額は合計六一八三万一〇八九円となる。
(四) 最後に(一)と(二)の間の期間分(平成七年四月二八日から同年七月一五日まで)については、不当利得返還請求として実施料相当額の請求をする。
原告は、右期間中にイ号物件を合計五万七四三一個販売し、ハ号物件を五万八七七六個販売したから、実施料相当額は合計一五七万〇八一二円となる。
(五) 予備的請求としては、(一)ないし(四)の合計額の九六二二万〇七〇八円を請求する。
【原告の主張】 1 被告奥田製作所の主張1及び2は争う。特に原告が得た利益(利得)と被告奥田製作所が受けた損害(損失)との因果関係が証明されていない。
2 被告奥田製作所の主張3は争う。特に実施料の算定は不当に高額であり、
せいぜい売上額に対して二ないし三パーセントとすべきである。
争点に対する当裁判所の判断
一 イ号物件は本件第二考案の構成要件Dを充足するかについて(反訴争点1(一)) 1 イ号物件の「裏側の空間部31」が、本件第二考案の「切欠部」に当たるか (一) 本件第二考案の実用新案登録請求の範囲によれば、「切欠部31」は、
(ア)枢支部30の上下方向中央部に設けられること、(イ)枢支軸18中央部を露出させるものであること、(ウ)該切欠部内に枢支軸18に巻回した状態でコイルバネ20を収納していること、の三点を満たしていることが必要であると認められるが、それ以上にどのような形状のものまでが含まれるのかは明確でない。
また、一般に「切欠」とは、「@部材接合のため切り取った部分。A水量測定のため、堰板から切り取った長方形または三角形の部分。ノッチ。B材料力学において、材料の縁に局部的にできたへこみ部。ノッチ。」(乙13)などとされるが、本件考案の「切欠部」の意義がどのようなものであるかは、本件明細書の記載を参酌して検討する必要がある。
(二) 乙3によれば、本件明細書考案の詳細な説明には、「切欠部」に関して次の趣旨の記載のあることが認められる。
(1) 考案が解決しようとする課題の欄(本件第二公報3欄20ないし39行目) 従来技術(本件明細書第7図、第8図)では、召合せ部材51を回避姿勢に付勢するコイルバネ56を、枢支軸54と該枢支軸54を外嵌した蝶番52の軸受筒58、59との間に設けていたことから、次の問題点があった。
ア(ア) 蝶番部分が大型化しないようにするためには、コイルバネ56は極力線径の細いものを使用する必要があり、
(イ) コイルバネ56が召合せ部材51の回動に対する大きな摺動抵抗となり、
(ウ) 枢支軸54と軸受筒58、59との間に隙間が生じ、枢支軸54に対して軸受筒58、59がガタ付き易く、その結果召合せ部材51が上下にガタ付く惧れ大となり、
(エ) コイルバネ56が摩耗しやすく、したがって、召合せ部材51の長期に亘るスムーズな回動が得られない。
イ 軸受筒58、59へのコイルバネ56及び枢支軸54の組込みが非常に面倒である。
(2) 実施例(本件第二公報第1図ないし第5図) 本件明細書実施例においては、「切欠部」として、枢支部30の縁部の上下方向中央部を、枢支部30の一つの面(表面)から他の面(裏面)まで部材を欠いた形状のものが開示されている。
(3) 考案の効果の欄(本件公報7欄32行目ないし8欄24行目) 本件第二考案においては、枢支部30の上下方向中央部に枢支軸18を露出させるように設けた切欠部31内に、枢支軸18に巻回した状態でコイルバネ20が収納されている構成を採用したことから、次のような効果を奏する。
ア コイルバネ20は露出した枢支軸18に巻回した状態になるため、十分線径の太いコイルバネを使用できて、しかも蝶番部分が大型化することもない。
イ コイルバネ20は露出した枢支軸18に巻回され、切欠部31に収納した状態にあるため、コイルバネ20が召合せ部材12の枢支軸18廻りの回動の大きな摺動抵抗となることもない。
ウ コイルバネ20は切欠部31内に収納された状態になっているため、コイルバネ20が可動部材17や固定部材15と接触して摩耗することもなくなる。
エ 蝶番14にコイルバネ20及び枢支軸18を組み込む際には、例えばコイルバネ20を切欠部31に内嵌保持した状態で可動部材17の枢支部30を支持部25、26間に挿入し、この状態で枢支軸18を支持部25、26、枢支部30及びコイルバネ20に嵌入すればよく、非常に簡単にコイルバネ20及び枢支軸18を組み込むことができ、製造も容易である。
(三) このような本件明細書の記載からすると、「切欠部」の技術的意義については、次のように認められる。
従来技術においては、枢支軸54に巻回するコイルバネ56を、枢支軸54と軸受筒58、59との間に設け、枢支軸54及びコイルバネ56の周囲を軸受筒58、59が覆う構成を採っていたことから、蝶番を小型にしようとするとコイルバネ56の線径を細いものにせざるを得ない上に、コイルバネ56が枢支軸54及び軸受筒58、59と接触して摺動抵抗となってしまい、さらに枢支軸54と軸受筒58、59との間に空間があることから軸受筒58、59ひいては召合せ部材51がガタつく事態が生じ、コイルバネ56が摩耗しやすいという問題点があった。また、右のような構成のために、コイルバネ56及び枢支軸54を軸受筒58、59内に組み込む作業も面倒になるという問題点があった。
これに対し、本件第二考案は、枢支部30の上下方向中央部に切欠部31を設けて、枢支軸18中央部を露出させるとともに、切欠部内に枢支軸18に巻回した状態でコイルバネ20を収納することにした構成を採用したことにより、コイルバネ20の周囲を覆う物がなくなったことから、コイルバネ20の線径を太くしても蝶番を小型化することが可能となり、コイルバネ20が大きな摺動抵抗となったり、固定部材15や可動部材17と接触して摩耗したりすることが少なくなるとともに、コイルバネ54及び枢支軸18の周囲が開放されていることから、それらの組込みも簡単となったものである。
このように見ると、「切欠部」とは、枢支部30の上下方向中央部に設けられた凹状の空間部分で、その部分で枢支軸18中央部が露出されるとともに枢支軸18に巻回した状態でコイルバネ20が収納されるもので、従来の枢支軸54に巻回されたコイルバネ56の周囲を軸受筒58、59が覆う構成と比べて、蝶番が大型化することなく線径の太いコイルバネを採用でき、コイルバネ20が大きな摺動抵抗とならず、コイルバネ20と固定部材15や可動部材17とが接触して摩耗したりすることが少なくなるとともに、コイルバネ54及び枢支軸18の組込みも簡単となるという効果を有するものであれば、実施例に開示された形状に限られないと解するのが相当である。
(四) 以上を前提に、イ号物件の裏側の空間部31が「切欠部」に該当するかを検討するに、まず、イ号物件における裏側の空間部31は、枢支部30の上下方向中央部に設けられており、周囲から若干凹んだ空間であって、その部分で枢支軸18中央部が露出されるとともに枢支軸18に巻回した状態でコイルバネ20が収納されるものであると認められる。
そして、検甲2によれば、イ号物件における裏側の空間部31では、枢支軸18及びコイルバネ20の周囲は開放されており、唯一、枢支部30の裏側面とのみ接触する可能性があるにとどまると認められるところ、このような構成の場合には、従来技術のようにコイルバネの周囲を軸受筒で完全に覆う場合と比べて、軸受筒を取り払って枢支軸18と枢支部30の裏面の距離を適宜設計すること(検甲2によれば、イ号物件では、枢支部30の裏面のうちコイルバネ20に対応する部分に凹みが設けられている。)によって、軸受筒を大きくすることなくコイルバネの線径を太くすることが可能となる効果を奏しているものといえる。この点について、原告は、コイルバネの全周を完全に露出させる場合でなければ、コイルバネの線径を太くできる効果は生じないと主張するが、イ号物件のようにコイルバネ20の周囲の一方向が枢支部30の裏側によって塞がれている場合であっても、軸受筒が存在しないことから、コイルバネ20の線径を太くする場合にも、軸受筒を大型化しひいては蝶番が大型化することを避け得ているのであるから、右主張は採用できない。
また、仮にイ号物件においてコイルバネ20が枢支部30の裏面と接触するとしても、その接触は線接触にとどまるから、従来技術のようにコイルバネの周囲を軸受筒が覆っているものと比較すると、コイルバネの接触摩耗や摺動抵抗の程度ははるかに低くなる効果を奏していると認められる。
さらに、イ号物件の裏側の空間部31では、枢支軸18及びコイルバネ20の周囲は開放されているから、コイルバネ20及び枢支軸18を簡単に組み込むことができるという効果も奏している。
以上によれば、イ号物件の裏側の空間部31は、構成要件Dの「切欠部」に当たるというべきである。
(五) 原告は、イ号物件では、枢支部30がまず存在し、これに枢支軸18とコイルバネ20を貫通させるための突起を設けたことによって、枢支部の裏に単なる空間31が形成されたにすぎず、右空間31が何かを切り欠いて形成されたものではないと主張する。しかし、仮にイ号物件の裏側の空間部31の開発経過又は製造手順が右のとおりであるとしても、右部分が前記のような構成を有し、前記のような作用効果を奏すると認められる以上、それが本件第二考案の「切欠部」に当たるとする評価を免れることはできない。
また原告は、各種の特許公報等においても、イ号物件の裏側の空間部31の形状のものが「切欠部」と表現されている例はないと主張するが、実用新案登録請求の範囲の記載の意義は、単なる一般的語義によって判断すべきではなく、明細書の記載を参酌して判断すべきであるから(実用新案法26条、特許法70条2項)、原告の右主張は採用できない。
また原告は、本件第二考案公知技術(検甲13、14)にわずかな変更を施したものにすぎないから、公知技術にまで権利が及ぶことがないよう、その技術的範囲実施例に限定して解釈すべきであると主張するが、原告が指摘する検甲13及び14の蝶番は、本件第二考案が対象とするような召合せ部材を取り付ける蝶番に関するものではない(甲63)から、原告の主張は採用できない。
2 「規制傾斜面」の要件について 原告は、本件第二考案技術的範囲は、本件第二明細書実施例に記載されている規制傾斜面の構成を具備する構成に限定して解釈すべきであると主張する。
確かに、本件第二考案に係る扉構造において、召合せ部材が取り付けられている回動扉4を閉塞する際には、召合せ部材は他方の回動扉5との衝突を回避するために後方回動した姿勢(回避姿勢B)をとらなければならないが、この回避姿勢Bが回動扉4との関係で九〇度より大きい場合には、召合せ部材が受承面部と当接した際に回動扉5とは更に反対の方向に回動してしまい、回動扉4、5の召合せ間隙の閉塞姿勢Aをとることがないから、本件第二考案において、召合せ部材の機能を果たさせるためには、何らかの形で召合せ部材(を取り付けた可動部材)の回動を九〇度以内に規制する手段が設けられる必要がある(本件第二明細書実施例においても、回避姿勢Bは、九〇度以内の範囲で後方回動したものとされている〔本件第二公報6欄26ないし28行目〕。)。この点は原告が主張するとおりである。
そして、本件第二明細書では、この回動規制手段として、連結壁27と規制傾斜面22を具備する構成が実施例において記載されているにとどまる。
しかし、本件第二考案の実用新案登録請求の範囲実施例のような回動規制手段が構成要件として掲記されているわけではなく、また、このような回動規制手段を具備することが前記のような本件第二考案の固有の作用効果を奏するための特徴的構成となっているわけでもないことからすれば、右のような回動規制手段を実施例記載のものに限定して解釈する理由はなく、回避姿勢Bを回動扉4との関係で九〇度以内に規制するものであれば任意の構成で足りると解するのが相当である。
しかるところ、検甲2によれば、イ号物件では、枢支部30の端部が固定部材15の表面に当接することによって、回避姿勢Bが回動扉4との関係で九〇度以内に規制される構成が採られていると認められるから、なお本件第二考案技術的範囲に属する。
なお原告は、本件第二明細書実施例における切欠部31とイ号物件における裏側の空間31とは、回動規制手段の相違を導く点で大きく機能を異にすることから、裏側の空間31は本件第二考案の「切欠部」に当たらないとも主張するが、回動規制手段がどのようなものとなるかは、本件第二考案の「切欠部」の効果とは何ら関係のない点であるから、原告の主張は採用できない。
