関連審決 |
審判1998-35328 |
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関連ワード | 考案 / 構造 / 物品 / 補正 / 設定登録 / 進歩性(3条2項) / 相違点の認定 / 相違点の判断 / 公然実施 / 新規事項の追加(新規事項を追加) / きわめて容易 / 専用実施権 / 減縮 / 容易に想到 / 明細書 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
11年
(行ケ)
387号
審決取消請求事件
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原告 四国化工機株式会社代表者代表取締役 【A】 訴訟代理人弁護士 久田原昭夫 同 久世勝之 同 弁理士 岸本瑛之助 被告 エービーテトラパック代表者 【B】 訴訟代理人弁護士 日野修男 同 清水正三 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2001/02/07 |
権利種別 | 実用新案権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
特許庁が平成10年審判第35328号事件について平成11年9月30日にした審決を取り消す。 訴訟費用は被告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 主文第1、2項と同旨 2 被告 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 被告は、名称を「包装機における包装材料ウェブの長手方向縁部の溶着予熱装置」とする考案(実用新案登録第2102350号、昭和62年6月12日出願、平成7年8月17日設定登録)の実用新案権者である。原告は、平成10年7月17日、本件実用新案登録につき無効審判の請求をし、被告は、平成11年4月27日、本件実用新案登録出願の願書に添付された明細書(以下「本件明細書」という。)の訂正(以下「本件訂正」という。)を請求した。特許庁は、上記無効審判請求を平成10年審判第35328号事件として審理した結果、平成11年9月30日、「訂正を認める。本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年11月1日、原告に送達された。 2 本件明細書の実用新案登録請求の範囲第1項の記載(以下、この考案を「本件考案」という。) (1) 本件訂正前(平成5年12月6日付け手続補正書による補正後)のもの プラスチックコートされたロール状の包装材料ウエブから、充填され且つ密封された包装物を製造するための包装機において、下部方向へ進行する予め一対の長手方向縁部3a,3bが間隙をおいて相互に重なるごとく筒状に形成された包装材料ウエブ3の未溶着状態の長手方向縁部3a,3bを溶着するための予熱装置Aであって、前記筒状の包装材料ウエブ3の進行路に臨んで、該包装材料ウエブ3の長手方向に所定距離の間設けられた加熱空気ノズル5と、筒状に形成された該材料ウエブ3の外側の長手方向縁部3aを位置規制して該長手方向縁部3aの内面を前記加熱空気ノズル5の空気吹出面5aに対面せしめるように軸線を該吹出面5aに平行に上下方向に配置された複数個のガイドローラ6a,6b,…と、前記筒状に形成された材料ウエブ3の内側の長手方向縁部3bを前記加熱空気ノズル5を挟んで前記ガイドローラ6a,6b,…の反対側で支持するための複数個の小径ガイドローラ7a,7b,…とを設けたことを特徴とする包装機における包装材料ウエブの長手方向縁部の溶着予熱装置。 (2) 本件訂正に係るもの(訂正部分には、下線を付す。以下、この部分を「訂正事項」という。) プラスチックコートされたロール状の包装材料ウエブから、充填され且つ密封された包装物を製造するための包装機において、下部方向へ進行する予め一対の長手方向縁部3a,3bが間隙をおいて相互に重なるごとく筒状に形成された包装材料ウエブ3の未溶着状態の長手方向縁部3a,3bを溶着するための予熱装置Aであって、前記筒状の包装材料ウエブ3の進行路に臨んで、該包装材料ウエブ3の長手方向に所定距離の間設けられた加熱空気ノズル5と、筒状に形成された該材料ウエブ3の外側の長手方向縁部3aを位置規制して該長手方向縁部3aの内面を前記加熱空気ノズル5の空気吹出面5aに対面せしめるように軸線を該吹出面5aに平行に上下方向に配置された複数個のガイドローラ6a,6b,…と、前記筒状に形成された材料ウエブ3の内側の長手方向縁部3bを前記加熱空気ノズル5を挟んで前記ガイドローラ6a,6b,…の反対側で支持するための複数個の小径ガイドローラ7a,7b,…とを設け、 予め筒状 に長手方向縁部 3a, 3bが食違 って離間 している 材料 ウエブ 3はやがて 内側 の長手方向縁部 3bが外側 の長手方向縁部3aに近づくように 下降 すべく 前記複数個 の小径 ガイドローラ 7a, 7b, …が配設されている ことを特徴とする包装機における包装材料ウエブの長手方向縁部の溶着予熱装置。 