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事件 |
平成
11年
(ネ)
5773号
実用新案権侵害差止等請求控訴事件
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控訴人(原審原告) アズマ工業株式会社 右代表者代表取締役 A右訴訟代理人弁護士 浦野 信一郎 被控訴人(原審被告) 小林製薬株式会社 右代表者代表取締役 B右訴訟代理人弁護士 大場正成 同 嶋末和秀 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2000/04/19 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
本件控訴を棄却する。 控訴費用は控訴人の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた判決
一 控訴人 1 原判決を取り消す。 2 被控訴人は、原判決別紙物件目録記載の物件を製造・販売してはならない。 3 被控訴人は、控訴人に対し、金一億二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年二月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。 4 訴訟費用は、第一、第二審とも被控訴人の負担とする。 二 被控訴人 主文と同旨 |
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当事者の主張
当事者双方の主張は、後記一及び二のとおり当審における主張を付加するほかは、原判決「第二 事案の概要」、「第三 争点」及び「第四 争点に関する当事者の主張」の各欄に記載のとおりであるから、これを引用する。 一 控訴人の主張 1 原判決は、本件実用新案登録出願(以下「本件出願」という。)の手続中に、平成七年一二月一四日付手続補正書による補正(以下「本件補正」という。)によって、実用新案登録請求の範囲に付加した構成要件(五)及び(六)に係る「導水管内部の一つの隔壁」、「隔壁の導水管内壁から離れた位置にある小孔」の各要件が、「出願時の願書に添付された当初明細書ではクレームのみならず考案の詳細な説明中にも一切記載がなく、唯一出願時の願書添付の図面中に右要件を窺わせる記載があるに過ぎない」(原判決二二頁五行目から九行目まで)、「そして、右のような挿入追加は、出願時の願書に添付した当初明細書及び図面中に十分な根拠がなければ考案の要旨を変更するものとして許されないところ(実用新案法2条の2第2項、第一項)、原告が右『隔壁』及び『小孔』の要件の根拠として援用できたのは、唯一出願時の願書添付の図面のみであることが認められる。したがって、このような本件考案の出願経過にかんがみれば、原告は、願書添付の図面記載の具体的限定的な構造について登録を受ける権利を得たものというべきであり」(同二三頁九行目から二四頁五行目まで)として、本件考案の技術的範囲を制限的に認定したが、このような認定は、次のとおり、誤りである。 すなわち、本件出願の願書に最初に添付された明細書(以下「当初明細書」という。)には、「導水管内部の一つの隔壁」、「隔壁の導水管内壁から離れた位置・・・の小孔」という表現は記載されていなかったものの、「小孔」については、当初明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項2に記載があったほか、考案の詳細な説明の実施例に関する記載中に、水の流れを規制するための「小孔5」として説明されていたものであり、また、「隔壁」についても、導水管内に小孔を設けるためには何らかの隔壁がなければならないことは明らかであり、その当然設けられるべき壁の存在を、図面の記載をも参酌して、「隔壁」という表現によって明白にしただけのものである。したがって、「隔壁」及び「小孔」ということ自体は、添付図面のみに示されていたものではなく、原判決が、「原告が右『隔壁』及び『小孔』の要件の根拠として援用できたのは、唯一出願時の願書添付の図面のみであることが認められる。」とした認定は明らかな誤りである。 