なお、原告の右主張は、反訴事件の提訴から約四年を経過した後の平成一一年四月三〇日付け原告準備書面で初めて提出されるに至ったものであって、著しく時機に後れたものといわなければならないことを付言しておく。
3 以上より、イ号物件は、本件第二考案の構成要件Dを充足し、同考案のケースの扉構造の生産にのみ使用する物であるといえる。
二 「マジックヒンジ1」の商品名で原告が製造、販売していた物件の関係について(反訴争点1(二)) 原告が「マジックヒンジ1」の商品名で製造、販売していた開き戸装置用の蝶番については、ロ号又は二号物件として種々の議論がなされているが、弁論の全趣旨によれば、右物件は昭和五九年一二月ころから製造、販売を開始し、昭和六二年一二月ころには製造を終え、順次イ号物件に置き換えられていき、昭和六三年半ばころには在庫品の販売も終えたことが認められる。
他方、本件で「マジックヒンジ1」の製造、販売が間接侵害になるとして主張されているのは、本件第一考案及び第二考案についてであるが、本件第一実用新案権の出願公告の日は昭和六三年七月二九日であり、本件第二実用新案権の出願公告の日は平成元年四月七日である。
これらの時期の関係からすれば、「マジックヒンジ1」の製造、販売によって本件第一実用新案権又は本件第二実用新案権(又はそれらの仮保護の権利)が侵害されたといえないから、「マジックヒンジ1」関係の請求は、その余の点について検討するまでもなく理由がない。
三 ハ号物件は、本件第二考案の構成要件Dを充足するかについて(反訴争点1(三)(1)) ハ号物件の構造がハ号物件目録記載のとおりであることについては当事者間に争いがないところ、それによれば、枢支部30の裏側の空間部31の構成は、イ号物件と同一であることが認められる。
したがって、先にイ号物件について述べたところからすれば、ハ号物件の「裏側の空間部31」は本件第二考案の「切欠部」に当たるというべきである。
また、本件第二考案においては、可動部材17が回避姿勢Bをとる際の回動を九〇度以内に規制する構成が必要ではあるが、その構成が本件第二明細書実施例に記載された規制傾斜面22と連結壁27に限られないことは先に述べたとおりであるところ、検乙2によれば、ハ号物件は、イ号物件と同じ回動規制手段を具備していると認められるから、ハ号物件は本件第二考案に必要な回動規制手段を具備している。
よって、ハ号物件は、本件第二考案の構成要件Dを充足し、同考案のケースの扉構造の生産にのみ使用する物であるといえる。
四 ハ号物件は、本件第三考案の構成要件を充足するか(反訴争点1(三)(2))。
当事者間に争いがない別紙ハ号物件目録記載のハ号物件の構成と本件第三考案とを対比すれば、ハ号物件の構成は本件第三考案の構成と同一であると認められるから、ハ号物件は、本件第三考案技術的範囲に属する。
原告は、本件第三考案においても、規制傾斜面の存在が必須の構成要件となると主張するが、先に本件第二考案について述べたところと同様に採用できない。
五 ハ号物件の意匠は、本件登録意匠に類似するか(反訴争点1(三)(3)) 1 各意匠の構成について 本件登録意匠の構成は、別添意匠公報(乙5)記載のとおりであり、別紙「本件登録意匠の構成とホ号意匠の構成(裁判所の認定)」中、「本件登録意匠の構成」欄のとおりと認められる。
ハ号意匠の構成は、別紙ハ号物件目録記載のとおりである。
2 本件登録意匠の要部について ところで、乙5によれば、本件意匠公報には、本件登録意匠の説明として、「本物品は、タンス、水屋等の観音開き形式の左右一対の回動扉を備えた家具の回動扉に取付けられるものである。使用に際しては使用状態参考図1で示すように、観音開き形式の左右一対の回動扉の召合せ部間隙を閉塞する召合せ部材を本物品に取付け、この召合せ部材が取付けられた本物品を回動扉の一方に固着し、左右の何れからも回動扉の開閉を行うことができる。」との記載があることが認められる。
また、甲2及び弁論の全趣旨によれば、本件意匠権の意匠登録出願(平成元年三月三一日)より前には、召合せ部材取付用ヒンジの形状を示すものとして本件第一考案の公開実用新案公報(実開昭六一ー一一〇七九〇号・甲36)が公開されるとともに、前記イ号物件が製造販売されていたことが認められる。
右事実からすれば、召合せ部材取付用ヒンジにおいて、本件登録意匠のように縦長長方形状の固定部材と可動部材からなる基本的構成及び固定部材についての具体的構成は、ありふれたものであったと認められ、また、可動部材のうち枢支部は、その位置、大きさに照らして使用時に目立たないものと認められる。これに対し、可動部材及びその取付部は、本件登録意匠全体の中で占める割合が大きく、
可動部材が横長長方形状で取付部が召合せ部材を包み込むように保持する印象を与える構成は公知の意匠に見られない構成であり、召合せ部材を取り付けるという物品の使用方法に照らしても、需要者の注意を惹く部分であると認められる。
以上よりすれば、本件登録意匠の要部は、可動部材の全体形状及びその取付部の形状にあると認められる。被告奥田製作所は、前者のみを本件登録意匠の要部であると主張するが、前示に照らして採用できない。
3 本件登録意匠とハ号意匠の類否について 本件登録意匠とハ号意匠の相違点は、固定部材、可動部材の取付部、可動部材の枢支部の各形状である。
しかし、これらの相違は、いずれもわずかなものにとどまるから、これらの相違が全体の美感の相違をもたらすとはいえず、両者は類似するというべきである。
六 原告がハ号物件を製造、販売するおそれがあるかについて(反訴争点1(三)(4)) 弁論の全趣旨によれば、原告は、平成八年二月一三日から、ハ号物件の金型を改造してホ号物件の金型を製造し、ハ号物件の販売は同年三月一八日をもって終了したこと、甲32のカタログにはハ号物件の掲載がなく、代わってホ号物件が掲載されていることが認められる。
右事実に照らせば、原告がハ号物件を製造、販売するおそれがあるとは認めるに足りないから、反訴請求の趣旨第一項ないし第四項のうち、ハ号物件に関する部分は理由がない。
七 ホ号物件は、本件第三考案の構成要件Cを文言上充足するかについて(反訴争点1(四)(1)ア) 1 被告奥田製作所の主張の趣旨は、ホ号物件目録に基づくホ号物件の構成を本件第三考案の構成要件Cと対比すると、@延設部51aが「取付部」に該当し、A延設部先端51a'と基端・が「一対の挟持壁」に該当するというものである。
2 しかし、本件第三考案における「取付部11の幅方向両端に召合せ部材22を幅方向に抱着挟持する一対の挟持壁12a、12bが設けられ、一対の挟持壁12a、12bは、該挟持壁12a、12bの先端部間の幅が召合せ部材22の幅よりも小となる」との構成要件は、本件第三明細書の作用欄において、「ヒンジ1は召合せ部材取付部11が、召合せ部材22を幅方向に挟持できるように召合せ部材22と略幅方向とし、かつ幅方向両端を召合せ間隙側に向けて屈曲して一対の挟持壁12a、12bを形成しているので、召合せ部材22の取付けに際しては、前記一方の挟持壁12bの内側に召合せ部材の幅方向一端を当接した後、他端を他方に挟持壁12aに押し込めばよく、これによりきわめて簡単に嵌め込み固定することができる。」とされていること(本件第三公報4欄11ないし18行目。なお考案の効果に関する同6欄3ないし6行目も参照。)からすると、一対の挟持壁の先端部間の空隙が、召合せ部材の幅方向に設けられて、召合せ部材の挿入口を形成することをその技術的意義の一つとしていると解すべきところ、ホ号物件においては、被告奥田製作所の主張に係る一対の挟持壁51a'、・の先端部間の空隙は、召合せ部材の幅方向に召合せ部材の挿入口を形成するように設けられてはおらず、むしろ51a'、51b'の間が召合せ部材12の厚さ方向に開かれている。したがって、ホ号物件においては、右の構成要件を文言上充足しない。
この点について被告奥田製作所は、基部52から延設されている延設部51b及びその先端51b'は付加的な構成にすぎないと主張するが、それによって召合せ部材の幅方向にその挿入口を形成することが阻害されているのであるから、右部分を付加的な構成であるとすることはできない。
八 ホ号物件は、本件第三考案均等か(反訴争点1(四)(1)イ) 1 被告奥田製作所は、ホ号物件は、本件第三考案の構成要件Cにおける「幅」を「厚さ」に置換した均等な構成であると主張する。この主張の趣旨は、次のとおりであると理解できる。
(一) 本件第三考案の構成要件Cは次のように分説できる。
(1) 可動部材3は、
ア 弾性を有する合成樹脂にて形成され、
イ 召合せ部材22を外嵌保持するように、
(ア) 可動部材3に召合せ部材22と略同幅に形成された取付部11が設けられると共に (イ) 該取付部11の幅方向両端に召合せ部材22を幅方向に抱着挟持する一対の挟持壁12a、12bが設けられ、
(2) 一対の挟持壁12a、12bは、該挟持壁12a、12bの先端部間の幅が召合せ部材22の幅よりも小となるように、取付部11の幅方向両端から鉤形に屈曲されている (二) ホ号物件は、これを次のとおり置換したものである。
(1) 可動部材17は、
ア 弾性を有する合成樹脂にて形成され、
イ 召合せ部材12を外嵌保持するように、
(ア) 可動部材17に召合せ部材12と略同厚さに形成された基端(取付部に相当)52が設けられると共に (イ) 該基端(取付部)52の厚さ方向両端に召合せ部材12を厚さ方向に抱着挟持する一対の延設部(一対の挟持壁に相当)51a、51bが設けられ、
(2) 一対の延設部(一対の挟持壁)51a、51bは、該延設部(挟持壁)51a、51bの先端部51a'、・b'間の厚さが召合せ部材・の厚さよりも小となるように、基端(取付部に相当)52の厚さ方向両端から鉤形に屈曲されている 2 特許権侵害訴訟において、特許請求の範囲に記載された構成中に、相手方が製造等をする製品又は用いる方法(以下「対象製品等」という。)と異なる部分が存する場合であっても、@ 右部分が特許発明の本質的部分ではなく(均等要件@)、A 右部分を対象製品等におけるものと置き換えても、特許発明の目的を達することができ、同一の作用効果を奏するものであって(均等要件A)、B 右のように置き換えることに、当該発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が、対象製品等の製造等の時点において容易に想到することができたものであり(均等要件B)、C 対象製品等が、特許発明の特許出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時に容易に推考できたものではなく(均等要件C)、かつ、D 対象製品等が特許発明の特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに当たるなどの特段の事情もないとき(均等要件D)は、右対象製品等は、特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして、特許発明の技術的範囲に属するものと解するのが相当である(前掲最高裁平成一〇年二月二四日判決・民集五二巻一号一一三頁参照)。そしてこの理は、実用新案権についても妥当するものと解される(ただし、要件Cは「きわめて容易に推考できたものでなく」と読み替える。実用新案法3条2項参照。)。
そして、右各要件のうち、@ないしBは、特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一であるというための要件であるのに対し、C及びDはこれを否定するための要件であるというべきであるから、これらの要件を基礎付ける事実の証明責任という意味においては、@ないしBについては均等を主張する者が、C及びDについてはこれを否定する者が証明責任を負担すると解するのが相当である。
ホ号物件が本件第三考案の構成要件A及びBを充足することは当事者間に争いがないので、以下、右原告主張に係る相違点にもかかわらず、ホ号物件が本件第三考案の構成Cと均等であるといえるための要件を満たすか否かを検討する。
3 均等要件@について (一) 前記のとおり、均等が成立するためには、特許請求の範囲に記載された構成中の対象製品等と異なる部分が特許発明の本質的部分でないことを要する。
右にいう特許発明の本質的部分とは、特許請求の範囲に記載された特許発明の構成のうちで、当該特許発明特有の課題解決手段を基礎付け、特有の作用効果を生じるための特徴的部分、換言すれば、右部分が他の構成に置き換えられるならば、全体として当該特許発明の技術的思想とは別個のものと評価されるような部分をいうものと解するのが相当である。そして、右の特許発明における本質的部分を把握するに当たっては、単に特許請求の範囲に記載された一部を形式的に取り出すのではなく、当該特許発明の実質的価値を具現する構成が何であるのかを実質的に探求して判断すべきである。この理は、実用新案権の場合でも同様である。
