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事件 平成 11年 (ワ) 28458号 実用新案権侵害差止等請求事件
原告 株式会社レガン右代表者代表取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 吉野高右補佐人弁理士 【B】
被告 株式会社ジャパーナ右代表者代表取締役 【C】 右訴訟代理人弁護士 久世表士右補佐人弁理士 【D】
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2000/09/29
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
一 被告は、別紙原告物件目録記載のゴルフ用手袋を製造、販売、頒布してはならない。
二 被告は、原告に対し、金一三二〇万円及びこれに対する平成一一年一二月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は、ゴルフ用手袋に関する実用新案権を有する原告が、被告が製造販売している別紙原告物件目録記載のゴルフ用手袋は原告の右実用新案権を侵害すると主張して、被告に対し、その製造販売等の差止め及び損害賠償を求めた事案である。
一 争いのない事実 1 原告は、各種手袋の製造販売等を業とする株式会社であり、被告は、レジャー用品及び日用雑貨品の製造販売等を業とする株式会社である。
2 原告は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その登録実用新案を「本件考案」という。)を有している。
登録番号 第二〇四三八〇二号 考案の名称 ゴルフ用手袋 出願日 昭和六三年八月一〇日 公告日 平成六年四月六日 登録日 平成六年一二月一六日 実用新案登録請求の範囲 「手袋本体をなす縫製前の掌部皮側の小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠くと共に、当該切り欠いた切断端面同士を縫合し、ゴルフクラブを握ったとき、小指片、
薬指片、中指片のつけ根部付近の掌部皮に弛がほとんど生じないように構成したことを特徴とするゴルフ用手袋。」 3 本件考案の構成要件を分説すると次のとおりである。
A 手袋本体をなす縫製前の掌部皮側の小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠くこと B 当該切り欠いた切断端面同士を縫合すること C ゴルフクラブを握ったとき、小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近の掌部皮に弛がほとんど生じないように構成したこと 4 被告は、平成一一年一月頃から、業として、別紙物件目録記載のゴルフ用手袋(以下「被告製品」という。)を製造販売してきた。
5 被告製品は、本件考案の構成要件B(ただし、「切り欠いた」とする部分を除く。)及びCを充足する。
二 争点 1 被告製品が本件考案の構成要件Aを充足するか。
2 損害の発生及び額 三 争点に関する当事者の主張 1 争点1について 【原告の主張】 別紙物件目録の【図1】記載のとおり、被告製品の縫合糸を解いて、本件考案に係る図面の第一図にならって人差指の右側縁と指片部における中指片の左側縁が平行となるように配置すると、掌部皮の切断端面と指片部の切断端面の間には、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるような切り欠きの存在が認められる。
したがって、被告製品は、手袋本体をなす縫製前の掌部皮側の小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠いてあり、構成要件Aを充足する。
【被告の主張】 被告製品は、人差指片を備えた掌部と掌部側の指片部を色の異なる皮革から個別に裁断しており、これらを分離した状態では両者の位置関係を把握することはできないから、縫合後の状態(乙第七号証)によって、切り欠きの有無を判断すべきである。そうすると、被告製品は、中指片側から小指片側に至るまで切り欠くことなく平行に切断し、この切断部を単に縫合していることが見て取れる。
確かに、被告製品は、小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近の掌部皮の弛の発生が抑えられるという本件考案と同様の作用効果を有するが、それは、従来技術である「手袋の指を人差指より小指に至るに従って順次深く掌側へ折曲げるように、掌部布を甲部布より短く裁断し、掌部布と甲部布とを縫合する」(実公昭五八ー四五七四〇)という構成を用い、薄くフィット性の高い素材を使用することによって生じたものである。
したがって、被告製品は、「手袋本体をなす縫製前の掌部皮側の小指片、
