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事件 平成 12年 (ネ) 728号 実用新案権侵害差止等請求控訴事件
控訴人(被告) 有限会社メディカルサプライ 右代表者取締役 【A】 右訴訟代理人弁護士 川村哲二
同 石田文三
被控訴人(原告) 高園産業株式会社 右代表者代表取締役 【B】 右訴訟代理人弁護士 小西敏雄
裁判所 大阪高等裁判所
判決言渡日 2000/12/01
権利種別 実用新案権
訴訟類型 民事訴訟
主文 一 原判決主文第二項のうち、金四二〇万八〇〇八円及び内金三七〇万八〇〇八円に対する平成一一年三月一日から支払済まで年五分の割合による金員の支払を命ずる部分を超える部分を取り消す。
二 右取り消した部分に関する被控訴人の請求を棄却する。
三 その余の本件控訴を棄却する。
四 訴訟費用は、一、二審を通じ、これを五分し、その二を控訴人の負担とし、その余を被控訴人の負担とする。
事実及び理由
控訴の趣旨
一 原判決主文第二項を取り消す。
二 被控訴人の金員支払請求を棄却する。
事案の概要
一 被控訴人の請求 原審において、被控訴人は、控訴人に対し、(1)控訴人が後記本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売した行為により本件実用新案権又は同権利の独占的通常実施権が侵害されたとして、右行為の差止め及び損害賠償(五三〇万八三三七円)、(2)控訴人の右行為により本件考案実施品の所有権が侵害されたとして損害賠償(一九万八七〇〇円)、(3)控訴人が後記控訴人意匠品に分包紙を巻き付けた製品を販売した行為により本件意匠権の独占的通常実施権が侵害されたとして損害賠償(三七〇万八〇〇八円)をそれぞれ請求した(損害賠償はいずれも民法709条に基づく逸失利益の請求。なお、他に弁護士費用九〇万円)。
これに対し、原審は、(1)の差止め及び損害賠償請求と(3)の損害賠償請求を認容し、(2)を棄却した(弁護士費用は九〇万円を認容)。
そこで、控訴人は、本件控訴を提起し、敗訴部分である(1)、(3)のうち、金員支払請求(損害賠償請求)についてのみ不服を申し立てた。
二 争いのない事実等 1(一) 訴外【C】は、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その意匠を「本件登録意匠」という。)を有していた(甲二一)。
意匠に係る物品 薬剤分包機用紙管 出願日 昭和五〇年七月一九日 (意願昭五〇ー三〇二三〇号) 登録日 昭和五九年二月二九日 登録番号 第六二五四四五号 登録意匠及び説明 原判決添付別紙意匠公報該当欄掲載のとおり (二) 訴外【C】は、昭和五九年三月ころ、被控訴人に対し、被控訴人が独占的に本件意匠権を実施することを許諾した(甲二四)。
(三) 本件意匠権は、平成一一年二月二八日の経過をもって、存続期間が満了した。
2(一) 被控訴人の代表取締役である訴外【D】は、次の実用新案権(以下「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という。)を有していた(甲二)。
考案の名称 薬剤分包用紙の芯管 出願日 平成二年二月一三日 (実願平二ー一三四二六号) 公開日 平成三年一〇月三一日 (実開平三ー一〇五一七一号) 公告日 平成五年七月三〇日 (実公平五ー三〇〇五八号) 登録日 平成六年四月二〇日 登録番号 第二〇一五八二〇号 実用新案登録請求の範囲 原判決添付別紙実用新案公報該当欄記載のとおり (二) 訴外【D】は、本件考案の出願後である平成二年二月ころ、被控訴人に対し、被控訴人が独占的に本件実用新案権を実施することを許諾した(甲三)。
(三) 訴外【D】は、その後、被控訴人に対し、本件実用新案権を譲渡し、
平成一〇年一一月五日にその旨の登録がされた(甲一七)。
3 被控訴人は、薬剤自動分包機(その取扱説明書が甲三四。「自動分割分包機/PACKMATEα」シリーズ。以下「被控訴人分包機」という。)を製造し、病院等に販売している。また、被控訴人は、被控訴人分包機に適合する薬剤分包機用紙管(芯管ともいう。)として、昭和五九年三月から平成二年二月ころまでは、本件登録意匠と同一の意匠を有する薬剤分包機用紙管(以下「本件意匠実施品」という。)を、同月以降は、プラスチック製の原判決添付別紙物件目録記載の本件考案の実施品(以下「本件考案実施品」という。)を製造し、これらの芯管に薬剤分包用紙(分包紙ともいう。)をロール状に巻き付けて、同機械の購入者に対し販売している。
4(一) 控訴人は、平成一〇年六月から同年一二月まで、被控訴人が販売した本件考案実施品を、その販売先から一本当たり一〇〇円で買い取り、これに独自に分包紙を巻き付けて販売した。
(二) 被控訴人は、本件訴えを提起するのと同時に、本件を本案とする仮処分を申し立てていたが(大阪地方裁判所平成一〇年(ヨ)第三〇八六号実用新案権侵害差止等仮処分申立事件)、同事件は、債務者(控訴人)が、本案である本件の判決が確定するまで、本件考案実施品を回収し、分包紙を巻き付け、これを販売しないことを約し、債権者(被控訴人)が同仮処分命令申立てを取り下げることを内容とする和解が成立したことにより終了した(当裁判所に顕著な事実)。