(二) 乙18によれば、本件第三明細書には、次の記載があることが認められる。
(1) 考案が解決しようとする課題 ア 「従来の場合召合せ部材をヒンジに取付けるにあたっては、ヒンジの可動部材の取付部に直接ビスをねじ込んで召合せ部材を固着していたため、ヒンジを一方の回動扉に固定すると共に、ヒンジの可動部材の取付部にビスで召合せ部材を固定してしまうと、その後は、召合せ部材を回動扉及びケース本体に対して上下方向に位置調整することができず、このため、召合せ部材を回動扉及びケース本体に対する上下方向の位置が最適な位置になるようにきちんと合わせながら召合せ部材をヒンジに取付ける必要があり、その作業は容易でなかった。また、召合せ部材が回動扉及びケース本体に対して上下方向の位置がきちんと合っていなければ、
ビスを外して召合せ部材をヒンジに付け直さなければならず、付け直しが面倒で又付け直しの際に召合せ部材が破損したりする恐れもあった。」 イ 「本考案は、上記問題点に鑑み、召合せ部材をヒンジに取付けた後にも、召合せ部材を回動扉及びケース本体に対して上下方向に位置調整することができて、召合せ部材をヒンジに簡単かつ確実に取り付けることができるようにしたものである。」(以上本件第三公報3欄18ないし37行目) (2) 作用欄 「召合せ部材22は、ヒンジ1の召合せ部材取付部11に抱着挟持されて取付けられる。即ちヒンジ1は召合せ部材取付部11が、召合せ部材22を幅方向に挟持できるように召合せ部材22と略幅方向とし、かつ幅方向両端を召合せ間隙側に向けて屈曲して一対の挟持壁12a、12bを形成しているので、召合せ部材22の取付けに際しては、前記一方の挟持壁12bの内側に召合せ部材の幅方向一端を当接した後、他端を他方に挟持壁12aに押し込めばよく、これによりきわめて簡単に嵌め込み固定することができる。」(本件第三公報4欄10ないし18行目) (3) 実施例欄 「なお、本考案における前記ヒンジ1の取付部11の形状は、図示(注:第1図)実施例のものに限定されず、例えば第9図に示すように断面が鳩尾状でもよく、要するに取り付け部11に召合せ部材22がワンタッチで嵌着固定できる形状であれば良い。」(本件第三公報5欄24ないし28行目) (4) 考案の効果欄 「本考案によれば、可動部材3は弾性を有する合成樹脂にて形成され、召合せ部材22を外嵌保持するように、可動部材3に召合せ部材22と略同幅に形成された取付部11が設けられると共に該取付部11の幅方向両端に召合せ部材22を幅方向に抱着挟持する一対の挟持壁12a、12bが設けられているので、召合せ部材22を取付ける場合、予めヒンジ1を一方の回動扉20の自由端内側に固定したうえで、召合せ部材22をヒンジ1の取付部11に嵌め込めばよく、召合せ部材22をヒンジ1に簡単に取付けでき、しかも召合せ部材22をヒンジ1に取付けた後に、召合せ部材22をヒンジ1に対して上下方向に強く押圧又は引張し或いは召合せ部材22を木槌等で上下方向に叩くことにより、召合せ部材22を回動扉20及びケース本体25に対して上下方向に位置調整することができ、このため、召合せ部材22を回動扉20及びケース本体25に対する上下方向の位置が最適な位置になるようきちんと合わせることができ、召合せ部材22を最適な位置に熟練を要さず簡単かつ確実に取付けることができる。」 「また、一対の挟持壁12a、12bは、該挟持壁12a、12bの先端部間の幅が召合せ部材22の幅よりも小となるように、取付部11の幅方向両端から鉤形に屈曲されているので、取付部11に召合せ部材22を外嵌保持した後は、一対の挟持壁12a、12bによって召合せ部材22を幅方向に抱着挟持すると同時に、一対の挟持壁12a、12bによって召合せ部材22が取付部11から不測に抜脱しないように効果的に抜け止めすることができ、この点からも召合せ部材22を確実に取り付けることができる。」(以上本件第三公報5欄35行目〜6欄24行目) (三) 以上のような本件第三明細書の記載からすると、本件第三考案は、@ヒンジに取り付けた後にも召合せ部材の上下方向の位置調整を可能とすること、A簡単に取り付けられること、B確実に取り付けることの3つの効果を奏することを目的としていると解されるところ、召合せ部材の取付後も上下位置調整ができるようにする(目的@)ためには、召合せ部材を可動部材と物理的に一体化しない(ネジ止め等をしない)ようにすればよい。しかし、物理的に一体化しない場合でも、
召合せ部材を確実に取り付けること(目的B)が必要である。そこで、これらを同時に満たすために、本件第三考案は、「外嵌保持」や「抱着挟持」というように、
召合せ部材を可動部材が外から挾み、締め付けて確実に保持するという構成を採用したものであるが、同時に、本件第三考案は、召合せ部材を簡単に取り付けることができるようにする(目的A)ことも目的としたので、この要請も同時に満たす必要がある。
そこで、本件第三考案では、A召合せ部材と略同幅に形成された取付部の幅方向両端に一対の挟持壁を設けて、それにより召合せ部材を幅方向に締め付けるとともに、B一対の挟持壁の先端部の幅が召合せ部材の幅よりも小となるようにして、取付部と挟持壁によって、可動部材が召合せ部材を厚さ方向にも締め付けることとし(この点は本件第三明細書の記載からは必ずしも明らかではないが、この構成が召合せ部材の脱抜防止の効果を有するとの本件第三明細書の記載及び実施例に関する第1図及び第9図からは右のように解される。)、これらによって取付後の位置調整(目的@)と確実な保持(目的B)を可能にするとともに、C取付部、挟持壁及び挟持壁先端によって形成される空間の開放部から召合せ部材を挿入してワンタッチ装着を可能にし(目的A)、D右開放部を設けた構成と可動部材を弾性を有する合成樹脂で形成した構成によって、召合せ部材が挟持壁を押し広げるように挿入され、挿入後は復元して召合せ部材を締め付けるようにしたものである。
そして、召合せ部材取付用ヒンジにおいて、本件第三考案のように、召合せ部材をワンタッチ装着できるようにしつつ、取付後の位置調整を可能とし、なおかつ確実な取付けを可能とするという技術的課題を提示し、それを解決する構成を提示した技術が、公知技術に存したことは、本件全証拠によっても窺われない。
(四) 本件第三考案についての以上のような理解を前提に検討すると、確かに本件第三考案の実用新案登録請求の範囲を形式的に分説した場合には、本件第三考案本質的部分は構成要件Cにあるといえる。
しかし、発明の本質的部分の意義について先に検討したところからすれば、本件第三考案において、前記課題を解決し、前記作用効果を奏させているのは、取付部及び挟持壁の組合せによって召合せ部材を幅方向及び厚さ方向の双方から外嵌保持すると同時に、それらによって形成される空間に開放口を設けて召合せ部材をワンタッチ挿入できるようにした点にあり、取付部及び挟持壁を幅方向と厚さ方向のいずれの方向に設けるかという点や、召合せ部材の挿入口が設けられているのが幅方向であることは、本件第三考案が前記課題を解決し、前記作用効果を奏するための解決原理となっているわけではないと解するのが相当である。
以上からすれば、本件第三考案における「幅」とされている要件を「厚さ」に置換することは、本質的部分での相違ではなく、均等要件@は満たされるというべきである。
4 均等要件Aについて (一) 検乙4の1によれば、ホ号物件は、前記本件第三考案の作用効果と同一の作用効果を奏するものと認められるから、均等要件Aを満たす。
(二) この点について原告は、ホ号物件では、本件第三考案の「幅」を「厚さ」に変えたことによって、召合せ部材の取付時に要する力や上下位置調整時に要する力がはるかに小さくなったから、両者は作用効果を異にすると主張する。
確かに、@甲51によれば、本件第三明細書の第1図類似の計算モデルAとホ号物件類似の計算モデルBについて、挟持壁部分を〇・五oたわませるのに要する荷重を計算によって求めたところ、計算モデルAでは一三・四sであったのに対し、計算モデルBでは〇・八sであったこと、A甲53によれば、本件第三考案の実施品である検乙4の3とホ号物件である検乙4の1について、装着に要する力と上下位置調整に要する力を測定したところ、装着力については、実施品では一六sであったのがホ号物件では二・四sであり、上下位置調整力については、実施品では三・四四sであったものがホ号物件では〇・四九六sであったこと、B甲67によれば、右実施品とホ号物件について、それぞれ取付部の開口部を広げる際に要する負荷を測定したところ、変移量が〇・二oの場合には実施品が〇・八kgfであるのに対してホ号物件が〇・二kgf、変移量が一・〇oの場合には実施品が四・六kgfであるのに対してホ号物件が〇・四ないし〇・五kgfであったこと、C甲68によれば、右実施品とホ号物件とでは、取付けに要する時間について差があり、ホ号物件の方が取付に要する時間が短いことが認められる。
しかし、前記のような明細書の記載に加え、本件第三考案の出願前に前記のような技術課題とその解決手段を提示した公知技術が存しなかったことからすれば、本件第三考案は、公知技術に比べて、装着や上下位置移動に要する負荷の大小といった量的なものを改善した考案と解することはできず、したがってその作用効果が装着や上下位置移動に要する力の強弱によって限界付けられることはないと解するのが相当である。確かに、前記のとおり、本件第三明細書の効果欄には、強い力をかけて上下方向に位置調整する旨が記載されているが、召合せ部材を確実に保持するためには、わずかの力で召合せ部材が移動すると不都合であるのは自明であって、右記載は、それ以上の趣旨を述べるものとは解されない。
また、実際の製品において装着や上下位置調整に要する力をどのようなものとするかは、本件第三考案を実施して製品を製造する際の設計の仕方によって適宜変わってくるものであるから、甲51のようなある条件下でのモデル計算や、甲53のようなある実施例との比較によって、ホ号物件と本件第三考案との作用効果の同一性を論じることは正当とはいえない。
このように、召合せ部材をワンタッチ装着でき、取付後も上下位置調整ができ、なおかつ確実に保持できるという定性的な作用効果が奏される限り、装着や上下位置移動に要する力の強弱いかんにかかわらず、本件第三考案同一の作用効果を奏すると解するのが相当であり、原告の主張は採用できない。
5 均等要件Bについて ホ号物件の製造が開始された平成八年三月ころの時点において、召合せ部材取付用ヒンジについて、ホ号物件のように挟持壁を厚さ方向に設けて召合せ部材を外嵌保持する技術が実際に存在したことを認めるに足りる証拠はない。
しかし、ある物を外嵌保持する場合に、挟持壁を幅方向に設けるか厚さ方向に設けるかは、ヒンジの分野に限らず、相互に置換可能な常套手段であると考えられるから、本件第三明細書に接した当業者が、ホ号物件の構成を想到するのは、
特段の実験等を要するまでもなく容易であったと認めるのが相当である。
なお、4で述べたとおり、本件第三考案の実施品及びその計算モデルとホ号物件及びその計算モデルとの間には、召合せ部材の装着や上下位置調整に要する力に強弱の差があるが、前記のとおり、そのような力の強弱の差は、本件第三考案の作用効果の観点からは問題とすべきものではないから、このような力の強弱は、
均等要件Bを認める障害とはならない。
6 均等要件Cについて ホ号物件が、本件第三考案の実用新案登録出願時における公知技術と同一又は当業者がこれから右出願時にきわめて容易に推考できたとの事情を認めるに足りる証拠はない(この事情がないことは当事者間に争いがない。)。
7 均等要件Dについて (一) 甲35によれば、本件第三考案出願経過について、次の事実が認められる。
(1) 本件第三考案の出願当初の明細書における実用新案登録請求の範囲の記載は、次のとおりであった(甲35の5)。
「観音開き形式の左右一対の回動扉20、21と、両回動扉20、21の召合せ部間隙Sを閉塞する召合せ部材22とを備え、更に該召合せ部材22はヒンジ1によって一方の回動扉20に取付けられて、回動扉20、21の内面側で召合せ部間隙Sを閉塞する閉塞姿勢Aと、他方の回動扉21との衝突を回避すべく後方回動した回避姿勢Bとに回動自在とされると共に、該ヒンジ1に設けたバネ4により常時回避姿勢B方向に付勢され、一方の回動扉20の閉塞時に、召合せ部材22内面側と相対移動自在に当接して、召合せ部材22を閉塞姿勢Aとさせる受承面部27がケース本体25側に設けられたものにおいて、
