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関連審決 審判1997-12668
関連ワード 技術的範囲 /  均等 /  損害額 /  考案 /  図面 /  構造 /  組合せ /  物品 /  物品の形状 /  補正 /  進歩性(3条2項) /  新規性(3条1項) /  拒絶理由 /  請求項 /  実施例 /  公知技術 /  頒布 /  特定 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 9年 (ワ) 13420号 実用新案権侵害行為差止等請求事件
原告株式会社シマノ右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 野上邦五郎
同 杉本進介
同 冨永博之右補佐人弁理士 【B】
同 【C】
被告 ダイワ精工株式会社右代表者代表取締役 【D】 右訴訟代理人弁護士 勝田裕子右補佐人弁理士 【E】
同 【F】
裁判所 大阪地方裁判所
判決言渡日 2000/08/31
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告は、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の中通し竿の製造、販売をしてはならない。
二 被告は、その本店、営業所及び工場に存する前項の各物件の完成品及び半製品並びに同物件の製造に必要な金型を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金七三六四万円及び内金六二八〇万円に対する平成一〇年一月二〇日から、内金一〇八四万円に対する同年一二月一日から、それぞれ支払済みに至るまで、年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要等
一 事案の概要 本件は、原告が、被告に対し、被告が製造、販売する別紙物件目録(一)ないし(三)記載の中通し竿は、原告が有する実用新案権に係る考案技術的範囲に属し、その製造、販売は右実用新案権を侵害するとして、右中通し竿の製造、販売の差止め及び損害賠償等を請求している事案である。
二 当事者間に争いのない事実 1 原告の有する実用新案権 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その実用新案登録請求の範囲第1項の考案を「本件考案」という。)を有する。
考案の名称 中通し竿 登録番号 第二五三三二二四号 出願日 平成四年四月三〇日(実願平四-二八七〇四号) 公開日 平成五年一二月三日(実開平五-八八二五九号) 手続補正 平成八年八月三〇日 登録日 平成九年一月二九日 訂正審決日 平成一一年四月九日 実用新案登録請求の範囲 別添訂正請求書(平成一〇年一一月一七日付)添付の明細書(以下「本件明細書」という。)該当欄記載のとおり 2 構成要件の分説 本件考案の構成要件を分説すると、次のとおりである。
A 芯材(3)の外周に剥離性が良好で適当な厚みを有する樹脂テープ(4)を所定間隔で巻回し、次に炭素繊維、ガラス繊維等の高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグ(5)を前記芯材(3)に巻回して焼成し、前記芯材(3)を引き抜いた後、前記樹脂テープ(4)を取り除いて管状に成形される中通し竿であって、
B 管状体本体(1)の内周面に、軸芯方向視で全周、若しくは、略全周に亘って軸芯側に突出する突出部(2)を該管状体本体(1)の素材で一体形成して成り、
C その突出部(2)は軸方向に分布し、
D 突出部(2)の内周面は略軸方向直線状部を有する E 中通し竿。
3 作用効果 本件明細書には、本件考案の作用効果として、次のとおりの記載がある。
本件考案によれば、管状体である中通し竿を屈撓させた場合には、管状体本体の屈撓と伴に、内面の突出部も屈撓するものとなり、この突出部が管状体本体と一体的に、しかも、管状体本体の素材で形成されているので剥離が生じ難い。しかも、この突出部が軸芯方向視で略全周に形成されているので、荷重方向に拘わらず荷重に対する屈撓(たわみ)量が均一化するものとなる。
従って、屈撓性を損なうこと無く、内面に突出部を形成し、しかも、この突出部に剥離を生じ難い中通し竿が合理的に構成されたのである。