(三) 控訴人は、平成一一年一月以降、本件登録意匠と同一の意匠を有する薬剤分包機用紙管(以下「控訴人意匠品」という。)に分包紙を巻き付けて販売した。
(四) 控訴人が、平成一〇年六月から同年一二月までに販売した本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品の本数及び平成一一年一月と二月に販売した控訴人意匠品に分包紙を巻き付けた製品の本数は、原判決添付別紙商品別月別売上巻数表記載のとおりである。なお、同表中商品欄の、「グラシン」とは半透明のグラシン紙からなる分包紙が巻き付けられた商品であり、「セロポリ」とは縦半分が透明で、その他の部分が半透明のセロポリ紙からなる分包紙が巻き付けられた商品であり、「記名入り」とは、被控訴人分包機を使用する病院等の名称が印刷されている分包紙が巻き付けられた商品である(甲三二)。
三 争点 1 権利の消尽ー所有権留保 被控訴人が、被控訴人分包機の購入者に対し、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売した際、本件考案実施品の所有権は被控訴人に留保されていたか。
2 過失 控訴人が本件意匠権の独占的通常実施権を侵害したことについて過失があるか。
3 損害の発生及びその額 4 被控訴人の本件請求は権利濫用か。
争点に関する当事者の主張
一 争点1(権利の消尽ー所有権留保)について。
【被控訴人の主張】 1 被控訴人は、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を、被控訴人分包機の購入者である病院、薬局に販売し、芯管自体は非売品として、病院、薬局で分包紙を使用し終わった段階で芯管を回収し、再使用している。
2 通常、被控訴人が、被控訴人分包機を病院等に購入してもらうには、実際に購入してもらう前に試用期間を設けており、その間に、購入先は、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を複数本使用する。
そして、本件考案実施品には「この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、譲渡又は無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」と刻印され、その旨記載されたシールが貼付されており、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を梱包している箱の中には同様の警告文が記載された紙が挿入されている。また、被控訴人分包機の取扱説明書には、「紙管については弊社が実用新案権を有する非売品でありこれを、譲渡又は無断で使用されますと、実用新案権侵害となりますのでご注意下さい。」と太文字で強調して記載されている。さらに、被控訴人は、顧客である病院、薬局にその旨説明し、了解してもらっている。
したがって、被控訴人が、被控訴人分包機の購入者に対し、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売する際には、同実施品の所有権を被控訴人に留保する旨の黙示の合意が成立している。
3 このように、被控訴人が、被控訴人分包機の購入者に対し、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売する際、本件考案実施品の所有権は被控訴人に留保しているのであるから、権利の消尽は成立せず、控訴人が、被控訴人の販売先から本件考案実施品を買い取り、同実施品に分包紙を巻き付けるなどして使用し、
販売することは、本件実用新案権又はその独占的通常実施権を侵害する。
【控訴人の主張】 1 控訴人は、被控訴人によって販売された本件考案実施品をその販売先から買い取って、同実施品を使用、販売しているところ、本件考案実施品の所有権は被控訴人に留保されていない。したがって、いわゆる権利の消尽により、控訴人の行為は本件実用新案権及びその独占的通常実施権を侵害しない。なお、被控訴人が、
本件考案実施品の一部を回収していることは認めるが、全部を回収している事実はない。
2 被控訴人は、本件考案実施品は非売品であり、所有権は被控訴人に留保されていると主張する。
しかし、被控訴人と本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品の購入者との間に、そのような合意が明示の形であるわけではない。
被控訴人は、本件考案実施品に施された刻印、本件考案実施品が入れられた箱に同包されている書面等を理由に所有権留保を主張するが、それにより、販売時点で、所有権留保の合意が存在するといえる余地はない。また、その刻印、書面の内容では、所有権留保の趣旨が明示されているとはいえず、顧客の側もそのような認識を有していない。