前記ヒンジ1は一方の回動扉20の自由端に固定される固定部材2と、該固定部材2に立設された支持片7、7に支持される枢支部10及び該枢支部10から延設して召合せ部材22を幅方向に抱着挟持する取付部11とを一体に有する可動部材3と、該可動部材3を常時回避姿勢に付勢するバネ4とからなることを特徴とするケースの扉構造における召合せ部材取付け用ヒンジ」 (2) これに対しては、平成六年六月二九日付け拒絶理由通知書において、
本件第三考案は、引用例1(実開昭六一ー一三六〇八三号のマイクロフィルム)及び引用例2(実開昭六四ー三三八九四号のマイクロフィルム)からきわめて容易考案することができたものであるとされた(甲35の10)。
(3) これに対して被告奥田製作所は、平成六年九月一九日、実用新案登録請求の範囲の記載を別紙実用新案権目録3記載のとおりに補正する(甲35の12、13)とともに、同日付けで意見書(甲35の11)を提出した。
右意見書の中で、被告奥田製作所は、補正後の本件第三考案と各引用例との相違について、次のように述べた。
「引用例1は、隙間8を裏側から塞ぐ目地板7を、枢着手段9の目地板取り付け板13に木ねじ15により取り付けるようにしており、本願考案の一対の挟持壁12a、12bに相当するものは全く存在しない。また、引用例2は、一方の扉1aに取付けた取付板2に本願考案の召合せ部材22に相当する回動板4を枢軸3を介して連結した構成であり、この引用例2も本願考案の召合せ部材22を幅方向に抱着挟持する一対の挟持壁12a、12bに相当するものは全く開示していない。
従って、引用例1及び引用例2の場合、本願考案の如く召合せ部材22をヒンジ1に取付けた後に上下方向に位置調整することは不可能であり、召合せ部材を最適な位置に簡単かつ確実に取り付けることはできない。」 (二) 右認定事実によれば、被告奥田製作所は、出願当初の明細書においては、実用新案登録請求の範囲の記載を「該枢支部10から延設して召合せ部材22を幅方向に抱着挟持する取付部11」とのみしていたのを、拒絶理由通知を受けて構成要件Cのように補正したものであるといえる。しかし、右補正の内容からすると、右補正は、召合せ部材22を抱着挟持する構成をより明確にしたものにすぎず、公知技術を回避するためになされたものとは認められないし、また、意見書の内容を見ても、ホ号物件のように挟持壁を厚さ方向に設ける構成を特に意識的に除外したとも認められない。
他に均等要件Dの特段の事情を認めるに足りる証拠はない。
8 結論 以上によれば、ホ号物件は、本件第三考案の構成と均等であり、その技術的範囲に属する。
九 ホ号意匠は、本件登録意匠と類似するかについて(反訴争点1(四)(2)) 1 各意匠の構成について ホ号意匠の構成は、別紙ホ号物件目録添付図面のとおりであり、別紙「本件登録意匠の構成とホ号意匠の構成(裁判所の認定)」中、「ホ号意匠の構成」欄のとおりと認められる。
そして、前記五1で認定した本件登録意匠の構成とホ号意匠との間には、
同別紙記載のとおりの共通点と相違点がある。
2 本件登録意匠とホ号意匠の類否について (一) 本件登録意匠とホ号意匠の相違点は、固定部材、可動部材の取付部、
可動部材の枢支部の各形状である。
(二) このうちまず、固定部材の形状の相違については、先に反訴争点1(三)(3)について前記五で述べたところによればいずれもありふれた形状であるといえ、またその相違もわずかなものにとどまるから、この相違が全体の美感の相違をもたらすとはいえない。
(三) 次に、可動部材の枢支部の形状の相違については、同様に前記五で述べたところによればいずれもありふれた形状であるといえ、またいずれも目立たない部位であるから、この相違が全体の美感の相違をもたらすとはいえない。
(四) 次に、可動部材の取付部の形状の相違について検討するに、まず表側面の形状の相違はわずかなものにすぎず、これが全体の美感の相違をもたらすとはいえない。
次に裏側面の形状の相違について検討すると、確かに本件登録意匠の取付部は断面略C字状であるのに対し、ホ号意匠の取付部は断面U字状であり、これにより召合せ部材を装着する際の方法が異なっていることは原告が主張するとおりである。
しかし、いずれも正面視横長長方形状の可動部材が召合せ部材を包み込むように形成されている視覚的印象を与える点は共通しており、ホ号意匠において断面がU字状に形成されているのも、視覚的には本件登録意匠において召合せ部材を包み込むC型状の突片が延設されたとの印象を与えるにすぎず、召合せ部材の装着方法の差異を勘案しても、両意匠の視覚的印象が異なるとはいえない。このことは、乙32、33のように召合せ部材を全周的に包み込む断面O字状の取付部を有する意匠が、本件登録意匠の類似意匠として登録されていることからも裏付けられるところである。
これに対し原告は、ホ号意匠と同一の意匠も本件登録意匠とは別のものとして意匠登録された(甲74)と主張するが、同意匠は本件登録意匠の後願意匠(平成八年三月四日出願)であるから、右事実をもって本件登録意匠とホ号意匠が類似するとの判断を左右するに足りるものではない。
(5) 以上によれば、ホ号意匠は、全体として本件登録意匠と美感を同じくし、両者は類似すると認められる。
一〇 本件第一実用新案権には無効事由があるかについて(反訴争点2(一)) 本件第一実用新案権の侵害を主張されている物件は、「マジックヒンジ1」の商品名の物件(ロ号又は二号物件)であるところ、同物件が本件第一実用新案権の出願公告後も製造、販売されていたと認められないことは前記二で説示したとおりである。したがって、本件第一実用新案権に対する侵害の成否という観点からは、本争点について判断する必要はないが、本争点についての主張は後記の本件第二実用新案権の無効事由の主張に関連するので、ここで検討することにする。
(一) 甲33によれば、本件第一実用新案権の出願経過に関して、次の事実が認められる。
(1) 出願当初の明細書(甲33の5)における実用新案登録請求の範囲の記載は、次のようなものであった。
「観音開き形式の左右一対の回動扉4、5を備えると共に、両回動扉4、
5の召合せ部間隙Sを閉塞すべく、いずれか一方の回動扉4の召合せ部内側に召合せ部材12が設けられ、他方の回動扉5の召合せ部内側に召合せ部材12の突出端部が嵌合される切欠部11が形成されたケース1において、前記召合せ部材12が、切欠部11に嵌合された嵌合姿勢Aと、前記他方の回動扉5との衝突を回避すべく、前記一方の回動扉4の開回動方向P後方に、かつ回動角90度以内に回動された回避姿勢Bとに回動自在に前記回動扉4に設けられると共に、召合せ部材12を回避姿勢B方向に回動付勢する付勢バネ20が備えられ、該一方の回動扉4の閉回動で、召合せ部材12内面側と相対移動自在に当接し、回動扉4の閉姿勢で召合せ部材12を嵌合姿勢Aとさせる受承面部23がケース本体2側に設けられたことを特徴とするケースの扉構造。」 (2) また、右明細書では、実施例として、回動扉がケース本体の前面開口部を覆っているもの(第一実施例)と、回動扉がケース本体の前面開口部内に収まるもの(第二実施例)が記載されていた。
(3) 右は、昭和六三年三月九日付けの手続補正書(甲33の18、19)によって、別紙実用新案権目録1記載の実用新案登録請求の範囲の記載のとおりに補正された(以下「本件補正」という。)。
同時に、発明の詳細な説明の記載に、「なお、前記実施例では、回動扉4、5に、切欠部10、11を設けると共に、回動扉4に取付凹部13を形成し、この取付凹部13に蝶番14の固定翼15を嵌入すると共に、切欠部10、11に召合せ部材12を閉塞姿勢Aで嵌合させるようにしているが、これに代え、回動扉4、5に切欠部10、11及び取付凹部13を設けず、回動扉4の内面側等に蝶番14の固定翼15をビス等によってそのまま固定するようにしてもよい。」との記載(本件第一公報7欄11ないし19行目)が追加された。
(二) 以上からすれば、本件補正によって、回動扉5の構成として切欠部11を具備し、召合せ部材12の突出端部を切欠部11に嵌合させるようにしたことが必須の構成要件から削除され、その結果、回動扉5の切欠部11を具備しない構成も含まれることになったものと認められる。そして原告は、この点をとらえて要旨変更であると主張する。
ところで、出願当初の明細書の記載(甲33の5)を通覧すると、回動扉5に設けられた切欠部11は、回動扉4、5を閉塞状態とした場合に召合せ部材12の突出端部が収納・嵌合される空間として設けられ、これにより、右閉塞状態下において、召合せ部材が回動扉よりも内側に突出することを回避する機能を有していると認められる。そして、第一実施例においては、ケース本体2の前面開口部3上下の中央部前面が受承面部23とされるために、回動扉5の内側に切欠部11を設けなければ、回動扉を閉塞したときに受承面部23と回動扉5との間に召合せ部材12が挟まって、回動扉5とケース本体とが密着しなくなることから、切欠部11を設けることが必須の構成であると認められる。しかし、第二実施例においては、回動扉4、5がケース本体の前面開口部内に収まる構成であって、受承面部23をケース本体内部に設ける構成であるから、回動扉5に切欠部11を設けなくとも、受承面部23の位置を適宜調整することによって、回動扉を閉塞したときに回動扉5とケース本体2とを密着させ得ることは、当業者であれば容易に理解し得ることであり、現に、ケース扉の間隙を召合せ部材によって閉塞する場合において、受承面部23をケース本体の内側に設ける場合には、扉の内側に切欠部を設けず、回動扉の内面側に蝶番の固定翼をビス等によってそのまま固定することは、乙37添付資料(公開実用新案公報昭和五八ー一六五一八六号、米国特許第三六五三一五五号明細書)によって周知の技術であったと認められる。
したがって、本件補正に係る事項は、出願当初の明細書において開示されていたと同視することができるものであるから、原告の要旨変更の主張は理由がなく、それに基づいて本件第一考案の出願前公知による無効事由を主張する点も理由がない。
一一 本件第二実用新案権には無効事由(出願日不遡及による出願前公知)があるかについて(反訴争点2(二)(1)) 1 甲34の3によれば、本件第二考案は、昭和六三年三月九日、本件第一考案に係る実用新案登録出願から分割して出願されたものと認められる。
ところで、実用新案法11条1項(平成五年法律第二六号による改正前の9条1項)が準用する特許法44条1項は、「特許出願人は、…二以上の発明を包含する特許出願の一部を一又は二以上の新たな特許出願とすることができる。」と規定しているところ、その趣旨は、分割された出願に係る発明につき、原出願の願書に添付した当初の明細書の、右発明の要旨とする技術的事項のすべてが、その発明の属する技術的分野における通常の技術的知識を有する者においてこれを正確に理解し、かつ、容易に実施することができる程度に記載されている場合には、適法な分割出願と認めるというにあると解されるが、分割出願に係る最終的な補正後の明細書の特許請求の範囲に記載された発明が原出願の最終的な補正後の明細書の特許請求の範囲に記載された発明と実質的に同一の場合には、いわゆる二重特許を許さない法の趣旨からして、このような分割出願は不適法というべきである。
2 原告は、本件第二考案は本件第一考案から分割出願されたものであるとこころ、本件第一考案の出願当初の明細書では回動扉5に切欠部11が設けられることしか開示されていなかったのに、本件第二考案明細書では回動扉5に切欠部11を設けなくてもよいこととされたことが、分割出願の要件(原出願の当初の明細書に記載されていない事項を含まないこと)を欠くと主張するが、この主張が採用できないことは反訴争点2(一)に関して前記一〇で述べたところと同様である。
3 次に原告は、本件第二考案は、本件第一考案と同一であるから、分割出願の要件を欠くと主張する。
(一) そこでまず、両考案の実用新案登録請求の範囲の記載を対比すると、
次の点において異なり、その余は同一であることが認められる。
(1) 構成要件Aについて、本件第一考案では、回避姿勢Bが「九〇度以内の範囲で」後方回動したものであるとされているが、本件第二考案ではそのような角度的限定が付されていない。
