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関連審決 審判1998-11264
関連ワード 考案 /  図面 /  構造 /  物品 /  物品の形状 /  進歩性(3条2項) /  相違点の判断 /  きわめて容易 /  請求項 /  実施例 /  容易に想到 /  明細書 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 11年 (行ケ) 242号 審決取消請求事件
原告 石川ガスケット株式会社代表者代表取締役 【A】
訴訟代理人弁理士 林宏
同 内山正雄
同 後藤正彦
被告 特許庁長官【B】
指定代理人 【C】
同 【D】
同 【E】
同 【F】
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2001/01/30
権利種別 実用新案権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求めた裁判
1 原告 特許庁が平成10年審判第11264号事件について平成11年6月21日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は、平成4年7月21日、考案の名称を「金属積層形ガスケット」とする考案について実用新案登録出願(実願平4-56925号)をしたところ、平成10年6月16日拒絶査定を受けたので、同年7月16日に拒絶査定不服の審判を請求した。
特許庁は、同請求を平成10年審判第11264号事件として審理した結果、平成11年6月21日に「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本を同年7月5日に原告に送達した。
2 本願実用新案登録請求の範囲請求項1 複数枚の金属板を積層することにより形成し、燃焼室穴シール部における積層した金属板の一部を折り返して他の金属板を挟み込むことにより、該燃焼室穴シール部における金属板の積層厚さを他の平坦部よりも厚く形成し、その部分に締め付け時の面圧を集中させるようにしたガスケットにおいて、上記折り返し部分を設けた金属板を除くいずれかの金属板における折り返し部分が当接する部分の片面に、部分的な圧縮変形により、該折り返し部分における金属板の積層厚さを燃焼室穴のシールに適した厚さに調節する段差を形成した、ことを特徴とする金属積層形ガスケット(以下「本願考案」という。)。
3 審決の理由 別紙審決書の理由の写しのとおり、本願考案は、実願昭53-182247号(実開昭55-98857号)の願書に添付した明細書及び図面のマイクロフィルム(以下「引用例1」という。)記載の考案(以下「引用考案1」という。)及び実願平2-119783号(実開平4-75270号)の願書に添付した明細書及び図面のマイクロフィルム(以下「引用例2」という。)記載の技術(以下「引用考案2」という。)に基づいて当業者がきわめて容易考案をすることができたものであると認定判断した。
原告主張の審決取消事由の要点
審決の理由1(手続の経緯・本願考案の要旨)、2(引用例)、3(対比)は、争わない。4(当審の判断)は、相違点(1)についての判断は争わず、その余は争う。
審決は、引用例2の記載事項を誤認し(取消事由1)、相違点の判断を誤り(取消事由2)、本願考案の顕著な効果を看過し(取消事由3)、その結果、進歩性についての判断を誤ったものであり、違法であるから、取り消されるべきである。
1 取消事由1(引用例2の記載事項の誤認) 審決は、引用例2に、「中間板4に予備押し加工(圧縮変形に相当)を加えて段差5a、5b、5cを変更することによって補償部8(折り返し部に相当)の段差5dを任意に設定して、面圧調整可能とした金属積層形ガスケットが記載されており、」(8頁14行目〜19行目)と認定した。しかし、この認定は誤っている。
(1) 引用考案2の段差5a、5bは、第1中間板4の燃焼室孔縁部に断面膨出状の扁平な肉厚リング6を形成するためのものであり、段差5cは、それに対向する上記段差5aとの間に溝状部を形成するためのものである。なお、この段差5cにより溝状部を形成しないと、段差5a、5bによってくびれ部が形成された膨出状の肉厚リング6を形成することはできない。このような構造からすれば、膨出状の肉厚リング6の厚さは、第1中間板4の厚さそのものであり、上記各段差5a、
5b、5cは、膨出状の肉厚リング6の厚さには全く関係しない。これらの段差5a、5b、5cは、上記くびれ部を形成すると同時に、第2中間板7の縁部を折り返して肉厚リング6を包持させたとき、それによって形成される補償部8と第1及び第2中間板4、7の外側表面との間に、第2中間板7の板厚の1/2となる段差5dを形成するものである。したがって、段差5dは、補償部8の上下面と第1及び第2中間板4、7の外側表面との間に形成される段差を意味する。