薬指片、中指片のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠く」という構成要件Aを充足しない。
2 争点2について 【原告の主張】 被告は、平成一一年一月から同年一一月までの間に、一か月に五〇〇〇枚、合計五万五〇〇〇枚の被告製品を販売し、被告製品一個当たり二四〇円、合計一三二〇万円の利益を得たから、原告は、実用新案法29条2項により、右同額の損害を被ったものと推定される。
【被告の主張】 原告の主張を争う。
当裁判所の判断
一 争点1について 1 乙第一、第二、第一三号証、検乙第一、第二号証及び弁論の全趣旨によると、被告製品は、人差指片を備えた掌部と掌部側の小指片、薬指片、中指片を備えた指片部をそれぞれ色の異なる皮革で裁断し、これらの皮革を縫合していることが認められる。
このように、掌部と指片部を個別に裁断した場合であっても、各裁断片の形状によっては、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠いているといえる場合がある。
もっとも、掌部と指片部を個別に裁断した場合には、掌部と指片部を配置したときの位置次第で、中指片側から小指片側にかけて表われる切断部分の形状が変わるため、いかなる場合に、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠いているといえるかについて検討が必要になる。
(一) 本件考案に係る明細書(甲第一号証)の「考案の詳細な説明」には、
考案の目的」として、「従来のゴルフ用手袋によった場合、ゴルフクラブを握ったとき、掌部皮側が内側に折り込まれるような状態となるため、中指片、薬指片及び中指片のつけ根付近に掌部皮の弛が生じ、これが原因となってグリップに違和感を生じ正確なスイングの妨げになるという不具合があった。そこで、本考案はゴルフクラブを握ったとき、掌部皮の親指片と人差指片を除いた各指片のつけ根部付近に弛がほとんど生ぜず、確実なグリップを形成し得るようになして正確なスイングを行えるようになしたゴルフ用手袋を提供することを目的とするものである。」と記載され、「考案の効果」として、「このように本考案によれば、ゴルフクラブを握ったとき、小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近の掌部皮に弛がほとんど生ぜず、グリップがきわめて素手に近い感触となって正確なスイングを行うことができるものである。」と記載されている。
これらの記載と前記第二、一2記載の実用新案登録請求の範囲の記載を総合すると、本件考案は、従来のゴルフ用手袋においては、ゴルフクラブを握ったときに小指片、薬指片及び中指片のつけ根付近に掌部皮の弛が生じて正確なスイングの妨げになるという不具合があったが、掌部皮側の小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠くことにより、弛を生じないようにして、不具合を解消したものであると認められる。本件考案はこのようなものであるから、本件考案にいう「中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠く」とは、ゴルフクラブを握ったときに掌部皮に弛が生じる従前のゴルフ用手袋を基準として、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠いているかを判断すべきである。
(二) そして、右(一)で述べたところに本件考案に係る図面(甲第一号証)の記載を総合すると、ここにいう従前のゴルフ用手袋の特徴としては、右図面の第一図に見られるように、掌部側と甲部側の中指片、薬指片及び小指片の先端がそれぞれほぼ同一の高さであり、かつ、これらの指片の角度が人差指片の折り返し線を軸としてほぼ左右対称であることが挙げられるというべきである。
(三) 以上により、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠いているというためには、前記のような特徴を有する従前のゴルフ用手袋を基準として指片部と掌部を配置し、中指片側から小指片側にかけて表われる切断部分の形状が中指片側から小指片側に向け順次広幅状になっていることを要するものと解される。そして、広幅状になるように切り欠いているというためには、右(一)で認定した本件考案の作用効果を奏する程度に切り欠いていることが必要であり、中指片側の切断幅に比して小指片側の切断幅がわずかでも広ければよいというものではないと解される。
2 被告製品の型紙である乙第二号証によると、被告製品の指片部を、掌部側と甲部側の中指片、薬指片及び小指片の先端がそれぞれほぼ同一の高さになるように配置したときに表われる切断部分の幅は、中指片側と小指片側でほとんど変わらず、掌部と指片部の各切断面は、ほぼ平行となることが認められる。