さらに、被控訴人は、本件考案実施品を全部は回収していない(せいぜい半分程度回収しているにすぎない。)のであるから、実際の取扱状況から考えても所有権留保をしていない。
二 争点2(過失)について 【控訴人の主張】 被控訴人は、通常実施権者であり、過失の推定を定めた意匠法40条の適用はない。
本件において、控訴人に本件意匠権の独占的通常実施権侵害の故意又は過失はない。
被控訴人が平成二年に本件意匠実施品の製造販売を中止している上、社内外において本件意匠権の存在は一般的に知られていなかった。したがって、控訴人代表者は、本件意匠権の存在を知らなかったし、それを知る機会もなかった。
【被控訴人の主張】 被控訴人は、独占的通常実施権者であるから、実質上専用実施権者と同視して差し支えない地位を有するものであり、意匠法40条を類推適用すべきである。
三 争点3(損害の発生及びその額)について 【被控訴人の主張】 1 損害の発生(本件意匠権の独占的通常実施権侵害に関して) 被控訴人は、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売しており、
控訴人が本件意匠権の独占的通常実施権を侵害して控訴人意匠品に分包紙を巻き付けた製品を販売しなければ、その数量分の本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売し得た関係にあるから、被控訴人の損害は発生している。
2 本件実用新案権又はその独占的通常実施権侵害による損害額 控訴人が本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売しなければ、被控訴人は、控訴人が販売した数量分の本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売し得たのである。
したがって、被控訴人が被った損害の額は、控訴人が、平成一〇年六月から同年一二月までの各月ごとに、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売した巻数に、被控訴人の同月における本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品の販売による一巻当たりの利益額を乗じることにより得られる金額と評価できる(民法709条)。
そして、その計算は、原判決添付別紙パックメイト用分包紙損害額算定表記載のとおりであり、損害額は、合計金五三〇万八三三七円となる。
3 本件意匠権の独占的通常実施権侵害による損害額 2と同様に、計算すると、本件意匠権の独占的通常実施権侵害による被控訴人の損害は、合計金三七〇万八〇〇八円となる。
4 弁護士費用 九〇万円 【控訴人の主張】 1 損害の発生(本件意匠権の独占的通常実施権侵害に関して) 被控訴人は、本件意匠実施品を、平成二年三月以降販売していないから、
損害は発生していない。
2 本件実用新案権又はその独占的通常実施権による損害の額 分包紙は、本件実用新案権とは無関係であるから、損害額を算定するに当たっては、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品全体の利益を基礎にすべきでない。
また、被控訴人は、本件実用新案権取得の相当以前から被控訴人分包機自体と同様の製品を販売していたのであり、本件考案実施品以前の芯管も利用可能である。したがって、本件考案実施品自体の不可欠性、重要性はほとんどない。
3 本件意匠権の独占的通常実施権侵害による損害額 (一) 分包紙は、本件意匠権とは無関係であるから、損害額を算定するに当たっては、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品全体の利益を基礎にすべきでない。また、芯管の美感は、需要者の選択の要素としての機能を持たないから、意匠権侵害による損害は皆無又は僅少なものにすぎない。
(二) 本件を本案とする仮処分事件の和解の席上等において、複数の被控訴人社員及び被控訴人代理人は、控訴人が本件考案実施品の再利用を中止し、平成一一年初めころから自社商品を販売することを、何度も聞いていた。そして、被控訴人分包機にセットされる芯管の形状は限定されるため、被控訴人は、控訴人が本件意匠権に抵触するような芯管を存続期間中に販売するであろうことを十分予想できたはずであった。それにもかかわらず、被控訴人は、控訴人に対し、本件意匠権の独占的通常実施権侵害の可能性があることを警告することもしなかった。
したがって、控訴人の本件意匠権の独占的通常実施権侵害行為は、被控訴人自身の故意又は重大な過失により生じたものであり、過失相殺により相当額の減額をすべきである。
四 争点4(権利濫用)について 【控訴人の主張】 1 本件実用新案権又はその独占的通常実施権に基づく請求について 本件実用新案権は、被控訴人が販売していた旧芯管との間にほとんど作用効果の差異がないにもかかわらず、自らの独占的地位を守るために取得した権利とも考えられるのであって、このような権利又はその独占的通常実施権に基づく請求は権利の濫用である。被控訴人の権利主張は、実用新案権又はその独占的通常実施権の保護を目的としたものではなく、主たる目的が自らの市場の独占的地位を守り、競争者を不当に排除しようとする目的に出たものであるから、権利の濫用である。