引用例2(甲第4号証)には、引用考案2につき、「段差5a、5b、5cを変更することにより補償部8の段差5dを任意に設定でき、これによって面圧調整が可能となる。」(6頁15行目〜17行目)との記載がある。しかし、前記のとおり、肉厚リング6の厚さは段差5a、5b、5cとは関係がないから、この記載の意味は、段差5a、5b、5cの変更によって上記第1中間板4のくびれ部における厚さを変化させ、あるいは、上下の両くびれ部の深さに変化を与えること、すなわち、補償部8の上下面と第1、第2中間板4、7の上下外側表面との間の二つの段差5dに差をもたせることを意味し、さらには、厚肉リング6の巾Bを変えるための段差5a、5b、5cの位置を変更することを意味すると解すべきである。
また、引用例2には、考案の目的及び作用効果として、「補償部の巾、厚みを任意に設定して、面圧バランスを良好にすること」が記載されている(3頁末行〜4頁1行目、8頁13行目〜15行目)。しかし、ここでいう補償部の厚みの設定は、肉厚リング6に軟質部材9を介装した第2実施例を念頭に置いた説明であると考えられる。
(2) 本願考案における段差とは、金属板の折り返し部分における全体的な金属板の積層厚さを燃焼室穴のシールに適した厚さに調節するものであり、更に具体的には、燃焼室穴の周囲で金属板における折り返し部分が当接する略一定巾のシール部を、段差によって薄肉化したものである。したがって、本願考案における「段差」とは、圧縮変形により形成された「薄肉化部分」を指している。
これに対し、引用考案2における段差5a、5b、5cは、前記(1)のとおり、第1中間板4の板面の高さの差(板厚の変化部分)を意味し、段差5dは、補償部8の上下面と第1及び第2中間板4、7の外側表面との間に形成される厚さの差を意味する。これらの段差は、本願考案における段差すなわち上記「薄肉化部分」とは全く関係がない。引用考案2は、金属板の折返し部分の積層厚さを調整するための段差を設けておらず、引用例2には、薄肉化部分を形成するために部分的な圧縮変形を行うことについての記載も示唆も全くない。
(3) したがって、引用考案2における段差5a、5b、5cは本願考案における段差とは異質のものであり、また、引用例2における段差5dは、本願考案における段差とは全く別異のものである。したがって、審決の引用考案2の認定は誤りである。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り) 引用考案1は、金属積層形ガスケットにおいて逃げ板を縁どり部構成板より薄肉にしたものであり、これは本願明細書の従来例に相当するものである。引用考案2は、本願考案における段差のような「薄肉化部分」を設けることを示唆するものではない。したがって、本願考案の金属板における折り返し部分が当接する部分の片面に、部分的な圧縮変形により段差を形成した点は、引用考案1に引用考案2をいかに適用しても、到底構成することができない。
したがって、審決が、引用考案1に引用考案2を適用し、本願考案のように構成することは、当業者がきわめて容易に想到できたものであると判断したことは、誤りである。
3 取消事由3(本願考案の顕著な効果の看過) 本願考案は、折り返し部分を設けた金属板を除く、いずれかの金属板における、折り返し部分が当接する部分の片面に、部分的な圧縮変形により、段差を形成したことにより、引用考案1に比べて、厚さ調整が簡単であると同時に、折り返し部の積層厚さの微細な調整を一層容易に行うことができるという顕著な効果を有している。審決はこの顕著な効果を看過した。
被告の反論の要点
1 取消事由1(引用例2の記載事項の誤認)について (1) 引用例2の第2図において、第2中間板7の厚さが一定であれば、補償部8の段差5dは、第1中間板4の段差5a、5b、5cによって決定され、これらの各段差を変更することによって任意に設定することができる。