3 審決の理由 審決の理由は、別添審決書写し記載のとおり、本件訂正は、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないものとした上で、 本件訂正後の本件考案が、長崎県経済農業協同組合連合会が昭和54年7月に大村果汁工場に導入した「テトラブリックAB3」の包装機(甲第2号証の第5図、甲第26号証、以下「引用例1」という。)の考案(本件明細書の[従来の技術]の欄に記載された溶着予熱装置)、実願昭52-109130号(実開昭54-36671号)のマイクロフィルム(甲第27号証、以下「引用例2」という。)に記載された考案及び特開昭60-228133号公報(甲第28号証、以下「引用例3」という。)に記載された考案に基づいて当業者がきわめて容易に考案をすることができたものとは認めることができないから、本件訂正は、平成5年法律第26号附則4条2項において読み替えるものとされる実用新案法40条2項及び同条5項で準用する平成5年法律第26号による改正前の実用新案法39条2、3項の規定に適合するとして本件訂正を認め、訂正明細書に基づき本件考案の要旨を認定した上、本件実用新案権の専用実施権者である日本テトラパック株式会社が本件出願前に本件訂正に係る本件考案(以下「訂正考案」という。)と同一の構成を有するテトラ充填機AB9-200(以下、単に「AB9-200」という。)を納入して訂正考案を公然実施したとは認められず、被告が本件出願前に訂正考案と同一の構成が開示されたAB9のスペアパーツカタログ(以下、単に「スペアパーツカタログ」という)を雪印乳業株式会社神戸工場に交付したとは認められず、また、原告が本件出願前に訂正考案と同一の構成を有するFUJI101の縦シールヒーター(以下、単に「縦シールヒーター」という。)を公然実施したとは認められないから、本件実用新案登録を無効とすることはできないというものである。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(新規事項の追加の看過) (1) 審決は、本件訂正が、「実用新案登録明細書(注、本件明細書)に記載された事項の範囲内において、小径ガイドローラ7a,7b,7cの配置構成を機能的に限定したものといえるから、実用新案登録請求の範囲の減縮に該当するものであって、新規事項の追加に該当せず、また、実質上実用新案登録請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。」(審決書9頁4行目〜11行目)と判断したが、誤りである。 (2) 本件明細書において開示されている小径ガイドローラの構成は、複数個の小径ガイドローラを順次ウエブの進行方向に向かうに連れて先端をより傾けて配置するというものであるところ、訂正事項は機能的記載であり、上記のような小径ガイドローラの配置のみならず、例えば、複数個の小径ガイドローラの軸線がすべて大径ローラの軸線と同じ角度となるものであっても、複数個の小径ガイドローラの径をウェブの進行方向に連れてより小さい径にすることにより訂正事項の機能を奏することができる。訂正事項は、このような本件明細書に開示のない構成を含むものであるから、新規事項を追加するものである。 2 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り) (1) 相違点の認定の誤り 審決は、訂正考案と引用例1の相違点について、「引用例1の包装機では、筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んで溶着部の内側となる他の長手方向縁部を加熱空気ノズルの吹出面の反対側に接近して支持案内するよう支持板を配設している点」(審決書14頁13行目〜18行目)と認定するが、誤りである。 