2 本件意匠権の独占的通常実施権侵害に基づく損害賠償請求について 前記のとおり、被控訴人は、控訴人による侵害行為を、敢えて、又は重大な落ち度をもって、自ら招いたのであって、このような自らの責任によって生じた侵害行為に対し損害賠償請求を行うことは、権利の濫用というべきである。
また、本件登録意匠は、製品の美感にはほとんど影響せず、意匠として保護すべき価値は乏しいから、被控訴人に本件意匠権の独占的通常実施権に基づく権利行使を認める必要はない。被控訴人の権利主張は、意匠権の保護を目的としたものではなく、主たる目的が自らの市場の独占的地位を守り、競争者を不当に排除しようとする目的に出たものであるから、権利の濫用である。
【被控訴人の主張】 争う。
当裁判所の判断
一 争点1(権利の消尽ー所有権留保)について 1 証拠(甲一、五、二〇、二六、三三ないし三五、検甲三、五、六、乙四、
控訴人代表者本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(一) 被控訴人は、全国の病院、診療所、調剤薬局等に薬剤自動分包機を販売するとともに、右分包機で使用される分包紙をこれら分包機の購入先に納入しているが、その際、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を一巻とした形態・単位のもの六個を箱に収納梱包して販売納入していた。
(二) 被控訴人分包機には、分包紙を装填する部分(紙管ドラム)に、分包紙の抜け止め装置や、分包紙がなくなったことを感知する装置が内蔵されており、
それらの装置に対応するために、芯管には一定の構造が要求される。そして、そのような芯管は、これまでのところ、本件考案実施品又は本件意匠実施品のみであった。本件考案実施品は、本件分包機に用いられる分包紙の芯管として使用する以外に格別の用途はなく、また繰り返し使用することに耐える材質からなるものである。
(三) 被控訴人は、平成八年一〇月ころから、被控訴人分包機の取扱説明書(甲三四)に、「包装材料(分包紙)及び紙管についてのご注意」として、「包装材料(分包紙)に関しては、必ず当社製の包装材料を使用して下さい。当社製以外の包装材を使用された場合は、トラブルについて当社では一切の責任を負いません。」、「紙管については弊社が実用新案権を有する非売品でありこれを、譲渡または無断で使用されますと、実用新案権侵害となりますのでご注意下さい。」との記載をして使用していた。
(四) 被控訴人は、平成七年一〇月ころから、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品が梱包された箱の中に、「分包紙ご使用後の紙管回収とサービス券発行についてのご案内」と題する文書(検甲六)を同包し、同文書に、「分包紙ご使用後の紙管(分包紙ロールの樹脂製芯)は、非売品ですので弊社サービス員が定期的に回収させて頂いております。紙管の回収については、紙管が難燃性の特殊樹脂製であるためお客樣の紙管処理のお手数を省くこと、また省資源の見地から原料を再利用するために実施いたしておりますので回収までの保存にご協力お願い申しあげます。尚、回収にご協力いただきました場合は紙管六本につきサービス券一枚又は粗品を進呈いたします。」、「注意 この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、これを譲渡または無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」との記載をして使用していた。
(五) 被控訴人は、平成七年一〇月ころから、ビニール包装された本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品(検甲三)の上端面と下端面に、ラベルを貼付し、同ラベルに、「注意 この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、
これを譲渡または無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」との記載をして使用し、また、本件考案実施品に巻き付けられた分包紙の端部のガイド紙にも、ラベルと同じ記載をして使用していた。
(六) 被控訴人は、平成七年一〇月ころから、本件考案実施品(検甲五)に、「注意 この紙管は、紙の吸湿伸縮、乾燥端切れを防止し、加えて給紙終了信号発生装置を作動する為の形状を有する弊社独自のものです。この紙管については弊社が実用新案権を有する非売品であり、譲渡または無断使用されますと、実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」との記載を刻印して使用していた。