(2) 構成要件Bについて、本件第一考案では、「固定翼15」「可動翼17」とされているが、本件第二考案では、「固定部材15」「可動部材17」とされている。
(3) 構成要件Bについて、本件第一考案では、固定翼15に「該支持部25、26を回動扉4の枢支側で上下に連結する連結壁27とが一体に設けられ」ているのに対し、本件第二考案ではこのような連結壁27が設けられていない。
(4) 構成要件Bについて、本件第一考案では、支持部25、26間に上下方向の枢支軸18の上下両端部が「嵌合保持」されているのに対し、本件第二考案では、
「支持」されている。
(5) 構成要件Cについて、本件第一考案では、枢支部30は、取付部29から固定翼15の支持部25、26間に「内嵌するように」突出したとされているのに対し、
本件第二考案ではそのような記載はない。
(6) 構成要件Cについて、本件第一考案では、取付部29と枢支部30とは可動翼(可動部材)17に「一体に」設けられているのに対し、本件第二考案ではそのような記載はない。
(7) 構成要件Dについて、本件第一考案では、「枢支部30の内面側に、前記召合せ部材12の回動を前記回避姿勢Bで規制するように連結壁27に面接当する規制傾斜面22が設けられている」のに対し、本件第二考案ではそのような要件はない。
(二) 右のうち、相違点(1)については、本件第二考案においても、回避姿勢Bが九〇度以内の範囲で後方回動したものであることを要すると解すべきことは、
前記反訴争点1(一)に関して述べたところであるから、この点を実質的差異とはいえない。
また、相違点(2)(4)(5)(6)については、この相違により格別の技術的意義の差が生じるわけではないから、これらの点を実質的差異とはいえない。
(三) そこで次に、相違点(3)及び(7)について検討する。
これらの相違点によれば、本件第一考案では、固定翼15には連結壁27が、可動翼17には規制傾斜面22がそれぞれ設けられることが必須の構成要件とされているが、本件第二考案ではこのような構成は必須でないことになる。
ところで、本件第一明細書には、右連結壁27及び規制傾斜面22の技術的意義について、次のような記載があることが認められる。「固定翼15に、上下一対の支持部25、26を回動扉4基端側で上下に連結する連結壁27が一体に設けられ、可動翼17の枢支部30の内面側に、前記召合せ部材12の回動を前記回避姿勢Bで規制するよう連結壁27に面接当する規制傾斜面22が設けられているので、連結壁27と枢支部30の規制傾斜面22との極力広い面接当によって召合せ部材12の回動を規制でき、
比較的強い付勢力をもったコイルバネ20を使用しても、召合せ部材12を回避姿勢Bで確実に止めることができるし、また連結壁27に枢支部30が頻繁に強い力で接当しても、連結壁27は上下の支持部25、26に連結された状態になっているので、連結壁27が変形したり、破損したりすることもなく、長期に亘って召合せ部材12のスムーズな回動が得られ、その実用的効果は著大である。」(本件第一公報8欄28ないし44行目)。これからすれば、本件第一考案における連結壁27及び規制傾斜面22の技術的意義は、召合せ部材12を九〇度以内の範囲で後方回動した回避姿勢Bで規制するために考えられる種々の構成の中で、特に強固で、比較的強い付勢力をもったコイルバネ20を使用して頻繁に回動規制をさせても変形や破損等のない具体的構成を考案の構成要件とした点にあると解される。
これに対し、本件第二考案では、召合せ部材12を九〇度以内の範囲で後方回動した回避姿勢Bで規制するための回動規制手段を具備することが必要ではあるが、その構成は適宜のもので足り、本件第一考案の連結壁27及び規制傾斜面22のような構成と作用効果を有するものに限られないと解すべきことは前記のとおりである。
右によれば、本件第二考案は、召合せ部材12の後方回動を規制する手段として、連結壁27及び規制傾斜面22に限定されない点に別個の技術的意義を見出すことができるから、本件第二考案は本件第一考案と実質的に同一であるとはいえない。
(四) もっとも、右のように解する場合には、本件第一考案と本件第二考案とは、召合せ部材12の後方回動を規制する手段として連結壁27及び規制傾斜面22を設ける限度において、その技術的範囲が重複することになる。しかし、考案の同一性は、技術思想としての同一性の観点から判断すべきものであり、ある考案の実施態様の一部が他の考案と重複するからといって、直ちに両考案を同一の考案であると解するのは相当でない。
なお、本件の場合には、本件第一実用新案権の存続期間は平成一〇年七月二九日で終了するのに対し、本件第二実用新案権の存続期間は平成一一年四月七日まで存するから、右重複部分については、本件第一考案の存続期間が経過した後も本件第二考案の効力が及ぶことになり、重複特許を禁止する法の趣旨にもとることになることは原告の主張するとおりである。しかし、右の点は、本件実用新案権に固有の特殊事情に基づくものであるから、本件第一実用新案権の存続期間終了後の同考案の実施行為に対する本件第二実用新案権の権利行使に何らかの制約が及ぶ等の別途の考慮によって解決すべきものであり(なお本件ではこのような権利行使はなされていない。)、右の点を理由に両考案が同一であるとすることはできない。
4 以上によれば、本件第二考案分割出願の不適法をいう原告の主張は理由がない。
一二 本件第二実用新案権には無効事由(進歩性欠如)があるかについて(反訴争点2(二)(2)) 原告は、甲73添付の資料から、本件第二考案は当業者がきわめて容易に推考できたものであると主張する。
そこで検討するに、甲73中添付の甲第一号証(実公昭六二ー二七六七二号公報)には、本件第二明細書で従来技術として示されている従来の召合せ部材取付用蝶番の構成が開示されているが、本件第二考案における構成要件Dの構成については、開示も示唆もない。また、同甲第二号証(実公昭五七ー一七四六七七号公報)には、一般のスプリングヒンジにおいて、ヒンジ片体1、1'の端部に設けた孔部に軸2を挿通すると共に、この軸2には、一端部3'、3"をヒンジ片体1、1'に掛止してコイルスプリング3を配設し、コイルスプリング3の力によってヒンジ片体を回動付勢した構成のもので、軸2に巻回されたコイルスプリングが露出するようにヒンジ片体1'の孔部間に空間が設けられている構成が開示されているが、これを前記甲73添付甲第一号証の召合せ部材取付用ヒンジに適用する点については開示も示唆もなく、甲73添付の甲第三号証(実開昭五六ー三四九六六号公報)及び甲第四号証(実開昭五六ー三八一三一号公報)にこの点の開示又は示唆があるともいえない。
したがって、本件第二考案が明らかに進歩性を欠如するとはいえない。
なお、、原告の右主張は、反訴事件の提訴から四年以上を経過した後の平成一一年五月七日付け原告準備書面で初めて提出されるに至ったものであって、著しく時機に後れたものといわなければならないことを付言しておく。
一三 本件第三実用新案権及び本件意匠権には無効事由(出願前公知)又は原告の先使用権があるかについて(反訴争点2(三)(四)) 原告は、本件第三考案の出願前の平成元年一月二七日にはハ号物件の設計図面が作成され、金型等を製造し、同年三月上旬ころにはハ号物件の製造、販売、広告等を開始したと主張する。
しかし、右事実を裏付ける客観的証拠はない。甲24(ハ号物件の設計図)には「H1.1.27」との記載があるが、右は原告の内部資料にとどまり、これをもって直ちに原告主張に係る事実を認めることはできないし、甲25(原告カタログ)にはハ号物件が掲載されているが、このカタログが平成元年三月ころに配布されたことを認めるに足りる証拠はない。
したがって、本件第三実用新案権及び本件意匠権の出願前公知又は原告の先使用をいう原告の主張は採用できない。
一四 カタログ廃棄請求等の可否について(反訴争点3) 以上によれば、反訴請求のうち、ホ号物件について、本件第三実用新案権及び本件意匠権に基づき、その製造、販売等の差止め等及び廃棄を求める部分(反訴請求の趣旨第一項及び第二項)は理由があり、また、ホ号物件が掲載されているカタログの当該記載部分の配布停止請求(反訴請求の趣旨第三項)も、実用新案法27条2項、意匠法37条2項により、理由がある。
しかし、ホ号物件を掲載したカタログの当該掲載部分の回収及び廃棄請求(反訴請求の趣旨第四項)については、既に配布済みのカタログの所有権は配布先が有していると考えられることからすると、これを認めるのは相当ではないから、
右請求については理由がない。
一五 不法行為に基づく損害賠償請求について(反訴争点4) 1 まず、原告の消滅時効の抗弁について検討する。
(一) 本件反訴において、損害賠償請求に関する被告奥田製作所の主張がなされた経緯が次のとおりであることは、本件記録上明らかである。
(1) 反訴状での主張 ア 反訴状は、平成七年四月二七日に裁判所に提出された。
イ 反訴状における請求の趣旨 「原告は、被告奥田製作所に対し、金一〇〇〇万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」 ウ 反訴状における請求原因 「原告は、少なくとも昭和六三年七月ころからロ号物件の製造販売を開始し、平成元年四月ころからイ号物件及びハ号物件の製造販売を開始しており、
現在まで、少なくとも金一億九〇九五万円の売上を得、原告の得た利益は、金五六二二万円であり、被告奥田製作所は、その額の損害を被った。被告奥田製作所は、
右の損害(金五六二二万円)うち、とりあえず、内金一〇〇〇万円の請求をする。」 (2) 被告奥田製作所平成一〇年七月一五日付け準備書面 ア 右準備書面は、平成一〇年七月一五日に裁判所に提出された。
イ 右準備書面における請求の趣旨 「原告は、被告奥田製作所に対し、金一億三五八〇万円及びこれに対する反訴状送達の日の翌日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。」 ウ 右準備書面における請求拡張の主張 「原告の本件各物件の製造販売行為が実用新案法28条による侵害とみなされる、ないしは、原告の本件各物件が被告奥田製作所の有する意匠権を侵害することに基づくものである。
…(原告は)平成六年一〇月までは、一月約一〇万個の売上があり、同年の一一月以後は、一月約五万個の売上があるとのことであり、その利益金は、一個につき、一四円ということであるから、
被告奥田製作所が被った損害の損害額は、
@ 一四円×一〇万個×七五カ月〔第一考案の公告日(昭和六三年七月二九日)から平成六年一〇月まで〕=一〇五、〇〇〇、〇〇〇円 A 一四円×五万個×四四カ月〔平成六年一一月から平成一〇年六月まで〕=三〇、八〇〇、〇〇〇円 B @+A=一三五、八〇〇、〇〇〇円」 (3) なお、被告奥田製作所の反訴請求に係る損害賠償請求の内容は、同被告平成一二年一月二五日付け準備書面において、昭和六三年七月二九日から平成一一年六月末日までの原告のイ号物件、ロ号又は二号物件、ハ号物件及びホ号物件の製造、販売行為による損害の賠償を請求するものに拡張された。
(二) 平成四年四月二六日以前の原告のイ号物件等の製造、販売による損害賠償請求権の時効消滅について 本件における原告のイ号物件等の製造、販売行為は、各行為が個別に被告奥田製作所の実用新案権等を侵害する不法行為を構成するから、右不法行為に対する損害賠償請求権の消滅時効も、各侵害行為について被告奥田製作所が損害及び加害者を知ったときから進行すると解される(民法724条前段)。そして、同条にいう「損害…を知りたる」といえるためには、被害者が必ずしも損害の全範囲又は損害額の全部を知ることは必要でなく、被害者が不法行為の存在とそれに基づく損害の発生を知った以上、加害者に対して損害賠償を請求することが事実上可能となるといえるから、右の時点から消滅時効の進行が開始するものと解するのが相当である。
これを本件について見ると、@甲6によれば、被告奥田製作所は、昭和六一年九月一〇日差出しの内容証明郵便にて、原告に対し、原告の販売に係る「マジックヒンジ」が、本件第一考案技術的範囲に属する旨の警告をしたことが認められ、A甲7によれば、被告奥田製作所は、平成元年三月二七日付けの書面にて、