特に、この中通し竿は、管状体本体に対する釣り糸の接触を回避して管状体本体の摩耗を抑制し、しかも、突出部に高強度繊維を含んでいるので該突出部の摩耗も抑制し乍ら、接触面積の低減で釣り糸を軽快に送り、又、良好な屈撓性を現出できるのである。(本件明細書段落【0006】【0007】) 4 被告の行為 被告は、別紙物件目録(一)ないし(三)記載の中通し竿(以下、それぞれ「イ号物件」、「ロ号物件」、「ハ号物件」といい、これらを併せて「被告製品」という。)を製造、販売している(なお、別紙物件目録(一)ないし(三)の記載のうち、商品名、構成aないしc及びeについては争いがないが、後記のとおり、構成dについては争いがある。)。
三 争点 1 被告製品の構成 2 被告製品は、本件考案の構成要件を充足するか。
(一) 被告製品は、本件考案の構成要件A、Bを充足するか。
(二) 被告製品は、本件考案の構成要件Dを充足するか。
3 原告の損害額 四 当事者の主張 1 争点1(被告製品の構成)について 【原告の主張】 被告製品は、以下の構成を有する。
a 芯材(マンドレル)に樹脂テープを所定間隔で巻回し、その樹脂テープ間の隙間に硬化前の樹脂含浸炭素繊維紐体を巻回し、更にその外側に、別工程で、
シート状に引き揃えた炭素繊維に樹脂を含浸させた本体プリプレグシートを巻回し、焼成後前記芯材を引き抜いた後、前記樹脂テープを取り除いて管状に成形される強化プラスチック製中通し竿であって、
b 前記本体プリプレグシートで形成された管状体本体(1)の内周面(2)に、前記樹脂含浸炭素繊維紐体を主体として、軸芯方向視で略全周に亘って、軸芯側に突出する突条体(3)を形成して成り、
c その突条体(3)は軸方向に向かって螺旋状に形成され、
d 突条体(3)の内周面(2)の断面は台形状である e 中通し竿。
【被告の主張】 被告製品が、原告主張の構成aないしc及びeを有することは認めるが、
構成dを有することは否認する。被告製品の突条体の形状は、別添写真のとおりであり、突条体の内周面の断面は台形状ではない。
2 争点2(一)(構成要件A,B充足性)について 【原告の主張】 (一) 被告製品の構成aの「芯材(マンドレル)」、「樹脂テープ」は、本件考案の構成要件Aの「芯材(3)」、「樹脂テープ(4)」にそれぞれ該当する。また、被告製品の構成aの「硬化前の樹脂含浸炭素繊維紐体」及び「シート状に引き揃えた炭素繊維に樹脂を含浸させた本体プリプレグシート」は、炭素繊維の高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグであるから、本件考案の構成要件Aの「炭素繊維、ガラス繊維等の高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグ(5)」に該当する。すなわち、プリプレグとは、「強化プラスチックに用いる成形材料の一種で、ガラスクロス、ガラスマットのような補強材に硬化材、着色材、充てん材を適正な割合で混合した熱硬化性樹脂を均等に含浸、乾燥させ半硬化させたものである。」(JISハンドブックプラスチック1981。甲4)というものであって、「硬化前の樹脂含浸炭素繊維紐体」は、本件考案と同一の炭素繊維等からなる高強度繊維のプリプレグが紐のようになっているだけのことである。さらに、被告製品は、このプリプレグを芯材(マンドレル)に巻回し焼成することによって管状に形成された点も本件考案の構成要件Aと同一である。そして、「樹脂テープ(4)」は剥離性が良好でなくては取り除くことはできないし、かつ「適当な厚みを有する」ものでなければ、被告製品の「突条体(3)」を形成することはできないから、被告製品の構成aの「樹脂テープ」は、本件考案の「剥離性が良好で適当な厚みを有する」という構成を備える。
したがって、被告製品は、本件考案の構成要件Aを具備する。
(二) 被告製品の構成bの「突条体(3)」は、本件考案の構成要件Bの「突出部(2)」に該当する。
本件考案の構成要件Bにいう「突出部を該管状体本体の素材で一体形成して成り」とは、突出部が管状体本体の素材で一体形成されていれば足り、突出部と管状体本体とが一つのプリプレグでできているということまでは必要ない。
前記のとおり、被告製品の構成bの「前記樹脂含浸炭素繊維紐体」(すなわち構成aの「硬化前の樹脂含浸炭素繊維紐体」)は、プリプレグが紐のようになっているものであり、しかもこの「樹脂含浸炭素繊維紐体」は、プリプレグである「管状体本体(1)の内周面(2)に」焼成により一体に融着されている。したがって、被告製品は本件考案の構成要件Bを具備している。
(三) 被告は、本件考案の突出部は、管状体本体を形成する一つのプリプレグから成るものであるのに対し、被告製品においては、突条体を形成する樹脂含浸炭素繊維紐体は、管状体本体とは別部材により別工程で形成されるものであるから、本件考案の構成要件A、Bを備えていないと主張する。