さらに、原判決は、「右のような挿入追加は、出願時の願書に添付した当初明細書及び図面中に十分な根拠がなければ考案の要旨を変更するものとして許されない」として、実用新案法2条の2第2項、第一項を摘示するところ、右摘示された規定は、平成五年法律第二六号による実用新案法の改正によって追加された現行規定であると解されるが、平成四年一一月一九日の出願に係る本件出願についての本件補正に関しては、同改正後の規定の適用はなく、同改正前の同法9条1項の準用する同改正前の特許法41条が適用されるものであり、同条の適用については、当初明細書に明文をもって記載されていた事項のほか、出願時において、当業者が当初明細書等の記載からみて自明な事項、すなわち、その事項自体を直接表現する記載はないが、当初明細書等に記載されている技術内容を、出願時において当業者が客観的に判断すれば、その事項自体が記載してあったことに相当すると認められる事項も、同条にいう「願書に最初に添付した明細書又は図面に記載した事項」であるとされているものである。したがって、原判決の右判断及び法条の適用は明白な誤りである。 そして、「導水管内部の一つの隔壁」及び「隔壁の導水管内壁から離れた位置・・・の小孔」が、少なくとも、当業者が当初明細書等の記載からみて自明な事項であることは明らかであるから、これらの記載を実用新案登録請求の範囲に加えた本件補正は、平成五年法律第二六号による改正前の実用新案法9条1項の準用する同改正前の特許法41条に従った補正であり、原判決が、本件補正後の実用新案登録請求の範囲につき、「本件考案の出願経過にかんがみれば、原告は、願書添付の図面記載の具体的限定的な構造について登録を受ける権利を得たものというべきであり」として、本件考案の技術的範囲を、実施例として図面に記載された構成に限定し、制限的に認定したことも誤りである。 2 原判決は、「本件考案の構成要件(五)の『隔壁』とは、原告が主張するように、単にワイパー本体内と貯水タンク内を隔てる仕切りであればよいとか、或いは単に貯水タンク内に貯留された水がワイパー本体内に逆流することを抑止する作用効果を有すればよいというのでは足りず、構成要件の文言どおり、導水管内部に設けられた一つの隔壁であることを要するものと解すべきであり、また構成要件(六)の『小孔』とは、同様に構成要件の文言どおり、隔壁の導水管内壁から離れた位置に設けられた小孔であることを要するものと解すべきであり、」(原判決二四頁五行目から二五頁一行目まで)、「イ号物件の漏斗状部分は導水管そのものであり、導水管の内部に設けられていないから、本件考案にいう『隔壁』には該当せず、また、イ号物件の開口部分は導水管そのものの後端部に設けられており、『隔壁』上に設けられているのでも、導水管内壁から離れた位置に設けられているのでもないから、本件考案にいう『小孔』に該当しない。」(同二五頁三行目から八行目まで)として、イ号物件が本件考案の構成要件(五)及び(六)を充足しないとしたが、このような判断は、次のとおり、誤りである。 すなわち、原判決は、構成要件(五)、(六)を、その「文言どおり」解すべきであるとしているが、原判決が、本件考案の技術的範囲を、実施例として図面に記載された構成に限定して認定していることは前記のとおりであり、右判断もかかる認定に基づくものである。 しかしながら、右1のとおり、本件考案の技術的範囲は、実施例として図面に記載された構成によって定められるべきものではなく、実用新案法26条で準用する特許法70条1項に従い、明細書の実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて、すなわち、該実用新案登録請求の範囲によって表されている技術的思想によって判断されるべきものである。 しかるところ、本件考案の構成要件(五)の「導水管内部の一つの隔壁」は、ワイパー本体内と貯水タンク内を隔てる仕切りであって、貯水タンク内に貯留された水がワイパー本体内に逆流することを抑止するものであればよく、したがって、該「隔壁」の位置は、導水管の軸方向中間部分のみに限定されるものではなく、導水管の端部に形成したものであっても、これが導水管に連結されている以上は、「導水管内部の一つの隔壁」に当たるものである。したがって、イ号物件の漏斗状部分は、本件考案の構成要件(五)における「導水管内部の一つの隔壁」に相当し、イ号物件は、構成要件(五)を充足するものである。 また、イ号物件の漏斗状部分の中央の開口は、漏斗状部分以外の導水管の内壁から離れた位置に設けられていると見られるものであり、本件考案の構成要件(六)の「該隔壁の導水管内壁から離れた位置・・・の小孔」に相当し、イ号物件は、構成要件(六)を充足するものである。 原判決は、イ号物件の漏斗状部分が本件考案の導水管そのものであると認定するが、その根拠が全く示されていない。イ号物件における漏斗状部分は、本件考案との対比においては、導水管を閉鎖する部材であるため、本件考案の「隔壁」に相当するものと解すべきである。また、イ号物件における漏斗状部分を本件考案の「隔壁」に相当するものと解すれば、イ号物件の漏斗状部分の中央の開口が本件考案の「小孔」に対応することも明白である。 