したがって、被告製品は、本件考案の作用効果を奏する程度に、掌部皮側の小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠いているとは認められない。
3 また、前述のとおり、従前のゴルフ用手袋が、掌部側と甲部側の中指片、
薬指片及び小指片の角度が人差指片の折り返し線を軸としてほぼ左右対称であることからすれば、掌部皮側の小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠き、その切り欠いた切断端面同士を縫合すると、掌部側の中指片、薬指片及び小指片の角度が、甲部側の中指片、薬指片及び小指片の角度に比して、小指片側に傾くものと考えられる(右図面の第一図参照)。
しかるところ、乙第七号証及び検乙第一号証によると、被告製品は、切断端面を縫合した状態でも、掌部側の中指片、薬指片及び小指片の角度が甲部側の中指片、薬指片及び小指片の角度に比して、小指片側に傾いているものとは認められない。
4 この点、原告は、切断端面を縫合した後の型紙と切断前の型紙を重ね合わせた甲第五号証の一ないし三を根拠として、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠いている旨主張する。
甲第五号証の一と同号証の二は、本来、ぴったり重なり合うはずであるが、これらを重ね合わせると、ずれが生じ、ぴったり重なり合わない。これは、甲第五号証の一及び二がコピー、着色、トレース等を経て作成された図面であることによるものと考えられる。原告は、甲第五号証の一と同号証の二を人差指の右側端が一致するように重ね合わせて、右主張をしているが、そのように重ね合わせる必然性は見い出し難いから、そのように重ね合わせた場合に、切断部分が中指片側から小指片側に向け順次広幅状になっているからといって、被告製品が中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠いていると認めることはできない。むしろ、切断部分の形状を知るために型紙を重ね合わせていることからすると、甲第五号証の一と同号証の二の掌部の切断端面を一致させた場合について検討すべきである。しかるところ、甲第五号証の一の切断端面線G(乙第七号証)と甲第五号証の二の切断端面BーB線(乙第二号証)を重ね合わせた上で、甲第五号証の三を、原告がしたように同号証の一と指片部の左側端が一致するように配置した場合には、中指片側から小指片側まで切断部分はほとんど認められない。
5 乙第三号証及び弁論の全趣旨によると、ゴルフ用手袋に関しては、本件実用新案の登録出願前から、人差指より小指に至るに従って、順次深く折曲げるように掌部布を甲部布より短長に裁断することでゴルフクラブを握ったときに掌部皮に弛が生じないようにする技術が存したことが認められるところ、乙第一、第二、第七号証、検乙第一、第二号証及び弁論の全趣旨によると、被告製品は、この技術を用いてゴルフクラブを握ったときに掌部皮に弛が生じないようにしたものであると認められる。
そうすると、被告製品は、ゴルフクラブを握ったときに掌部皮に弛が生じないという、本件考案と同様の作用効果を、本件考案とは異なる構成によって実現しているということができる。
6 よって、被告製品は、「手袋本体をなす縫製前の掌部皮側の小指片、薬指片、中指片のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向け順次広幅状となるようにして切り欠く」という構成要件Aを充足しないから、被告製品が本件考案技術的範囲に属するとは認められない。
二 以上の次第で、原告の本訴請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却することとし、主文のとおり判決する。
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別紙物件目録【図1】及び【図2】に示すゴルフ用手袋なお、【図1】は、縫合糸を解いて縫製前の裁断済みボディーを平面状にあらわしたものであり、【図2】は、掌部側と甲部側を撮影した斜視図である。
図1図2別紙原告物件目録【図1】及び【図2】に示すように、
手袋本体をなす縫製前の掌部皮1側の小指片2、薬指片3、中指片4のつけ根部付近を、中指片側から小指片側に向けて順次広幅状となるようにして切り欠くと共に、当該切り欠いた切断端面同士を縫合し、ゴルフクラブを握ったとき、小指片2、薬指片3、中指片4のつけ根部付近の掌部皮に弛がほとんど生じないように構成したゴルフ用手袋。
なお、【図1】は、縫合糸を解いて縫製前の裁断済みボディーを平面状にあらわしたものであり、【図2】は、掌部側と甲部側を撮影した斜視図である。
図1図2
裁判長裁判官 森義之
裁判官 岡口基一
裁判官 男澤聡子
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