しかし、そもそも実用新案法がその保護対象とするものは、物品の形状構造又は組合せに係る考案であり(実用新案法1条)、仮に実用新案登録請求の範囲に製法に関する記載があったとしても、当該製法に関する部分は、形態に係る考案の構成要素とはなり得ない。
本件考案においては、突出部を管状体の素材で一体形成することを構成要件としているものの、それ以上の限定はされておらず、被告が請求した本件考案の無効審判に対する審決もこのことを前提として本件考案の有効性を認めたものである。
そもそも、管状体本体が形成されるプリプレグは、複数の雑多のプリプレグを貼り合わされたり、重合されたりして用いるものであることは慣用技術であり、マンドレルに巻回された際に初めて一のプリプレグとなって管状体が形成されるものである。そして、被告製品の構成aの「硬化前の樹脂含浸炭素繊維紐体」は、被告製品の管状体本体を形成するプリプレグである「炭素繊維に樹脂を含浸させた」ものと素材を同一としたプリプレグであることは明らかであるから、被告製品は、本件考案の構成要件A、Bを備えている。
【被告の主張】 (一) 本件考案の無効審判(平成九年審判第一二六六八号)の審決において、本件考案がその出願前公知の仏国特許(乙3)との対比において無効とならなかったのは、審決において、本件考案について、中通し竿の内周に形成される突出部を、別途突出部用のプリプレグからではなく、管状体本体を形成する一つのプリプレグから成るものであるとして本件考案技術的範囲を限定して解釈したからである。原告は、本件考案の構成要件A中の訂正請求により付加された部分は、製造方法を加えたものであると主張するが、これは、本件考案の中通し竿が、構成要件記載の初工程から終わりの工程までの間で形成されることを記載したものであって、中通し竿の構成の一部に他ならない。
被告製品の構成aが前記のとおりであることは当事者間に争いがない。
したがって、被告製品の突条体は、管状体本体を形成する一つのプリプレグ(プリプレグシート)から形成されるものではなく、突条体用の別部材により別工程で形成されるものであるから、被告製品は、本件考案の構成要件Aを備えない。
(二) 本件考案の構成要件Bの「突出部を該管状体本体の素材で」における突出部は、別途突出部用のプリプレグからではなく、管状体本体を形成するプリプレグから成ることを意味する。
これに対して、被告製品の突条体は、別途突条体用の紐体から成るから、被告製品は本件考案の構成要件Bを備えない。
3 争点2(二)(構成要件D充足性)について 【原告の主張】 (一) 被告製品の構成dの「台形状」は、一組の対辺が平行な四辺形である形状をいうから、その上辺は直線を備えている。
したがって、被告製品は、本件考案の構成要件Dの「突出部(2)の内周面は略軸方向直線状部を有する」との構成を備える。
(二) 被告は、原告の平成八年八月三〇日付意見書の「直線状部は糸のふらつきの増幅を阻止できる」との記載から、一か所の突条体が曲がっていた場合でも本件考案の作用効果を奏せず、すべての突条体の内周面が釣り糸の進行方向に対して直線状となっていなければならないと主張する。しかし、本件考案の構成要件には、「すべて」の突条体に略軸方向直線状部を有すると記載されているわけではなく、また、すべての突条体の内周面が釣り糸の進行方向に対して直線状部となっていなければ、ふらつきの増幅を阻止できないものでもない。
したがって、被告の主張は理由がない。
【被告の主張】 (一) 本件考案の構成要件Dにいう「突出部の内周面は略軸方向直線状部を有する」との構成に関しては、本件明細書にはその作用効果が記載されていない。
そこで、原告が本件考案の出願過程で特許庁審査官に対し提出した平成八年八月三〇日付意見書(甲17)を見ると、「突出部の内周面は略軸方向直線状部を有する」ことの作用効果として、「突出部の内周面が略軸方向即ち釣糸の進行方向(即ち軸方向)に対して直線的でなく曲がっている場合には、糸とその面とが接する点の接線方向が進行方向に直交する大きい成分の分力を受けて糸のふらつきが増幅されるが、本件考案の前記限定事項は、このようなふらつきの増幅を阻止することができます。」(3頁14〜17行)と記載されている。
したがって、突条体の一か所でも釣り糸の進行方向に対して曲がっていると、糸のふらつきが増幅されるので、本件考案の作用効果(ふらつきの増幅の防止)を発揮するには、実質的に突出部のいずれもがその内周面において釣り糸の進行方向に対して直線的でなければならない。
そうすると、本件考案の構成要件Dにいう「突出部の内周面は略軸方向直線状部を有する」とは、内周面に一つでも略軸方向直線状部があればよいというわけではなく、当然にその作用効果を発揮するに足りる直線状部の存在が必要であるというべきである。