この点につき、被控訴人は、構成要件(五)の「導水管内部の一つの隔壁」を、ワイパー本体内と貯水タンク内を隔てる仕切りであるとする点が、実用新案登録請求の範囲の文言に反するものであり、同構成要件は、ワイパー本体の一部である導水管の内部を一つの隔壁により二つの部分に仕切ることを意味すると主張するが、本件明細書には、「作用」として、「小孔を形成しているため、ワイパーを横向きにしたり逆向きにしても、タンク内の水が一時に流出することがない。」との記載が、また、「考案の効果」として、「導水管の内部に隔壁を形成して、該隔壁の導水管内壁から離れた位置に小孔を設けてあるので、ワイパーをどの方向に傾けて作業する場合でもタンク内の水の逆流を確実に防止することができ、しかも、上記逆流防止手段が、導水管内に単に一つの隔壁を設けてこれに小孔を穿設しただけであるため、その構成が非常に簡単で、導水管との一体成形も可能である。」との記載があり、これらの記載によって、本件考案における隔壁が、貯水タンク兼用の握柄内の水がワイパー本体に逆流することを防止するために設けた仕切りであることは明らかであり、被控訴人主張のように、導水管の内部を一つの隔壁により二つの部分に仕切ることについては、本件明細書の実用新案登録請求の範囲に記載がなく、技術的意義も存在しない。 3 仮に、イ号物件の漏斗状部分が本件考案の「導水管」であり、イ号物件の漏斗状部分の中央の開口が導水管そのものの開口部であるとすれば、右漏斗状部分及び開口はタンク内の水の逆流を防止するものであるから、導水管自体に本件考案の隔壁としての機能を持たせていることになり、実質的に右隔壁が存在するに等しく、その場合には、均等論の適用があり得る。 二 被控訴人の主張 1 控訴人の主張1について 原判決の法条の引用が正確でなかったことは争わないが、この点は、原判決の結論に影響を及ぼすものではない。 控訴人は、当初明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項2に「小孔」についての記載があったと主張するが、当初明細書の実用新案登録請求の範囲の請求項2の記載は、「握柄の内部におけるワイパー本体寄りの位置に、水の流れを規制するための小孔を設けたことを特徴とする請求項1に記載のタンク付水滴ワイパー。」というものであり、小孔は導水管内部ではなく、握柄の内部に設けられる構成であったものであり、しかも、請求項2自体が本件補正によって削除されている。また、控訴人は、「小孔」が、当初明細書の考案の詳細な説明の実施例に関する記載中に、水の流れを規制するための「小孔5」として説明されており、「隔壁」については、導水管内に小孔を設けるためには何らかの隔壁がなければならないことは明らかであると主張するが、当初明細書の考案の詳細な説明の実施例の記載は「該導水管の内部には・・・小孔5が穿設されている」というものであり、導水管内部に小孔があるとの該記載のみでは意味不明であって、図面を参照して初めて導水管内部の隔壁の小孔を意味すると推測されるにすぎず、結局、「隔壁」の要件を補正挿入する根拠は図面以外にはなかったというべきである。 2 控訴人の主張2について 控訴人は、本件考案の構成要件(五)の「導水管内部の一つの隔壁」は、ワイパー本体内と貯水タンク内を隔てる仕切りであって、貯水タンク内に貯留された水がワイパー本体内に逆流することを抑止するものであればよく、導水管の端部に形成したものであっても、これが導水管に連結されている以上は、「導水管内部の一つの隔壁」に相当するものであるから、イ号物件における漏斗状部分が「導水管内部の一つの隔壁」に相当すると主張する。 しかしながら、本件考案の構成要件上、導水管がワイパー本体の一部であり、貯水タンクがワイパー本体と別部材であることは明白である。したがって、控訴人が、「導水管内部の一つの隔壁」が、ワイパー本体内と貯水タンク内を隔てる仕切りであると主張する点は、実用新案登録請求の範囲の文言に明らかに反するものである。構成要件(五)は、ワイパー本体の一部である導水管の内部を一つの隔壁により二つの部分に仕切ることを意味するものであり、イ号物件の漏斗状部分がこれに当たらないことは明白である。 また、イ号物件の漏斗状部分が構成要件(五)の「導水管内部の一つの隔壁」に当たらない以上、イ号物件の漏斗状部分の中央の開口が、構成要件(六)の「該隔壁の導水管内壁から離れた位置に」設けられた「水の流れを規制するための小孔」に当たらないことも明らかである。仮にこの開口部が隔壁の小孔であるとすると、導水管の内壁と接していないというためには、漏斗状の根本の部分が導水管の端末といわざるを得ず、そうだとすれば、「導水管内部の一つの隔壁」である漏斗状部分が導水管の外にあるということになってしまう。 したがって、控訴人の主張は誤りである。 3 控訴人の主張3について 本件出願の経過及び公知技術に鑑みれば、本件考案の構成要件(五)及び(六)は、本件考案の本質的部分に当たるものであって、この点において、本件考案と異なるイ号物件について均等論の適用される余地はない。 |