取引関係者に対し、最近、本件第一実用新案権に抵触する製品が多数出現している旨を通知したことが認められ、B乙16及び17によれば、被告奥田製作所は昭和六〇年ないし六三年ころには、原告の製品カタログを入手していたことが認められ、C甲5によれば、被告奥田製作所は、平成六年一一月ころ、ホームリビング紙に対し、被告奥田製作所の開き戸装置用蝶番に類似する商品が同社の実用新案権を侵害し不正競争防止法にも違反するので法的処置を考えている旨語っていたことが認められ、これにD前記反訴状において各原告製品の販売開始時期をかなり特定して記載していることを併せ考えると、被告奥田製作所は、他社の製品動向に注意を払っており、したがって原告のイ号物件等の製造、販売についても、各行為がなされた当時から認識していたと推認するのが相当であり、そうである以上、それによって自らに損害が発生していることを認識していたものというべきである。
したがって、反訴提起日から三年を遡った平成四年四月二六日以前の原告のイ号物件等の製造、販売による損害賠償請求権については、反訴提起時点において消滅時効が完成していたと認められる。
この点について被告奥田製作所は、本件のような場合には、相手方の生産、販売状況を訴訟提起の時点で正確に把握できないから、訴訟の過程で相手方から開示を受ける等してそれを知ったときから時効の進行が開始すると解すべき旨主張するが、不法行為の時効が進行するには必ずしも損害の全範囲又は損害額の全部を知ることは必要でなく、被害者が不法行為の存在とそれに基づく損害の発生を知ったことで足りることは前記のとおりであるし、損害賠償の対象はあくまで権利者側の逸失利益であって、侵害者の生産、販売の状況は権利者側の立証を容易にするための推定規定を利用する上で必要となる事実にすぎないから、提訴時において権利者に対し、権利者なりに認識した損害額の請求を求めることは特段不合理とはいえない。
(三) 平成四年四月二七日から平成七年四月二六日までの原告のイ号物件等の製造、販売による損害賠償請求権の消滅時効について 前記反訴状の記載からすれば、被告奥田製作所は、反訴提起時においては、反訴提起日までに原告のイ号物件等の製造、販売によって被った損害の総額を五六二二万円であると主張し、そのうち一〇〇〇万円について原告に対して賠償請求を行ったものである。
ところで、一個の債権の一部についてのみ判決を求める旨を明らかにして訴えを提起した場合、訴え提起による消滅時効中断の効力は、その一部の範囲においてのみ生じ、その後時効完成前に残部につき請求を拡張すれば、残部についての時効は、拡張の書面を裁判所に提出したとき中断するものと解すべきであるが、
右趣旨が明示されていないときは、請求額を訴訟物たる債権の全部として訴求したものと解すべく、この場合には、訴えの提起により右債権の同一性の範囲内において、その全部につき時効中断の効力を生じるものと解するのが相当である(最高裁昭和三四年二月二〇日判決・民集一三巻二号二〇九頁、同昭和四五年七月二四日判決・民集二四巻七号一一七七頁参照)。そして、この理は、本件のように、加害者の一定期間の継続的な行為によって被害者に累積的に発生した損害総額のうちの数量的一部についてのみ判決を求める旨を明示して訴えを提起した場合にも同様に妥当するものと解するのが相当である。
したがって、前記反訴状の記載からすれば、反訴提起日から遡ること三年以内の平成四年四月二七日から反訴状による請求の対象とされた平成七年四月二六日までの原告のイ号物件等の製造、販売による損害賠償請求権は、一〇〇〇万円の限度でのみ消滅時効が中断したと認められる。
他方、右一〇〇〇万円を超える部分については、反訴提起後も消滅時効の進行を続けるが、平成一〇年四月二六日までに右部分について請求が拡張された事実はないから、同日の経過により、全部について消滅時効が完成したと認められる。
(四) 平成七年四月二七日から同年七月一四日までの原告のイ号物件等の製造、販売による損害賠償請求権の消滅時効について この期間中の原告の行為により被告奥田製作所に生じた損害については、平成一〇年七月一四日までに反訴請求の対象とされることはなかったから、右同日の経過により、消滅時効が完成したものと認められる。
(五) 平成七年七月一五日以降の原告のイ号物件等の製造、販売による損害賠償請求権の消滅時効について 前記のとおり、本件反訴請求は、平成一〇年七月一五日提出の被告奥田製作所同日付け準備書面により請求が拡張され、昭和六三年七月二九日から平成一〇年六月末日までに原告の行為によって同被告に生じた損害額の全額を請求の対象とすることとされ、さらに同被告平成一二年一月二五日付け準備書面において、平成一一年六月末日までの原告の行為による損害の賠償を請求するものに拡張されたから、これらにより、平成七年七月一〇日以降の原告のイ号物件等の製造、販売による損害賠償請求権の消滅時効は中断されたと認められる。
(六) 以上によれば、本件反訴請求における不法行為に基づく損害賠償請求のうち、@平成四年四月二六日以前の原告の行為による損害、A平成四年四月二七日から平成七年四月二六日までの原告の行為による損害のうち一〇〇〇万円を超える分、B平成七年四月二七日から同年七月一四日までの原告の行為による損害の各賠償を請求する部分については、消滅時効の完成とその援用によって消滅したと認められるから、理由がない。なお、これら消滅時効に係る期間の売上分については、後に反訴争点5の不当利得返還請求の検討対象となる。
2 そこで、次に、不法行為に基づいて被告奥田製作所が請求し得る損害額について検討する。
(一) 平成四年四月二七日から平成七年四月二六日までの原告の利益額について (1) 売上高について この期間中、原告は、@イ号物件を製造、販売することによって、本件第二実用新案権を侵害するとともに、Bハ号物件を製造、販売することによって、本件第二実用新案権及び本件意匠権(ただし平成六年四月二二日以後)を侵害したものである。そして、この期間中の原告によるイ号物件及びハ号物件の売上数及び売上額は別紙集計表のとおりであることに争いがない。
そこで、別紙集計表に基づいて、本期間中の原告によるイ号物件及びハ号物件の各売上数及び売上高を算定(平成四年四月及び平成七年四月は日割計算)すると、合計二九六万〇二一二個、六八四八万七〇四〇円となる(別紙損害額等計算表@)。
(2) 単位費用額について 甲47(原告代表者の陳述書)によれば、イ号物件等の製造、販売に要する費用は、一個当たり一三・九〇八円であると認められる。
原告は、右費用額には販売費及び一般管理費が含まれていないから、
右金額をそのまま原告の受けた利益を算定する基礎とするのは相当でないと主張する。しかし、本件記録によれば、甲47は本訴請求における原告の逸失利益の額を算定するための証拠として原告が自ら提出したものであって、しかも原告は、右記載に基づいて本訴請求における原告の損害額を主張したものであること、にもかかわらず、原告は、被告奥田製作所がそれを援用し、それに基づいて損害額を主張するやにわかにこれを否認し、従前の主張を撤回するに至ったことが明らかであるところ、右のような訴訟態度は、訴訟上の信義則(民事訴訟法2条)に反するものであり、到底是認することができない。そして、本件においては、本訴請求における原告の損害額を算定する局面と、反訴請求における被告奥田製作所の損害額を算定する局面とで、イ号物件等の製造、販売に要する費用の額が異なるべきであるとする合理的事情は何ら窺われない。したがって、原告の右主張は採用できない。
(3) 損害額について 以上によれば、本期間中のイ号物件等の製造、販売によって原告が受けた利益の額は、二七三一万六四一二円(68,487,040-[2,960,212×13.908])であると認められ、この額が被告奥田製作所の受けた損害の額と推定されるところ、
被告奥田製作所は、このうち一〇〇〇万円を不法行為に基づいて損害賠償請求をなし得る。
(二) 平成七年七月一五日から平成一一年六月末日までの原告の利益額について (1) 売上高について この期間において、原告は、@イ号物件を製造、販売することによって、本件第二実用新案権(平成一一年四月七日に存続期間終了)を侵害するとともに、A平成八年三月一八日までハ号物件を製造、販売することによって、本件第二実用新案権(平成一一年四月七日に存続期間終了)、本件第三実用新案権(平成七年七月三一日から。仮保護の権利を含む。)及び本件意匠権を侵害し、Bホ号物件を製造、販売することによって、本件第三実用新案権(前同)及び本件意匠権を侵害したものである。
そして、本期間中の原告によるイ号物件、ハ号物件及びホ号物件の売上数及び売上額は別紙集計表のとおりであることに争いがない。
そこで、別紙集計表に基づいて、本期間中の原告によるイ号物件、ハ号物件及びホ号物件の各売上数及び売上高を算定(平成四年四月及び平成七年四月は日割計算)すると、合計二二九万四六〇一個、五四七五万五二五三円となる(別紙損害額等計算表A)。
(2) 単位費用額について 先と同様に、甲47によれば、原告製品の製造、販売に要する費用は、
一個当たり一三・九〇八円であると認められる。
(3) 損害額について 以上によれば、本期間中のイ号物件、ハ号物件及びホ号物件の製造、
販売によって原告が受けた利益の額は、二二八四万一九四二円(54,755,253-[2,294,661×13.908])であると認められ、この額が被告奥田製作所が被った損害の額と推定される。
一六 不当利得返還請求について(反訴争点5) 1 まず被告奥田製作所は、民法704条に基づいて、原告がイ号物件等の製造、販売によって得た利益の額を不当利得に基づく返還請求額として主張している。
しかし、同条の「悪意の受益者」とは、法律上の原因のないことを知りながら利得した者をいうと解すべきところ(最高裁昭和三七年六月一九日判決・裁判集民事一一巻二五一頁参照)、本件でのイ号物件等は、いずれも本件考案や本件登録意匠の各公報に記載された実施例又は図面と全く同一のものとはいえないから、
不法行為に基づく損害賠償請求権が消滅時効に係る前記期間において、原告が右各権利を侵害することを知っていたとまでは認められない。
2 また、被告奥田製作所は、原告がイ号物件等を販売するに当たっては、専ら本件考案及び本件意匠権が寄与しているから、原告がイ号物件等の製造、販売により得た利益がそのまま被告奥田製作所の損失額となると主張するが、いわゆる開き戸装置用の蝶番は、原告及び被告奥田製作所以外の数社からも製造、販売されていたことは、甲4から明らかであるから、原告がイ号物件等の製造、販売によって得た利益の額を、そのまま被告奥田製作所の損失額と認めることはできない。
3 したがって、被告奥田製作所が原告に対して不当利得として請求し得るのは、実施料相当額にとどまるというべきところ、本件訴訟に現われた諸事情を総合考慮すると、イ号物件等の売上に五%を乗じた金額と認めるのが相当である。
もっとも、当事者が実施契約において実施料を取り決めるに当たっては、
値引き販売した場合の売上額ではなく、定価販売したときのものを前提とするのが通常であると考えられるから、右実施料相当額は、定価を基準として算出するのが相当である。
4 そこで、具体的な金額について検討する。
(一) 平成四年四月二六日以前の売上分について (1) イ号物件について イ号物件の製造、販売による不当利得返還の対象となるのは、本件第二実用新案権の出願公告の日である平成元年四月七日以降の売上に係る分であるところ、イ号物件が昭和六二年一二月から製造、販売が開始されたことは当事者間に争いがない。しかし、イ号物件の具体的な売上数及び売上額が判明しているのは、
平成三年四月以降の売上分のみである(別紙集計表)。
そこでまず、別紙集計表に基づき、平成三年四月から平成四年四月二六日までのイ号物件の売上数を算定(平成四年四月分は日割計算)すると、五八万一一五九個となる(別紙損害額等計算表B)。
次に、平成元年四月七日から平成三年三月までの売上数については、
具体的にこれを裏付ける資料がないが、平成三年四月から平成四年三月の一年間の売上数が上下しながらも一定範囲で安定していることからすると、平成元年四月七日から平成三年三月までにおいても、平成三年四月から平成四年三月までと同様の売上がなされたものと推認するのが相当である。そして、別紙損害額等計算表Bによれば、平成三年四月から平成四年三月までの平均売上数は一か月当たり四万四八〇三個であるから、平成元年四月七日から平成三年三月までの売上数は、合計一〇六万六三一一個(44,803×[24/30 + 23])であると推認される。
そして、甲32によれば、イ号物件の定価は一個五〇円であると認められるから、本期間中のイ号物件の売上に対する実施料相当額は、四一一万八六七五円([581,159+1,066,311]×50×0.05)であると認められる。