(二) 被告製品の突条体の形状は、別添写真のとおりであり、その大部分は、略軸方向直線状部を備えていない。すなわち、被告製品では、突条体の内周面が、高い比率で、釣り糸の進行方向(即ち軸方向)に対して曲がっており、その結果、右意見書の記載に従えば、糸とその面とが接する点の接線方向が進行方向に直交する大きい成分の分力を受けて糸のふらつきが増幅されることになる。すなわち、被告製品は、ふらつきの増幅の阻止という本件考案の作用効果を発揮することができない。
したがって、被告製品は、本件発明の構成要件Dを具備しない。
4 争点3(損害)について 【原告の主張】 (一) 原告は、被告に対し、本件考案の出願公開後である平成八年九月三日、被告製品が本件考案に抵触している旨の警告を内容証明郵便で行い、右郵便は同月五日、被告に送達された。
したがって、原告は、被告に対し、本件実用新案権の登録までの補償金請求権と、登録後の損害賠償請求権を有する。
(二) 補償金請求権 被告は、平成八年九月五日から平成九年一月二九日(本件実用新案権の登録日の前日)までに、イ号物件を一本当たり四万五六〇〇円で合計一万本、販売総額四億五六〇〇万円分を製造、販売し、また、ロ号物件を一本当たり二万八六〇〇円で合計一万五〇〇〇本、販売総額四億二九〇〇万円分を製造、販売した。
原告が、本件考案につき、その実施に対し通常受けるべき金銭の額の割合は五パーセントを下らないから、補償金請求権の額は、四四二五万円となる。
(三) 損害賠償請求権 (1) 被告は、平成九年一月三〇日(本件実用新案権の登録日)から同年一〇月三一日までに、イ号物件を一本当たり四万五六〇〇円で合計五〇〇〇本、販売総額二億二八〇〇万円分を製造、販売し、また、ロ号物件を一本当たり二万八六〇〇円で合計五〇〇〇本、販売総額一億四三〇〇万円分を製造、販売した。
原告が製造、販売する同種釣竿における利益率から考えて、被告の被告製品の販売による利益率は、販売価格の五パーセントを下ることはない。したがって、被告が右期間に被告製品を販売したことにより得た利益は、一八五五万円となり、右金額は原告の損害の額と推定される。
(2) 被告は、平成一〇年八月一日から同年一一月三〇日までに、ハ号物件を一本当たり二万七一〇〇円で合計八〇〇〇本、合計二億一六八〇万円分を製造、
販売した。
前記のとおり、被告の被告製品の販売による利益率は販売価格の五パーセントを下ることはないから、被告が右期間にハ号物件を販売したことにより得た利益は、一〇八四万円となり、右金額は原告の損害の額と推定される。
(四) よって、原告は、被告に対し、本件実用新案権に基づく補償金請求権及び損害賠償請求権として、合計七三六四万円及び内金六二八〇万円に対する平成一〇年一月二〇日(訴状送達の日の翌日)から、内金一〇八四万円に対する同年一二月一日から、それぞれ支払済みに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める。
【被告の主張】 いずれも争う。
当裁判所の判断
一 争点1について 1 被告製品が、
a 芯材(マンドレル)に樹脂テープを所定間隔で巻回し、その樹脂テープ間の隙間に硬化前の樹脂含浸炭素繊維紐体を巻回し、更にその外側に、別工程で、
シート状に引き揃えた炭素繊維に樹脂を含浸させた本体プリプレグシートを巻回し、焼成後前記芯材を引き抜いた後、前記樹脂テープを取り除いて管状に成形される強化プラスチック製中通し竿であって、
b 前記本体プリプレグシートで形成された管状体本体(1)の内周面(2)に、前記樹脂含浸炭素繊維紐体を主体として、軸芯方向視で略全周に亘って、軸芯側に突出する突条体(3)を成形してなり、その突出部(2)は軸方向に分布し、
c その突条体(3)は軸方向に向かって螺旋状に形成された e 中通し竿。
との構成を有することは、当事者間に争いがない。
2 そこで、被告製品の突条体の断面の形状について検討するに、証拠(甲33、乙4ないし7、乙10ないし12)によれば、被告製品の突条体の断面の形状は、
それぞれ別添写真のとおりの形状、即ち、山状で頂部がほぼ水平(略台形状)のものも含むが、山状で頂部が凸状の曲面になったものも多数含んでいる(ハ号物件については後者の形状のみ)ことが認められ、これを覆すに足りる証拠はない。
この点、原告は、被告製品の突条体の断面形状は台形状であると主張し、
被告製品の突条体の断面の拡大写真であるとして甲6ないし8及び甲31を提出する。確かに、右各証拠によれば、被告製品の突条体の中には、断面形状が台形状となる部分があることが認められる。しかし、右各証拠における突条体の撮影個所は、イ号物件(甲6)及びロ号物件(甲7)についてそれぞれ四箇所、ハ号物件について八箇所(甲8)及び九箇所(甲31)にすぎず、しかも、当該写真の中には、