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当裁判所の判断
一 争点一3(イ号物件の漏斗状部分は、本件考案の構成要件(五)及び(六)を充足するか。)について 1 本件考案の技術的範囲が、実用新案法26条で準用する特許法70条の規定に従って定められるべきであり、願書添付の図面に記載された具体的構成に限定されるものでないことは、控訴人主張のとおりであると解される。 2 控訴人は、イ号物件の導水管後端部の漏斗状部分が構成要件(五)の「隔壁」に相当すると主張する。 しかしながら、「隔壁」の語は、「間をへだてる壁。しきり。」(広辞苑第四版)を意味するものであるから、構成要件(五)のとおり、「導水管の内部には一つの隔壁が形成され」る場合には、その文言上、該「一つの隔壁」によって導水管内部が二つに隔てられること、すなわち、該「一つの隔壁」によって間を隔てられた両側のスペースとも、導水管内部のスペースであるか、少なくとも該「一つの隔壁」の近傍において導水管内部のスペースを含むものであることを要するものである。 もっとも、本件明細書(甲第二号証)の考案の詳細な説明の「考案の効果」欄には、「本考案によれば、握柄をタンク兼用として集水した水を溜めるようにした・・・導水管の内部に隔壁を形成して、該隔壁の導水管内壁から離れた位置に小孔を設けてあるので、ワイパーをどの方向に傾けて作業する場合でもタンク内の水の逆流を確実に防止することができ、しかも、上記逆流防止手段が、導水管内に単に一つの隔壁を設けてこれに小孔を穿設しただけであるため、その構成が非常に簡単で、導水管との一体成形も可能である。」(同号証四欄三〇行目から四〇行目まで)との記載がある(なお、本件明細書の考案の詳細な説明の「作用」欄には、「握柄の内部のワイパー本体寄りの位置に小孔を形成しているため、ワイパーを横向きにしたり逆向きにしても、タンク内の水が一時に流出することがない。」(同号証三欄三〇行目から三二行目まで)との記載があるが、右「握柄の内部のワイパー本体寄りの位置に小孔を形成し」た構成は、明らかに本件考案の構成要件をなすものではなく、該記載は、本件考案の「作用」の記載としては無意味というほかはない。)。そして、右「考案の効果」欄の記載と本件明細書(甲第二号証)の実用新案登録請求の範囲の記載とを併せ考えると、右「一つの隔壁」の技術的意義は、ワイパーを傾けて作業する場合に、貯水タンク兼用の握柄内部に溜められた水が、ワイパー本体後端部の通水用導水管を逆流して、ワイパー本体の開口する前端に至ることを防止すべく、該隔壁に設けた小孔を除き、導水管内の通水を遮断することにあると解される。 かかる技術的意義を考慮すれば、前示構成要件(五)に係る導水管内部の「一つの隔壁」は、実用新案登録請求の範囲の記載上は、前示構成要件(五)の「導水管内部に・・・形成され」ること及び構成要件(六)の「該隔壁の導水管内壁から離れた位置に水の流れを規制するための小孔が設けられ」ることのほか、その形状や形成態様が特に限定されていないものの、導水管内の通水を前示小孔部分以外では遮断できるように形成すること、したがって、必ずしも平面形状である必要はないとしても、導水管をいわば横断的に仕切るように、隔壁周囲の端部全体を導水管内壁に接続して形成することを要するものであり、例えば、導水管をいわば縦断的に仕切るように、隔壁を導水管の長手方向に平行に形成するような態様は除外されるものであると解さなければならないが、前示技術的意義を考慮したとしても、前示実用新案登録請求の範囲の文言より導かれる、該「一つの隔壁」によって隔てられる両側のスペースとも導水管内部のスペースである点(少なくとも、該「一つの隔壁」の近傍において導水管内部のスペースを含むものである点)については、該文言と異なるように解さなければならない理由はない。 控訴人は、本件考案の構成要件(五)の「隔壁」が、ワイパー本体内と貯水タンク内を隔てる仕切りであって、貯水タンク内に貯留された水がワイパー本体内に逆流することを抑止するものであればよく、該「隔壁」を導水管の端部に形成したものであっても、これが導水管に連結されている以上は、「導水管内部の一つの隔壁」に当たるものであると主張する。 