(2) ハ号物件について 原告がハ号物件の製造、販売を開始した時期については、反訴争点2(三)(四)に関係して争いがあり、原告が本件第三考案の出願(平成元年四月七日)より前に製造、販売を開始していたと認めるに足りないことは前記のとおりである。
他方、被告奥田製作所は、原告の右主張を前提に、本件第二考案の出願公告日(同じく平成元年四月七日)より前からハ号物件が販売されていたとの前提で同日以降の実施料相当額を請求する旨の主張をするが、この主張は争点2(三)(四)についての同被告の主張と矛盾しており、採用できない。
そして他に、ハ号物件の製造、販売開始時を正確に認定し得る証拠はない。
そうすると、ハ号物件の製造、販売によって被告奥田製作所が返還請求し得る不当利得額は、当事者間に争いがない別紙集計表記載の範囲で、平成三年一一月以降の分にとどまると認めるのが相当である。
しかるところ、別紙集計表によれば、平成三年一一月から平成四年四月二六日までのハ号物件の売上数を算定(平成四年四月分は日割計算)すると、九万五三四三個となる(別紙損害額等計算表C)。
そして、弁論の全趣旨及び甲32によれば、ハ号物件の定価はホ号物件と同じく一個七五円であると認められるから、右期間中のハ号物件の売上に対する実施料相当額は、三五万七五三六円(95,343×75×0.05)であると認められる。
(二) 平成四年四月二七日から平成七年四月二六日までの売上分について (1) この期間の売上分について、被告奥田製作所は、不法行為による損害賠償請求額である一〇〇〇万円を、平成六年一月一日から平成七年四月二六日までのイ号物件等の製造、販売行為に対する損害額として割り付けた上で、平成五年一二月三一日以前のイ号物件等の製造、販売行為に対する実施料相当額を不当利得に基づいて請求している。
しかしながら、被告奥田製作所は、反訴状において、本期間中に生じた全損害額のうち、特に時期を特定せずに、単に数量的に内金一〇〇〇万円の請求をしたものであるから、その額を特定の期間に発生した損害に割り付けることはできず、本期間全体にわたって等しく割り付けて考えるのが相当である。
ところで、本件のような実用新案権侵害行為や意匠権侵害行為がなされた場合には、権利者の侵害者に対する不法行為に基づく損害賠償請求権と不当利得に基づく利得返還請求権とが双方とも発生し、両者はいわゆる請求権競合の関係に立つと解されるところ、その場合において、損害の賠償がなされたならば、同時にその限度において利得の返還もなされたことに帰し、不法行為に基づく損害賠償請求権が弁済により消滅すれば、その限度において不当利得に基づく利得返還請求権も消滅するものと解される。そして、本件の反訴請求においては、被告奥田製作所は、不法行為に基づく損害賠償請求を主位的請求とし、それが時効消滅によって認められない限度で不当利得に基づく利得返還請求を予備的に請求しているから、
右予備的請求は、本期間中の売上による利得返還額から、不法行為に基づく損害賠償として認容し得る一〇〇〇万円を控除した額に限って認めることができるものと解される。
(2) 別紙集計表に基づいて、本期間中に販売されたイ号物件及びハ号物件の数を算定(平成四年七月及び平成七年七月は日割計算)すると、イ号物件は一九一万五二〇〇個、ハ号物件は一〇四万五〇一二個となる(別紙損害額等計算表@)。そして、イ号物件の定価が五〇円、ハ号物件の定価が七五円であることは前記のとおりであるから、本期間中のイ号物件等の製造、販売に対して請求し得る実施料相当額は、八七〇万六七九五円(1,915,200×50×0.05+1,045,012×75×0.05)である。そして、これは、先に不法行為に基づく損害賠償請求として認容し得るとした一〇〇〇万円を下回るから、本期間について予備的請求として認容し得るものはないことになる。
(三) 平成七年四月二七日から同年七月一四日までの分について 別紙集計表に基づいて算定(平成七年四月及び七月は日割計算)すれば、本期間中に原告は、イ号物件を五万七六二九個、ハ号物件を五万八八四八個販売したことが認められる(別紙損害額等計算表D)。そして、イ号物件の定価が五〇円、ハ号物件の定価が七五円であることは前記のとおりであるから、本期間中のイ号物件等の製造、販売に対して請求し得る実施料相当額は、三六万四七五三円(57,629×50×0.05+58,848×75×0.05)である。
一七 本訴請求について(本訴争点1ないし3) 1 後掲各証拠、原告代表者、被告カワノ・同エイム代表者及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 訴外鈴木家具は、「家具に使用する開き戸装置」の実用新案権(登録番号第一九三一六一一号、登録日平成四年一〇月一四日)を有していたが(甲1、
3)、平成五年五月、全国百数十社の家具メーカーに対して、開き戸装置用蝶番(以下「オートヒンジ」ということがある。)付きの箱物家具を製造販売することは、右実用新案権を侵害するとして、過去分及び将来分の実施料の支払を求める文書を送付した(甲48、乙39)。
当時、オートヒンジを販売する金具メーカーは全国で四ないし五社あったところ、右文書の中で、鈴木家具は、右実用新案権の侵害行為を構成するオートヒンジの例として、ムラコシ/ホリエ金物製、被告奥田製作所製及び大安金属製のものを掲記していたが、原告製のマジックヒンジを使った家具メーカーである松田工業に対しても、平成六年二月ころに約五〇〇〇万円の損害賠償請求訴訟を提起していた(乙49)。
(二) 鈴木家具からの右申入れは、棚物業界に大きな波紋を呼び起こし、業界新聞である「ホームリビング」において大きく採り上げられる(乙46ないし48)とともに、関係企業から構成される社団法人全国家具工業連合会にオートヒンジ対策委員会が設けられ、ヒンジメーカーや弁理士からの説明を受ける等して対策を協議するという動きもあった(乙39)。
(三) これらの動きに対し、原告は、マジックヒンジと召し合わせキャップの組合せによって鈴木家具の実用新案権侵害問題をクリアする新製品を開発し、実用新案登録申請をした旨のチラシを作成、配布するとともに(乙41、42)、家具メーカーに対し、原告のマジックヒンジと召し合わせキャップを使用すれば鈴木家具の実用新案権を侵害しないことを保証し、万一鈴木家具から実施料支払等の請求があった場合には原告が責任をもって対処する旨の文書(トーク工業に対するものとして乙40)を差し入れるという対応をとった。
また、大安金属株式会社も、同社のPヒンジは鈴木工業の実用新案権を侵害するものではないとの通知を、見解書とともに家具メーカーに送付するといった対応をとった(乙43)。
(四) これに対し被告奥田製作所側では、平成五年五月一五日、同社製品の代理店である被告エイムから、同社製オートヒンジ取扱代理店宛に同社の対処方針を記した文書(甲9)を送付した。右文書では、被告奥田製作所では自社製オートヒンジに独自の実用新案権を取得しているので、裁判になっても鈴木家具の主張に反論できる旨を述べるとともに、「現在、鈴木家具工業の権利と奥田製作所の権利はどちらも国が認めた実用新案権でありますので並立している権利です。どちらの方法を使って左右どちらからでも開く構造にすることは個々のメーカーの判断でありますが、どちらの商品に市場性があるのかは明らかであります。また、仮に鈴木家具工業の権利で、他社のヒンジ等を使用した場合は、オードヒンヂはその構造体を召し合わせに取り付けて両開きする新案であり、鈴木家具工業は合わせに取り付けて両開きする権利ではなく奥田製作所の権利に抵触することになります。したがって現在言えることは鈴木家具工業の権利を例の長蝶番スタイルのまま使用するか、奥田製作所の権利をオートヒンジを買うことで実用新案実施権も購入するかしか方法がありません。」と記されていた。
また、被告奥田製作所は、平成五年四月に特許庁に鈴木家具の実用新案権の無効審判を請求したが、さらに平成五年九月、鈴木家具を被告とする差止請求権不存在確認訴訟を大阪地方裁判所に提起した。そして大阪地方裁判所は、平成六年一〇月二七日、被告奥田製作所の製造、販売するオートヒンジ・オートマグネットセットは鈴木家具の前記実用新案権の考案技術的範囲に属さないとして、請求を認容する判決をし(甲3)、この判決に対しては鈴木家具からの控訴がなく、確定した。
この判決は、業界新聞の「ホームリビング」平成六年一一月一〇日号(甲4)において大きく取り上げられ、そこでの解説記事では、「今回の大阪地裁の判決はこうした流れの中で下されたもので、当然ながら、その効力はあくまで奥田製作所の金具機能及びそれを利用している家具メーカーとその製品に限定されている。今回の判決に対して、他の金具メーカー、さらにはそれらを使用している多数の家具メーカーがどのような対応に出るか、注目されるところだ。」とも述べられていた。
また、同新聞同年一一月三〇日号(甲5)の記事では、「奥田製作所サイドでは、今回の全面勝訴の確定について『正式に裁判上の決着がついたことで、
当社の製品を使っていただいている家具メーカーの皆さんについては今後、安心して使用してもらえるようになった。一方で、最近当社の製品と酷似した物が数社から出回っており、近く実用新案権侵害、不正競争防止法違反に基づく警告ないし、
法的措置を考えている(同社はスーパーヒンジについても意匠権を三件保有している)』としている。」と記載されていた。
さらに、「NEW FURNITURE」誌の平成七年五月号(乙15)では、「特集 家具と知的所有権 《オートヒンジ訴訟》 鈴木家具敗訴が教えるもの」との題の記事が掲載され、その中では、「平成六年一〇月二七日、大阪地方裁判所で一つの判決が下った。いわゆる“オートヒンジ事件”。…裁判所の判断ではかなり狭い範囲の考案と解釈されてしまった。このため、奥田製作所の製品をはじめ一般に普及していたオートヒンジ(スプリング付き丁番)はほとんど鈴木家具考業の実用新案権の範囲外と考えて良さそうだ。この判決に対して、今のところ鈴木側では上訴する動きはない。大阪地方裁判所の判決が大変説得力のあるものなので、おそらくこれ以上争われることはないと思われる。しかし、今回の判決で鈴木家具の所有する新案件(注:実用新案権のことと解される。)そのものが否定されたわけではないので、なお予断は許されない。面子にかけてでもというのであれば、今後新たな警告書、訴訟などに及ぶ可能性も。」との記載があった。
(五) 原告のマジックヒンジの売上推移は、反訴請求の対象となっていない「マジックヒンジ3」を除き、別紙集計表のとおりとなっている。
(六) 原告は、平成七年一月ころ、鈴木家具を被告として、差止請求権不存在確認等請求訴訟(大阪地方裁判所平成七年(ワ)第七九一号事件)を提起するとともに、同年二月一〇日に本件本訴を提起した。このうち前者の訴訟は、同年八月九日、鈴木家具は、原告が対象物件(内容から見てイ号物件と認められる。)を製造、販売する行為が鈴木家具の前記実用新案権を侵害しない旨を認める等の内容の和解が成立した(甲49)。
2 以上の事実を前提に、まず、原告が主張する被告らの告知、流布行為の有無について検討する。
(一) まず、平成五年ころの告知、流布行為の有無を検討する。
(1) まず、被告エイムが平成五年五月一五日ころに甲9の文書を作成し、
被告奥田製作所の製品を取り扱う代理店に配布したことは前記1で認定したとおりであり、原告代表者の供述によれば、同文書が原告の取引先であるカコークラフトに渡されたことは認められる。
そして、甲9の前記記載は、主として被告奥田製作所もオートヒンジに関する実用新案権を有していることを強調する内容とはなっているものの、他社のヒンジを使用した場合には奥田製作所の実用新案権に抵触するとの趣旨を述べていると解される。
しかしながら、被告エイム・同カワノ代表者の供述によれば、被告エイムは、甲9の文書を、全国八社の被告奥田製作所のオートヒンジの代理店会議の席上にて右代理店に対して配付したのみであって、その文面上も「同封資料を下記の要領にて貴社の得意先に対して送付していただくことをお勧めいたします。」とされているにとどまり、その他甲9自体を取引先に配付するよう指示したことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると、甲9が原告の取引先に配布されたのは、被告エイムの行為によるものとはいえないから、被告エイムが甲9により原告の営業上の信用を害する事実を告知したとはいえない。