突条体の断面形状が台形状であるとはいい難いものが多く含まれていることが認められる。そして、証拠(乙5ないし7、10)によれば、被告製品の突条体の断面形状は、別添写真のとおり、それぞれの部分において異なり、イ号物件及びロ号物件については、突条体の断面形状が台形状である部分も存するものの、上部が水平ではない部分も多く存すること、ハ号物件については、むしろ、上部が水平となる突条体の断面形状は存在しないことが認められる。
そうすると、被告製品の突条体の断面形状について、これを台形状と表現するのは妥当ではなく、その形状は、別添写真のとおりであると認めるのが相当である。
二 争点2(一)について 1 考案技術的範囲は、実用新案登録請求の範囲の記載に基づいて定めなければならず、願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲以外の部分の記載及び図面を考慮して、実用新案登録請求の範囲に記載された用語の意義を解釈しなければならない(実用新案法26条、特許法70条1項、二項)。
また、実用新案法における考案は、物品の形状構造又は組合せ(以下「形状等」という。)に係る考案をいうのであって(実用新案法1条3条参照)、製造方法は考案の構成たり得ないものであるから、考案技術的範囲物品の形状等において判断すべきものである(最高裁判所昭和五六年六月三〇日第三小法廷判決・民集三五巻四号八四八頁参照)。もっとも、実用新案登録請求の範囲において、製造方法により考案特定がされている場合には、当該製造方法は考案に係る物品の形状等を特定するための構成要素として記載されていると評価すべきであるから、その技術的範囲については、当該製造方法に基づいて製造された物品に限定されないとしても、当該製造方法が必然的にもたらすような物品の形状等の特徴を有する範囲に限定されると解するのが相当である。
2 そこで、本件考案の実用新案登録請求の範囲をみると、構成要件Aに当たる「芯材(3)の外周に剥離性が良好で適当な厚みを有する樹脂テープ(4)を所定間隔で巻回し、次に炭素繊維、ガラス繊維等の高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグ(5)を前記芯材(3)に巻回して焼成し、前記芯材(3)を引き抜いた後、前記樹脂テープ(4)を取り除いて管状に成形される中通し竿であって、」との部分は、物品の形状等としては、炭素繊維、ガラス繊維等の高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを管状に成形した中通し竿であることを特定しているものの、その余の記載は、物品の製造方法に関する記載であって、当該記載それ自体は、本件考案の構成たり得ないものと解すべきである。
他方、右構成要件Aにおける製造方法の特定から必然的にもたらされる物品の形状等の特徴についてみるに、右製造方法の特定において、芯材の外周に剥離性が良好で適当な厚みを有する樹脂テープを所定間隔に巻回し、これにプリプレグを巻回して焼成し、芯材を引き抜いた後に樹脂テープを取り除いて管状に成形されるとされていること、また、その後に続く構成要件Bにおいて、「管状体本体(1)の内周面に、軸芯方向視で全周、若しくは、略全周に亘って軸芯側に突出する突出部(2)を該管状体本体(1)の素材で一体形成して成り」とされていることからすれば、本件考案における突出部は、管状体本体を構成するプリプレグにより、もともと一部材であるものを変形させたものであることを要するものと解するのが自然である。もっとも、右構成要件Bでは、「突出部(2)を該管状体本体(1)の素材で一体形成して成り」とされていることからすれば、突出部は、管状体本体と同一の素材で一体的に形成されていれば足り、まず、突出部を形成するプリプレグを芯材(マンドレル)に巻回し、その上から管状体本体を形成するプリプレグを巻回して焼成することにより融着させて一体形成したものについても、その技術的範囲に属すると解する余地もあり、結局、この点については、実用新案登録請求の範囲の記載自体からは明確ではないといわざるを得ない。
3 そこで、次に、右の点を解釈するために、本件明細書の記載を検討してみると、本件明細書考案の詳細な説明の欄には、次のとおりの記載がある(別添訂正請求書添付の明細書の段落を示す。) (一) 【産業上の利用分野】として、「本考案は、炭素繊維、ガラス繊維等の高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグを芯材に巻回し焼成することにより管状に成形される中通し竿に関し、詳しくは、その内周に突出部が形成された中通し竿に関するものである。」との記載(【0001】) (二) 【従来の技術】として、「従来、上記の技術として特開平1-304836号公報に示されるものが存在し、この従来例では釣り竿として用いられる中通し竿の内面に対し、螺旋状に成形した糸案内部材を挿入固定して釣り糸の案内性能の向上を図っている。」との記載(【0002】) (三) 【考案が解決しようとする課題】として、