すなわち、訂正考案は、「筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの反対側で支持するための複数個の小径ガイドローラを設け、予め筒状に長手方向縁部が食違って離間している材料ウエブはやがて内側の長手方向縁部が外側の長手方向縁部に近づくように下降すべく複数個の小径ガイドローラが配設されている」のに対し、引用例1は、「筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの反対側で加熱空気ノズルの吹出面の反対側に接近して支持案内するように支持板が配設されている」点で、両者は相違する。 (2) 相違点の判断の誤り 審決は、「引用例2及び3の刊行物には、上記引用刊行物等の項で摘記したように、包装フィルムや切箔原反の移送手段としてガイドローラを使用することが記載されているにすぎないものであって、訂正明細書の考案の上記相違点に係る技術事項のような小径ガイドローラの配設構成については、記載されておらず、示唆する記載も見出すことができない。」(審決書14頁19行目〜15頁6行目)と判断したが、誤りである。 すなわち、引用例2には、ベルトコンベヤー、ゴム回転体などの移送手段を包装フィルムを通して案内筒に接する個所に、自由回転するローラの円周方向を筒状包装フイルムの進行方向に沿って間隔をもって並設して、移送すべき筒状包装フィルムの摩擦抵抗を少なくして円滑に進行させることが記載され、ローラにより摩擦抵抗を少なくすることは、周知の技術である。 訂正考案は、包装機における包装材料ウェブの長手方向縁部の溶着予熱装置に係るものである。溶着は、予熱装置の下方において、材料ウェブの内側の長手方向縁部と外側の長手方向縁部の間隙をなくして重ね合わせることによって行われるものである以上、訂正考案における小径ローラの配設構成は、技術常識上自明な事項である。例えば、特開昭52-119685号(甲第7号証、以下「周知例」という。)は、包装容器の製造方法及びその装置に関するものであるが、ウエブの収縮及び支持ローラの扶助による案内により、平坦なウエブは円形の円筒形管を形成するようになり、ウエブの長手方向端縁は相互に重なり、長手方向接合要素により重なった領域が加熱され、このとき、重なった領域に向かい熱風が吹き出し、密封温度に加熱され重なった領域は、加圧ローラによって一体に押圧され、円形の円筒形断面を有する管を形成すると記載されている。このように、支持ローラにより、離間している包装材料ウエブの両長手方向縁部が相互に近づくように、ウエブを案内下降させる支持ローラの配設構成は、周知である。 (3) 作用効果の判断の誤り 審決は、「訂正明細書の考案(注、訂正考案)は、上記相違点に係る技術事項によって、実用新案登録明細書中に記載された格別な作用効果を奏するものと認める。」(審決書15頁7行目〜9行目)と判断したが、誤りである。 審決のいう訂正考案の格別な作用効果は、固定支持板に代えて周知のガイドローラを採用したことに基づくものであって、何ら格別のものではない。また、 被告主張の、筒状の材料ウエブの内側の長手方向縁部に、あらかじめ貼着されたストリップテープが外側の長手方向縁部の内面に完全に溶着できるという効果は、実施態様項である実用新案登録請求の範囲第4項に記載された構成によるものであって、訂正考案の構成によるものではない。 3 取消事由3(公然実施の認定の誤り) (1) 審決は、「昭和62年2月17日に日本テトラパック株式会社と雪印乳業株式会社との間でAB9-200について賃貸借契約が締結され・・・AB9-200が据え付けを完了し稼働状態となった日は、昭和62年6月5日であることが認められ・・・実際に機械が稼働されたのは昭和62年6月5日以後であると認められる。」(審決書26頁8行目〜27頁1行目)と認定したが、訂正考案の実施品であるAB9-200について、被告が守秘義務を合意せずに雪印乳業株式会社に貸し渡したことで、訂正考案は公然実施されたこととなるから、審決の認定は誤りである。 審決は、AB9-200の据え付け完了の日が昭和62年6月5日であるとしながら、公然実施を認定しなかった点でも誤りである。公然実施とは、装置が稼動し得る状態となれば足り、これが実際に稼動しているかどうかとは関係がない。 (2) 審決は、スペアパーツカタログについて、「それぞれの頁が異なる時期に作成されたものであり、スペアパーツカタログとして、どのような形態でいつ神戸工場に交付されたのか明らかではない。・・・スペアパーツカタログが神戸工場に交付されたスペアパーツカタログとするには、合理的理由が認められない。」(審決書28頁7行目〜29頁4行目)と認定するが、誤りである。 スペアパーツカタログは、弁護士法23条の2に基づく照会により上記工場から直接取得したものであり、これが同工場に存在していたことには疑問の余地がない。