(2) 次に原告は、甲19に基づく主張をするが、同文書は、原告の従業員が作成した報告書であり、何ら裏付けもないものであるから、直ちに採用することはできない。
(二) 次に平成六年一〇月から平成七年一月ころの告知、流布行為の有無を検討する。
(1) まず原告は、甲5に基づく主張をするが、そこでは被告奥田製作所サイドの話として、「最近当社の製品と酷似した物が数社から出回っており、近く実用新案権侵害、不正競争防止法違反に基づく警告ないし法的処置を考えている。」との記載があるものの、右記載では「数社」とあるのみで、オートヒンジを販売しているメーカーのすべてが対象とされている趣旨とは解されず、またその中に原告が含まれるか否かは明らかではないから、右記載は原告の営業上の信用を害するものとはいえない。
(2) 次に原告は、甲10に基づく主張をするので検討する。
ア 甲10には、次の記載がある。
「平成六年一〇月二七日、大阪地方裁判所での判決で、現在唯一の鈴木家具工業の実用新案と別の同じ両開き扉の効果を持つものは、オートヒンジです。類似品は数社ありますが、これらは全て公的機関で証明されておらず、あくまで独自の見解に過ぎません。まして鈴木家具工業及び奥田製作所は、これらを認めておりません。類似品が、この両者の実用新案に抵触しないまったく別の商品だという事を証明しない限り、家具メーカーはいつまでも今回の問題を解決できないと思われます。まして、これらの類似品は実用新案の公開すらなっていません。
今回の判決でオートヒンヂ使用家具メーカーに対して『鈴木家具工業の実用新案権を侵害する旨を文書、又は、口頭で言いふらしてはならない』との命令が出ています様にオートヒンヂを使用している家具メーカーに対して鈴木家具工業は、行動を起こすことが出来ません。しかし類似品を使用しているメーカーまたは販売店には、いつでも行動を起こす事が出来ます。むしろオートヒンヂにこれなくなった分、類似品にくる確率が高まります。
類似品生産者、販売業者の中には、万一裁判などになった場合、費用をみる旨の保証書の類を入れていますが、家具生産メーカーにとって平等に心配しなければならないのは、『裁判費用ではなく、鈴木家具工業がとってくるであろう戦略としての家具生産メーカーの販売先の家具店、百貨店などに対して行う販売差止め、商品差押えの法的措置を行った場合家具生産メーカーに対する信用の失墜が最も困る事であると思われます』 まして先般、全国の家具生産メーカーに要求した実用新案締結料及び損害賠償額要求は、総額で五〇億とも一〇〇億ともいわれています。一社や二社ではとても補償できる問題ではありません。それを補償するというのは、実行不可能な約束でむしろ無責任であるといえます。
以上の事を充分に検討されて御判断して頂きたいと思います。
潟Gイム」 イ このように甲10には、末尾に「潟Gイム」との記載があるが、体裁は乱雑な手書の文書であって、一般には通常の営業活動に用いられる文書とは考え難いものである。
しかし、原告代表者の供述によれば、原告が同文書を入手したのは、平成六年一二月ころに株式会社サカミ工芸の常務取締役の【J】から、同社に営業に訪れた被告カワノの営業員の【K】が持参した文書として【J】から阿津坂商事(原告の代理店)の【L】にFAXで送付されたものを、【L】が原告に渡したというのであり、この供述は具体的である上に、同趣旨を述べる【J】の陳述書(甲11)が提出されており(甲11では、さらに被告エイムの【M】なる人物も後日に甲10を【J】に示した旨の記載がある。)、被告カワノの営業員の【K】が右サカミ工芸に営業活動を行っていたこと自体は、被告カワノ・同エイム代表者本人も認めるところである。
また、甲10には、「94ー12ー06 14:02」とのファックス送信記録が印字されていることが認められるところ、甲10の記載が既に本件本訴の訴状において引用されていることを考えると、原告は、甲10を右ファックス送信記録のとおり平成六年一二月六日に入手したと推認するのが相当である。
さらに、前記1で認定した事実経過に照らして甲10の内容を見ると、甲9の記載内容の延長戦上にあるといえ、平成六年一二月六日の時点で、被告エイムが営業上述べる内容としては自然なものであるといえる。
また、原告代表者の供述によれば、甲10をサカミ工芸に持参したのは被告カワノの従業員の【K】ということであるが、被告エイムと被告カワノの代表者は同一人である上、被告エイムは被告奥田製作所のオートヒンジの販売総代理店、被告カワノは同オートヒンジの販売店というのであるから、被告カワノが営業を行うに当たって、被告エイム名義の書面を持参することは不自然なことではない。
以上の点に加え、他の複数の業者にも被告カワノの従業員が同じころに原告のマジックヒンジは鈴木家具や被告奥田製作所の実用新案権に抵触する旨の告知を受けたと聞いたという原告代表者又は原告従業員の陳述書が提出されていること(甲14、20ないし22)、別紙集計表によると、原告のマジックヒンジの売上は、鈴木家具から大規模な警告書が出された平成五年五月ころには一時急激に落ち込んだものが早期に回復しているのに対し、平成六年一二月ころから再び売上のレベルが低下していると認められることを併せ考えると、前記原告代表者の供述は信用性を認めることができ、被告エイム及び被告カワノは、甲10を作成・配布し、同趣旨の告知をしたと認めるのが相当である。これに反する両被告代表者の供述は採用できない。
ウ そして、甲10の内容を合理的に解すれば、被告エイム及び被告カワノは、平成五年一二月ころ、家具の開き戸装置用蝶番は、被告奥田製作所又は鈴木家具の製品以外は、すべて被告奥田製作所又は鈴木家具の有する実用新案権を侵害するおそれがあること、右家具の販売先である家具店、百貨店は、右家具の販売差止め及び高額の損害賠償を請求する訴訟が鈴木家具から提起されるおそれがある旨を告知したものと認められる。
そして、前記1で認定したとおり、当時オートヒンジの製造メーカーは全国で四ないし五社しかなかったこと、原告も鈴木家具による通知に端を発する問題に対しては乙40ないし42のような文書を配布して対応していたこと、右甲10で言及された「類似品」に特に限定が付されていないことからすると、甲10に接した業界関係者は、そこにいう「類似品」の中に原告の製品を含むものであると容易に理解する状況にあったと認められるから、被告エイム及び同カワノは、甲10によって、原告の営業上の信用を害する事実を告知したというべきである。
もっとも、被告奥田製作所が右告知を被告エイム及び同カワノと共同して行ったことを認めるに足りる証拠はない。
(三) なお原告は、甲7に基づく主張もするが、甲7の配布は現時点から一〇年以上も前の平成元年二月であり、それによって原告の営業上の信用が害されたことを認めるに足りない。
3 そこで次に、甲10による告知内容の虚偽性について検討する。
まず、先に反訴請求について述べたところからすると、被告エイム及び被告カワノが、甲10によって、原告製のマジックヒンジが被告奥田製作所の実用新案権を侵害すると告知したことは、当時原告が販売していたイ号物件(マジックヒンジ2)及びハ号物件(マジックヒンジ4)に関する限り、虚偽であったとはいえない。しかし、証拠(甲27、32、原告代表者)及び弁論の全趣旨によれば、甲10が配布された平成六年一二月ころに原告が販売していたマジックヒンジの中には、右以外にマジックヒンジ3があったことが認められるが、これについては被告奥田製作所が反訴請求の対象としていないことからすると、マジックヒンジ3は被告奥田製作所の実用新案権を侵害するものではないと推認されることから、甲10の告知内容は、マジックヒンジ3が被告奥田製作所の実用新案権を侵害する旨を告知する限度において、虚偽であったというべきである。
また、先に1で認定した事実からすれば、甲10の配布がなされた平成六年一二月ころというのは、鈴木家具による大規模な警告文の通知が行われて、唯一被告奥田製作所だけが侵害訴訟に勝訴し、判決の確定を得て間もない時期であって、業界新聞や業界誌においても、今後鈴木家具がどのような行動をとるのかについて明確な予測が立てられていなかったと認められるから、被告エイム及び被告カワノが、甲10において、原告製のマジックヒンジを使用した家具の販売先である家具店、百貨店は、右家具の販売差止め及び高額の損害賠償を請求する訴訟が鈴木家具から提起されるおそれがある旨告知したことは、必ずしも虚偽であったとはいえない。しかし、先に1(六)で認定した原告と鈴木家具とのイ号物件についての和解内容及び他の原告製マジックヒンジについて原告と鈴木家具との間で実用新案権侵害の紛争が生じたことを窺わせる証拠がないことからすれば、原告製のマジックヒンジが鈴木家具の実用新案権を侵害する旨を告知したことは虚偽の事実の告知であったというべきである。
4 そこで、本訴の差止請求について検討すると、まず、本訴請求の趣旨第一項の1の事実を被告らが告知した事実は認められないから、この点の請求は理由がない。
次に、本訴請求の趣旨第一項の2については、原告と鈴木家具との間で前記のように和解が成立し、その後になお被告エイムらが前記のような陳述を行っていると認めるに足りる証拠がないことからすると、被告エイムらが、今後も、原告製マジックヒンジが鈴木家具の実用新案権を侵害するおそれがあると告知するおそれがあるとは認められない。
次に、本訴請求の趣旨第一項の3については、この事実が虚偽とはいえないことは前記のとおりである。
最後に、本訴請求の趣旨第一項の4については、前記のとおり、被告エイム及び同カワノは、原告製のマジックヒンジを一括りにして被告奥田製作所の実用新案権を侵害するものと告知したものであり、それは「マジックヒンジ3」に関する限り虚偽であると認められるところ、本判決によってイ号物件ないしホ号物件が本件実用新案権を侵害するとの判断が公にされた場合には、マジックヒンジ3を含めて、原告製のマジックヒンジを一括りにして被告奥田製作所の実用新案権を侵害するものと告知するおそれがあると認められる(なお被告奥田製作所については右のおそれを認めるに足りない。)。したがって、原告の差止請求は、被告エイム及び同カワノに対し、原告のマジックヒンジ3が被告奥田製作所の実用新案権を侵害する旨の告知又は流布の差止めを求める限度で理由がある。
5 次に、被告らの損害賠償責任及び賠償されるべき損害額について検討するに、甲10の内容及び3で述べたところからすると、被告エイム及び同カワノが右告知をするについては、少なくとも過失があると認められる。
そして、本件で原告が主張する損害は信用毀損による無形損害であるが、
前記虚偽事実の告知によって原告の信用が害されたことは認められるとしても、甲10が配布された平成六年一二月当時に販売されていた原告製マジックヒンジ三点のうち、二点(イ号物件及びハ号物件)については実際に被告奥田製作所の実用新案権を侵害するものであることを考えると、本件で原告に生じた信用毀損による無形損害として賠償されるべき額は、一〇〇万円とするのが相当である。
まとめ
以上によれば、本件の結論は次のとおりとなる。
一 本訴請求は、次の限度で理由がある。
1 被告エイム及び同カワノに対し、原告のマジックヒンジ3が被告奥田製作所の実用新案権を侵害する旨を告知又は流布することの差止請求 2 被告エイム及び同カワノに対する不正競争防止法違反行為に基づく一〇〇万円の損害賠償請求及び右行為後の平成一〇年四月一日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金支払請求 二 反訴請求は、次の限度で理由がある。
1 ホ号物件の製造、販売等の差止請求 2 ホ号物件の廃棄請求及び同物品製造のための金型除去請求 3 ホ号物件が記載されているカタログの同物品記載部分の配布停止請求 4 不法行為に基づく三二八四万一九四二円の損害賠償請求 5 不当利得に基づく四八四万〇九六四円の利得返還請求権 なお、4の遅延損害金の起算日は、内一〇〇〇万円については反訴状送達の日の翌日である平成七年四月二九日、内二二八四万一九四二円については請求対象期間の翌日である平成一一年七月一日とし、5の遅延損害金の起算日は、被告奥田製作所が不当利得返還請求をした日の翌日であると記録上認められる同年五月二五日とした。
三 なお、主文第二項及び第五項以外は、仮執行宣言を付すのは相当でないから、これを付さないこととする。
(平成一二年二月二三日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 水上周
  • この表をプリントする