2 被控訴人は、分包紙を使用し終わった段階で芯管を回収し、再使用していると主張し、甲一二、一六、二〇、二七、三三、三五号証にこれに沿う記載があるが、乙四、六ないし二四、二七号証、控訴人代表者本人尋問の結果によると、恒常的に回収しているわけでなく、問屋の担当者がユーザーの求めにより適宜回収している程度で、回収割合も二ないし三割程度であったことが窺われ、右主張事実は、
右の限度で認められるにすぎない。
また、被控訴人は、通常、被控訴人分包機を病院等に購入してもらう前に試用期間を設け、その間に、購入先が本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を複数本使用するが、右本件考案実施品には「この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、譲渡又は無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」と刻印され、その旨記載されたシールが貼付されており、右製品を梱包している箱の中には同様の警告文が記載された紙が挿入されている等と主張するが、直接これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、乙五号証の一ないし四、控訴人代表者本人尋問の結果によると、試供品として本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を一巻とした形態・単位のもの二個を試供品用の箱に収納して提供していたところ、右試供品につき被控訴人主張のような非売品等の注意書きの文書が入れられていたり、刻印がされたり等の措置がされていなかったことが窺われる。
さらに、被控訴人は、顧客である病院、薬局にその旨説明し、了解してもらっていると主張し、甲三三号証(被控訴人の開発技術本部副本部長【E】作成の平成一二年四月二〇日付陳述書)にこれに沿う記載があり、また、甲一六号証(同人作成の平成一一年一月一八日付陳述書)には甲一二(被控訴人の取引先の病院、
薬局作成の報告書八二七通)及び一五号証を根拠に業界で所有権留保(非売品)が一般に知られていたとの記載があるが、乙四、六ないし二四、二七号証、控訴人代表者本人尋問の結果に照らすと、右の甲一二の報告書の記載内容には疑問があり、
右の甲三三号証及び甲一六号証の記載も直ちには採用することができず、その他には、ユーザー一般が右のような説明を受けたとか、また、ユーザー一般に所有権留保(非売品)が知られていたことを認めるに足りる証拠はない。
3 前記1認定のとおり、被控訴人は、平成七年一〇月ころから、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品が梱包された箱の中に、「分包紙ご使用後の紙管(分包紙ロールの樹脂製芯)は、非売品ですので弊社サービス員が定期的に回収させて頂いております。」、「尚、回収にご協力いただきました場合は紙管六本につきサービス券一枚又は粗品を進呈いたします。」、「注意 この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、これを譲渡または無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」と記載された文書を入れたり、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品の上端面と下端面に「注意 この紙管は、弊社が実用新案権を有する非売品であり、これを譲渡または無断使用されますと実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」と記載されたラベルを貼付し、また、本件考案実施品に巻き付けられた分包紙の端部のガイド紙にも、ラベルと同じ記載をしたり、本件考案実施品に、「注意 この紙管は、紙の吸湿伸縮、乾燥端切れを防止し、加えて給紙終了信号発生装置を作動する為の形状を有する弊社独自のものです。この紙管については弊社が実用新案権を有する非売品であり、譲渡または無断使用されますと、実用新案権侵害となりますので御注意下さい。」との記載を刻印したり、平成八年一〇月ころから、被控訴人分包機の取扱説明書に、「包装材料(分包紙)及び紙管についてのご注意」として、「包装材料(分包紙)に関しては、必ず当社製の包装材料を使用して下さい。当社製以外の包装材を使用された場合は、トラブルについて当社では一切の責任を負いません。」、「紙管については弊社が実用新案権を有する非売品でありこれを、譲渡または無断で使用されますと、実用新案権侵害となりますのでご注意下さい。」との記載をしていたのであるが、本件考案実施品に巻き付けられた分包紙を購入した者は、本件考案実施品が非売品であるなどの記載を本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を受領した後でなければ、目にすることができないのであるから、購入の際、被控訴人の右申入れを承諾する余地がない。