(1) 「釣り竿は柔軟で高い屈撓性が要求されるものであり、従来例のように内部に竿素材と異なる性質の部材を挿入固定した場合には、釣り竿の屈撓性を損なうばかりで無く、繰り返して屈撓することにより、前述した糸案内部材が竿素材から剥離することもあり、改善の余地がある。」との記載(【0003】) (2) 「本考案の目的は、屈撓性を損なうこと無く内面に突出部を形成し、
しかも、この突出部に剥離を生じ難い中通し竿を構成する点にある。」との記載(【0004】) (四) 【課題を解決するための手段】として、「本考案の中通し竿の屈撓構造は、芯材(3)の外周に剥離性が良好で適当な厚みを有する樹脂テープ(4)を所定間隔で巻回し、次に炭素繊維、ガラス繊維等の高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグ(5)を前記芯材(3)に巻回して焼成し、前記芯材(3)を引き抜いた後、前記樹脂テープ(4)を取り除いて管状に成形される中通し竿であって、管状体本体(1)の内周面に、軸芯方向視で全周、若しくは、略全周に亘って軸芯側に突出する突出部(2)を該管状体本体(1)の素材で一体形成して成り、その突出部(2)は軸方向に分布し、突出部(2)の内周面は略軸方向直線状部を有している。」との記載(【0005】) (五) 【作用】として、「上記特徴を例えば図1に示すように構成すると、
この管状体Rである中通し竿を屈撓させた場合には、管状体本体1の屈撓と伴に、
内面の突出部2も屈撓するものとなり、この突出部2が管状体本体1と一体的に、
しかも管状体本体1の素材で形成されているので剥離が生じ難い。しかも、この突出部2が軸芯方向視で略全周に形成されているので、荷重方向に拘わらず荷重に対する屈撓(たわみ)量が均一化するものとなる。」との記載(【0006】) (六) 【考案の効果】として、「従って、屈撓性を損なうこと無く、内面に突出部を形成し、しかも、この突出部に剥離を生じ難い中通し竿が合理的に構成されたのである。特に、この中通し竿は、管状体本体に対する釣り糸の接触を回避して管状体本体の摩耗を抑制し、しかも、突出部に高強度繊維を含んでいるので該突出部の摩耗も抑制し乍ら、接触面積の低減で釣り糸を軽快に送り、又、良好な屈撓性を現出できるのである。」との記載(【0008】) (七) また、【実施例】として、緩いテーパ状に成形された芯材としてのマンドレルに剥離性が良好で適当な厚みを有する樹脂テープを所定間隔で螺旋状に巻回し、その上からシート状のプリプレグを巻回し、更にその外面に熱収縮性テープを巻回して所定温度で焼成して、マンドレルを引き抜いた上で樹脂テープ及び熱収縮テープを引き剥がすという製造方法が記載されている。(【0008】【0009】)。
これらの各記載を検討してみると、本件考案の作用として、管状体本体と突出部の剥離が生じにくいことが挙げられおり、一般的には一素材を変形させて突出部を形成した方が剥離は生じにくいと考えられること、実施例の記載において、
剥離性が良好なテープを所定間隔に巻回したマンドレルに、シート状のプリプレグを巻回するという製造方法のみが記載されており、その他に、突出部を形成するためのプリプレグを巻回した上で、管状体本体を形成するためのプリプレグを巻回するという製造方法は記載されていないこと、その他、管状体本体を形成するプリプレグの他に、突出部を形成するプリプレグを巻回する方法を示唆する記載はないことからすれば、本件考案における突出部は、管状体本体を構成するプリプレグにより、もともと一部材であるものを変形させたものであることを要するものと解するのが自然であるということができる。
4 次に、本件考案の出願時における公知技術についてみると、証拠(乙3)によれば、本件考案の出願前に頒布された刊行物であるフランス特許第二一二三九六七号の明細書には、中通し竿の管状体本体の内周面に「jonc」(本件考案にいう突出部と同等のもの)を形成する方法として、平滑なマンドレルに「jonc」を構成するプラスチック材を染み込ませた糸を巻き付けるのと同時に若しくは糸を取り付ける前に、幅が二つの螺旋の間のスペースに等しく厚さが「jonc」の高さに等しい柔軟な非接着性のテープを巻き付け、その上からガラス繊維の糸に樹脂を染み込ませたもの等を巻回し、加熱した後にマンドレルを引き抜き、更に内側からテープを繰り出すという製造方法が記載されていることが認められ、右文献には、この方法により成形された「jonc」の内周面の形状については具体的な記載はないものの、「jonc」の形状はテープとテープの隙間の形状とほぼ同一になると考えられるから、右記載に対応する図2によれば、当該製造方法により形成された「jonc」は、内周面に略軸方向直線状部を有するものと認められる。