しかしながら、前示のとおり、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の文言より、「一つの隔壁」によって隔てられる両側のスペースとも導水管内部のスペースである点(少なくとも、該「一つの隔壁」の近傍において導水管内部のスペースを含むものである点)が導かれ、その技術的意義に照らしても、その点について別異に解さなければならない理由がない以上、本件考案の技術的範囲は、これに従って定まるものというべきであり、たとえ、右の点においてこれと異なる構成を有する考案が、同様の作用効果を奏することがあるとしても、その故に当該考案が本件考案の技術的範囲に含まれるものでないことは明らかである。 本件において、控訴人主張のような構成の考案、すなわち、「隔壁」を導水管の貯水タンク側端部に形成することにより、その「隔壁」の一方の側に導水管内部のスペースを全く含まないこととなる(ワイパー本体を握柄に取り付けた状態で、「隔壁」の一方の側が貯水タンク兼用握柄の内部のスペースとなる)構成の考案であっても、貯水タンク内に貯留された水がワイパー本体の導水管内部へ流入することを遮断し、したがって、それがワイパー本体の開口する前端に至ることを防止する作用効果を奏することは推認されるが、結果として、同様の作用効果を奏するからといって、当該考案が本件考案の技術的範囲に属するものとすることはできない。 なお、控訴人は、導水管内部を一つの隔壁により二つの部分に仕切ることの技術的意義が存在しないとも主張するが、「導水管内部に・・・形成され」る隔壁が、貯水タンク兼用の握柄内部に溜められた水が、ワイパー本体後端部の通水用導水管を逆流して、ワイパー本体の開口する前端に至ることを防止すべく、導水管内の通水を遮断する技術的意義を有することは前示のとおりであって、控訴人の該主張は、畢竟、隔壁を導水管の貯水タンク側端部に形成する構成が、結果的に、同様の作用効果を奏することを言い換えたものであるにすぎない。 しかるところ、イ号物件において、導水管4の後端部の漏斗状部分7によって隔てられる両側のスペースのいずれもが、導水管4内部のスペースである(少なくとも、該漏斗状部分の近傍において導水管4内部のスペースを含むものである)ことを認めるに足りる証拠はないから、該漏斗状部分7が本件考案の構成要件(五)の「一つの隔壁」に相当するものとは認められず、したがって、イ号物件が構成要件(五)を充足するものと認めることはできない。 3 また、控訴人は、イ号物件の漏斗状部分の中央の開口が、本件考案の構成要件(六)の「該隔壁の導水管内壁から離れた位置・・・の小孔」に相当すると主張するが、右2のとおり、イ号物件の漏斗状部分が構成要件(五)の「導水管内部の一つの隔壁」に相当すると認めることができない以上、イ号物件の漏斗状部分の中央の開口が、構成要件(六)の「該隔壁の導水管内壁から離れた位置・・・の小孔」に相当すると認めることもできず、したがって、イ号物件が構成要件(六)を充足するものと認めることはできない。 4 さらに、控訴人は、イ号物件の漏斗状部分及び該漏斗状部分の中央の開口が、タンク内の水の逆流を防止するものであるから、本件考案の隔壁としての機能を持たせていることになり、実質的に隔壁が存在するに等しいとして、均等論の適用があり得るものと主張するが、本件明細書(甲第二号証)の考案の詳細な説明の記載、とりわけ、「考案の効果」欄における前示「本考案によれば、握柄をタンク兼用として集水した水を溜めるようにした・・・導水管の内部に隔壁を形成して、 該隔壁の導水管内壁から離れた位置に小孔を設けてあるので、ワイパーをどの方向に傾けて作業する場合でもタンク内の水の逆流を確実に防止することができ、しかも、上記逆流防止手段が、導水管内に単に一つの隔壁を設けてこれに小孔を穿設しただけであるため、その構成が非常に簡単で、導水管との一体成形も可能である。」との記載に鑑みれば、本件考案の構成要件(五)及び(六)に係る構成の部分は、本件考案における作用効果を生ずる本質的部分であることが認められ、したがって、本件考案が、該構成要件(五)及び(六)に係る構成おいてイ号物件と異なるものである以上、イ号物件が実用新案登録請求の範囲に記載された本件考案の構成と均等なものであるということはできず、控訴人の右主張も失当である。 二 以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本件請求は理由がない。 よって、控訴人の請求を棄却した原判決は、結論において正当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法61条、67条1項本文を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 田中康久 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 清水節 |