このことは、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を購入する者が被控訴人分包機の購入者又は使用者である病院、薬局等であって、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を購入するに先立って、被控訴人分包機の取扱説明書を受領しているとしても、取扱説明書の前記記載を読むという前提が満たされているか問題である以上、同様である。
さらに、本件損害賠償の対象となっているのは、控訴人が本件考案実施品を買い取り独自に分包紙を巻き付けて販売した平成一〇年六月から同年一二月までの分にかかるものであり、右個々の販売分それぞれにつき、被控訴人からの購入者が被控訴人の前記申入れを黙示で承諾していたということを肯認しうるだけの事情は認められない。 4 そうすると、被控訴人は、全国の病院、診療所、調剤薬局等に薬剤自動分包機を販売するとともに、右分包機用の本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を一巻とした形態・単位のもの六個を包装箱に収納して販売納入していた(前記争いのない事実等及び前記1(一)認定事実)ところ、被控訴人主張の所有権留保の合意が認められないから、所有権移転の効果が生じたというべきであり、本件考案にかかる芯管(本件考案実施品)を業として、製造し、本件考案実施品に分包紙を巻き付けて使用し、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を単一体の形態で販売して流通に置き、適法に拡布したということができ、実用新案権を用い尽くしたということができる。
したがって、権利の消尽が生じたということができるから、控訴人が、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を購入した者から、本件考案実施品を買い取り、同実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売することは、本件実用新案権又はその独占的通常実施権を侵害しないというべきである。
以上によれば、第二の一に記載した被控訴人の請求のうち、(1)の差止め及び損害賠償請求はいずれも理由がないことになり、これを認容した原判決は不当というべきであるが、控訴人は差止め請求を認容した部分について不服を申し立てていないので、本件控訴は損害賠償請求に関する限度で理由がある。
二 争点2(過失)について 意匠法40条本文は、「他人の意匠権又は専用実施権を侵害した者は、その侵害の行為について過失があったものと推定する。」と規定して、意匠権侵害者の過失を推定している。これは、登録意匠についてはその存在及び内容が公示されているから、業として新たに意匠を実施しようとする者は、その意匠が他人の意匠権を侵害するか否かを公示に基づいて調査することが可能であり、そのような調査を行うべきであり、その意匠が、他人の意匠権を侵害するものである場合には、調査を怠ったか、調査に基づいて適切な判断をしなかった等の過失があるものと推定されるからである。このように、意匠法40条本文が意匠権侵害者の過失を推定した根拠は、登録意匠の存在及び内容が公示されていることにあり、それが何人の権利であるかが公示されていることにはないから、登録意匠の権利者として公示されない独占的通常実施権者の法的利益の侵害行為についても、意匠法40条本文を類推適用するのが相当である。
したがって、控訴人の本件意匠権の独占的通常実施権侵害行為につき過失が推定されるところ、当該推定を覆すに足りる事情は認められないので、控訴人が本件意匠権の独占的通常実施権侵害行為をするにつき、過失があったものと認められる。
三 争点3(損害)について 1 損害の発生について 前記のとおり、被控訴人は、平成二年三月以降、本件意匠実施品を製造、
販売していなかったが、被控訴人分包機に使用できる芯管が本件考案実施品又は本件意匠実施品のみであるという状況の下で、平成二年三月以降、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を製造、販売していたのである。
したがって、控訴人が本件意匠権の独占的通常実施権を侵害して、控訴人意匠品に分包紙を巻き付けた製品を販売したため、被控訴人は、本件意匠実施品の代替品ともいえる本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売することにより本来得ることができたはずの利益を得ることができなかったという損害を受けたことが認められる。
よって、被控訴人には、控訴人の本件意匠権の独占的通常実施権侵害行為により、損害が発生したものというべきである。
2 本件意匠権の独占的通常実施権侵害による損害額について 控訴人が、控訴人意匠品に分包紙を巻き付けた製品を販売したことにより、被控訴人が被った損害額は、控訴人が販売した控訴人意匠品に分包紙を巻き付けた製品の巻数に、被控訴人が本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品一巻を販売したことにより得ることができる利益額全額を乗じることにより得られる金額と見るのが相当である。控訴人が、控訴人意匠品に分包紙を巻き付けた製品を販売した場合に、被控訴人が、控訴人販売巻数分と同数の本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売することができず、販売利益が減少することは、被控訴人以外の第三者による適法な競合品の存在をうかがうことができない状況の下では、通常生じ得る損害であるといえる。