また、引用例2には、「考案が解決しようとする課題」の項に、「燃焼室孔間及び燃焼室孔周りの厚さを、ヘッドの剛性及びたわみに合わせて抑揚を与える場合が多いが、ワイヤーリングではその線径が一定しているために抑揚を与えることに制約があり、燃焼室孔周りの面圧バランスを確保することが困難である等の不都合もあった。」(3頁11行目〜16行目)、「燃焼室孔の周縁に補償部を形成し、該補償部の巾、厚みを任意に設定して、面圧バランスを良好にすること」(3頁19行目〜4頁1行目)との記載がある。これらの記載によれば、引用考案2において、シリンダヘッド締め付け時の燃焼室孔周りの面圧は、燃焼室孔周縁に形成した補償部の厚みを任意に設定することで変更できることが明らかである。一般に金属積層ガスケットにおいて、締め付け時の燃焼室周りの面圧は、ガスケットの燃焼室周縁部の厚みとそこから離間した平坦部の厚みの差に関係するものであるから、引用考案2において、補償部8の上下面と第1、第2中間板4、7の各外表面との間に形成される段差5dが、締め付け時の燃焼室周りの面圧に影響を与えることも明らかである。したがって、引用考案2についての審決の認定に誤りはない。
(2) 原告は、膨出状の肉厚リング6の厚さは、第1中間板4の厚さそのものであり、上記各段差5a、5b、5cは、膨出状の肉厚リング6の厚さには全く関係しないと主張する。しかし、肉厚リング6の厚さは、段差5a、5b、5cが形成される前の第1中間板4の厚さから、二つの段差5a、5cで決定される値(5c-5a)を差し引いたものであることが明らかであって、肉厚リング6の厚さは、
少なくとも、二つの段差5a、5cに密接に関係している。そして、肉厚リング6の箇所は、本願発明の段差の機能を有するものと解することができる。
したがって、原告の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 「段差」を設ける技術とその効用自体については、段差の形成が部分的な圧縮変形によりなされたものではないものの、引用例1に記載されている。このことは、原告も認めるところである。これと、本願考案との相違は、後者においては、この段差が、部分的な圧縮変形により形成されているために、すなわち、物品の形状又は構造として一体的に構成されているため、前者におけるように、あらかじめ必要な厚さに調整された金属板を積層する必要がないということにすぎない。
そこで、審決においては、段差が部分的な圧縮変形により形成されているもの、すなわち、物品の形状又は構造として一体的に構成されているものとして、引用考案2を援用したものである。
引用例2には、中間板4に予備押し加工(本願考案における圧縮変形に相当する。)を加えて段差5a、5b、5cを形成し、これらを変更することによって補償部8(本願考案における折り返し部に相当する。)の段差5dを任意に設定して、面圧調整可能とした金属積層形ガスケットが記載されており、このことは、
段差が部分的な圧縮変形により形成されていること、すなわち、物品の形状又は構造として一体的に構成されていることが記載されていることにほかならないから、
この技術を引用例1記載の段差に適用することは、当業者にとってきわめて容易なことである。
(2) また、引用例2における金属積層形ガスケットにおいて、段差5a、5b、5cが形成される前の第1中間板4の厚さから、二つの段差5a、5cから決まる値(5c-5a)を差し引いた肉厚リング6の箇所が、本願発明の段差の機能を有するものと解することもでき、当業者にとって、この技術を引用考案1の段差に適用することがきわめて容易であることは、この点からも明らかである。
3 取消事由3(本願考案の顕著な効果の看過)について 原告が主張する本願発明の効果のうち、1つの段差と折り返し部分の金属板厚さとの差のみによって、燃焼室穴シール部の厚さを調整することができることは、引用考案1が奏する効果にすぎない。
その他の効果も、引用考案2の段差が部分的な圧縮変形によって物品の形状又は構造として一体的に構成されている点を、引用考案1に適用することにより奏される効果であって、当業者が予測できる程度のものにすぎないから、顕著な効果とはいえない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用例2の記載事項の誤認)について (1) 甲第4号証によれば、引用例2には、「本考案は、例えば、ディーゼルエンジンのシリンダーヘッドとシリンダーブロックの接合面をシールするために両者間に配置される金属ガスケット、更に詳しくは、燃焼室孔のそれぞれの周縁に沿いビード部を輪郭状に形成した弾性金属板からなる二枚のビード基板間に中間板を挟着積層した金属ガスケットに関するものである。」(2頁3行目〜9行目)、「本考案は、・・・燃焼室孔の周縁に補償部を形成し、該補償部の巾、厚みを任意に設定して、面圧バランスを良好にすること、・・・を目的としている。」(3頁18行目〜4頁10行目)、「第1中間板4の周縁の肉厚リング6の巾Bは、燃焼室孔A間で広くし、他の部分で狭くすることができ、また第1中間板4を軟質とし、第2中間板7を硬質とすることにより、予備押し加工を加えて段差5a、5b、5cを変更することにより補償部8の段差5dを任意に設定でき、これによって面圧調整が可能となる。」(6頁11行目〜17行目)、「本考案の第1、第2実施例の金属ガスケットは、いずれも、シリンダーブロックとシリンダーヘッドの間に配設し、締結ボルト等で圧縮固定されるのであるが、これによって両側のビード基板2、3のビード1は、ボルト締結力によって漸次高さを低減するが、補償部8の厚さにより押圧が阻止されて、ビード1の全圧縮状態を防止するようになり、良好なシール性を確保することができる」(7頁3行目〜11行目)との記載があることが認められる。