また、同工場において小径ローラ方式のものが納入されていない点についても、スペアパーツカタログは、複数の種類の充填機についてとりまとめた形で作られたカタログであるから、複数の方式のパーツが記載されていても不合理ではない。スペアパーツカタログのそれぞれの頁が異なる時期に作成された点についても、これらの頁はいずれも1986年(昭和61年)1月以前のものであるから、 審決の理由に合理性はない。 (3) 審決は、「『請求人(注、原告)の従業員は、・・・雪印乳業株式会杜の協力によって、AB(注、APは誤記と認める。)9-200の装置構造について知りうる機会を得て・・・FUJI101に小径ガイドローラを取り付ける改良を実施したものである』旨の被請求人(注、被告)の主張には、合理的理由が認められる。」(審決書31頁15行目〜32頁5行目)と認定するが、雪印乳業株式会社は、原告の製品のテストに協力していただけであり、このような協力とAB9-200の装置構造を知り得る機会の付与とは全く異なるものであるから、審決の認定は誤りである。 |
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被告の反論
1 取消事由1(新規事項の追加の看過)について (1) 本件明細書には、小径ガイドローラの先端部はウエブの長手方向縁部の内面に順次近接するように配置されており、材料ウエブは下降するに従い順次内側の長手方向縁部が外側の長手方向縁部に近づくように下降すると記載されている。 (2) 訂正事項は、本件訂正前の本件明細書の実用新案登録請求の範囲において限定されていなかった小径ガイドロ一ラの配設構成を限定したものであるから、実用新案登録請求の範囲を減縮したものであり、その小径ガイドローラの配設構成は、本件訂正前の本件明細書において開示されていたものであるから、本件訂正は、新規事項を追加するものではない。 2 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)について (1) 相違点の認定の誤りについて 訂正考案と、訂正明細書の[従来の技術]の項に記載されている溶着予熱装置に相当する引用例1とは、「筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの反対側で支持するための複数個の小径ガイドローラを設け、予め筒状に長手方向縁部が喰違って離間している材料ウエブはやがて長手方向縁部に近づくように下降すべく前記複数個の小径ガイドローラが配設されている点」において相違するものである。これと同旨の審決の認定に誤りはない。 (2) 相違点の判断の誤りについて 訂正考案は、単に従来の支持板に代えて小径ガイドローラを採用したものではなく、訂正事項のようなガイドローラの配設も構成としている。訂正考案は、 支持板を小径ガイドローラに代えたことに加え、小径ガイドローラの配設構成を想到したものであるところ、進歩性の判断は、相違点全体について、当業者がきわめて容易に考案をすることができたかどうかの判断であり、引用例との相違点を分割して個々の相違点ごとに容易想到性を判断すべきものではない。したがって、この点に関する審決の判断に誤りはない。 (3) 作用効果の判断の誤りについて 訂正考案は、本件明細書の考案の詳細な説明中に記載されているとおり、 その構成によって、擦れによりウエブ表面が荒れることを防止し、ポリエチレンのかすがウエブ表面に付着するなどしてウエブの外観を損ねることを防止し、溶着部にポリエチレンの粉などが噛み込むことを防止し、筒状の材料ウエブにおける未溶着の内側長手方向縁部が円滑に移動し、筒状の材料ウエブの内側の長手方向縁部にあらかじめ貼着されたストリップテープが外側の長手方向縁部の内面に完全に溶着するという、格段の作用効果を奏する。これと同旨の審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(公然実施の認定の誤り)について (1) 考案に係る物品について譲渡契約又は賃貸借契約を締結することは、実用新案法における実施に当たらない。原告は、AB9-200が昭和62年6月5日に据え付けを完了し稼働状態となったことを主張するのみであって、貸渡しの事実を主張立証していない。 (2) 日本テトラパック株式会社と雪印乳業株式会社との間で昭和62年2月17日に締結された、AB9-200の賃貸借契約書に付属する賃貸借普通約款には、賃借人が機械の設置準備完了の通知をしたときには賃貸人は合理的期間内に機械を設置し引き渡すと記載されており、機械設置確認書に設置完了日が昭和62年6月5日である旨の記載がある。