なお、控訴人は本件考案実施品以外の芯管も、被控訴人分包機に装着できると主張するが、弁論の全趣旨によれば、それは、被控訴人が独占的通常実施権を有していた本件意匠実施品であると認められるから、被控訴人以外の第三者による適法な競合品の存在をうかがうことができないことに変わりはない。
また、控訴人から控訴人意匠品に分包紙を巻き付けた製品を購入した者は、その芯管に控訴人意匠品が使用され、自己が有している被控訴人分包機に装着することができるからこそ、控訴人から当該製品を購入したものと考えられる。
控訴人は、芯管の美感は需要者の商品選択上重要な機能を持たないと主張するが、そうであるとしても、先に述べたことからすれば、本件では、損害額を減額する事由とはならないというべきである。
控訴人は、損害額の算定に当たって、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品全体の利益を基礎とすべきでないと主張するが、前示の事情からすれば、被控訴人は、控訴人の行為によって、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品全体の販売機会を喪失したのであるから、それによる得べかりし利益の額は、本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品全体の利益の額を基礎とすべきである。
証拠(甲二九、三一の一ないし三)と弁論の全趣旨によれば、被控訴人が平成一一年一月と二月に本件考案実施品に分包紙を巻き付けた製品一本を販売することにより得ることができた利益額は、原判決添付別紙パックメイト用分包紙損害額算定表「利益」欄の「99/01」欄と「99/02」欄記載のとおりであると認められる。
したがって、被控訴人は、控訴人が、本件意匠実施品に分包紙を巻き付けた製品を販売したことにより、同別紙「損害額」欄の「99/01」欄と「99/02」欄記載の損害額(合計金三七〇万八〇〇八円)の損害を被ったと認められる。
控訴人は、被控訴人が控訴人に対し、本件意匠権の独占的通常実施権侵害の可能性があることを警告しなかったことを理由に、過失相殺を主張する。
しかし、控訴人の主張する事実を前提としても、そもそも当業者である控訴人は、自らの行為が他人の意匠権を侵害しないようにする注意義務を負っているのであるから、被控訴人が、控訴人に対し、本件意匠権の独占的通常実施権を侵害する可能性があることを事前に警告しなければならないような注意義務を負っていたとは認め難い。そして、被控訴人が、控訴人に対し、積極的に、本件意匠権の独占的通常実施権を侵害するよう仕向けたなどという事情は認められない。したがって、控訴人の過失相殺の主張は、採用することができない。
3 弁護士費用について 被控訴人は本件訴訟の追行を弁護士に委任しているが、本件訴訟のうち本件意匠権の独占的通常実施権侵害に基づく請求に係る部分を追行するのに相当な弁護士費用は、金五〇万円と見るのが相当であるから、同額をもって右権利の侵害と相当因果関係のある損害額と認める。
四 争点4(権利濫用)について 控訴人は、権利濫用を主張するが、被控訴人が、その有する本件意匠権の独占的通常実施権に基づき、控訴人に対し、本件請求を行うことは、正当な権利行使であり、何ら権利の濫用に該当するとは認められない。被控訴人の請求が自らの市場の独占的地位を守る目的であったとしても、それは意匠法の予定するところである。
また、控訴人は、被控訴人が控訴人に対し、本件意匠権の独占的通常実施権侵害の可能性があることを警告しなかったことを権利濫用の根拠として主張する。
しかし、本件意匠権の独占的通常実施権侵害に対する損害賠償請求に関し過失相殺が認められないのと同様、控訴人の主張する事実をもって、被控訴人の本件意匠権の独占的通常実施権侵害に基づく請求が、権利濫用と評価することはできない。
したがって、控訴人の主張は採用することができない。
以上によれば、第二の一に記載した被控訴人の請求のうち、(3)の損害賠償請求は理由があるから、これを認容した原判決は相当であり、その取消を求める本件控訴は理由がない。
五 結論 よって、原判決主文第二項のうち、四二〇万八〇〇八円及び内金三七〇万八〇〇八円に対する平成一一年三月一日から支払済まで年五分の割合による金員の支払を命ずる部分は正当であるが、これを超える部分は相当でないから、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 鳥越健治
裁判官 若林諒
裁判官 山田陽三
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