そうすると、本件考案の構成のうち、前記構成要件の分説におけるBないしEの部分は、いずれも本件考案の出願前に公知の技術であったということができる。
5 さらに、本件考案の出願、訂正及び無効審判の経緯についてみると、証拠(甲2、9、20、24、27及び30)によれば、本件考案は、実用新案登録請求の範囲(請求項1)を「炭素繊維、ガラス繊維等の高強度繊維に樹脂を含浸させたプリプレグ(5)を芯材(3)に巻回し焼成することにより管状に形成される管状体であって、
管状体本体(1)の内周面に、軸芯方向視で全周、若しくは、略全周に亘って軸芯側に突出する突出部(2)を該管状体本体(1)の素材で一体形成して成り、その突出部(2)は軸方向に分布し、突出部(2)の内周面は略軸方向直線状部を有する管状体。」として、平成九年一月二九日に登録されたものであるところ、被告は、同年七月二九日に、本件実用新案権について無効審判を請求するとともに、前掲フランス特許明細書等を証拠資料として提出したこと、特許庁は、平成一〇年六月一五日付で、原告に対し、右4で述べたところと同旨の理由により進歩性を欠くとして、本件実用新案権の登録無効理由通知書を送付したこと、原告は、同年一一月一七日付訂正請求書により、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲の訂正を請求し(現記載のとおり)、特許庁は、平成一一年四月九日付審決により、右訂正請求を認めた上、
「訂正考案1は、突出部(2)は、芯材の外周に剥離性で、適当な厚みを有する樹脂テープを所定間隔で巻回し、その後前記プリプレグを巻回、焼成し、芯材、樹脂テープを除くことにより形成されたものであり、要するに、突出部(2)は別途突出部用のプリプレグからではなく管状体本体を形成するプリプレグから成るものである。」(審決14頁9〜16行)、「刊行物(注・前掲フランス特許明細書)記載の中通し釣竿の内周面の突出部の形成に係る2方法はいずれも、管状体本体とは別のプリプレグから成るものであり、訂正考案1とは、基本的に異なり、訂正考案1の前記の構成は記載されてなく、示唆もされていない。」(同17頁7〜12行)と認定判断し、
訂正考案1は、前掲フランス特許明細書の記載に基づいて当業者が極めて容易に考案することができたとはいえないとして、被告の審判請求は成り立たないとの判断をしたことが認められる。
6 右のとおり、本件実用新案権の実用新案登録請求の範囲、及び本件明細書の記載からは、本件考案における突出部は、管状体本体を構成するプリプレグにより、もともと一部材であるものを変形させたものであることを要するものと解するのが自然である上、無効審判手続の中で原告がした本件考案の構成要件Aの部分の製造方法の限定に係る実用新案登録請求の範囲の訂正が、審決において、本件考案の突出部(2)は別途突出部用のプリプレグからではなく管状体本体を形成するプリプレグから成るものであると認定判断され、まさにそのことが理由となって、本件考案の出願前の公知技術と相違し、本件考案新規性進歩性があると判断されたものということができる。
以上の事実によれば、本件考案の構成要件Aの製造方法の記載は、管状体本体を形成するプリプレグとは別のプリプレグをマンドレルに巻回することなく、
一枚のシート状プリプレグによって、管状体のみならず、突出部をも形成するという構造上の限定を示す要件と解釈すべきである。
7 前記一1で述べたとおり、被告製品は、芯材(マンドレル)に樹脂テープを所定間隔で巻回し、その樹脂テープ間の隙間に硬化前の樹脂含浸炭素繊維紐体を巻回し、更にその外側に、別工程で、シート状に引き揃えた炭素繊維に樹脂を含浸させた本体プリプレグシートを巻回し、焼成後前記芯材を引き抜いた後、前記樹脂テープを取り除いて管状に成形される強化プラスチック製中通し竿であって、前記本体プリプレグシートで形成された管状体本体(1)の内周面(2)に、前記樹脂含浸炭素繊維紐体を主体として、軸芯方向視で略全周に亘って、軸芯側に突出する突条体(3)を成形して成るものである。
そうすると、被告製品は、一枚の板状プリプレグにより、管状体本体と、
突出部(突条体)を形成するものではないから、本件考案技術的範囲には属しないというべきである。