AB9-200のように高額な無菌充填機の賃貸借における目的物の引渡しは、梱包をした機械本体の相手方工場への納入、相手方工場における開梱、相手方工場における初期調整等のプロセスを経て設置完了を確認し、その後に賃借人に貸し渡すものである。原告は、審判において、本件出願前にAB9-200の貸渡しがあったかどうか主張立証をしていないから、本件出願前に訂正考案が公然実施されたかどうかは不明であるとした審決の認定に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由2(進歩性に関する認定判断の誤り)について (1) 相違点の認定の誤りについて 引用例1の包装機が訂正明細書(甲第4号証)の[従来の技術]の項に記載されている溶着予熱装置に相当するものであることについては、当事者間に争いがない。訂正考案と引用例1の包装機を対比すると、訂正考案では、「筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの反対側で支持するための複数個の小径ガイドローラを設け、予め筒状に長手方向縁部が喰違って離間している材料ウエブはやがて内側の長手方向縁部が外側の長手方向縁部に近づくように下降すべく前記複数個の小径ガイドローラが配設されている」(審決書14頁6行目〜13行目)のに対し、引用例1の包装機では、「筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を、前記加熱空気ノズルを挟んでガイドローラの反対側で加熱空気ノズルの吹出面の反対側に接近して支持案内するように支持板を配設している」点で相違するものと認められる。 したがって、審決が、訂正考案と引用例1の相違点について、「引用例1の包装機では、筒状に形成された材料ウエブの内側の長手方向縁部を加熱空気ノズルを挟んで溶着部の内側となる他の長手方向縁部を加熱空気ノズルの吹出面の反対側に接近して支持案内するよう支持板を配設している」(審決書14頁13行目〜18行目)と認定したことは誤りである。 (2) 相違点の判断の誤りについて 引用例2(甲第27号証)は、考案の名称を「包装フィルムの移送装置」とするものであり、「この案内筒の外側にただフィルム移送手段としてベルトコンベヤーやゴム回転体を設けることも考えられるが、筒状包装フィルムと案内筒との摩擦抵抗があるので円滑にフィルムを進行させることが困難であるためこの考案装置では、前述したように更にベルトコンベヤー、ゴム回転体などの移送手段を包装フィルムを通して案内筒に接する個所に自由回転するローラーの円周方向を筒状包装フイルムの進行方向にそって間隔をもって並設して移送すべき筒状包装フィルムの摩擦抵抗を少くして円滑に進行させるものである。」(明細書2頁12行目〜3頁3行目)、「円筒形の案内筒1の外周に筒状となった包装フィルム2が密着しない程度に接し、その外側に一対のベルトコンベヤー8,8を設け、図の矢印方向にと回転進行させる。一対のベルトコンベヤー8,8が包装フィルム2を通して案内筒1に接する位置には案内筒1の外側の一部溝部分1aに多数のローラー3aを間隔をもって並設し、包装フィルム2の進行方向に対し直角方向にローラーユニット3として構成せしめる。かくてこの適度の間隔をもったローラー3aを案内筒1の外側適所に取付けることにより包装フィルム2の進行は案内筒1の外側との摩擦抵抗が少くなり円滑に移送することが可能となる。」(同3頁6行目〜19行目)、 「その移動にしたがい各ローラー3aが回転するので包装フィルム2と案内筒1との接触抵抗は非常に少くなり、僅かな回転力で楽に矢印方向の下方に移送することができる。」(同4頁3行目〜7行目)との記載がある。これらの記載及び第1図ないし第4図によれば、包装フィルムが案内筒面によりガイドされることに代えて、ローラによりガイドされることにより、摩擦抵抗を少なくする技術が開示されている。 また、周知例(甲第7号証)は、発明の名称を「包装容器の製造方法及びその装置」とするものであり、「本発明は、熱収縮性材料からの包装容器の製造方法と、該方法を実施する装置とに関する。包装技術では、安価で、合理的な態様において容易に多量生産可能であり、更に、保護と、密封性と、取扱いの容易さとの製品の要件に適合する包装構造を作るのに努力が払われている。」(3頁左上欄1行目〜6行目)、「熱収縮性の材料の特性は、材料の成形工程中に利用可能であるが、これは材料が、その一側に沿い加熱されたとき、所望の形状を作る如く変形するからであり、これは、熱影響を受ける側部が収縮するが、加熱されない側部が認められる程度の如何なる収縮もしないからであることが判明した。発泡樹脂材料の収縮によるこの様な成形方法は、それ自体既に公知であるが、これは、既に出来上った容器体部または容器体部の部分の成形方法であった。