これらの記載によれば、引用例2には、本願考案と同様の、エンジンのシリンダヘッドとシリンダーブロックの接合面をシールするガスケットに関する考案が記載されており、軟質な中間板4に予備押し加工を加えて、段差5a、5b、5cを適宜変更することにより、補償部の段差5dを任意に設定し、その結果、締結ボルト等で圧縮固定される際に、補償部の厚さにより押圧が阻止されて、面圧を適宜調整して良好なシール性を確保する技術が記載されているものと認められる。
そうすると、「中間板4に予備押し加工(圧縮変形に相当)を加えて段差5a、5b、5cを変更することによって補償部8(折り返し部に相当)の段差5dを任意に設定して、面圧調整可能とした金属積層形ガスケットが記載されており」との審決の認定には、何ら誤りがないことが明らかである。
(2) 原告は、引用例2の「考案の目的」及び「考案の作用効果」の項に記載された「補償部の巾、厚みを任意に設定して、面圧バランスを良好にすること」とは、肉厚リング6に軟質部材9を介装した第2実施例を念頭に置いた説明であると主張する。しかし、前記認定によれば、上記の記載は、引用例2に記載された第1及び第2実施例をまとめて、その作用効果を記載していることが明らかである。
したがって、原告の上記主張は、失当であるから、採用することができない。
その他の原告の主張も、前記認定の引用例2の各記載、とりわけ「中間板4に予備押し加工を加えて段差5a、5b、5cを変更することにより補償部8の段差5dを任意に設定でき、これによって面圧調整が可能となる。」との記載を無視せよというに等しいものであり、採用できないことが明らかである(本願考案の実用新案登録請求の範囲には、金属板の片面に部分的な圧縮変形を加えることによって段差を形成することは記載されているが、段差を形成するために圧縮変形を加える具体的な方法を限定する記載はないから、引用考案2の予備押し加工の方法によって段差を形成することも、これに含まれることが明らかである。)。
2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について 原告は、引用考案1の金属積層形ガスケットは本願明細書の従来例に相当し、引用例2は本願考案における段差のような「薄肉化部分」を設けることを示唆するものではないから、本願考案の金属板における折り返し部分が当接する部分の片面に、部分的な圧縮変形により段差を形成した点は、引用考案1に引用考案2記載の技術をいかに適用しても、到底構成することができないと主張する。
しかしながら、引用例2には、前記のとおり、肉厚リング6の厚さを調整して補償部の面圧を調整することが記載されているから、この肉厚リングの部分は、
本願考案における段差(原告主張の「薄肉化部分」)に相当するものと認められる。そうすると、引用考案1及び2は、ともに本願考案と同様の金属積層形ガスケットに関する考案であり、かつ、金属積層形ガスケットを使用する際に、適度の面圧に調整してシール性を確保することは、当業者にとっては自明な課題であることが明らかであるから(引用例1及び2のいずれにも、上記の課題の記載がある。)、当業者にとって引用考案1の中間板4の片面に引用考案2を適用して本願考案の構成とすることは、きわめて容易に想到できたものというべきである。したがって、審決の判断に原告主張の誤りはない。
3 取消事由3(本願考案の顕著な効果の看過)について 原告主張の、本願考案の効果は、本願考案の構成を採用したことから生ずる自明の結果にすぎないから、これをもって、本件考案の権利性を根拠づけることはできない。
原告の主張を採用することはできない。
4 以上によれば、原告主張の取消事由は、いずれも理由がなく、その他審決にはこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
結論
よって、原告の本訴請求を棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 山下和明
裁判官 宍戸充
裁判官 阿部正幸
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