三 争点2(二)について 1 本件考案における突出部は、その実用新案登録請求の範囲の記載から明らかなとおり、「軸芯方向視で全周、若しくは、略全周に亘って軸芯側に突出する」ものであり(構成要件B)、かつ、「軸方向に分布」するものであるから(構成要件C)、管状体本体の内周面にリング状に多数構成されているか、そうでなければ、螺旋状に構成されているものと認められる(本件明細書添付図面4及び5参照)。そして、そのように構成されている「突出部(2)の内周面は略軸方向直線状部を有する」(構成要件D)とされていることからすれば、これら突出部の内周面は、上記のようなリング状あるいは螺旋状の形状中のいずれの部分においても、内周面に直線状部を有するものと解するのが自然である。
2 次に、右「略軸方向直線状部を有する」という構成を採用したことによる作用効果についてみると、証拠(甲2、27)によれば、本件明細書の実用新案登録請求の範囲の記載以外の部分において、右構成に対応する作用効果を記載したとみられる部分は存在しない。
そこで、更に検討すると、証拠(甲16ないし18)によれば、本件考案の構成要件の分説における構成要件Dの、「突出部(2)の内周面は略軸方向直線状部を有する」との構成は、平成八年七月八日付で特許庁から発せられた、特開昭六一ー七〇九三四号公報を引用文献とする本件実用新案登録出願の拒絶理由通知に対し、平成八年八月三〇日付で原告が提出した手続補正書により補正がされた際に付加されたものであること、原告から特許庁に対して、同日付で提出された意見書には、
「本願考案と引用例との対比」として、「屈撓性を均一化したこのような屈撓構造において、投げ出され、また、引き込まれる釣糸のふらつきが釣糸と管状体の内部との摺動摩擦により増幅されるのを阻止できるように、次の限定事項を付加しました。即ち、突出部(2)の内周面は略軸方向直線状部を有すること。・・・・・・突状部(「突出部」の誤記と認める。)の内周面が軸方向即ち釣り糸の進行方向(即ち、
軸方向)に対して直線的でなく曲がっている場合には、糸とその面とが接する点の接線方向が進行方向に直交する大きい成分の分力を受けて糸のふらつきが増幅されるが、本願考案の前記限定事項は、このようなふらつきの増幅を防止することができます。」(同意見書2頁16行、3頁7〜10行、14〜20行)と記載されていることが認められる。
そうすると、本件考案における構成要件Dの「突出部(2)の内周面は略軸方向直線状部を有する」との構成は、糸の進行方向となる軸方向に対して、突出部の内周面が平行となる形状とすることにより、糸のふらつきの増幅を阻止することにあると認められる。
3 ところで、本件考案の中通し竿を使用する場合には、釣り糸は、突出部の内周面の多くの部分に接触するものということができるから、釣り糸のふらつきの増幅を阻止するためには、当該接触部分の突出部の内周面が、略軸方向に直線状になっていなければならないというべきである。すなわち、突出部の一部において、
その内周面が、略軸方向に直線状部を有していたとしても、当該箇所に釣り糸が接触するとは限らず、また、他の接触部分において、釣り糸の進行方向と突出部の内周面が平行となっていなければ、その部分において、糸は軸芯方向に垂直となる力の分力を受け、釣り糸にふらつきが生じることになるからである。
そうすると、釣り糸のふらつきを防止するという作用効果を奏するためには、突出部の内周面のすべての部分において、厳密な意味で略軸方向直線状となっていなければならないとまではいえないとしても、少なくとも、その大部分が略軸方向に直線状でなければならないというべきであり、したがって、本件考案における構成要件Dの「略軸方向直線状部を有する」との構成は、突出部の内周面のすべて、あるいは少なくとも大部分において、軸芯方向に平行な直線状部を有していることが必要であるというべきである。
4 前記一2で認定判断したとおり、被告製品における突条体の断面形状は、
台形状ということはできず、その形状は別添写真のとおりであり、ハ号物件においては、突条体の内周面において直線状部があるということはできず、また、イ号物件及びロ号物件においても、突条体の内周面の一部分には直線状部が形成されているものの、他の部分は、曲面状に形成されているものであり、略軸方向直線状に形成されている部分が、イ号物件及びロ号物件の内周面の大部分であるということはできないから、結局、被告製品は、いずれも、本件考案の構成要件Dを充足しないというべきである。
四 よって、被告製品は、本件発明の構成要件A、B、Dを充足しないから、原告の請求はいずれも理由がない。
(平成一二年三月二四日口頭弁論終結)
裁判長裁判官 小松一雄
裁判官 高松宏之
裁判官 水上周
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