・・・本発明は、収縮性材料のウエブまたはブランクが、その一側部の全体または一部に沿い加熱され、これによって、円筒形管の形状を与えられ、その端縁領域が、相互に対して耐久的に接合されることを特徴とする。」(3頁右上欄14行目〜左下欄11行目)、「円筒形管へのウエブの成形は、こゝでは概略においてのみ示されている外側と内側の支持ローラ13の扶助で案内される。ウエブの収縮と、支持ローラ13の扶助での案内とにより、平坦なウエブは、円形の円筒形管を形成する様になり、ウエブの長手方向端縁は、相互に重なり、長手方向接合要素15により重なった領域が加熱され、このとき、重なった領域に向い要素15のノズルから熱風が吹出る。前述の場合の如く、密封温度に加熱される重なった領域は、加圧ローラ18によって一体に押圧され、この場合には円形の円筒形断面を有する管22を形成する。」(4頁右下欄1行目〜13行目)との記載があり、第3図には、支持ローラがガイドローラとしてウエブの両長手方向縁部が相互に近づくようにウエブを案内下降させている技術が開示されている。 以上によれば、ウエブ等の搬送に複数個のガイドローラを用いることで摩擦抵抗を少なくして円滑に移送すること、そして、支持ローラがガイドローラとしてウエブの両長手方向縁部が相互に近づくようにウエブを案内下降させることは、 当業者にとって周知慣用の技術にすぎないものと認められ、訂正考案は、当業者がこの周知慣用手段を引用例1の包装機に適用することによりきわめて容易に想到し得たものというべきである。 この点について、被告は、訂正考案が単に従来の支持板に代えて小径ガイドローラを採用したものではなく、訂正事項のようなガイドローラの配設も構成としていることを主張するが、周知例(甲第7号証)の第3図に訂正事項に相当する技術の開示があることは上記のとおりであるから、訂正考案がガイドローラの配設を構成としていることは、訂正考案の容易想到性に係る上記判断を左右するものではない。 また、被告は、考案の進歩性の判断が相違点全体についての判断であることを主張するが、支持板を小径ガイドローラに代えること、訂正事項のように小径ガイドローラを配設することは、上記のとおり、いずれも当業者にとって周知慣用の技術にすぎないものと認められ、その技術内容に照らしても、当業者がこれら相違点全体について想到することはきわめて容易であるというべきである。この点においても、被告の主張は採用することができない。 (3) 作用効果の判断の誤りについて 審決は、訂正考案が、相違点に係る技術事項によって、本件明細書中に記載された格別な作用効果を奏する旨(審決書15頁7行目〜9行目)判断している。そして、本件明細書(甲第2号証)の考案の詳細な説明中には、訂正考案の作用として、@材料ウエブの筒状の内側長手方向縁部が小径ガイドローラに規制案内されて転がり接触で移動するため、接触面における摩擦の影響を受けることがなく、接着部近傍の表面の荒れを防止できること、A小径ガイドローラの表面にポリエチレンのかすがたまり、これがはがれてウエブ表面を汚すことを防止できること、B接着部へのポリエチレンの粉のかみ込みを防止し良好な接着を行うことができること、C筒状の材料ウエブの内側の長手方向縁部にあらかじめ貼着されたストリップテープが外側の長手方向縁部の裏面に完全に溶着できることが記載されているところ(4欄42行目〜5欄21行目)、被告は、これらを訂正考案の格別の作用効果として主張する。 しかしながら、まず、Cについてみると、訂正考案は、あらかじめ貼着されたストリップテープの構成を有しないから、上記Cの作用効果は、訂正考案の構成に基づくものではない。また、その他の作用効果については、結局のところ、引用例1の包装機における固定支持板の構成に代えて周知慣用技術であるガイドローラ及び訂正事項に相当する構成の配設を採用したことによるものにすぎず、その程度も、当業者の予測を超えた格別のものということはできない。 2 以上のとおりであるから、原告主張の審決取消事由2は理由があり、この誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから、その余の点につき判断するまでもなく、審決は取消しを免れない。 よって、原告の請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担並びに上告及び上告受理申立てのための付加期間の付与につき行政事件訴訟法7条、民訴法61条、96条2項を適用して、主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 石原直樹 |
裁判官 | 長沢幸男 |